俺の名前はテンカワアキト。

コロニー爆破事件の重要参考人として指名手配されている犯罪者.

というのが、世間一般の俺に対する認識だろう。

確かにその場に居合わせたのは事実であり、そういう結果に陥った原因は俺に有るのかもしれない。

実際のところは俺が実行犯ではないのだが、

やったのは俺じゃないと声を大にして言えるほどに,

己の身が潔白ではないことは十二分に承知しているし、

濡れ衣を着せられたからと言って、どうこう思うほど普通の生活に未練があるわけじゃない。

俺をこうした状態へと為さしめた奴等の大部分が捕まり、

そして愛すべき妻であったミスマルユリカを救い出せた今となっては、

尚更にそういった生活に戻ろうという気持ちは薄くなっていたのは事実だ。

逆に言えば、今の俺はこうしてこの世に生きる意味ですら見いだせていないのかもしれない。

かと言って何の心残りも無い訳じゃない。

俺のこうした行動につき合わせてしまった一人の少女が居るからだ。

彼女は俺のかつての義理の妹と同じに、

今では禁止されている遺伝子操作によるIFS強化体質の子供として生み出され、

そのまま違法に研究を続けていた研究所からネルガルが保護したと言う経緯がある

。その後、ネルガルのラボで俺と出会い、何の因果か五感を失った俺をサポートする事になった。

彼女の心中を俺に察する事は出来なかったが、

俺はその特異な体質と未発達な精神性を利用し奴等への報復とそしてユリカの救出を実現させたのだ。

その救出劇からは幾ばくの時も流れては居ないのだが、彼女は変わり始めた。

彼女がサポートしている俺が落ち着いて来たからだろうと、彼女の変化をドクターはそう分析していた。

俺もどこかしら人間味を欠く彼女が変わり、その表情が豊かに成っていくその様子を歓迎していた。

……当初は。

考え込む俺を不安に思ったのか、

俺の思考の懸案の彼女が、心配そうな表情で何時もの様に俺に呼びかけ てくる。


「らぴーん…」 

 

 

 

 

 

 

 

突発系思い付きSSS

らぴーん、りゃぴすさん!?

作者 くま

挿絵 ジャドーエイ様

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぴーん…」(アキト、大丈夫?具合悪いの?)

 

音声的に聞こえるものとは別に、何故だか理解できるラピスの言葉の意味。

 

「ああ、心配しなくて良いさ、ラピス。少し考え事をしてただけだから」

 

以前より身長どころか頭身まで縮んでしまったラピスの頭を撫でてやりながらそう告げる。

それでラピスは安心したのか、少し暗かった表情を変えて微笑すら俺に向けてきて…。

バフッ。

そのまま俺の胸の中に飛び込んできた。

まるで猫が飼い主にじゃれ付くようなそんな仕草で俺に甘えるラピス。

両腕を俺の身体に回したつもりなのだろうが、

その短い手で届くはずはなく俺の胸板に張り付いているように見える。

身長は50センチぐらいでバランス的には2頭身であるラピスからすればそれが精一杯なのだろうとは思うが。

だが、それすら何時もの事であり、俺はラピスのしたいがままにさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当初、そうしたラピスに起こった異常を俺は放置して置けなかった。

俺の専属医であるドクターことイネスさんにすぐさま相談してみた。

イネスさんは眉をひそめて怪訝な顔をした後、即座に検査を開始した。

…ただし、俺の頭の検査だった。

その後、イネスさんやエリナ等何人かに聞いてみたが、

どうやらラピスがそうして見えたりするのは俺だけらしい事がわかった。

確認の為、ユーチャリスのAIであるオモイカネダッシュにラピスとの会話を記録させた事があったが、

記録の中のラピスは、今までより少しだけ伸びた背で俺が理解したとおりの言葉を普通に喋っていた。

ほっとする反面、俺は俺自身に起きている事を不安に思っても居た。

ただ、そうした思いに捕らわれて俺が沈んでいると、

ラピスは静かに微笑を浮かべて決まって後ろから俺の頭を抱きしめてきた。

 

「…らぴーん」(アキトには私がついているから大丈夫)

 

慰められた俺は、色々な意味で涙を滲ませてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういった過去もあり、今ではある意味慣れてしまったラピスとの生活は、

やはり平穏なものとは言いがたいものだった。

いまだ、火星の後継者の残党の活動は燻り、俺はそれを消して回る日々を送っていたからだ。

無論、ラピスと一緒に。

色々と変わってしまったラピスだったが、以前と変わらぬ形で俺に協力 してくれてもいた。

ただ、以前よりも口数は増え(ただし、常にらぴーんとしか聞こえない)、表情や仕草が豊かになってはいた

まあ、俺に甘えてくるのには少し戸惑いを感じるが。

そして俺はそれを好ましいものと思い込むことにしていた。

モニターの向こうに映る彼女の姿を見るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは火星の後継者を狩りたてた後に、稀にあることだった。

連合宇宙軍の戦艦が一隻、ユーチャリスを追尾してきた。

正規の哨戒ルートからは外れているこの場に居合わせたのは偶然ではないのだろう。

なぜならその船は、俺の予想通りにその戦艦はナデシコBだったからだ。

先に行われた機動兵器による戦闘を終え、ブリッジに戻った俺を振り返りラピスが訪ねてくる。

 

「らぴーん?」(アキト、通信が入ってるけど、どうする?めんどくさいし、無視して逃げちゃおっか?)

 

ぶっちゃけたラピスの言わんとするところも解らないでもない。

正直に言えば俺もそう思う。

だが脳裏を過ぎるのはアカツキが前日見せた憔悴しきった顔だ。

何でもこのごろ連合宇宙軍のとある少佐からの突き上げが激しく夜も碌に寝れないとの事だった。

出来れば君の義妹に、君から何か言ってやってくれ。

哀れなアカツキは何も言いはしなかったが、言外に俺に訴えてきた言葉を俺は理解していた。

だからこそ、俺はナデシコBから入ってきた通信に答える事を決断する。

 

「ラピス、ナデシコとの通信を繋いでくれ」


「…らぴーん」(…ホントは嫌だけど、アキトがそう言うなら仕方ないよね)

 

俺からの言葉に。何時もとは違い本当に渋々といった仕草と言葉で答えるラピス。

それでも仕事は手を抜かず俺の正面に大きくウインドウを展開し、ナデシコからの通信をそこへと繋げる。

当然にしてモニター越しにではあるが向こうの最高責任者である元義妹と真正面から向かい合う形になった。

しばし互いに言葉を忘れ視線で会話を交わす俺と元義妹。

元義妹はその金色の瞳を閉じて軽く頷くと、意を決した様に静かに、そしてある意味俺の予想通りに語りだした。

「るりーん」 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るりーん」(アキトさん、帰って来てください。いえ、帰って来なさい。帰って来ないと酷いですよ、色々と)


「らぴーん!」(うるさいな、ルリは。アキトは私と居るの。アキトは帰りたくないし、帰らないの。何で部外者が横から口を挟むのよ!)


「るりーん!」(な、なんですって!部外者は貴女でしょうに、ラピスラズリ。わ、私はアキトさんと家族なんですから!)


「らぴーん?」(元でしょ?)


「るりーん!!」(キー!!)

 

俺を部外者にして言い合いを始めた二人を他所に、俺はため息混じりにオモイカネダッシュに指示を出す。

 

「ジャンプシークエンス起動。あ、通信はそのままでな。ジャンプ直前に通信をカットしろ」


「了解です、マスター」

 

やや疲れていると自覚できる俺の声に、オモイカネダッシュは何時ものように応えた。

その60秒後。

もはや罵詈雑言をぶつけ合っていた二人に構わず、ユーチャリスはその区域から消え去った。

そして、神ならぬこの時の俺には、この後に続く困難な道を知覚できるはずは無かった。

 

「らぴーん!」(チキショウ、あのアマ!今度あったギタギタにのしてやるー!)

 

ただ、ブリッジに響いたラピスの声は聞かなかった事にした。

 

 

 

終われ


あとがき

えーまあ、そういうことです。

ジャドーエイ様の可愛らしい絵に免じて駄文については言及しないのが大人です。

と、言い訳しつつ、逃げる事にします

ではー。



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