機動戦艦ナデシコ小話
  『とりっくおあとりぃと Ver.微
Presented by KittKiste


「・・・おかしをくれないといたずらするぞー。」
「・・・・・・ラピス、それは何の真似だ?」

 ユーチャリス艦内。
 特になにをするでも無く、ベッドに腰掛けていたアキトの前にひょっこり姿を現したのは・・・かぼちゃのマスクを被ったラピス。
 そう、世間ではハロウィンの季節。

「ん・・・こういう行事があるって、エリナが言ってた。」
「・・・・・・そうなのか?」

 ・・・だがアキトはハロウィンを知らなかった。
 よくよく考えてみると、幼少時に両親は亡くなり・・・それから一人で生きて来た。
 だから、そんな行事のことを知らないのも無理はなかった。

「・・・おかし、くれないの?」
「・・・・・・。」

 考える。
 何かあっただろうか・・・?
 ・・・味覚が無くなってからは手元にあるのは固形ブロック食だけだ。
 いや、キャンディーくらいは持っていたようないなかったような。
 キャンディー、というか・・・ビタミン強化剤入りのサプリメントの一種なのだが。
 マントの下に手を突っ込んで探してみる。
 ・・・・・・ない。
 そんなに頻繁に口にしていなかった所為もあり、どうやらあげられるようなお菓子の類いはなさそうだ。

「・・・すまない、ラピス。
 手持ちにはないようだ。」
「そう。
 じゃあいたずらする。」

 そう宣言し、おもむろにパンプキンマスクを外すと座っているアキトの膝の上に座るラピス。
 ・・・ただし、向かい合わせにだ。

「・・・ラピス?」

 アキトの問いかけに答えず・・・

ぴちゅ・・・くちゅ・・・・・・

 ラピスは舌をアキトの首筋に這わせ始めた。

ちゅっちゅっ・・・れろぺちゅ・・・・・・

「な・・・ま、待てラピス・・・・・・。」
「・・・ん、だめ。
 おかしくれなかったから・・・いたずら、するの。」

 そう、耳元で囁いて再開するラピス。

ちゅ〜ちゅっ・・・はむ・・・・・・

「はぁ、はぁ・・・ん、あむ・・・。」
「く、ラピス・・・。」

 ラピスはほんのりと頬を染め、アキトの身体にしがみつき・・・気が付けば身体を揺らしている。

「はぁ・・・あむ、ちゅぷ・・・はっぅ・・・。」
「ラ、ラピ・・・むぐっ。」
(や、やめるんだラピス・・・っ。)
(・・・や、いたずら・・・・・・するんだも・・・んっ。)

 抗議の声をあげようとしたアキトを察し、口を塞いで黙らせる。
 とは言ってもリンクで繋がっている身だ。
 頭の中でアキトの声が聞こえてくる。
 ・・・しかしラピスにしては珍しく、我を通そうとしていた。

(一体何故・・・・・・。)

 半ば呆然としながら、アキトは思う。
 ・・・現実逃避ともいうが。
 その間にもラピスは啄むようにアキトの唇を貪っている。

ちゅっちゅっちゅちゅちゅっ・・・

 だが、この華奢な身体を払いのけるという真似は、アキトの選択肢にはなかった。
 故に、どうしたものかと困っている。
 ・・・半ば感覚がないからなのか、どうにも反応が鈍いが。

「はぅ・・・ふ・・・ん、ふ、は、あ、んん・・・っ!」

 そうしている間に、ラピスはぴくん・・・と身体を震わせアキトにしがみつき、やがて弛緩するかのようにもたれかかった。
 
「・・・ラピス、大丈夫か?」

 何がどうなったのかいまいちよく分かっていないアキト。
 それでも、どうやら何かが終わったらしいことだけは分かった。
 しがみついたまま身じろぎひとつしないラピスを心配し、そう声をかける。

「・・・ん、大丈・・・夫。」

 少し呼吸が荒いようだが、そう応えるラピスに一安心する。
 ・・・・・・だが、ラピスは何がしたかったのだろうか?
 考えてみるが、どうにも答えは出てこない。
 ・・・ラピスに直接聞いたほうが早いか。
 そう思い、ラピスに声をかけようと意識を向けると。

「・・・すー・・・すー・・・・・・。」

 ・・・ラピスはしがみついたまま、寝入ってしまっているようだ。
 アキトは軽く息を吐くと、ラピスを両腕で抱きかかえて自分の腰掛けていたベットに寝かせる。
 ブランケットをかけてやり、ラピスの頭を一撫でしてから部屋を後にした。
 ・・・・・・アキトの太ももが濡れているのに気付かぬまま。


 翌日。
 補給のために立ち寄ったネルガル秘密ドックにてエリナに首の赤い痣について問い詰められ、答えに窮するアキトの姿が目撃されたのはまた別のお話。

 

 


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