BLUE AND BLUE

 第21 話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

地球からナデシコが飛び立ったという報告が入った頃。

私達の新造戦艦もまた、完成を迎えていた。

全長は約1キロ、全幅240m、全高210m。

円錐を2つ底辺で繋げ、引き伸ばしたような胴体の形状をしている。

そこに四つのディストーションフィールド発生リングが重なり、

大きく捉えれば、葉巻状になっているといえなくも無い。

計算上は、ユーチャリスのディストーションフィールドとして、倍の強度がでる事になっている。

他の防御システムとしては、ユーチャリスと同程度のステルス機能を持たせている。

武装面ではグラビティブラストを廃し、

全長を生かした電磁加速式のレールガンが、

前方に向けて16門、後方に向けて8門備えていた。

またレールガンは起動兵器射出時の加速器も兼ねており、

同時に24機の機動兵器を射出できる仕様だ。

まあ、3分の1は後方への射出になるので、

戦力の緊急展開能力としては優秀とは言えないだろうが。

それ以外の武装は、内蔵兵器として実現したボソン砲を5基配備した。

さらにこの船の、いや、この時代の地球圏で最大威力を誇る相転移砲。

それを3基、実装するところまで漕ぎ着けていた。

むろんその兵装に使用される莫大なエネルギーをカバーする為に、

木星連合の艦船から回収した108基もの相転移エンジンを、艦内の至る箇所に配備されている。

ただ、その稼働率は最高で70%台までしか行った事が無く、整備面での不安は否めない。

相転移エンジンの整備を出来る人材は、さして多くは無かったのだ。

だが、それらの兵装よりも優先してエネルギーを回されている装備があった。

そのうちの一つは、下準備は必要だが太陽系の半分はカバーできるスペックを備えた通信装置。

そしてもう一つは、出鱈目な演算性能を確保したハイパーコンピューター。

その二つにより、この船は今は無きナデシコCが得意としていた電子戦 を、

『より広範囲により強力に行う』 というコンセプトを実現していた。

そういった部分に力を注いだ分、内装などはおざなりになりがちで、

気密性に不安が残る部分があったりするのも確かだ。

そういった風でありながらも、私達の船は一応の完成を迎えていた。

また、メインブリッジは設けず、中央部分でユーチャリスとドッキングする事で、

艦体制御等を行う仕組みを捉えれば、新しいこの戦艦自体がユーチャリスの纏う鎧とも言えるだろう。

むろん独自での運用は出来るが、ユーチャリス抜きで運用する場合は、

中央一括制御の弊害で、各部署間の連絡が不自由になる欠点があった。

データの高速かつ高密度のやり取りは、トゥリアの手助けなしでは如何ともし難いものが在った所為だ。

そして私はこの船を 『ルキフェラス』 と命名した。

それは、何処かで読んだ神話に出てきた化物の名だ。

百の腕と千の目を持ち、過去、現在、未来を見通すと言われる化物だ。

正にモンスターとして活躍を望み、私はこの船にこの名をつけた。

時を同じくして、私達の組織の名前も決まった。

艦名と同じく、『ルキフェラス』と言う名になった。

コレより先、我々は人を止め、人でない化物になる。

相手の正邪、善悪、清濁を問わず、ただ敵を喰らい殺しつくすだけの存在。

そこには一辺の容赦も無く、ただ死をばら撒く為だけに、我々は在るようになる。

その決意を表し、そして我々はその決意の元に改めて集うことになった。

去るものも在れば、新たにその旗の元に集う者もあった。

だが、コレによって火星市民の手による復讐は、確かに始まったのだ。

もはや、ガラガラと音を立てて歯車は回りだし、

全てを蹂躙すべく車輪は回り、その余波で世界は軋むだろう。

それは恐らく、私自身にすら止められぬ勢いで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その影を捉えたのは、ルキフェラスの強力な通信網を活用する為、

衛星軌道上に配備したステルス機能付きの衛星だった。

そう長距離をカバーできるわけではないのだが、

れでも地球方向から火星へと迫るその重量を、衛星のセンサーは確か に捉えていた。

私が待ち望んだ存在、NERGAL ND−001ことナデシコAだ。

あの女の乗る船が間近に迫り、私は自分の中の何かが徐々に高まっていくのを感じていた。

自分が静かにだが興奮して行くのを、私は認識していたのだ。

そして迫るナデシコAに対応すべく、

木星連合の艦隊およびチューリップもまた、火星の衛星軌道上に集結し ていく。

火星に降ろすことなくナデシコAを撃破せんとしている事が、その陣容からは見て取れた。

その陣容をルキフェラスが打ち崩すことは至って容易な事だ。

検討されたシミュレーションの結果、

私達は一度の被弾をすることなく勝利できる、という答がはじき出される。

の結果と同時に、今回はまだ手を出さない旨の指示を艦内に通達す る。

手を出さない理由はとりあえず今のナデシコAの実力を計る為だ。

回りくどい事をするのは、人格はさておきその能力は一級品…。

…らしいクルーが集うナデシコAの実力を、私は実際にこの目で見たこ とが無いからだ。

無論、映像記録などでは、前の世界において何度も見てはいる。

だが、そこには見出す事の出来ない何かがあることを、

私はあの人から聞いて知っていたのだ。

敵を目の前にして出撃せぬ事に、不満を漏らす部下達を適当にあしらい、

行動を起こすタイミングを計り、私はじっと時を待つことにする。

ルキフェラスのステルスモードを維持しつつ、

ゆっくりとナデシコの後方へ回るように、トゥリアに指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の思っていた以上に、ナデシコAは強かった。

特に目を引いたのは、エステバリスの個々の強さだ。

中でもテンカワアキトの有する戦闘能力は、群を抜いているように感じられた。

幾多の木星連合の虫型機動兵器は言うに及ばず、

テンカワアキトは、単機で木星連合のカトンボを撃破して見せたのだ。

どうやら、あの女がテンカワアキト用に作ったプログラムは、かなりの効果を上げているらしい。

仮にテンカワアキトを止めるとするならば、追加装甲仕様のエステバリスもどきと、

此方のトップクラスのパイロットが必要になると、私は推測する。

此方の有するとトップクラスのパイロットもまた、

ナデシコAのソレと同様に、人格にいささか難があるのは皮肉な事では あるが。

ナデシコAのエステバリス組は優秀では在る。

が、決して撃破出来ない相手ではないと、私は結論を出していた。

特に一編成の部隊としてみた場合、ナデシコAのそれは明らかに訓練不足だ。

5機編成のチームとしては動きがバラバラで、

そのうちの3機はそれなりに連携を取って見せるものの、

テンカワアキトともう1機は、それに合わせようともしていない。

連携の不徹底は、全体としての戦力ダウンにつながる事は明白だ。

このエステバリス隊を壊滅させる事は、

こちらのエステバリスもどき8機で編成された1個小隊で可能だろう。

尤も実際の戦闘となれば、機動兵器が同士が火線を交えることなどさせずに、

ハッキングで全てのの片を付けるつもりではあるが。

私のそんな分析が終わる頃。

火星の衛星軌道上に展開した木星連合の艦隊およびチューリップを撃破したナデシコAは、

戦闘行動を止めて、エステバリス隊を回収を始めた。

さすがに、このまま火星に降りられるのは都合が悪い。

ルキフェラスのステルスモード維持したまま、私はナデシコAの足止めを図ることにする。

それと久々にあの女の顔を拝んでおくのも、悪くはないだろう。

トゥリアに指示を出し、前方に配備した内の8基レールガンを向け、

照準用のレーザーをナデシコAへと照射する。

同時に連合軍のコードを使い、ナデシコAへ文面による警告を入れる。

『停船し、オープン回線を開放せよ』

それから30秒後、ナデシコAはその場に停船し、

私はナデシコAとの始めての邂逅を果たすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコAとの通信による会合、

正確には艦長であるミスマルユリカとの会話により、事態は私にとって 順調に推移した。

会話の中、視線をミスマルユリカに向けたまま、私の意識はモニターの端に映るあの女に向けられていた。

どうやらあの女は私の事などまるで知らなかった様子で、私という存在にずい分と驚いていた。

その驚きの表情が苦悶のソレに変わる事を楽しみにしつつ、私はとりあえずの通信を終えた。

その後、ナデシコAはこちらから提供されたデータに従い、ユートピアコロニーへと向かっていく。

ルキフェラスは衛星軌道上からは下降せず、そのままの高度を保っている。

むろん、主機関である相転移エンジンの効率を下げない為だ。

だが、それでもナデシコAのマーキングは外さない。

張り巡らされたレーザー通信網とつながる地下基地と、ボゾン通信で繋がったルキフェラスは、

火星地表に降りて行ったナデシコAを常に捉えていたのだ。

むろん地上に降りたナデシコAだけでなく、

レーザー通信網でカバーされた地表の動きは、逐一ルキフェラスに送ら れてきている。

ナデシコA以外に動くものは木星連合のチューリップなどであるが、そ ちらの動きはまだ鈍いようだ。

それでもナデシコAを中心に包囲の輪を作りつつあるのが、データからは読んで取れた。

その包囲網が完成するまでには、どうやら今しばらくの時間があるようだ。

こうして私は、あの女を追い詰める為の一歩を、踏み出す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愉快だった。

筋など通っていない出鱈目な私の言の葉で、

あの女の顔が、醜く歪む様は実に愉快だ。

やはり、あの顔は自分の目で見るに限る。

ルリには少し心配をかけてしまったが、コレは譲れない快楽でもある。

はっきり言って、あの時の私は性的興奮すら感じていた。

そう、下着をあとで換えねばならぬ程の興奮を、

どうして他の誰かに譲れよう?

ルリが何と言おうが、少なくとも私はコレを止めるつもりにはなれなかった。

だが、私の側にルリが居る様に、あの女の隣にはテンカワアキトが居た。

あの人の粗悪な代替品である、テンカワアキトが居たのだ。

そのテンカワアキトは、代替品としての機能をきちんと果たしていた。

あの女を慰め、再び立ち上がらせたのはその代替品だ。

仮にテンカワアキトがあの場に居なければ、あの女は今も立ち直れないままだったかもしれない。

だが、代替品の助けを借りて立ち直る様もまた、私の目には吉事にしか映らない。

それはつまり、もう一度あの女を突き落とす事が出来る、という事に他ならないのだから。

あの女を支える代替品を排除する事など容易いだろう。

が、問題はそのタイミングだ。

少なくとも今はまだ、その時期ではないだろう。

あの女に、更なる精神的に苦痛を与えて打ち倒し、

再び代替品の支えであの女が立ち上がろうとした処で、その代替品を処分する。

支えを無くしたあの女は再び倒れ、自責と懺愧の念に囚われてずぶずぶと闇に沈むだろう。

そして、私は最後にあの女自身に手を出すのだ。

あの女の尊厳を踏みにじり、可能な限り惨たらしく苦痛を与え、この世界に救済等は無い事を思い知らせ、

これまでの人としての生を悔やませて、あの女の表情が絶望に染まった時に、この世から抹消する。

そう考えただけで、私は自分が少し興奮してきたのを感じていた。

こうして言葉にするのは簡単だが、実際にそれを実現するのは容易ではないだろう。

その方法を、一応ではあるが考えているのだが…。

そこまで思考したところで、元市長から連絡が入る。

ナデシコの代表との会談が終了し、当然にしてその申し出を断ったといった内容だった。

それは順当な結果と言えよう。

ナデシコAに、あとどのくらい空きがあるのかは知らないが、間違いな くそれは4桁割る数字だろう。

対する市民の生き残りは350万は居るのだ。

そこからどうやって帰る者達を選別出来よう?

下手な選別は市民の反発を招き、元市長としてはそれを良しとはしないだろう。

無論、ネルガルの側からすれば、自社の職員を優先に考えるだろうが、

火星市民側からすれば、それは到底容認できる事柄ではない。

元ネルガル社員とは言え、既に彼らは現ユートピアコロニー市民であり、

少なくとも非常時に際して皆で色々と支えあってきたユートピアコロ ニーから、

今もその恩恵を受けている者である事には違いないのだ。

ソレを今更チャラにして、ネルガルの元社員だけ地球に逃げ帰る事を、

表立って口には出さないだろうが、他の市民達は許さないだろう。

特に今回助かったネルガル社員の殆どが研究職である事も、

その無言の圧力の背景にはあると推測される。

そういった感情レベルの話を解決する術など、ネルガル側に用意する事 は出来ず、

結果、会談は不調に終わったらしい。

尤も、希望者を募ったところで、

ルキフェラスが収集したナデシコAのデータを見た火星市民で

ナデシコAに乗ろうとするのは、よほど酔狂な者ぐらいであろうが。

相転移エンジンにとって劣悪な環境である地表に降りたナデシコAは、

戦力として必ずしも強者足り得ない事が、データからは容易に解るからだ。

かくして交渉は決裂し、ナデシコAは子供の使いも果たせぬまま、岐路へとつく事になる。

勿論、ただそのまま帰すという選択肢を、私は持っていない。

精々、此方の役に立つ形で、退場してもらう事にするつもりだ。

その計画は既に頭の中に在る。

私に必要なのは、介入するタイミングを見極める事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコAには、此方の指示通りに動いてもらう事になった。

もちろん、話合いなんて悠長な手段によるものでなく、武力を示威しての脅迫行為によってだ。

ただ、艦長であるミスマルユリカは優秀で、事らとの絶対的な力の差をいち早く認め、

表面上は取り繕いながらも、此方に指示に従うことを約してきた。

そして、私もまたソレを素直に受け入れた。

私としては結果のみが重要であり、体面などは如何でも良かったのだ。

かくしてナデシコAは此方の指定したコースで運航され、

衛星軌道に張り付いたルキフェラスは、その餌に喰らい付こうとする木星連合の艦隊を、

その艦内に3基備えた相転移砲で、細大漏らさず薙ぎ払った。

そして、計画どおりにソレを機動兵器とユーチャリスで回収し、

ナデシコAはそのまま手ぶらで火星上から退去させた。

ルキフェラスに追われるように遁走するナデシコAを、私は嘲笑をもって見送ったのだ。

次に、我々の目は、眼前に居たナデシコAから木星連合へと向けられる事になる。

これからしばらく、ルキフェラスはその目的の通りに、木星連合への復讐へと動き出す事になる。

当然その間はナデシコから、いや、あの女からは目を離す事になるのだが、

地球へと帰還するナデシコAにおいて、あの女が出来ることなど高が知れているのも確かなことだ。

監視の為に、私自身が力を割く必要性は無きに等しいだろう。

れ故に地球へと帰還するまでの間、ナデシコAへの監視レベルを落と すことにした。

現在位置と交戦状況のみ監視に止める事にしたのだ。

地球に着けばそれなりに動きがあるだろうし、此方からも手を出すつもりでもある。

良く言えば時を待つ、悪く言えばしばし放置するというあの女に対する方針を決定していた。

ナデシコが火星から地球まで進む間には、此方の用件も終わっている筈ではあるのだが…。

の期間は今回手に入れたアレの調整にもよるし、木星連合と言う相手 もある事だ。

未知数な部分が残る事は、やむを得ないだろう。

それがどの程度のイレギュラーになるかは解らないが、

これまでと同様に、対処できないモノではあるまい。

そして私は、迷うことなくルキフェラスの進路を木星方向へと向けた。

今のこの状況が、ほぼ私の思惑通りに動いている事に、喜色で口元を歪めながら。

 

 

 

 

続く


あとがき

み、短い…、アレと比べると7分の1しかない…。

どうにも極端になりましたが、何とか21話でした。

まあ、訳の解らない話となっていますが、次のルリ側で補完される予定です。

予定は未定と、昔の人は良い事を言っていますが…。

それはさておき、連続投稿しておりますので、次の話も読んでやっていただければ、幸いに思います。

出来れば感想をいただけると、かなり嬉しかったりします。

ではまた

 

PS 今回完成したラピス側の戦艦ですが設定とか適当なんであまり突っ込まないでやってください。

   とにかくスゲーのが出来た程度の認識で居ていただけると色々と幸いです。

   言わずもがな、元ネタは、タレ目の鷹のヤツですw

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