シルフェニア16周年記念作品
ベルセルクなんてなかった。




ベルセルクという漫画もしくはアニメを知っているだろうか?


それは 剣と言うには あまりにも大きすぎた

大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた

それは 正に 鉄塊だった


この文言を聞いて、カッケー! と思った人は多いだろう。

まあ、普通に考えて人間に振り回せる重さの武器ではないんだが。

200kgを超える超重量武器なんて、現実には存在しない。

グレートソードでも6kgくらいまでの重量しかないんだから。

ガッツが特別な力なしに使っていた事を考えると、筋肉お化けといっていいだろう。


ベルセルクという作品はそんな超人的な剣士であるガッツが主に物理力で化け物を粉砕する漫画と言っていい。

まあ、だんだん物理だけじゃ勝てなく成っていくが、やってる事は変わらないので良しとしよう。


そんな作品だが、実際に行ってみたいと考える人間はいないのではないかと思う。

理由は単純、生き残れないからだ。

とことん恐怖体験してSAN値埋葬した挙げ句、地獄の底へとご招待されるのが目に見えている。

毎回村や街、傭兵団や軍隊が壊滅してるんだから一般人に生き残る余地はない。


つらつらとこんな事を考えているのは、当然現実逃避をしているからだ……。

だって、俺、今コルカスだものッ!!


コルカスって誰!?っていう人も多いと思う。

うん、よく分かるよ。

マイナーだものな。

出番はそこそこ多いが、基本重要な役目は果たして無いから仕方ない。


グリフィス率いる鷹の団、その幹部の一人ではあるんだよ……。

後々千人長の一人になるくらいには幹部なんだぜ?

ただ、入団理由も、10人規模の盗賊団を率いてグリフィスに挑み、負けて団に入れてもらったという経緯があったりで。

正直、負け癖のついてる上に、皮肉屋、臆病者と三拍子揃ってて目立つ場面は大抵負ける時という、本当に幹部か?


ついでに、ガッツに手を出して、部下を1人殺され1人腕を取られ、キャスカに助けられている。

その後部下を率いて闇討ちしようとしてキャスカに止められるという滑稽キャラだ。

正直、闇討ちをしたら逆に殺されていた可能性のほうが高い。


というベルセルク屈指の、ある意味常識枠である。

ガッツに対する普通新入りはこうあるべきという事を言い募ったり、作戦の無謀さを言ったり逃げたり。

嫌われキャラだが、団やグリフィスには思い入れがある、そういうキャラだ。

グリフィスのゴッドハンド化に伴い殺される生贄の一人ではあるが……。


なんで逃げないのかという人もいるだろう。

確かに、鷹の団に入る前ならそれもありだった。

だが、俺が前世の事を思い出したのが、鷹の団に入った後だったからどうしようもない……。

今から逃げた所で、生贄の枠から外れるかは五分五分。

ついでに脱走で普通に鷹の団のメンバーに殺される可能性も五分五分。

7割5分の確率で死ぬ、というか鷹の団のメンバーの実力を考えればもっと分が悪い。

それに逃げるなら、妖精の島にでも逃げるしかないが……あれ一般人だけじゃたどり着けないのよね……。


正直俺詰んだ、と思ったが頭をひねり倒してどうにか考えた事がある。

ようは、グリフィスが普通に王様になれりゃ死なずに済むんじゃないかと。

結局グリフィスがゴッドハンドになったのも、夢の続きを見るためなわけだから。

夢さえ叶えればゴッドハンドになる必要はないわけだ。

とはいえ、難易度は間違いなくEXハードどころかルナティックとかファンタズムとかいうレベルだ。

何をどうすればいいのか、先ずそこから考えないといけない……。



「はぁ……全く、どうすりゃいいんだか」

「どうした? コルカス。珍しくたそがれてんな、悩み事か?」

「まーな」



俺の目の前にいるのはジュドー、長めの金髪を首元でしばってたらしている、鷹の団のフォロー役。

剣も使えるし、短剣の投擲も得意、軽業じみた動きで敵の意表をつくのが得意だ。



「今頃グリフィスはお姫さんの晩餐会に呼ばれてるはずだよな?」

「羨ましいのか?」

「ああ、羨ましいね。俺ももっと美味いもん食ってみてえもんだ」


とりあえず誤魔化すためにこう言っておく。

そして、俺はガッツがこの場にいない事に気づいた。

これ、既に秒読み段階じゃねッ!?



「ん?」

「ガッツッ! どこをほっつき歩いていた!? おかげでこっちは大変だったんだぞ!!」



ガッツがドロドロに汚れた格好で、扉の前に立っている。

これは……、ちょっと待て、これって今が分岐点って事かよ!



「グリフィス……」

「え?」

「グリフィスは……?」

「……グリフィスはシャルロット様の晩餐会でプロムローズ館だ……」



不味い! 今行ったら、ガッツの奴、間違いなく出ていこうとする!

この場で何が出来る!? 

声をかけてもあいつが聞くはずもねぇ……そんな関係性でもない。

止められる可能性があるとすればキャスカの奴くらいだが、必要性を理解させる時間もない!

この場は行かせるしかないのか?

くそっ! 引き止める手がねぇっ!!



「くそっ!」



俺はすぐに気づき、他の団員に奇異の目で見られないか視線を巡らせたが気にする奴はいなかった。

考えてみれば、いつもガッツに嫉妬していたので俺の行動として不自然ではなかったらしい。

とはいえ、これは不味い。

追いかけてどうなるものではない、なんとか手はないものか……。

その日はそのまま解散となった。





翌日、俺は一つ考えをまとめた。

ガッツをどうこうするのは俺には無理だ。

しかし、もう一方なら、可能性はゼロじゃない。

多少誇張というか、おかしな点は出てくるかもしれないが、何とかやってみるしかねぇ。



「グリフィス、いるか?」

「なんだ? 次の作戦の指示は伝えたはずだが?」

「その事じゃねえ、あんたに言っておくべき事がある」

「言っておくべき事?」

「ああ、恐らくお前の進退に関わる事だ」

「ほう……」



興味を持ったか。

俺の意外な行動という意味で、とりあえず聞いてやるかという程度には理解してくれたようで何より。

ただ、これから言う言葉を信じてくれるかはまだわからないが……。



「あんたは、昨日お姫さんに友について語ったろう?」

「どこで聞いた?」



俺が言った事に対し、目を鋭くして返すグリフィス。

こいつの沸点がどこにあるか、原作見ていてもわからねぇ。

ゴッドハンドになってからはむしろわかりやすく成ったが……。



「又聞きだよ、周りに誰もいなかったわけじゃないだろ?」

「いや、お前に独自の情報網があるとは思わなくてな」

「うっせえ! それより重要な事だって言ってるだろうが」

「へえ、お前がそこまで言うのは珍しいな」



こいつがゴッドハンドになったら俺は死ぬ、というか鷹の団のほとんどが死に絶える。

だから絶対にこんな所で挫折させるわけにはいかない。



「普段はこんな事言わねぇが、今のお前はガッツにおんぶ抱っこだ。半身と言っていいだろう」

「……」

「そんなガッツが昨日の友の話を階段の下から見ていた」

「……それがどうかしたのか?」



口では軽く言っているが、グリフィスの目は俺を射殺さんばかりだ。

正直、どっちみち殺されるのだろうか?と戦々恐々としている。

だが、言わなくても死ぬんだ、言って死んでもまあしゃーない。

生き残る可能性にかけるしかない。



「間違いなく今後奴はお前の友になるため、ここから出ていこうとする」

「……そんな事はさせない」

「本当にか? 今奴の実力は以前とはまるで違う、グリフィス、あんたとほぼ同等の域にまで来ている」

「……お前に言われるまでもない、ガッツは既に俺と同じ域に達している。だが俺は負けない」

「そういう精神論を言ってるんじゃねえ、あんたはガッツがいなけりゃもうやっていけないんじゃないか?」

「……」



殺気が今までの比ではないくらい膨れ上がった。

俺は、それに対して正面から向かい合う、心臓はバクバク言っているし、手も震えている。

正直おしっこちびりそうだ、つーかちょっと漏れてる気がする……。



「……どうしろと言うつもりだ?」

「決まっている。ガッツの考えが完全にまとまる前に、引き止めろ。

 他の奴を相手にしているんじゃねぇ、相棒なんだろっ?

 無様でも格好悪くてもいい、泣いて縋ってでも、ガッツを引き止めろッ!」

「ッ!!?」

「それが出来ないって言うなら、俺は鷹の団を抜けさせてもらう。先が見えてるからな」

「………」



俺は、言葉を投げ捨てる様に言うと、グリフィスの前から立ち去ろうとする。

しかし、それは出来なかった。

いつの間にかグリフィスが先回りして出口を塞いでいたからだ。



「好き勝手言ってくれるなッ! その口1つ増やしててやろうか……?」

「ぐっ……ぎぃぎぃ……」



グリフィスは俺の首を締め上げながら、俺の口元にナイフを添える。

そのまま、俺の口元にナイフを突き立てる……口裂けにでもするつもりか!?

痛いッ! 痛いって!!



「……口答えの件はこのくらいにしておいてやる。どこへでも行け」



俺は転がるように逃げ出す。

正直、ゴッドハンドになっていなくてもグリフィスは十分怖い。

威圧されてまともに相手が出来る人間じゃない……。

怪我そのものは口元から2cm程切れただけなので、くっつくとは思うが……。

アドバイス一つするにも命がけかよ……。





それから幾つかの戦場を駆け抜けた。

つっても、俺の力なんてそれほど必要じゃなかったが。

ガッツとキャスカが戦場で行方不明になるなんて事もあったが、ありゃ恋愛フラグだよな。

あれのせいでガッツは長々苦しむ事になるわけで。

キャスカも罪な女だよ本当に。

昨日は女王の国葬が行われたわけだ、毒を盛られて寝込んでいたはずのグリフィスも参加している。

ま、実際は毒を盛られる事なんてわかっていて飲んだんだがな、まあ色々やらかしてたようだ。

将軍、女王と連続で殺したんだからグリフィスも目をつけられている可能性は高い。

この時点で危ういな。


さて、一つだけ俺はまだやれる事がある。

それをするために、少しばかり早起きしたわけだ。

ガッツが荷物をまとめて出ていく準備をしている所だろう。

俺は、そのタイミングでガッツの部屋にやってきた。



「ようガッツ、やっぱり出ていくつもりか」

「……ああ、しかしあんたが来るとは思わなかったよ」

「俺も、元は盗賊だぜ? グリフィスがお前に何をやらせてるかくらい知っている」

「そんなのは……関係ないさ」



一瞬目を見開いたガッツを見逃さなかった。

やはりな、グリフィスの友人になるために対等になるというのも嘘じゃないだろうが。

将軍の息子を殺した事が心に引っかかっているのも事実なんだろう。



「せめて、グリフィスが王になるまで待ってくれねぇか?」

「……もう決めた事だ」



ガッツは俺の横を通り抜けようとするが俺はその背中に向かって更に言い募る。



「なあ、グリフィスが無理をしてないと本当に思っているのか?」

「どういう事だ?」


俺を睨みつける様にガッツは問う。

どこか居を突かれたという表情をしているのは、やはり考えたことがなかったのだろう。



「グリフィスは強かった、お前が来るまではな。

 まあ強いと言っても、あいつ個人としてだが。

 あいつの夢はあの頃はただの妄想に過ぎなかった」

「妄想って……お前らはその夢に賭けたんだろ?」

「あの当時の傭兵団の面子を思い出してみろ、皆20歳にも成っていない。

 それどころか、お前を始め成人(15歳)前の人間もいた」


俺は一息つきながらガッツを見る、興味は十分持っているようだ。

ならしっかり話して置いてやらねばならないだろう。



「鷹の団が本当にただの傭兵団から王を目指すグリフィスの駒になったのはお前が来てからだ」

「そんなはずは……」

「あの頃のグリフィスは無邪気だったが、誰にも心を許していなかった。

 グリフィスが心を許したのはガッツ、お前だけだ」

「バカバカしい、キャスカやジュドーなんかもいただろ?」

「そうか? お前に心を許しているのがわかったからこそ、俺やキャスカは嫉妬したわけだが」

「それは……」



心当たりがあるんだろう。

そういえば、幾重不明の時にキャスカはガッツにその辺話してたよな。



「間違いなく、王への道を突き進み始めたのはお前が来た事がきっかけだ」

「俺が……」

「あれから前線には常にお前がいたし、宮廷工作ですらお前を連れて行っている。

 将軍や王妃を殺ったのはお前なんだろ?」

「ッ!」

「やっぱりな。あいつはそういう弱味を他人に見せない。

 だが、お前だけは特別ってわけだ」

「それでも……俺はあいつの……」



やはりガッツの心に楔として穿たれているのは、グリフィスの言葉というわけだ。

不リフィスと対等の友人になる事は今は不可能なのにな。



「グリフィスが言った対等の友人か。それ嘘だぞ」

「嘘だと?」

「そもそもグリフィスに友人はいない。

 それに姫さんの前で言ったって事は姫さんがそう望んだからだろうよ」

「望んだ?」

「グリフィスはどこで芝居の心得を学んだんだかしらねぇが……。

 他人の望む姿に見える様誘導する事こそ、グリフィスの真骨頂じゃねーか」

「それは……」



ガッツの立脚点をかなり揺さぶる事が出来た様だな。

やはり、ガッツはグリフィスの事を理解しているわけじゃないんだろう。

戦場でのグリフィスの事はよく知っているんだろうが……。



「あいつは今、宮廷闘争がメインの舞台だ。

 そして、残る敵は国王本人と、宰相と中堅貴族達。

 当然、相手も二度の暗殺の事を掴んでいるだろうよ。

 どっちもグリフィスと関わった直後に死んでるじゃねーか」

「……手を出すのが早すぎたって事かよ」

「それもあるが、宮廷闘争なんてーのは、騙し合いだ。

 グリフィスは今寝る間を惜しんで宮廷の人間達を精査し、罠にかけるべく動いているだろうよ」

「……」

「風船ってのはな、破裂する寸前が一番大きく綺麗な形になる」

「……グリフィスが破裂寸前の風船だってのか!?」



信じられないという顔のガッツ。

まあ、グリフィス今でも人間として見られてない気がするしな……。

こいつに何もかも任せれば大丈夫って、どこの神様だよ。



「ああ、あいつは国王に手が届く所まで来ている。

 しかし、まだ何年か今のような状態で暗闘を繰り返す必要が出てくるだろう」

「かもしれねぇな」

「そんな気の重くなるような暗闘を何年も一人で戦い抜くのか?

 あいつは確かに凄い奴だが、人間なんだぞ!?」

「グリフィスが……人間……そうだ、人間だよな確かに……」

「考えた事がなかったってか?

 まあ、鷹の団の奴らはほとんどそうだがな。

 グリフィスだって疲れもするし、心の傷だってある、それに二度と立ち上がれなくなる事もある」

「……俺がか? 俺一人いなくなるだけで、アイツはもう立ち上がれなくなるってのか!?



ガッツは俺の襟首を掴み上げ、そのまま壁に叩きつける。

痛ってぇ……ッ!

全く、グリフィスもガッツも暴力を振るわずに話を聞けねえのか!?



「あのグリフィスだぞ!? アイツは夢のために皆を巻き込んでこんな騎士団を作り上げるようなやつだ!

 俺一人抜けたくらい、少しくらい傷になってもまた歩き出すに決まってるだろ!!」

「馬鹿言ってんじゃねぇ!!」

「ッ!」

「お前の立ち位置見てみろよ! 今、グリフィスの隣にいるのは誰だ?

 戦場から汚れ仕事まで全ての戦いに参加しているのは誰だよ!?」

「それは……」

「お前の代わりは誰がするんだ? キャスカか? ジュドーか? ピピンか? リッケルトか? それとも俺か?

 俺らをグリフィスがそこまで信用するものかよ!」

「ッ!!」

「俺らはな、グリフィスの夢に集ってるだけの虫だ。

 憧れても、決してグリフィスの隣には行けない。

 何故かわかるか?」

「……」

「弱いからだ、戦う力や精神性がだ。

 俺やピピンは単純に弱えぇ、ジュドーやピピンやキャスカはグリフィスに夢を見ている。

 だから、汚くドロドロした本当の心なんて見せちゃくれねぇよ。

 お前だからこそ、グリフィスは心を見せているんだ。

 そんなお前が、お姫さんの前で言ったようなグリフィスの建前に惑わされてるんじゃねぇ!」

「……」


ガッツが呆然として俺を離す。

ようやく届いたか、どっちも頑固だよな本当に……。

だがまだ安心はできねぇ。

この説得には命がかかってるんだ。



「何も、永遠に付き合えなんて言ってるんじゃねえ。

 グリフィスが王になるまで恐らく2〜3年だ、それくらいの間くらい待ってやってくれねぇか」

「……お前の言いたい事はわかった。

 だが、全面的に信用したわけじゃねぇ、だから……グリフィスに直接問いただす」

「好きにしな……」



結果論から言えば、ガッツは旅立ちを思い留まった。


そして僅か2年のうちにグリフィスは反抗勢力を抑え込み、国王への階段を登り切る。


もちろんそれで全てが終わったわけもなく、ミッドランド王としての戦いの日々が始まるだけだ。


ガッツはそんな中で貴族に馴染めず旅立つ、しかし、本来のそれとは違い手紙程度のやり取りはしているらしい。


時折、化け物は現れるものの、ゴッドハンドがいない関係上ゾッドのような最上級の化け物はほとんど現れなかった。


俺もどうにか、男爵の地位を手に入れ、鷹の団のメンバーからは距離を置いて逃げる算段をしている。


だって、よく考えたらゴッドハンドがいなくてもクシャーンは来るものな……。


ベルセルクの世界なんか大嫌いだーッ!!!














あとがき


16周年記念で投稿させてもらいました、ベルセルクの短編です。

いやー、ガッツが鷹の団から出ていかないならグリフィスは普通に王になってゴッドハンドになる事はない気がしたので。

とりあえず書いてみましたw

でも考えてみるとあの世界、他にも危険はいっぱいですやな……。

ゾッドってどうやって殺すんだろう? 骸骨の騎士と長年戦ってきて無事だし殆どゴッドハンドクラスだよな……。

クシャーンもどうしようもないや、グリフィス率いるミッドランドでどうにかなるだろうか……。

うん、考えたら頭が痛いっす(汗



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