このお話はコワレキャラが多数出てきます。

読む前に、コワレに対する免疫をつけて置いてください(爆)




AD2XXX年地球…

田舎から見れば都会、しかし、大都市から見れば田舎という、一般的な町の繁華街を駆け抜ける不思議な動物の姿があった…

姿形はフェレットというか、モモンガというか、そんな感じの茶色い動物だ。

大きさも30cm程度、別に不思議と言うほどじゃない、

しかし、それには普通の動物と決定的に違う事があった。


「急がなきゃ…」


それは、喋る事だ、ボイスレコーダーも腹話術師も見えないにも係らずそれは喋っていた。

奇異に思った人々が時々振り返るが、その姿は直ぐに人ごみにまぎれ見えなくなってしまった…









住めば都のナデシコ










ここは、中空町、田舎から見れば都会、しかし、大都市から見れば田舎という、一般的な町である。

その町の駅前で立ち尽くす一人の少女がいた…

少女は今年18になるので、もう少女というにはいささかトウがたっているが、それでも少女には違いない。

彼女はアイドルも裸足で逃げ出すほどの美貌と、銀糸の如く煌く髪を持ち、瞳は金色、日本人とは思えない姿をしているが、れっきとした日本人である。

しかし、そんな彼女にも悩みはあった…


「え? あの、潰れたって、店舗が壊されたんですか?」

『そんな訳無いだろ、倒産だよ、倒産』

「そんな…」


飲食店でウェイトレスをして生活費にあてていた彼女にとって非常に辛い事だった…

親が居ない彼女は仕送りは無い、国からの補助は受けていたが、生活費にはとても足りなかった。

本来支給される筈の補助金をある人間がピンハネしていたのだが、彼女はそれを知らなかった。

彼女は大学を推薦で入学できるほどの頭脳を持っていたが、その辺には疎かったのだ…


「またバイト先が潰れてしまいました…不況のせいでしょうか…」


カンカンカ ンカンカン……

ガタンガタンガタンガタン…


通り過ぎる電車に飛び込もうかと一瞬彼女は考えたが首を振り、気合を入れなおす。


「兎に角、新しいバイトを探せばいいだけの話です」


そう言い、彼女は駅前の本屋に入り込みバイト雑誌を立ち読みする。

店主は嫌そうな顔をしていたが、直接何か言ってくる様子は無い、彼女は構わずバイト雑誌をめくり続けた…


「技術職が多いですね…私でも出来るのは…これと、それと、あれくらいでしょうか?」


真剣にバイト雑誌を立ち読みする姿は、それはそれで絵になったのだが、

彼女は自分の欠点をきちんと認識していない、面接で中学生にしか見えないと追い出された事が多々あるのだった。

それでも、彼女にはバイトを探すしかないのではあるが…




そんな彼女の姿を少し離れた所から見ている動物が居た…

しかし、奇妙な事にその前足には双眼鏡のようなものが挟まれ、視界を覆っている。

その視界には、メカニカルな画面に数値が幾つも表示されるモニターが映っていた…


『トルルトゥトゥ』

『このバイトも駄目でしょうか…でも、このバイトは…』

「…ぴったり!」


フェレットに似たその動物は、思わず身を乗り出した…

その体が、車道に乗り出したその時、丁度大型のダンプが走ってきていた。


「ゲッ!!?」



バイト雑誌を立ち読みしていた少女がちょうどそこに居合わせ、表情を変える。

彼女は、それほど運動神経が良さそうに見えないのにも係らず、瞬間的に車道に飛び出す。

そして、フェレットのような動物を抱え込むと、次の行動を起こそうとするが、運動神経がついていかなかったのだろう、その場に座り込んでしまった。


「あ!」


ダンプは急ブレーキをかけ止まろうとするが、いかんせん距離が無い…

ダンプはその巨大な質量を見せ付けるように少女の目前に迫る。

その恐怖に少女が目をつぶった瞬間、ふと浮遊するような感覚にとらわれ、一体何が起こったのか分からないうちに彼女はその場から消えていた…


「きっ消えた(汗)」

「バカ! 寝ぼけてんじゃねぇ!」


トラックに乗っていた人達は目の前の出来事に唖然としている、街中を歩いていた人々も不思議そうに通り過ぎていく、しかし、数分もすると立ち止まる者も居 なくなった…

見たものは小数だったし、証拠が何も無いのである、後から来たものにとっては別段代わり映えのしない光景であった。

しかし、最初から居た者も中にはいた、ボサボサ髪の青年と、薄桃色の髪の少女である。

青年は歩道橋の上で、一人と一匹が消え去った方向を見ながら、目の前の少女に話しかける。


「今の動物知り合いか?」

「…少し」


青年はその言葉を聞いて、ふむと少し頷いてから少女を見る。

そして、その場から少女を連れて立ち去った。









その時、私は、その場から1Kmほど離れた工事現場まで飛んできていました、

とはいっても、目をつぶっていた私にとってその距離は一瞬の事。

その時は何が起こったのか分からず、呆けていたのですが…


「…? ここ何処です?」

「危ない所でしたねぇ」

「そうなんです、それでつい…」


話しかけられた私は、思わず返事をしましたが、目を開けた先には誰もいませんでした…


「助けてくれたんですよね、ありがとうございます」


私は混乱し、周囲を見回しました…そしてふとある事に気付いたんです。

腕の中にはフェレットの様な動物がいます、どうにも声はそこから聞こえているらしいのですが…

ボイスレコーダーでもつけているんでしょうか? そう思い私はフェレットの様な動物を眺め回します。

それを見て、心なしか焦ったようにフェレットの様な動物が飛び降りて、私を向きながらその口を開いたんです。


「っそ、そんなに見つめないで下さい(汗)

 あっ、そうだった、ご挨拶が遅れましたボクハーリーって言います。あのぅ…」

「腹話術とも思えませんし…ボイスレコーダーでもなさそうですね、ピンマイクでも仕掛けているんでしょうか?

 何にしても、私、からかわれてるんですね…」


私は少し悲しくなりました、表情は殆ど変わりませんでしたが、相手には伝わったのでしょう、

フェレットの様な動物は後ろ足だけで立ち上がりパタパタと前足を振り何か慌てている様に振舞います。


「わわわわわ!? からかってませんから! 本当ですよ! 信じてください!」


フェレットのような動物の口は本当に動いています…

よく仕込んでいますね、ここまで仕込める人が何で私をからかっているんでしょう?


「…信じてくれないんですね、分りました、これで信じてもらえますか?」

「!!?」


今度はフェレットの様な動物が空を飛んでいます…いえ、浮いていると言った方がいいでしょう。

しかも、私の肩の所まで来るとそのまますーっと乗ってしまいました。


「信じてくれました?」

「…いいでしょう、信じられるかどうかは兎も角、これだけの事をして見せたんですから何か私に用件があるんですね?」

「はい!」

「それで…」

「その前に、名前教えて下さい、ボクも名乗ったんですから」

「星野瑠璃…」


思わず本名を言ってしまいました(汗)

こういう時に本名を名乗るのは不味い気がします…

しかし、フェレットのような動物は嬉しそうに肩から飛び上がり私に向かうと、前足を私に向けて言います。


「瑠璃さん、バイトをお探しですね?」

「…はあ」

「我が社の、いえ、全宇宙の未来がかかっているんです!

 報酬もちゃんと勉強します! だからこの変身ブローチつけてくれませんか!?」


一瞬世界が凍った…

私の目の前に差し出されたそれは、確かにブローチです…

青いサファイアの様な宝石が中央に据えられ、その周りに金細工が施してあります。

かなりの値打ち物のような気もしますが、変身とは何のことでしょう?

差し出しているのがフェレットの様な動物と言う状況も凄いものがあります。


「変身…ブローチ…?」

「はい! 弊社が長年培ってきた玩具作りのノウハウを全て注ぎ込んだ自信作です!」

「おもちゃ…ですか…あなたは、一体どこの会社の人ですか?」

「おもちゃ一筋十万年! 全宇宙のお子様方のカリスマ! ネルガル社です!」

「ネルガル…聞いた事無いんですけど…」

「何か?」

「いえ、別に…」


何か、妙な迫力がありました…このフェレットの様な動物から気おされるような感じが…


「これが変身後の姿! 名前はナチュラルライチ! なにを隠そう、ボクのデザインなんです!」

「へっ…変…」

「なにかー?」


何か威圧されます!

この動物変です!

二足歩行している時点で変過ぎですけど(汗)


「いえ…別に…」

「ナチュラルライチの使命、それは銀河連邦警察公認パワードスーツとして採用されるべく、宇宙犯罪人を逮捕しその性能をアピールする事で、すなわち我が社 いえ、全宇宙の正義の味方として悪の犯罪者をバッタバッタとなぎ倒し…」

こっ子供向けのアニメ番組でしょうか?

だけど話すら聞いた事がありません。

それによくよく考えると、どうしてこんな動物が一匹、しかもおかしな芸までさせられてバイト探しですか?

これは、かなりの経営不振な会社でしょうね…


「さらにナチュラルライチには108の必殺技がー」

「バイトは他で探します」

「えー!!? そんなぁー、やっとぴったりの人見つけたと思ったのにぃー(泣)」


遠くの方で何か聞こえた気がしましたが、聞かなかった事にしましょう。

私は今でも十分大変なんです、これ以上変なことにかかずらっている暇はありません。

そう思って足早にその場を去りました。












中空町商店街、町の中でも最もにぎわうその場所に、今未曾有の大災厄が現れていた。

それは、金髪碧眼のグラマー美人であり、そしてその足元にある巨大なザリガニ…いやオケラの形をした巨大ロボットの事であった。

より正確に言えば、グラマー美人はロボットに乗って中空町商店街を破壊して回っているのだ。


「フフフフフ…ハーッハッハッ! やはり、外の空気はいいわ! この爽快さ、皆に説 明してあげたくなるわね!」


悲鳴を上げて逃げ回る町の人達を尻目に、オケラの巨大ロボットは商店を破壊し始める。

不思議と誰も怪我等していない所がお約束というか…


キシュルルル!


機械にしてはおかしな音を出しながらオケラロボットは更に激しく動き回る。

逃げ惑う人々の足の隙間を塗って商店街にたどり着いたフェレットの様な動物が驚きの声を上げる。


「えーもう来ちゃったんですか!? まだこっちの用意は出来てないのに!?」

「聞きなさい! 第三惑星の愚民達! 私は今日からこの中空町を支配する天才科学 者!

 ドクター、イネス・フレサンジュよ! さあ、私のやさしくコンパク トな説明を聞きなさい!」



逃げ惑う人々に向かって投げかけられるその言葉を聞くものは誰もいなかった…









私は近くの公衆電話から、電話をかけてバイトの面接をしてくれる所を探す事にしました。

言っておきますが、私に携帯はありません、あったらわざわざ公衆電話を使う必要は無いじゃないですか。

しかし、中空町には公衆電話が結構残っているので助かります。

もしかして、着替えをする新聞社の社員とか居るかも知れませんが…

いえ、忘れてください、ただ私がクラシックな映画を知っているだけです。


「あの…野村酒店さんですか? バイトの募集を見て電話をさせて頂いたのですが…」

『バイトォ! それどころじゃねぇ! 店潰れたんだぞ!』


ガシャン…ツーツー

いっ…いきなりですか…(汗)







その頃、商店街野村酒店…

店は残骸と化していた…


「ふん! 誰も私の説明を聞かないなんて! 酒でも飲まないとやってられないわ!」

「ちきしょう! 畜生! 早く自衛隊を!」


ゆっくりと歩き去っていく巨大オケラロボットを前に、野村酒店店主、野村広造(53)はただ嘆く事しかできなかった…





そんな、募集をかけていたはずの店が突然…

これが…


「け…経営不振なのでしょうか?」


いえ、落ち着かなくてはなりません、別にどんな理由で店が潰れたんだとしても、まだ一軒目です。

まだ諦めるには早すぎます!


「次の店にかけるだけです、次は焼き鳥屋さんですね…」


勇気を出して電話してみます。

しかし、バイトの話どころじゃなかったみたいです。


『店が潰れたんだぞ! バイトどころじゃねぇ』


やはり、不況の所為?







その頃の商店街…

焼き鳥やを叩き潰したオケラロボットの上でグラマーな女性が、酒をちびちびやりながら、焼き鳥を串から外してはしで食べていた…


「やっぱり、お酒には焼き鳥よね」


そんな呟きとともに、ロボットは進む、

既に商店街の3割近くがガレキの山と化していた…








これは、私の見通しが甘かったと言わざるを得ません、しかし、この程度でへこたれる私じゃありません!

これでも、不幸にはなれています。

この程度不幸と言うほどじゃありません!


「二つくらい問題ありません、片っ端から電話してみればいいんです」


私は気を取り直し、次のバイト面接先に電話をかけました。


「もしもし、バイトの募集を…」

プツン…


「もしもし、是非そちらのお店で働いてみたいと思いまして!」


プツン…


「もしもし! もしもし!」

『潰れちまったよ…なにもかもな…』


そんな、軒並み全てが倒産なんて…

まさか…

そんな事が…

不況って! そんなに怖いものなんですかー!!?







飲んでも殆ど顔色を変えない、グラマーな白人女性を乗せたオケラの巨大ロボットが町を蹂躙していく…

商店街の店も半数近くがガレキと化し彼女は色々な品物を操縦席の上に並べている。

それでも、彼女の表情はあまり嬉しそうではない。


「誰も私の説明を聞いてくれないのね…説明を聞いてくれたら、壊さないであげるのに…」


憂鬱気味の白人女性の下、逃げ惑う人々に必死に語りかける動物の影があった…

しかし、声をかけても大抵は気付かず行ってしまい、気付いてくれても気味悪がられるばかり。

それでも、懸命に声をかけて回っていた…


「あのー! ブローチ! 誰かこのブローチでー! 誰も話を聞いてくれない…

 駄目だ誰もボクの言う事なんて聞いてくれない…このままじゃ町が…」


何時までも全く収穫の無い状況に、動物が諦めかけたその時…

人ごみを掻き分け動物へと走ってくる少女がいた。

少女は、動物の前まで来て、一度息を整えると、動物に話しかける。


「考えを改めました、その変身ブローチ…貸してくれませんか?」

「へっ?」

「やっと分ったんだです、世の中が今、どの位の危機にさらされているのか…

 そして、その変身ブローチに全てを賭ける道しか私には残されていないと言う事が…」

「すっ、素晴らしい正義感です!」


少女のやる気をどう勘違いしたのか、動物は手放しで喜んだ。

そして、ブローチを取り出し少女に近付いていく…



「あの、そういうわけではなく、バイトを探して回ったんですけど軒並み経営不振で…」

「さあ瑠璃さん! そうと決まれば早速!」


そして動物は、瑠璃と呼ばれた少女にブローチを渡した…

その瞬間、周囲全てが光に包まれ、その中で瑠璃の衣服が瞬間的に分解。

それぞれ、パーツごとに分けられた衣装が光として出現し、瑠璃にまといいつく…

それらが、肌に触れると同時に実体化、体を包むパワードスーツと化す。

だが、見た目は極薄の布地にしか見えない…

それらは、複雑に絡み合い一つの衣装と化した。

そして、そこにはある種の共通概念の具現化が巻き起こる。

即ち魔法少女である…








私はあまりの出来事にどう驚いていいか分らず立ち尽くしていましたが、段々自分の姿がどうなっているのか分ってきました…

ナチュラルライチ…でしょう、多分…

私はこんなひらひらの衣装は持っていませんから。


「これは…もしかして…変身…ですか?」


いつの間にかまた肩の上に乗っているフェレットの様な動物…いえ、確かハーリーでしたね。

ハーリーが耳元で話しかけてきます。


「もちろんです、貴方はは今この瞬間から、銀河連邦警察採用候補、株式会社ネルガル特殊汎用パワードスーツ、ナチュラルライチなのです!」


突然そんな事を言われても…

私が戸惑っている内に、商店街を破壊していたオケラの巨大ロボットがこっちにやってきます。

まっ…まさか…?


ドシューン!


オケラの巨大ロボットの前足が、私達の目の前の地面に叩きつけられ、地面を抉り取ります。

TV等とは迫力が違います、見た目は間抜けでも、本物だけあって威圧感が凄まじいです。

私は、直ぐに身の安全を確保しなければと思いました。


「ん!? ふっふっふ! 現れたわね! 私に立ち向かうとは良い度胸ね! 貴女がどんなに無謀な事をしようとしているかじっくりたっぷり丁寧に説明しま しょう♪」

「ふっふ〜んだ! もう好きにはさせないよ! さぁあ! ナチュラルライチ! あのロボットを倒して! A級宇宙犯罪人ドクター、イネス・フレサンジュを 逮捕してください!」

「…ってこれおもちゃじゃなかったんですか?」

「へ!?」

「てっきり唯のおもちゃだと…」

「え!? だっだって、最初に言ったじゃないですか! 銀河連邦警察に採用される為に作ったって!!」

「でもおもちゃメーカーが作ったんでしょう?」

「おもちゃメーカーが作っちゃいけないんですか!?」

「っていうか、銀河連邦って何ですか!? 貴方は宇宙人!?」

「今はこれ以上説明している暇はありません」


混乱する私に、ハーリーはどうすることも出来ず、兎に角、戦えと言ってきます。

でも、私は自分が特別じゃない事を知っています。

精々人より記憶力がいい位です。運動能力は人並み以下しかありません、そんな私にどうしろというんですか!?

とか考えている内にも、オケラのロボットは迫ってきます。


「さぁ、怖気づいたのかしら? まあ、宇宙一の天才科学者の私を相手に無理は無いとは思うけど… 来ないのならこちらから行くわよ」


上に乗っているグラマーなおばさんが、何か言っています。

でも、私は…


「嫌です!」

「戦ってくれなきゃ困ります!」

「でも、バイトじゃないですか…命を賭けなきゃならないなんて聞いてません!」

「ですから、報酬はちゃんとお支払いしますって!」


何を言っているんでしょう、このフェレットは…

生きていく為にバイトをするのに、バイトで命の危機になってどうするんですか!?

でも、周囲の状況は考える事を許してくれません、直ぐにオケラの巨大ロボットが迫ってきます。


「私の説明を聞きなさい!!」

「うひぅ!」

「うぎゃ!」

「やる気が無いにも程があるわね、貴女の心理分析の説明をしてあげるわ!」

「結構です!」


その時、空からいきなり何かが現れオケラの前足を蹴り飛ばしました…

私達の目の前の空中で静止しまるでかばう様に立ちはだかってくれます。

でもその姿は真っ黒な全身タイツと黒マント、黒いバイザーという街中ではちょっと遠慮したい格好です。

人のことは言えませんけど…



「え!?」

「あれは!?」

「お前の相手は俺がしよう、プリンスオブダークネスと言えば分かるかな?」

「ふ〜ん、貴方がもう一人のパワードスーツモニターね?」

「うわ、明日香インダストリーが!」

「あの人誰ですか?」

「明日香インダストリー社のパワードスーツ、プリンスオブダークネスです!」

「そうではなくて、彼が何者かですが…」

「正体がばれたら終了になるんです! 分かるわけないじゃないですか!」

「そんな事は始めて聞きました」

「ふふ、ネルガル社と明日香インダストリー社がそろい踏みとは好都合、ここで一気にお前たちの正体を暴き、

 二人まとめて倒した後で人生に関する説明半 年コースを聞かせてあげるわ。

 そうすればめでたく私は無罪放免と言うわけね!」

「さぁてどうかな」


私達の前に立ちふさがった男の人は空中に位置したまま巨大オケラに向かって突撃をかけます。

巨大オケラはその一撃で片足がちぎれて落ちました、オケラが脆いのか男の人が強いのかは分かりませんが、なんか凄いです。

私は男の人の動きを目で追ううち、近くにまだ避難していない少女がいることに気付きました。

桃色の髪してと白いマントを羽織り、男の人とは色違いの白いバイザーをつけています。


「がんばって、アキト…プリンスオブダー クネス!」


その言葉に答えるように男の人は空中で一回転すると、大型ロボットとの戦闘に入りました。

その姿に私は見ほれてしまいそうでした…

争いごとは嫌いですが、彼の動きが洗練されている事だけはよく分かったんです。


「やりなさい!」


キシャー!!


「ふん!」


ドカ! バキ! という激突音をさせながら、彼らの戦闘は続いています。

申し訳ないとは思いますが…

私には無理です。


「さて、帰りますか」

「えっ、ちょっと! ここまで来てそれは無いです! 覚悟を決めて戦ってください!」

「でも、他の人が誰かか戦ってるみたいですけど…」

「あれは我が社のライバルです!」

「…私には何が何だか分かりません、兎に角、嫌です! このバイト終わりです! これまで! 一件落着です!」


そういって、私は逃げ出す事にしました。

だって、こんな常識外の出来事に一々付き合っていられません!

私は生活が大変なのに!


「追いなさいオケラン! たたきのめすのです!」


逃げる私に巨大ロボットが追いすがってきます。

プリンスオブダークネスは、何があったのかかなり引き離されてます。

遠くから見るその足元には、折れ飛んだオケラの前足が絡み付いています。抜け出せないのでしょうか?

直ぐに、オケラの巨大ロボットは私達に追いつきました、あの巨体でどうしてこんなに早いんでしょう…

背筋がぞっとします。


追いついたオケラの巨大ロボットは、一本だけ残った前足を振り下ろしました。

振り下ろされた場所が爆発、私は吹き飛ばされました…


「ありがとう!」


思わず抱え込んでいたハーリーに礼を言われますが、こんな場所に放り込んだ張本人に言われるのも腹が立つので掴んで投げ飛ばしました。


「うわぁ!」

「はははは! なさけないわね! ネルガル社! やはり人選をあやまったようね!!」

「ナチュラルライチ! バイト代はしっかりお支払いします! 新しい住まいも、水道光熱費も、食事も、保険も、全て経費で落とします!」

「嫌な物は嫌です!」


それは、私だって人の役には立ちたいと思います、でも暴力って嫌いなんです。

だって、誰かが暴力を振るえば誰かが怪我をするじゃないですか…

そうしなければならないと分かっていても、私には…


「あぶないぞ、さっさと避難しろ」


その時、またプリンスオブダークネス…確か、意訳は悪魔だったと思いますが、でも目の前のその人は、まるで黒い王子様の様にかっこよく見えました。

私は思わずポーッとしていましたが、また戦闘の音が遠ざかるのを見て、一息つきました。


「黒い王子様…」

「ナチュラルライチ! こうなったらやむを得ません、最後の手段です。腰にさしてあるステッキにに黄色いスイッチがあります、それを押してください!」


へ!? ステッキですか!? って、ハーリーは遠くにいるのに声は近い…

ハーリーが頭にマイクをかぶっているところを見ると、私のとことまでの通信手段みたいですが、私にはそんなの…

いえ、まあこの際どうでもいいです、胡散臭い事この上ないですが、この際この場をどうにかできる手段があるのならやってみることにしましょう。

私は腰にさしてあった棒っぽいものを引き抜きました、精々15cm程度のそれは、引き抜くと一気に50cm程度まで伸び、リリカルというか、装飾過多なス テッキへと変形しました。


「おりゃ! うお! ハア!」

「やるわね! でもこれはどうかしら!」

「!」

「まだ逃げてなかったのか!?」


二人がこちらの方を向いたみたいですが、黄色いスイッチを押した後、

目の前に表示された半透明の立体映像で出来たコンソールに集中していたので、そのときは気付く事ができませんでした。


「目の前に初期設定パネルが開きましたね、その中にBGMの項目があるはずです」

「BGM…BGM…ない…」

「そりゃあ、地球語に変換してませんから…」

「普通にBGMってどうして入れてないんですか!! いえ、いいです、それじゃあ地球語に変換する方法を教えてください」

「端っ この赤いボタンを入れてくれれば変換されるはずです。そしたらBGMをONにしてください! そうすれば、頭部りぼんよりBGMが流れ、同時に耳には聞 こえない特殊な超音波、熱血α波が発生します! その催眠効果によりどんなに気の弱い人でも正義に燃える熱血ヒーローに生まれ変わるのです!」

「卑怯者め、俺と戦え!」

「BGM…熱血α波…これですね!!!」

「弱い奴から倒す、戦いの鉄則よ!」


ドッゴオォォォォン!!


私がボタンを押し終わるのとほぼ同時に、私のいた場所は大爆発を起こしました。

あとに残ったのは、ただ、穿たれた穴と、そこから引き抜かれるオケラロボットの前足のみ…


「ナチュラルライチ!!」

「まあ、運がなかったと思って諦めて頂戴」


でも、私この時死んでいた方が幸せだった気がすることもあります(汗)

だって…











突然、太陽の光が陰り、別の光が差し込む…

その光に向けて、皆が視線をめぐらすと、電柱の上に人影があることに気付いた。


「アテンションだよ!」

「え!? なに!?」

「!!?」


先ほどまでの光が和らぎ中にいる人物が目に映る…

それは、蒼銀の髪と金色の瞳を持つ少女、赤やピンクといった原色のひらひら服を完全に着こなし、

年齢的にはおかしくとも、見た目は子供、魔法少女そのものの姿でたたずんでいる。


「株式会社ネルガル製造超特殊汎用パワードースーツナチュラルライチ! 気持ちを新たにただ今参上だよ! 可憐な乙女心を踏みにじる貴女なんて許さないん だから!」

「なっ何!? 急にノリが変わった?」

「熱血α波間に合ったんだね!」

「行くよ! ドクターイネス!」

「何!?」

「ライチライチェルライチェルライチ! ナチュラルホームラーン!」

「そんな小さなステッキで、私のヲケランをどうにか出来るとでも…」


カーン!!


あ…!


ききゅーおきゅーお!


ステッキでホームランは間違ってるわ〜!!?」


そして、イネスはヲケランごと星になった…

そう、ナチュラルライチは場外級の大ホームランで彼女らをぶっ飛ばしたのだった…


「あきれた…(汗)」

「帰るか、ラピス」

「うん」


プリンスオブダークネスとその連れの少女は、どこと無く気抜けした表情でその場から離れていった。









目の前で、瓦礫の山にのぼり勝利のポーズを決めているナチュラルライチを見ながら、ハーリーは、嬉しさをかみ締めていた。


「あっ、あれ? ナチュラルホームランってあんなに威力あったっけ!? う〜ん、まあいっか! …マロンフラワーにも脱出されて結果は今一つ…だけど、初 陣にしては上出来だね!」


ジーンと体全体で感動を表していたハーリーに突然呼び出し音が鳴る…


ピピピ!!


「テットロピット・ハーリー!?」

「あっチーフ! たった今!」

『待て、こっちが先だ! 実はある重要なパーツを付け忘れていたことが判明した! 熱血α波発生装置だぁ!

 しゅまーん、掃除をしていたらタンスの後ろから出てきたんだ…


 これがなければ、BGMを流しても催眠効果など一 切無い! くれぐれも熱血α波を戦力のあてにはするなー!!』


その言葉を聞き、ハーリーはいわれの無い寒気に襲われる…

そして、ギギギという効果音が聞こえてきそうな動きでナチュラルライチに振り向くと。


「って言う事は、この人…ただ音楽に乗ってるだけー!?」

「正義は勝つのです!」

『どーうした!? ハーリー! 聞いてるのかぁ!?』

「聞かなかったことにします…」


ハーリーは虚脱した表情になり、そのまま通信をOFFにした。


「ヴイ!!」


ナチュラルライチの決めポーズだけがこの場を支配していた…













中空町の一角、新築のアパートと思しき場所に、今一人と一匹が近づきつつあった…

一人は誰もが振り向いてしまうような美貌でありながら、童顔幼児体型のため、今だ中学生に間違われる少女瑠璃。

一匹は、フェレットのようなモモンガのような動物だが、実は宇宙人の一種であるハーリー。

普通でない二人は普通でない会話をしている最中だった。


「ほら、あれが、銀河連邦警察の用意してくれた新居! ナデシコ荘だよ!」

「ナデシコ荘? 綺麗なアパートですね、ひょっとして新築ですか? 宇宙人によくこんな物件が手に入れられましたね」

「ちょっと! それは秘密ですよ! 秘密!」

「関係ありませんよ、別にちょっと変な子だと思われるだけです」

「それだけじゃないんです! 瑠璃さんがナチュラルライチである事も、本当はボクがペットじゃないことも、全部秘密にして暮らさなきゃならないんです!

 それが、パワードスーツ審査会の定めたルールなんですよ!」

「頭悪いですね、どれも言った所でバカにされるだけです。あんまり言っていると病院に連れて行かれますよ」

「…そうかなぁ?」


そういっているうちに、ナデシコ荘の正門前にやって来ていた…












ナデシコ荘を挟んで反対側の道…

そこには、先ほどホームランでぶっ飛ばされたイネスと御つきのロボットの姿があった。

ロボットの姿は古式ゆかしい頭部が透明の電球型とでも言えばいいのか、ドラム缶に手足をつけた様な形をしている。

その前を歩くドクターイネス・フレサンジュはダメージを隠せないのかかなりふらふらしていた。


「はあ、大変な目にあったわね…」

『マスター、あまりお怒りになると血圧が…』

「私はまだ若いわよ!」

『はい、マスター』


イネスに突っ込みを入れられてもロボットは全く気にすることなく、後をついてくる。

ある意味当然の事だが、しかし、妙に二人は馴染んだ行動を取っていた。


暫くしてナデシコ荘が視界に入ってくると、イネスは素早く白衣を脱ぎ去った。

すると、中に着ていた服が露になる。

中に来ていたのは女課長を髣髴とさせるビジネススーツだった。

髪の毛も、金髪から黒髪へとかわっている。


「SAYURI、兎に角、地球人タイプに変形なさい」

『了解です』


言われると同時にドラム缶がかくかくと変形を始めると一瞬の内に人間女性の姿に変わる。

どう見てもありえない変形だ、流石に製作者であるイネスも不思議そうに見ている。


「変形完了ですわおねえ様」

「SAYURI…もう一度良く見せてくれない?」

「おねえさまったら…うふっ、私の名前は篠田早百合、そしておねえ様は篠田稲須。

 さあまいりましょう、銀河連邦警察が用意してくださった現地滞在住所へ…」

「えっ、ええ…」


早百合のあまりの変わり身の早さにおいていかれてしまう稲須だった…








私が正門の前に来た時、道の反対側から来る二人の人影があることに気付いたんです。

最初は、特に何も感じなかったんですが、近付いてくると何か違和感が出てきました、彼女達の年上と思しき人物に見覚えがある様な気が…


「あ?」

「へ?」

「あのーこちら…ナデシコ荘でしょうか?」

「はい、そうですが…」


どっかで…あった様な…

相手のほうも不思議そうな顔をしています。

お互いに疑問符を浮かべたような顔つきになっているでしょうが…

ここは、生活の為、思い出せない事を考えるのはやめましょう。


私達は、どちらからとも無くお互いの手を握り握手を交わしました。


「はじめまして、これからこのアパートに住む独身姉妹よ」

「こちらこそ、平凡な苦学生とそのペットです」


私達はお互いぎこちなさが残っている事を感じていましたから、

打ち解けようとお互いに話を続けることにしました。


「私達も今日からなんです」

「それは、奇遇ね」

「運命的ですね」

「うふ、本当に…あの、これからもおねえ様ともどもよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「「「はははは」」」


違和感が残った気もするんですが…気のせいですよね。









ナデシコ荘の一室、瑠璃が眠りについたことを確認してから、ハーリーは窓の外、満天の夜空を眺める…

彼は、今日起きた事を反芻するように、空をただ見つめている…








というわけで、今日は宇宙犯罪人を逃した物の、ナチュラルライチに変身してくれるモニター瑠璃さんと一緒に入居完了しました。

ちょっとめんどくさがりな気もするけど、うんうんボクがバックアップすれば大丈夫!

我が社の命運を賭けたこのプロジェクト、瑠璃さんと二人できっと成功させてみせます!


「うあ」


見ていてください…






そんな風に呟くフェレットの言葉は唯宇宙へと飲み込まれていくのだった…











あとがき


まあ、そんな訳で10万ヒット記念として

ナデシコ×住めば都のコスモス荘という、無茶な短編に挑戦してみました。

キャラがコワレまくってますが、気にしないで下さい。

あくまで短編ですので。

今後も余裕があれば記念時に変わった短編を書いてみたいと考えています。

 

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