僕の名前は時村和人。

どこにでもいる平凡な少年……だと思う。

周りの人にはぬぼっとしてるとか、感覚がずれてるとかよく言われるけど……。

これでも、おじいちゃんのやっていた銭湯”時の湯”を引き継いで数年、何とかやってきている。

とはいえ、経理は妹のリカに任せっぱなしだし、赤字ギリギリで困った感じだったんだけどね。

両親はエリートサラリーマンで、”時乃湯”の存続には否定的、というかそもそも宇宙を飛び回っていて帰ってくる事が少ない。

あ、そうそう言ってなかったけど今はもう宇宙への行き来は普通に行われている。

宇宙人が地球を闊歩するのは普通の事で、偏見ももうあまりない。

というかむしろ、みんながなじみすぎという気もするけど。

でも、僕なんかは生まれたときから宇宙人が普通に”時の湯”に来てたからそういうものだと理解してる。

後、僕はまだ学生なので学校へも通っている、高校二年生なので”時の湯”の経営だけに専念するにはまだ1年と少しほどかかる。


そんな僕の日常はある日崩れ落ちた。

とか大げさに書いているけど、その後も普通にしてたんだけどね。

いや、でもその時、”時乃湯”にUFOが突っ込んできて、僕は確かに死んだ。

でもその後、そのUFOに乗っていたワルキューレ……っと、

正確にはヴァルハラ星8大皇女の一人であるワルキューレが僕に魂の半分を与えて助けてくれたんだ。

ただ、そのせいでワルキューレは子供の姿とメンタリティしかない状態になってしまい、

キスをして魂が活性化したときだけ大人に戻れるというよくわからない体質になってしまった。

ああ、逆に僕は何度死んでも生き返るというゾンビみたいに頑丈(?)な体を手に入れたんだけど。


その後、真田さんという猫耳メイドが周辺に住んでいる女性を猫耳に変えたり、

幼馴染の秋葉、あいや七村秋菜の家にヴァルハラ星8大皇女の一人ハイドラが落っこちてきたり。

ヴァルハラ星8大皇女の一人ライネがワルキューレを取り返そうとやってきたり。

ヴァルハラ星8大皇女の一人コーラスが何となくやって来ていついたり。

ヴァルハラ星8大皇女の一人メームがワルキューレを取り返しに来たり。


いろいろあったんだけど、一安心と思っていたら。

続けて、ワルキューレ・ゴーストと呼ばれる失われた4つの月の皇女の怨念の集合体……ごめん”の”が多すぎるよね(汗

兎に角、その女性が僕を使って復活しようとした。

でもそれは、長い長い孤独から歪んでしまったもので、本当はさみしいという感情の裏返しだったみたい。


そんないろんな事があって、また平和だけどドタバタした日常に戻ってきたわけだけど……。













円盤皇女ワるきゅーレSS

十三月の奇跡

















「ハイちゃーん、いらっしゃい♪」

「おう、ワルQ! ちょっとひとっ風呂あびてくんぜ!」

「あっ、和人は?」

「かずとはねぇ、いつものところでお風呂沸かしてるよ」

「そか……、ッて別に和人の事なんてどうでもいいんだけどね、ちょっと番台にいなかったから……」

「何言ってんだ、最近じゃ番台はほとんどワルQか真田さんだろ?」

「うっ、確かにそうなんだけどさ……」

「あきははかずとに会いたいの? じゃあ呼んでくるね」

「いや、いいから!」

「?」



番台の当たりが騒がしい、秋葉達かな?

それじゃ、湯船の温度は少し熱めにしておかないと。

僕はボイラーの加減を調節し、ふと視界の隅に泊まった姿を確認する。



「あれ、コーラス? どうしたの?」

「今日のボクは湿度が高いほうが受信感度がいい……」

「あ……そうなんだ……」



コーラスは電波を受信する事が出来るらしい、実際にワルキュー・レゴースト、いや失われし4人の皇女の思いを受け止めていたりした。

まあ、その電波は基本的に全方位なので有効な情報が入ってくる確率は低いのだけど。

銭湯にみんなが入りに来たくなる情報とかないかな……。

そうして暫く仕事に没頭していると、ふと僕の手元に影が差した……。

コーラスなのかなと思い、コーラスのいた場所を見ると、いつものように受信状態でぼっとしているようにしか見えない。

気のせいなのかと僕は作業に戻る。

でも……。



「あら、今日もせいが出るわね」

「そりゃあ、僕にとっての生きがいだからね。……?」

「こんにちは、何か驚くような事でもあった?」



僕は凍りついていた、だって怨念は封印し、魂は成仏したはずのワルキュー・レゴーストがその場にいたのだから。

その姿は確かにワルキューレに生き写しで、でもその表情はどこか妖艶な、しかし、記憶が確かなら今やその女性は実体などもっていない。

僕はコーラスのほうを振りかえる、コーラスは彼女を見ても動揺した様子はなかった。

というか、コーラスが動揺した事はあまり見た事がないけどね。



「どうして……」

「それは、どうやってという言意味? それともどうして今生きているかという事?」

「……両方だよ」

「答えは簡単、4人の魂は長い間一つになっていたから、癒着が進んでしまってね……。

 個々の魂は成仏したけど、引き離せなかった部分が固まってまた私を作り出したという事。

 そして私は貴方に会いたいとずっと思っていたからここに出てきたの」

「それって……」



怨念がまだ消えていないということ……いや、今の彼女からはそういった切羽詰まった感じを受けない。

何か吹っ切れたような、ひょうひょうとした感じを受ける。



「どうして僕に会いに?」

「だって、幻の恋人なんて言ってたけど、結局私だって初恋ですもの……」

「えっ!?」



今まで妖艶で大人っぽいイメージしかなかったゴーストがいやんいやんとほほを染めながら首を振る。

あまりの事態に僕は固まった……。























数分後、硬直が解けた僕は、しばらくは仕事に集中して忙しい時間帯をやり過ごし、その後家族会議を招集した。

メンバーはわるきゅーれ、リカ、真田さん、コーラス、いつの間にか来ていた秋葉とハイドラもいた。

同じ卓に座るゴーストを皆警戒している、わるきゅーれは僕の腕につかまってはなれない。

さて、まずは話しかけないといけないわけだけど。



「お前何しに来た? 返答によっちゃ、もう一回成仏してもらうぜ!」

「あら、そんな荒事をするつもりはないわ、私は幻の恋人……いえ、和人に会いに来ただけ」

「やっぱりじゃねぇか! 行くぜ秋葉!」

「ちょっと待ちなさいハイドラ。ゴースト、それはつまり、もう一度和人をさらいに来たと考えていいわけね?」

「いいえ、私はもう和人をさらうつもりはないわ、だって和人の生きがいはこの銭湯を経営することなのでしょう?」

「まっ、まあそうなんだけどね……」



以前とは違い、屈託のない笑みで、それでいてやはり妖艶な微笑みで僕を見る。

彼女に裏があるとは、前のような影があるとは思えなかった。



「だったら、私もお手伝いするわ」

「え?」

「だって、私の夢は知っているでしょ?」

「……」



ワルキューレゴーストの夢、4人の皇女の夢、それは幸せな恋をすること。

彼女はそのために実体化し、怨念という形ではあったけれど、確かにその目的を実行しようとした。



「かずとはわるちゃんのだもん!!」

「あら、そうかしら? それは魂をつないでいるから? なら私だって、4つもの魂の切れ端だもの、分けるのは問題ないわ」

「うー!!」



どっちにしろ、荒事になりそうな予感だけはバリバリしてきてるんだけど……。

出来れば穏便にお願いしたいというのが僕の一番の思いだった。

だって、その度に銭湯が壊れてる気がしたから……(泣)



「とっ、とりあえず貴方が本当に浄化したのかどうか調べるために、暫くは私のところに来てもらうわ」

「何故?」

「ああああのね! まだあなたの疑いが晴れたわけじゃないのよ!」

「でも、貴方達だって知ってるでしょ? 4人の皇女の本来の魂は既に浄化されたし、怨念は完全に封印されたはずよ?」

「そうよ! 残る魂なんてあるはずないじゃないの!!!」

「あるわよ」

「へ?」

「初恋を成就させたいという、乙女の願い。今の私はそれだけだもの」

「うっ……」



臆面もなく、初恋だの乙女だのと言いだすゴーストに秋葉の羞恥心は耐え切れずうつむく。

僕も傍で聞いていてやっぱり俯いたた。

ここまでストレートなのは、子供状態のわるきゅーれくらいのものだ。

言ってて自分でも恥ずかしくなって頬が赤くなるのを見ていると、策だのどうのとはとても考えられない。

それに、今の彼女からは心の痛みのようなものは感じなかった。

そして、いつの間にかそっと手を握ってくる彼女に僕も思わず握り返していた。



「あー! かずととてをにぎってる!! わるちゃんも負けないもん!」

「あ、こらこら……」

「……はぁ……」



それを見とがめた、わるきゅーれが僕の腕に抱きついてきたんだけど、そのせいで余計に僕に視線が集まってしまい。

周囲の冷たい視線と秋葉のためいきという報酬をもらうはめになった。

でも不思議だな、確かに彼女はワルキューレゴーストなのだとわかるけど、何か安心できる。

それに、わるきゅーれの残りの魂が僕に何か語りかけてきている気もする。

それが何なのか僕にも今一よくわかっていないのだけれど。



喧々諤々(けんけんがくがく)あったものの、その日は秋葉の家で寝るということで一応落ち着いたらしい。

秋葉達はゴーストを連れて帰って行った。

わるきゅーれが二度と来るなーとか言っていた気がするけど、気のせいだよね?(汗)

























その日の夜、僕が夜何か柔らかい感触が体を圧迫している事に気づいて目を覚ます。

とはいえ、深夜のことだ、正直視界はほとんど真っ暗で何が起こっているのかさっぱりわからない。

仕方ないので手探りでそのやわらかい物の形状を探ろうとする。



「んっ……んっん……」



……?

柔らかいだけではなく温かい、湯たんぽにしてはちょっと温度が低い気がしなくもない。

それに、いいにおいがする……。

まだ脳が活性化していなかったのだろう、僕はもう少し触ってみた。




「あっ……はぁ……」

「ッ!?」



その時になってようやく気付く、これは人肌のぬくもり、そしてこの声は女性のものであると。

つまりは、寝ぼけて別の布団で寝てしまったという事だろう、僕かこの女性(多分リカか真田さん)が。

どちらかは、部屋に明かりをつけてみればわかる、僕の部屋なら女性が間違えたのだろうし、

僕の部屋じゃなければ見つかる前に出ないと僕がまた死ぬ……。


急いで部屋の真ん中にある電灯をつける。

ふう、僕の部屋なのは間違いないようだ、心配は一つ減ったなと安心して布団に手をかける。

顔だけは確認しておかないと、そう思い布団を少しめくる。

そこにあったのは、ワルキューレとそっくりな端正な顔。

ひどくあどけない寝顔をしているけど、しっかり帽子はつけているのでどうにか判別はついた。

ゴースト……だよね。


正直、彼女の好意は嬉しい、僕にストレートにそういう感情を向けてくれるのはわるきゅーれだけだから。

ワルキューレもそうなんだけど、めったに会えないからそういう部分はあまり見られないのがさびしいかな。

兎も角、ゴーストの感情は嬉しいけれど、ワルキューレに悪いし、断るべきなのかもしれないと思う。



「うっ……」



ゴーストの表情が曇る、寝ているのに僕の考えたことがわかったのだろうか?

そう、彼女の場合、僕がもし見捨てたら消えてしまうかもしれない。

彼女はもう4皇女の後ろ盾もない、怨念のパワーもない。

つまりは、普通の女の子とそう変わらない存在、だけど、恋心で構成された存在なら、それが破れれば消えてしまうかもしれない。

非常に危うい存在なのだと思う。



「僕は一体どうすればいいんだろう……」



責任と感情、いろいろなものがないまぜになって、僕は苦面になる。

僕はものすごく傲慢な存在ではないかという疑問、だって僕はいろいろな事を後回しにしている。

秋葉との関係、これもなんとなく気付いている。

彼女が僕の事を好きかどうかは分からないけれど、とても心配していつもより添おうとしてくれている。

わるきゅーれの事がなければもっと近い存在になっていたのかもしれない。

だから、僕はワルキューレを選んだという事をきちんと彼女には伝えておかないといけないのかもしれない。

でも僕は卑怯にも先延ばしをしている。

彼女との関係が壊れるのが怖いからだ。


そしてゴーストの事も同じかもしれない。

彼女の見た目はワルキューレそっくりだ、今や表情も柔らかくなり、軽くなった分だけ彼女は周囲に優しくなれる。

恐らく、彼女を選んだとしても僕は幸せになれるだろう。

だけど、それはワルキューレに対する裏切りに他ならない。

こんな黒い事を考える自分が嫌になる、だけど僕は他の生き方はできないから……。



「何を考えてるの?」



突然の声に僕は視線を上げる、そこにはゴーストが嫣然とした微笑みをしている。

まるで何もかもが分かっているような、それでいて危険な感じのするそういう笑顔。

これは恐らく、以前からの癖なのかもしれない。



「僕は、嫌なやつなのかもしれないなって」

「そんな事はないわ、それに、多分和人の考えている事は杞憂よ。だって乙女って強いのよ?」

「えっ?」



そう言って抱きついてくるゴースト、僕はなんだか気が抜けてしまって抵抗する気も起きなかった。

そういえば秋葉のところに泊まるはずだったのにここにいるっていう事は……。



「こらー!! ゴーストッ!! ここにいるのはわかってるのよ!!!」



あっ、秋葉……。

僕はその後、突進してくる秋葉にブッ飛ばされ、天井を突き抜けて車道に落下、ダンプカーにひかれて死んだ……。
























翌朝、僕がどうにか復活して、食卓を囲んでいるころ秋葉とハイドラとゴーストが連れだってやってきた。

ゴースト以外はほとんど毎日同じ面子なので違和感はほとんどない、

両隣にいるゴーストとわるきゅーれは競い合うように僕によそったりあーんしようとするので、

また秋葉にブッ飛ばされないか気が気ではないんだけど。

それもある意味いつもの事かと諦めの境地に達している僕は穏便になるように出来るだけ注意していた。



「かずとあーん」

「和人、はい、あーん」

「いや、その……あはははは……」



あんまり意味があるとは思えないけど……。

秋葉が箸を持ったままプルプルし始めたので、限界が近いとわかる。

でも僕には秋葉の拳を回避する運動能力はないので……。

結果的に空を飛んだ。



それもいつもの事と復活してぴんぴんしている自分の体を見て思う。

これのおかげで安心だけど、多分秋葉がだんだん容赦なくなってるのもそのせいだという気がする……。

原因も僕なのだろうから気にしたら負けなのかもしれないけど。



「さてと、学校に行かなくちゃ」



僕は声に出して気合いを入れなおし、学校に行く支度をする。

いつもなら秋葉と僕の2人で出かける事になるわけだけど、今日は違った。

ゴーストとそしてわるきゅーれが僕についてきたんだ。

理由はなんとなくわかるけど、出来ればわかりたくない気もする。

次に起こることが予測できるから……。

でもそういう僕の不幸予測は簡単に外れることとなった。



「大変だーーーー!!!」

「4件隣のカストロさんの家から誤って究極破壊ミサイルが発射されたぞーーー!!!」

「なんでカストロさんがそんなことを!?」

「いや、なんでもゴキブリ退治用らしいんだけどな」

「なんだそれなら安心」

「そのゴキブリ宇宙のだから一匹100kmはあるって話だぜ」

「なんじゃそりゃー!?!?」



周囲が急激に騒がしくなる。

パターンとしてはそのミサイルが僕のほうに……あっ、やっぱり来た……。

僕は回避しようと思うんだけど、足がすくんで動けなかった。

傍目にはぼーっと突っ立っているように見える僕に巨大なミサイルが突っ込んでくる。

ああ、これは駄目だ。

今までの比じゃないと直感的に分かった。

流石に今回は生き返れないくらい粉みじんになるなと。



「「和人(かずと)ー!!!」」



ミサイルは僕の目の前で止まっていた、止めたのはゴーストだ。

彼女は残り少なくなった力を行使しミサイルを止めている、わるきゅーれは急いで僕のところに走ってくるとキスをする。

大人に戻ったワルキューレがミサイルを消滅させた。

今回結局被害は僕にはなかった、でも、ゴーストの顔色が悪くなっているのが分かる。



「和人様、ご無事ですか……?」

「うん、だけどゴーストが」

「……はい」



心配そうに僕を覗き込むワルキューレだけど、僕がゴーストを心配すると目を伏せる。

僕は再びゴーストに視線を移すが、その時はもうゴーストは何もなかったかのように立ちあがっていた。



「ワルキューレ、ようやく出てきたわね」

「ゴースト……貴方も和人様が好きになられたのですね……」

「元々私は恋をするために生まれてきたのだもの。当然でしょ?」

「ええ……」



ワルキューレが幸せな恋をしたから時のカギを通じて幻の恋人として認定されたのが僕だったという話は聞いた。

だけど、本当に幸せな恋なのか、ゴーストは何故その恋人を欲するのか、その根本はわからない。

僕に分かるのは恐らく、ゴーストは寂しさから逃れる方法として恋をする事を選んだのだろうという事だけ。

でも、今の彼女は普通の女の子のように恋をしようとしているように見える。



「だけどこのままじゃ、和人は危ないわね」

「……」

「魂が欠けた存在はその欠けた魂と引き寄せ会う。貴方達の恋がそれだけとまでは言わないけれど……。

 ただ、世界は欠損を修復しようとして余計に欠けた魂を一つに戻そうとするわ」

「それは……私が和人様に渡した魂の半分が和人様に危害を加える原因になっているという事ですか?」

「貴方のUFOにぶつかるまで和人は一度も死んでいないわ。

 普通一度死んだら二度と生き返らないもの、だけど、貴方が来てから彼は何度死んだのでしょうね?

 それでも私の言葉を否定できる?」

「……」



言われてワルキューレは黙り込んでしまった。

ワルキューレが悲しむ姿は見たくない、僕はワルキューレを否定することなんてできない。

でも、魂はいつか返さないといけない、そう思っていた。

だけど、こんなによく死んでいたらとてもじゃないけど肉体の修復が終わる事なんてないだろう。

我ながら矛盾していると思う、ワルキューレは悲しませたくないと思うのにゴーストのほうが正しいのだと理解している。

だから口について出た言葉は、あからさまに話題をそらすものだった。



「あのさ、ほら、そろそろ学校に行くんだけど。二人はどうする?」

「あっ、はい……お供します」

「私も行くわよ」



その日の授業はあまり頭に入らなかった、そりゃ当然二人がずっとくっついていたからだけど。

そのせいで秋葉から強烈なボディをもらった事も追記しておく。

最も途中からワルキューレは子供に戻り、真田さんに保護してもらったのだけど。

だいぶんぐずってたなわるきゅーれ……悪い事をしたかな……。

帰り道の途上、僕はいろいろな事が渦巻いてあまり帰る気になれなかった。

でも僕の頬に影が差す、ふと顔を上げるとゴーストと視線が合った。



「ねぇ、ワルキューレの事そんなに好き?」

「……そうだね、多分……日常の中で光り輝いているように見えるよ」

「ふふっ、詩的な表現をするのね。なら私はどう?」

「ええっと、まだ知りあってそれほどたったわけじゃないけど、その印象には残ってるよ」

「それはワルキューレと同じ姿だから?」

「……どうなんだろう、でも君はワルキューレとは違うよ。顔つきはともかく、表情がまるで違う。

 君は、とても……人間的な表情をする」

「私が人間的な? じゃあワルキューレは?」

「どこか、そう、幸せなんだけど遠い、そんな表情かな……」

「遠い……なるほど、確かにそうかもしれないわね。ではわるきゅーれは?」

「えっ、うん、可愛いね」

「ふふ……なるほどね、つまり、貴方はワルキューレを遠く感じていて、わるきゅーれは恋愛対象になっていないということじゃない?」

「ッ!?」



その言葉は僕の心にぐさりと刺さった、確かにそうかもしれない。

ワルキューレとは心がつながっていると思っていたところもあった、だけどそう、遠いんだ。

はかなげな微笑み、僕に対する丁寧な言葉遣い、どちらもとても好きだけど、キスして数分だけの恋人ってやっぱり遠い……。

遠距離恋愛というわけじゃない、なんならキスしまくればいいのかもしれない。

でも、何か違う、僕は今までもわるきゅーれとキスをしワルキューレの姿になるところを見てきた。

それはほとんどの場合戦う理由がある時で……そう、これじゃまるで彼女の戦闘力を利用してきただけみたいじゃないか……。

僕は……本当は何がしたいんだろう?

もちろん、時乃湯を守る事が僕の第一の目的だけど……じゃあワルキューレは?

彼女は僕の事を好きでいてくれる、だからこそゴーストがここにいる、それは間違いない。

だけど……。



「そうか、悩んでいるのね。なら、まだ私にも目があるわね」

「え?」

「和人をわざわざ揺さぶったのは、和人が心の底からワルキューレを選んでいるのか知りたかったからよ」

「……そうなのか」

「ええ、物事には全て多面性がある、つまり一方にはよくても一方にはよくない的な。

 なら、ワルキューレが来てから、全てプラスの方向に進むわけもない。

 それでもワルキューレが好きだったら、私は諦めるしかなかった、でもそこで悩むならまだ隙はあるはずよね?」

「僕にもわからないよ」

「だからこそ、よ」



ゴーストはまた妖艶な微笑みで僕に近づく。

それはまるで堕落を誘うみたいで、何か少しだけ拒否感がある。

だけど同時に、その瞳には真摯な光が宿っていた。



「貴方は、恋人に何をしてほしい? 何を望むの?」

「ぼっ……僕は……」



それは心からの問い、僕には彼女をはねのける力はあったはずだけど、彼女の表情にどこかで気付いていた。

見えたのは恋に対する真摯さ、真剣さというもので。

僕は今まで時乃湯の事をどうしても一番に考えていた。

恋は二の次になりがちで、僕の事を気にいってくれる人も、どこかで時乃湯と僕をセットで考えている節もあった。

でも、彼女は違う、僕の事を正面から見つめようとしている。

僕はそれにこたえるべきなのかもしれないと心が動きかけたその時。



「だめぇー!!!」



わるきゅーれが飛び込んできた、わるきゅーれは必死で、精神年齢が下がっているはずなのに僕を取られまいと……。

結局恋というものをしっかり理解していなかったのは僕だけで、みんなはもっと真摯に向き合っていたのだなと気付かされた。

僕はどうしたらいいんだろう、どうしてもわるきゅーれやワルキューレとゴーストを比べる気になれない。

比べて判断するなんておこがましい事をしていいのかすら……。

そんな事を考えていた時、突然視界が闇に覆われた……。



「なっ!?」

「これは……流石に私でもきつい……」



隕石が僕に向かって降って来ていた。

それをゴーストがなんとかしのいでいる形だ。

わるきゅーれは急いで走ってくる。

キスをしろと言っているようだ。

しかしその時、僕はさっき考えていた事を思い出してしまった。

まるで兵器のように彼女を使う事に拒否感を持ってしまった。

もちろん、防げなければ学校にだって被害が出るし、僕も死ぬ。

死に慣れてるとはいっても、あんなのの直撃を受けたら粉みじんどころか熱で気化してしまうかもしれない。

でも、それでも思ってしまったんだ、もうそんなキスをするのはいけないんじゃないかって。



「あっ……」



でもその隙は致命的だったみたいで……。

僕は……気化してしまったみたいだった。


















「ごーすと!」

「何?」



気化してしまった和人の事を思い、しかし2人は正面から向き合っている。

お互いがお互いを許せないという思いでいっぱいだった。

わるきゅーれはゴーストが来てから和人がおかしくなってしまった事を憂い。

ゴーストはわるきゅーれによってもたらされる悪運を怒った。

だがどちらも的をいていて、それでいて芯を外していた。



「なぜ、貴方はいつまでも子供のままでいるの?」

「わるちゃんは……カズトに魂を半分預けているから……」

「最初なら知らない、でも、今は他の七つの星の皇女から力を借りることだってできたはず」

「でも……そうしたらカズトと……」

「一緒にいられなくなるかもしれないわね……でも、和人の事を第一に思うならそうすべきだった」

「あっ、貴方になんて言われたくないもん!!」

「そう、そうね……確かに、私も彼を利用してた。だから恩返しも含めて彼のためになりたいと思った」

「でももうカズトは……」

「いいえ、気化した和人はこのままだと拡散してしまうけど、私とあなたの力を合わせれば……」

「どうやって……?」



2人は見つめあった、それは、何をするためなのか、そして何を犠牲にするのか。

それを確認するためだったお互いに引くわけにはいかない、和人をこのままにしておくわけにはいかない。

ならば2人のする事は元から一つだったのかもしれない……。





















「……あれ? 僕は気化して……拡散していくんじゃなかったっけ?」

「もう、そんな怖い事言わないでください」



僕はぼんやり眼を開く、そこにはキスをした後の彼女、ワルキューレが映っていた。

僕は安心し、そして同時にまた彼女を兵器のように使ってしまったのかと後悔する。

しかし、次の瞬間、ワルキューレの表情が変わった。



「和人……本当に心配したんだから……」

「えっ? ゴースト?」

「私もいますよ?」

「え? え? どういうこと?」

「魂のかけら……」

「魂のかけら?」

「ゴーストは……私と同化して、私の力を引き出してくれています」

「元々、ワルキューレは魂が半分しかなかったから不安定だったのよ。

 だから、私が内側から補って今の形にすることでこれからの事故も減らす事が出来るはずよ」

「でも……」

「大丈夫、私達は合意の上でこうしているんですから」

「どちらを好きになってもらうかはこの後の勝負という事で、ね?」



抱え上げたワルキューレ? それともゴースト? 兎も角2人の合体は確かにきれいで、そして強さを感じさせた。

その姿に僕が戸惑っていると、微笑みながら、ゴースト? ワルキューレ? 彼女は僕に唇を重ねた。

その唇から力が伝わる事はもうなかったけど、それはとても新鮮で、それでいて……。

それから僕は事故に会う事が極端に減った、ワルキューレの魂が補われたことで、魂が引きあって元に戻ろうとしなくなったという事らしい。

それからも僕は時乃湯を続けている、彼女らの繰り広げるドタバタの中で……。











あとがき

5000万HIT記念用というよりは、チェインさんに娘が生まれた記念でチェインさんのリクを受けて作りました。

ちょうどジューンブライド関係でちょっと恋愛ネタとうまくマッチするかなと思ってたら実はマッチしませんでしたと言うオチです。

ワルキューレゴーストを幸せにするという超難題を引き受けてしまいうーんうーんと唸りながら作ったのがこれです。

正直幸せになったのかどうか不明ですがw

これ以上は無理かもしれません。

5000万HIT記念はもう一つ記念連載のほうもありますので、そちらの方も楽しんでいただければ幸いです。



押していただけると嬉しいです♪


感想はこちらの方に。

掲示板で下さるのも大歓迎です♪


作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.