注  このSSは某所に投下し散々叩かれまくった挙句、取り下げたものを改訂したものです。

   ジャンルとしてはGS×ソウルアンダーテイカーのクロスものです。

   それでも読んでみるという稀有な方はどうぞ先へとお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魂の葬儀屋

 

作者 くま

 

 

 

 

 

 

丘の上にある、夕日が綺麗に見えると評判だった公園。

先ほどまで赤く染まっていた空も暗くなりゆき、

徐々に夜の帳が降りてくるのを感じさせる。

とある噂の所為で、いや、実際に被害が出ていることもあり、

ここしばらくはこの時間帯に、その公園を訪れる人物など皆無だった。

だが、今日はその公園に1組の男女の、少年と少女の姿があった。

彼らに恋人同士なのか?

と聞けば、二人して否定するだろう。

カラスを肩に乗せた少年は、心底嫌そうな顔をして。

猫を連れて歩く少女の方は、ニコニコと微笑みながら。

公園にはその二人と2匹(正確には一匹と一羽)以外の存在が在った。

この公園で起きる原因不明の昏倒事件の原因であり、

昨日までは一部の人間には『彷徨える羊』――

(霊的物質がその源泉とも言える月に還ること無く結合したもの、有体に言えば幽霊)

――と呼称されるモノだった。

だが、今少年と少女の前にあるそれは、通常の人間にも視認出来るほど物質化しており、

幽霊と簡単に呼ぶには、あまりにも禍禍しい様相を見せていた。

それはもはや『羊』などと呼べるほど大人しいモノではなく、

生者に対し牙を剥きその魂を喰らう為に、一部の人間からは『狼』――

(『羊』が幽霊ならば、『狼』は怨霊といえよう)

――と呼称される存在そのものだった。

そして今、その少年少女の目の前にあるそれは、

一部の人間からは『狼』の中でも最上級にカテゴリーされ、

『吼え猛る狼』と呼称され、

かつ恐怖をもって語られる存在に相違なかった。

 

「クッ、下がれ!馬鹿!!」

 

そんな『吼え猛る狼』を前にした少女『江藤比呂緒』に向け、

彼女と同い年である少年『三嶋蒼儀』が叫ぶ。


《比呂緒、三嶋氏の言う通りにここは退くんだ。

 この『羊』は、君の、いや我々の手に負えるものではない》


瞬く間に『吼え猛る狼』へと成長したそれを睨み、

比呂緒の側で彼女にそう告げる子猫がいた。

灰色の縞猫で、

尻尾が無いほどに短く、

右の鬚が半分しかなく、

右の耳が食い千切られた様にぎざぎざな、

小さな雌猫 『ハンニバル』。

無論、ただの猫が言葉を発するはずは無く、それはひとえにハンニバルが、

『使役要霊的物質高等結合体(ハイファミリア)』

つまり、自ら思考可能な高等な使い魔であるからこそ出来ることでもあった。

詳細に言えば、ハンニバルは言葉を発したわけでなく、

比呂緒へ『六識』――

(五感では感じられないものを識る六番目の感覚の総称)

――を通じて話しかけたというのが正解だ。

だが、蒼儀とハンニバルの声にも関わらず、比呂緒は1歩も下がることはなかった。

逆に目の前でその体躯を増大させていく『吼え猛る狼』へと、

アストラM44・アルケブス・カスタム――

(所謂リボルバータイプの大型な拳銃。

 ただし羊を撃つ為に改造されているもの。

 そういった銃の総称には『アルケブス』を冠している)

――を左手で構えてみせたのだ。

 

「ごめんね、三嶋さん。

 それは出来ないよ」

 

目の前の『吼え猛る狼』から視線を外すことなく、蒼儀にただ謝る比呂緒。

その表情には浮かぶのは、何時もと同じへらへらとした笑顔だった。

 

「ば、馬鹿!お前、死ぬ気か!」

 

比呂緒からの言葉に、蒼儀は珍しく激昂し、怒鳴りつけていた。

その蒼儀の言葉を受けてもなお、比呂緒は退こうとはしなかった。

ただ、困ったような顔をして、こう続ける。

 

「うん、あたしが馬鹿なのは本当のことだよね。

 きっと、三嶋さんも良く知ってると思うんだ。

 それと死ぬつもりは無いんだけど、仕方がないよ。

 だって、あの羊さんは、

 ううん、あの人はあんなにも還りたがっているんだもの。

 三嶋さんには聞こえない?

 あの人の願う声が。

 カエリタイ、かえりたい、アノヒトの元へ、還りたい、

 っていう、あの哀しい声が」

 

『吼え猛る狼』の中心にある『仙骨』――

(人間を構成するもののうち、肉体の骨子ではなく、魂の骨子。

 それを一部の人間はそう呼ぶ。

 とはいえこの場合何時もの赤ではなく青いモノ)

――を見据えて、蒼儀に対し続ける比呂緒。

先ほどまで張りつけていた何時も通りのへらへらとした笑顔とは違うその表情と、

何時も通りに気の抜けたような、

それでいてきっぱりとした口調の拒絶の言葉に、蒼儀は絶句し、なにも言い返せない。


《仕方が無いのなら、仕方が無いな》


絶句する蒼儀に変わりそう続けたハンニバルが、

トンと地面を蹴り、比呂緒の肩へと飛び乗った。


《また、声が聞こえたのだろう?私もそれに付き合うよ、比呂緒》


自らが肩に飛び乗った比呂緒に向け、ハンニバルは淡々と告げる。

その視線は目の前にいる『吼え猛る狼』に向けられたまま。

 

「ハルさん、良いの?」

 

その視線だけは『吼え猛る狼』から外さず、

肩に飛び乗ったハンニバル――

(比呂緒はこの猫をハルさんと呼ぶ)

――に問いかける比呂緒。


《私のマスターは君だ。マスターに従うのは当然の事だ》


そう答えるハンニバルの言葉を快く思わなかったのか、珍しく眉をひそめる比呂緒。


《それに私達は友達だからな。そうだろう、比呂緒?》


そして更に続けられるハンニバルの言葉に、比呂緒はぱぁと表情を明るくした。

 

「うん、そうだね」

 

と、大きく肯きながら答える比呂緒。

ただその視線だけは、

『吼え猛る狼』の中核を為している青い仙骨から外さない。

そして比呂緒は己の『エーテル』――

(仙骨が魂の骨子なら、こちらは魂の血流)

――を左手に持つアルケブスへと、無尽蔵に注ぎ込んで行く。

回りの残滓はおろか、なりかけの『羊』をも喰らい尽くし、

更に巨大化した『吼え猛る狼』が、

比呂緒が真直ぐと自分へ向けて構えるアルケブスに、

凄まじい量のエーテルを注ぎ込まれたその銃、に注意を向けた。


「Gyaaaaaa!!!」


全ての生あるものを震撼させる咆哮を放ち、

その巨大な顎で全てを飲み込まんと比呂緒に迫る。

構えた銃を『吼え猛る狼』の青い仙骨に向けたまま、

比呂緒それを迎え打つ。


(なんて激しい想いなんだろう。

 いつもの大きな羊さんなら、こんなにも声が聞こえてくることは無いのに。

 どうやったら、こんなにも激しい想いを持つことが出来るのかな?)


そんな思考ごと『吼え猛る狼』の巨大な顎に飲み込まれる比呂緒とハンニバル。


ガアァン!!


そして鳴り響くアルケブスの銃声。

強大な『吼え猛る狼』の咆哮に、一瞬だが意識を呑まれた蒼儀が正気を取り戻した時。

周辺の全ての残滓を含め『吼え猛る狼』は消失していた。

『吼え猛る狼』と対峙していたはずの比呂緒の姿すら含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――呂緒!」

 

「――――――比呂緒!」

 

「起きろ!江藤比呂緒!」

 

「………何だか良くわかんないけど、すいません、先生」

 

フルネームを呼ばれた比呂緒は目を開けるのと同時に、何時かと同じくそう謝っていた。

彼女がフルネームでその名を呼ばれるのは、往々にして教師に叱られる時だったからだ。

今年の春に卒業した小学校に通っていた時の事では在るが。

 

「比呂緒、まだ『羊』は還っていない。油断するな、アルケブスを構えろ!」

 

目を開けた比呂緒は見覚えのない周りの風景に、


(ここは何処だろう)


と思いながらも、ハンニバルの声がするほうに視線を移す。

こちらに背、と言うかほとんど無い尻尾を向けているハンニバルの先には、

中空に漂うように存在している一人の女性の姿があった。

毛を逆立て威嚇するハンニバルを他所に、比呂緒をじっと見つめる女性。

彼女と見詰め合う形となった比呂緒は


(うわあ、綺麗な人だな)


と思った。


(ちょっと変わった格好してるけど)


比呂緒が思った主な原因は、

その女性の頭部から伸びている、2本の触覚のようなものを見つけた所為だろう。

 

「比呂緒!早く撃て!」

 

危機迫るハンニバルの声に、

(羊さんは何処に行ったのかな?)

と、比呂緒は首を傾げる。

 

「あー、忘れてた」

 

と呟くと、『霊髄』を回し――

(魂の血流であるエーテルの流動を任意に激しくすること)

――何時の間にか閉じていた、六識を開き始める。

六識を開いた比呂緒の目に映る女性には、その中核として青い仙骨が存在した。


(ああ、あの女の人が『羊』さんだったんだ。でも声が聞こえない…)


そう考えて、先ほどとは逆の方向に首を傾げる比呂緒。

 

「比呂緒!」


「あいさー」

 

叫ぶハンニバルの声に、


(ハルさんはせっかちだなぁ)


と思いながらも何時もの気の抜けた返事を返す比呂緒。

そしてハンニバルに言われる通りに、

左手に持っているはずのアストラM44・アルケブス・カスタムを彼女に向けようとし、

その段階でようやく、己の身体の違和感に気が付いた。

 

「あー、ごめんね、ハルさん。

 『羊』さんを撃つのは、ちょっと無理みたい」

 

いつもの様に間延びした声で、比呂緒はハンニバルの背に話しかける。

 

「比呂緒、何をふざけて…」

 

そんな比呂緒の声に苛立ち、

目の前の『狼』から視線を外して振りかえりながら、比呂緒を怒鳴るハンニバル。

が、その言葉は、比呂緒のその姿を見た瞬間に止まってしまう。

アルケブスを握っている比呂緒の左腕の仙骨の存在が、綺麗に無くなっていたからだ。

そして比呂緒の太く鮮明な赤色をした仙骨の喪失は、

左腕のみならずその身体の3分の1ほどに及んでいた。

左の肩口から股下までばっさりと、

鋭利な刃物で切り取られた様に、比呂緒の仙骨は無くなっていたのだ。

 

「比呂緒、君は…。―――っ!!拙い!」

 

一瞬唖然としたハンニバルの呟きが、途中から危機感を伴った警告に変わる。

ハンニバルの威嚇が功を奏したのか、今までその場から動くことの無かった『狼』。

その『狼』が突如動き出したのだ。

『狼』の向う先には比呂緒の姿。

その比呂緒は起き上がることもままならず、

自分の方に向って来る『狼』をじっと見つめていた。


(そういえば、ハルさんも三島さんも、

 『羊』さんを相手にする時には、下手をしたら死ぬって言ってたっけ。

 じゃあ、あたしはこのまま死んじゃうのかな?)

 

ただ漠然と、そんなことを考える比呂緒。

その比呂緒に迫る『狼』。

 

「ありがとう」

 

その言葉を残し、比呂緒の上を通り過ぎた『狼』は、

彼女の隣で寝ていた一人の青年へと重なった。

その様子を視線だけで見送った比呂緒は、


(ああ良かったな)


と思っていた。

何が起こったか理解したわけでは無いが、


(あの羊さんは還れたんだ)


比呂緒は、そう感じ取っていたのだった。

 

 




 

 

 

 

 

 

 

「比呂緒、無事か?」

 

『狼』の気配が完全に消えたのを不審に思いつつも、

ハンニバルは己のマスターの無事を確認する。

 

「うん、大丈夫。でも左手とか動かない。何でだろう?」

 

そう何時ものような能天気な声で答える比呂緒に、

ハンニバルはため息をつきつつ言葉を返すことにした。

 

「比呂緒、六識で自分の左腕を見てくれ」


「あい」

 

ため息混じりのハンニバル声に返事を返し、

六識を開いたまま素直に自分の左腕を見る比呂緒。

左腕が動かせないので、頭の方を動かして自分の視界に左腕が入る様にする。

 

「うーん、いつもの赤いのが何にもないね。

 ああ、だから動かないのか。なっとく、なっとく」

 

自分の仙骨が欠けているの確認した比呂緒だったが、全く取り乱すことはなかった。

そしてまるでそれが他人事であるかのように、大きく肯くのだった。

ハンニバルはある意味予想通りだった己の主のその反応にため息をつく。

恐らく比呂緒が、自分の仙骨が大きく、それも致命的なほどに欠けてしまったことに、

全くこれっぽっちも危機感を抱いて無いのだろうと推測したからだ。

無論、それがどんなに大変な事態であるのか、

いかに比呂緒に理解させるかを考えて、でもあったが。

が、そんなハンニバルの思考とは相反して、比呂緒は危機感を持っていた。

ただ、


(左手が使えないと御茶碗が持てないから、ご飯の時に食べ難いだろうな…)


という程度の危機感だったが。

 

「ところでハルさん、ここは何処なんだろうね?」

 

比呂緒が首から上だけを動かし周りを見ながらハンニバルに尋ねる。

ハンニバルも『狼』の気配が消え去ったこともあり、

比呂緒の言葉に従う様に回りの見渡し状況を確認する。

そしてとりあえずの結論をハンニバルはだした。

 

「比呂緒、ここは恐らく賃貸型の集合住宅の一室…、

 つまりどこかのアパートの誰かの部屋だ。

 そして君の隣に寝ている人物が、恐らくこの部屋の家主だろう」

 

そう説明するハンニバルの言葉を聞いた比呂緒は、

 

「あー…」

 

といつもの様に間の抜けた声を上げる。

ハンニバルは比呂緒が蒼儀といるときに上げることの多いその声に、

ため息を吐きつつ説明を続ける。

 

「比呂緒、家主と言うのは、その家で一番偉い人のことだ。

 君の家で例えるなら。君の父親が家主に当るだろう。

 もっとも、ここの住人は恐らく彼一人だろうから、必然的に彼が家主となるのだろうが…」

 

ハンニバルの説明に比呂緒は「そうなんだー」と何時もの間延びした声で答え、

「やっぱり、ハルさんはインテリさんだねえ」と感心する。

 

「ああ!大変だよ、ハルさん!」

 

ひとしきり感心していた比呂緒だったが、突如そんな大声を上げる。

 

「どうした、比呂緒?」

 

その大声に何か緊急事態でも起きたのかと身構えたハンニバル。

そして比呂緒を宥めると言う意味合いも在って、極めて落ちついた声で比呂緒に問い返す。

 

「部屋の中にいるのに、あたし靴を脱いでないよ。どうしよう、ハルさん」

 

比呂緒が真剣に困った様な声でハンニバルにそう聞いてきたのだ。

在る意味何時も通り、いや何時も通り過ぎる己の主に、頭痛を憶えるハンニバルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず靴を脱いでおこう。

そう思った比呂緒は寝転がったままの姿勢で行動を開始する。

寝転がったままなのは、別段起きあがるのが面倒臭くなったわけではない。

仙骨を失ってしまった左半身を動かせない比呂緒は、

まともに起き上がることすら出来なかったのだ。

当然、靴を脱ぐという作業も今の比呂緒にとっては困難なものであり、

「んあー」 と情けない声を上げて困っていた。

そうやって比呂緒が靴を脱ごうと悪戦苦闘している時、

アパートのその一室から外へと通じるドアが、勢い良く開かれた。

 

「おはようでござる先生!今日も良い天気でござるよ。朝の散歩に行く…」

 

バアンと音がしそうな勢いで開かれたドアから、

比呂緒達のいる部屋へと入って来たのは一人の少女。

銀色の長い髪のうち一房を赤く染めた彼女はその動作からして快活そうで、

そのイメージ通りの明るい声を出しながらその部屋へと入ってきたのだ。

しかしながら、その明るい声も尻すぼみになり、途中で止まってしまう。

彼女の目に写った彼女にとって信じ難い光景によってだった。

その視線が捕らえていたのは、寝転がったまま靴を脱ごうと苦戦していた比呂緒の姿。

何とか右の靴は脱げたのだが、動かない左足に履いた靴は上手く脱げないらしく、

どうしたものかと思っていた比呂緒。

そんな比呂緒だったが、部屋のドアが開かれたのには気が付いており、

困りながらも、ドアのある入り口の方に視線をむけていたのだ。

交錯する少女と比呂緒の視線。

固まる少女に対し、比呂緒は何時も通りだった。

 

「あい、おはようございます。

 って、あれ?ハルさん、今は夕方じゃなかったかな?」

 

つまり、実に自分のペースを貫いたのだ。

少女に朝の挨拶を返しつつも、ハンニバルにそう訊ねる比呂緒。

一方、挨拶を返された少女はそれどころじゃなかった。

尊敬し親しく想っている彼を毎朝こうして尋ね、

起こすのは自分の役割だと彼女は思っていた。

しかし今日に限っては、

その彼の隣に寄り添う様に横になっている見知らぬ少女の姿があったのだ。

彼女の受けた衝撃はかなりのものだったのだろう。

目じりに涙を浮かべると踵を返し、少女はものすごい勢いで走り去ったのだ。

 

「先生のロリペド鬼畜野郎―――!!」

 

と、捨て台詞を叫びながら。


(すっごく足の早い人だなあ)


彼女の後姿を、そんな感想とともに見送る比呂緒に構うことなく、

ハンニバルは開かれたままのドアから外へ出る。

一通り周りを確認すると、再び比呂緒の元へと戻ってきた。

 

「比呂緒、どうやら今は朝らしい。

 日の傾き方もそうだが、周りの家の郵便受けには新聞紙が挟まったままだった」

 

そう続けられたハンニバルの言葉にほっとする比呂緒。


(今が朝ならさっきの挨拶は間違いじゃなかったんだ。良かった良かった)


と何時も通りの短絡的な思考のままにそう安心したのだ。

 

「約束するよ、ルシオラ」

 

突然そんな言葉を呟いたのは、寝転んだまま移動出来ない比呂緒から、

15センチほどの間をあけた布団の上で横になっていた青年だった。

開かれっぱなしとなっていたドアの方に視線を向けていた比呂緒は、

その呟きにビックリして後を振りかえる。

そんな比呂緒には気が付かなかったのか、

青年は寝ぼけ眼を擦りながら上半身を起きあがらせる。

そして、大きく伸びをしながら大あくびをするのだった。

 

「ねえ、ハルさんどうしたらいいかな?まだ靴を履いたままなんだけれど」

 

比呂緒は自らの隣に寝ていた青年が目覚めるのを見て、ハンニバルにそう訊ねる。

「やはり心配するのはそこなのだな」

と言う言葉をため息と共に飲み込むハンニバル。

あの冬から片時も比呂緒の側を離れることの無かったハンニバルは、

ある程度なら己の主の考えを予測出来るようになっていた。

あくまで、ある程度であり、

突拍子のない比呂緒の思考を理解出来ないことの方が多いのだが…。

 

「とりあえず、謝罪を…まあ、ごめんなさいと謝ったほうが良いと思う。

 我々は彼の家に不法侵入…いや、勝手に上がり込んでいるわけだから」

 

そうあえて噛み砕いた言葉で答えるというハンニバルの努力が実り、

 

「うん、そうだね、やっぱりハルさんは賢いね」

 

と感心するのは比呂緒。

そんな一人と一匹やり取りの間にも、青年の意識は覚醒して行く。


(いやに風通しが良いのは、

 何時の間にか部屋のドアが全開になっている所為だな。

 見なれぬ小さな縞猫がいるのは、

 ドアが開け放たれていたから入り込んできたんだろう。

 ついでに見知らぬ少女が俺の隣で寝ているのも、

 やっぱりドアが開きっぱなしだった所為に違いない。

 昨日の晩はきちんと戸締りしたはずだから、

 ドアが開け放たれているのはドアを開けたやつがいるからだ。

 こんな朝早くからここに来るのはシロだけだし、

 きっとシロがドアを開けっ放しにしたのだろう。

 そういえば、シロの姿が見えないな…。

 「ってなんでやねん!!」

 

彼の中に流れる関西の血がそうさせたのか思考の中ですら、流しボケ&ツッコミする彼。

自分の思考に対するツッコミなのにも関わらず、

無意識下でツッコミを口にしたのは、やはりその血が為せる技なのか。

そしてそのツッコミはもちろん、相手の胸元を手の甲で叩くという動作付だった。

 

「よくわかんないけれど、とにかくごめんなさい、先生」

 

セルフでボケとツッコミをする彼に、いきなりそう謝ったのは比呂緒だった。

ボケとツッコミ、両方をこなせる彼だったが、

いきなり見知らぬ少女に謝られるという事態に途惑い、

ポカンとした顔で、謝ってきた少女を見返すしか出来なかった。

それは、

20世紀最後の伝説を作ったソウル・アンダーテイカー『江藤比呂緒』と、

後の世にある意味伝説として伝えられたゴーストスイーパー『横島忠夫』が、

出会ったその瞬間だった。

 

 

 

続かない


あとがき

祝!100万ヒット!!

ジャンクステッキなSSを送りつけよう第一弾です。

続かないとありますように、続編は存在しませんのであしからず。

それはともかく、100万ひっとおめでとうでした。

では。


感想

くまさん100万HITをお祝いいただきありがとうございます♪

いや〜いい作品です〜ぜってえ続きが気になる〜!!!

主人公がどちらなのかは分りませんが、横島君を出してきた以上このお話は唯では済みますまい(笑)

まあ、横島君は比呂緒ちゃんに手を出せないでしょうけど(爆)

いや、アレです。ポチと一緒で手を出しそうになったら電柱に頭を打ち付けて冷静さを保つ年齢ですから♪(爆死)

そんな事すら想像できるだけに、続いてないのが勿体無いです!

さあ、続きを見たい人は感想を書こう!(爆)

因みにソウル・アンダーテイカーは2005年2月10日に発売された小説です。

話の筋は、何も知らない江藤比呂緒という少女が、

たまたま12歳の誕生日に父親からもらったモデルガンに、猫の使い魔が憑いていて、危険な霊銃だという事を知るんですが、

それをきっかけに、人に害を与える霊魂を消し去る「魂の葬儀屋」ソウル・アンダーテイカーという職業に出会う事になります。

この江藤比呂緒という少女は知的障害に近いほどに何事も信じてしまう人間で、

猫の姿をした使い魔であるハンニバルの言葉を簡単に信じてソウル・アンダーテイカーとなります。

お話自体は割とシンプルですが、書いてているのがダブルブリッドの中村恵里加さんですから唯で済むわけもありません。

まあ、江藤比呂緒という少女のボケっぷりと暴走が見事なまでにお話自体の閉塞感やシリアスをぶち壊してくれています。

いい意味で期待を裏切ってくれる作品だと思いますよ。





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