Fate/stay nitro 第八話

作者 くま

 

 


「シロウ」

 

瞳を潤ませ彼の名を呼ぶ彼女。

二人っきりになった後、互いに緊張していた時間を何とかやり過ごし、

今は士郎の部屋で、いわゆるそのアレな雰囲気になっている二人。

士郎は彼女の肩にそっと手を置き抱き寄せる。

 

「本当に夢じゃないんだよな」


「ええ、夢ではありません」

 

互いの存在を確かめる様に抱き合う士郎とセイバー。

 

「セイバー…」


「いえ、今、この時の私は貴方を愛しいと思うただの女です。

 ですからセイバーではなく、アルトリアと、そう呼んで欲しい」

 

士郎の囁きに答えるセイバーことアルトリア。

 

「ああ、解ったよ。

 でも、そう呼ぶにはもうしばらくかかりそうだ」


「ええ、全くです」

 

残念そうな士郎の言葉に、ため息混じりに答えるセイバー。

アレな雰囲気の二人だったが、それを邪魔するものが在ったのだ。

窓越しにも伝わって来る轟々という航空機のエンジン音。

最初は小さかったその音が接近しているかの様に大きく響いて来たのだ。

そして窓からは月明かりとは違う照明による光が差し込んで来たとなれば尚更だった。

 

「セイバー、行こう」


「行きましょう、シロウ」

 

そう頷き合った二人は、外の状況を確認する為に立ちあがったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでさ」

 

中庭に出た士郎はその視界に映る光景に、口癖ともいえる言葉をつぶやいた。

隣に立つセイバーは厳しい視線を、轟々とペガサスエンジンを吹かしながら、

ゆっくりと下降するその物体というかハリアーに向けている。

 

「なんでさ」

 

復座式になっている操縦席の後の方に座る知り合いの姿を、

キャノピー越しに見つけた士郎の口から再び零れる言葉。

そんな士郎の心中など知らぬとばかりに、

後部のパイロットシートの少女ことイリアは士郎に向け大きく手を振っていた。

そうこうしている内に、復座式のハリヤーは衛宮邸の中庭に着陸手順を終えていた。

エンジンの回転数が落ち停止に向う中、ゆっくりとキャノピーが開いてゆく。

キャノピーが完全に開くのを待ちきれなかったイリアは、ハリヤーに近寄ってきた士郎目掛け飛び降りた。

 

「ただいまー、シロー!」

 

決して低いとは言えない高さからのダイブに、

士郎は慌てて両手を差し出し、イリアの小さな身体を受け止める。

日頃の鍛練の成果か、倒れることなくこらえることが出来た士郎の首に、

イリアはその両手を回しぎゅっと抱きついた。

前回の聖杯戦争時ならイリアのそういった行動を咎めていたはすのセイバーなのだが、

今はただハリアーの操縦席に座る女性を警戒と共に注視しており、それどころではなかった。

 

「とりあえず、おかえり、イリア。

 でも、こういう風に帰ってくるのは今回だけにして欲しいと思うぞ」

 

受け止めたイリアを下に降ろしながらの士郎の言葉。

 

「なんで?

 シロウが心配だったから、急いで帰ってきたのに」

 

むーと頬を膨らませその言葉に答えるイリア。

 

「なんででもだ。

 俺を心配してくれるのはありがたいけれど、危ないだろ色々と」

 

膨れるイリアを宥める言葉を士郎は口にする。

 

「イリアスフィール、確認しますが、今日は戦う意志は無いのですね?」

 

視線をハリアーの操縦席に向けたままイリアに訊ねるセイバー。

鎧こそ魔力で編み上げていないが、その視線は鋭さを保ったままだ。

 

「別にそんなつもり無いわ。

 セイバーがどうしても戦いたいって言うんなら、戦っても良いけど」

 

士郎に抱きついたままセイバーを挑発する様に言葉を並べるイリア。

セイバーが士郎達の方にチラリと視線を移すと、

ニヤリと不敵な笑みを浮かべるイリアを抱いている士郎がそれはダメだと視線で告げていた。

 

「わかりました、貴女のその言葉、信じましょう」

 

ため息交じりでセイバーがそう告げ、士郎がとりあえず戦いを避ける事が出来たとホッと胸を撫で下ろす。

そして、いい加減に疲れてきたのか、受け止めていたイリアの身体をそっと地面に降ろした。

 

「それとシロウ、後で道場の方へ。

 少しお話ししておきたい事があります」

 

そして続けられたセイバーの言葉に、サーと顔色を無くす士郎。

鈍いといわれる士郎ではあったが、自分の危機というものに対するカンは随分と鋭くなっていた。

第五回の聖杯戦争以降、以前に比べて随分と親しい間柄となった

『ついんてーるの彼女』のおかげ、というか所為である。

それでも何でセイバーが怒っているのか理解できてないあたりが、朴念仁と言われる所以でもある。

 

「ふーん」

 

そのセイバー達の様子を見ていたイリアから漏れるつぶやき。

 

「セイバー、嫉妬はみっとも無いわよ。

 ひょっとして、そういう時を邪魔しちゃったのかしら?」

 

とニヤリ笑いを浮かべたまま、イリアは更にそう続けたのだった。

 

「な、何の言うのです、いりあすふぃーる。私達は決してやましい事など」


「そ、そうだぞ、イリア、俺はセイバーにまだ何にもして無いからな」

 

語るに落ちたというか、顔を赤くしての二人の慌てぶりは、逆にイリアにとっても予想外の事だった。

士郎はともかくセイバーまで慌てているものだから、

いかにも何かあったのだとイリアが思い込むには十分な状況だった。

 

「ずるーい、私とはしない癖にセイバーばっかり。

 でも、セイバーとは一回終ったんだから、今度は私の番でも構わないわね。

 そうね、私とシローはしばらくご休憩してるから、セイバーは見張りでもしてて」

 

一瞬むっとなったイリアだったが、直ぐに気を取りなおし、そう提案してくる。

士郎に対しては、もうダメだなんて言わせないわよ、と言外に含みを持たせたまま。

 

「ば、な、何いってるんだよ、イリア。

 どっからそんな知識を、

 って虎か?虎の所為なのか?」


「だ、ダメです、イリアスフィール。

 そ、そんなことは認められません。

 私だってその、今回は、まだ…」

 

告げられたイリアの言葉にやたらと困惑する士郎。

そして言ってて自分で恥ずかしくなったのか、徐々に声をすぼめて行くセイバー。

 

「問答無用よ。

 バーサーカー、やっちゃって」

 

そんな煮え切らない二人の様子にイリアは、

今しがたハリアーから降りたバーサーカーことキャルに向ってそう命じる。

命令を聞いたのか、キャルは大きくアクビをしながらだるそうに士郎たちの所へ歩いてくる。

セイバーが士郎を庇う様に立ち塞がる中、

キャルは心底かったるそうに己のマスターにもう一度確認を取る。

 

「ホントにやんの、イリア?」


「いいからやっちゃって」

 

キャルの問いかけに即答するイリア。

士郎とセイバーに緊張が走る中、キャルは行動を開始した。


ドスッ


士郎たちには目もくれず、己のマスターの後に回り込むと、その首筋に手刀を落とすキャル。

その一撃で意識を刈り取られてイリアは崩れ、その襟首を掴む形でキャルがその身体を支えた。

 

「寝床どこ?」

 

唖然とする士郎たちを他所に、気絶したイリアを軽々と肩に担ぎ上げ、問いかけてくるキャル。

くわわと、いかにも眠いんですとばかりの大あくび付だった。

 

「客室ならあっちだけど…

 って、そうじゃなくて、何でイリアを?」

 

士郎は予想外のキャルの行動に対する疑問をストレートにぶつけた。

一瞬、士郎と同じ様に唖然としたセイバーだったが、

キャルへと向ける視線を更に強めることになった。

敵であるマスターとサーヴァントを前にして、躊躇無く己のマスターの意識を刈り取ったこと。

その裏にある真意が士郎の人柄を瞬時に見ぬいての行動だとすれば、

バーサーカーとは名ばかりの搦め手も使える相手であるということだからだ。

 

「んー、面倒くさかったから」

 

が、そんなセイバーの思惑を打ち消す様に、考える素振も見せずにそう答えるキャル。

やはりその答は予想の範囲外だったのか、訊ねた士郎もまた思考を硬直させてしまった。

セイバーはその言葉の真偽を即座に判断出来ずに考え込んでしまう。

そしてキャルは肩からずり落ちそうになったイリアをもう一度抱えなおすと、士郎たちに背を向けた。

 

「じゃ、お休み」

 

イリアを支えてないほうの手を背面越しに振りながら歩き出すキャル。

 

「え、ああ、お休み」

 

思考停止していた士郎はキャルの背を見送りながらそう答えるのがやっとだったし、

セイバーはセイバーで、キャルの真意を計りかね思考の海に沈んだままであった。

その後、士郎が夜風にくしゃみをするまで二人は中庭に取り残されることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は夢を見ていた。

■す為に生かされていた少女の夢。

生きるものを■し、

生きたいと願うものを■し、

生きようとあがくものをも■し、

己の心まで■してしまった少女の夢。

 

だが少女にも転機が訪れる。

 

たった一人の存在、

少女に救いの手を差し伸べた、

彼と出会ったからだ。

色々在ったが彼のおかげで、

少女は■してしまった心を取り戻した。

これからは二人で生きて行く。

彼のその言葉を信じた少女は、

確かに幸福を感じていた。

だが幸福も長くは続かなかった。

少女が他の誰かにしてきたように、

彼が■されたのだ。

そして己の全てと言えた彼を■された少女は、

流浪の果てにその仇を■し、

最後には自分まで■してしまった。

ただ、その生き方があまりにも哀しくて、

彼女は眠りながら涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、サクラ?」

 

そんな声とともに肩を揺すられた桜は、ゆっくりだが目を覚まして行く。

次第にクリアになって行く視界に映る一人の少女顔。

昨日から桜と行動を共にする事になったエレンの顔だ。

 

「泣いてるわ、辛い夢でも見たの?」

 

濡れている桜の頬をハンカチでぬぐいながら、エレンが桜に問いかけてくる。

桜はされるがままになりながら、優しい笑みを自分へと向けてくるエレンをじっと見つめ返した。

 

「大丈夫?」

 

というエレンの問いかけに上半身を起こし、『大丈夫です』と大きく頷いて答える桜。

その様子に安心したエレンは、桜が着替えるのを察し、リビングに居ると言い残し部屋から出ようとする。

 

「貴方の夢を見ました」

 

ドアノブに手をかけたその背に向けて桜は語りかける。

予想もしなかった突然の言葉にエレンは思わず立ち止まってしまう。

 

「………」

 

それ以上言葉を続けられなくなった桜にそっとため息を漏らし、

エレンはゆっくりと桜の方を振りかえる。

そして桜に向けて言葉を紡ぎだす。

 

「私は、多分、幸せだったわ」


「!?」

 

エレン口から発せられた信じられないような言葉に桜は戸惑った。

あんな終り方をした人生で何が幸せなのか、桜には理解できなかったのだ。

 

「あの人の為に生きて、あの人の為に死ねたのよ。

 無意味であったはずの私の死にも、意味が出来た。

 だから、私は幸せだった」

 

疑問に思う桜の目をじっと見つめ、エレンは迷い無く言いきった。

本心からエレンがそう言っているのだと理解した桜だが、その言葉に共感は出来なかった。

『あきらめ』と言う言葉には馴染み深い桜でも、そこまで達観しているわけではなかったのだ。

 

「でもね、桜には私みたいな人生を送って欲しくは無いわ」

 

首をふりながらそう続けるのはエレンだった。

 

「どうしてですか!?

 貴方は幸せだったって言ったじゃ無いですか!」

 

当然、納得のいかない桜はそう食ってかかる。

エレンは苦笑でそれを受け止め、在らぬ方を向きながら桜に対する応えを口にした。

 

「幸せだったというのは本当よ。

 でも、結局、私の行動は自己満足でしかなかったわ。

 あの人はそれを喜んでくれなかったもの。

 逆にあの人に本気で怒られたのよ、死んでからだけどね。

 だから、私みたいな生き方はおすすめ出来ないわ。

 こんな風に思えるのも、一度死んでしまって、英霊なんてやってるからでしょうけどね」

 

やはり最後は自虐的に苦笑を漏らし、桜に応えるエレン。

そこまでで話は終ったとばかりにドアを開け、桜の自室から出て行ってしまった。


パタン


桜はそんなエレンに声をかけられず、閉まったドアを見つめることしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウ、あのバーサーカーについてどう思いますか?」

 

キャルたちが客間に向った後、士郎の部屋に再び戻った二人。

先ほどから考え込んでいたセイバーは士郎にそんな疑問を投げかける。

 

「正直、前回のバーサーカーの印象が強過ぎて、

 イリアの連れていた彼女が、本当にバーサーカーなのかって感じだ。

 俺とも普通に会話してたし、靴を脱いで母屋に上がった所なんて、とても狂戦士とは思えなかった」

 

士郎はイリアを肩に担いだキャルの行動を思い浮かべながら、セイバーの問いに答える。

士郎の言葉の通り、キャルは士郎宅に上がり込む時にブーツを脱いで揃えてから客間に向っていた。

それはバーサーカーと言う言葉からはかけ離れた行動だと、士郎で無くともそう思うのが当たり前かもしれない。

 

「…そうですか。

 シロウもやはり、何かおかしいと感じていたようで、少し安心しました。

 私はしばらくその違和感について考えてみますから、シロウはもう休んでください。

 それと、前回からも言っていたことですが、サーヴァントである私に休息は不要ですから」

 

きっぱりとそう告げるセイバーに、先ほどまでの続きを、とは言い出せなくなった士郎。

だが、またこうして一緒にいられるだけでも幸福なのだと思い直し、今日はとりあえず休む事にした。

 

「わかったよ、セイバー。

 でもあんまり無理はするなよ。じゃあ、お休み」


「はい、お休みなさい」

 

敷いてあった布団に潜り込む士郎に答え、

セイバーはもまた士郎の睡眠を邪魔することの無いように、

前回の時もそうであったように隣の部屋へと移動したのだった。

聖杯戦争の兆しから始まりイリアの突然の帰宅まで、

色々在ったが1日だったが、衛宮家の夜はこうして深けていった。

 

 


あとがき

というわけで、随分と間が空きましたが、舞台が完全に冬木市に移った第八話でした。

本家のFate関連では、ファンディスク発売とか、アニメ化とか色々と動きがあるようですね。

ファンディスクはともかく、アニメ化の方は桜ルートが存在するのか疑問ですね。

えっちーのもそうですが、ばりばりと食してしまうのがダメっぽいですし…。

ともあれ、今回はこの辺で、ではまた。



感想

今回はシロウとセイバーのお話でしたねえ〜

この調子だとシロウもハーレムを作りそう!(爆)

さて、ヴァーサーカーのキャル、理性が残っている事もちょっと不思議ですが、

主人に手を上げることが出来るのは何か理由があるんでしょうね〜

イリヤが元気なのは見ていて清々しいです!

ま あ、確かに少し不思議ではありますが、キャルさんもエレンさんもいわゆる洗脳を経験した人ですし。

そういうのには特別強いのではないでしょうか?


確かにね、でも洗脳と言うよりは存在の制限だと思うんだけど…

う〜ん、そうなんでしょうか…でも 今回はいつもと違っているそうですし。

だね、まあその辺にも色々と手が加えられていると見るのが自然かもね。

そうですね、この先三人のファント ムがそろうとどうなるのか楽しみにしています♪

そうかもね〜、でも私は個人的に西博士を応援させてもらうよ(爆)

確かに、キ印同志馬があうでしょう ね、♪

ぶっ、んな分けないだろ!!

ああ、そうでしたね貴方と同格ではDr、ウエストがかわいそうです。

………

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