機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト


第十五話 遠い星からきた『彼ら』 PHASE−1
 
 
 
「……つまり、ボソンジャンプは時空間移動……と言うわけよ」
長々と続いたイネスの説明が終わり、ぐったりとするクルー。
確かにいつもよりも『短くコンパクト』に説明されたが……それでも三時間は長かったようだ。
逆に説明が出来たイネスの肌はツヤツヤしていた。
「…で、でもアキトが無事で良かったね、ルリちゃん」
「ええ、まったくです。これは帰ってきたらおしおきをしないと……・」
真っ黒いオーラを身にまとい、『くっくっく……』と悪役笑いをするルリに引く一同。
キラやラピスはすっかり涙目でミナトの影に隠れている。
一番場慣れしていそうなプロスやゴートも冷や汗をたらしていた。
「と、とにかくアキトさんは月にいる、って言うことですよね? じゃあ、早く迎えに……」
この空気をなんとかしようとメグミが話題を変えようとする。
『おいおい、すぐは無理だぞ。さっきまでの戦闘で使っちまった資材やパーツなんかを補充しなおさねーとここへ来た意味がねぇって』
「じゃあ、すぐに補充をお願いします! っていうか早くしないと色々大変なことになりそうなので!(主にブリッジが!)」
ウリバタケの言葉に、ユリカは声にならない願いを含めて指示を出す。
『ああ、判った。こっちとしてもこのまま戦闘させるのは不安だしな。じゃ、プロスさんよ。必要な資材をリストアップするから用意してくれや』
「あ、はい判りました。直ちに」
そう言ってブリッジを出ていくプロスの足取りは軽かったのだった……。
 
 
 
通信を終えたウリバタケに整備班員Aが話しかける。
「しかし班長。これどうします?」
整備班員Aが指を指したのはミナトたちを運ぶためにボロボロになった元・車である。
「予想通り頑張ってくれたな。まさに先見の明! 量産しちまおうか?」
その性能に調子に乗るウリバタケ。しかし整備班員Aの言葉にため息をつくことになる。
「でも扱える人がいませんよ、コイツ。ミナトさん並みのマルチドライバーじゃないと……。それに重力波の供給がなけりゃ全力も出せないでしょ?」
整備班員Aの言葉に聞いていた周囲の整備班員が肯く。
なぜそう言うのか? それはこの車の構造に起因する。
この車は……ダイ○ーン○の可変パトカーのように変形して超音速……というか最高速マッハ3で空を飛ぶことができるのであった。それゆえ車だけでなく飛行機の操縦技術も必要になるのである。
しかもこの車のフレームにはバッテリーフレームの実証試験用の試作品使われている上、エステで使用する重力制御装置まで搭載されており、その瞬間最大出力たるや、エステを吊り下げたまま垂直離着陸が可能なほどであった。
その能力を駆使し、ミナト達はわずか一分という時間で五キロを駆けぬけられたのである。……市街地低空で亜音速を出すなよ……。
もっとも結果として舞い上がった瓦礫を亜音速で被弾してしまい、ボロボロになったのだが。
普通はフレームごとへし折れて墜落するレベルのダメージであるにもかかわらずボディーへのダメージだけで済んだことは、バッテリーフレームの優秀性が証明された形になったのは不幸中の幸いと言えよう。
『エステの重力制御ユニットがあるなら変形しなくても飛べるんじゃ?』という声もあるにはあったが……『変形は男のロマンだ』というウリバタケの主張により変形機構を有することになった。この時の技術的ノウハウがEOS(イージー・オペレーション・システム)操作のとある機体を生み出す元となったのだが、その機体がこの物語で登場する可能性はほぼ0である。
「そうなんだよなぁ……。昔会ったアイツらなら余裕で使いこなしそうなんだが……」
「誰なんです、それ?」
ウリバタケの言葉に整備班員Bが尋ねる。
「ああ。お前らでも聞いたことがあるだろう? 世界的な技術職派遣会社のASEってのは」
「ええ。有名ですよね」
話を聞いていた整備班員Cが首肯する。
「そこの技術者と組んで仕事をすることがあったんだよ。その時にオレが整備したマシンを使った二人がいたんだが……アイツらは凄かったな」
「そんなにですか? っていうか班長、ASEのスカウトがあったんですか!?」
驚きを隠せない整備班員D。ASEは滅多な事ではスカウトなどしないことで有名であるからだ。
「んにゃ。元々やる予定だった技術者がウチの近所で負傷したんだが……、その時に破損した車両の整備を手伝ってな。それで足りなくなった人手を補うために一時的にASEにアルバイトすることになったのさ。ASEのマルチドライバーってのが二人いて、確か両方とも鳥の関係した名前だったと思ったが……親子みたいな年齢差の二人だったが凄かったぞ。特に若い方がな」
ウリバタケの話を聞いて胸をなでおろす整備班一同。
「ああ、なんだ、びっくりした。確かに班長じゃASEにスカウトはされませんよね」
「どういう意味だコラァ!?」
整備班員Aの上司を上司とも思わぬ発言に睨みつけるウリバタケだが整備班員Aも反論する。
「だって班長、すぐに改造しちまうじゃないですか!? それじゃ依頼品にまで手を出すと思われるでしょ!?」
「くっ……。てめぇ、あとで覚えとけ」
反論できないので一応ポーズで怒るウリバタケと話を戻す整備班員A。
「で、どうなったんですか?」
「どこかから妨害工作を受けていた会社の試作品を輸送する任務だったそうだ。デカいトラックを若い方が、護衛をバイクに乗った年配の方がやっていたんだ。オレはトラックの中で機材の保守が仕事でな。そこを戦闘機に襲われたのさ」
「戦闘機って……、よく無事でしたね……」
ヤな汗を流しながら、ウリバタケに言う整備班員B。
「ああ……。正直死ぬかとも思ったさ。ところが、だ。バイクの方は走りながらランチャーで戦闘機を攻撃するわ、トラックの方はフェイントモーションで銃撃をかわすわ……。あげく、バイクの方がトラックを使って飛びあがって戦闘機に乗り移ってな」
「何をどうやったらそうなるんですか……」
ウリバタケの言葉にさらにヤな汗を流す整備班員C。
「言うな。現場で見たオレだって信じがたいんだからな……。で、そのまま戦闘機を乗っとって他の戦闘機を撃墜して依頼完遂ときたもんだ」
「ウチ(ナデシコ)も大概非常識ですが……ASEもすっね……」
呆れた顔でつぶやく整備班員Dに聞いていた全員が同意する。
「まあな。今更だがこのナデシコが『エキスパートの集まり』だと聞いたとき、連中の仲間も来るかと思っていたんだが……」
ウリバタケの言葉に、『エキスパートの集まり』ではなく『能力一流、性格不問』だと思う整備班員Dだったが、それは言葉にしなかった。
「いやー、すいませんねぇ。ASEにも声をかけたんですけど、このナデシコの行き先をどういうわけか知っておりまして……。けんもほろろに断られましたよ。はっはっは」
話している二人の後ろから声をかけたのはブリッジから逃げてきたプロスだった。
「おうプロスさんか」
「ええ。いやぁ、助かりましたよ」
「助かった?」
「いえいえ、こちらの話で。で、必要な資材ですけど」
「ああ。まずは……」
ルリの無言の要請(脅迫)により出航までフル回転となる二人であった。
 
 
余談ではあるが、この可変車両は外装を一般車両の形状に変更したものが数台、件のASEに納入され、絶大な成果を残したと言うがあまり世間に知られることはなかったという……。
 
 
 
とりあえずブリッジは出航準備が整うまで操舵士やオペレーターは不要ということで、ミナトはブリッジから出る。
そのミナトを待ち構えていたイネスが呼びとめた。
「ミナトさん」
「なぁに、イネスさん?」
「これも貴女の『記憶』の通りなのかしら?」
腕組みをしたイネスがミナトに尋ねる。
「多少ディテールが違うけど……イエスと言っていいわね」
「だとしたら……なぜ全部教えないのかしら? もっと早く話が進むはずよ」
「『未来の記憶』なんて物を信じられるなら、ね」
肩をすくめながら答えるミナトに、イネスはかぶりを振って応えた。
「いくら非常識の固まりのナデシコでもそれは無理でしょうね」
「それに早く教えて救われる命があるならそうするわ。でも実際に早く教えて対策を取らせたとしても、それは別の形で犠牲者が出るだけ……。だったら死ぬのは戦う覚悟がある人たちだけでいいでしょ?」
「つまり教えることは無関係の人間を巻き込む可能性が高い、と言うことかしら?」
イネスの口調が詰問に変わっていく。
「巻き込む……と言うよりはそれを改変しようとあがきすぎて、かえって悪くなる可能性が高いということ」
「『かえって悪くなる』ね……」
ミナトの言葉に表情が暗くなるイネス。
「そ。だからやることは最小限。未来を知らなくても注意さえしていれば回避できるはずのことをするだけに留めているの。それに……」
「それに?」
「私しか知らなければ私が世間に糾弾……いえ、『処刑』されるだけで済むでしょ?」
「……そこまで貴女に覚悟させるほどなの? 貴女が介入しない未来と言うのは?」
「さぁて、ね」
ここまで来てシラを切ろうとするミナトにため息をつくイネス。
「……一つだけ教えてちょうだい。私たちの敵は知性体……いえ、『人間』なのかしら?」
「……馬鹿なことをやるのはいつだって人間の方よ」
「…………ありがとう……」
それで話が終わったらしいイネスはミナトから離れていく。
「さてと……。格納庫に行って馬鹿なことをしないように釘を刺さないとね(はぁと)」
すでにテツジンがナデシコに運び込まれている事を知っているミナトは格納庫に向かうのだった。
 
 
 
ミナトが格納庫についたとき、格納庫ではムネタケ副提督補佐がなにやら整備班に指示を飛ばしているところだった。
「いけない!」
捜索隊が組織されてしまっていたことに気づき慌てて近寄るも、すでにヤマダのコレクションを各員で分配し終わり、ジュンはゲキガンガーの段ボール製着ぐるみを纏って格納庫の別の出口に向かうところであった。
「いいなお前ら! 俺達のナデシコは俺達で守るんだ!」
「おおっ!!」
ウリバタケのアジテーションに答える整備班に満足気に肯くムネタケが『解散!』と言うとそれぞれに散っていく。
ミナトは間に合わなかったことに頭を抑えつつ、どこかへ━━━おそらくは女風呂へ━━━行こうとするウリバタケをなんとか捕まえた。
「ウリピー……ちょっといいかしら……?」
その声に振り向いたウリバタケは明らかに不審な行動をした。
「ゲッ!? み、ミナトさん!?」
「な〜にをやろうとしているのか・し・ら?」
にっこり笑って問うミナト。
「す、すまねぇミナトさん! これもナデシコを守るためなんだ!」
「そ、そうよ! 操舵士ごときはお呼びじゃないわ!」
珍しく強気のムネタケだが……、ミナトの眼光で黙らせられる。
「なっ、何よ!? 私は……!」
「お黙りなさい。作戦の邪魔をし続けた貴方に私を止められると思うの?」
そう言ってウリバタケに向き直るミナト。
「さてウリピー……。状況からしてこの混乱に乗じて乗り込んだ密航者を探そう、っていうところのようだけど?」
その言葉に顔色が変わる二人。
「な、なんで……」
「……流石はミナトさんだな……。おおむね正解だ。だからオレ達は……」
バレたことに驚くムネタケは言葉に詰まり、隠しすぎるのはまずいと判断したウリバタケは即座に否を認める。しかし……。
「探すのはいいけど、それを理由に女風呂の覗きなんてしないようにね?」
「「へ?」」
色々と聞かれるか、あるいは吐かされるか……どちらにせよ、五体満足にいられるとは思っていなかった二人は、あっけに取られた顔になる。
「もし覗いたら……判っているわよね?」
「「は、はいっ!!」」
笑顔のミナトに釘を刺された二人は全力で肯くのであった……。
 
 
 
「これで風呂場での騒ぎは無くなる、っと……」
二人に釘を刺したミナトは次にメグミの部屋に向かう。
メグミ不在のため、オモイカネに扉を開けてもらい着ぐるみの中まで調べたが姿は無かった。
前回の記憶通りならメグミの部屋だが……今回はヤマダは生きており、ゲキガンガーが放送されているのはそこしか無い。ならばきっとそこにいるはずだ、と確信しヤマダの部屋へ向かった。
 
 
 
そのころメグミはブリッジからほうほうの体で逃げ出していた。
ブリッジに戻る事も出来ず、うろつくうちに移動するミナトを見つけ、話を聞いて同道することにしたのだった。
「ミナトさん、それ本当ですか?」
「可能性が高い、ってこと。それにヤマダ君は大抵アニメを見ていて通信が通じないからね。男手は必要でしょ?」
そう話しながらヤマダの部屋の前へついた二人。
(ここに彼が……)
高鳴る胸と逸る気持ちを押さえつけ、ヤマダの部屋をノックする……が返事がまったく無いためインターフォンを使うも応答無し。
壁に耳を当てると何やら号泣する声が聞こえるため、室内にはいるようだ。
オモイカネに扉を開けさせて中に入る……と普段よりも荒れた室内になっていた。
(ああ……そう言えば九十九さんをおびき出すためにガイ君のグッズをばらまいたんだっけ。強襲を受けた後なのね……)
そんな事を考えながら、『二つの』号泣が聞こえる方向に行くと……肩を抱き合って号泣している似たような髪型の二人がいた。一人は勿論ナデシコの制服。そしてもう一人は……。
「ありがとう! ありがとう! こんな素晴らしいものを見せてくれてありがとう! もはや見ることが叶わないと思っていた『サタンクロックMの悲劇』が見れるなんて……」
「そうかそうか! 判ってくれるか!? よし見よう! 全話をマラソン上映だー!」
(木連の戦闘服にこの声……。間違いない……、間違えようがないあの人の声……)
泣きそうになる自分にカツを入れ、声をかける。
「ガイ君、非常召集かかってるわよ! 何してるのかしら!?」
「はいっ! 申し訳ありません、ミナトさんっ!!」
ミナトの言葉に直立不動の姿勢になるヤマダ。
一緒に号泣していた不審者はその変わり身の早さにキョトンとしている。
「で、貴方は誰なのかしら? ウチのクルーじゃないわよね?」
「あ、はい、自分は……」
「待ってくれミナトさん! コイツは悪い奴じゃねぇ! あのゲキガンガーの熱い魂を理解できる男なんだ!!」
ミナトの言葉に返事をしようとしていた不審者だが、その言葉はヤマダに遮られる。
「ガイ君、人の話を邪魔しない」
「はいっ!」
ミナトの注意にまたも直立不動になるヤマダ。メグミは見ているだけしかできない。
「で、改めて……貴方は誰なのかしら?」
「失礼しました。自分は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体、突撃優人部隊少佐・白鳥九十九であります!」
ビシッ! と、音がしそうなほどキチッとした敬礼を見せる九十九にヤマダとメグミが戸惑いを見せる。
「木星……ってそんなとこに人なんていたっけか?」
「人類が行った地球から一番遠いところは火星ですよね?」
ついさっきまで肩を抱いていた相手の言葉に首を傾げるヤマダと、授業で習った歴史を思いだすメグミ。
「それは貴方たちの歴史です。本当の歴史では……」
「とりあえず、貴方があのゲキガンガーみたいなロボットに乗っていたのよね?」
九十九の話を遮るミナト。自分がさっき言った事など知らぬようだ。しかし言葉の内容に驚き、誰も突っ込まない。
「はい。そうです」
そのミナトの言葉を肯定した九十九に他の二人が驚いた顔を向ける。
「そしてもう一体に自爆を命じたのも……」
「「えぇ!?」」
続いたミナトの質問にヤマダとメグミはさらに驚きの声を上げてしまった。
「……いいえ。命じてはいません。信じてもらえないかもしれませんが、ある程度機能を損なうと機密保持のため自爆するようになっていました」
「そう……」
自爆が意図的なものでなかった事に内心安堵するミナトだったが、そのミナトにヤマダたちが慌てた表情で質問する。
「ま、待ってくれミナトさん! じゃあ、コイツがさっきまで戦っていた奴だって言うのか!?」
「そ、そうですよ! こんな優しそうな人がそんなこと……」
「いえ……。そちらの女性の言う通りです。あの街で戦っていたのは自分であります」
しかし、その二人の質問を九十九が肯定した。
「うそ……そんな……」
「そんな……ゲキガンガーの熱い魂を理解できる人間がようやくアキト以外に現れたと思ったのに……」
肯定の言葉にショックを受ける二人。そんな二人を手を叩いてこちらの世界に引き戻すミナトだった。
「はいはい、二人とも。そんなに落ち込まないの。これは戦争なんだから敵が人間でもおかしくないでしょ?」
「だって木星蜥蜴は無人兵器だろう!? 軍の公式発表だってそう言ってるし!?」
「そちらではそうなっているのですか……」
ミナトの言葉にヤマダが噛みつき、九十九は絶句する。
「ええ。一部の政府高官や軍上層部は知ってるみたいだけどね」
「まさか……ミナトさん、知ってたんですか!?」
ミナトの態度に、メグミが詰問する。
「……ナデシコでも一部の人間は知ってるわ。私もその一人……」
「そんな……」
裏切られたような顔をするメグミとヤマダにミナトは話しかける。
「だって変じゃない? どこから来たのか判らないのに『木星蜥蜴』や『木星から来た』なんてフレーズが飛び交って、無人兵器が襲ってくるって言うけど何故『無人』なのかは誰も考えない」
「「……」」
そう、それは誰も疑問に思わなかった政府発表。これだけ自分たちの生活に食い込んでいるにもかかわらず、誰もその事を疑問に思わない。
「『無人』で『兵器』。それが判っているなら、『戦闘』を命じた存在がいるはず。なのにそのことには一切触れない。まるで知られたらまずいことをやっているかのように」
「それは……」
何か言い返したいメグミではあるが何も言い返せずに言葉を詰まらせる。
「で、色々調べたら『木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体』……略して『木連』の存在が出てきたわけ」
「一体何なんだよ、その『木星なんたら』って言うのは……」
ヤマダが九十九に視線を向ける。それに応えるように顔を上げる九十九。
「それは……」
「はいはい、そこまで〜!」
「「「「!?」」」」
軽薄な声が聞こえた瞬間、ミナトは九十九をかばうような位置に立つ。
「困るんだよな〜。ミナトさんも不審者を見つけたらすぐに連絡をくれないとさ〜」
声をかけたのは予想通りアカツキだった。
「アカツキ君……」
銃を持ったアカツキを睨むミナト。
すでに銃口がこちらを向いていたため、九十九への射線を取らせないよう微妙に位置をずらしながら盾となり続けていた。
「いや〜、エリナ君とアクアちゃんが取り乱しちゃってさ〜。『お姉さまと連絡が取れない!』、『もしかして不審者に拉致されたのかも〜!?』って」
(しまった……。そっちから足がつくなんて……。コミュニケを切っておいたのが裏目に出たわね……)
理由を聞いて表情を変えずに内心で歯噛みするミナト。
「で、オモイカネに聞いたらメグミ君と一緒にいるって聞いてさ。メグミ君のコミュニケの位置を逆探知したわけ。何でか知らないけどオモイカネが非協力的でさ〜。苦労したよ〜」
そこまで言って手に持った銃を九十九に向けるアカツキ。
「そういうワケだからさ……、おとなしくついて来てくれると助かるんだけどねぇ?」
「……いいだろう……」
「白鳥さん」
アカツキの指示に従う九十九に声をかけるミナト。
九十九は歩いてミナトたちの前に出るとアカツキに向かって宣言した。
「ただし! こちらのお嬢さんがたは何も関係は無い! 彼女たちに銃を向けることは……」
「ああ、その辺は安心していい。彼女にケガさせたなんて聞かれたらこの艦にいるほとんどの人間を敵にまわすことになるからね。僕だってそれはゴメンだよ。じゃ、これ着けて」
そう言って九十九の言葉をスルーしたアカツキが九十九に投げたのは手錠だった。
それを拾って両手に嵌める九十九。
「じゃ、続きはブリッジで」
そう言ったアカツキは銃を振って移動を促す。
しかし、ヤマダだけは動かなかった。
「おや? ヤマダ君どうしたんだい?」
「……少し遅れていく。全員が集まるまでにはブリッジに行くから心配するな」
「別に心配はしていないけどね……。判ったよ。じゃ、遅れないでくれよ? イネスさんの説明が追加されるのはゴメンだからね」
 
 
 
五分後、ブリッジ要員・パイロット他、主要部署のリーダーがブリッジにそろった。もっともホウメイのみは仕込みがあるのでコミュニケ越しである。
手錠をして座らせられた九十九はいささか敵意の入った瞳で自分を取り囲むクルーたちを睨んだ。
睨まれたクルーたちは数の多さからか怯む事はなかったが、ブリッジはやや緊張した雰囲気に包まれたのだった。
そして始まる九十九の尋問。
「ほお〜。これは驚いた。紛れも無く地球人です。ま、多少遺伝子をいじくった跡は見られますが……」
「自分は誇り高き木星人だ! 地球人などと一緒にされては困る!」
プロスの言葉に怒りをあらわにする九十九。
「で? さっきの話、最初からお願いできるかしら?」
ミナトに促され、話を始める九十九。アカツキがなんとか邪魔をしようとしていたが、エリナとアクアが両隣に陣取り、それをさせなかった。
 
十数分後……
「これが全てです」
その話を聞いて皆一様に悩む顔をしていた。
すでに話を知っているミナト・ルリ・アクアやネルガル組は特に驚かない。ただ苦い顔をしていた。
しかし知らなかったクルーたち、特にムネタケ辺りは非常にショックを受けていた。
メグミと、荷物を持ってきたせいか少し遅れてきたヤマダも苦い顔をしていた。先程さわりだけは聞いていたため他のクルーよりも困惑の度合いが少ないものの、それでも良い気分では無いのが実情である。
静かになるクルーたちの中で真っ先に行動を起こしたのはミナトであった。ミナトは九十九の前に立って話しかけた。
「ありがと、白鳥さん。そう言えばまだ名乗ってなかったわね? 私はハルカ・ミナト。このナデシコの操舵士よ」
「ハルカさんですか……。先程はありがとうございました」
そう言って頭を下げる九十九。ミナトは何の事か判らず、首を傾げる。
「先程……って、私何かしたかしら?」
「先程そこの軽薄な髪型をした男が自分に銃を向けた時、間に入っていただきました」
九十九の視線の先には女性二人に挟まれて睨まれるアカツキの姿があった。
話が耳に入ったウリバタケが九十九に尋ねる。
「ちょっと待ってくれ兄ちゃん。今の話は本当かい?」
「今の話とは?」
「あのロン毛がミナトさんに銃を向けたって話だよ。で、どうなんだい?」
そのウリバタケの眼力にたじろぐ九十九は、わずかにどもりながら答える。
「え、ええ。本当ですがそれが一体……?」
「いや。こっちの話だ。邪魔してすまなかったな」
そう言ってウリバタケはミナトたちから離れていった。
「……?」
首を傾げる二人だが、その真相はすぐに明らかになる。
「さ〜てと……。取りあえずみんな仕事に戻ろうよ。テンカワ君を迎えに行かないといけないし。彼には取りあえず独房にでも入ってもらってさ」
「そ、そうですね。じゃあ……」
アカツキの言葉にユリカが付き添う人選を考え始めようとする。すると……。
「ああ、いいよいいよ。僕が行こう。とりあえず今ヒマなのはパイロットくらいだからね。艦長や副長みたいなブリッジクルーは外せないし、うっかり女性を付けて襲われたら大変だ」
「自分は誇りある木連軍人だ! そのような事はしない!」
と、アカツキの言葉に噛み付く九十九。
「とは言っても一応敵っていうことで。信じるのは危険なんだよね?」
「く……。いいだろう」
銃を向けられ、立ちあがる九十九と後ろから銃を向けるアカツキ。
二人が出ていくとブリッジはまた喧騒を取り戻したのだった……。
その喧騒の中、ブリッジを出て行くウリバタケ。
『まだ整備が残ってるんでな』と残して出て行った。
続いて出て行ったのはヤマダだった。手には持ってきた荷物を持ったまま無言でブリッジを後にする。
その後を追うようにブリッジを出たのはメグミだった。こちらは何か焦るような表情だった。
それを見たミナトはルリとキラに出港準備を進めていくように言い残し、ブリッジを後にしたのだった。
 
 
 
「さて、この辺りで良いかな?」
そう言って立ち止まるアカツキに九十九は確信する。ここで自分を始末する気だ、と。
「やはりそういうことか……悪の地球人め……!」
気づいてもどうする事も出来ない自分が腹立たしく感じる九十九にアカツキは銃を突き付ける。
「『木星蜥蜴は謎の無人兵器』。それでいいじゃない?」
そう言ってトリガーを引こうとした瞬間。
「……って、言いたい所なんだけどね」
アカツキはそう言って銃口を上に向ける。
「何?」
その行動を思わず問う九十九にからかうような表情を見せるアカツキ。
「ナデシコじゃね、ミナトさんを敵に回すのは勝利の女神様を敵に回すのと同じことなんだよ」
「?」
アカツキの言葉を理解できない九十九は戸惑った。
「ま、よく判らないけどミナトさんは君にご執心のようだしねぇ。艦長よりも偉い人には逆らえないよ。僕だって命は惜しいからね」
アカツキにもミナトの微妙な態度が見て取れたらしい。
そうやっておどけた後、改めて九十九に銃を向けるアカツキ。
「じゃ、そんなワケなんで独房までキリキリ歩いてもらおうかな?」
直後、『パカーン』と言う音がして、アカツキが崩れ落ちる。
……崩れ落ちたアカツキの後ろにはフライパンを持ったミナトと釘バットを持ったメグミがいたのだった。
「白鳥さん、こっち!」
「こっちです! 早く!」
そう言って二人は九十九の腕を引っ張っていった。
後に頭にコブを作ったアカツキを残して……。
 
 
 
 

あとがき
 
お待たせしました!
久々の本編の更新です。
 
という訳で、ミナトが一分で五キロを移動した理由は、『車が変形して空を飛んだ』でした(笑)。
新型機開発のための技術検証も兼ねていますが。
そしてとうとう登場の白鳥九十九。彼は今後どうなるのでしょうか?
死なすにはちょっと惜しいんですよね〜。
アカツキ、ちょっといいところを見せたと思ったら即座にミナトたちに殴られて退場となりました(大笑)。
前回のことから、『また今回も』と思ったミナトの暴走です(苦笑)。
 
 
書いてる最中にパソコンがなぜか再起動することが数回……。保存直前ばかりに何故……。
ええ、もう心が折れかけましたとも(涙)。
 
 
さて、気を取り直して!
先日TV放映が終了した『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』!
そのヒロイン、ミナ様!
またも復権したツインテールに白い肌、そしてつるぺたロリボディ!
誰かTVのOPのミナ様のあの服をルリルリに着せた絵を描いてはくれないでしょうか!?
出来れば12歳と16歳それぞれの状態で!
16歳であのバストサイズなら絶対似合うハズ!
いつ脱げるか判らないあの格好が、がふぅっ!?
「なに考えてるんですか!?」
ぬう……何をするか、つるぺたの少女R。
「私はつるぺたじゃありません! 毎日バストアップ体操してますし、16歳までいけば絶対大きくなります! その……ミナトさんほどじゃないとしてもメグミさんよりは大きくなるはずです!!」
ん? 遠くから『ガーン!』とかいう擬音が聞こえたような……。
「兎に角、たとえ作者であってもこの成長は止められません!!」
ふっ……、甘いな。それを決めるのが……
神(作者)である事を忘れたか!?
「なっ!?」
判ったら諦めて、大人しく貧乳キャラに……ぐほぅっ!!
「なるほど……。つまり私のバストを大きくするためには貴方を抹殺しなければならないんですね……」
ま、待てぃ!? 私(作者)が死んだらーーーっ!?
 
二時間後……。
神(作者)は床にへばりつきながらも何とか生きていた。
そこへ現れる本作のヒロイン、ハルカ・ミナト。
「ああ、いたいた。ルリルリ〜そんな事しちゃだめよ〜」
「でもミナトさん!」
「はいはい。気持ちは判るから。でも胸が大きくなったことの描写をする前にこいつが死んだら、今までの事がすべて無駄になっちゃうでしょ? そのへんで止めておきなさい。ね?」
「……仕方ありません。命拾いしましたね、作者」
血まみれになった神(作者)を置いていなくなるルリとミナト。
 
その後どうなったかは……神(作者)のみぞ知る……(笑)。
 
 
次回はもう少し早くアップしたいと思います。
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