機動戦艦ナデシコ 逆行のミナト
 
 
第十一話 気がつけば『お友達』? ホワイトデー外伝
 〜真っ黒い『ホワイト』デー?〜
 
 
 
皆さんこんにちは。
ハルカ・ルリです。
私達がナデシコに帰ってきてから約二ヶ月。
今日も今日とてナデシコは戦場にいます。
今日は三月十四日。ホワイトデーだと言うのに、です。
私もラピスもキラちゃんも初めてもホワイトデーですから楽しみにしていました。
アキトさんがサイゾウさんに頼み込んで雪谷食堂を貸切にしてもらってチョコをくれた人全員に食事をご馳走してくれる、ということだったのに直前で出撃命令が出てしまい……今に至る、と言うわけです。
とは言っても戦闘自体は二十四時間前に終わっています。
問題なのは目の前で喚き続けている連合軍の高官です。
喚いている理由はフレンドリーファイア。
と言っても、発砲を宣言しているナデシコの射線上に功を焦った連合軍の士官が艦を前に出させて被弾したというもの。破損自体もギリギリ回避できたので外装が傷つく程度で済んでいます。
どう考えてもあちらが悪いのにいけしゃあしゃあとこちらに罪をなすりつけようとしています。
これを自己保身の塊のキノコと、交渉の達人・プロスさんがやり返す、と言う攻防がまだ続いているためナデシコはこの空域を離れる事が出来ないのです。
はあ、ホント馬鹿ばっか。
「で……皆さんは何で私から離れているのでしょうか……?」
そう、何故か私の周りには人がいません。
「う、ううん別に」
メグミさんが額に脂汗を流して目をそむけます。
「そ、そうだルリちゃん、少し休んでんできたら?」
艦長がそう言ってくれましたが、この時間は私の担当なので離れるわけにはいきません。
「ちょ、ちょっとユリカ! 押さないでってば!」
その艦長は副長を盾にするようにして隠れています。
何だと言うのでしょうか……?
あ、パイロットの人たちは休憩に入っています。アキトさんもパイロットからコックさんに戻っています。
いつもならもうアキトさんのご飯が食べられるはずなのに……。何時まで続ける気でしょうか、この人たちは。……ハッキングして向こうの艦を墜としちゃいましょうか?
「ルリルリ、判ったから無表情で怒るのはやめて頂戴。かなり怖いから……」
そう言って冷や汗を流すミナトさんの後ろにはラピスがいます。
何の事でしょうか? 私は怒ってなどいないのに……。
「ルリ、怖い……」
ラピスはそう言ってミナトさんの後ろに隠れたっきり出てきません。
<ルリ、兎に角落ち着いて>
オモイカネも普段より一回り小さなウィンドウをいつもより遠くに表示しています。
何をしているんでしょうか? 私はこんなにも冷静だと言うのに……。
ホラ、今だって冷静に照準を敵艦に定めて……。
「ルリルリ、だからそれは一応味方だから!」
 
 
 
私も説得に参加した事で、すぐさま己の非を認めた連合軍の高官は去っていきました。
もっとも、捨てゼリフも吐いていきましたのでそれなりに『お礼』はしておきましたが。
 
 
 
結局、二日遅れでホワイトデーとなった私達。
なぜか呼んでいないはずの整備班以下、女性陣のほとんどいない部署の人間が大挙して押し寄せて来ました。
何でもミナトさんにホワイトデーのプレゼントを渡すためらしいですが……
アキトさんは店に来た皆に料理を振る舞いパーティーを始め……結果、深夜までだけでは飽き足らず、翌日土曜日も朝からドンチャン騒ぎとなったのでした。サイゾウさんすいません……。
勿論大幅に増えた費用については、整備班と同じように呼んでもいないのにこの騒ぎにいつの間にか参加していたアカツキさんの懐から(無理矢理)捻出されたのは言うまでもありません。
 
 
全員にアキトさんの作った料理が振舞われ、それに舌鼓を打ちながら談笑していました。
勿論そんな中でラピスとキラちゃんはアキトさんにべったりです。
私もそうしたいですが、ここは可愛い妹たちに譲ってあげる事にします。
お姉さんはかくあるべきです。
「る、ルリルリ? お箸が折れてるってば!」
ミナトさんの言葉にふと右手を見ると、握られた割り箸が折れていました。
いやですね、弱いお箸だったのでしょうか?
新しいお箸を取って改めて割ります。けど今度は片側が大きく割けてアンバランスに割れてしまいました。刺したら痛そうです。
「る、ルリちゃん! 私が割ってあげるから! だからそんな目で割り箸の尖ったところを見ないで!」
メグミさんが悲鳴のような声を上げます。
どうしたと言うのでしょうか?
見るとラピスたちもアキトさんの後ろに隠れてしまっていました。
 
 
 
宴も進み、誰かがつけたテレビはちょうど歌番組がやっていました。
画面の中では、そのなんというか……ライカさん並みの胸の歌手が歌い始めるところでした。
「あ、ツェリル・ノウムだ〜」
「最近よく聞くよね、この歌手」
その歌手を見た何人かが言うのを聞いて最近の歌手だと言う事が判りましたが、あまり興味が無いので気にしていませんでした。
そう、歌が始まるまでは……。
 
『おっぱいマイスタ〜〜♪』
その歌詞に私は振り向きました。今……何と言いました?
『おっぱいマイスタぁ〜ぁ〜♪』
どうやら聞き違いでは無いようです。
『おっぱいマイスタ〜〜♪』
しかもさらに繰り返しますかっ!?
『おっぱいマイスタぁ〜ぁ〜♪』
そう歌うツェリル・ノウムのおっぱいも『たゆんたゆん』と揺れていました。
ふ、ふふふ……。コレは私に対する挑戦ですか挑戦ですね挑戦というなら受けて立ちますよ?
『『『『『『『『『『おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!』』』』』』』』』』
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歌詞が切れた部分ではバックダンサー達(マッチョ男性)が腕を振りながら合いの手を入れています。
大画面のテレビで不愉快な歌詞を歌う歌手……。
「アレだけ大きいともう何も言えないよね〜」
「そうね〜。次元が違う感じだもん」
そんな声を聞きながら私はテレビに近づき……主電源を落としました。
「ルリちゃん?」
怪訝そうな顔で先ほどのお二人……ジュンコさんとハルミさんがこちらを見て……何か怖いものでも見たかのように引きました。
「お二人とも、今日はアキトさんのお招きなのだからしっかり味わいましょう?」
そう私が言うと、お二人ともすごい勢いで首を縦に降っていました。
「こ、怖かったぁ〜!」
「ルリちゃん、すっごい怒ってたね〜!」
私が二人の元を離れるとそんな声が聞こえてきました。
失礼な。私は怒ってなんかいません。
 
 
 
深夜零時をまわり、パーティーをお開きにしてその後始末をする私たち。
朝早くから仕込みをしなければならないサイゾウさんは先に寝てもらいました。
勝手知ったるかつての居候先である店のことはばっちりと知ってます。
アキトさんと二人で……といきたかったのですが、ミナトさんやラピスたちも一緒にお片付けです。
片付け終わって寝ようとしたところ、ラピスとキラちゃんに『一緒に寝て』と言われたアキトさんは苦笑しながらも了解してしまいました。
ま、まぁ仕方ないでしょう。今日だけです、今日だけ……。
 
 
 
翌朝……。
「アキトが悪いんだもん! アキトが離してくれないから……」
「アキトお兄ちゃんのえっち……」
そう言う二人の背後には二箇所に世界地図が書かれた布団がありました。
……アキトさんが一緒に寝ていた二人を寝ぼけて抱きしめていたため、トイレに行けなかったそうです。
おまけにアキトさんの指で色々されたらしく、翌朝には二人とも別のところに逝っていました(怒)。
現在、ミナトさんがサイゾウさんに平謝りに謝っています。
サイゾウさんも冷や汗をかきながらですが、どうやら『許す』と言っているようです。
良かった……。
ちなみに原因となったアキトさんは今現在、私の足元で悶絶しています。
アキトさん……貴方は私の妹たちになんて事をするんですか?
私にするならともかく……。
ハッ!? わ、私ったら何を考えているんだろう!? そんなアキトさんに一緒に寝てもらって抱っこされたり、スリスリされたり、ふにふにされたり、クンカクンカされたりペロペロされたり、なんて事をして欲しいだなんて!?
私は頭を振ってその考えを追い出し、大急ぎで新しい布団セットをエリナさんに調達してもらうため電話口に向かうのでした……。
 
 
 
そんなホワイトデーから一週間後……。
あの時ナデシコの前に飛び出し、被弾した艦の艦長と文句を言い続けていた連合軍の高官がスキャンダルで更迭されたそうです。
何でも匿名の通報があったとか。
しかし、痴漢とか覗きとか情けない事もあったものですね、ふふふふふふふ……。
「ルリルリ……怖いからその笑い方は止めて頂戴……」
失礼ですね、ミナトさん。どこが怖いと言うのですか?
 
 
 
 

あとがき
 
皆さんお久しぶり、喜竹です。
え〜……、お待ちになっていた読者の皆さんゴメンなさい。今回は本編更新ではなく、外伝となります。
実はコレ、去年のホワイトデーに用意していたものなのですが、書きあがる前にホワイトデーが来てしまったので、一年過ぎてのホワイトデーの外伝となってしまいました。
だから今年はバレンタインの作品を書いていません。バレンタインだけ二回分でホワイトデーが一回分というのは何かアンバランスな気がするので……。
 
このお話は第十二話以降、どんどん『黒く』なっていくルリのきっかけになったお話になります。
ちなみにこのお話で出てくる曲はツェリル・ノウムの『Oh!π My Star』です(笑)。
もちろん創作の曲ですよ?
でも、こういう話を聞いてからその曲を聴くとあら不思議、そうとしか聞こえなくなってくる〜♪
 
次は本編の更新の予定です。
お楽しみに〜。



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