※このSSはご都合主義をモットーに書かれています。

※設定や時代背景が原作と合致しない事がありますが、ご都合主義なので華麗にスルーです。

※それでも良いという方だけ先にお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

超ご都合主義な話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八神はやてという女の子が居ました。

下半身が悪く麻痺している為、いつも車椅子で生活するその女の子は

既に他界した両親が残してくれた家に、一人で住んでいました。

女の子には親戚の後見人が居ましたが、

その人が女の子の家を訪れる事はほとんどなく、

何時も家に一人きりでした。

他の人が見れば女の子の境遇を不幸だと嘆くかもしれません。

確かに恵まれてはいるものの、胸を張って幸福だとは言えない。

自分の置かれた状況を、女の子自身そう思っていました。

そして女の子が迎える事になった、6月4日の9歳の誕生日。

その日に、女の子は自分の人生の大きな転機期を迎えました。

それは幸福の始まりであり、不幸の始まりでもある筈でした。

その日に女の子が得たのは、何より大切なものとなる四人の家族でした。

家族の名前は、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。

正確に言えばその四人は闇の書というデバイスの守護騎士で、女の子はそのデバイスの主。

ですが、女の子にはそんな事は関係在りませんでした。

最初に出会った時こそ、その衝撃的な登場方法に目を回して気を失ってしまった女の子でしたが、

すぐに4人の事を認め、騎士と主としてではなく同じ家に生活す家族として受け入れます。

四人の騎士は戸惑いながらも、主と騎士として、それよりも家族として女の子と仲好く暮らしはじめました。

以前よりも賑やかに日常に女の子の表情も明るくなり、自然な笑顔を見せることが多くなりました。

何時までも続くかに思えた楽しい日々。

そんな生活に陰が差し始めます。

女の子が四人と出会う前から悪かった下半身の症状が少しずつ酷くなっていったからです。

原因は全くもって不明で、神様にでも縋るしか治る見込みが無い。

長期に歴り女の子を診てきた病院の医師は、

無力を嘆く辛そうな表情で、女の子の家族であるシャマルに語ります。

そしてシャマルは気が付いてしまいました。

自分たちが、正確にはデバイスである闇の書が、女の子の病気の原因なのだと。

四人の騎士達は女の子には話せずに悩みます。

ずっと一緒に居て欲しい。

それこそが女の子が一番に四人に願った事であり、

だからこそ、自分たちが消えてしまうという選択を騎士達にさせなかったからです。

そして騎士達のリーダーであるシグナムは一つの決断を下します。

主である女の子から禁止された蒐集行為を行ない、

デバイスである闇の書を完全なものにする事で女の子を助ける、と。

他人に迷惑をかける事は禁止や。

蒐集行為はそんな女の子の言葉に対する自身の誓いを破る事であり、

また犯罪行為でもあったのですが、シグナムはそれを行なうと決めてしまいました。

ですが四人の騎士達による蒐集行為は、

神にでも縋るしかない、とまで言われた女の子の下半身の痲痺が、

あっさりと治ってしまった為、結局行なわれる事はありませんでした

そんな風に、女の子があっさりと治ってしまった理由は、とても簡単な事でした。

女の子の居る世界には、本物の神様が居たからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



「蒐集を始める前にはやての為にやっておきたい事がある。

 何も聞かずに2週間でいいから時間をくれ」

 

蒐集の開始を決めた烈火の将シグナムの言葉に対し、鉄槌の騎士ヴィータはそう提言した。

無論シグナムは眉を寄せ良い顔をしなかったが、決意を込めたヴィータの眼差しに折れ、

他の二人の同意を得た後に、蒐集の開始を遅らせる事になった。

その二人こと同じ騎士であるシャマルとザフィーラは、

ヴィータのその言葉に同意を示しつつも少々驚いていた。

シグナムの決定に一義的にとは言え反した事と、

明確に何をすると言わずに自分の意見を通した事にだった。

だが、並々ならぬその決意を汲み二人はヴィータの行動に賛同したのだ。

そして、その翌日の夕食後。

ヴィータは主であるはやてに一人で遠くに出かけると言い、八神家を後にしようとした。

無論、はやては夜中にヴィータが出かける事を良しとしなかった。

何処に何をしに行くのか?シグナムやシャマルと一緒に行かないのは何故か?と。

その問いかけにヴィータは黙って俯き何も語ろうとはしなかった。

頑なヴィータの態度に、はやてはため息を吐き、ヴィータに顔をあげさせて真剣に問いかける。

 

「なあ、ヴィータ、それは大事な事なんやな?」


「うん。あたしにとっては凄く大事な事なんだ。だから…」

 

はやてとじっと目を合わせ多くは語らずに答えるヴィータ。

しばらくそうしていた二人だったが、はやてが再び軽くため息を吐く事でその緊張はとける。

 

「そっか、ならええ。そのかわり、すぐに帰られへんならに必ず連絡入れるんやで?」


「はやて…」

 

そう言って笑みを見せるはやてにヴィータが抱きついた。

抱きついてきたヴィータの頭をはやては何も言わずに親しみを込めて撫でる。

やがてヴィータは頭を上げてはやてから離れ、もう一度はやてと正面から向き合った。

 

「んじゃ、行ってくるよ、はやて」


「行ってらっしゃい」

 

軽い笑みを見せて告げるヴィータをはやてもまた笑顔で送り出す。

玄関へと向かいはやてに背を向けるヴィータ。

その表情は引き締まり、その瞳には並々ならぬ決意が窺える。

そうして玄関を出て騎士甲冑を身に纏ったヴィータに声をかけたのは、

外でヴィータの出立を待っていたシグナムだった。

 

「行くのか?」


「ああ」


「一人で大丈夫か?」


「子ども扱いすんなよ。あたしは鉄槌の騎士ヴィータだぜ?」

 

シグナムの言葉に簡潔に答え、軽い笑みすら覗かせるヴィータ。

 

「…違いない。で、お前が何をするつもりなのかは、教えてもらえないのだな?」


「……」

 

少し咎めるようなシグナムの問いには何も答えずに、ヴィータはふわりと宙に浮かび上がる。

 

「…大した事じゃねーよ。唯の神頼み、ってやつさ」

 

そう云い残し一気に加速し飛び去るヴィータ。

シグナムはそのヴィータの答えにただ首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィータはひたすら西へ西へと向かい飛んでいた。

向かう先は瀬戸内にある日之出町という町だった。

とある女性に会う事が目的なのだが、

ヴィータは彼女の家を知らなかった為、彼女が通っている学校で彼女を待つことにしていた。

夜通し飛んだおかげもあり、ヴィータは日の昇る頃には目的の学校に着くことが出来た。

登校する学生など皆無な時間ではあったが、

ヴィータはグラーフアイゼンを両手で地に突き、校門の前に仁王立ちになり彼女をじっと待つ。

赤を基調とした騎士甲冑を纏ったままで立つその姿は、異様に目立つものであったが、

ヴィータはあえてそうしていた。

彼女への連絡方法などを調べたが、結局ヴィータには解らずじまいだったし、

目立とうが奇異の視線に露されようが、何としても彼女に会う必要が在ったからだ。

そうしてヴィータが待ち始めて1時間もすると、早めに登校する学生たちが姿を見せるようになる。

真っ赤な騎士甲冑の物珍しさからか、遠巻きに囲まれる事になったヴィータだったが、

出勤してきた教師の一人がヴィータに理由を訊ね、皆でヴィータの答を聞くとそぞろに解散していた。

教師からは彼女を待っている旨が書かれた一枚の厚紙を渡され、

それを見える様に掲げて端に寄っている様に言われたのみで、

特に咎められずに済んだのはヴィータにも予想外だった。

そして何よりヴィータにとって意外だったのは、彼女は寝坊でギリギリの登校も多いと聞きいた事だ。

そんな彼女を頼って良いものかと頭を抱えたくなったヴィータが、待つこと更に1時間。

話の通りに彼女はギリギリの時間で登校してきた。

その姿はヴィータに遠くからも良く解った。

何と言うか彼女がキラキラと光り輝いていたからだ。

そして彼女が校門で待つヴィータのすぐ近くまで来た時、

ヴィータはグラーフアイゼンを起動前の状態に戻し彼女に駆け寄った。

 

「アンタ、―――――サンだよな?」


「は、はい、そうですけど…」

 

外見の年の割には鋭い目をしたヴィータの問いに、少々怯えながら彼女は答える。

そしてヴィータは普段の彼女からは考えられない行動を取る。

地面に正座をしてそのまま彼女に向けて頭を下げた。

騎士の誇りも何もかなぐり捨てた土下座だった。

 

「頼む、主を、はやてを助けてくれ。

 あたしがこうすること自体が、あんた達にとってはルール違反なのかもしれねえ。

 でも、あたしじゃ、医者もさじを投げたはやての身体をどうする事も出来ねぇんだ。

 けど、アンタのその力ならはやてを治せるかもしれねぇ。

 だから、頼む。はやてを助けてくれ」

 

地面に額を擦りつけるようにして、ヴィータは彼女に頼み込む。

ヴィータがこうして一人で此処に来たのも、

この場に他の騎士達が居たら自分と同じ土下座を強要する事になると思ってのことだ。

他力本願そのものであり、自ら誇りを捨てるような真似をするのは自分だけで十分だ。

そんな思いと供に、祈るような気持ちのこもったヴィータの土下座を受けた彼女。

これまでにあまりそう云った事をされたことが無いのか、

傍目にも解るくらいにかなり驚き、そして戸惑っていた。

 

「と、とにかく、お話は聞きますから、あ、頭をあげてください。お願いします」

 

と言いながらヴィータに向かって同じ様に土下座してしまうくらい混乱していたのだ。

そうして、二人してぺこぺこと頭を下げあうという異様な姿が、

予鈴が校舎から響いてくるまで続くことになる。

そんな奇妙な光景が鉄槌の騎士ヴィータと、神様で中学生であるゆりえ様の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィータがゆりえ様を訊ねた週の日曜日。

中間試験明けと言う事もあり、ゆりえ様はヴィータとの約束どおりに八神の家を訊ねていた。

この訪問に一番驚きそして狂喜乱舞したのははやてだった。

一応はヴィータからはやて宛ての客が来ることは聞いていたようだが、

神様が訊ねてくるとは当然予想だにしなかった様だ。

 

「え?お客様って、ひょっとして、ゆりえ様なん?えーと見間違いやそっくりさんやあらへんよな?

 だとしたらこれ夢なん?って抓ったら痛い…。ってことはホンマにゆりえ様?え?なんで?

 なんで家にゆりえ様が?と、とと、とにかくおもてなしせなあかん。

 シグナム、ちょっと翠屋までひとっ走りしてや。

 あそこのシュークリームが今日のお茶請けや。マッハで頼むで。

 シャマル、一番いい葉のお茶…は私が淹れるさかい、 お茶の葉の準備とやかんで湯を沸かしといてな。

 それ以外の余計な事はせんように。絶対やで?ヴィータは居間のテーブルの辺の片付けや。

 散乱ってる雑誌をまとめてラックに入れといて。 あとテレビも切っといて。

 ザフィーラは…あーまあ、特に無いな。あ、でもゆりえ様に粗相したらあかんで。

 あ、すんません、ゆりえ様、お待たせしました。玄関で立ち話もなんですし、こちらへどうぞ」

 

と多少の混乱の後に矢継ぎ早にシグナム達に指示を出し、

そして自らはゆりえ様を居間へと案内しようとした。

 

「そ、それじゃあ、お邪魔します」

 

前半の混乱はともかく、後半のあまりにもてきぱきとしたはやての様子に驚きながらも、

ゆりえ様ははやてに促されるままに八神の家に上がり込む事になる。

バリアフリー化されているのが物珍しいのか、

それとも自分や友人たちの家とは違うほぼ洋風な作りが珍しいのか、

ゆりえ様はキョロキョロとしながら、はやてに促されるままに居間へと移動した。

 

「今、お茶を淹れてくるさかい、ちーと待っとってください」

 

ゆりえ様にソファーをすすめ、はやてはそう言ってキッチンへと行ってしまう。

その場に残されたヴィータにゆりえ様が話しかける。

 

「ねえ、ヴィータちゃん。私が来るって言ってなかったの?」


「あーうん、お客が来るとは言っておいたんだ。

 はやての予想とは違ったって事だと思う。はやてはあたしの友達が来ると思ったみたいで…」

 

と、頬をかきながら少々バツの悪そうな表情で答えるヴィータ。

そっか、と軽くゆりえ様は納得して胸を撫で下ろす。

約束とは言え急に訪ねたのは迷惑だったのかな?

はやての対応から、そんな事を考えたからだ。

 

「ヴィータちゃん、はやてちゃんとのお話は済んだ?それともやっぱり私からしようか?」


「ゆりえサン、いやゆりえ様にそこまでしてもらう訳にはいかねぇ。

 はやてとちゃんと話をする事はやっぱりあたし達のやるべき事だと思う。

 はやてに喝られるのが解ってるから、正直話しにくい事だけど、

 悪いのは、はやての意思に反して勝手しようとしたあたし達だ」

 

ヴィータは心配そうに訊ねてくるゆりえ様の視線を受け止めつつきっぱりとそう答えた。

そんなヴィータに頬笑みを向け、えらいえらいとその頭を撫でるゆりえ様。

照れたようにそっぽを向くヴィータ。

そこにはやてが戻ってきた。

 

「お、ゆりえ様に頭撫でてもらうなんて・・・。

 なんや御利益がありそうな事してもらっとるな、ヴィータ。

 ごっつ頭良くなりそうやん」


「そ、それはどうかなー」

 

そんなはやての言葉に思い切り視線を逸らすゆりえ様。

というのもゆりえ様自身、学校での成績は良くなかったからだ。

今週の中間テストでもその結果は惨たん足るものが容易に予想できるものであったし、

テストの総合順位もどちらかと言えば下から数えた方が早かった。

ゆりえ様曰く、神様のお仕事が忙しくて…、との事だったが、

その成績はゆりえ様が神様になる前と変わっていなかったりする。

不審な態度のゆりえ様を不思議に思ったのか、

皆の前にお茶を淹れた湯飲みを配りながらはやてが疑問を口にする。

 

「ゆりえ様って頭良いんとちゃうん?」


「え、えーと、わ、私はほら、学問の神様じゃないし…。

 だから、その、学校の成績とかもあんまり良くなかったり…」

 

もじもじと少し恥ずかしそうに答えるゆりえ様。

へー意外やなーと感想を抱きながらもふと思いついた事を口にするはやて

 

「ということは、ゆりえ様、学校に行っとるんか。そっか、神様にも学校ってあるんやなー」


「あ、そうじゃないよ。私が行ってるのは普通の中学校なの」

 

なにか勘違いをしたはやてに、ゆりえ様は慌てて説明する。

確かにゆりえ様は神無月には普段とは違う出雲の中学校に通うことになるが、

その学校とてあくまで普通の学校なのだ。

まあその学校では際立って神様扱いされるので、去年はあまり馴染めずじまいだったが…。

 

「そうなん?てっきり神様専用の学校があるもんやと…。

 でも、学校かー。通信教育はやっとるけど、私はこんなんやから、学校に行った事あらへんのよ。

 だからどんなとこか、想像がつかへん」


「大丈夫だよ、はやてちゃん。

 はやてちゃんもそのうちちゃんと学校に行けるようになるよ。

 その為に、私は今日此処に来たんだもの」

すこし寂しげな笑みを見せたはやての手を取り、ゆりえ様はそう断言する。

 

「え?それどういうことなん?」


「主はやて、そのことで皆と一緒に話をしたい」

 

ゆりえ様に聞き返したはやての言葉に、割り込む様にして答えたのはヴィータだった。

何時も見せていた笑みを消し、じっと真剣は表情ではやてを見つめるヴィータ。

はやては最近何か様子がおかしいと感じていたヴィータのその態度に、軽くため息を吐く。

 

「この前の続きの真面目な話なんやな?

 なら、シグナムが戻ってくるまで、お茶でも飲んでゆっくり待とか。

 その間にゆりえ様に学校の話を聞かせて欲しいんやけど?」

 

そう言って自らがお茶を淹れた湯飲みを手に取るはやて。

ゆりえ様は軽く頷いて、自分が通った小学校の事について話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シグナムが翠屋から戻り居間に全員が集まったところで、ヴィータは隠していた全てを語りだした。

はやての病状の原因が闇の書にある事、

自分たちがはやてに内密に蒐集行為をしようとしていた事、

そして自分は何かがひっかかりそれに納得がいかず、

偶然雑誌を見て知ったゆりえ様に助けを求めた事を。

更にヴィータは自分を睨みつけているシグナムへと視線を向けこう付け加えた。

 

「シグナム、アンタは、いやあたし達は判断を間違えてたんだ。

 色々聞いて考えて、ようやくその結論に行き着いた。

 だから、アンタの決定に逆らってこうした事を、あたしは謝らない」


「ヴィータ、貴様…」

 

そのヴィータの言葉にシグナムは彼女を睨みつける視線を一層強くした。

剣呑な空気が漂う中、ヴィータはじっとシグナムの視線を受け止めてゆっくりと語りだす。

 

「そもそも、蒐集で闇の書を完成さて、その後の事は考えてたのか?

 正直、あたし達のするリンカーコアの蒐集行為に、賛同する魔導師なんかは皆無だ。

 結局、戦闘の果てに力ずくでリンカーコアを奪う事になる。

 そうやって何十人ものリンカーコアを蒐集した結果闇の書が完成すれば、

 当然あたし達がやった行為をはやても知る事になる。

 そうしたら自分が知らないでいた事とは言え、はやてはあたし達の行為に責任を感じるに決まってる。

 そしてあたし達の行為のツケが、主であるはやてに向くだろうって事も想像に堅く無い。

 はやて自身が望んでも居ない、しかもあたし達が勝手に犯した罪を、結局はやてが背負う事になるんだ。

 そんなのは、あたしは嫌だ」

 

ヴィータを鋭い眼光で射抜きながらその言葉を聞いていたシグナムは、

変わらぬ視線のままにヴィータに問いかける。

 

「確かに貴様の言う事は正論だろう。

 だが、事は緊急を要するのも事実だ。

 お前は、主はやての命が危険に露されても良いというのか?」


「そうは言ってねぇ。

 蒐集行為をやるにせよ、はやてに全部話して、はやてに望まれてからやるべきだって言ってんだよ。

 主の命の為だっていう誤魔化しで、あたし達の自己満足の為に動くのは間違ってる。

 はやての人生は、はやてのもんだ。

 例えその選択があたし達にとって辛いものになろうと、あたし達はそれを受け入れるべきなんだ。

 主の為に力を尽くせない自分の無力さに、血涙を流しながら歯噛みする結果になっても、だ」

 

シグナムを逆に射抜き返すように視線を返し、断固たる決意と供に答えを返すヴィータ。

 

「…ヴィータ、お前…」

 

シグナムはヴィータの考えが自分よりも深い処にある事を知り、それ以上の追求をする事ができない。

 

「この話はそこまでや。私の判定やけど、この件はシグナムの負けでヴィータの勝ちやな。

 問題はこのままやと私が命が危ないって事で、

 それを何とかする為に、こうしてゆりえ様に来てもろうたんやな。

 ようやく納得がいったわ」

 

ヴィータ達の諍いにそう結論を出し、大きく頷いて納得するはやて。

主であるはやてにそう言われてしまった以上、シグナムにこれ以上の言を重ねる事は出来なかった。

そしてこの決着に一番安堵していたのはゆりえ様だった。

争いごとが嫌いな性格であるし、その原因の一端が自分にあると在っては尚更だった。

 

「え、えっと、とにかくそんな訳で、私ははやてちゃんを治しにココに来ました。

 正直、私がはやてちゃんを治せるのかは解りません。

 けど、安心してください。

 神様協会の会長さんにはお願いしてきましたから、

 私がダメでも別の神様がはやてちゃんを治してくれます。

 どーんと、宝船にでも乗ったつもりで居てください」

「「おおー」」

 

薄い胸をトンと叩き、皆に告げるゆりえ様。感嘆の声を上げたのははやてとヴィータのみだった。

というか、残る三人はゆりえ様の事を良く知らなかったのだ。

だから、安心しきった様子のはやてに薦められるがままに、

翠屋のシュークリームにかぶりつくゆりえ様をまじまじと見てしまうのも無理は無かった。

そしてシュクリームについてあれこれ言い合う二人を横目に、

守護獣であるザフィーラがこそこそとヴィータに話しかける。

 

「ヴィータ、結局あの少女は何者なのだ?

 魔導師という訳でも無いだろうし、普通の人間でも無い事は解るのだが…」


「何者って、ゆりえ様は神様だよ」

 

ザフィーラの問いに、そんなことも知らないのかとやや呆れ顔で答えるヴィータ。

 

「神様って、あの所謂神様のこと?」


「馬鹿な、信じられん。ただの子供にしか見えんぞ」


「なる程、合点がいった。あの輝き正には神々しいというものなのだな」

 

そうやって三者三様に答える三人。

が、ヴィータの答えに納得したのはザフィーラだけだったようだ。

 

「やっぱその形態だとそうやって見えるんだな。

 今のあたしには普通の子にしか見えねぇんだけど、戦闘モードだと何故か見え方が違うんだよな。

 あっちで会ったもう一人の神様なんて、戦闘モードでも輪郭しか見えねかったし…。

 きっとチャンネルとか何かが違うんだろうな」

 

そう一人でウンウン頷くヴィータ。

だろうな、と同意したのはザフィーラのみで、シグナムとシャマルはやはりピンと来ていなかった。

そうこうしている内にも、ゆりえ様はシュークリームを食べ終わり、

いよいよはやての治療に入る事になった。

治療といっても医者のそれとは違い、

ゆりえ様の神通力で如何にかしてはやてを治してしまうというものだ。

かなりアバウトのものであるのには違いなく、特別にはやて達が準備をする必要はなかった。

逆に準備が必要だったのはゆりえ様の方で、

お腹のあたりに大きく神と書かれている衣装に着替えていた。

ゆりえ様ははやてに闇の書を持たせ、その背後にシグナム達を列ばせると、静かに目を閉じた。

満ちる静寂にはやて達の間にも緊張が走る。

そしてゆりえ様が目を見開き、力強く祝詞の様に謳いあげる。

 

「かーみーちゅー!」

 

ゆりえ様の身体から光が濫れ、はやて達に降り注がれる。

一番に顕著な反応をしめしたのは、はやての膝の上に置かれていた闇の書だった。

中空に浮かび上がると同時に、凄まじい勢いで頁が捲られて行く。

ほんの数秒で書の全ての頁が捲られ終わり、開かれていた本は閉じられる。

そして書が一層大きく煌き、そこから産み落とされる二つの人型。

同時ヴルケンリッター達は差し込むような頭痛を感じ皆が膝をついてしまう。

徐々に光が収まり闇の書がはやての膝の上に戻ったとき、

はやてが目にしたのはゆっくりと倒れいくゆりえ様の姿だった。

 

「ヴィータ!」

 

はやての声に応え、かなりの長さにまで髪を伸ばしたゆりえ様に駆け寄り、

その身体を何とか支える事に成功したヴィータ。

シャマルが同じ様にゆりえ様に元に急ぎ、

ヴィータと協力して気を失ってしまったゆりえ様の身体をソファーへと丁寧に横たえる。

そしてシグナムとザフィーラは、現れた二つの人型からはやてを守るように間に割って入っていた。

髪の色が銀と黒、体格がシグナムとヴィータ並にと違うが、

まるで双生児のように同じ顔を持つ二人は、立ち塞がる二人に騎士達を間に挟んだまま、

主であるはやてに向けて片膝をついた。

 

「お初にお目にかかる。

 私は闇の書、いや、夜天の魔道書の管制人格をしていたモノだ。

 ヴォルケンリッター同様、主はやてに仕えるものでもある。以後お見知りおきを」

 

そう告げてじっと主の言葉を待つ二人だったが、はやてにその余裕は無かった。

ゆりえ様は倒れるは、見知らぬ相手にはいきなり傅かれるはで、やや混乱だったからだ。

そんなはやてに代わり、シグナムが彼女を問い詰める。

 

「何故お前が外に出ているのだ。書が完成しない限りお前が外に出ることはないはず」


「解らんのか、シグナム?

 書の666ページが、蒐集した魔力ではなく神の奇跡によって全て満たされた事が。

 私は勿論、お前たちにもその影響は出ているはずだが?」

 

逆に問い返されたシグナムは答えに詰まった。

確かに先ほどの大きな頭痛の後、まるで封印が解けたように様々な事を思い出していたからだ。

そして二人のやり取りを聞いていたはやてが、そこで口をはさむ。

 

「つまり、あんたらも私の身内って事で良いんやな?

 なら悪いけど、あんたらの事は後回しや。まずは、ゆりえ様の方が心配やからな」

 

そう云い残し、ソファーに寝かされているゆりえ様の方へと車椅子を向けるはやて。

そしてザフィーラもはやての後に続く。

ただ、その場に残ったシグナムがけが、未だ片膝を付いたままで居る二人に鋭い視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆりえ様から事前に色々聞いていたヴィータ説明により、

力の使いすぎでゆりえ様が眠ってしまっただけだと解ったはやては、

ほっとする反面、幾分かの申し訳なさを感じてた。

まさか倒れてしまうほどの大事になるとはおもっていなかったからだ。

実際、その甲斐あってか、今迄殆ど感じる事の無かった足の感覚が戻っているように思える。

とにかく明日病院の石田先生に診て貰おう。

そう結論を出し、取りあえず自分の身体の事を棚上げする事にした。

そして残る問題は新たに現れた二人の事に絞られた。

取りあえずはやて、は居間にいる二人から色々と話を聞くことにした。

話していたのは管制人格だった方ではあったが、それなりに話し込み、

はやては今の状況をおぼろげながら理解していた。

 

「まあ、まとめると、闇の書は本当の名前と違うくて、あの本の本当の名前は夜天の魔道書。

 そして闇の書言われてたアレには色々と問題があって、

 その辺のややこしいのをばーんとゆりえ様が解決して正しく夜天の書に戻したと。

 そんでその影響で、あんたらは無害化されて、夜天の魔道書から弾き出されたって事で良いんやな?」


「はい、その通りです、主はやて」

 

能面のように内側をのぞかせない表情で答えながらも頷く元管制人格と、

その横で眠そうな半分閉じたような眼のまま、こくこくと頷いている元防御プログラム。

 

「付け加えれば、私の代わりに新たな管制人格が書の中に生まれております。

 主がその者を育て無い限り、真に夜天の魔道書の力を発揮するのは難しい状況になっております。

 主の許可を頂ければ、一応の代行は私でも可能ですが、かなりの制限があるかと」


「まあ、その辺は後で考えれば良い事やし、私も大して気にしてへん事やな。

 それよりも重要なんは、今後は二人とも私の家族になってもらうって事や。

 これは主としての至上命令や、拒否権はないで?」

 

元管制人格の言葉をあっさりと流し、その上で自分の家族になるようにと告げるはやて。

書の中から主の人となりをある程度知っていたとは言え、

目の前で実際にはやてにそう言われた二人は少々面喰らっていた。

 

「よろしいのですか?我々のようにかつて主に害悪を為したものを家族にしてしまっても?」


「かまへんよ。それに今は別に悪さはせぇへんのやろ?

 もし今度悪さをするようやったら、家族である私達が叱り飛ばしてやらなあかんしな。

 ま、あそこで睨んどる様なごっつう怖いお姉さん達もおるさかい、そうそう悪さなんて出来へんやろうしな」

 

チラリとシグナムに視線を飛ばしながら、語るはやて。

その言葉どおりにじっと二人を睨んでいたシグナムだったが、

はやてのその視線に気がつき慌てて視線を外す。

鷹揚に頷いて見せれば良かったのだが、お姉さんと呼ばれて照れくさかった様だ。

 

「そう云う訳で、これから家族や。えーと、そういや名前は聞いてへんかったな…」

 

我ながらちょっと舞い上がとったみたいやな、とバツが悪そうに頬をかくはやて。

が、返ってきた答えははやての予想外のものだった

 

「我々には個体を表す名前がありません。よろしければ主に付けていただきたいのですが…」

「うっ、そう来たか…」

元管制人格に名前を付けるように求められ、唸り声を上げてしまうはやて。

だが、即座に彼女等の名を思いついたのかにんまりと笑みを見せる。

 

「ほな管制人格やっとったアンタはリーンフォース。

 そして防御プログラムやっとったんはボエや。

 あーちなみに由来は聞いたらあかんねん。

 現在な、何かが私の頭の中に降りて来てな…。

 おおっと、これ以上は言われへん。色々と問題が起きるさかいな」

 

言いかけて、慌てて口を噤むはやて。

無論、名を付けられた二人にしてみれば、主それ以上追求するつもりなどあるはずも無かった。

ただ主から貰った名を大切なものとして受け入れたのだ。

そして、はやてにその名を呼ばれる事で家族になった事を認識していった。

その時から、八神の家にはリーンフォースとボエという新たな二人が加わる事になった。

その後、眠ってしまったままのゆりえ様を誰が自宅まで送るのかで、

何故か騎士達の間で多少もめる事になったりもしたが、

主であるはやては、特にその諍いを止めもせずに見守っていたという。

結局、はやてはこの出来事を笑顔で終えることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の話。

身体を悪くしていた原因が取り除かれた事で、

女の子の足は徐々に思い通りに動くようになっていきます。

筋力の衰えを克服する為のリハビリは結構大変でしたが、

女の子は泣き言一つ言わず一生懸命頑張りました。

家族の支えがあったので、女の子は頑張れたのです。

この出来事で得た女の子の新しい家族は、

四人の騎士達以上の常識知らずで、色々と問題を起こしたりするのですが、

それすらも、女の子には楽しいイベントにしか思えませんでした。

その後も、色々な出来事が女の子とその家族には待ち受けていましたが、

皆で助け合い、最後には何時も皆で笑顔になりました。

こうして一人ぼっちだった八神はやてという女の子は、

本物の神様のおかげで、本物の幸せを手に入れたのでした。

めでたし、めでたし。

 

 


あとがき

シルフェニア、4周年おめでとう!

ということで、幸せな話を書こうと思い、

はやてが問答無用で幸せになる話を書きました。

楽しんでいただけたなら幸いです。

ではまた。



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