「ほほう、俺の気配が読めるとは…貴様、一体何者だ?」

「さあ…ただ、都合によりお前を倒す事になった者だ」


男の殺気が吹き上がる…

なめられたと感じたのだろう、精神修養が出来ていないな…


「俺はイスルギ・キョウヤ…お前の名は…」

「テンカワ・アキトだ」


イスルギ・キョウヤと名乗った男はサングラスを外し、構えを取る…

見た所、二十代後半…いや三十手前だな。

2mの巨体で、筋肉もかなり付いている…ゴートに比べると肩幅が少し狭いが、ほぼ同じ…

目つきは<狂気>に近い物の宿った――何かに取り付かれた目だ。

俺達のにらみ合いを試合開始の要請と見て取ったか、アクアが言葉を紡ぎ始める…


「いいですか、戦いを始めますよ? 勝敗はTKOかKO、もしくは相手の死亡により決します」


俺達はにらみ合ったまま頷く…

それを見てアクアはにこりと微笑む。

そして何処から取り出したのか、ゴングを持ってきたシェリーに頷き、


手渡されたハンマーを叩きつける…


              カーン!


その音が鳴り終わるのを待たず、俺たちは互いに向けて(はし)り出 した…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第五話 「それは、今だけしか言えない言葉」その7



イスルギはゴングが鳴ると同時に飛び出し、右ストレートを放つ…

アキトはその動きを読んだ様に、半歩下がって避した。

そのまま体を捻って回し蹴りを放つが、身を沈めて避けるイスルギの前に空振りに終わる。

そして背を見せるアキトに好機を見たか、イスルギはその体勢からアキトを掴みに行く…

しかしアキトは背後に向かって蹴りを放ち、イスルギのガードを誘って飛び離れた…


「ふふっ、殿方が真剣に戦う姿って素敵ねー」


アクアはぼうっと二人を見ている…心底この戦いを楽しんでいる様だ。

しかし、シェリーの質問により一時的に我を取り戻す…


「アクア様、イスルギと言う男…アキト様とほぼ同じレベルの使い手のようですが…

 そんな猛者がクリムゾンSSにいるとは聞いたことが有りません…一体どうやって連れて来たのですか?

 もし差し支えなければお教え願いたいのですが…」

「ふふふ、シェリーも気になるんだ…どうしよっかな〜……ううん、止めとく…

 兎に角、私もシェリーに全部見せてる訳じゃないって言う事。

 …シェリーがまだ私に教えてくれない事があるみたいにね」


一瞬アクアとシェリーの間に火花が散る…

アクアもシェリーに気を許しているとはいえ、お互い完全に信頼しあうには辛い間柄だ。

シェリーが総帥の指示でアクアの元へ来た以上、アクアは彼女を完全に信頼するわけには行かなかった…

もちろん、総帥はアクアの実の祖父だ。

しかし父母はもう死んでいるし、姉のシャロンとは絶縁状態…今回の事で叔父とも疎遠になるだろう。

そんな事情の中で、祖父だけはアクアを可愛がっている。

本来ならその祖父の付けたシェリーという護衛は、信頼に値する者の筈だ…

だが、アクアは知っていた…祖父が自分の事を可愛がるのは“手懐けておく為”だ、と。

アクアにとってどうでも良い、自らの覇権のために一番使えるコマとして…

シェリーは彼女のお目付け役も兼ねているのだ…もちろん、ある程度の事は目をつぶってくれる。

それどころか、一緒になってクリムゾンの不利益のために邁進してくれていることも事実だ。

…と言うか、それが素なのだろう。

しかし、総帥による“お目付け役”であることも事実なのだ…

二人は暫く笑顔のにらみ合いを続けていたが、虚しさを憶えて表情を緩める…


「ええっと、アキトはどうなったかしら?」


アクアは闘いの方に注意を戻す。シェリーもアクアにつられて表情を戻し、解説を始める…


「はい、現在の所はほぼ五分の戦いになっている様です…しかし、スタミナはアキト様の方が少々不利かと…」


シェリーはアクアの疑問に答えるが、その解説を聞いているのかいないのか…

アクアは表情をトロンとさせたまま、呟いた…


「…はあ、傷ついていく殿方って素敵」

「はあ…(汗)」


シェリーは苦笑いをしながら、アクアを見るのだった…















俺は拳を交えながら、不思議な感覚を憶えていた…

まるで…ツキオミに木連式柔を習っていた時の様だ。

相手の動き…どう考えても変だ…

両手を広げて構え、振り下ろすような拳を当てて来る…

どうにか躱しているが、折角のタキシードがボロボロだ。

あれは<千鷹>…木連式の構えの一つで両腕を広げて掴み技に繋ぐ為の物だ。

上からの拳は避けにくい。更に、拳を当てに来たのか掴みに来たのか見分け辛い…

体格の良い奴でないとあまり意味はないが、これだけ体格差があればかなり有効だ。


しかし、この形態の戦い方は木連式以外ではあまり使われていない…

もちろん、柔道でも空手でもこの構えからの攻撃はある。

しかし、打撃と投げの双方の警戒をしなければいけないのは、柔術のみだ。

木連式柔はその中でも“特殊”な使われ方をする…

投げと打撃をフェイントにして懐に飛び込んでくる敵を排除しつつ、必殺の機会を 狙うというものだ。

そしてこの男は、明らかに俺が体制を崩す瞬間を待っていた…


やがて、俺が攻撃を仕掛ける瞬間…何度か足技による迎撃を交えながら

懐に飛び込もうとした時、気配が変わるのを感じた…

俺はその度に飛びのき、間合いを外す……この闘法、やはり木連式柔、か…?


俺達は、互いに動きを止めにらみ合う…

イスルギも疑問に思ったのだろう、向こうから聞いてきた。


「…お前、その動きどこで習った?」

「月だ…」


咄嗟にその言葉が出てきた…

木連の事はここで言う事は出来ない…それに、間違った事も言っていない。

俺が月臣に木連式を習ったのはネルガル月支部だ…


「そう言う事か…百年前、月に行ったあの男の系譜か…なら…」

「何?」


百年前の月…元々木連は百年前の月独立派…計算は合う…

なら、こいつは…


「分家か…」

「そう言う事になるな…」


その会話が終わる瞬間、イスルギは壮絶な笑みと共に突進をかけてきた!

体格からは考えられない程の速さに、俺は横っ飛びに避けるが

完全にはかわしきれず、吹っ飛ばされてしまう…


「分家のお前では俺は倒せん! 全てを知らぬ分家の技では本家には遠く及ばん!」


喋りながらもイスルギは吹っ飛ぶ俺の右足を掴み、そのまま反対方向に向けて叩きつけようと振り上げる…

俺は体勢が整わず、反撃の糸口がつかめずにいた。

しかし、このままでは足を持たれたまま地面に叩きつけられてしまう…

この勢いでは骨折、場合によっては即死もありうる。

そうなれば俺の負けは確定…何か手は、脱出の手段は無いのか?!

俺が地面に叩きつけられそうになったその時――





「アキトさん!! もう私を一人にしないで下さい!!」





ルリちゃんの声が…

泣きそうな声が聞こえた……













私は、今までアキトさんに助けられてばかりでした…

でも、いつも思う事があるんです。

アキトさん…貴方が救いたい人の中に<自分>は含まれているのですか?

私や皆を、命を賭して救う前に…自分の幸せを考えていますか?


私、メグミさんから聞いた事があるんです。

貴方がIFSを付けたのは、幼い頃ユリカさんを救えなかったからだと。

メグミさんとの関係がギクシャクし始めたのも、貴方が多くの人を救いたいと望んだから…


私は見ていました。

ユリカさんを取り戻すために…自らの命すら削って、ホクシンと戦った貴方を…


でも、私には何も出来なかった。

アキトさんを救う事も…

ユリカさんを取り戻す事も…


結局は全てのお膳立てを整えてもらい、舞台に上がっただけ…

もう二度と、舞台に上がるだけの役は御免です。

私は・・・

私の意志で戦い、アキトさんの近くにいたい。

その為には…


「アメジスト、ラピスはどうなっています?」

「うん、OKだって」

「そうですか…では私の合図でやっちゃて下さい」

「わかった」


目の前では、アキトさんが戦っています。

相手の体格もあってか、アキトさんが押されている様です…

私の位置からでは大男の陰になり、

アキトさんの動きを良く見る事は出来ませんが…徐々に下がっていくように見えます。

大男は上から拳を振り下ろしながら、アキトさんに近づきます…

アキトさんは合わせるように飛び込みますが、途中で引き返します。

さっきからの攻防は、これの繰り返しでした…


「ルリはアキトの応援しないの?」

「しています。ですが…」

「アキトに傷ついて欲しくない?」

「はい」


アメジストとは、一日一緒にいただけですが、お互いの事をよく分かる様になったと感じています…

彼女はアキトさんの<記憶の一部>を持っていると言っていましたが、そのせいでしょうか?

そうこうしている内に、アキトさんと大男の戦いは膠着状態になっているようでした。

二人は何か話しているようでしたが、夜風がきつくなってきた所為か良く聞こえません…

私は、一瞬“合図”を送るべきかどうか、迷ってしまいました…

その時、大男は信じられないほどの速度でアキトさんに突進しました。

そのままアキトさんを吹き飛ばし、その足を掴んだのです…

そして、アキトさんを振りかぶり地面に叩きつけようと…



「アキトさん!! もう私を一人にしないで下さい!!」



―― 私に三度目の見送りをさせないで下さい ――


その思いをこめて、私は叫んでいました・・・

正直、こんなに声を張り上げた事はありません。

今まで怒ったり、声を上げて笑った事すら、数えるほどしかないんですから…

でも、仕方ありません…それしか思いつかなかったんですから…

その時…空が急に明るくなったので、何が起こったかすぐ分かりました。

しかし私は“作戦”が成功した事に、直ぐには気付けませんでした…












ネアポリ考古学公園の敷地内までトレーラーで乗り入れたホウショウ達は、

<エグザバイト>のセットアップ作業に入っていた…

先程ラピスから連絡を受け、出来るだけ早く出撃準備を整えておく事になったからだ。

直ぐに合図があると言う。時間はあまり無い…

取りあえず乗り手はムラサメ一人なので、せっかく積んできたもう一台の方はアキトが来るまで使えない…

ムラサメは落ちつかなげにアサルトピットの状況を確認しているし、

ホウショウは外部接続のモニターを使って駆動系のチェックを行っている…

その他にも数名がエグザバイトに取り付き、作業を行っていた。

しかし、この中で紅玉だけはする事が無い…

取りあえず通信モニターの前に張り付いているものの、もうこれ以上通信が入る事は無いだろう…


「あの、ホウショウさん…私に出来る事はありませんか?」


その言葉に、ホウショウは作業を停滞させる事無く言葉を返す。


「モニターの前を動かないでください。

 緊急事態には通信が飛び込んでくる可能性があります。そこはとても重要なポジションなのです」

「…はい」


生返事を返したが、紅玉は納得しているわけでは無かった…






紅玉は思う…


あの時・・・

アキトがジョーだった時…私はジョーを助ける事を諦めてしまった。

その時はアメジストのお陰で何とかなったものの、納得している訳じゃない…

もし、また同じ事が起こるのなら、私は…

今、私に出来る事は…


やるしかないですよね…私はアキトさんの担当看護士なんですからもう二度と見捨てたりしません!


そう…今、私に出来る事。

それは…

トレーラーの座席横のボックスには、いざという時パイロットを確保する為、

IFS用ナノマシンの無針注射が入っています。

通信モニターは座席に据え付けられていますから…

後は私の<決意>次第…


……

…迷う事もありませんね。

そして私は首筋に無針注射を押し付け、


「えいっ!」


と言う掛け声と共に、ナノマシンを注入したんです…








妙な掛け声に、ふとホウショウがトレーラの座席の方に顔を向けた。

何故か、紅玉がぐったりしている…


「紅玉さん、何かありましたか?」

「何もありませんよー。ただ〜、ナノマシンを注射しただけです」

「え? ナノマシンを…何故です!?」

「ほら、アキトさんの所にエグザバイトを届ける人が必要じゃないですか」

「だからって! 何故貴女が…」

「いいじゃないですかー。私はアキトさんの担当看護士ですから〜」


ホウショウが駆け寄ってみると、紅玉はぐったりしているものの、微笑さえ浮かべていた。

ホウショウはこれを見て、何故それほどアキトのために出来るのか…不思議に思った…


「如何してそこまで…ナノマシンを打てば貴女の社会的地位や、周りの心証を悪くする可能性があるんですよ?

 …地球では、ナノマシンを付けている人への差別すらあるというのに…」


その表情を見て、紅玉は苦笑しながら…


「何故…ですか? に出来なかったからです。

 助けると言ったのに、助けられませんでした…

 だから…これからは出来る事は全てするつもりです」

「助け、られなかった?」

「私の手で…誰かを助けたいんです…」


難しい顔をしていたホウショウだが、根負けしたのか、フッと表情を崩す。


「……分かりました…でも、決して戦闘をしようなどと思わないで下さい。

 初めての人では空を飛ぶ事さえ出来ないでしょうから…」

「ありがとう、ホウショウさん」

「いえ、確かにナノマシン保有者が不足していたのは事実ですから」


照れたのかホウショウはそっぽを向いて、紅玉に答えた…


その後、紅玉は<アキト用エグザバイト・テストタイプ>に乗り、試験動作に入った。

ホウショウの指示通りに機体を動かしてみる…

基本的に、トレーラーの中のエグザバイトは立ち上がりやすい様、仰向けに寝ている。

立ち上がるつもりで力を込めるイメージを送ると、エグザバイトは

駆動音を発しながら立ちあが…ったものの、今度は前に向かって倒れていった。

倒れまいと腕を振り回すが、それで余計に体制を崩し、

倒れそうになった所をムラサメのエグザバイトに支えてもらう始末だ…

ホウショウも少し困った顔で…


「すみません、紅玉さん…本来ならみっちりと訓練をしてもらうところですが、時間もありませんし…

 兎に角、バーニア噴射で闘技場まで飛んでください。後の事はアキト様が何とかしてくれる筈です…」

「あはっ…あははははは……」


格好つけたのに、どうにもしまらない紅玉だった…












地面に叩きつけられる寸前、一瞬光で真っ白になったその瞬間…右足を掴んでいるイスルギの力が少し緩まった。

俺は地面に叩きつけられる前に手を付くと、衝撃を逃がしつつイスルギの腕を左足で蹴り、右足を引き抜いた。

こいつ相手では、かつての力が無ければ勝つのは難しい…しかし、この光は一体?

ふと見ると、イスルギは上を見上げていた…


『アキトさーん、助けに来ましたよ〜』


あの声は…

紅玉が何で俺のエグザに?

そう、俺達の上にはエグザバイトが浮いて…浮い、て?

いや、落ちてくる!


「おい、紅玉! もしかして、操縦してるのは…!?」

『どいてどいてー! お〜ち〜るぅ〜!!


      ドッ ゴーーーン!!


闘技場のど真ん中に、エグザが突き刺さる。

もうもうと煙を上げ、俺の目の前に頭から着地(?)した。

一方俺の背後では、もう一つのエグザがルリちゃん達を手のひらに乗せている所だった…


『アキトー!! 二人とも救出したぞー!! 思いっきりやりな!』


ムラサメの声で我に返る…


「分かった! 二人の事は頼んだぞ!」


目の前のエグザへと急ぐ俺の前に、イスルギが立ちはだかる。


「おおっと、俺との決着がまだ付いていないぜ!」


しかし、今の俺にはこいつに付き合う義理は無い。

オメガの率いるクリムゾンのロボット部隊が迫っている今、時間をかけるのは命取りだ…

木連式の本家の事は気になるが、今は…

呼吸を合わせ、向こうのタックルに合わせて飛び上がり、頭を踏み台にして飛び越えた。

相手の技の質が分かっているのはこちらも同じ…知っている技等食らいはしない。


「戦いはお預けだ。俺は目的のものを手に入れたからな」


そう言いながらアサルトピットに滑り込む。

頭の位置が低いので、簡単に潜り込めた…


「くそッ! なめやがってー!!」

イスルギが遠吠えをしているが、そんな事はどうでも良い…


「紅玉、大丈夫か?」

「…なっ…何とか大丈夫です〜」


紅玉は上下逆さまになって、コックピットシートから投げ出されていた。

まあ、仕方ないといえば仕方ないが…もう少しマシな着地は出来なかったのだろうか…


「操縦は俺が代わる。紅玉、お前は…」


少し考える…だが、やはりあれしか無いか…


「…俺の膝の上に乗っていろ」

「…えっ、いいんですか〜?」


紅玉は、少しうつむき加減にして頬を染めている。

照れないでくれ、頼むから…これは俺も恥ずかしいんだ…

まあ、以前には狭いアサルトピットに、ユリカとメグミちゃんと3人で入るという異常事態があったが…

あれと比べればまだマシな筈だ。

俺は素早くシートに乗り込むと、紅玉を上に乗せてIFS端末と接続した。

独特の光と共に、感覚がリンクする…


このエグザバイトという機体は、フィードバックレベルがエステバリスより高く設定されている。

エステバリスがレベル3なのに対し、エグザバイトはレベル5が基本値となっているのだ…

だから基本的に、この機体はバーニア噴射以外を全てIFSで行うようになっている。

その分、パイロットのイメージ・命令が殆どダイレクトに機体へ通じる為、熟練者向けとなってしまったが…


機体の特徴としては…エステの陸戦と空戦、それぞれの機能を足したような物――

ワイヤードフィストや、ローラーダッシュ用のキャタピラが付いた空戦フレーム、と言った所か…

継戦能力は、バッテリー交換なしで約30分…エステよりは格段に長いといって良いだろう。

まぁ…流石にブラックサレナと比較するのは、酷という物だ…



エグザの点検を一通り終わらせ、飛び上がる。

モニターにアクアが映し出されている…

彼女は何か言っている様だ。

隣のシェリーが、アクアにマイクを握らせる…


『アキト!! カムバーック!!』


その言葉を聴いて、俺は一瞬エグザごとずっこけそうになった…あれだけの事をやっておきながら…


「彼女、やっぱり寂しいんですよ…きっと、アキトさんに遊んで欲しかったんだと思います」


いや、紅玉…そんな事笑顔で言われても…


「俺はもう付き合いきれん。誰か他の奴にでも頼むんだな…」

「でも〜、多分また会う様な気がします」

「俺は思わん!」


今度は紅玉はぷっと吹き出して笑った…

俺はそんな紅玉を無視する事に決め、撤退を始めることにしたその時、

コミュニケのウインドウが開き、ムラサメからの通信が入る…


『こちらムラサメ機、北北西の方角より敵機接近…数は7。どうする?』

「先ずは一旦引く。非戦闘員を下ろさなきゃならんだろ?」

『ああ、分かった!』

『ちょっと待って下さい』


ルリちゃんが回線に割り込んできた。

さっきの悲痛さの感じられない無表情だが、まだ少し頬が上気しているのが分かる…

自分の言葉が恥ずかしかったのだろう…


『アキトさん、私は<7>という数字に引っかかりを感じます…』

「…俺もだ…」

『確か、これからでしたよね…地球が木星トカゲの襲撃を受けるのは…』

「そうだな…」

『彼らは地球の“軍施設だけ”を狙ってくるでしょう…

 火星は皆殺しに近い惨状だったのに。

 …それがどういう意味か分かりますよね』

「クリムゾンに奴らが来ていると言うのか!?」

『…おそらく』

「なら、一刻も早く脱出するんだ!」

『アキトさんはどうするつもりですか…』

「あいつらをくい止める」

『分かりました…では三分だけ、彼らの注意を引いていて下さい』

「まさか…」

『はい、それが一番安全な方法です。

 彼らも直ぐに帰らなければならない筈ですし…』

「…分かった…頼む」

『はい、任されました』


俺はアサルトピット内の紅玉をムラサメ機に渡し、

クリムゾンの部隊のいる方へと向かう…



元々接近していたクリムゾンの部隊は直ぐに視界に収まった…

機体は、ジンタイプとエステの中間の様に見える。

機体の大きさは約十二メートル…胸にグラビティブラストを撃つための穴こそ開いていないが、

これだけの大きさだ…相転移エンジンを積み込んでいると見て間違いないだろう。


       シャリ…ン……


錫杖を打ち鳴らす音が聞こえる…

こんな酔狂な武器で戦う奴らを、俺は一組しか知らない…


『フフフフフ…一人で来るとは酔狂な。自己犠牲か…下らん…』

「ホクシン!! 貴様! 何故ここにいる!!?」

『ほう、我が名を知るか…多少は裏の事情に通じている様だな…』


その声を聞いた時…

――俺の中で何かが切れた。

沸々と湧き上がる憎悪…

すでに復讐は終わったはずだが、この声を聞くだけで殺してやりたくなる…

ルリちゃんはここで時間を稼げと言った…俺はやり遂げねばならない。

だが、何も“相手が生きている必要”は無い……


俺は…俺にとって、奴と言う存在は…

そう、奴が今はまだ何もしていないのであっても…



許す事など、出来はしない!



狂気が俺を包む…



殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、はらわたをぶちまけろ!殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、 殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、目を抉り出せ!殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、脳漿をぶちまけろ!殺す、殺す、殺す、殺す、手足をすり つぶせ!殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、体を引き裂け!殺す、死ね、死 ね、死ね、死ね、死ね、生きたまま焼き尽くせ!死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、頭を引きちぎれ!死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、 死ね、奴の存在の全てを…死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、消しつくしてやる!死ね、死ね、死ね、 死ね、死ね………



『クックック…

 貴様が何者かは知らんが、我に向ける殺気…面白い……

 烈風!』


奴らのうちの一機が俺に向かって加速する…

しかし、俺に取ってみれば蠅が止まるような遅さだ。

スピードはまだエグザの六割といったところか…

俺は右手で近寄ってきた敵機の頭を鷲掴みにし、左手でコックピットを抉り出す。

そして、コックピットを…


『駄目です!!』


俺の目の前には、ルリちゃんの顔がスクリーンいっぱいに映し出されていた。

俺は一瞬邪魔だと思ったが、思い出す…

俺は“何の為に”戦っているのか…

そして、俺が何をしたいのかを…


「ルリちゃん、ごめん…俺、どうかしてたな…」

『はい、これからは気をつけてください。もう…復讐は終わったんですから……』

「ああ」


俺の機体から殺気が消えたのが分かるのか、ホクシン達は一斉に俺に向かって加速してきた…


『つまらん…先程の殺気はどこに行った? その様な腑抜けでは我に傷一つ付けられんぞ』

「ああ…傷一つ付けない。その必要も無い」

『世迷い事を!』


ホクシンがその言葉を終えた時、敵の全ての機体が行動を停止していた…


「ルリちゃん、ありがとう」

『いえ…でも、丁度良いタイミングだったみたいですね』

「でもどうやってアクセスしたんだい?」

『簡単です。あれは木星兵器ですから、無人機の制御コードを打ち込んでやっただけです』

「それで如何にかなるのか?」

『はい、木星兵器はまだ有人機の制御が未分化なので…』

「成るほど」

『はい、では帰りましょう』

「そうだな」


俺はホクシンたちの乗るその機体が緩やかに墜落していくのを見ながら、帰途へとついたのだった…









なかがき7


うーむー…何とかその7は上がったが22日ぶりになってしまった…

そりゃあ、あれだけ遊んでいればそうもなるでしょう。

だが、何とかスランプから復帰できた。

それは更新していないにもかかわらず感想を書いてくださった winbledonさんと、メール変更のお知らせにわざわざ返信を下さった方々、それに私のお陰です。

え、でも最後のは…

わざわざ、こんな駄作に出てあげているんです、私以上に貢献している人はい ない筈です!

はっはい、その通りであります。

それで、懸念事項があるんじゃなかったんですか?

そうなんだ、二つばかり…

いったい何です、場合によってはフォローしてあげてもいいですからさっさと 言いなさい。

先ず一つ目はzeroさんすみません、結局前回よりも長くなってしまいました、六話はナデシコ出航のお話ですのでお許しを。

その事については、碧羽さんにも外伝を先にやってはいけませんと言われてい ましたね。

その通りであります。

で、次は何です?

はい、実はホシノ夫妻はネルガル傍系の電算部門に勤めてはいるものの、博士ではない事が判明しました…

本 気で馬鹿ですかー!!私が『水の音は私の音』の回でわざ わざ読み上げているのに気付かなかったんですか!?

はいすみません、あまり細かい所までは覚えていなかったんです。

兎に角、これからどうするつもりで す(怒)

実は、この部分はシナリオに食い込んできてしまっているので変更が出来ないんです…(汗)

なら、どうするつもりです。

まあ、あまり話題にも上らないキャラなので放って置いても問題ないかと…

問 題お大有りです!!私の身の上が変わってしまうじゃないですか!!

ううー、ごめんなさい。

だめですね…ふう、今回は何だか意気込みが感じられません、ぶっ飛ばすのは 次回まで待ってあげますから、早く続きでも書きなさい。

何だかかそれもやだけど、兎に角次は一週間以内に出すつもりですので、今回はこれにて。



押していただけると嬉しいです♪

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.