BLUE AND  BLUE

 第19話

作者 くま

 

 

 

 

「私が艦長のミスマルユリカです。ぶぃ」

 

前回と同じにユリカさんが、いえ艦長が、ブリッジに入るなりにそう決めた頃、

アキトさんは既に格納庫に向かっており、私達の居るブリッジには当然にして不在。

今、私たちを取り巻く状況は、前回とほぼ同じでした。

出航前のナデシコを狙った木星トカゲの攻撃を、このドッグは受けているところです。

前回違い、積極的に情報を集めているので、

この近辺がどういった状況なのかを、一応は把握しています。

徐々にセンサーが使えなくなることで、敵の侵攻状況を図るといってものですが。

地上では、連合の地上軍が木星トカゲに抵抗していますが、

それも、何時まで持つかはわかりません。

その証拠に、今しがたも軽い衝撃が伝わってきています。

艦長達が、恐らく前回と同じ内容のことを話し始め、

それを横目に私は新たなウインドウを展開し、格納庫にいるアキトさんの様子を覗います。

そこには、積み残しの物資をせっせとナデシコ内に運び込む。2台のエステバリスの姿がありました。

むろん、外のフォークリフト等も動いていますが、

えっせえっせと荷物を運ぶエステバリスの姿は、少し可笑しくも感じられました。

まあ、今後の事を考えれば、物資があって困るわけでもないのですけれど。

もちろん、2台のうちの1台はアキトさんのエステバリスで、

もう一台は山田さんのエステバリスです。

前回と同じように、早々とナデシコに乗り込んできた山田さん。

やはり前回と同じように勝手にエステバリスを乗り回し、やはり前回と同じように派手に転びました。

ただ、今回は骨折はなしです。

私がウリバタケさんに進言して、とあるシステムを組み込んでいたからです。

パイロットの体がハーネスでコックピットに固定されていないとエステバリスが動かない、と言ったシロモノです。

緊急時には、そういった事も言っていられないので、

戦闘中を除く平時(戦闘配備以外の状態です)に置いてという条件付です。

 

「さすがルリさん、細かいところにもお気づきになる。

 気の緩みがちな平時にこそ、そうしたものは必要なのでしょうねぇ。

 特に今回集めたスタッフにおいては

 

パチパチとそろばんを弾きながら、ブロスさんは許可と予算をくれました。

ボソッと呟いた最後の言葉は、意識的に聞かなかったことにしました。

そうした経緯もあり、今回の山田さんの骨折は無しになりました。

ただ、怒ったウリバタケさんにスパナで小突かれて、山田さんの頭には たんこぶが出来たらしいですけれど。

そうやって、山田さんの骨折を無しにしたのは、勿論アキトさんの為です。

単純に計算しても、1機で出撃するよりも、

2機でもって当たる方がアキトさんの生還する確率が高くなります。

まあ、機体間の連携等の問題もあるので、一概に生存率が2倍に上がるとは言えませんが。

それはともかく、状況を把握した艦長が、敵を退ける為の作戦を提案してきます。

もちろんそれは前回と同じ作戦で、

地上に上げたエステバリスを囮に敵機を引き付け、

ナデシコは地下を通り海中をえてドッグを脱出。

その後反転し、エステバリスが引き付けた敵兵器を破壊するというものです。

 

「では、始めちゃってください」

 

という艦長の号令の元、皆がそれぞれに動き出します。

といってもこの場で動くのは私とメグミさんのみ。

艦がまだドッグに固定されている以上、操舵手のミナトさんの仕事は在りませんし、

提督以下、艦の首脳陣も、事が動き出すまでは、その推移をじっと見守るしかありません。

して、メグミさんが艦内放送を通じ、ナデシコの出港を皆に伝えま す。

その右隣で私は、オモイカネにドッグの操作の指示を出し、

格納庫にいるアキトさんと山田さんへと、双方向通信を繋ぎます。

本来ならメグミさんの仕事のような気もしますが、

艦長の立てた作戦について、図を交えながらの話になるので、

今回は私がやった方が手っ取り早いからです。

搬入作業を終えた二人に、私は今回の作戦を説明していきます。

今回のエステバリスの役割が囮である事をまず伝えます。

アキトさんはぐっと表情を引き締め、

山田さんはあからさまに不満げな表情で、

私から続けられるであろう、次の言葉を待ちます。

 

「機材搬入用のエレベーターで地上に出た後、

 敵機を引き付けつつ、時間を稼ぎながら海の方へと向かってください。

 その地点で出港したナデシコと合流。

 しかる後に、引き付けた敵機をナデシコの主砲で殲滅します」

 

推測される敵機の動きなどを図面で表示し、二人に作戦を説明する私。

二人は直ぐにエステバリスを動かし始め、

機材搬入用のエレベーターへと向かいながら私の説明を受けていました。

時間は有限なものですし、即行動に移るのは正しい行動です。

そして、そういった行動が出来る二人を、私は少し頼もしく思いました。

搬入用のエレベーターにエステバリスが乗り込むの待ち、

ナデシコ側から操作してドッグの内部の隔壁を閉鎖します。

と同時に、物資の搬入用に開いていたナデシコ本体の搬入口も閉鎖し、ドッグ内へ注水準備を完了させます。

八箇所あるドッグの水門を開き、緊急注水を開始。

約3分ほどでドッグは海水に満たされる予定です。

私のその作業が終わった頃、アキトさん達のエステバリスもまた、地上へと出撃していました。

地上に出た二機の陸戦用のエステバリス。

それ感知した木星トカゲの小型兵器が動き出すよりも早く、

飛び出すようにダッシュしたのは山田さんの機体でした。

直にモニターできている訳ではないので、マーキングだけの表示なのですが、

周り居た敵機5機のマーキングが、即座に消えていきました。

そしてそれに追従するように、アキトさんの機体も動き出します。

どうやら心配していたトラウマの再発は無さそうで、私は少し安心しました。

そうして、地上ではエステバリスが活躍している頃、

地下のドッグの注水は約7割程に達していました。

と同時に、ナデシコ本体の出港準備は既に完了しています。

ナデシコの出港準備期間は、私がリハビリするのに丁度良い時間でした。

そのリハビリに付き合われたオモイカネもまた、

前回に比べれば、良い動きが出来るようになっているはずです。

当然その分、私にかかる負担は軽くなります。

生まれた余裕を、私は地上の様子を探る事に割り当てます。

地上のエステバリスは私の伝えた作戦通りに、敵機と交戦しながら海上へと向かっています。

やや、突出しがちなヤマダ機をフォローしながら追うアキト機。

両機の間の通信も盛んで、きちんと連携が取れていると見ても良いでしょう。

ちょっと、二人のやり取りを聞いてみましょう。

 

『コラ、バカ、ヤマダ、テメー好き勝手やってんじゃねえ!』


『ウルセー、バカ言うやつがバカなんだよ。

 それに俺はヤマダじゃなくて、ガイだ。ダイゴウジ…おわ!?』


『…ッソ。きちんと作戦に従えよ!』


『テメーが前に出なきゃ、俺が行くしかねえだろうが。

 お前みてーに、敵を目の前にしてちんたらやってられるか!』


『だからって、真正面から突っ込むなよ!』


『ハッ、これが、ガイ様の戦い方よ!・・・ぬう!?』


『ああ、そうかよ、勝手にしろ。もう知らん、面倒見切れん』


『・・・何のこれしき。でりゃっ!!』

 

えっと・・・・・・どうやら、私の推測は大きく外れていたようです。

確かにアキトさんの戦い方は、どちらかと言えば守備的で、

敵機の殲滅よりも、自身の生き残りを優先するものです。

その戦い方は私の作ったシミュレータによって、形成されたものでした。

何が何でもアキトさんに生き残って欲しい。

そういった私の願望が、シミュレーターに込められた結果です。

そうして守備的な戦い方をするアキトさんは、

デイフェンス面はさておき、オフェンス面においては優秀とは言いがたい腕前です。

特に遠距離のからの精密射撃が苦手で、

シミュレーションにおいても惨憺たる結果しか残せませんでした。

ですが中間距離での戦いは見事なもので、

ここぞと言う時に発揮される底力は、私の予想をも大きく上回るものでした。

ただ、ここぞと言う時以外は、至って普通の成績しか出せませんでした。

つまり、調子の波があるということなのでしょう。

そしてデータで判断する限り、その波は今は低い状態な様に思えます。

まあヤマダ機の突出のフォローに追われて、自身の戦いどころではないのでしょうけれど。

・・・アキトさん、頑張ってください。

私は心の中でそう呟いて、二人のやり取りの音声をオフにしました。


【注水完了】  〔最終ロック解除〕  [何時でもどうぞ]


ドッグ側の出港準備が終わった事を、

オモイカネが私の周りにウインドウを表示する事で伝えてきます。

ブリッジの正面モニターが、ナデシコの正面のカメラが捉えた映像に切り替わります。

 

「艦長、発進準備が全て完了しました。

 ミナトさん、船体のコントロール回します」

 

私は艦長とミナトさんに声をかけながら、

オモイカネを通じて、ミナトさんのシートにある操舵と船体を連動させました。

 

「さて、行きますか」

 

ぽきぽきと指を鳴らしたミナトさんが操舵を握り、

艦長が正面を見据えて、号令を下します。

 

「ND−001、機動戦艦ナデシコ、発進!!」

 

それは私にとって2回目となるナデシコAでの出港の合図となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、前回と同じに艦長の立てた作戦は、前回と同じように成功しました。

ナデシから放たれたグラビティブラストは、

残存する敵機の全てを飲み込み、破壊しつくしました。

その成果に、ぎゃあぎゃあと騒ぐ副提督までも前回と同じなのは、正直どうかと思いましたが。

強いて前回との違いをあげれば、ヤマダ機が多少破損したくらでしょうか?

いえ、もっと大きな違いがありました。

どうにもタイミングが悪いというか、

艦長とアキトさんが、いまだ一度たりとも顔を会わせていません。

前回は無断でエステバリスで逃げ出したアキトさんが、

ウインドウ越しにですが、ユリカさんと顔を合わせています。

ですが、今回は私が直接作戦を伝えましたし、

戦闘中はヤマダさんとの(有意義かは疑問な)やり取りに忙しく、

ブリッジと会話を交わす余裕はありませんでしたから。

それでも、見事囮役を果たした二人のエステバリスは、既に格納庫に帰還していますし、

二人が直に顔を合わせるのも時間の問題のように思われます。

そこで私は、エステバリスのハンガーへの固定作業を終えたアキトさんへ向け、

個別にプライベートなウインドウを開く事にしました。

 

「お疲れさまです、アキトさん」

 

作業を終え、ふうと一息ついている処に丁度繋がったようです。

 

『いや、ルリちゃんこそ、お疲れ様』

 

と私のウインドウに向け、笑みを返してきます。

初めての実戦の所為でしょうか、その笑顔は何時もよりもすこし疲れて見えました。

 

「すみません、アキトさん。

 一応、報告の為に、ブリッジまで上がって来てください。

 ブリッジ要員が揃いましたので、顔みせをするとの事です」


『了解』

 

私の言葉に短く答えたアキトさんは、エステバリスのアサルトピットを開放し、

ハッチを開けるとコックピットから出て行きます。

床に降り立ち、整備班の人と2,3言葉を交わしてから、そのままブリッジへと歩き出しました。

ウインドウを開きっぱなしにしていた私は、アキトさんに話しかけます。

 

「ところで、アキトさん。

 アキトさんが幼少の頃にお隣に住んでみえた、

 ミスマルユリカさんを覚えていますか?」


『ミスマル・・・・・・ユリカ?』

 

私の問いかけに、アキトさんは首を捻り、もう一度逆に首を捻り、

うげ、と言いたげな顔をして、頬を引きつらせました。

 

『あー、憶えてる、と言うか、今思い出したよ。

 あのユリカだよな?

 ミスマルなんて言われたから正直ピンと来なかったけど、

 あのユリカの苗字も、ミスマルだったっけ。

 で、そのユリカがどうかしたの?』

 

本当に、まるで記憶の彼方に、いえ記憶の奥底に封印したとしか思えないほど、

アキトさんはユリカさんを、意識以前に認識していませんでした。

今まで二人で暮らしてきた中にも、ユリカさんのユの字も出てきませんでしたし、

疑問には思っていたのですが、まるきり認識していなかったとは予想外でした。

とはいえ、ユリカさんの話を振ったのは私ですし、このまま黙っているわけにもいきません。

 

「はい、そのミスマルユリカさんですが、このナデシコの艦長に就任されています」


『は?』

 

歩みと共に表情を止めたアキトさんは、そんな少し間の抜けた声をだします。

 

「ですから、ミスマルユリカさんが、このナデシコの艦長さんなんです」

 

私は繰り返しアキトさんに話しかけながら、艦長のプロフィールをアキトさんの前に広げて見せます。

アキトさんはやや唖然とした表情から、眉をひそめ、眉間の皺をより深く刻み、険しい顔になっていきます。

 

『あー、うん、解った。

 つまり、あのユリカが、この戦艦の艦長なんだよな』

 

頭のどこかでは納得しないながらも、一応の理解はした。

アキトさんはそんな態度で私の言葉に頷きます。

アキトさんが思い浮かべているのは、幼少の頃のユリカさんでしょうし、

仕方が無い部分はあるのでしょうが、その態度は決して良いものとは言えません。

私はアキトさんに対し、きちんと釘を刺すことにしました。

勿論、私自身の思惑もあってのことですが。

 

「アキトさん」


『ひゃい』

 

少し怒気の篭った私の声に、上ずった調子で返事を返すアキトさん。

私がアキトさんをしかる、いえ正論で追い詰め、

最終的にはごめんなさいと言わせるパターンの始まりでも在りますし、

アキトさんの示した反応は、無理もないとは思います。

緊張するアキトさんを見据え、私はゆっくりと口を開きます。

 

「私は、昔のミスマルユリカさんを良く知りませんし、

 更に言えば、今のミスマルユリカさんもまだ良く知りません。

 ですが、ミスマルさんは、軍の士官学校を主席の成績を修めて卒業するほどの、

 非常に優秀な人物だと、データにはあります。

 確かに艦長を務める年齢としては随分若い部類に入りますが、

 民間船の艦長としては十分な資格を持っているはずだと、私は思います。

 アキトさんの知っているミスマルさんは、10数年前のミスマルさんでしかないはずです。

 今のミスマルさんを知らずして、そういった態度を取るのは良くないと思います」


『ごめんなさい』

 

嘘ぶいて、しかも長々とした私の話に対し、

アキトさんはペコリと頭を下げて謝ってきます。

そうやって頭を下げるのは、半ば習慣とも言えなくは無いですが、

納得しない事に対してはアキトさんは反論してきますし、

私の言い分が道理だと理解しての行為でもあります。

アキトさんが解ってくれれば、それで良いです。

いつもなら私がそう続け、話は終わりになるのですが、

今回は、もう一つアキトさんに言うことがありました。

 

「それと、アキトさん。もう一点です」

 

そう続く私の言葉に、顔をあげたアキトさんが、うげという表情を作ります。

 

「アキトさんは先ほどから、ミスマルさんの事を、ユリカ、ユリカと呼び捨てにされていますね?

 確かに昔はそれでも良かったのかもしれませんが、何時までもそういった態度では良くありません。

 今はお互い大人ですし、ミスマルさんは艦長で、大きな意味でアキトさんはその部下にあたります。

 ミスマルさんの為にも、それ相応に接するべきだと思います」


『……いや、やっぱそれでも、ユリカはユリカだし…』

 

先ほどとは違い、私の言葉に納得しないアキトさん。

TPOはあるにせよ、互いをどのように呼び合うかというのは、

あくまで当事者たる二人の間の問題でもあります。

そういった意味で、アキトさんの言葉もまた正しいのですが…。

 

「ですが、その、私は、アキトさんが、私以外の女の人を……」

 

更に言葉を続けようとして、全てを言いきれない私。

自分の言っている事が、身勝手で、我侭で、アキトさんに甘えていると解っているので、

きちんと全てを、言葉に出す事が出来なかったのです。

 

『あ…うん、解ったよ、ルリちゃん。次からは気をつけるよ』

 

それでもアキトさんは、私の言わんとしたことを理解してくれた様子で、

照れくさそうに表情を崩しながら、そう答えてくれました。

 

「――――――」


『――――――』

 

互いに照れくさくて、上手く口を開けない私とアキトさん。

そのアキトさんの背後から聞こえてきた声に、私はふとした事を思い出しました。

 

「あの、アキトさん、もう一点です。

 ブリッジには、ヤマダさんも連れて来るようにお願いします」


『……了解』

 

とって付けた私の言葉に、アキトさんは苦笑を漏らしながら短く答え、

ヤマダさんを連れて行くべく、再び格納庫へと足を向けるのでした。











続く


あとがき

あー、うー、筆が進みませんでした。

ラピスの側からルリの側へ、頭の中の切り替えが上手くいかないのです。

何か、より一層変な話になってる気がします。

まあそれはさておき、今後も読んでやっていただければ、幸いに思います。

出来れば感想をいただけると、かなり嬉しかったりします。

ではまた

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