BLUE AND BLUE

 第16話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

ユートピアコロニーが表面上陥落してから5ヶ月が経った。

だが、生き残った一割強、約三百五十万人の市民達は、

ユートピアコロニーが襲撃された直後よりも活気付いていた。

住民達の住居などに供される南エリアの開発は順調で、

集合住宅とはいえ、全ての市民に自分の家を供給するまでに至っていた。

そこには他の都市等からの移住組も入っており、

全く諍いがないとは言わないが、今はそれなりに落ち着いた様相を見せている。

そして一部の市民には、個別の住宅も与えられていた。

適当に区切った区画に集合住宅を構成するユニットを設置した

というだけの極簡易な住宅ではあったが、

ユートピアコロニー陥落以降の功績によって与えられるそれは、

一種のステータスシンボルであり、市民達の意欲の原動力の一つにもなっていた。

以前の地位など関係なしに、AIであるトゥリアによって下される、ほぼ平等な評価も相まってのことだろう。

もちろん、元よりユートピアコロニー市民であったか否か、などとは関係無しに下される評価であり、

他の都市等からの移住組の意欲もまた、高めることになっていた。

ユートピアコロニー市民もそうでない移住組も、

それぞれ互いに刺激し合い、競う合うようにその能率を上げていく事になる。

もちろん、それに参加する気がない者も居た。

その多くは、自身の大切な何かを失った者達だった。

いくら市民生活が向上してきたとは言え、

無気力に生きる彼らを、立ち直らせて回れるほどの余力は無かったのだ。

功労者を優遇する反面、相対的にそういった彼らを冷遇することになっていく。

私はその冷遇が行き過ぎにならない様に市長らに忠告をし、

多少緩和されることになった市長らの方針に対し、それでも意を唱える者たちも居た。

彼らは被害者であるのだから、他の者達と同様に取り扱うべきだ、と言うのだ。

が、市民達をまとめている市長達は、その区別をやめることはしなかった。

安定してきたとは言え、今のユートピアコロニーは、非常時に置かれており、

平等よりも効率を重視していたからだ。

 

「結果を出せば、報われる。

 同じ成果に対しては同じだけの報奨が与えられているはずだ。

 それを平等と言わずして、何を平等と言うのかね?」

 

その姿勢を不平等だと批判する集団に向け、市長は堂々とそう答え、

その集団が、あんぐりと口を開けたのは記憶に新しい。

元よりそうやって集まった彼らは、真に心の傷から立ち直れて居ない者でなく、

ただそれに便乗し、労苦無く対価を得ようとした者達だったと、後のトゥリアの調査では明らかになっていた。

心の傷を癒せぬ者は、今だ宛がわれた部屋から出ることにすら、出来てないものが殆どだったのだ。

問題を抱えながらも、全体としては順調に市民活動が拡大していった。

そして、より効率的に動くようになったマンパワーは、私たちから提案 したプランを前倒しにし、

当初の予定よりも1ヶ月早く、西エリアの開発に着手することになった。

そして地固めが半ばまで終わった私もまた、あの女を追い詰めるための行動を開始することになる

地球に構えた事務所に送られている、あの女達の報告。

その報告を受ける為にだけに使っていたボソン通信機を使い、現地の エージェントと連絡を取ることにする。

幾つかの処理を施す為、多少安定性を欠く事になるので、直接映像で話すことは出来ないが、

地球の端末にはトゥリアのコピーが入っており、フレキシブルな対応が出来る用に設定してあった。

トゥリアの老執事を依頼主にし、現地のエージェントが活動を開始する。

彼らは、プロだ。

こちらの素性が多少怪しくとも、その行動に見合った対価が支払われ、

その行動が法に触れ無い(そのように取り繕うことも含め)限り、こちらの指示に従って動くだろう。

地球の側の物価上昇も想定の範囲内であるし、

私が事を起こすまでの間ぐらいななら、持ち込んだ資金でカバーできるだろう。

癪な事では在るが、今後のあの女の対応次第で、こちらの対応も変えていかなければならないだろう。

事態がどう転ぶか解らないが、とりあえず、今できることを為した私は、

地球から送られてくるであろうその報告を、一日千秋の想いで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私があの女に対する手を打ってから、報告が手元に届くまでの間。

私とて、ただ待っている様な事はしなかった。

火星での活動をこれまで通りにこなし、できる範囲ではあるけれど、着実に一歩一歩進んでいった。

その方向が、人として前なのか後ろなのかは、私自身にも解らないが。

市長に提案したプランの内、最後にすることになっていた西エリアの開発は、

東南エリアで生じた余剰人員の投入も相まって、当初の計画の5倍ほどのスピードで進んでいた。

当初のプランでは、地下空間の開発が終了した後に、

生産工場の建設を始める事になっていたのだが、今はほぼそれが同時期 に行われている。

空間の確保が出来たのと同時に、工場の建設(と言っても外側だけだ)が始まり、

次の空間を確保する頃には、工場の建設も終了しているといった次第だ。

最初から西エリアにあったタナカ家の工場を除いても、

計画の半数となる四つの工場が建設済みで、そのうち2つの工場が既に 稼動している。

新たに稼動することになった工場の一つは、現在も稼動しているのと同じエステバリスもどきの製造工場。

ただそこで造られるモノは地下開発に幅広く使われているモノとは少し違った。

継続稼働時間を延ばすことを主にし、万人向けにデチューンされているモノではなく、

今在る改良点などをふまえた上で、戦闘用に再設計されたモノだ。

エステバリスもどきカスタム、といったところか。

流石に、今の技術の数年先をいく私の乗機のエステバリスカスタムには及ばないものの、

この時期の通常のエステバリスを全体的に上回るスペックを、エステバ リスもどきカスタムは有しているだろう。

今はまだ、パイロットが居ないのだが…。

そして、もう一つの稼動している工場では、艦艇の解体作業が行われている。

ユーチャリスと敵対し、こちらからのハッキングで無力化した木星トカゲの戦艦等の解体だ。

火星の風雨に晒され、多少外装に侵食が見られるものの、

内装的にはほとんど支障が無い敵艦船を工場に運び込み、ブロックごと、いや、パーツごとに分解していく。

もちろん、艦船を分解する事によって得られたパーツを、有効に使うためだ。

まだ、西エリアのメインとなるドッグが完成していないので、

今はパーツを積んでいくだけ、という状態ではあったが。

このように計画の工場が全て建設された訳ではなく、西エリアの開発状 況としてはまだまだなのだが、

出入りする市民からは、そこで何が作られているかは当然のように漏れ、

推測が憶測を呼び、市民達の間には、様々な噂が飛び交うようになった。

けれど、私は何も言わずに、ただ建てたプランを実行していくのみだった。

更に一月が経過し、市長が泣きついて来るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その1月後には、西エリアのメインの施設である戦艦用の巨大なドッグが完成していた。

木星トカゲの艦船を解体して用意した部品も搬入され、こちらの最大戦力の構築が始まっている。

それに伴い、飛び交う噂も増え、市民達の間に動揺が走り、

作業中の事故も増える、といった悪影響が出始めた。

この事態を重く見た市長は、市民達に対し西エリアの所有者である私から、

市民達に対して、情報公開をするように求めてきたのだ。

ハード的な面で提案したプランが前倒しになっている以上、そういった事態は予想しえる事でもあった。

地球からの報告結果も上々であったこともあり、かつ丁度良い機会でもあることもあって、

自身の計画を少し早めることを決め、私は市長等の求めに応じることにした。

むろん、ユートピアコロニー市民が一堂に集える場所などはなく、

各家庭に配られている端末を通じて、話をすることになった。

私からの話の結果が、どういった結末を迎える事になっても責任は持たない。

前もって私にそう告げられた市長は、顔を引きつらせていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市長達から確保したのは時間にしては約1時間。

その時間からしても、単に情報公開をするだけではないと、

市長も気がついてはいたが、私を止めるような無謀なまねはしなかった。

元より市長の側からの依頼であるのだし、私の持つ市民生活への影響力はまだ健在だからだ。

その時間枠のなかでまず流したものは、

ユートピアコロニー市民の8割強が帰らぬ人となった、木星トカゲの襲撃の映像だった。

ユートピアコロニー各所に設置された監視カメラなどに撮られられた、

ユートピアコロニー市民が死に行く様子。

勿論、そこには必死で抵抗する守備隊の姿も映ってはいたが、

文字通りの必死の努力に関らず、敵の無人兵器によって守備隊は壊滅 し、

そしてその後ろに居た多くの市民達もまた、敵の無人兵器の攻撃に次々 と命を落としていく。

地上の残骸から回収されたそれは、

勿論一般的には全くの未公開の映像で、その映像をトゥリアが編集した ものだ。

特別な加工をしたわけでもなく、映された映像をただ繋げただけという編集は、

それ故に、現実をストレートに伝えてくるものだった。

それは、ユートピアコロニーの生き残りの市民達が、生きる為に必死に目を逸らしてきたモノでもあった。

2500万強の同胞を殺され、それでも敵の目をかいくぐり、何とか生き延びた者達。

大深度地下という新たな土地を切り拓き、ようやく人らしい生活を取り戻したとしても、

それは、確かに今居るユートピアコロニ市民の姿の一つでもあるのだ。

れを思い起こさせるための映像は、15分ほど続く。

その後1分ほどは、その趣旨が異なる別の映像を流す。

私が駆るエステバリスカスタムの映像を流し始めたのだ。

その性能差により、エステバリスカスタムは、

木星トカゲのバッタやジョロを、破壊し、粉砕し、無力化していく。

最後にエステバリスカスタムから私が降りる所を流して、その映像は終了した。

それと同時に画像は切り替わり、過去の映像に代わって、リアルタイムの映像が流れ始める。

今、カメラが捉えているのは、エステバリスカスタム背景にし、格納庫に立つ私の姿。

 

「この映像を目に留めている方々の中には、私を知らない人も多いでしょう。

 まずは、自己紹介を。

 私の名はラピス=ラズリ。

 皆が良く知る、タナカ家の代表をやっている者です」

 

あの人のものであった大きな黒いバイザーを付け、服装だけは何時もと は違い、

タナカ家の家紋入りボタンがあしらわれた、第二礼装を身に着けている。

まだユートピアコロニーが健在だった頃に行われた、公式行事に参加する時の格好だった。

以前に公式行事に参加した時と多少違うのは、

黒いバイザーと指先がだらりと垂れ下がったままの左手の手袋だろう。

尤もそれを見咎めるような人物は、私の知り合いにはいないだろう。

寄った形で私を写すカメラには、左手自体映っていないというのもある。

正装に黒いバイザーという、ある意味珍妙な格好の私は、カメラの向こ うに居るであろう市民に対し、

黒いバイザー越しに視線を向け、ゆっくりとした口調で口を開く。

 

「今流れたあの日の映像を、快く思わない人達が居る事は承知しています。

 西エリアの情報公開ということで、皆がこの映像を見ているのでしょうし、

 私もその為に皆の時間を貰ったのだから、それは当然の事でしょうね。

 けれど私は、今一度、私達の置かれた現状と言うものを、認識してもらう必要があると判断しました。

 これから流す映像に備えて」

 

私がそこまで言い切ったところで、再び画像は切り替わる。

私の姿はモニター上から消え、別の映像が流れ出す。

それは先日地球のエージェントを通じて手に入れた物の一つだった。

地球で流れている何の変哲もない報道番組の特集コーナー。

ただ、そのコーナーのその内容は、

ユートピアコロニー市民、いや、火星市民にとっては特別な意味を帯びていた。

木星トカゲの艦隊を火星衛星軌道上で撃破し、

全滅した火星から地球までの道のりを、

生き残った火星市民を保護して守り抜いた英雄、フクベ・ジン。

その老いた英雄の特集だったのだ。

どこかの式典に参加する彼を、何百ものフラッシュが迎え、

年老いた彼が手を振ると、群衆は歓声をもってそれに応えていた。

恐らく連合政府主導のプロパガンダなのだろう。

その姿を背景に、番組のキャスターこう繰り返す。

火星の同胞を全滅させた木星トカゲを許すな、今こそ、立ち上がる時だ、と。

そういった類のプロパガンダに満ちたそのコーナーは、十五分ほどで終了した。

再び画像は切り替わり、配信される映像には私の姿が流れ出す。

 

「今、流れたものは現在地球上で一般的に放映されている番組の一部でした。

 いささか連合当局のプロパガンダがしつこく感じたかもしれないけれど、

 この番組はあくまで一般の番組で、当局が主導して作らせたものではないのです。

 連合に所属するあの老人を映すのだから、それなりの指導はあってしかるべきでしょうけれどね。

 そして、市民の皆さんが気にしているのは、プロパガンダ云々ではない。

 それは、私達の住むユートピアコロニーに向けてチューリップを落としたあの男が英雄になっている事?

 いいえ、違うわ、それよりも重要なのは連合政府の認識でしょう。

 彼等は既に火星が絶滅したものとして捉えていて、

 そして、それを戦意高揚の為に事実として用いている。

 それが、何を意味するのか、想像に難くないでしょう。

 死人からの救助要請など無視して当然のものだし、

 逆に砲弾を撃ち込まれかねないあたり、あながち笑い話にならないものですしね。

 つまり、私たちは既に行くべき場所を失ってしまったのです。

 この火星の大地を除いては…。

 さて、大きな視点での現状が確認できたところで、次の映像を見てもらいます。

 つい先日入手することが出来た、敵の、木星トカゲの本隊の映像です。

 色々とショッキングなものではありますし、それなりの覚悟をすることをお薦めします」

 

再び画像が切り替わる。

一瞬のブラックアウトの後に、映像はゆっくりとその色彩を取り戻していく。

画面の下、三分の一を占めるのは黒とまばらに散る白。

よくよく見るとそれが統一されたデザインの服と人の後頭部の群れであることが解る。

時折、混じる白は色違いの服を着ている者が居る所為だ。

その人だかりの向こうのには演壇が設けられており、

一人の男が左側から現れ、中央へと向け歩いていく。

人々のざわめきも次第に静まり、

男が演壇の中央に立った時には、人々の間にあった殆どの話し声が途絶えた。

そして男の、草壁春樹の演説が始まった。

ただし、今から流れるそれは、今後に草壁春樹が行うはずの演説だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草壁春樹の演説を要約すると、

絶対正義である木星連合は、悪の地球に必ず勝利する、

というものだった。

誇張したり、言葉を繰り返したり、時には手を振り上げて、大声をだして。

それでも彼の演説の内容は、極解りやすく簡易なものだった。

最後に「レッツ、ゲキガイン!!」と皆で唱和して終わった演説は、

拍手喝采に包まれる会場を生み出した。

両手を挙げて、集まった人々に応える草壁春樹。

その彼に、カメラがズームインしたところで映像は静止した。

再び映像は切り替わり、カメラは私の姿を映し出していく。

切り替わる前と違うのは、私の背後のモニターに、静止した草壁春樹の姿が映っている事だった。

 

「それなりに衝撃的な映像に、恐らく大半の人が驚いているでしょう。

 映像では伝わらなかった部分も多いでしょうし、これから補足をさせてもらいます。

 信じられないかもしれないですけれど、

 彼らがユートピアコロニーを、いえ、この火星を無人兵器で襲撃し、

 そして、我々に木星トカゲと呼称されている敵の姿なのです。

 連合によれば、正体不明の侵略者らしい彼らは、私たちと同じ地球から派生した人類でもあります。

 百年前に起きた月での内乱で火星に逃げ延び、

 そして核を撃ち込まれた事で、さらに木星方面へと逃げ延びなければならなかった人々が居たのです。

 そして、彼らはその人々の子孫。

 それが、我々が木星トカゲと呼び、恐れていた侵略者の正体なのです。

 直ぐに私の話が理解されないのは重々承知の上です。

 ただ、これは事実でもあります。

 彼らからの使節団を殺し、今回の戦争の切っ掛けを作った連合にも認識されている事実。

 むろん、連合はそれを公開せず、直隠にしている。

 事実は上層部の、ごく一部のみが知ることになりました。

 自らの軽率な行動が戦争の引き金になって、流石にバツが悪かったんでしょうね。

 他にも、人同士の戦争と知られれば戦意は下がるし、色々と都合が悪かった人も居たのでしょう。

 そして、火星と言う星は、久しく無かった人間同士の戦争における最初の舞台にされたのです。

 その住人には、何も知らされぬ内に」

 

私はそこで言葉を切り、後ろを振り返って歩き出す。

向かう先は私の背後に設置され、今は草壁春樹の姿を映し出しているモニター。

3mほどの歩き、カメラに背を向けたまま立ち止まる。

今までと違い、全身を捉える事になったカメラの映像には、

中身の無い指先が、ぶらりと垂れ下がる不恰好な左手も映し出されているだろう。

モニターの前に立った私はカメラには背を向けたまま、

黒いバイザーを外し、左手の手袋も外して、再び口を開く。

 

「正直に言えば、

 事実を隠し私たちを巻き込んだ連合の事とか、

 私達の居場所がここにしか残されていない事とか、

 百年前に起きた内紛がどうだとか、

 そんな事はどうでも良いと思ってる。

 ただ、彼らの正体が人間だった事には感謝している。

 それはつまりー」

 

私は振り返りながら、遠心力つけた左腕の義手を振り回し、

鋼鉄製の義手を、草壁の映るモニターへと叩きつける。

カシャン

そんな音と共にガラス製のモニターにはヒビが入り、

映し出されたままの草壁の姿は歪んで見えた。

 

「私のこの手で復讐が果たせると言う事、

 つまり、御父様の敵が、この手で取れると言う事だもの」

 

カメラに向き直った私は唇を吊り上げ笑みを作る。

何時もとは違う作り方の笑みは、火傷の痕が酷く残る左側が動かず、

右側の唇のみを吊り上げて、笑みを作る事になった。

そうして作られた笑みは、今までタナカ家の代表として見せてきたものとは、

全く異なり、良い印象など与えないものだと自覚もしていた。

だが、その笑みのまま、私は再び言葉を続けていく。

 

「ようやくだけれど、本題に入らせてもらうわ。

 今、そして今後に、西エリアで生産されるものは兵器よ。

 ただし、その兵器は火星市民の生活を守る為には使われない。

 あの時に襲来した無人兵器に殺された者の敵を取る為、

 抵抗できずに死んでいた者の復讐を果たす為にのみに、それは使われる事になるわ。

 それが正しいかどうかは関係ない。

 私はただ、それをするわ。

 この映像を見ている、幾ばくかの者と同様にね。

 復讐を考える者は、西エリアに来なさい。

 血反吐を吐き、地べたを這いずり回ってでも、

 それをする覚悟が在るのなら、私は貴方に与えられるわ。

 奴等に突き立てる鋼鉄の牙を、奴等を引き裂く鋼の爪を」

 

言い終わると同時に、モニターに移る歪んだ草壁に視線を向けた私は、

再び左腕を振り回し、ヒビの入ったモニターを義手で打ち据える。

ガシャン

強化ガラス製のモニターは完全に砕け、その機能を失った。

私はゆっくりと左腕を戻しながら、モニターへと向き直る。

表情をリセットし、何時もの作った笑みを浮かべ、映像を締めくくる事にした。

 

「私からの話は、これで終わりになります。

 最後までこの映像を見ていただいた方と、

 このような機会を設けてくれた市長達に感謝を。

 今回の映像に使われたソースは、他の物も含め、

 何時でも端末から確認できるようにしてあります。

 事の真偽の判断に使っていただければ、ということです。

 時間も差し迫りましたし、私はこの辺で失礼します、では」

 

ペコリと頭を下げながらそう告げた私の姿を最後に、各端末に配信されていた映像は終了した。



 

 


続く


あとがき

今回はようやく一歩動いたという感じの話でした。

ラピスも言ってますが、その方向は前だか後ろだか解りませんが。

ともかく、今後も読んでやっていただければ、幸いに思います。

出来れば感想をいただけると、かなり嬉しかったりします。

ではまた


RYUさんに代理感想を依頼する予定です。



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