新機動戦艦ナデシコ
黒き王子と福音を伝える者



第二話 「戻って来れた元の世界」



◆西暦2195年10月1日深夜◆


草原に光と共にアキトが現れた。

「……ここは…」

「アキトさんの過去の世界
 場所はサセボの近くですよアキトさん」

アキトの側にはいつのまにかシンジが立っていた。
アキトは辺りを見回した後、シンジに問いかけた。

「シンジくん…
 本当に俺の世界かい?」

「あれ?
 信じてないんですか? アキトさん」

シンジが困った顔でアキトに問いかけるが、
アキトは疲れた顔をして言った。

「信じたいんだけどね…
 シンジくん… 世界を移動して最初に行った場所は何処だった?」

「えぇ〜っと確かヘリオポリスでしたよね?」

「うん、そうだったね…
 その次は何処だった?」

「麻帆良学園でしたね」

「で、その次は?」

「冬木市?」

「そうだったね…
 その次は?」

「………
 黙秘権を行使します」

シンジは明後日の方向を向いて冷や汗を流していた。
ため息をアキトは吐くと、じと目でシンジを見ていた。

「シンジくんのお陰で苦労したなぁ〜
 何度死ぬ目にあったことか……」

「ははは…
 まぁ過ぎた事じゃないですかアキトさん。
 それに良い経験にもなったでしょ?」

「…まぁ確かに色々と為にはなったな
 ……一応ね…」

疲れきったサラリーマンの様にアキトの背中は哀愁が漂っている。
その姿を見てシンジはニヤリと笑った。

「良い思いもしましたしね
 特に女性関係は」

「なっ! シンジくん」

「どの世界でもアキトさんモテモテでしたもんねぇ〜〜」

シンジの切り返しにアキトは固まって声も出なかった。
確かに苦労はしたが楽しかった事も多かったのは事実だ。
その中に女性関係も幾つもあったが、アキトに言わせればアレは災難だと
声を大にして言いたかった。

「アレじゃあユリカさん可哀想だなぁ〜」

「違う!
 俺が愛してるのはユリカだけだっ!」


ユリカの事が話に出るとアキトは自分が愛しているのはユリカのみだと断言した。

「本当に?」

「本当だ!」

「本当に本当に?」

「本当に本当だ!!」

「じゃあ彼女たちは?」

「彼女たちは…」

「彼女たちは?」

「彼女たちは……」

「彼女たちは?」

「………」

「…」

「………」

「…」

「……
 好きなだけだ……」


「…」

「……」

「…フケツ」

「くっ」

シンジにフケツと言われたアキトはその場に膝をつき項垂れた。
シンジはアキトで遊ぶのをやめると明るい声で話題を変えた。

「でもここは本当にアキトさんの世界の過去ですよ?」

「そうなのかい?」

「アキトさん体を見てみてください。
 今までと違いますから」

アキトは体を見回すと驚き固まった。
何故なら今迄は世界を移動しても姿形は変わっていなかったが
今の姿は昔の自分の姿に戻っていたからだ。

「こ、これはいったい…」

「今は西暦2195年10月1日深夜です」

「そ、それは…」

「えぇアキトさんが初めてボソンジャンプをして地球に飛んだ日です
 アキトさんの魂はこの世界のアキトさんの身体に移し替えました」

「何故?」

「何故って
 世界にアキトさんが二人居たらおかしいじゃないですか」

「確かに変だが…」

そこでアキトは一つ気になる事がでてきた。

(シンジくんはこの世界の俺に魂を移し替えたと言った…
 ならばこの世界の俺はどうなったんだ?
 ……まさか!)

「シンジくん!
 この世界の俺はどうなったんだ!」

「この世界のアキトさんですか?
 ……死にました…」

「まさか俺が来たから死んだのか!?」

アキトは死んだと言われて愕然とした。
自分が来る事にによって死んだのなら、自分は自分の為だけに
過去の自分を殺した事になるのだから。
アキトの姿を見てシンジは静かに話し出した。

「いえアキトさんは関係ありません」

「…俺は関係ない?」

「はい…
 この世界のアキトさんはボソンジャンプ直後に死亡しています」

「え?」

「アキトさんは問題なくジャンプしましたが、この世界のアキトさんは
 ジャンプする直前に攻撃されそのキズが原因でジャンプ後息を引き取りました」

「…つまり俺は死んだ自分に入り込んだ事になるのか?」

「その通りです。
 この世界はアキトさんの元の世界に凄く近いです。
 ですが大きく違う点があります。
 それがアキトさんがボソンジャンプで死亡してしまう点です…」

「そうなのか…」

それを聞いてアキトは少し落ち着いた。

「それでアキトさん、これからどうしますか?
 一年後のナデシコ就航まで待ちますか?」

シンジがそう問うとアキトは暫く考えていた。

「いや、協力と頼もうと思う。
 確かにこのまま待っていても問題はないかもしれない。
 だが未来を変える為には動かなければいけないと思うんだ…」

「そうですか…
 それで協力を頼む人は決まっているんですか?」

「あぁ決めている。
 アカツキだ」

アキトが断言してアカツキの名前を出すと、シンジはその人物を思い出そうとした。

「アカツキさんですか?
 確かその人は…」

「あぁネルガル重工会長のアカツキ・ナガレだ。
 俺の未来での親友だ」

「親友ですか…」

「向こうがどう思っていたかは知らないが、
 俺にとってアカツキは確かに親友だった」

アキトは口元を綻ばせながら言った。

「連絡手段はあるんですか?」

「ある。
 アカツキ直通の極秘回線を知っている。
 この世界でも問題なく使えると思う」

「本当に?」

「大丈夫だ!」

「本当に?」

「あぁ…」

「本当に?」

「……多分…」

シンジが胡散臭そうにアキトを見るとアキトの声は
段々と小さくなっていった。
それを誤魔化すようにアキトはさっさと移動した。

「大丈夫大丈夫! 問題ないさ!」

アキトは公衆電話を見つけるとポケットから小銭を探し出して
未来でアカツキに教えてもらった番号に電話を掛けた。

(頼む! 頼むから掛かってくれ! 後ろでシンジくんが呆れているんだ!)

アキトは祈る気持ちで電話が繋がるのを待っていた。
1分程待っていると相手と繋がった。

『もしもしこちら愛の伝道師。
 この番号を知っているキミは誰だい?』

相手の声がアカツキだと分かるとアキトは後ろにいるシンジに向かって
親指を立てて大丈夫だと伝えた。

「アカツキか? アカツキ・ナガレで間違いないな?」

『…確かにボクはアカツキ・ナガレだよ。
 それよりキミは誰なんだい?
 この番号を知っている人間は全員把握しているんだけど
 キミの番号は初めてなんだよね』

最初の言葉こそ明るかったがこちらが誰か分からないので
アカツキの声は緊張気味だった。

「すまない急に電話を掛けて。
 アカツキに話したい事があるんだ」

『ボクにかい?
 下らない世間話でもするのかい?』

「いや話たい事は幾つもある。
 スキャパレリプロジェクト・火星の極冠遺跡
 そしてボソンジャンプについてだ」

『なに!?』

電話口でアカツキは言葉を失った。
何故なら相手の口から出た言葉は全て極秘中の極秘。
知っている人間は限られているからだ。
そして自分は相手が誰だか知らない。
アカツキは背中に冷や汗が流れているのを感じた。

『……で、話したい事があるのは分かった。
 まさかこのまま電話で話すつもりじゃないだろうね?』

「いやそっちに言って直接話した」

『どうやってここまで来るつもりだい?
 こんな深夜にこの場所まで』

「それはもちろん…」

そこまで話してアキトは言葉に詰まった。
「ボソンジャンプで」と言おうとしたが今の自分は
ボソンジャンプする事が出来ない。
未来の姿なら問題なかったのだが、今の自分は18歳の姿。
単独ジャンプはできない。
ジャンプする為のCCを持っていなかった。

『もちろん何だい?』

アカツキは答えを聞いてきたがアキトには答えられなかった。

「…もちろん」

アキトが答えを出せずに悩んでいると、目の前に白い手が出てきた。
顔を上げるとシンジがニコニコしながらアキトに握り拳を出していた。
その拳をアキトが見ているとシンジは手を開いた。
そこには1つのCCがあった。

「は? えぇ!?」

『どうしたんだい? 変な声出して…
 キミ聞いているのかい?』

アキトの驚きに怪訝に感じたアカツキは聞いてきた。
ニコニコしているシンジをアキトが見つめていた。

「使って下さい必要でしょ?」

「アカツキ、今近くに誰かいるか?」

『なんだい急に…
 今この部屋に居るのはボク一人だよ』

「そうか。
 ならば今から行くがアカツキ以外の人は部屋に入れないでくれ」

『キミねぇそんな事できると思ってるのかい?
 こちらが危険な目にあうかもしれないっていうのに』

アカツキの言う事はもっともだと思うがアキトは言葉を曲げなかった。

「確かにお前の言う事はもっともだ。
 だがこれから話す事は余りに危険すぎて知る人間は極力減らしたいんだ。
 それに俺は絶対にお前を傷つけたりしない!」

『………』

「…」

『……その言葉本当だろうね?』

「あぁ本当だ」

『…はぁ〜分かったよ。
 この部屋はボク以外の人間は入らないようにするよ。
 それでいいんだろ?』

「あぁ!
 ありがとうアカツキ」

『で、話は戻るけど
 どうやって部屋まで来るつもりなんだい?』

アカツキに再度尋ねられたが今度は自信を持って言った。

「それはもちろん…」

『もちろん何だい?』

「ジャンプだ!」

『はっ?』

アキトはアカツキの返事を待たずに受話器を置くと
CCを握り締めてイメージした。

(アカツキの会長室… ジャンプ!)

アキトが光に包まれた。
光が弾けるとそこには誰も居なかった。



「……置いていかれた…」



シンジがポツリと呟いた…




◆ネルガル重工会長室◆

アカツキは椅子に座って固まっていた。
今極秘回線に見たことの無い番号から電話が掛かってきた。
そして言われた内容に衝撃も受けた。
だが、相手は最後に「ジャンプ」と言って電話を切ってきた。
一体何が起こったのか理解できなかった。

(何なんだ? 一体…
 こちらに来るのにジャンプ? ジャンプって何だい?
 ジャンプ? ジャンプ…… まさか!)

アカツキが相手の言った事に対して答えを出そうとしたその時
部屋の中に光が集まってきた。
光が集まったあと弾けると、その場には青年が立っていた。

「ボソン… ジャンプ……」


アカツキが信じられないものを見るように呟いた。
出来るだろうとは研究結果から報告として上がってはいたが
成功した事は今迄一度としてなかったのだ。
それが自分の目の前で起こった。
それも単独有人ボソンジャンプがだ!

「キ、キミが電話の相手なのかい?」

「そうだ
 俺の名前はテンカワ・アキト」

「テンカワ・アキト…
 テンカワ……!?」

ボソンジャンプとテンカワといえば、ネルガルの暗部といってもいい。
自分の父親の代の悪の負債の一つだ。

「……テンカワくん
 …もしかしてキミは…」

「あぁ火星でネルガルに殺されたテンカワ夫妻の息子だ」

そう言われるとアカツキは椅子にくず折れ大きく息を吐き出した…

「もしかしてボクに復讐に来たのかい?
 キミの両親を殺したネルガル会長のボクに」

「? 何を言っている。
 俺は電話で言ったはずだ。
 お前に危害を加えるつもりは無いと」

それを聞きアカツキは真剣な表情でアキトに問うた。

「ボクが憎くは無いかい?」

それに対してアキトは首を横に振り。

「アカツキは関係無い。
 確かに前会長のお前の父親殺したい程は憎いが
 その責をお前に償わせるつもりもない
 それにお前が会長になってからは最優先で非人道的な事を
 禁止していったからな…
 MC研究などな」

そうアキトに言われてアカツキは少し嬉しくなった。
確かに自分が会長になってからは非人道的な研究等は
禁止してきた。
しかし過去のネルガルの被害者から直接そう言われる事と
他の人間から言われるのとでは全然違ってくる。

「そっか… ありがとう
 キミがそう言ってくれると少し嬉しいな
 まぁ出来る限りの事はさせてくれ。
 過去の事とはいえネルガルに非があるわけだし」

「わかった。
 アカツキに手伝ってほしい事があるんだ。
 その為にここに来た訳だしな」

「しかし驚いたよ。
 電話でここに来ると言っていたが
 それがまさかボソンジャンプで来るとは…」

アカツキがそう言いながら椅子から立上ると背後から声が聞こえた。

「えぇ驚きましたよ。
 まさか置いて行かれるとはね…」

アカツキが驚いて背後を振り返ると少年が立っていた。
少年はニコニコと笑っていたが、アカツキは少年の笑いが嘘だと理解した。
何故ならば少年の目が全然笑っていなかったからだ。
何処をどう見ても怒っているとしか見えない。
それどころか顔が笑っているから尚更怖い。

「…キミは誰だい?」

「シ、シンジくん……」

アカツキはアキトに振り返ると、汗をダラダラと流しながら
震えていた。
そして背後のシンジからは優しいが何故か冷たく聞こえる声がした。

「ホント驚きましたよ。
 僕の事を忘れて自分一人だけ! で行かれたときはね」

「す、すまないシンジくん。
 悪気は無かったんだよ…」

「それはそうですよ。
 悪気があったなら救いようが無いじゃないですかアキトさん」

「あ、あ、あぁそうだな。
 次からは気をつけるよ…」

「いえいえ僕は気にしてませんからいいですよ?
 ただ……」

「ただ……?」

聞きたくはないが聞かずには居れないアキトはシンジに聞いた。
それに対しシンジは聖者の如く優しい笑顔でアキトを地獄に落した。

「ユリカさんにアキトさんの女性遍歴を詳しく伝えるだけですよ。
 証拠込みで」

そう言いながらシンジは手に数枚の写真を持っていた。
見てみると、どの写真もアキトと女性が写っていた。
しかもえらく親密そうに見える。

「なっなっなっ…」

「いやぁ〜楽しみだなぁ〜ユリカさんにお会いするのが。
 話題には困らないと思うので、話が弾むと思いますよ?
 ユリカさんも興味を持ってくれるだろうなぁ〜
 ねぇ、ア・キ・ト・サ・ン?」

「すまない! シンジくん!!」

それを聞いたアキトはその場に土下座した。
正に土下座、完璧な土下座、頭を床に擦り付けて謝った。

「そ、それだけは勘弁してくれシンジくん!
 頼むっ!!」

アカツキは目の前で起こった事についていけなかった。
どう見てもアキトより年下に見えるシンジに対して土下座をしていた。
しかも声は半分涙声にも聞こえる。

「……二度目は無いですよ?
 アキトさん」

それを聞きアキトはガバッと身体を起した。
目に涙を浮かべながらウンウンとうなずいている。
ハッキリ言ってキモイ…

「あ、あぁ〜…
 話は終わったのかい?
 無視されてボク悲しいなぁ〜」

アカツキにも哀愁が漂っていた。


************************



「で、話を聞こうかな」

三人がソファーに座り自己紹介を終えるとアカツキが切り出した。
それにアキトが頷く。

「そうだな、これから話す事は全て事実だ。
 俺に何が起こったのかを…」

アキトは話を始めた。

自分が地球に飛んでナデシコに乗ってからの事を……





「……これが俺に今迄起こった事の全てだ…
 シンジくんが力を貸してくれたんだ。
 そして俺はアカツキに力を貸して欲しくて
 ここに来たんだ」

アキトはそう言って話を締めくくった。
アカツキはずっと口を挟むことなくアキトの話を聞いていた。

「まさか…… そんな事が起こるとは…
 信じられないな…」

アカツキがそう言うとアキトも頷いた。

「確かに信じられないかもしれないが本当のことだ。
 だから俺はスキャパレリプロジャクトのことも
 ボソンジャンプ・極冠遺跡・木連の事も全て知っていたんだ」


「…確かにね
 ただの一般人が知りうる事ではないね。
 …一つ質問いいかい?」

「何だ?」

「何故ボクに話たんだい?
 確かにボクには手助けするだけの力がある。
 でも全て話す理由にはならないんじゃないのかい?」

「それは…」

「ボクでなければならない理由がないと信用できないね」

アカツキは真剣な目でアキトを見ながら言った。

「……親友だったんだ…」

「え?」

アカツキは言われた言葉が直ぐに分からなかった。

「アカツキは言っていた。
 俺に協力するのはネルガルとしても利益になると。
 ギブアンドテイクだから気にする必要は無いと…」

「……」

「でもアカツキは常に俺を助けてくれていた…
 俺を利用しているだけだと…
 利用価値が無くなれば切り捨てると言った。
 だがアカツキは最後の最後まで俺に協力してくれた。
 ネルガルの立場が危うくなろうとも…
 だからアカツキが何と言おうとも
 俺にとってアカツキは親友だったんだ…」

そう言い締めるとアキトは寂しそうに笑った。
もう会うことの無い親友のことを思って…
その姿をみてアカツキは決心した。

「……わかったよ」

「え?」

「テンカワくんに協力しようじゃないか」

「いいのか?」

「いいもなにも協力して欲しいからここに来たんじゃないのかい?」

「確かにそうだが…」

「それにムカつくじゃないか」

「え?」

アキトはアカツキの言う意味が分からなかった。

「まさか男に
 それも未来の自分自身に嫉妬するなんて考えもしなかったよ。
 ボクは協力しなかったら未来の自分以下になってしまうじゃないか
 親友と断言されたボク自身に馬鹿にされるよ」

そう言ってアカツキは笑った。
アキトはそれを聞いて思った。
アカツキはやはりアカツキだと。



************************


「それでアキトくんはこれから一年どうするんだい?」

問われたアキトは暫し考え込み。

「そうだな、まずは身体を鍛え直さないといけないな。
 それと同時にエステの訓練等もしなければ…」

「成る程ね、ならば必要な人員と施設等はこちらで手配するよ。
 それとエステだがアキトくんある程度の知識は持っているんだろ?」

「あぁ向こうで乗っていたブラック・サレナは自分でも整備していた、
 だから大体の事は分かると思うぞ。
 ただ専門的過ぎる事は無理だがな」

「いやそれで充分だよ。
 アキトくんにはエステの開発にも協力してもらおうかな」

それを聞いてアキトは驚いた。
確かに自分は知識を持ってはいるが専門家に比べると遥かに劣る。
ウリバタケ・セイヤが良い例だ。
彼は性格はアレだったが確かに天才であったのだから。

「しかし俺は余り協力できないと思うが…」

アカツキはそれを聞きアキトと白けた目で見た。

「あのねぇアキトくん。
 こっちではエステは未だに開発中なんだよ?
 全てを分からなくても未来で乗った経験と知識があれば、
 どれだけ開発が助かるか分かってるのかい?」

「あぁ… 確かにそうだな」

アカツキの目に少し腰が引ける。
横を見るとシンジも同じ目をしていた。
アキトは凹んだ。

「で、シンジくんだったよね?
 キミはどうするんだい?」

「そうですね…
 僕はある程度自分で動こうと思っています。
 すこしこの世界で調べなければならない事もありますし…
 ただ、僕の戸籍等の手配をお願いします。
 僕はこの世界に存在しない人間ですから」

「わかったよ。
 戸籍関係は至急手配するよ。
 それと今すぐしてほしい事はあるかい?」

「なら探して欲しい娘がいる」

アキトがそう言うとアカツキも思い当たったのか頷いた。

「確かラピス・ラズリだったね?
 非合法で研究されていたマシン・チャイルド…」

「あぁそうだ今の時期なら何処かの研究所にまだ居るはずだ」

アカツキは暫し悩んでいたが言い難そうに言った。

「ボクとしても全力で探し出す努力はするよ。
 ネルガルの負の遺産だからね。
 ボクの知らない所で未だ研究が続けられているんだから…
 ただすぐに見つけ出すのは難しいと思う…」

「何故だ?」

「うん、非合法の研究をしている場所は基本的に外部との
 情報のやり取りは無いんだ。
 それは理解してるだろ?」

「あぁ確かにな」

「それにMCの研究なんてバレたら身の破滅は確実だ。
 社長派の人間だってそれは分かっている。
 分かっているからこそ情報が洩れる事に対して恐れている。
 ならば情報は出ないようにするには何が一番だと思う?」

「…それは」

「外部と内部の完全隔離ですか?」

シンジが横から答えを言った。
それにアカツキが肯く。

「その通りさ。
 外部に情報が出ないとこちらも探すのが難しくなる。
 実際未来では木連にいたんだろ? その娘は」

「あぁネルガルの研究所から連れてこられたと言っていた。
 場所は分からないらしい」

「つまり未来でのボクは全く知らなかった事になるんだ。
 それに探しているのが社長派に知られると最悪…」

「証拠隠滅か」

「そうなんだよ」

部屋の中を重苦しい沈黙が満たした。
だがアカツキは再度言った。

「でも必ず見つけ出すよ。
 ナデシコ就航まで出来なくても全力を持ってね」

「ありがとうアカツキ」

「いいのさ別に。
 それにボクが見つけ出すと未来のボクに勝った事になるしね」

そう言ってアカツキは笑うと立上り机に向かい何処かに電話をしていた。

「取合えず頼りになる人間を紹介するよ。
 キミも既に知っている人物だけどね」

暫くすると扉をノックする音が聞こえた。

「入ってきてくれ」

「失礼します」

入ってきたのはメガネをかけたちょび髭のおじさんだった。

「紹介するよ、ネルガル会計役のプロスペクターだ」

「どうもどうも始めましてプロスペクターと言います」

挨拶をするとプロスペクターはアキトとシンジに対して名刺を差し出した。
二人は何処から取り出したのか全く見えなかった。

(いつも思うが何処から出したんだ?)

(僕にも見えなかった……)

「でこっちはテンカワ・アキトくんと碇シンジくんだ。
 二人にはスキャパレリプロジェクトとエステバリス開発等に
 協力してもらうことになった」

アキトの名前を聞いた時、微かにプロスペクターの眉毛が動いた。

「…テンカワさんですか…?」

「火星のテンカワ夫妻の息子だよ」

アカツキが教えると今度こそプロスペクターは驚いた。

「テンカワ夫妻の息子さんですか!」

「始めましてプロスペクターさん。
 両親が火星ではお世話になったみたいで」

「いえ、私の方こそご両親にはお世話になっていましたので…
 ただ火星では…」

プロスペクターは言葉を濁したがアキトが続きを言った。

「俺も知っていますから…
 それに俺の中ではケリはついていますから」

「そうですか…」

プロスペクターは今でも後悔していた。
前会長の指示で二人が暗殺されたと知った時
自分は事前に地球に戻された理由を知った。
自分が暗殺の邪魔をするであろうと。
しかし全てが後の祭りだった。

「しかし何時地球へ来られたんですか?
 今は火星から地球の航路は途絶えていますが…」

その言葉でアカツキはニヤリと笑った。

「今日さ」

「今日ですか?」

プロスペクターにはアカツキに聞き返した。

「そう今日だよ。
 ボソンジャンプでね」

「ボソンジャンプ!?」

「単独で飛んだみたいだよ」

「ボソンジャンプですか…
 確かにテンカワ夫妻はボソンジャンプ研究の第一人者でしたが
 既に技術を確立させていたのですか…」

「まぁ実際には違うんだけどね。
 ただアキトくんの情報で技術は進むけどね」

そしてアカツキはプロスペクターに対して二人に協力するように指示した。

「分かりました会長の指示通りいたします。
 お二人ともこれからよろしくお願いいたします」

そして二人はこれから一年間未来を変える為に行動を起す。



続く…






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