『神様は中学生』

第五話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は結構大変な騒ぎになった。

入院している綾波がいきなり消えたことは問題だったし、

病室の様子をカメラが一部始終捉えていた事も問題だったらしい。

記録の改竄はお手のものらしいけど、記憶の改竄はそれなりに手間がかかるという事だった。

記憶の改竄という行為がどういったものを差すのか僕が知ってる訳じゃないけど、

僕に出来るのは色んな人が息災である事を祈るだけだった。

特に病院の関係者の方々の。

さらには現場に居合わせたのが僕であることも問題だった。

綾波の保護者が父さんで、実の息子である僕とは疎遠になっていた事が余計に拙かったらしい。

僕が綾波の失踪に関与している。

そういった見方をする輩も少なからず居たという事らしい。

もちろん緘口令は布かれていたし、声を大にしてそれを主張する人なんてのは居なかった。

それでもやはり疑念は残り…。

まあ、世の中って難しいよね、という事でもあった。

そうしてネルフのスタッフの人は色々な事後処理を抱える事になり、

僕はE計画の責任者であるリツコさんに拘束される事になった。

質問というよりも尋問を受ける事になった僕だけど、

その時に何が起きたのか正確に理解しているわけじゃなく、

僕があの時取った行動をありのままに話す事にした。

リツコさんの研究室では、A級の秘匿映像としてカテゴリされた、

『綾波がLCLへ変わってしまう映像』を何度も見ることになる。

流れる映像を頼りに、自分が綾波に話しかけた言葉を思い出していく。

けど、コレといった新しい事実が判明する訳でもなく。僕はただ首をひねるだけだった。

何しろ綾波がこうなった原因は解りきっていて、

それは僕のこの手に浮か『不可』のスタンプなんだろう。

ただ、見えないモノを説明するのは骨が折れるだろうし、何より面倒なのには違いない。

だから僕は普通の人に見える事でしか答えない事にした。

そんな風に用を得ない僕に詰問する事の無意味さを悟ったのか、

リツコさんからの尋問は程なくして終わった。

けどそれで全てが終りってな訳じゃなくて、

僕はリツコさんにネルフ本部の地下深くへと連れて行かれる事になる。

連れて行かれる道順には何となく見覚えがあった。

前はリツコさんとミサトさんと僕の3人で進んだ道ののような気がする。

このまま行けば、ダミープラグなんちゃらの部屋に着いて、

そこには沢山の綾波が裸でぷかぷかと浮かんでいるはずだ。

そこで、ふと幽霊の綾波から聞いた事を思い出す。

 

「シンジ君、此処で会ってもらいたい娘がいるの」

 

護衛も付けずに一人でこの場所まで僕を誘導してきたリツコさんの言葉。

 

「ああ、3人目の綾波レイですね?

 意識を取り戻したというか、自我が芽生えたらしいですね」

 

当然のように続けた僕をリツコさんは睨みつけてくる。

しまったと思ったときには時既に遅く、僕は言い訳を並べる事にした。

 

「いやー例の他の人には見えないレイちゃんに聞いたんですよ。

 あ、そう言えばそのレイちゃんはあの綾波が消えてから急に成長してて、

 ま、原因は解らないんですけどね。

 今では小学校低学年ぐらいに見えますね。

 で、その分、コミニュケーションは取りやすくなって、前よりも結構話をしてくれるんです。

 その話の中でそんな話が在ったなーと今思い出しました」

 

リツコさんはさらに眉間に皺を寄せて腕を組んだままで、

右の人差し指だけ器用に動かして苛立ちを露にした。

その怒気込めた言葉を一字一句を区切りながらゆっくりと僕に告げてくる。

 

「そ・の・話・私・は・何・も・聞・い・て・な・い・ん・だ・け・ど?」

 

怒っているな、という思考はあったけど、だからといって何かがあるわけじゃなく僕の心はフラットだった。

リツコさんにこうして怒気を向けられるのも、随分と慣れたという事なのかもしれない。

 

「リツコさんが僕に訊いてたのは、綾波が赤い水になる前の事ばかりでしたから。

 それ以降の事は如何でもいいんだなって思ってました」

 

平坦な口調で答える僕に、リツコさんはやはり眉を寄せてみせる。

ただ、今までのとは少し違って、何かを思い出しているように僕には見えた。

確かにリツコさんが訊いてきたのは病室での事までで、それ以降の話を訊かなかった事は事実だからだ。

まあ、流石にネルフ本部で拘束されている間に、

そこに居た幽霊と話しているなんて事を想像するのは難しいだろうけど。

確かに何も言わなかった僕も悪いのかもしれないけど、

そういうことはあまり口外しないように、とリツコさんに言われているのも確かなことだし。

 

「そうね、確かにこちらに不手際があったことは認めるわ。

 でも、今後何かあったら、包み隠さず私に話す事。良いわね?」

 

僕の両肩を握りつぶさんほどに力強くにぎり、リツコさんはそう脅しをかけてくる。

 

「えーと極力努力します。

 ほら、ココに居ると色々と聞こえてきますし、

 その中でどの話が重要なのか?なんてことは、僕には良く解らないんですよね」

 

肩は確かに痛かったけれど、やっぱり恐怖心のようなものは既に感じなくて、

僕はとりあえず良さげな返事を返す事にした。そ

してリツコさんはため息を吐いて僕の両肩から手を離した。

「ため息を吐くと幸せが逃げるそうですよ?」

と叩いた僕の軽口を無視して、少しやつれた様にも見えるリツコさんは先を進む。

僕はその後に着いて行き、なんとなく見覚えのある雰囲気の部屋に辿りついた。

その部屋に設置されたベッドから上半身を起こしてこちらを望むのは一人の赤い瞳の少女。

そんな彼女の様子をみて僕はこの部屋にどうして見覚えがあったのかを理解した。

似ているのだ、あの半ば朽ちかけていた綾波レイの部屋に。

それはともかく、とりあえずリツコさんに声をかけることにした僕。

 

「あの、リツコさん、何か着せてあげないと、流石に寒いと思いますよ?」

 

僕の目の前のいる少女、多分だけど3人目の綾波は、

上半身を起こした所為でずり落ちたシーツの他には何も身に着けておらず、

つまるところ裸で、何かがポロリな状態だった。

 

「枯れてるというか何と言うか…。

 シンジ君、貴方本当に思春期真っ只中の男の子なの?

 もう少し別の反応があると思ったんだけど?」

 

そんな風に返ってきたリツコさんの答えは、

目の前の事態を何ら解決するものじゃなかった。

枯れてるというか、確かに裸で寒そうだなとは思うけど、

綾波の裸を見たからといって僕は興奮を感じてなかった。

白衣ぐらい貸してあげれば良いのに…。

視線に込めた意味合いに気がついたのか、リツコさんがさらに言葉を続ける。

 

「どうせ、LCLに還元されるだけかも知れないでしょう?

 だから何も着せなかったのよ。

 ひょっとしたらシンジ君は知ってるかも知れないけど、私は確かにこの娘に思うところがあるわ。

 だとしても、別に意地悪をしてるわけではないの。

 そういう訳で、シンジ君にやってもらいたい事、解るわね?」

 

やっぱりそうなんですね、とひとりごち、僕は綾波の方へと一歩踏み出した。

僕とリツコさんに視線を向けていた綾波は、一瞬ビクついた表情を見せる。

僕という存在に怯えている?バカな…。

頭に浮かんだ疑問を振り切りさらに歩みを進める僕。

ベッドの傍らに立ち、綾波に向けて右手を差し出した。

 

「サードチルドレンの碇シンジだよ。これからヨロシク」

 

右手と供に告げる言葉に、綾波はおずおずと僕の方へと右手をさし伸ばしてくる。

5秒ほどかけて僕の手を握ってきて…。

パシャ

こうして僕に対する綾波接近禁止令が出される事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですねぇ、その娘があの使徒とかいう大きなのと同じように、

 ある意味おける特別な存在なのかもしれないですね。

 だからシンジさんの手の封印に触れて、そんな風になったんじゃないですか?」

 

僕の話を聞いてそう持論を展開するのは、タマの中にいる神様のヒンさんだった。

ネコに素で話しかけている僕の姿もアレだけど、

腕を組み首を傾げながらうろうろするネコの姿もアレだと思う。

ふと思ったけど、この部屋ってネルフにモニターされてなかったかな?

という事は、この光景はネルフの頭脳であるマギに送られ、

当然にしてリツコさんの目にとまる事になる。

とすると…。

まあ、リツコさんの目にとまるのなら問題ないか。

タマとヒンさんに対するリツコさんの態度は尋常ではなかったし。

 

(どうしたの、シンジ。あたしのことじっと見つめてきて?)

 

と僕の頭の中に直接声を響かせてくるのはタマ。

ヒンさんは声に出して話すけど、タマはこうしてテレパシーっぽく話しかけてくる。

 

(女の子に近寄っちゃダメって言われるし、あたしの事じっと見つめたり…。

 シンジってすとーかーっていう人なの?)


「ちがうって」

 

手で顔を洗いながらそう訊ねてくるタマに対し、僕は即座に否定の言葉を返す。

けど、タマは僕の返事など聞きもせずに、毛づくろいを始めて僕の言葉を流した。

そして大きくあくびを一つして僕に向かって問いかけてくる。

 

(ところで、シンジ、すとーかーってどういう人なの?)


「知らないで聞いてたのかよ」

 

思わずタマに突っ込む僕に向けて、タマはえへへと誤魔化しの笑みを浮かべる。

こんな風に突っ込みを入れるなんて、僕はそんなキャラじゃないはずなのに…。

自分自身に疑問を抱いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の稚拙な予想が当たっていたのか、タマやヒンさんとの会話を咎められる事無く、

僕が住んでいるマンションとネルフを往復する日々は過ぎていった。

ネルフで行われるのは僕自身の訓練と初号機とのシンクロテスト。

初号機とのシンクロテストはともかく、僕自身の訓練は大した成果が上がるわけじゃなかった。

もとより僕は平均的な中学生程度の体力しかないわけで、

それが神様になったところで飛躍的に上昇するなんて事は無かった。

僕よりずっとすごい神様のゆりえ先輩も(タマによれば)体育の授業は苦手らしいし、

そうおかしなことでは無いと思う。

けど、目立った成果を残せない僕を、ミサトさんは必死で叱咤してきた。

一度失踪したファーストチルドレンの綾波は今だ入院中であり、

現状において本部でエヴァを動かせるのが僕しか居ない。

その状況下において何とか僕を使える様にという考えなんだろうけど、

出切る事と出来ない事は当然にしてあるわけで。

最終的にミサトさんが根性論を持ち出してきたところで、僕は訓練そのものを投げ出した。

当然にミサトさんは激怒したけれど、僕はそれに平坦な言葉で切り替えした。

 

「お得意の根性で僕にやる気を出させれば良いじゃないですか。

 それかその根性で葛城さんがエヴァ動かせば良いじゃないですか」

 

その言葉を最後に、その後は訓練どころじゃなくなって…。

ミサトさんは怒って自分の事務室に引き返してしまった。

最後に僕を射殺さんばかりに睨みつけドアの向こうに消えるミサトさん。

何も言わずその背を見送った僕だけど、最後の一言は余計だったかなと少し反省した。

事の経緯はリツコさんにも伝って、その件で僕とリツコさんは話をすることになった。

 

「御免なさいね、シンジ君。代わりに私が謝らせてもらうわ。

 あの子も指導者としてはまだまだ未熟だから…」

 

開口一番頭を下げるリツコさん。

 

「いえ、とんでもないです。それと、僕はもう気にしてませんから」

 

と僕も慌てて付け加える。

 

「そう言ってもらえると助かるわ。

 それで、今後の訓練なんだけど、当然ミサトは教官からはずします。

 それと今後は基礎体力の訓練を中心にやってもらう事になるわ。

 ああ、安心して、私は根性なんて言わないし、きちっとデータに基づいた訓練をしてもらうわ。

 だから、頑張ってね」


「はい、わかりました」

 

柔らな笑みで告げてくるリツコさんに僕は即答していた。

ミサトさんもコレぐらいに優しく言ってくれれば良いのに。

そんな事をその時の僕は考えてしまっていた。

その後に行われたリツコさんの指示による訓練は、

理論に基いて僕の限界ギリギリのラインで行われるもので、

ミサトさんのものよりずっと厳しく殆ど毎日が筋肉痛ものだった。

そんなの詐欺だと、僕は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでトレーニングではくたくたになりながらも、

僕はサードチルドレンとしての生活に慣れていった。

前回と違うのは、僕が学校に通ってないところだろうか。

一応、リツコさんには学校に通うかどうか聞かれたが、

僕は首を横にふりそれ以降リツコさんは何も言わなかった。

学力の不足を補う為に、通信教育みたいのは受ける事になっているので問題は無いのだろう。

親である父さんが何か言わなかったという事も在るのかもしれない。

ミサトさんとの関係は修復できずにいるし、綾波には近寄ってはいけない状態だけど、

その分リツコさんやその部下であるマヤさんとは、比較的良好な関係を築けていると僕は思っていた。

そうした日常を送っていたある日。ネルフ本部に突如警報が鳴り響いた。

それはもちろん、ネルフの敵である使徒の来襲を告げるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(久しぶりの実戦っすね。腕がなるっすよ)

 

エントリープラグ内のシートに座る僕に話しかけてくるのは初号機。

三日ほど前に対人インターフェイスの学習が終わったとかで、明確な声で話しかけてきていた。

以前よりもコミニュケーションが取りやすくなったという点では良いことだと思う。

 

「うん、頑張ろうね。と言っても僕は座ってるだけだけどさ」


(ははは、シンジさんはそれが仕事ですやん。

 それに座ってるだけ言うても、シンジさんが居る居らんで随分違うのは事実っすよ)

 

僕の言葉にフォローを入れてくる初号機。やっぱり気の良いやつだなと改めて思う。

けどそんな初号機の声は僕にしか聞こえなくて、

3日前のシンクロテストでは僕が突如ぶつぶつ話し始めた様に見えたそうだ。

その様子にどん引きされたのは、落ち込むほどではないにせよ少しショックだった。

 

「それじゃあ、作戦を伝えるわ。

 地上へ射出後、距離3000まで接近。

 パレットライフルにて使徒を攻撃、これを撃破します。

 良いわね、シンジ君」

 

初号機と話している処へ発令所のミサトさんから通信が入る。

同時に僕の目の前にプラグ内の壁面にウインドウが開き、

射出予定場所と使徒の予想侵攻路が示された。

恐らくマヤさんあたりの仕事だろう。

その手早い働きぶりに僕は感謝した。

口頭だけで伝えられた事を全部理解できるほど、僕の頭の出来はよろしくないのだ。

まあ、実際のところは初号機が全てやってくれるので最初から聞く気が無いってのもあるけれど。

で、実際に動いてくれる初号機にも確認を取ってみる僕。

 

(ま、妥当な線だとは思うっす。

 といっても、ヤツラにハジキが効くかどうかまでは解んねぇっす。

 ま、やるだけやってみて、ダメなら前みたくドツクだけっすよ)

 

そう力強い返事がかえって来たところで、僕は映像の繋がってる発令所に返事を返す。

 

「はい、大丈夫です。

 初号機もその作戦で行ってみるって言ってますし、とにかくやってみます」

 

そんな僕の声に肩眉を上げて見せたのはミサトさんだった。

初号機の中の人の存在を信じていないミサトさんは、

きっと僕の言葉がおふざけで言っている様に聞こえるのだろう。

 

「あんたねぇ!」


「ミサト!!」

 

声を荒げるミサトさんを更に大声で遮ったのはリツコさんだった。

その直後、発令所との通信は途絶え、代わりにプラグ内に映し出されるのはマヤさんの姿。

 

「ごめんね、シンジ君、ちょっと待ってくれるかな?」

 

苦笑いを浮かべ、僕に告げてくるマヤさん。

その背後から聞こえる怒声に、発令所の大変な状態がなんとなく想像できた。

 

(…なんか、大変っすね)


「うん、大人の世界はきっと大変なんだよ」

 

初号機の漏らす言葉に頷いて答える僕。

その僕の独り言とも取れる言葉を聞いたのか、マヤさんは相変わらず苦笑いを浮かべていた。

それからしばらくして、再び発令所のメイン回線で通信が繋がる。

ミサトさんはリツコさんの視線もあってか、準備は良いか?とだけ聞いてきた。

 

「はい」

 

僕は目に見えて解るほどに大きく頷きながら答える。

 

「エヴァンゲリオン初号機、発進!」

 

そしてミサトさんの号令が大きく告げられ、初号機は地上へと打ち上げられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に出た初号機は兵装ビルからパレットライフルを手にすると、

慎重な足取りで使徒の方へと近づいていく。

大きなその身体を屈めてビルを遮蔽物にして歩き、

在るのかどうかわからない使徒の視界に入らないように距離を詰めていく。

十分に使徒に接近した初号機は、その半身をビルに隠したまま、

右手一本で構えたパレットライフルの照星を使徒へと向ける。

ガガガガガ!

トリガーが引かれ、パレットライフルから発射された弾丸が使徒へと命中する。

けど、弾丸は命中する先から砕け、粉塵と化して使徒を覆ってしまう。

 

「バカ、何やってんの!」

 

発令所で成り行きを見守っていたミサトさんから、叱咤が飛ぶ。

んーバカって言われてもねぇ?というのが僕の正直な感想だった。

もっとも実際に闘っている初号機には、その声など全く届いてない様子で、

次の瞬間には今まで隠れていた兵装ビルから全身を投げ出すように跳躍していた。

その直後、つい今しがた隠れていた兵装ビルが、粉塵の向こうから迫った何かによって崩壊していく。

すぐさま姿勢を立て直した初号機は、ビルの間を駆け抜けながらも、

使徒への射線を確保し、パレットライフルによる銃撃を繰り返す。

粉塵の向こうに居るはずの使徒に向けてなのだけど、僕にはその射撃が随分と正確に思えた。

そうして随分と弾丸を当ててはいたけれど、あまり効果は無かった様子だった。

粉塵が晴れた後に見せた使徒の姿は至って元気な様子で、

伸ばした触手みたいな光のムチをぶんぶんと振り回していたからだ。

 

(うわ、ぜんぜん効いて無いっすよ、コレ…。となると、やっぱ接近戦っすかね?)

 

やや、呆れた様子で僕に問いかけてくる初号機。

あんまり覚えてない前回の事を何となく思い浮かべ、僕は苦笑するしかなかった。

 

「まあ、そうなんじゃない?とりあえず、シンクロしようか」


(了解っす)

 

僕の提案にそう答える初号機。

そして僕と初号機は、先の使徒戦以降初めて本格的にシンクロを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グオオオオオ!

初号機が雄叫びを上げている。

力強い雄叫びは、他の人にはどうか知らないけど、僕の耳には頼もしいものとして響いていた。

そして先の使徒と同じように、目の前の使徒も初号機の雄叫びにその動きを完全に止めてしまっていた。

当然にして初号機がその隙を見逃すはずはない。

前回と同じく3歩で加速を得て踏み切り、上空から使徒へと襲い掛かる。

前回の教訓を活かして、電源は一歩目の踏み出したときにパージ済みだ。

位置エネルギーと運動エネルギーを得て使徒へと向かう初号機。

使徒も何時までも硬直はしておらずに反応して見せ、

その光のムチで初号機を薙ぎ払うように攻撃してくる。

迫り来るムチを初号機がその右手で掴み取る。

ただそれだけで、使徒のムチは光の粒子へと変換された。

ならば!とばかりに振るわれる逆側のムチ。

だがそれもまた初号機の左手によって無へと帰す。

そして攻撃の手段を失ったであろう使徒は、そのまま初号機の攻撃にその身をさらす事になる。

ぐるりと身をひねり、落下速度と供にかかとを使徒へと打ちつける初号機。

打ち据えられた使徒は一度地面にバウンドし、逆に宙へと浮き上がる事になった。

そうして晒す事になった使徒のコアに、着地で姿勢を崩し前かがみになった初号機の角が突き刺さる。

パシャ

そして、使徒は前のものと同じに赤い水へとその姿を変えていた。

正確には角が突き刺さったのではなく、

角の辺りに浮かんだ【もっと×多数、頑張りましょう】のハンコがそれをしたのだろう。

使徒をそうして倒したけれど、初号機の勢いは止まらずに、2、3歩たたらを踏み、そのままこけてしまった。

 

(うわ、やっちまったす)

 

何とか手を付くことはしたけれど、それでも恥ずかしそうな初号機の声がする。

 

「ドンマイ」

 

僕は初号機にそう慰めの言葉をかけて、初号機との高シンクロを解除した。

これは僕との高シンクロをしていると、細かい作業をするのに支障がでるという話を初号機に聞いたからだ。

高シンクロは全力で何かするのは良いのだけれど、加減が効かなくなりがちなのだそうだ。

今こけたのだって、高シンクロの影響で微妙なバランスが取れなかった所為なのだろう。

この後はネルフ本部へ帰るだけだし、全力を出す必要もないということで、僕は高シンクロを解除することにした。

今だ、最後のコケたのを気にしている初号機だったけれど、

やがて立ち上がり、本部へと繋がるエレベータ目指して歩き始める。

パージした電源ソケットの元に歩み寄り、地面に転がっていたそれを手に取り背中に再び接続する。

その手際のよさは、前回の僕以上によどみない動作だと僕は思える。

まあ、初号機にしてみれば自分の事だから当たり前だって言うかもしれないけど。

ソケットを着け、エネルギー切れの心配が無くなった初号機は、

発令所から指示のあった回収ルートへと向かう。

 

「今日も、お疲れ様」


(シンジさんも、オツカレっす)

 

そんな会話をしながらも歩く僕と初号機だったけれど、

次のソケットの付け替えの時、不意に初号機の手が止まった。

そして初号機から伝わってくるのは恐怖の感情。

 

(シ、シンジさん、あの方はシンジさんの知り合いっすか?)

 

そう言って初号機が震える手で指差すのは、兵装ビルに囲まれたとある公園。

何となく見覚えのある形をしていると思ったら、僕の住んでいるマンションの近所にある公園だった。

 

「…あの方って?あの公園がどうかしたの?」

 

初号機が何に怯えているか皆目見当もつかず、僕はそう聞き返す。

 

(いや、公園ではなくってですね、あのベンチの上に居る方っす)

 

そう答える初号機は、目をこらす僕の為に映像をズームで表示してくれる。

日当たりの良さそうなベンチの上で眠っているのは一匹の見覚えのある白いネコ。

もちろんそれは僕と同居しているタマの姿だった。

 

「あ、大丈夫だよ、知り合いというか、僕と一緒に住んでるタマとヒンさん」


(そ、そうですか、少し安心したっす)

 

そしてこちらの視線に気がついたのか、不意にタマが起き上がり、

二本足で立ち上がると、右の前足をこめかみの辺りにあてながらペコリとお辞儀をしてきた。

もちろん、そんな事をしてくるのはタマの中にいるというヒンさんだろう。

ヒンさんはやたらと腰が低くて、ダメな僕にさえ気を使ってくれる様な神様だったし。

そしてそんなヒンさんのお辞儀に対して、初号機もお辞儀をして答える。

初号機が返したのは一番深い90度のお辞儀だった。

その様子に更にお辞儀を返してくるヒンさん、そして初号機もまたお辞儀を返す。

互いにぺこぺことお辞儀を繰り返す事15回。

あ、という間の抜けた初号機の声と供に、内蔵電源のカウンターは0を指していた。

初号機はそのままゆっくりと傾いていって…。

ズズン

大きな地響きを立てて前のめりに倒れる事になった初号機。

今日、2回目の転倒だったけれど、シンクロをあまりしていない僕に痛みは伝わってこなかった。

ただ、その衝撃で初号機の角が折れてしまい、

本部に戻った後でリツコさんに叱られたのは言うまでも無い事だった。

こうして初号機が初めて損害を受けた(間の抜けた自爆とは言え)使徒戦は終了した。

 

 

 

つづく


あとがき

…ネタが尽きたのでスタートダッシュは終了ーのくまです。

今後はぼちぼちやっていきます。

さて、今回もスーパーなシンジ君が綾波をアレしちゃいました。

まあ、逆行系だとよく在る話…でもない気もしたりしなかったりです。

あと、最近、少しミサトヘイトに走りがちな点は反省事項だと思ってます。

ただ、熱血っぽいミサト女史とこのスーパーなシンジ君の相性は悪いって事かなとも思ってたり…。

とにかく、自分の話を読んでいただいた方に感謝を。

そしてよろしければ、次の話も読んでやっていただければ幸いに思います。

あと、感想を頂けると嬉しかったりします。

それではまた。

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