「あら、それは違います。王侯貴族の間では自分で体を洗ったり、着替えたり等はなさらないので御座います」

「何百年前の話だ! それに俺は王族でも貴族でも無い!」

「あらそれは残念ですわ…内密のお話があります、湯殿の中までは盗聴器もありませんので…」


一瞬で表情を引き締め、シェリーが言ってくる。

丁度良い、俺も聞きたい事が有る…

しかし、服を着たまま脱衣所を通り過ぎ様とした俺をシェリーが呼び止めた。


「まさか、服を着たまま浴場に向かうつもりですか?」

「会話なら問題ないだろう…」

「はあ…

 ご主人様が恥ずかしがり屋なのは良く分かりましたが、

 浴場に裸にならずには入るのは、かなり不自然だと思うのですが…」

「裸にならないと駄目か?」

「駄目です」

「はあ…(汗)」


その日…結局俺はシェリーに裸を見られた挙句、

“森にある秘密を教える代償”として体を洗われてしまうのだった…(泣)






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第四話 「メイドさんはいかが?」(後編)その2



それから暫く……俺は体を洗われるという事態のせいで

思考停止状態に陥っていたが、脱衣所を出る時にようやく復帰した…

廊下を自分の部屋へと向かおうとしたが、昼にアメジストの言っていた事を思い出し、

アメジストの部屋へと向かう…

アメジストの部屋は俺の部屋から見て左に5つめの部屋だ。

コーラルと迷った時に通ったので知っている。

そして部屋の前まで来た時、聞きなれた音楽が聞こえた…

これは…

ゲキガンガー!


「なっ…どうなっているんだ?」


俺はアメジストの部屋をノックする。

しかし、聞こえていない様だ…

仕方ない…


(アメジスト、扉を開けてくれないか?)

(あ、アキト来てくれたんだ…

 うん、入って)


ガチャっという音と共に扉が開く。

その時…


『ジョー!!』

「アキト入って」

「あ…ああ」


これは…ゲキガンガー第26話“海燕ジョー暁に死す!”

いや、そんな事はどうでも良いんだが…何故ゲキガンガーをここで見られるんだ?

それに、これは男のアニメなんだが…アメジストはどこが気に入ったんだろう?


『海燕ジョーの犠牲により辛くもマツサカ将軍の挑戦を退ける事が出来た…』

「なあアメジスト、ゲキガンガーの何処が気に入ったんだ?」

「分からない。でも、気がついたら気に入っていた」

『ジョーー!!』

「それは、やはり俺の所為か…(汗)」

「そうかも…でも、そんなアキトも気に入っているから」

『再び蘇る事が出来るのか…』

「そう言ってくれると救われるな」


その言葉を聞くと、アメジストは俺に微笑みかけた。

俺も緊張が抜けて頬が緩む…

しかし、アメジストは不思議だ…

俺の記憶を元に人格を形成しているというのに、基本的に自分が女性である事は知っている。

俺の人格を模写している訳でもない・・・

俺の事は信頼している様だが、前のラピスの様に自分と同一視しているかと言われれば…それも多分違う。

人格形成から成熟までの速度は凄まじい物があった。まだ二次成長はしていないがそれも間も無く来るはずだ…

…もしかしたら、アメジストはマシンチャイルドではない のかもしれない・・・



それから俺達は三十分程ゲキガンガーを見た…

そして、昼に気になっていた事を聞いてみる事にする。

しかし盗聴器の類に無頓着だったせいで、ラピスとの会話は聞かれたのだろうな…

もっとも、あの会話から分かるのは精々俺が人探しに明日香インダストリーを利用するつもりで居る事位の筈。

<ナデシコ>にしても、まだネルガルは相転移炉式戦艦に名前を付けていない筈だ。

今は一月…出航は十二月だから、完成は早くとも八月以降だろう…

大体ナデシコなんて名前、戦艦に付けるとは思わないだろうしな…

兎に角、アメジストとの会話はリンクを使って行う事にした。


(アメジスト、昼に言っていたあの男の事だが、何が危険なんだ?)

(あの男は…ゴドウィンは…

 私を…

 私達を研究していた男の一人…

 あの男は私達を“地球から連れてきた”と言っていた…)

(私達?)

(私を含めて七人、同じ子供が居た…

 皆意思を持っていなかったから、実験されても抵抗するものもいなかった…

 そして、私一人になっていた…)

(すまない…)

(良いの。

 多分私が生まれたのはアキトのおかげ…

 そういう意味では、私は本当の娘だね…)

(ああ…そうだな…)


娘か…

アメジストは俺の事を父親だと思ってくれているのだろうか…?

だとしたら、俺もその事に出来るだけ報いてやりたい。

しかし、ふと思い出す事もある。俺には既に娘と言える存在が二人いる…

ラピス…部屋で待っているだろうな…早めに帰らないと…

ルリちゃん…今どうしているのか…

いや、今その事を考えても仕方が無い…

今は聞いておくべき事を聞いておかなくては…


(しかしあの男…火星では見なかったが?)

(アキトが来る半年前、ラネリー達と意見が合わなくなって地球に帰った…)

(そうなのか…)


ならば、奴は独自に何か研究をしている可能性が高い。

それも、アメジストに関係のある…


「すまないアメジスト、辛い事聞いたな…」

「二度も謝らないで! 私はアキトの心から生まれたアキトの影…

 これでも、アキトの事は良く知っているつもりだよ」

「そうだな…」


確かに…アメジストは俺の記憶を引き継いだ、俺の

・・・俺の…?


「…って、一寸待てい!

 何だその俺の影って言うのは!」


「そのままの意味。私は何時でもアキトと一緒」 

「頼むから、そういう事を軽々しく口にしないでくれ…」

「分かった、口には出さないようにする」

「はあ…」


だめだこりゃ…

俺はこの後アメジストを説得しようとしたが、意外にも頑強に抵抗された…

仕方ないので<口には出さない>と言う事で妥協し、部屋から出る事にする。


「じゃあ…また明日」

「うん…あ、一寸待って…

 これ、必要になると思うから…」

「ん…?」


アメジストに手渡されたのは、小さめのスポーツバッグだ。

二人を担いだ時俺も見ているが、俺のための物だったのか…


「少し事情を話したら、セイヤさんが作ってくれたの」

「な…何処からだ?」

「火星の事からだよ…」

「そうか…」


しかし、セイヤさんに事情を話すとは…

確かにナデシコメンバーの中でも頼りになる人物の一人だが…

はあ…そのうち挨拶に行かねば……


「セイヤさん《今はそれだけだけど、その内色々作るから》って言ってた」

「そうか…」


まあ、セイヤさんの作品はきちんと作動してから暴走する物が殆どだから、余り使わなければ大丈夫だろう…

しかし、セイヤさん何処かで言ってるんだろうな…

あの一言…(汗)


(それと、バイザーはラピスが持ってるよ)

(分かった)


俺はこの後、自分の部屋に一直線に戻った。

ラピスの機嫌はかなり悪化している事だろう…

うう…かなりご機嫌を取らねばならないな…

扉を開け、部屋に戻る。

異様な空気に肌がひりつく…

そこでは、ラピスとコーラルが何やら火花を散らしている…

二人の中間にあるテーブルには、ココアの袋が置いてある…

どうやら、俺が遅い事でもめている訳では無い様だ。

不穏な空気を感じたが、俺はとりあえず声をかける事にした、


「二人とも、どうした?」

「アキト!」


ラピスがいきなり俺にしがみつき…

そのまま、俺に訴える…


「アノメイド、私がココアを飲ンジャ駄目ってイウノ…」


は?

むう…良く分からん。

兎に角、コーラルに聞いてみるか…


「どう言う事なんだ?」

「だって、このココア…

 私がここに来る船の船員さんに無理を言って取り寄せてもらった物なんです…」

「ん? どういう事だ…?

 ココア位搬入される物資の私物枠でどうにかならないのか?」

「私物枠ですか…

 私それ無いんです…」


コーラルは何か悲しそうな表情になった…

どう言う事だ?

そう思っていると、コーラルは話の続きを話し始める…


「私、この島を出た事無いんです…

 メイドは沢山いるんですけど、この島を出た事の無いメイドは皆この島の外へ行ったり、

 自分で何かを取り寄せたり出来ないんです。

 だから…そんな私達が欲しい物を手に入れたい時は、船員さん達に頼んで…

 客間に隠しておくしかないんです」


そうか…あのゲキガンガーのディスク、そういう事だったのか。

まあ、そんな事より今は…


「…ここで生まれたのか?」

「それは…私、ここ数ヶ月より前の記憶があやふやで…

 ただ…いえ、良く分からないんです。

 ですが、島を出た事の無いメイドは皆そうなんです…

 半年より前のきちんとした記憶がある人はいません」

「それは…」


いや、口に出すのはマズい…

今はこれ以上突っ込んだ事は聞かない方が良いな。

今のままでもかなり拙い事を聞いているはずだ…

盗聴器の事を考えると、迂闊な発言は命取りになりかねない…


「わかった。こうしよう…

 ラピスにココアを作ってあげてくれ」

「そんな!?

 私の事そんなに「いや、あのな」」

「代わりに俺がココアを買ってきてやるから…何なら二袋でも三袋でもいいぞ」

「本当ですか!?」

「ああ」

「百年後とかそう言うのは無しですよ!」

「一週間以内に必ず」

「分かりました!」


その言葉を聞くと、コーラルは喜々としてココアを作り始めた。

ラピスはココアが出来るのを椅子に座って待っている…

丁度良い、ラピスとのリンクを試してみるか…


(ラピス…ラピス…)

(アキト?)


ラピスが驚いた様に振り返る…

俺が融合してから始めてのリンクだ。確かに、驚いてもおかしくない…

ラピスは目を見開いたまま俺に心を飛ばす…


(アキト…モウ繋がれナイカと思ってタ…)

(ラピス…すまない…だが…)


やはり、折角感情表現が出来るようになってきたのにリンクしたのは拙かったか…

そう考えていると、ラピスは俺に飛びつき泣き始めた…


「本当に不安だっタ!不安ダったノ!」

「…すまない」

今マデ、もう繋ガレないっテ思ってタ!

 でモ…

 繋がレて良カっタ…」

(ラピス、頼むから口に出して言わないでくれ…)


俺の忠告も虚しく…

既に今の言葉はコーラルに聞かれていた…


「あああ…の、そ…う〜(///

 …きゅ〜………

          バタッ…


コーラルは何か言いたそうにしていたが、頭に血が上ったのか倒れてしまった…

仕方ないので俺のベッドに寝かせておく。

運び終わるとラピスとのリンクを再び開く…


(ラピス…バイザーを出してくれ。今はあれの機能が必要だ)

(ワカッタ…)


バイザーには赤外線スコープと電波探知の機能がある。

この後森に向かうのに役立つだろう…










数時間後――

俺はコーラルの隣りでラピスが眠るのを見届けた後、スポーツバッグを開けて中身を取り出した。

中に入っていたのは、見慣れた黒い全身タイツのスーツと黒いマント、そして手紙が一枚…

手紙にはこれらの性能と使い方が書かれていた。

スーツは防刃・防弾繊維で、レーザーもある程度防げるらしい…

グローブにはスタンガンを仕込んであると書いてある。

マントは光学迷彩が使えるシステムが組み込まれている様だ。

…そして、手紙の最後に…

『あんまり、子供に心配かけさせんじゃねえぞ』

そう書かれていた…


「セイヤさん…」


やはり、今も昔もセイヤさんは…

年下好き…というかロリコンだけど、おせっかいで良い人だな…



俺はそれらを身に付け、部屋を出て光学迷彩を発動させる。

その後、タカチホとムラサメの部屋に手紙を差し込み屋敷を出た…

警備員やSSが巡回しているが、気配だけで俺を見付けられるほどの達人はいない。

一度も見つかる事無く森の手前まで着く事が出来た。

光学迷彩はバッテリーが30分しか持たないので既に切っている。

俺は森の前で、暫く待つ事にした…





待つ事一時間……

気配を潜めて、一人の女性が現れた。

森の手前とはいえ、深夜のこの時間…もう周囲を見るのはかなりつらい。

50mも離れれば輪郭が精々だ…

しかし、気配で来ているのがムラサメだと分かる…


「ムラサメ」

「ひゃ!? …アンタ誰?」


ムラサメは俺が近くにいる事に気付いていなかった様だ…


「俺だ」

「何だ、アキトか…でもその格好…

 雰囲気も何だか違う…」


ムラサメは何か不安を感じている様だ。

まあ、俺の場合…

この姿になるとやはり気持ちが<あの頃>に近付くのか、

どことなく心が研ぎ澄まされるのは感じているが…


「ところでムラサメ…お前、刀を持ち込めなかったのに大丈夫か?」

「あっ…うん。太刀は無理でも懐刀位は持ち込んでるし」

「刃物が好きなんだな…」

「いや〜…ははは」


ムラサメは愛想笑いで誤魔化したが、かなり本気でそう思っている事は明白だ…

だが、今この場でそんな議論をするつもりはない。

俺はムラサメを伴い、森に足を踏み入れた…


「お前が来ているという事は、タカチホが屋敷内の調査を行うという事だな?」

「うん。タカチホはあれでも銃の腕は一流だし、何より誤魔化すのが上手いしね。

 それに、彼女も何丁か銃を持ち込んでるから…アメルやラピスも心配無いよ」

「なるほど」


さすがというか、タカチホさんはかなりやり手らしい。

直接戦っても負ける気はしないが、彼女ならそれ以外の方法でどうにかしてしまいそうだ。

俺達は程なく目的地に着いた。森の中にはシェリーの付けたと思しき目印もある…


「ねえ、あのエセメイドの言っていた事信じるの?」

「さあな…しかし俺達の部屋の盗聴器の事も、この目印も本当だった。

 なら、この次も信じてみる価値は有る」


シェリーは俺に何かをさせたがっている。

その事は感じている…

しかし、あのオーバーアクション女は今回に関しては信用できる。

何故なら、ここの秘密を彼女はもう知っている筈だからだ。

俺に教えるまでも無く、雇い主に告げれば島を出る事が出来る筈…

もちろん、どうしても手に入れたい物がある可能性も有るが、

それだと、俺達を巻き込む事によって俺達の手に入る危険性も出て来る…

そんなリスクを犯すぐらいなら、彼女の雇い主に応援を要請した方が良い筈。

だから、その可能性も低いだろう…


ムラサメもその事に思い至ったのか、納得したふうに


「分かった。アタシはアンタに従うよ、なんたってカグヤ様が選んだ人だからね」

「そうしてくれ」


さらっとまずい事を言われたが、気にしないで置く事にして…

森の段差になった所に手を置き、手順通りに入り口を開ける。


     プシューッ


圧搾空気が排出されるような音がして、森の地肌に見えた所の扉が開く。

全て、合金と合成樹脂で出来ていた様だ。入り口は随分メカニカルだった…

内部にも、様々な機械類が張り出した廊下が続いている…

しかし、何十mか進んだ辺りで雰囲気が変わった。


廊下の壁が不思議な発光をしている。


光の筋が走りながら、俺達を先導しているようにも見える…

ムラサメが警戒を強めたが、今は無駄だろう。

この地下道全体が不思議な気配を発している…

しかし今の所危険な感じはしないので、廊下を進んで行く事にした…

緊張の連続でムラサメはかなり参っている様だ。

声を潜めて俺に話しかけてきた…


「アキト…なんかヤバイよここ…」

「そうだな…だが、

 だからこそ何か有る筈だ。侵入者へのトラップにしては大仰過ぎる」

「そうかもしんないけどさ…」


俺達は更に歩き続け、やがて円形の大広間の様な場所に出た。

中央の小さなプレートから光が走り…

そして、徐々に部屋全体が照らし出される…

これは、まるで…


「…遺跡…」


光の線が独特の紋様を浮かび上がらせている…

この部屋は、火星極冠遺跡と同じ様な構造になっているようだ…


「何? これ…」

「これは…」


ムラサメが何かを見つけ指差す。

そこには…


「アメジスト…」


アメジストと同じ姿をした少女達が培養層に浮かんでいた。

部屋の端に一基づつ、円を描くように配置されている…

培養層は十基並んでいるが、アメジストに良く似た少女達は三人しか確認できない。

まさか、ここはあの男の…?

俺は部屋の中央に据え付けられている<プレート>を見つけた。


     …黒いプレート…


周囲に対して光を送り出している様に見える…

俺はプレートに近付こうとして、反射的に飛びのく。

その時、背後から気配が迫った…


「シャッ!」


気合とともに蹴りが放たれる。

常人の蹴りではない…!

回避した俺の頬が浅く裂けた…


「クッ!」


飛びのいた俺が見たものは…

部屋の前に佇むメイド達と、彼女等に守られる様に立つ研究者風の男。

ゴドウィンだ…

メイドは全部で四人。

彼女達はコーラルを除く、俺達の部屋付きメイド達だ…


「良く(かわ)したね…

 だが、私が作ったネオス達は強いよ。

 君達が何処までやれるか見せてもらおうか…」

「何…?」


ムラサメは気配が探れないこの状況での戦いが厳しいと察したのか、脱出路を探している…

しかし…メイドの少女達は戦闘に備えながらも、感情が消えてしまった様に無表情なままだ。

マインドコントロールの類か…

 だとしたら、ラピス達が危ない!


「行け!」


男の掛け声と共に…ロマネとカシスが俺に、カールアとエールがムラサメへと走る。

ムラサメは二本の小刀を出し応戦の体制をとっているが、得体の知れない相手に戸惑っている様だ…

俺はその事を確認し、ロマネとカシスの攻撃に備える…



先に来たのはロマネ。俺の脚を払いにくる…


俺はそれを小さく跳んで避すが、そこにカシスがフロントキックを当ててきた。


      ガッッ!


どうにか受け止めたが、足が浮いていた為後ろに吹き跳び、瞬間体勢が崩れる…


ロマネは体勢を崩した俺に、追撃のアッパーを打ち込んできた…が、


俺はそのタイミングに合わせてグローブの機能を発動する!


「スタンナックル!」


アッパーを打ち込んできたロマネの右腕を、表面に高圧電流が走る両拳で挟み込む。


「ギャァーー!!」


ロマネは絶叫とともに気絶した。

…しかし、アメジストなんだろうな…この機能音声入力にしたの…


「先ずは一人…」


俺が言い切る前にカシスが突っ込んでくる…

しかし俺の腕を警戒してか、接近戦には持ち込もうとしない。

遠距離からの蹴りばかりだ…


「何をしている! 早く倒さないか!」


ゴドウィンは焦ったのかカシス達を急かす。

カシスは命令に忠実に飛び込んできた…


俺はその動きに合わせて一歩踏み込み、カシスの攻撃が伸びきる前に


                ドムッ!


右手の掌を腹部に叩き込んだ。


そのまま左手でカシスの首を掴んで背負いの要領で投げ落とし、そのまま拳を押し当てた…


「スタンナックル!」

「ウァー!!」


カシスを気絶させて周囲を見回す。

…どうやらムラサメも一人倒した様だ。

今はムラサメとエールの一騎打ちとなっている…


「なっ、何故だ?

 私のネオス達は一人で十人の兵士達を屠った事も有ると言うのに…

 何故負ける!?」

「簡単だ。お前の使い方が悪いからだ」

「な…」

「先ず、銃を装備させていない。次に、俺達を襲う時一々言葉などかけず全員で攻撃させておけば、俺達は負けていた…」


言葉を交わしつつ、俺はゴドウィンに近付いて行く…


俺の言葉が効いているのか、ゴドウィンは俺が近付いてくる事にも注意を払っていない。


そしてゴドウィンが気付いた時、俺はゴドウィンの額を体ごと掴み上げていた…


「答えて貰おう…アメジストとここの関係、ネオスの研究、

 明日香インダストリーの交渉人たちをどうしたのか、どうやって明日香インダストリーの株を買ったのかもな」


ゴドウィンの体は震えているが、顔には狂喜と言って良い表情が浮かんでいる…

そして俺に向かい、嬉しそうに言う。


「アメジスト…?

 ああKR−HM006の事か…人形に名前を付けるとは酔狂だな…グァ!」

「余計な事は良い…答えろ」

「わっ…分かった…KR−HM006はここの培養層に有ったのだ…

 そいつらと同じ様にな…ネオスはこれ等のサンプル達から採取した細 胞を人間に植え付けて作り出したさ…」

「貴様!」

「ぐっ! …待て!」

「では、交渉人達も…」

「そうさ、ネオスになって貰った…

 だが、まだ人間として生活して行くには不完全な部分も多い…そこで、メイド達を使って研究を続けている…グエ!」

「明日香インダストリーの株を手に入れた訳は?」

「さあ、マロネーの考えは分からん…でもあれをやったのは、俺のネオスだ!

 ネオスのハッキング能力にかかれば株式の移動位簡単だ!」

「ネオスは人に戻れるのか?」

「何故そんな事をする必要がある? 皆私の言う事を聞く素晴らしい存在になれると言うのに!」

「そうか…では死ね」


                ゴ リッ…


ゴドウィンの頭蓋骨が陥没する音を聞きながら、しかし、俺は何の感慨も抱かなかった。

ムラサメがエールを倒しこちらにやって来る。

彼女は俺に不安を感じているらしい…体が震えている…


「あ…

 アキト、やっぱり強いんだね…」

「別に取り繕わなくて良い。俺は…」

「ううん、大丈夫! アタシも武士の家系の女だもん。人死に位は平気だよ…」

「そうか…」

「それより、急ご! 今の事はマロネーにも直ぐ伝わるだろうし、アメルちゃんやラピスちゃんが心配でしょ?」

「ああ、そうだな…」


身近な人間に気を使わせる…やはり、俺は…

いや、今は目の前の厄介事を始末するのが先だ…

後悔等何時でも出来る…


俺達はここから脱出する為、地下道を引き返す。


地下道には特に仕掛けも無いのか、特に問題無く出られた…


…しかし地下道を脱出した途端、闇の中に浮かび上がる影が有った…


俺達は身構えたが、

影はいきなりウクレレを取り出し爪弾き始める…


「メイドが死んだら何処へ行く…そりゃ当然冥土だよ…明度の低い場所は嫌い…プックク


凍りつくような駄洒落に、俺達は一瞬白くなる…

俺はそれなりになれているが、ムラサメは完全にボーゼンとしている。

…そう…

俺達の目の前に立っていたのは、メイド服に身を包んだイズミさんだった・・・







なかがき4

なかがきもとうとう4となりました。

話は無理矢理進めた結果、如何にか次回で終われそうな予感がします。

それほど長い話でもない筈なのですが、コネタをやりすぎてしまっていたようです。

第五話からはその辺にも気をつけたい所です。

ジョーの死ぬ話が26話だと言うのは憶測です、

題名は当然適当なので信じないで下さい。

私、感想を頂けるので如何にかやっていると言う状態の駄目作家ですが、

見捨て…られてそう…(泣)

今回も泣きが入ったところで、

それではあとがき(もしかしたらなかがき5)で会いましょう。



押していただけると嬉しいです♪

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