BLUE AND BLUE

 第0話

作者 くま










「ラピス、今まで済まなかった。
そして、ありがとう。

 俺の最後の願いだ。お前は、お前だけは人として生き、幸せになれ」

私の目の前でこの人(アキト)は そう言ってほとんど視力のない目を閉じた。

そしてもう二度とその目を開くことはないだろう。

この人(アキト)と 繋がっている私には、

この人(アキト)の 命が今にも尽きようとしているのが手に取るように解る。

この人(アキト)が 思う以上に、実情における私とこの人(アキト)の 繋がりは深い。

この人(アキト)が 外界の情報を得るためのセンサーとして、

この人(アキト)が 手足を動かす為のバランサーとして、

この人(アキト)と 共にあった私にはその情報を余すことなく理解できていた。

この人(アキト)の 全てのデータが死へと向かって動き

そしてもう二度と、回復の方向にそのベクトルが向かないことを。

この人(アキト)の 残り時間を必死に引き延ばしながら、

この人(アキト)の データをただひたすら自分に溜め込んでいく私。

他人とは違い遺伝子レヴェルで強化されたナノマシンとの適合性と、

幾種類もの自分の中に打ち込まれたナノマシンをフル活動させながら。

急速に蓄積されるこの人(アキト)の 一生というデータの所為で、

目の前が暗くなりそうなぐらいの頭痛が私を襲っても、

私はただひたすらにそれをし続けた。

そして何時しか、この人(アキト)の 身体はその全ての生命活動を停止させた。

そして私は何かに突き動かされるように泣いた。

与えられる痛みによってでもなく、

その痛みに対する恐怖によってでもなく、

ただ、

己の内からこぼれ出る『それ』に流されるがままに、

わんわんと声を上げ、

ただ、

ただ、

泣いた。

私の内からあふれ出たその何かが、

『悲しみ』と呼ばれる感情であることは、随分と後で知った。



























事の起こりはボソンジャンプだった。

何時ものようにユーチャリスの前に現れたナデシコ。

何時ものように出てきた機動兵器の相手をする為に、

何時ものようにユーチャリスから出撃するあの人(アキト)

何時ものようにあの人(アキト)に だけ向けて話すホシノ=ルリを無視して、

何時ものようにあの人(アキト)は 機動兵器を無力化した。

何時ものように私はユーチャリスを後退させる為に、

何時ものポゾンジャンプのシークエンスに入る。

何時もと違ったのはその時からだった。

突如現れたもう一機の機動兵器が、

あの人(アキト)で はなくこちらへとその牙を剥いた。

私は即座に反応し、ジャンプシークエンスを強制解除。

ユーチャリスを最大防御状態へとシフトさせる。

ディストーションフィールドを多重展開した防御壁も、

コンマ何秒の遅れで間に合わず

機動兵器の一撃がユーチャリスの本体を穿つ。

同時に展開しているディストーションブロックのおかげで、

ユーチャリスが受けたダメージは,

操船に影響するほど大きなものにはならなかった。

ただその一撃を受けた場所が

ユーチャリスにとっては、タイミング的に最悪の場所だった。

そこはジャンプ用の制御装置が組み込まれている場所だったからだ。

ユーチャリスには当然予備のそれもあるし、

普段なら被弾したところで何ら影響を受けることがないそこは、

直前までジャンプシークエンスを進め、

その為のエネルギーを貯めていた直後の今は、

最も被害を受けてはいけな場所だった。

ユーチャリスのオペレーションシステムAIのオモイカネ『トゥリア』が、

ジャンプ用のフィールードが展開され、

強制ジャンプの危険性が高まっていることを警告してくる。

他の全てをトゥリアに任せ、

私はボソンジャンプの制御に自分の全てを割り振った。

どこをどう破壊されたのか、

まるで定まらないジャンプ先の座標とジャンプ突入のタイミングを、

力任せに何とかねじ伏せ、ぎりぎりの所で抑えることに成功する。

これで後はジャンプの解除シークエンスを実行し、

内部に溜め込んだエネルギーを開放すれば、何の問題もないはずだった。



「ラピス!」


突如、ブリッジのオペレーターシートに座る私の前に、単身で跳んで来たあの人(ア キト)

台詞と共に私の身体を己の懐へと抱き寄せた。

そして襲いくる激しい振動。

巨人がユーチャリスを掴み、シェイクしているのではと疑うほどだった。

私はいきなりの衝撃の原因を突き止めるべく、

トゥリアに呼びかけるも、返ってくるのは沈黙ばかり。

まさか、あの短時間でオトされた!?



「ナデシコの体当たりだ。まったく無茶をする」


トゥリアに代わり私に答えるのはあの人(アキト)

苦笑を浮かべるその顔に、私の内にある何かが軋む。

そしてトゥリアを通さないけたたましい警告音がブリッジに響く。

衝突の衝撃でジャンプ制御装置が再び暴走状態に入った所為だった。



「クソッ、最悪だな。

 俺が直接制御するしかないのか…。

 ラピス、フォローを頼む」



本当は嫌だと言いたかった。

ジャンプの制御はあの人(アキト)に 負担をかける。

ましてや暴走をしているものを、

無理やり制御してみせる負担は、その大きさが計り知れない。



「うん」



けど、私はそれに異を挟めなかった。

私はあの人(アキト)の 目であり耳であり手であり足で。

それが私の全てで、私はあの人(アキト)の 為に生きている道具なのだから。

そして使用者の思うとおりに使えない道具に、存在価値などない。

あの人(アキト)と のリンクのリミッターを解除し、

情報交換量を最大までに拡大、

あの人(アキト)と ジャンプの制御装置を私を通じて繋げる。

あの人(アキト)の 何時も無表情が、ジャンプ制御の負担の所為で大きく歪む。

そして同時に私の中の何かもまた大きく軋んだ。



「ジャンプ」



何時もはただの合図として使っているその言葉で、

あの人(アキト)の 制御下の置かれたユーチャリスはジャンプした。
























そして気が付いた時には全てが手遅れだった。

どこかの荒野の上空に出現することとなったユーチャリスを、

姿勢制御用のスラスターをいくつか潰しながらも地上に降ろし、

二人してユーチャリスごと墜落死することだけは、何とか防ぐことは出 来た。

けれど、地上に着いたその時には、あの人(アキト)の 身体はもう終わっていた。

暴走するジャンプ制御装置を押さえ込んだ負担は、

ただでさえ生き辛いあの人(アキト)の 身体を大きく蝕んだ。

身体の全ての機能がレッドゾーンに突入したままで、

回復の兆しを一切見せない。

あの人(アキト)の 危機的な状況にも関わらず、

私にはその根本的な原因を解消する術が何も無かった。

そして、あの人(アキト)は 最後の言葉を私に残して終り、

私はその亡骸のにしがみつき、

しばらく間、わんわんと泣き続けた。

もちろんその時の私には、

本当の意味での回りの状況など、見えてはいなかった。









続く


あとがき

というわけで、ナデシコの続きものを書き始めてしまいました。

ジャンルとしては、よくある逆行ものに当たるかと思います。

テンプレ的なよくあるストーリーですので、どこかで読んだことのあるようなもの、

になるやも知れませんが、今後も読んでいただければ幸いです。

ではまた。



感想

くまさんのナデシコ物……大作の予感がしますね〜

しかも、一挙三本同時掲載っす!!

相変わらずスゲェ!

ってまあ、兎も角、内容のほうですが。

アキトの死までのラピスとルリの心理描写ですね。

アキトはいつものパターンでランダムジャンプをしたわけですが、やってきたのは火星の荒野……

いつにジャンプアウトしたのか、この先を見ないと夜も眠れないって感じです♪

ふ う、先が出ているのに読まずに感想ですか。

全く律儀なのか
ダレてるだけか、アキトさんと 私のラブがどうなるか気にならないんですか?

まあ、アキトが死んだままなのか、それとも黄色アキトに精神的に乗り移るのか、気になる所だね。

なる ほど、それは確かにアリですね。

しかし、くまさんがそんな安易な戦法を取ってくるのかどうか……

うむ、どうなるんだろうね〜

もしかしたら、黄色アキトとラピスが仲良くなるお話だったりして♪(爆)

そんなの許しません!!

アキトさんと添い遂げるのは私だけです!!!


あっあははははは……

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