『こちら、連合宇宙軍第三艦隊・エスピシア試験中隊所属、イツキ・カザマ…御怪我はありませんか?』

「いや、シャトルの方も無事だし問題ないよ。

 …しかし試験中隊って、軍のテストパイロットの事だろ…いきなり実戦投入かい?」

『ええ。今まで軍の持っていた戦闘機及びデルフィニウムより格段に反応速度が良いですから、

 ミスマル提督の意向で実戦配備される事になりました』

「ふ〜ん…それにしても君、可愛いね。今度お茶しない?」

『うーん、そうですね…残念ですけど、私暫くは月面を動く事が出来ませんし…

 今回は遠慮させていただきます。それでは、お気を付けて』

「…つれないねぇ」


アカツキは去っていくエスピシアを目線で追いつつ少し寂しげに微笑んでいたが、

いきなり真正面にウインドウが開いた為、慌てて表情を戻した…


『ほら、いつまでも浸ってないの! 大気圏は直ぐそこなんだから早く戻って来なさい!』

「やれやれ、うちの秘書殿は…会長を何だと思っているのかね…」

『何か言った?(怒)』

「いえ! 直ぐに帰還します!」

『分かればよろしい』


エリナにせかされ、急いでシャトル底部にある格納庫のハッチに潜り込むエステバリス…

アカツキは会長の権威って何だろうと少し思いつつも、固定作業を済ませハッチを閉じる。

月面の戦線が崩壊を始める中、こうしてアカツキ達は地球への帰途に付いたのだった……






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第五話 「それは、今だけしか言えない言葉」その4



俺達は作戦を練り、シチリア島へ向かう事となった。

シチリア島――地中海最大の島…

その島の面積は九州よりも少し小さく、最高峰エトナ火山(3,340m)をはじめ山岳地が多い。

だが、温暖な気候に恵まれ古くからの小麦の産地でもある。

また、地中海の要に位置し、アフリカ大陸にも近いことから

歴史のあらゆる時代を通じて、さまざまな勢力による支配を受けてきた。

ギリシャ、ローマ、時にはゲルマン民族の配下に降った事もあった。

そして、ビサンチン帝国、アラブ支配、ノルマン人…と、

約2700年を経た現在は、500万人のイタリア住民が暮らしている。

まあ、波乱万丈なのが好きなアクアが気に入りそうな島だ…


ともあれ、最近この飛行場ばかり使っているんじゃ…と気になりつつも、

俺達は明日香インダストリーナガサキ支社から飛行機に乗り、シチリアへと飛ぶ…

現在向かっているのは、シチリア島の北西に位置する島内最大の都市であり、

文豪ゲーテが「世 界一美しいイスラムの都市」と言ったという町―― パレルモ

現在は観光事業がメインらしいが…俺のイメージとしては“兎に角教会が多い町”という程度だ。

ノルマン王宮・パラティーナ礼拝堂(王宮の二階が礼拝堂になっている)、 カテドラーレ、

サン・ジョバンニ・デッリ・エレミティ教会、モンレアーレの大聖堂といった大教会がわんさとある…


どれもこれも絢爛豪華だとかパンフレットに書かれているが…俺には良く分からん。





俺達は今回ルリちゃんを助け出すに当たり、チームを二つに分けた。

先ず、俺・カグヤちゃん・ラピス・コーラルの四人が、共にパーティに出て相手の気を引くチーム(以後囮チーム)。

残りのホウショウ・アメジスト・紅玉・ムラサメが、潜入してルリちゃんを助け出すチーム(以後潜入チーム)。

ムラサメは前回の戦いで肋骨にひびが入っていたが、治療が良かったのか頑丈なのか…もう殆ど回復した様だ。

潜入チームは昨日の内にイタリア入りし、既に船でこの島へ来ている…

出来る事なら、まだ小さいアメジストやラピス、素人である紅玉は参加させたく無かったのだが…

紅玉は、自分は運転以外の事はしないからと言い、

アメジストは、どちらのチームにも一人はオペレーターIFS所持者がいた方が良いし、

俺とリンクしていれば危険が迫っても直ぐに伝わるから…と言った。

俺はそれでも止める様に説得したが、

それはムラサメが言った「武士の誇りにかけて全員守り抜くよ」と言う言葉によって

勇気付けられた二人の考えを変える事が出来なかった…

まあそんな訳で、俺達は機上の人となった訳だ。

隣に座るカグヤちゃんが、パンフレットを読みふける俺に、声をかける…


「アキトさん、シチリア島に興味があるんですか?」

「ん? まあな…しかし、本当に観光中心の島なんだな…島中に遺跡や寺院が点在しているぞ」

「そうですわね。でも、何故クリムゾン家はそんな所で

 アクア嬢の社交界デビューパーティなんてやろうとしているのかしら?」

「さあな。しかし恐らく、会場の指定はアクアが行ったものだろう。

 …彼女はその、かなり“変わった”性格をしているからな」

「アキトさん、アクア・クリムゾンをご存知なんですか?」

「面識は無いが、噂は聞き及んでいる」

「そうなんですの…」


カグヤちゃんは少しビックリしている様だ…

今のは少し失言だったか…確かに“今の俺”が多少とは言え、彼女の事を知っているというのは少し変だ。

変に勘ぐられないと良いが…


飛行機は既にシチリア島に着き、着陸態勢に入っている…

俺は早速降りる支度を始めた。

カグヤちゃんの使う自家用ジェットなので、他に客がいるわけでもないが…少し気が急いているのかも知れない。

空港に着き、一連の入国手続きを済ませてタクシーを拾い、パレルモのメインストリートへと向かう。

空港から市内まで約35km、半時間ほどでたどり着く。

宿はカグヤちゃんが既に予約していた。

しかし、部屋は一つ足りないのだと言う…

俺達は四人、部屋は三つ。

……この後、部屋が決まるまでかなり時間がかかった…(汗)

結局、ラピスとコーラルを相部屋にする事で落ち着く結果となった。

一度荷物を置きに行った後、再び皆は俺の部屋に集まる。

動くより前に、作戦の確認から始める事にしたのだ…


「先ず、確認するがルリちゃんの現在地は?」


俺はノートタイプのIFS端末を持ち込んできたラピスに聞く。


「ワカらナイ、少なくとモカメラやマイクの近くにハ居ない…」

「そうか…」


やはり…シェリーもその程度の事は分かっているのだろう。

ネオス達のハッキング能力を知っている以上、ラピスやアメジストの事も見当がついていると見るべきだ…


「手強い、ですわね…」

「そうだな…

 ではシェリーかアクアはどうだ?」

「シェリーは居なイ…アクアハ…イた…タ オルミナ近海クルーズ船の上…」

「タオルミナだと? 殆ど反対側じゃないか…いや…そうか。確か、あちら側には別荘があった筈だな…」

「ですが…どうして彼女は捕らえられる位置にいるのでしょう?

 我々がこうやって調べる事が分かっているなら、目や耳になる物の近くには行かない筈…」

「恐らく、囮だろうな…シェリーも近くにいる筈だ…マイクやカメラに収まっていなくても、強攻策は取れんな…」

「シェリーさんがいるんですか? だったら挨拶に行かないと。色々教 わりましたしぃ」


コーラルは問題外として、現在の状況はあまり良くない。

いざとなれば、アクアを拘束してでもルリちゃんの居所を聞き出そう…

と思っていたが、現状では難しいだろう…


「…では当初の作戦通り、俺達は舞踏会に出ることにする」

「分かりました」

「ワカッた」

「では、よろしくお願いしますぅ」


頷き終わった後、コーラルが俺に良く分からない事を言ってくる…


「…何をだ?」

「決まってるでしょう? 舞踏会に出るにはそれなりの服装をしないと…ラピスちゃんもそう思うでしょ?」

「ウン」

「はいですぅ、私メイド服以外着た覚え無いですから楽しみですぅ」

「…(汗)」


俺は一瞬、視界が真っ白になった…

カグヤちゃんは本来明日香インダストリーの令嬢なんだから、何十着と言うドレスを持っている筈である…

コーラルも今や明日香インダストリーの最大株主なのだから、金は唸るほどある。

ラピスは…まあ、まともなドレスは持っていないだろうから仕方ないが…

しかし、女の子の買い物は恐ろしい。

ユリカに散々荷物持ちをさせられた、かつての灰色の思い出が蘇った(汗)

ジュンはあれを十年近くやっていたんだから頭が下がる…


「さあ、アキトさん急いでください。明日には舞踏会なんですから、今日中に選んでおかないと間に合いませんわ」

「アキト急いデ」

「そうですぅ、急がないと選んでるうちに閉店になっちゃいますぅ」

「や、あのな…って一寸!」


              ズルズルズル……


そのまま俺は、昼前のメインストリートに向かって引きずられていっ た…

閉店になる、って…一体どれだけ掛かるものやら・・・












ホウショウ率いる潜入チームは、カターニアの港に入港する船でシチリアへと入っていた…

カターニアはシチリアの東に位置する、島内第二の人口を誇る都市であり、

丁度海岸沿いに北に行くとタオルミナ、南にはシラクーサが有る。

彼女達はアクアの別荘に乗り込み、ルリの所在を確認…可能ならば救出する事になっていた。

アクアの別荘はシチリア内に三ヶ所確認されている。一つはタオルミナ、一つはシラクーサ、

そして舞踏会の会場である、エリチェのノルマ ン城――別名・ヴィーナスの城と呼ばれる古城だ…

もちろん、これらの別荘にいるとは限らない…

場合によっては、この島内にいない可能性も有る。

しかし可能性がある以上、彼女達は今日の内にシラクーサとタオルミナを回るつもりでいた。

港から少し歩いた所に在るカフェで飲み物を頼みながら、会議をする。


「で、如何するの? アタシとしては早く回るためにも、二手に分かれる方が良いと思うけど…」

「それは危険です。ムラサメ、貴女は確かに強いですが、何十人も相手にして勝てる訳では無いでしょう?」

「うーん…“普通のSS”なら二十人位大丈夫だと思うけど?」

「では、シェリーに勝てるのですか?」

「う〜ん、負けるつもりは無いけど……確かに一寸辛いかな…」

「では、やはり全員で行動した方が良いでしょう」


危険行動に出ようとするムラサメをやり込めるホウショウ…

何時もは、独走しようとするムラサメなど簡単にあしらうホウショウだが、今回は意外な援軍がいた。


「ムラサメの言う事にも一理あると思いますよー」

「紅玉さん?」

「わざわざ私の車を持ってきたのは、行動のスピードを上げるためともう一つ、脱出のためなんですから」

「おっ、気が合うね」

「どうも〜。で、ですねー…私思うんですけど、私とムラサメちゃんでシラクーサに行って、直ぐ戻ってきます。

 そうしている間にホウショウさんとタオルミナに向かって下さい。

 あそこは一般車では行けませんからー、私にお手伝いできる事は怪我等の治療位です。

 それに、そちらにアメルちゃんがいればIFS端末でアキトさんや私達に直ぐ連絡できます。

 危険度を考えても、この方が効率的だとは思えませんか?」

「確かに…その通りですね。ですが…」

「私もそれで良いと思う…大丈夫、私はアキトの事を良く見ていたから…

 ナノマシンを使えば“一時的に”だけど、アキトの動きに近い事も出来る」

「分かりました、ではその方針で行きましょう…ムラサメも余り目立った行動はしないで下さい。

 ただ屋敷にどれ位のSSが居るのかを見るだけで良いのですから」

「分かってるって。何も無ければ直ぐに帰ってくるから…」


其の言葉を最後に会議は終わった。しかし四人は直ぐには店を出ず、優雅に飲み物を楽しんだ。

ムラサメはそういった時間が性に合わないのか、直ぐに飲み干していたが…

その後四人は二手に分かれ、

紅玉とムラサメはシラクーサ、アメジストとホウショウはタオルミナへ…と、それぞれに動きだした。












「それじゃ、行ってくるよ」

「本当に私はついていかなくて良いのね?」


ネルガル本社会長室…

ビシッと着こなした筈のスーツが何だか今一似合わないアカツキに、エリナが声をかけた。

それに対し、相変わらず何処か気の抜けた感じで返すアカツキ…


「ああ、代わりに今回はプロス君が帯同してくれるからね」

「ええ? でもプロスさんはプロジェクトの方が忙しいから、動かせない筈でしょ?」

「いや、今回はプロジェクトその物にも関係してくるから、彼の協力が必要なんだよ」

「…? それはどう言う事?」

「それは、私がお答えしましょう」


エリナが疑問に思い問いかけた時、背後の扉を開けて髭眼鏡の人…もとい、プロスぺクターが入って来た。

エリナは瞬間的に驚いたが、直ぐに気を取り直た。プロスはそんな一連の様子を見てから再び口を開く…


「今回のパーティには、例の少年テンカワ・アキトが参加するのです。

 私達としては、彼がクリムゾンに渡る事だけは阻止しなければ行けませんので…」

「何? またテンカワ・アキト? 幾ら明日香の社長代理の恋人でも、一寸おかしいわね…」

「まあ、前回もかなりおかしかったし…彼が“何か隠している”事だけは間違い無いと僕は見たね…」

「そうね…テンカワ・アキト…確かにボソンジャンプが使えるかもしれない、って言うだけの存在ではないかも…」

「案外、未来予知の能力でもあるのかも知れないねぇ」

「まさか…そんなことが出来るなら、きっと私達より権力を持つ存在になっているわよ」

「それもそうか」


アカツキはふと考え込む。彼の行動基準が良く分からない…

前回も交渉とは言え、いきなりカグヤ嬢に頼み込んで飛び込んだらしいし、

今回も、SSやその他の機関を通じ調べた結果、脅迫状に乗ってパーティへと向かっているらしい。

まるで、自分から危険に飛び込んでいる様な…

最も、その脅迫の元になっている者が誰なのか、良く分からないが…

ただ、彼が遺跡から発掘され研究されていた少女と、ホシノ・ルリに似た少女を連れている事が気になった。


先ず、アメジストと名乗っている少女…

あれは、ネルガルで幾ら調査してもただの<ナノマシンの器>にしか過ぎず、意志らしきものは感じられなかった筈なのだが…

研究が打ち切られたのも、ホシノ博士の研究が実を結びそうなのに対し

その少女達の研究がまるで進んでいなかった所為だ。

ゴドウィンは強引にナノマシンのみを少女達から切り離し、

一般人に投与する事でネオスを創り出したが、ネオスはただの欠陥品だっ た…

その証拠に、ネオスになった者の<寿命>は著しく短くなる。

そのまま戦闘機能やハッキング機能を持たせているだけで、寿命は約一年…

戦闘行動を繰り返せば一月と持たない…

人一人犠牲にして一月では、コストパフォーマンスが悪すぎる。能力も精々達人クラスだ…

その上ハッキング能力も、オペレーターIFSを付けただけの

一般人よりは上だが、ホシノ・ルリのはじき出したデータの20%程度…

正直、戦闘なら現行のSSの方がコストパフォーマンスが良いし、ネオス5人でホシノ・ルリの相手が出来るわけでもない。

だからネオスは失敗作なのだ…


他に用途も無いので、ネオス及び遺跡の少女に関する研究を

打ち切る事となった矢先、あの少女は<意志>を持った。

現在アメジストと名乗っている六番目の少女は、崑崙大学病院・研究所での最後の生き残り…

そして彼女は、ジョーと名乗った男が運ばれてきた時に突然意志を持ったらしい…

つくづく不思議だ…如何してその男は少女に意志を与えられたのか?

少女が何故ジョーの死後アキトの元に来たのか…


そして、アキトの元に居るもう一人の少女、ラピス・ラズリ。

彼女はホシノ・ルリでさえ舌を巻くオペレーターIFSの使い手…

既に何度かラピスはホシノ・ルリと接触したと、ホシノ夫妻が言っている。

少女は、ホシノ・ルリとほぼ同じ外見をしていた。

薄桃色の髪、金色の瞳と白い肌は、遺伝子の組み換えが行われた証…

…しかし、その素性は明らかではない。


明日香インダストリーは“その手”の遺伝子処理そのものより、ナノマシン技術に傾いている為、難しい筈である。

クリムゾンは遺伝子技術方面よりバリア技術・ビーム兵器関係に傾いていたので、木星兵器の前にかなりの打撃を蒙っている。

どちらにも、ルリの様な者を創り出す技術は無い…筈だ。

では…あの2社以外に、ソレが可能なのは…?


ネルガル社長派の陰謀と考えた場合、出してくるのは“会長追い落とし”が

確実になってからの筈なので、やはり可能性は低い。

ホシノ夫妻の極秘開発という可能性も有るが…

そもそもホシノ夫妻はルリを調整しただけで、作り出したのは別の所だ。

そして、ルリを作り出した場所には、もう誰も居ない…



テンカワ・アキトは何故この少女達を連れているのか?

そして、不思議なくらいの真っ直ぐさとは裏腹に、得体の知れない不気味さを持つ…

興味深いが…さてどうやって引き込もうか…

アカツキがそれらの事を頭の中で検討していると…


「一寸、聞いているんでしょうね!」

「え? 何を?」

「だから! 如何やって彼をスカウトするのかって言う事よ!」

「ああ、今丁度その事を考えてた所なんだが…何にも思いつかないねぇ」

「そんな行き当たりばったりで如何するのよ!」

「まあまあ、会長はああ見えて良く考えてますよ。ですが“スカウト”でしたら私にお任せを」

「何? 良い考えでもあるの?」


エリナはプロスに向き直るが、プロスは口元に人差し指を当てながら、


「それは、秘密という事で」

「なっ?」

「では会長」

「ああ、行こうか」


そして、会長室には硬直したエリナが一人残された…












シラクーサは、規模の大きな町ではない。

この町はギリシャ時代にできた時と殆ど規模が変わっていない、人口12万人の都市だ。

ギリシャ時代には30万人が暮らしていたが、現在はその半分以下…

石造りの空き家が目立つ…

この都市で有名のなのは<ネアポリ考古学公園>であろう。

ディ オニソスの耳や ギリシャ劇場、古代ローマの円形闘技場に、涙を流すマリア像 等…有名な物が多くある


だが、紅玉達の目的はこの町ではなく、その海岸の向こう側にある
オルティジア島だ。

現在、クリムゾン家の所有する屋敷の一つがこの島に有る…

紅玉達は車で橋を渡り、島内に入った。

そのままメインストリートを通り、
オルティジア島の中心部であるドゥオーモ広場内、市庁舎の隣りにある建物へと向かう…

建物の名を
<ドゥオーモ>と言 う。こ の場所はもともと、紀元前5世紀からドーリア式のアポロ神殿が建っていたのだが、

それを7世紀にバジリカ式のキリスト教会に改築し、現在のドゥオーモになったと言う訳だ…

柱等は今でもアポロ神殿の物をそのまま使っている、世界遺産クラスの建物の筈なのだが…

近年クリムゾンが買取り、アクアが別荘として使っている。

そのままボーッと立っているのも怪しまれるので、二人は広場内にあるカフェに入り様子を伺う…


「さて、一応SSは居るみたいだけど…如何する?」

「そうですねー…あれって数は多いんですか?」

「いや、見張りに一人と内部に二人…この建物は大きいけど、気配の探りにくい所は奥の部屋位だし…

 ドゥオーモ広場に居る人の中に混ざって居たりすると一寸分かり辛いけど、多分居ないんじゃないかな…?

 だから、三人…少ないと言えば異様に少ない。けど、ガードする対象も居ないにしては多い…」

「ふーん、そうなんですか〜。では一寸入ってみましょう」

「え?」

「大丈夫です、多分ここには何も無いと思います。SSも足止め位のつもりでしょうし…」

「でも、何もないんだったらSSなんか必要無いんじゃ…それに、入る必要も無いと思うけど?」

「いえ、必要は有りまよ〜? 多分アクアって言う人が想像通りの人なら、ここにヒントを残してくれている筈です」

「何で? 想像通りって…」

寂しがり屋、ですね」

「…それ、本気?」

「はい」


笑顔で答える紅玉にムラサメは少し引きつったが、暫くして落ち着きを取り戻す。

そしてため息をつきながら…


「ハァ〜…分かった付き合うよ」

「そう言ってくれると思ってました。では行きましょう」


そうして二人は、出て行く前にカフェの勘定を折半にするのか話し合うのだった…










タオルミナ近海クルーズ船マ ドンナ・デッレ・ラクリメ号(船首に涙を流すマリア像を模した物を取り付けているため)の

船上で、アクアはシェスタ(昼寝)を楽しんでいた。

もちろん日焼けなどしないよう、ビーチパラソルの下、純白のドレスのままで寝そべっている…

二月はシチリアでも寒くなるが、それでも十度を切る事は殆ど無い。

だが、普通なら海の上で昼寝などしようと思わない程度には寒い…

しかし、この船は別だ。船の前面部分がガラス張りのソーラーハウスとなっているこの船は

気温が常時二十五度に保たれている為、アクアは冬場に良く利用してい た。

そのアクアは先程まで本を読んでいたのだが…程良い暖気のせいか、今はもう夢の中にいる。

…と、その時誰かがデッキチェアごとアクアを引き倒した。


              ドスン…


「キャ!」

「アクア様、お客様がお屋敷に来られた様です」

「ふぁ〜…アクア、もう少し優しく起してくれると嬉しいな」

「駄目です。私が優しく起すのは男性だけです」

「じゃあ、お爺様も優しく起すの?」

「いえ、正しくは起されてうろたえる、うぶな殿方だけです」

「そう(汗)」


流石のアクアも、シェリーには時折やり込められる…何と言うか、確信犯なのだ。

アクアもそうだが、シェリーは“何かの下にいて上の者をからかう”というのが、天才的に上手い…

ただの皮肉屋と違い<全力で意味の無い事が出来る>アクアとは、まさに似たり寄ったりの人間であった。


「う〜ん、そうねー…じゃ、出迎えに行きましょうか」

「はい、かしこまりました」


そうしてアクア達はクルーズ船の船長に港に戻るよう言い、屋敷への帰途に着いたのだった…












電車に乗ってふもとの町に行き、ロープウェイを使ってタオルミナへと向かう…

ホウショウとアメジストがタオルミナへ来たのは午後一時過ぎだ。

メッシーナ門を潜り、町の中へと歩き出す…

丘の中腹の町だが、海も近いので意外と涼しい。

高級店・名物店等が立ち並び、普段は賑わっていそうだが…なにやら閑散としている。

店も殆ど営業しているものを見かけない…

アメジストはその様子を不思議そうに見ている。


「どうなっているの? 何かあったのかな?」

「そう言えば、まだアメジストさんには話していませんでしたね…ここにはシェスタがあるんです」

「しぇすた?」

「はい、昼寝をする習慣の事です。この町はほぼ全員がしているので“シェスタの有る町”と言う事になります。

 私の様な日系には少し分かりかねる習慣ですが」

「ふーん。でも私もアキトと暮らしてきたから、気持ち的には日系だよ」

「失礼、私達ですね」

「うん」


そう言いながら二人は、人込みもまばらなウンベルト1世大通りを真っ直ぐ聖堂前広場に向かって進む…

この通りはいつも多くの観光客で賑わっているが、昼になるとシェスタのために

殆どの店が閉まってしまうため、昼の数時間は真空の様に人込みがなくなる。

最も、彼女達の目的は買い物と言う訳でもないので、有る意味動きやすくて良いのだが…


そして聖堂前広場に着くと、直ぐ下に目的地であるホテル・サン・ドメニコ・パレスが見えてくる。

ホテル・サン・ドメニコ・パレスは、元ドメニコ派修道院
であった 物を改装して、ホテルとしての様式を整えたものだ。

そのホテルを五十年前にクリムゾン家が買い取った。アクアはそれを屋敷に改装し、自らの別荘として使っている。

ホテル・サン・ドメニコ・パレスは町 の外縁の崖地に立っているので、裏口から進入と言う訳にも行かない…

どの道、一度は正面を横切らなくては行けない作りになっている。


「アメジストさんはここで待っていて下さい。偵察に行ってきます」

「うん。それも良いけど、先ず警備のシステムから私達を隠すから、一寸待って」


そう言うと、アメジストは携帯型のオペレーターIFS端末(ノートパソコンの様な形)を取り出し、

警備システムに侵入二人を警備員として登録した…


「出来たよ。これで少なくとも警備システムは騙せた筈」

「ありがとう御座います。それでは行って参ります」

「うん、でもSSはいると思うから、気をつけて」

「そのSSの存在の有無を確認するだけです。中まで入ったりはしませんよ」

「頑張って」

「はい」


そう言って、アメジストはホウショウを見送った。

ホウショウは見る間に屋敷の影に隠れてしまった…

少し気を抜いたアメジストに背後から声がかかる…


「お久しぶりですわ、アメジスト様…アキト様はお元気にしておられますか?」

「なっ?」


アメジストは再び緊張し背後を振り返るが…


「捕まえました♪」


振り向き終わる頃にはシェリーに抱き着かれていた。

アメジストは微笑みを浮かべるシェリーの腕の中で、気を失った…










なかがき4


こんな中途半端な所で…でも今日中に出さないと一週間に一本以下になってしまうし…

何を悩んでいるんです?

ああ、ルリちゃんか…いや今回も異様に進みが遅くなってしまったんでね…

ルリちゃん?

あ、ごめんルリ様だったね…はあ…

はりあい無いですね…一体どこまで行くつもりだったんです?

ああ、今回で舞踏会と言うかアクアの社交界デビューパーティをやってしまう心算だった…

それが、まだ前日ですか…

うん、まさかシチリア島がこんなに観光スポットだったとは知らなかったからね…

それで、今回は下手な観光案内みたいな話になったんですか…

下手なって、まあ当たってるけど…

それより、今回私まったく出番が無かったんですけど、如何言うつもりですか…(怒)

あ、いや別に深い意味は…

そうですか、 深い意味も無く 私の出番を忘れたと、そう言う訳ですね…

ま、まあそうなるかな…(汗)

分かりました、では忘れない様に 刻んであげます、私の名を… ルリと言う名を!

          ブォンブォンブォン…

いや、覚えてるってー!

刻みなさい瑠 璃色のぉファーストブリッド!!

              ゴガーン!!

またこの終わ り方なのかー!!

               キラーン

ふん、刻みましたね、もっとも私は貴方の名前なんかしりませんが。


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