『冥王、降臨す』

作者 くま

 

 

 

 

 

赤い、何処までも赤い海。

打ち寄せる波に逆らう様に、僕はその海のもっと深い所へと向けて足を踏み出した。

僕に気持ち悪いと告げたアスカは、その後何も言わなくなってしまったし、

そのまま海へ向かう以外に、する事がないと僕には思えたからだ。

ざぶざぶと海に入っていく僕。

泳ぐ事の出来ない僕だけれど、

何故だか溺れる事は恐くなくって、

丁度胸ぐらいの高さまで海に入った時、

少し大きな波がきて、

僕はと自分自身のバランスを保てなくなり、

あっさりと波にさらわれた。

そのまま、力などいれずにたゆたっていたのが良かったのか、

僕は波に揺られながらぷかぷかと海に浮かんでいた。

まあ、元より基本的に人間の身体は水に浮くように出来てるのだし、

赤くなってしまったとは言え相手は海水で、

泳ぐ事の出来ない僕でもぷかぷかと浮かぶ事ぐらいはできるのだ。

こうしてぷかぷか浮いているのも何だか楽しいな、

と僕が思い始めたその時だった。

何だか良く解らないモノが、僕の内側に入ってくるのだ。

かも有無を言わせずに大量に。

それに驚いた僕は思わず体に力が入り、

先ほどまで浮んで居た事すら忘れてもがき、

そのまま赤い海の中へと沈んでしまい、

……その意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めた僕は、自分に何が起こったのかを理解していた。

僕は今回の勝者である第18使徒、リリンとして覚醒したのだ。

階梯を一つ昇ったという事になるのだろう。

そして先ほど僕の中に流れてきたのは、地上の生きとし生けるものがLCLと化し、

そこに溶け込んだモノが僕の中へと入ってきたのだ。

そして僕の中でそれは僕と同化した。

生きとし生けるものの中には当然人間という存在も含まれており、

人は僕という容器の中で進化を遂げた事に他ならない。

それはつまり、一部のネルフ上級幹部とその上部組織であるゼーレによって計画された

人類補完計画の要であり、全てだった。

何故、そんな事が僕に理解できたのか?

それを他人に説明するのは僕には出来そうに無い。

解ってしまうんだから仕方が無い。

僕が何故か理解している知識については、そう表現するのが一番だろう

そして僕が知識と同時に理解していたのが、自分自身の力の事だった。

その事に意識を向けて己の力を解放する。

広がったのは数百メートルにわたるオレンジ色の壁、ATフィールドだった。

それは僕が理解している自分の力の中でも単純かつ一番強力なものだった。

そしてとっくに気が付いていた事ながら、僕は人間を辞めてしまったんだと改めて自覚した。

認識を変えた次の瞬間、僕はまた新たな自分の力を理解してしまった。

その力を理解した感想は、正直ありえない、だった。

それは僕でなくともそう思うだろう、

時を巻き戻す力なんて在るわけが無い。

けど、同時にソレを実行する力を、僕が持っている事も解ってしまっていた。

僕はやり直せるという甘美な果実を前に、我慢する事が出来なかった。

無論、無条件に時を巻き戻せるはずも無い。

代償は僕が階梯を昇る事で得てしまった力の大半を失う事と、

あの儀式を得て昇った階梯から降りるという事。

そして力を失うのだから巻き戻せるのは一度だけで、

しかも僕がこれまで生きてきた中において、強烈に記憶に残っている地点にのみ時を巻き戻せるのだ。

必ず成功するものでもないし、失敗すれば全てが水泡に帰してしまう。

けれど、僕はそれをすること決めていた。

還るべきはあの一点、父さんが僕を捨てて行ってしまったあの瞬間。

その一点のみを思い描いて僕は意識を集中し、

力の発動を認識した瞬間、それは始まりそして終わっていた。

何故だか僕の視界は歪んでいて、それが泣いている所為だとようやくに思い至る。

目の前には遠くなる父さんの背中。

僕はそれをただ黙って見送った。

その背中が見えなくなった頃、かけられた声は僕が預けられる事になる先生のものだった。

良くは覚えてないけれど、このまま先生の家に連れて行かれて、

そして僕は先生に引き取られる事になったはずだ。

だから僕は先ず駆け出した。

背に呼び止める声を聞きながら、幼児の足で懸命に走る。

そう、僕は決めていたのだから。

こうしてやり直してる以上は、絶対にあんな結末にはしないって。

運動に慣れていないのか、先生が息を切らせて僕を追いかけてくる。

追いつかれそうになった僕は、今だこの身に残された力を発動すると同時に、前傾姿勢で駆け抜ける。

一気に距離を離して、適当に角を曲がる。

この辺の地理に詳しい訳でもないけれど、とにかく僕は走り続けた。

やがて、全く見覚えのない公園にたどりつき、僕はそこでようやく足を止める。

なんとか落ち着いた僕は今後の事を考える。

もちろん、どうやってあの結末を逃れるか、をだった。

あの赤い海で融合した知識をあさり、具体的な方法を考えようとし、止めた。

考える前に僕がするべき事を思いついたからだ。

大半を失ってしまったとは言え、僕のこの体には人には在らざる力が残っているからだ。

だからこそ、今在る自分の力を把握した上で、今後の事を考えるべきだろう。

その後に色々と試して見た結果解ったのは、

僕がATフィールドを張れる事と、その応用が少し出来るというぐらいの事だった。

やはり持っていた力の大半は失われてしまったようだ。

何も無いよりはましか、と考えた僕の背に投げかけられた言葉があった。

 

「…ねぇ、今あるコレは、君がやったのかな?

 少しお話を聞かせても貰えるかな?」

 

自分の事で手一杯だった僕は、全くその声の主の気配に気が付けていなかった。

けれど、僕が僕の中に取り込んでしまったモノ達から発せられる警告に従い、

先ほど確認した自分の力、ATフィールドの展開ヴァリエーションを声の主に目掛けぶつけていた。

そして相手の様子など確認せずに、僕はそのまま再び走り出す。

さきほど逃げてきた先生のこともあるし、街の中に向かう事はやめ、

ひたすら人の居なさそうな処へと僕は走り続ける。

途中にあった神社から山の中に入り、草木を掻き分け僕は走った。

それから何分逃げたのか僕には良く解らない。

木の根にとか足を取られたりしながらも、僕はただ駆け続ける。

偶然見つけた大木の洞に隠れて一息つき、しばらくぶりに小休止を取る。

上がった息を整えて、さっきの声の主の事について考える。

確か結構若そうな女性の声だった。

僕に何故あんな声をかけたのだろう?

それに今在るコレとか言ってたけど、何処までわかって僕に声をかけたんだろうか?

そこまで思考が及んだ時、僕の目の前に転がってきたピンク色に発光する球状のもの。

危機的レベルに高まる己の内の警告にしたがい、僕は弾ける様に木の洞から飛び出した。

キョロキョロと回りを見渡して、ようやく捉えた相手の姿は、

木々の間から見える中空にあった白い人影。

しかも、距離的には2,3キロはあるだろう。

けれど、空中の相手は僕に向けて杖のようなものを向けていて…。

とにかく逃げないと。

そう思って再び走り出そうとした僕の身体は、

僕の周辺を飛び回る何かが吐き出す光の帯のようなもので拘束されていく。

マズイ、マズイ…。

沸き起こる焦燥感と危機感に突き動かされ、

僕は空中の相手と僕の間にATフィールドを複数かつ多重に展開する。

今、僕が制御できるギリギリの18枚のATフィールドの輝きの頼もしさに少し安堵する。

ATフィールドの展開が終わるのと同時に、遠くの白い人影の構えた杖の先に桃色の光が集まっていく。

 

「ディバイン…バスター!!」

 

そんな掛け声と供に僕に向けて放たれる桃色の光の奔流。

僕に向けて突き進むそれは僕の張ったATフィールドを突き破り、真っ直ぐに僕へと迫って来た。

18枚もあった筈のATフィールドも最後の一枚まであっけなく破られて、

僕はその砲撃の直撃を受けることになった。

全身を奔る痛みを感じながら、僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい気絶していたのだろうか?

意識を取り戻した僕の視界に映るのは、僕を逆さに覗き込んでいる一人の女性だった。

白い服で長い髪の綺麗な女の人だ。

と同時にこの人が先ほどの事を僕に行ったのだという事も理解していた。

その人がどうして逆さに覗き込んでいるのかを唐突に理解し、

膝枕されていた僕は慌てて飛び起ようとして、やんわりとその人に止めらられた。

 

「あ、無理しちゃダメだよ。起きるなら、ゆっくりとね」

 

その人の言葉に従い僕はゆっくりと起き上がり、改めてその人の前に座り直す。

なんとなくだけど正座をしてしまったのは、ATフィールドをぶつけてしまった負い目からだろうか。

 

「よかった、ちゃんと気が付いたみたいで。

 お話を聞かせてもらいんだけど、良いかな?」

 

今のこの状況で、その問い掛けに対して、首を横に振れる様な度胸を僕は持ち合わせていなかった。

 

「あ、…っと、その前に自己紹介からするね。私の名前は…」

 

にこっりと笑みを僕に向けて、その人は語りだした。

こうして奇しくも時を遡ることになった僕は、時空管理局の空佐である、高町なのはさんと出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの僕は時空管理局の本局という所に行く事になった。

一緒に来てくれるよね?

と問いかけるなのはさんに対し、僕は首を縦に振る以外の選択肢を持っていなかった。

本局へと向かう船の中。

違う世界から来たというなのはさんの言葉に驚きながらも、それを事実 として受け止めた僕は、

のはさんから僕がしたことが如何いう事なのか、という説明を聞くこ とになる。

無理やり巻き戻された時間の所為で、僕の住んでいた地球を中心にして歪が出来て、

近隣の他の世界にまで影響が出る可能性が高いという事だった。

その影響を抑える様に処置はしてるんだけどね、と続いたなのはさんの言葉に僕は少しだけ安心した。

そしてなのはさんが所属する時空管理局という所は、

異なる次元に渡って影響を及ぼすような事件を処理する組織で、

時には武力制圧さえ辞さない方法を持って世界を平穏に保つのが役割なのだそうだ。

当然、管理局からして見れば、時間を巻き戻してしまった僕などは、

厄介ごとを引き起こした張本人であり、こうしてなのはさんに身柄を拘束されるのも当たり前の事なのだ。

そして僕は決意を決めていた。

何が起きて、如何してこうなったのかを、なのはさんに全て話すことにした。

僕の生い立ちから、あのサードインパクトの結末まで。

荒唐無稽でそんな事を考えるのは頭がオカシイとしか思えない様な話しか出来ないのだが、

なのはさんは時折メモを取りながら僕の話を真剣に聞いてくれた。

 

「そっか、大変だったね」

 

話終えた僕をぎゅっと抱き締めてくれるなのはさん。

幼児に戻ってしまった僕はそれにあがらう事無くその胸に顔をうずめた。

何かが崩壊したのはその時だった。

ポロポロと涙が止まらず、声を上げて泣き出してしまったのだ。

なのはさんはそんな僕を抱き締めたまま、泣いている僕が落ち着くまで優しく背中を撫ぜてくれた。

感情の昂ぶりもおさまりとりあえずの平静を取り戻した僕は、

なのはさんの腕をそっと振りほどく。

改めて覚悟を決めて、僕はなのはさんに問いかけた。

 

「あの、僕のお努めは何年ぐらいになるんでしょうか?」

 

そう、時空管理局が警察機構のような働きをしているのなら、

そうした事件などを引き起こした者にはそれ相応の処分が下されるはずだ。

僕の行動がどれほどの罪になるのかは知らないけれど、僕は処罰を素直に受ける事を決めていた。

 

「あはは…、多分だけど、そういう施設に入れられる事は無いと思うよ。

 シンジ君の事情が事情だし、一応、被害も出てないはずだから…。

 多分だけど、保護観察ぐらいで済むんじゃないかな?」

 

そんななのはさんの言葉に安堵する僕。

覚悟は決めてはあったけど、やっぱり刑務所に入らなくて済むならそれに越した事はないからだ。

自ら進んで囚人になるような度胸が、僕には無かったって言うのもあるけど。

随分と寛大な処置に思えるけれど、それが管理局のやり方なのかもしれない。

 

「これから行く本局で、シンジ君は専門の人と話をして貰う予定なの。

 今、私に話してくれた事を最初から繰り返して話してもらう事になると思う。

 ちょっと、大変だけど、頑張ってね、シンジ君」


「はい!」

 

なのはさんからの激励を受け、僕は大きく頷いて返事をする。

良い子だね、

と僕の頭を撫でるなのはさんの手は、少し照れくさかったけれどとても温かだった。

その後は、なのはさんの言った通りの流れになった。

時空管理局の専門の人と色々と話をして、一応裁判の様なものを僕は受ける事になった。

下された処分は2年間の保護観察処分と、局員指導による更生プログラムの受講だった。

時空管理局の魔法という技術の中には、

人格にまで影響を及ぼさせる強力なものもあるらしいのだけど、

それを用いずに強制的とは言え更生プログラムを受けさせるだけというのは、

随分と甘い処分のような気がした。

…後にその処分が甘いどころじゃないかったと判明するのだけれど。

そうして何日かの管理局本部に泊り込み、その処分を決められた僕は、

管理局の本局ではなくミッドチルダ支部で保護観察を受ける事になった。

肉体的には3歳児の幼児である僕は、僕を保護観察する局員さんの家へ預けられる事になるそうだ。

本部で僕の面倒を色々と見てくれた人に付き添われ、僕が預けられる事となった局員さんの家へと向かう。

 

「まあ、その、なんだ。がんばってな、シンジ君」


「?はい、わかりました」

 

付き添いの局員さんに言われ、とりあえず良い返事を返しておく僕。

僕の返事に頷いた局員さんは、とある住宅の呼び鈴を鳴らした。

まあ、何となく、そしてある程度予測していた事でもあるけれど。

はーい、と答えて家のドアを開けて顔を覗かせたのは、高町なのはさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付き添いの局員さんは、僕をなのはさんに引き渡すと帰っていってしまい、

僕はなのはさんに招きいれられて家の中へ。

なのはさんに促されて先に入ったリビングで、僕を出迎えたのはクラッカーの音だった。

 

「「「ようこそ、シンジ君」」」

 

リビングには十数人の人が待ち受けていて、一斉の僕を歓迎してくれたのだ。

飾りつけられて部屋には垂れ幕まで掛かっていて、

僕の歓迎の為にそれなり骨を折ってくれた事がしのばれた。

つーと僕は涙を流している事に気が付いた。

嬉しかったのだ。

知らぬ内にとは言え罪を犯してしまった僕みたいな如何しようも無いヤツを、

こんなにたくさんの人が歓迎してくれた事が。

ミサトさんの所は言うに及ばず、先生の所に預けられた時にも感じた事のない温かさが胸に染みた。

その後、小人のような小さな二人が、僕が泣いてしまった事で揉めだしたのにはちょっと困ったけど。

こうして、僕を歓迎してくれた内の殆どの人はなのはさんの同僚の人達で、

かつては起動6課という部署に所属していた人達なのだそうだ。

皆、今は所属する部署もバラバラで、こうして一同に集まるのは久しぶりという事だった。

皆忙しいからこうして何か無いと、集まる機会もないしね、とは、なのはさんの弁。

良い様にダシに使われた気もするけれど、

それでも僕は僕を歓迎してくれた事が嬉しくて気にはならなかった。

歓迎会で主役らしい僕はちやほやされながら話を聞いてもらったし、皆さんからも色々と話を聞いた。

僕と一緒に住むことになるのは、なのはさんとその義理の娘のヴィヴィオ姉さん、

そしてなのはさんの嫁?らしいフェイトさんの3人なのだそうだ。

ヴィヴィオ姉さんの年齢は10才ぐらいとの事で、

精神年齢的には15才になろうかと言う僕よりも年下だった。

その事をなのはさんに告げてみると…。

 

「んーじゃあ、シンジ君は出来の良い弟だね」

 

と笑顔で言われ、僕ははソレを承諾した。

その後にヴィヴィオ姉さんの逸話、

なのはさんの全力の砲撃をシールドも張らずにその身で受けてなお自力で立ち上がった猛者だという話を聞き、

尊敬と供にヴィヴィオ姉さんと呼ぶ事に違和感を感じなくなったのは別の話だ。

そんな風に楽しかった歓迎会も終り、何人かを除いて皆は自分達の家へ帰っていってしまった。

少し寂しいと感じたのは贅沢な感情なのかもしれない。

さして深夜という訳でもないのに、子供の身体に引きずられてか、眠気が僕を襲ってきた。

なのはさんやフェイトさん達はまだつもる話が在るらしく、

僕はヴィヴィオ姉さん達と供に子供部屋で雑魚寝をすることになった。

そんな僕らに付き合ってくれたのは、小型犬っぽい外見をしたアルフさんとザフィーラさんだった。

もちろん、アルフさん達は普通の犬じゃなくて、使い魔とかそういうものらしく、

普通に喋ったりするのには少し驚いた。

そんな4人は並べて敷いた布団の上で川の字に寝転がり、眠りに付くことになった。

僕以外の誰かの体温を感じながら、僕はゆっくりと眠りの世界に落ちていく。

ふと思い出したのは付き添いの局員さんの言葉。

大変かと思ったけど拍子抜けしたな、なんて事を思いながら僕は寝入ってしまった。

ただ、拍子抜けだというのが随分と甘い考えだったと思い知らされるのに大した時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日からは、なのはさんの家での普通の生活が始まった。

一番早くに家を出るのはフェイトさん。

なのはさんと同じ時空管理局で執務官という仕事をしてるフェイトさんは、

次の仕事のヤマに取り掛かるとの事で、まだ早朝と呼ばれる時間帯の内に家を出て行った。

長期の出張もあるとの事で、一番多く家を空ける事が多いそうだ。

次に家を出たのはヴィヴィオ姉さん。

近所の同年代の子達と一緒に学校へ。

白を基調とした制服が結構似合っていた。

ヴィヴィオ姉さんが通ってるのはお嬢様学校なんですか?となのはさんに訊ねてみる。

あの子にも色々あったし、半分はそうかな?との答えだった。

何があったのか?とまでは聞けなかったけれど、制服姿も似合ってるし、問題は無いと思う。

僕の中に在る知識に寄れば、可愛いは正義、なのだそうだし。

ヴィヴィオ姉さんが出かけた後、なのはさんは一通りの家事をこなしていく。

当然僕もそのお手伝い。

とはいえ幼児の身体で出来る事なんて高が知れてたけれど。

大体9時半ぐらいになってなのはさんも家を出る事になり、僕も連れられて一緒に出かける事になる。

向かう先は時空管理局のミッドチルダ支部。

なのはさんはフルタイムではなく、普通の人の半分ぐらいの勤務時間で働いているそうだ。

僕の世界の言葉でワークシェアというものになるのだろうか。

フルタイムでやってくれないかっていう要請はあるけど、ヴィヴィオに『お帰り』って言ってあげたいからね。

と、なのはさんは語る。

義理の親であるはずのなのはさんに、そこまでしてもらってるヴィヴィオ姉さんが凄く羨ましく思えた。

そんな思いが表情に出ていたのか、

シンジ君も学校に通ってみる?となのはさんに訊ねられた。

精神年齢的には15になろうという僕が一年生からやり直しするのか?という事に思い至り、

丁重に辞退させてもらう事にした。

僕がこうしてミッド支部に来たのは、何もなのはさんの付き添いという訳じゃなかったのもある。

此処で更生プログラムを受ける事になっているのだ。

そして、僕の更生プログラムを受け持つのが、やはりなのはさんだった。

時空管理局で戦技教導隊に所属する、

つまり戦闘技術を教育指導する隊に属するなのはさんが立てた更生プログラムは、

なのはさんの戦闘技術訓練を通じて僕を更生させようというものだった。

幸いにもというか不幸にもというか、

色々な人を自身の内側に溶かし込んだ事のある僕は、

魔導師たる為の条件である魔力を半端ないレベルで有しているらしく、

その戦闘訓練は決して意味の無いものではないらしい。

頑丈さが取り柄らしい一般局員用のデバイスこと魔法使いの杖を渡された僕は、

なのはさん指導の訓練を受ける事になる。

初心者用の段階が終り、本格的な訓練を始めて30分もしない内に、

付き添いの局員さんの言ったガンバレの意味を僕は理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの2年間はあっと言う間だった。

基本的には管理局のミッド支部と家を往復する毎日を過ごしてきた。

もちろん休日には皆で何処かへ出かけたり、時にはなのはさんの実家にも行ったりした。

そうした日々は貴重なもので、

コレまで生きてきた中でも一番充実した時間を過ごしたのだと、僕は思う。

そこには多分、僕が望んで止まなかったモノが在ったからだ。

家族と過ごす普通の生活。

僕となのはさんとフェイトさんとヴィヴィオ姉さん。

誰一人、血は繋がっていないし、家族ごっこだと断じられれば、僕は言い返せないかもしれない。

でも、皆で笑いあったり喜んだり、怒ったり叱られたり…。

そうして四人で過ごした時間は確かに存在する。

だから、僕は誰に何を言われようと、3人が僕の家族だと胸を張って言えるだろう。

そして例え家族であっても、別れの時は来るもので。

僕の観察期間が終り、僕は僕が居た世界に帰る事になった。

ミッドチルダでの最後の日、別れの朝。

家の玄関で僕を涙目で見つめるのはヴィヴィオ姉さん。

 

「シンジちゃん、行っちゃうの?」


「うん。僕は行かなきゃならないんだ」


「私はシンジちゃんに居て欲しい」


「ごめんなさい。幾らヴィヴィオ姉さんの頼みでも、コレは譲れない」

 

色々と押し殺して僕はヴィヴィオ姉さんに告げる。

全てを投げ打って、この家に居るという選択肢もあるにはあった。

けど、巻き戻してしまった世界を放って置いて、僕だけ此処に居るわけにもいかない。

 

「シンジちゃんのバカ!もう知らない!嫌い!」

 

ヴィヴィオ姉さんは僕にそう言い捨てて、家の中のおそらく自分の部屋に戻っていってしまう。

 

「ははは、嫌われちゃいましたね」

 

肩を落とし力なく呟く僕の頭をなのはさんは何も言わず撫でてくれる。

何か言われるよりも、今はそれがあり難かった。

何とか気力を取り戻した僕は、僕を送ってくれるなのはさんとは違い、

此処で別れる事になるフェイトさんの方へと向き直る。

 

「そろそろ時間ですし、僕はもう行きます。

 今までどうも有難うございました、フェイトさんもどうかお元気で」

 

そう言って頭を下げた僕をフェイトさんは軽く小突いた。

あれ?何か失礼な事を?

疑問に思って顔を上げると、フェイトさんだけでなく、なのはさんまで少し怒った顔。

ふと、ある事に思い至り、僕は軽い咳払いをしてもう一度口を開く。

 

「えっと、その、ちょっと大変なんで帰るのは遅くなると思います。それじゃ、行って来ます」


「気を付けて、行ってらっしゃい」

 

改めてそう答えた僕にフェイトさんはようやく微笑んでくれた。

なのはさんがフェイトさんにヴィヴィオ姉さんのフォローを頼み、

僕となのはさんは管理局の本局へと向かう事になった。

ある程度歩いた所で立ち止まり、2年間過ごした家を振り返る。

ふと二階のヴィヴィオ姉さん部屋に目をやると、カーテン隙間からこちらを覗く人影を見つけた。

人影に向けてぶんぶんと振った手に、人影が隠れてしまうの見た僕はため息を吐いて前を向き、

なのはさんの後を追って僕は早足で歩き出した。

時空管理局の本局を経由して、僕となのはさんは僕が元居た世界へと戻ってきた。

衛星軌道上に船を泊め、僕となのはさんは地上の人気のない場所へと転送魔法で移動する。

明け方という時間帯もあり、人気の無い公園においては誰にもその現場を目撃される事はなかった。

 

「なのはさんとも、此処でお別れですね」


「うん、そうだね」

 

そう言って短い言葉を交わし何となくしんみりしてしまった。

 

「えっと、じゃあ、行って来ます」


「うん、行ってらっしゃい」

 

頭を振り気を取り直し、僕はなのはさんに告げ、

なのはさんもそれにちょっと寂しげではあったけれど、笑顔を見せてくれた。

手を振るなのはさんを背に、僕は公園の外へと向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから僕は真っ直ぐに交番に駆け込んだ。

2年間行方不明だった僕の取り扱いが如何なっているかは不明だったけど、

少なくともこの5歳児の身体の僕にはまだ保護者が必要だったから。

5歳児らしい物言いで、自分の名前は碇シンジで、今現在迷子であり、

母は居なくて父親はゲンヒルという所に勤めている碇ゲンドウだと告げる。

丁度担当だった若い警察官の人が端末を叩き、

僕の名前を行方不明者のリストの中に発見して、田舎の交番には珍しくちょっとした騒ぎになった。

その後、僕を迎えに来たのは以前もお世話になった先生と黒い服を着たネルフ所属の男の人。

先生の家で僕と先生と男の人で話をする。

訊かれたのは今までどうしていたのか?という事だった。

僕は固有名詞はぼかしつつ、問い掛けには素直に答えていく。

なんとか管理局というところで、優しいお姉さん達と一緒に暮らしていた事。

そのお姉さん達は魔法使いで、杖には跨らなかったけれど、空を飛んで色々な魔法を使っていた事。

(もちろんソレが砲撃や斬撃魔法である事は言わないが)

そして何とか管理局という所はたくさんの魔法使いが居る所だと聞いた事。

最初の内こそ真剣にメモを取っていたネルフの黒服の人も、

僕の話に眉間に刻んだ皺を段々と深くしていく。

最終的には完全に呆れてしまったのか、一度病院で診てもらう様に言い残し帰ってしまった。

残されたのは先生と僕。だまって話を聞いてくれた先生に僕は父さんの事を訊ねる。

先生の口からは父さんは忙しくて来れない事と、

これからも忙しいから一緒には住めないという事を告げられた。

そして少し冗談めかして僕にこう告げてくる。

私は魔法使いではないけれど、これからはシンジ君の面倒を見る事になるのだ、と。

僕はよろしくお願いします、ととりあえず頭を下げておいた。

それから月日は流れ、僕が14になろうかと言う頃。

僕宛に一通の手紙が来た。

僕を呼ぶ、父さんからの手紙だった。

 

 

 

 











「ゴメン、お待たせ」

 

リニアレールが停車した駅で、久しぶりの再会を果たした僕は、

タイヤから白煙を上げながら滑り込んできた蒼い車に乗り込む事になった。

あーそう言えばミサトさんとも久しぶりの再会になるのか…。

ミサトさんは当たり前にそれを知らないだろうけど。

そんな事を考えている内にも車は急発進し、

目的地であろう第三東京都市の中心たるネルフへ速度を上げていく。

先ほどの再会を果たした駅がどんどん遠くなるのを、僕はバックミラーでながめていた。

 

「ふ、勝ったな」

 

そこから白い何かが上昇していくのを確認した僕は、

僕でない誰かの記憶にある父さんの様にそんな台詞を吐いていた。

 

「え?シンジ君、何か言った?」


「ただの独り言です。気にしないでください」

 

ちらりと横目で僕の顔を覗いたミサトさんの問い掛けに無難な返事を返す僕。

ならいいの、とミサトさんは車の運転に意識を戻した様子。

使徒の進行速度はそれほどでもないにせよ、そう時間があるわけじゃないのも事実だからだろう。

僕をエヴァに乗せ闘わせる為に急いでいる。

そんなミサトさんをご苦労な事だなと僕は素直に思う。

だってミサトさんは知る由もなかったから。

この後、空から一条の光が降って来て、ミサトさん達の努力とは全く関係の無い所で、

僕の言葉は実現されてしまう事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カートレインとか言うのに車ごと乗りんだ時には、

迫ってきていた使徒の脅威は既に取り除かれた後だった。

目の前で何処かへと通話をしていたミサトさんの憤りの様子からもそれは窺える。

あとで聞いた話だとネルフ本部ではこんな感じだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「15年ぶりだな…」

「ああ、間違いない使徒だ」

『ディバィィン!!バスター!!』

「パターン青、消失しました…」

「「何ィィィ!?」」

 

まあ、『ディバイン!!バスター!!』のくだりは、流石にネルフ本部には聞こえてないだろうけど、

大体そんな感じだったらしい。

僕がエヴァに乗るどころか、現場の指揮権がネルフに委譲される前に全て片がついてしまっていた。

とはいえ、通常兵器が有効だったわけじゃないから、

今後の使徒についてはネルフに一任される事になったらしい。

で、もちろん次の使徒からもそんな感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「前は15年のブランク。今回はたったの3週間ですからね」

「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね」

『ディバィィン!!バスター!!』

「パターン青、消失しました…」

「「何ィィィ!?」」

 

ふよふよと宙を漂っていた使徒は、あっさりと桃色の光の中で無に帰ってた。

きっとなのはさんの砲撃を、コレまでの他の攻撃と同じに見たのが間違いなんじゃないかな?

せめて回避運動ぐらいはしないとねぇ?

それでも、きっと無駄なんだろうけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……攻守共にほぼパーペキ……まさに空中要塞ね………」

「どうします? 白旗でもあげますか。」

『ディバィィン!!バスター!!』

「パターン青、消失しました…」

「「何ィィィ!?」」

 

直上方向に大きく展開して張られたATフィールドはぶち破られ、

桃色の光にその身体を貫かれた使徒はもう二度と動く事は無かった。

うん、たかが1枚のATフィールドじゃ、なのはさんの砲撃は防げないよね。

多重展開したATフィールドを18枚ぶち破られた経験がある僕が言うんだから間違いないよ。

で、ここに来て、エヴァンゲリオンが大活躍。

といっても活躍したのは使徒の死体?の後片付けだったけど。

 

それからおよそ一ヶ月位経った頃だったと思う、アスカが合流したのは。

当然、弐号機も一緒だった。

しかも、海上で使徒と一戦をこなし軽くブッチギって来日したみたい。

でも、アスカがあのアスカだったのには驚いた。

簡単に言うと彼女も還ってきた口だった。

それもあって、魚っぽい使徒を余裕でぶちのめし、凱旋みたいな感じで来日したという次第。

使徒を初めてエヴァで倒したアスカを、ネルフ本部は大歓迎で…。

その所為も欠片ぐらいはあっただろうけど、相変わらずの性格なアスカに僕は正直困惑していた。

僕と同じ様に巻き戻った口なら、精神年齢的には二十代も半ばぐらいのはずなのにねぇ?

なんとも落ち着きの無い事で…。

まあ、アスカらしいって言えばらしいんだけどね。

そんなアスカだったけれど、なのはさんとお話をしてからは大人しくなった。

切っ掛けはアスカの不用意な一言。

 

「はん、その年で魔法少女?」


「………ちょっと、お話しようか?」

 

その後なのはさんに腕をがっちりと掴まれて、

人気の無さそうな何処かへと引きずられていくアスカを僕は黙って見送った。

助けを求められた気もしないでもないけど、僕だって我が身が可愛いのだ。

なのはさんとアスカが向かった先から何回かシュートって声が聞こえたけれど、

僕はそれを意識しない事にした。

うん、世の中は平穏だ。

で、使徒を倒した実績のないエヴァが何で第三東京に集まるのか?

ふと僕の頭にそんな疑問が浮かんだ。

確かにアスカの弐号機は使徒を倒したけれど、それまで碌に戦闘すらした事のないエヴァシリーズだ。

それを一箇所に集める目的が表向きは何にしているのか興味が湧いたのだ。

その真の目的はあのサードインパクトを此処で起こす為だってのは解ってしまっているけど、

それなりの理由無しではドイツ支部から二号機を出させる事もできないはず。

でも僕の頭に浮かんだ疑問に対する答えは簡単だった。

要するに使徒を三度撃退している『白い人型』こと『なのはさん』に対抗する事を考慮してのことらしい。

はっきり言ってなのはさんに逆らう事が無駄だと悟っている僕は、

その日を境にネルフ本部の構造把握(主に脱出経路)に努める事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



『ディバィィン!!バスター!!』

「はいはい、例のヤツね。ったく、おかげでこっちの予算が…」

 

そんなこんなで分裂する使徒は、やっぱりあっさりとやられた。

分裂前になのはさんの一撃で終了ー。

なんなのよ、あれ!とアスカが声を荒げていたけれど、

ネルフ本部の人達にとってみればもはや常識なわけで。

直後、こっそりと耳打ちした僕の言葉に、

アスカが青い顔をしていたのは、自分が何に禁句を言ったのか理解したからだと思う。

このまま自重してくれると助かるな、って思った。

まあ、無理なんだけどね、アスカだし。

でも、この日から僕の脱出計画(ネルフVSなのはさん時用)にアスカが参画することになった。

ちょっとはアスカも成長してるらしくて、人事ながら僕はそれが少し嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「震度1200。耐圧隔壁に亀裂発生」

「壊れたらNERVで弁償します。あと200」

『ディバインバスター…エクステンション!!』

「パターン青、確認と同時に消失しました。観測機も同時に圧壊…」

「弁償…してもらえるんですよね?」

「……上司に相談します」

 

やっぱり一撃で使徒は倒されて…。

ミサトさんは壊れて火口に沈んだ対高圧対高熱仕様の観測機の請求書を持って帰ってきた。

碌に使徒を倒してないネルフの少ない予算からそれは補填される事にはなったらしい。

大口叩いてしまったミサトさんは減給らしいけど、

僕らにしてみれば、シンクロテストの回数が減る事になったのは嬉しい事だった。

暇が出来たので、皆(といってもアスカと綾波)を誘って遊びにいく事にした。

あ、今の僕と綾波とアスカは結構仲が良い。

僕と綾波は出番の無い味噌っかすパイロット同士で親睦を深めて来たし、

最初は敵愾心むき出しだったアスカも、

なのはさんのアレを目の前にして、色々と考える事があったらしく、僕らの仲間入りをした。

ちなみに、あんまり遠出する訳にもいかないので、街のゲームセンターで遊ぶ事になった。

3人で色々なゲームで遊んだ。

その中には対戦するものもあったけど、結果は聞かないで欲しい。

多分サルのようにプレイしていた経験があるアスカはともかく、

プレイしたことの無いはずの綾波の覚えの良さと反応速度は異常だと思った。

何時かのリベンジを夢見て、こっそりと通おうと思ったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ショートバスター』

 

何故か今回も起きた停電の中、やっぱりやって来た使徒は、

なのはさんの高速飛行による接近&近距離射撃でその活動を停止した。

停電中だったし、監視網がなかったからね。

とは、使徒を撃破したなのはさんの談。

戦闘機動とは言え全力で飛べたからだろうか、機嫌良さそうになのはさんは語ってくれた。

何でも本国のミッドチルダではそうして飛行する事に中々許可が出なくて、本当に久しぶりだったらしい。

で、既にネルフでは『白い人型のアレ』としてはマーキングされているなのはさんだが、

ネルフの調査能力ではその正体を暴くまでには至ってない。

まあバレた所で、なのはさんを実力で拘束するなんて事は、

エヴァが三機がかりでも不可能だと、僕は思うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『撃ち抜け、雷神!!』

 

多分だけど、そんな掛け声と供に、衛星軌道上から落下してきた使徒は真っ二つに切り裂かれ、

地上3000mぐらいの地点で自爆した。

『白い人型のアレ』に引き続きの登場となる『黒い人型のアレ』が、

始めてネルフの観測網に引っかかった瞬間でもある。

もちろんネルフとしては動揺しまくりだった。

これまで以上にエヴァの出番が無くなる事請け合いだからだ。

なるほどそうですか、フェイトさんも来てたんですか。

なのはさんの応援なのかな?

僕としてはなのはさん一人で十分に対処できる相手ばかりだと思ったけど、何か在るのかもしれない。

まあ、ミッドチルダ在住中に魔導師として落ちこぼれの烙印を押された僕だし、

きっと良く解らない色々な事情が在るんだろう、と思った。

全部が終わったら、なのはさんに聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シグマユニットの汚染止まりません」

「物理的に隔離しろ!!」

『ディバインバスター…エクステンション!!!』

「な!?…22枚ある特殊装甲板を一撃で!?」

 

めっきり回数が減ったシンクロテスト中、綾波が動かしている模擬体を汚染した使徒は、

上空1000mからのなのはさんの砲撃の前に塵へと還った。

なのはさんの砲撃はネルフの防衛の要でもある装甲板をいとも容易く貫き、

本部のシグマユニットに巣食っていた使徒へと直撃した。

それをもってネルフはますます混乱の一途辿るばかり。

なにせ、何時自分達の上に砲撃が降って来てもおかしくない状況なのだから。

上級幹部の会議で『白い人型のアレ』に降伏するべきだという案まで出る始末。

その場は総司令である父さんが抑えたらしいけれど、

対処法が無いのも確かな事で、今回はかろうじてその主張を退けたという程度だったらしい。

なのはさんと敵対状態になった時には、是非、父さん達に頑張って抵抗してもらいたいと思った。

その間に僕はこれまでに計画してきた逃走経路で逃げるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『遠き地にて、闇に沈め。デアボリック・エミッション』

 

ゼブラ模様の球体を持つ使徒は、生じた大いなる闇に飲まれ二度と浮かび上がる事は無かった。

この使徒をどうやって倒したのか覚えてない僕だけれど、

エヴァのコックピットの中でその攻撃の有効範囲に正直ビビっていた。

やっぱりというか、はやてさんもこっちに来たんですね。

三役揃い踏みな状態に僕は首を傾げざるを得ない。

ひょっとして、仕事じゃなくてこっちに遊びに着たんじゃないかな?とか考えてしまう。

世界は多様で色々あるけれど、なのはさん達の世界に極似した世界というのも珍しいからだ。

色々忙しい3人ではあるし、ゆっくりしてもらえば良いと思う。

まあ、僕は一介のパイロットだから、おもてなしなんて出来ないけれどね。

あ、本部に来た時のお土産には、ネルフ饅頭がオススメです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「参号機、コントロール効きません」

「パターン青を検出、使徒です」

『ディバィィン!!バスター!!』

「参号機及びパターン青消失しました…」

 

という風に参号機を乗っ取った使徒はさっくりと殲滅された。

あたし達の出番がないじゃないの!とアスカは憤るけれど、

僕は楽が出来て良いな、とか思っていた。

あ、ちなみに、今回も参号機のパイロットはトウジだった。

参号機は消失したけれど、参号機用の装甲板とかエントリープラグは全くの無傷で、

お見舞いに行ったらトウジもぴんぴんしていた。

検査入院ということらしい。

けど、話に寄ると砲撃された時は物凄く痛かったそうだ。

それを喰らった事のある僕もアスカもトウジに同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特殊装甲板、一撃で17枚突破されました」

「なら、アレよりもまだましという事よ。エヴァ各機、発進急がせて!」

『アクセルシューター、シュート!』

『疾風迅雷!!』

「パターン青、消失しました…」

 

なのはさんの誘導弾で足止めをして、その隙にフェイトさんが使徒を十字に切り裂いて殲滅した。

二人にしてみれば造作も無いようなモノでも、ネルフにとってして見れば驚愕に値する事だった。

一番の問題となったのが『白い人型のアレ』と『黒い人型のアレ』がそれぞれ別存在であり、

尚且つ連携を取った事なのだそうだ。

それはつまり、片方への敵対が白と黒のアレ両方との敵対となる事に他ならないからだ。

しかも、ゼブラ模様の使徒の時に居た『白い人型のアレの亜種』とも連携を取る公算が高く、

色々な計画が見直しになったらしい。

無駄だからやめておけば?とは思ったけど、

それを口すると僕の逃亡計画に支障をきたすので黙っていた。

やっぱり信じて努力する事は、大事だからね。

…叶わぬ夢もあるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「衛星軌道上にて使徒を発見。

 衛星からのミサイル攻撃後、なんらかの光学兵器の直撃を受け、使徒は消滅…」

 

発令所で見ることになった使徒はオレンジ色でなんだかアレだったけれど、

その使徒に止めを刺した攻撃方法には見覚えがあった。

時空管理局が保有する戦艦の特殊装備、アルカンシェル。

発動地点を中心に、百数十キロメートル範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲、

というとんでも無い兵器だ。

しかもアレが持ち出されるという事は、時空管理局がかなりの力をこの世界に割いているという事だ。

一体何がそうさせるのか、僕にはまるで見当がつかないでいた。

多分だけれど、全てが終わってからじゃないと、なのはさんは語ってくれなさそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これです、パターン青とオレンジを繰り返しています。マギは判断を保留しています」

「これが使徒以外に何だって言うのよ。エヴァ各機、発進準備を!」

『来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ…フレース!ヴェルグ!!』

 

ネルフの区分では『白い人型のアレの亜種』となっているはやてさんの遠距離広域魔法を受けた使徒は、

何も残す事無く消滅した。

相変わらずの射程の長さと効果範囲の大きさに、ネルフの人たちも言葉を失っていた。

計測した数値によると、アレだけの広範囲をアレだけの威力で飽和攻撃するのに必要な力は、

N2爆弾に換算して100発以上になるそうだ。

その事実に管理局の戦力の対費用効率を改めて考えて、あそこの異常さを再認識した僕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歌は良いねぇ、そうは思わないかい?碇シンジ君?」

 

そろそろかな?何て思ってたら、

例の如く綾波とアスカと一緒に遊びに街へ向かった所でフラグが立った次第で。

前回も含めて面識のないアスカがいぶかしむ中、

僕は管理局から貸与されている黒い宝石の様なデバイスをポケットから取り出した。

 

「イブリース」

 

デバイスを展開し、杖のように変形したソレを地面に突き立てる。

魔導師としては落ちこぼれの僕が得意とする二つのうちの一つの魔法、

つまり結界を展開する魔法の行使だった。

ミッドチルダ式とベルカ式の魔方陣が僕の足元で周り、

それに対応する結界をそれぞれ重なる様に展開していく。

カヲル君やアスカはもちろん、綾波ですら驚きに目を見開いた様子をみせる。

街中なのに人気のない空間が形成された事に、不安を隠せない様子のアスカはやっぱり常識人だと思った。

というか、全くそういう事を気にしない綾波やカヲル君はやはり違うという事なんだろうけど。

そして僕の張った結界に外部からの侵入を確認した次の瞬間。

目の前のカヲル君を光の帯が縛り付けていく。

 

「く!?」

 

不意打ち気味だったソレを、カヲル君は回避する事が出来なくてあっさりと拘束されてしまう。

そしてカヲル君を拘束したであろう、なのはさん達が現れた。

3人とも既に戦闘準備は整えているらしく、バリアジャケットを身に纏っていた。

 

「ご苦労様、シンジ君」


「いえいえ、大した事してませんから」

 

僕と軽い挨拶を交わしたなのはさんは、

手にしたレイジングハートを真っ直ぐに身動きの取れないカヲル君へと向けた。

レイジングハートは既にエクシードモードを起動済み。

後はなのはさんの意のままに砲撃をするだけなのだろう。

 

「エクセリオンバスター…」

 

レイジングハートがカートリッジをロードし、そこに込められた魔力を本体に蓄積し砲撃準備に入る。

ミッドチルダ式の環状魔法陣がレイジングハートを取り巻き、その先端部分には徐々に光が収束していく。

 

「ブレイクシュート!!」

 

そして放たれたなのはさんの砲撃は、身動きの取れないカヲル君を飲み込んだ。

刹那の間ではなく、数秒にも及んで砲撃は続き、カヲル君は骨すら残らないんじゃないかって僕には思えた。

おそらくだけど、そんななのはさんの姿を始めて見たであろう綾波とアスカは、

驚きのあまりにか言葉を失って、ただその砲撃の様子を見ていることしか出来ていなかった。

まあ、何も出来ないっていう点では僕も同じなのだけれど。

そうしてなのはさんの砲撃が終り、地面に出来たクレーターの中央には今だカヲル君の姿があった。

もちろん着ていた服はズタボロで、意識を保っている様子もない。

特に出血してるようにも見えないし、胸が上下している様子からすると死んではいないみたいだ。

仕方が無いけど、一応ネルフ本部に連れて行くべきなのかな?

そんな疑問を持ち、僕は肩を竦めて動かないカヲルへと一歩踏みだして、膝から崩れて地面に手を着いた。

一体、何が起こったんだろう?

目が回り、歪む視界の中、何とか立ち上がる僕。

けれど、過程を得ないで僕は唐突に理解していた。

僕は再び目覚めたのだと。

 

「そこの女の子二人、直ぐにシンジ君から離れて!」

 

なのはさんの声が響く。

僕はそれを当たり前の事だと理解していた。

だって目覚めてしまった僕は、とても危険な存在に成り上がってしまったから。

そして僕はこの身に宿る衝動に突き動かされるように、ディラックの海を展開し、

ネルフ本部に在るエヴァンゲリオン初号機を呼び寄せる。

幸いにも僕の異常を悟ったアスカが綾波を連れて逃げてくれたおかげで、

二人を展開したディラックの海に飲み込む愚は犯さずに済んだ。

初号機はエントリープラグを排出し、ATフィールドを応用しそこへと僕は昇っていく。

慣れた手順でプラグの中に入り初号機とシンクロを始める。

シークエンスを消化し、意識が初号機と重なって初めて外部の様子を認識し始めた。

そしてその時には既に初号機を幾つもの光の帯が締め上げて、雁字搦めに拘束していた。

言うまでも無く、なのはさん達が展開したバインドだろう。

そして目に写るのは中空に浮かんだ、なのはさんとフェイトさん、そしてはやてさんが、

各々に攻撃魔法を展開しつつ、その矛先が僕を向いているであろうという状況だった。

自らが陥っていた危機的状況に反射的にATフィールドを多重展開する。

 

「「「トリプル…ブレイカー!!!」」」

 

3人から発射された攻撃魔法は僕の展開したATフィールドを確実にぶち破り、

エヴァのコックピットに座った僕へと迫る。

一番頑強に張ったはずの最後のATフィールドすらあっけなく破られ、僕は光の渦に飲み込まれいく。

全身を奔る形容しがたい痛みに意識を刈り取れらながら、そう言えば防御魔法使うの忘れてたなあと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……知らない天井だ。

ゴメン、嘘。

気を失ってから、改めて僕が目にしたのは、割と見覚えのある天井だった。

真っ白で色の無いこの部屋は、ネルフの管理する病院にある病室のはず。

ふと視線を横に向けると、椅子に座り本を読んでいる綾波の姿。

おはようと声をかけて返って来たのは、もう昼よ、という言葉。

苦笑いする僕だったけれど、本を置き立ち上った綾波からの言葉に表情を引き締める。

何が起こったのか知りたい?という問い掛けに僕はただ頷いた。

そして綾波の口から語られた話の内容が、急転直下の展開だったのには言葉を失うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、初号機の残骸と供にネルフ本部へと移送された僕が、

こうして目を覚ますまでに三日間の時間が経過していた。

まずもって僕が倒れたあの直後から事態は動き出していた。

正確には、僕がディラックの海を通じて初号機を取り寄せた処から事態は始まっていた。

ケージに固定されていた初号機が消えた異常を、ネルフの頭脳であるMAGIが見逃すはずは無かった。

それが使徒の仕業である可能性も考慮し、ネルフ本部は警戒態勢へ移行。

さらに拙い事に僕が張ったATフィールドをMAGIが感知し、使徒からの侵攻が在ったものと断定。

市民の人達の避難も碌に終わらない内に、迎撃都市へとその姿を変えた。

まあ、その中心部では既に初号機がただのガラクタにまで破壊されていたりと、

はっきり言って意味は無かったけれど。

気絶していた僕も含めてエヴァのパイロット達にも招集がかかるけれど、

気絶した僕とカヲル君というお荷物を抱えたアスカ達は動く事が出来ないでいた。

 

「事件は司令部で起きてるんじゃない!現場で起きてるのよ!!」

 

司令部から携帯へとにかく早く来いと指示を飛ばすミサトさんに、

アスカは怒り心頭でそう怒鳴り返したそうだ。

あーそう言えばアスカがこの前そんな刑事ドラマを見てたっけ。

というか綾波もよくアスカの言った事なんて覚えていると思う。

やっぱり綾波も頭が良いよね。

それは置いておいて、次に動き出したのは、なのはさん達だった。

地上の200mぐらいの高度で3人固まって陣取って何かしていた後に、

ネルフ本部へ向けて砲撃を一発撃ち込んだそうだ。

狙われたのはなんとネルフ総司令である、父さんだった。

そして父さんも僕と同じ様に寝込む事となり、隣の部屋で入院中らしい。

今の所目を覚ます気配がないらしいけど、なのはさんの砲撃を喰らったんなら無理もないと思う。

で、同じ砲撃を喰らった仲間であるカヲル君もやはり入院しており、こっちは2時間前に目を覚ましたとの事だ。

さすがにまだベッド上から動けないそうだけど。

で、父さんを砲撃したなのはさんたちが次に行ったのは、ネルフ本部に対する降伏勧告だった。

これに対して父さんに次ぐ立場の副指令はエヴァ零号機と弐号機を出撃させる事で応え、

あっさりとなのはさん達に返り打ちにあったそうだ。

保有する最大戦力を、いとも簡単に撃破されたネルフは降伏勧告を受け入れ、

第三東京都市の市民達の安全と引き換えに、なのはさん達の指揮下に入ることになったらしい。

それから3時間後、国連からの通達があり、

ネルフ本部にその権限を剥奪する旨の示達、及び、なのはさん達の引渡しの要求があった。

結果、ネルフ本部及びなのはさん達と、国連側との交渉は決裂する事になった。

 

「……ちょっと、頭、冷やそっか」

 

交渉決裂の直後、転移魔法で国連の議場へと跳んだなのはさんが議会の説得を行い、

本部内のMAGIからのリークさせた情報やら実力やらで議会を黙らせる事に成功。

暫定的とは言え国連と旧ネルフ本部との諍いは即座に解決される事になったらしい。

だがソレをもってしても事態は収まらず、

戦略自衛隊の侵攻、そして白い空飛ぶエヴァシリーズの襲来があったらしい。

両方とも、なのはさんやフェイトさんは言うに及ばず、

はやてさんやその騎士達によって、2時間ほどで鎮圧されたとのこと。

AMF状況下でもなければ、

携行型の質量兵器じゃバリアジャケットって抜けないし、当たり前のことなんだけどね。

それ以前に封印かかってない今のなのはさんなら、

無意識下で張ってるフィールドでアンチマテリアルライフルぐらいは防ぐんじゃないかな?

まあ、それはともかく、その戦闘が終わったのがおよそ5時間前。

僕が寝ている間に色々と起こったものだと感心していた。

コンコン。

とそこでドアをノックする音が響く。

どうぞ、と応える僕の言葉を受けてドアが開き、そこから顔を覗かせたのはなのはさんだった。

「あ、もう目が覚めたんだ、良かったね」

「ええ、おかげさまで、で良いんですかね?」

「んーどうかな?」

苦笑するなのはさんに向けて、僕は今回の真相を話してくれるようにお願いする。

もちろん、同席する綾波に気が付かれないように念話でだった。

「いいけど、レイちゃんもそれなりに事情は解ってるから一緒にね」

と返って来たのは少し予想外の言葉。

いいよね?と念話で聞かれ、ええお願いします、と僕も念話で答える。

綾波がはたして何処まで事情を知っているかは良く解らないけれど、

なのはさんがそう言うのなら僕に異存はない。

「これなで起こった一連の使徒との闘いは、とあるロストロギアに拠るものなの」

そう前置きしてなのはさんは、あくまで管理局側の見解だけれど、という注釈をつけて語りだした。

曰く、『The One』という転生型の、しかもレジェンド級のロストロギアが今回の事件の核であったそうだ。

融合型のロストロギアであるソレは、融合した宿主に多大なる力を与えると供に、

その宿主が行動不能になるとその宿主の力を根こそぎ奪いつつも、

次の宿主の体内へ跳ぶという特性をもつらしい。

そして幾つか段階を得て力を得たそれは、時が来るとその身に秘めている術式を展開し、

その周辺の全ての生命をも取り込んで起爆剤とし、生命としての階位を上げて進化するシロモノらしい。

そうして存在のあり方すら変わる事で、階位を上げる事となった生物は荒唐無稽なほどに莫大な力を得るのだ。

自分の意思で時を遡った僕の様に。

今回の『The One』は初期に設定された規模が小さく、一つの惑星程度でしかなかったが、

断片的な記録で確認できる過去事例によると、銀河を一つ丸々飲み込んでしまった例もあるらしい。

そういった危険なロストロギアだからこそ、管理局も本腰を上げて取り組んでいたとのことだ。

僕がなのはさんに保護された段階ではそんな話はまるでなかったけれど、

僕の監察官であるなのはさんがこの世界に来た時に異常に気がつき、

そして本局へ緊急応援を頼んでいたという話だった。

なのはさんが気が付いた一番の異常は、時の流れだった。

あの駅での再会は僕にとっては約10年ぶり再会だったけれど、

なのはさんにとっては1ヶ月ぶりのものだったらしい。

渡されたデバイスを僕が持っていたからこそ解ったけれど、

そうでなければ僕を認識できなかっただろう、とはなのはさんの弁。

そもそもが時を遡るという異常な例である僕。

そして僕が居る世界が歪な形で時を刻むという事を、なのはさんは直感的に危険視したらしい。

それ故に使徒との戦いにも積極的に関与してきたという話だった。

そして僕に向けたトリプルブレイカーと、父さんに向けたディバインバスターで、

対で存在する『The One』を破壊し、その危険性を取り除いたという次第だ。

問題が何もない訳じゃなく、結果的に『The One』を二回もその身に宿す事になった僕は、

やはり管理局の監視下に入らなければならないとの事だ。

「ごめんね、騙まし討ちするような事になっちゃって」

となのはさんは謝るけれど、まるで僕は気にしてないどころか、

逆に使徒戦では大いに助けてもらった事に恩義を感じているぐらいで。

いえ、むしろこっちがすいませんでした。

とベッド上でなのはさんにぼくが謝って…。

そうして互いにぺこぺこしてる様子に、綾波は少し困った顔をしていたのが印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから管理局が下した決定は、ネルフ等のエヴァ関連の技術を全て封印するというものだった。

データは全て破棄、そして希望する研究者等は全て本国であるミッドチルダに移送し、

そこで研究等を続けても良い事になった。

魔法技術が発達しているミッドチルダで、この世界の技術がどこまで通用するかは甚だ疑問だったけれど。

そして、移住希望者以外の者には厳重に記憶操作をするという徹底ぶりだった。

そうした処分に不満を持つものも少なからず居たのだけれど…。

まあ、なのはさんとかフェイトさんとかはやてさんとかが『説得』して回ったら何とかなったらしい。

頑なな相手と話すことは大変だから、きっと色々な方法で語り合ったんだと僕は思う。

砲撃とか斬撃とか、色々な方法で。

そして僕もおよそ一月後には、再びミッドチルダの土を踏むことになった。

前回と違い裁判の様なものはなく、監視下におかれる期間が2年ほどだと本局で告げられた後に、

僕の観察官をしてくれる人の元へと向かう。

 

「「「おかえりなさい、シンジ君」」」

 

そうして僕は、以前と変わらず、なのはさん達に迎えられることになった。

ただ、ヴィヴィオ姉さんには、

シンジちゃんばっかり一人で大きくなってズルイ!

と駄々を捏ねられしまい、

それから1ヶ月間ヴィヴィオ姉さんのオヤツを作る事で許して貰ったのは些細な話なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2年後、観察期間が終わった僕は正式に魔導師への道を歩み出すことになる。

士官学校への入学が決まったのだ。

ロストロギアを2回も身に宿すことで得た魔力は規格外のものであるし、

レアスキルのATフィールド持ちであるのも優位に働いた。

なにより、今度同じく士官学校に進むヴィヴィオ姉さんの面倒を見てやって、

となのはさんとフェイトさんに頼まれてもいる。

もちろん、二人の言葉が無くても大切な家族であるヴィヴィオ姉さんを守るのは、僕にとって当然の事だけど。

まあ、問題は、なのはさんやフェイトさん、そしてはやてさんから教えを受けた事に加えて、

その素質を持って将来的にかなりの高ランクに手が届くヴィヴィオ姉さんに比べ、

出来具合がかなりに歪な僕は、如何考えても高ランクには到底手が届かない事だろう。

 

「まあ、大丈夫だよ。ヴィヴィオの方が偉くなったらシンジ君も引き上げてもらえるし」


「逆にランクが高すぎると、同じ部隊に入れなかったりするから…」

 

心配する僕に、なのはさんとフェイトさんはそんな言葉をかけてくれた。

というか、それって僕が高ランクになれないの前提の話だし…。

まあ、二人がそう思うのも無理は無い事も確かで。

これほど長く教えたコも初めてだけど、これほど上達しないコも初めてだよ。

と、僕の攻撃魔法の才能の無さを、なのはさんに呆れられる位なのだ。

まあ出発前に落ち込む事実を確認した僕だったけれど、ヴィヴィオ姉さんに呼ばれて玄関まで急ぐ。

すでに靴にまで履き替えたヴィヴィオ姉さんのプレッシャーに押され、僕も慌てて靴に履き替える。

ハンカチとかを改めてチェック、うん、準備はOKだ。

入校式に備えて制服姿になった僕とヴィヴィオ姉さんを、なのはさんとフェイトさんが玄関で見送ってくれる。

「「行ってきます」」

「「行ってらっしゃい」」

出発の言葉と見送りの言葉が交わされて、僕らは歩き出す。

こうして暖かい家族に見送られ、僕はまた新たな一歩を踏み出したのだった。

その後入る事になった男子寮のあまりのむさ苦しさに、

なのはさんの家での、ぷちハーレム状態を思い、僕が激しく後悔したのはまた別の話だ。

 

 

 

終わる


あとがき

無印からstsまでのなのはさんの勇姿を見て、カッとなって書いた。

後悔はしていない。



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