新機動戦艦ナデシコ
黒き王子と福音を伝える者



プロローグ サヨナラ…



宇宙空間を二隻の船が対峙していた…
対峙している船の名は、ユーチャリスとナデシコC…
ナデシコCがユーチャリスを追い続けて半年になるが
未だに掴まえるに至っていなかった。

「アキトさん! ユリカさんの元に戻ってきてください!!
 みんなも心配しています!」

「………」

「何で帰ってきてくれないんですか?
 もう復讐は終わったんじゃないんですか?」

「………」

「何故返事をしてくれないんですかアキトさん!!
 答えて下さいっ!!」

黒いマントに黒いバイザーをしたアキトがナデシコCの
デキスプレイに映るとルリは驚きを隠せなかった。
何故なら今迄追いかけていて何度も対峙したこともあったが、
アキトが姿を写すのは一度として無かったからだ。

「アキトさん……」

「………ルリちゃん…」

「帰りましょう? アキトさん
 ユリカさんも待っていますよ?」

「…ユリカが俺を待つ筈が無い」

「そんなことはありません!!」

「ルリちゃん、俺が知らないと思っていたのかい?」

アキトがそう言うとルリの表情が凍りついた。

「ユリカは記憶を消された後に操作された…
 ナデシコに乗る前から今迄の事と俺が幼馴染だった事も全てな…
 時間が経ち、火星の後継者にされた事に対するフラッシュバック
 が余りにも酷かったとの理由で」

「・・・何故知っているんですか?」

「ふっ… アカツキが教えてくれたよ。
 俺が永久指名手配になった事も含めてな」

「……」

「話は終わりか?
 ならさっさと帰ってくれ仕事の邪魔だ」

「……仕事ですか?」

アキトは口元を歪めながらルリに言った。

「火星の後継者の残党が集まっているそうだ。
 草壁を取り戻してもう一度クーデターを起こすんだとさ…
 バカなことを考える」

「えっ!」

「そいつらを潰すのが俺の最後の仕事だ」

「…その後はどうするんですか? アキトさん。
 戻ってくるんですよね?」

「……一ヶ月だ」

「一ヶ月ですか?」

「あぁ… 俺はあと一ヶ月の命らしい」

「えっ…
 ……嘘ですよね? アキトさん
 そんなの嘘だと…
 嘘だと言ってください! アキトさんっ!!」

ルリは突然の宣告に、あ然としながら叫んだ。
アキトは首を横に振りながら静かに言った。

「嘘じゃないんだルリちゃん。
 ヤマサキの実験の後遺症の様なものらしい…
 ナノマシンが暴走をはじめたんだ
 もう手の施しようが無いらしい」

「そんな…
 イネスさん…
 イネスさんなら何とかしてくれるはずです!」

「そのイネスさんのお墨付きなんだよ…」

「そんな… そんなことって……」

ルリはその場に泣き崩れた。
アキトはその姿を見て、バイザーの下で少し哀しそう目をした。

「俺はもう行くから…」

「待って! アキトさん待ってください!
 私もついて行きます!」

アキトはそれを聞くと手元で何か操作をはじめた。

「かっ艦長! 大変です!!」

背後の席に座っていたハーリーが叫んだ。

「何ですかハーリーくん」

「船が… 船が急に動かなくなったんです!!」

「えっ」

「生命維持と通信機能以外の機能がストップしましたっ!」

ハーリーの叫びが続く。

「…まさか!
 アキトさん! アキトさんが何かしたんですか?」

ルリが正面のモニターに映るアキトに聞くと、アキトはうなずいた。

「裏コマンドだ
 生命維持と通信機能以外は使うことが出来なくなる。
 アカツキ以外は誰も知らない機能だ。
 2時間もしたら元に戻る」

「何故ですか?」

「…ルリちゃんが俺を追いかけてこないようにする為さ」

「……」

ユーチャリスはゆっくりと移動をはじめた。
動かないナデシコCから離れるように。

「待って! 待ってくださいアキトさん!
 こんな… こんなサヨナラなんてイヤですアキトさん!
 置いて行かないで下さい!!
 アキトさんっ!!」

「………ルリちゃん」

ルリの叫びに対してアキトの返事は、とても優しかった。
その声を聞き、ルリはイヤイヤをするように首を振った。
何故なら次の言葉が最後の別れだと理解出来てしまったから。

「ルリちゃん、俺の事は忘れて幸せになってね」

そう言うとアキトは通信を切り、ボソンジャンプをした。
あとに残ったのは動けないナデシコCのみ……



「イヤァァァァァァァァァァァァァ!!!」



************************



火星宙域に破壊され動かない数多くの船がある。
その中に白亜の船体をボロボロにしたユーチャリスが漂っている。

「β、状況を報告しろ」

『イエス、マスター
 火星ノ後継者ノ戦艦ハ全滅シマシタ
 グラビティブラスト全テ使用不可
 航行機能ハ20%以下
 ボソンジャンプハ可能デスガ暴走の危険アリ
 ユーチャリスノ被害状況ハ甚大デス
 ブラックサレナモ破損率90%以上使用デキマセン」

「そうか……」

アキトはオモイカネβの報告を聞くとシートに身を沈めた。

『マスター!』

「何だβ」

『残党ト思ワレル戦艦ガ此方ニ向ッテイマス』

「なに? 数は?」

『艦数ハ20』

「……」

アキトはその報告を聞くと少し考えた後オモイカネに切り出した。

「β、艦隊傍にボソンジャンプ後すぐに相転移エンジンを暴走させ
 艦隊全てを巻き込みランダムジャンプをする事は可能か?」

『…可能デス』

「そうか…
 すまないなβ、お前を道連れにしてしまいそうだ」

『イエ、マスターノ指示ニ従イマス問題アリマセン
 ソレニ、ラピスサンガ居レバ賛成ハ絶対シマセンデシタ
 マスター一人デハ何モ出来マセンカラ』

「ふっ確かにな
 ラピスとのリンクを切りお前と繋ぎ直さなかったら
 動くことすら不可能だったからな…」

『ハイ、ソノ通リデス』

「ハハハ
 …でははじめてくれ」

『イエス、マスター』

アキトはボソンジャンプ開始の時までシートに座りながら今迄の事を
思い返していた。
ナデシコに乗ってから今迄、ただユリカと幸せになりたかっただけなのに
何処で狂ってしまったのだろうかと…

『準備が終ワリマシタ、マスター』

「そうか…
 でははじめてくれ」

『……イエス、マスター』

「ジャンプ」

ボソンジャンプ後、目の前には火星の後継者の艦隊がある。
それをモニターで見つめながらランダムジャンプの刻を待つ。
ユーチャリスが不気味な振動を出しながら相転移エンジンを暴走させる。

ヴオォォォォォォォォォオオンンン…

そしてランダムジャンプの直前、アキトは小さく呟いた。


「幸せになりたかったなぁ……」



続く…










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