隕石コロニーサツキミドリ二号はどうにか守りきれました…

まったく死人が出なかったと言うわけでは無いのですが、

死人などはサツキミドリ内でお葬式を挙げる事になり、

前回より輪をかけて艦長暇みたいです。






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜






第十話ルリとルリの『航海日誌』」(前編)


ネルガル本社ビル…天を突く高層建築であると同時に、一つの複合企業であるネルガルの“頭脳”と言ってもいい。

ネルガルの覇権争いの殆どはここで行われてきた…その為、部長クラス以上の大部分はここに部屋を持っている。

もちろん覇権争いから外れれば、二度と戻って来る事はない…ここはそういう所である。


そんな本社の最上階・展望室――会長が好んで使う客間で、 密談がなされていた…


「では、その<試案>を我々の方で完成させろというのかい? 君は…」

「ええ。私達の船にも換装出来るようにはしますけど、今はそちらのサポートなのですから…」

「まあ、そうかも知れないけどね…今回のプロジェクトは、こちらの方も社運をかけているからね…」


アカツキは目の前の黒髪の少女に渋い顔を見せる…女性に甘い彼にしては珍しい事だ。

それだけ、この会話の重要性が伺える…

この部屋には現在四人の人間がいる。先ずアカツキ…そして彼の座るソファーの正面にいるのは、

ダークグレーのスーツに身を包んだ漆黒の髪を持つ少女、明日香インダストリー社長代理カグヤ・オニキリマル…

その背後に気配を消すように控えている銀髪の少女が、社長秘書ホウショウ…

そしてアカツキの背後で、一種のオーラの如き覇気を立ち上らせている女性、エリナ・キンジョウ・ウォン…

それぞれが、まったく性質の違う人物ばかりだ。

アカツキとしても、まさか社長代理本人がネルガル本社ビルまで押しかけてくるとは思っていなかった。

仮にも巨大コングロマリット・明日香インダストリーの頂点にいるのだ。腰が重くなるのが普通である…

しかし、アカツキはかぶりを振った…考えてみれば自分もあまり人の事は言えない…

兎に角、今はスキャパレリプロジェクトを成功させる為、他社の介入について考えねばならない。

その時、背後のエリナが声をかけた…


「私に提案があるのですが…」


本来、こういう場で秘書に発言権は無い。エリナは叱責覚悟で声をかけている…

アカツキは一度カグヤに目で確認を取ってから発言を促した。


「言ってみたまえ。但し、問題発言があるようなら直ぐに部屋から出て行ってもらうよ」

「はい、有難う御座います。会長、明日香社長代理」


そう言って、エリナは一度深々と頭を下げる…

普段会長にも容赦の無い言葉を投げかけているが、実の所エリナも企業人である。

礼儀がなってなければ、企業のトップの近辺にいる事等出来はしない…

彼女が怒鳴るのは基本的に親しい人物にのみだ。

そして、彼女としてもこの場はネルガルに優位な協定を結んでおきたい。

しかし以前の<乗っ取り工作>の事もあり、明日香との折り合いはかなり悪い…

さらに、アキトの事で借りを作っている形なので、本来余り強く出られないのだ。

それを踏まえたうえで、エリナはカグヤに提案を行う…


「提案を行う前に、現状の確認を行っておきます。

 我々としても、エスカロニアの戦闘能力は大きいと思います。

 しかしドッキングと言う事になれば、ナデシコの改造、及び整備部品や消耗品の不足、

 整備や修理等の人員の不足等…色々と問題も出てきます。

 それらはどの様にすればいいのでしょうか?

 我々の心配はメリットとデメリットを見た時、デメリットの方が多くはならないかと言う事です」

「それは尤もですね…しかし、私達もただ見ている訳にはいかない…理由は知っていると思いますが?」

「はい、確かに。明日香インダストリー社長が火星にて行方不明とか…」

「そう、本当は私自身が行きたいと思っていますけど…会社の問題を残しておく訳には行きませんからね」

「そうですね…お気持ちお察しします…」


そうエリナが答えた時、カグヤが少し不快な表情をした事をエリナは見逃さなかった。

(どうやら“外交カード”として切ってきただけ、という訳でも無いみたいね…)

エリナはカグヤの表情をそう受け取った。社交辞令で同情されるのを嫌ったのだと…


「もちろん、ドッキング用の改造にかかる費用や、整備部品及び消耗品の代金は支払います。

 それに、ドッキングによる<相転移エンジンのバイパス回路>の取得は、あなた方にもプラスになると思いますが?」

「それはそうですが、我々としては自社の技術を火星に取りに行く目的ですので、

 あまり部外者に立ち入って欲しくない、というのが現状です」


カグヤはそれを聞いて、アキトからの情報と合せて考える…

(この女、相当タヌキね…本当の事は伏せてもっともらしい事で取り繕っている。

 …まあ、企業人としては当たり前かもしれないけど…やっぱり疲れるわね)

それから、ふと思い出して尋ねる…


「それで? 結局貴女の提案は何なのかしら? エリナ・キンジョウ・ウォンさん?」

「はい、そこで我々としてもドッキング自体は賛成なのですが、

 [火星での拾得物は全てネルガルの帰属]と言う事にします。

 それでもよろしいですか?」


エリナが動きを止める…言うべき事はもう言った、というように。

その顔に、カグヤはふむ、と一つうなづき…


「それは難しいでしょう。我々としてもCCは必要になります…手に入るのなら手に入れたい」


エリナはカグヤの言葉を聴き、表情こそ変えなかったが張り詰めた空気が少し和らいでいた。

カグヤもその気配を読んだが表情は変えない…


「…そうですね…ではCCを発見した場合、ネルガル7:明日香3、それ以外はネルガルに帰属と言う事で如何でしょうか?」

「はい、問題ありません。但し[人間]は、この限りではありませんが」

「ええ、それはこちらも問題としません」


両者は表情を正して検討を開始する…

会談は不思議なほどスムーズに進んだ。

アカツキもそれなりに満足な答えを聞けたと思ったのか、再び口を開いた…


「それじゃ、お堅い話はこの位にして…ちょっと食事にでも行かないかい? いい店見つけたんだけど…」


その言葉に、エリナのコメカミがひくつく。

周囲の緊張感が一気に高まった…

カグヤは一度ホウショウに目配せすると、アカツキに向かい答えを返した。


「お誘い有難う御座います。ですが、人を待たせていますので…

 …本日は有意義なひと時でしたわ。またこの様に、スムーズに話が進むといいですね」

「それでは、失礼させて頂きます」


ホウショウが引き継ぐように退室の言葉を継げると、カグヤはゆったりと立ち上がり、ホウショウを伴って退室して行った。

それを見ていたアカツキは少しつまらなさそうな顔をしていたが、正面に回りこんできたエリナが声を上げた…


「ちょっと、どういうつもり!? まだ話あう事があったはずでしょ?」

「エリナ君…まっ、まあ落ち着いて…」

「分かっているの? この場で話し合っていれば、明日香の介入を最小限で済ます事も出来たかも知れないのに!」

「…それは、どうかな?」

「え?」


アカツキの意外な言葉にエリナは言葉を失う…

アカツキは相変わらずへらへらとしまりの無い顔をしていたが、目が笑っていない…


「あれが、フェイクだっていうの?」

「いや、恐らくは本当さ…しかし彼女は、僕達が遺跡到達を最終目標にしている事を、知っている気がするんだよね」

「まさか。アキト君の事があるから、ボソンジャンプの事は知っていてもおかしくは無いけど…

 あれは未だ我が社の重役達すら殆ど知らない、最重要機密なのよ…」

「プロス君からの報告の中に興味深い話があったんだ。

 テンカワ君がナデシコ出航時に一度ジョー君の真似事をしたんだけど、

 その時“フクベ元提督と本来ジョー君しか知らない筈の会話”をしたらしい」

「それはもしかして…」

「そう、向こうは何らかの方法でジョー君から情報を聞き出した可能性が高い。

 正直考えたくは無いんだが…今までのアキト君の行動を見ると、アキト君にジョー君の記憶がある可能性もある」

「ならなぜ遺跡の権利を要求してこなかったの?」

「多分だけど…遺跡の奪還は難しいと考えているんじゃないかな?

 今の所憶測だから、はっきりした事はいえないけど…」

「そうね…それなら辻褄が合うわ」


二人は先程の会談における<趣旨>について情報が決定的に不足しているにもかかわらず、推測だけで核心に近づきつつあった…













「おかえり」

「ただいまですわ、アキトさん」


大型のリムジンからひょっこり顔を現した俺に、にっこりと微笑むカグヤちゃん。

今の俺はまたアメジストの中に入っている…本当はリンクを開こうとしただけなのだが…

(たまにはこういうのもいいと思うの)

(あのな…これでも俺もいい年した男なんだから、女の子の体を動かすのはかなり気が引けるんだが…)

(じゃあ、男の体なら良いの?)

(それも何かヤダ)

(もー、わがままなんだから…)

それは本当に我侭なんだろうか…いや、そもそも普通こんな状況になる事は無い。俺の感性は普通の筈だ…

頭の中? でそんな会話をしていると、カグヤちゃん達がリムジンの中に入ってきた。

運転手がリムジンをスタートさせている…

そんな状況の中俺が唸っていると、カグヤちゃんが話しかけてきた…


「どうかしましたの? 急に百面相なんて」

「いや、アメジストと会話していたんだ。こういう状態は変だって」

「…確かにそうですが、そのお陰で私はアキトさんとお話できるのですから、とても嬉しいですわ」


カグヤちゃんは本当に嬉しそうににっこり微笑む…

俺はカグヤちゃんに“本当の事”をある程度話していた。

俺が<逆行した俺>と<今の俺>との融合者である事。

そして、現在の目的が戦争の早期終結と人探しである事…

それから、それらに伴う秘密――すなわち、ボソン ジャンプの事や設計図、そしてリンクの事についても…


この秘密を知るのは、逆行者を除けば紅玉とアメジストにカグヤちゃん…

そして、カグヤちゃんが「会社運営上知らせておくべきだ」と言った、ホウショウちゃんの四人のみだ。

尤も…セイヤさんやプロスさんは、俺が何者か気付き始めている節がある。いずれきちんと話をしなければな…

兎も角、一々女言葉で話さなくても良いのは助かるのだが…


「それで、会議の方はどうだった?」

「はい、何とかドッキング用の改造をOKしてもらったのですが…

 どうもネルガル会長は、私達の考えをある程度読んでいる気がしますわ…」

「そうか。アカツキの奴…なかなかやるじゃないか」

「まあ、今の所打てる手は全て打っておりますので、ネルガルが抜け駆け出来るとは思えませんが…

 私に出来る事はここまでです。お父様の事、よろしくお願いしますね」

「ああ、全力を尽くそう」


カグヤちゃんは唇をかんでいる…本当は、自らの手で助けに行きたいのだろう。

火星脱出から既に一年三ヶ月…生きている可能性は限りなく低い…

俺がボソンジャンプで救いに行くべきか…と考えた事も、何度もあった。

しかし、それを止めたのは当のカグヤちゃんだった。

理由は、俺一人で行っても父は火星出身ではないので、ボソンジャンプで帰って来れない事…

そして例え他の火星出身者を助けても、帰還用のCCがない事である。

俺にも確かにそれは正しいと思えたが、カグヤちゃんが自らそれを言うのは苦しかった事だろう…

自分の軽挙さが恥ずかしくなる。

(でも、それがアキトの良い所なんだから…)

(そう言ってくれるのは嬉しいが、これは俺の不注意の所為だ…)

(本人はそんな事気にしてないみたいだよ?)


「アキトさん…私の事を気にかけてくれているのですか?

 そんなに苦しそうな顔しないで下さい…私は大丈夫ですから。

 それよりも…」

「それよりも?」

「あの船の艦長が、ミスマル・ユリカだと言うのは本当ですか?」


途端にカグヤちゃんの表情が変わる。

…あの、コメカミに血管が浮いてるんですけど…

そう言えば昔…子供の頃、ユリカとカグヤちゃんがよく喧嘩をしていた様な…

そして、とばっちりで俺はいつも怪我をしていたような気が…

(わー、二人で取り合いになってたんだね…小さい頃からモテモテだったんだ、アキト)

(そういう言い方は止めなさい。というか、どこでそんな事聞いて来るんだか…)

(学校だよ)

(…)

さ、最近の学校は…こんな事ばっかり教えてるんじゃあ無いだろうな…?

しかし俺の沈黙は、カグヤちゃんの怒りに火を注ぐ格好になってしまっていた。


「ア・キ・ト・さん?」

「いや…そんな事、ナデシコ出航前から分かってた筈だろう?」

「…そうですね…でもアキトさん、最近私に会いに来てくれなかったじゃないですか…」

「あ、その…でもほら、こんな状態で会いに来るより、帰還後きっちり自分の体で会いに行こうかと…」

「言う事はそれだけですか?」

「すみません(泣)」

「よろしい。デート一回で許して差し上げますわ」

「…トホホ」


(いつも思うけど、押しに弱いねアキトは…目的とかがあると途端に強くなるのに、女の子の前ではたじたじで…凄いギャップ…)

(…復讐に生きていた頃は、こういう事も無かったんだがな)

別にあの頃に戻りたいとは思わないが…まあ、俺も守るべき物が増えた所為で非情になりきれなくなっている事は事実だ。

ともかく、俺としてもカグヤちゃんには感謝している。

彼女がいなければ、俺は結局“ネルガルの意図”の中でしか動けなかっただろう…

アカツキが陰謀を諦めてくれるなら、問題なくネルガルに行けるのだが…ああ見えてあいつ、結構頑固だからな。


「それじゃあ、俺はそろそろリンクを解く。ドッキングの件は頼んだ」

「はい、お気をつけて」


(じゃあな、アメジスト)

(うん)


俺はリンクを解き、自分の体に感覚を戻した…











隕石コロニーサツキミドリ二号――

ナデシコ補給用のコロニーとしてネルガルに指定されたこのコロニーでは、

ナデシコの修理と同時に、エスカロニアとの<ドッキング>を可能とする為の改造が、急ピッチで行われていた…

エスカロニアの方は元々、ナデシコとのドッキングを前提とするブロックが上部に存在している。


これはアキトが未来から持って来た、ウリバタケのデータディスクにある<設計図>に

記されていたナデシコを基にしている為、殆ど誤差が無い…


後は、ナデシコにエネルギーを通すラインを作るだけで良い。

作業自体の難度はさほど高い物ではない為、別に宇宙に出てからでも行う事が出来たが、

ドッキング後の加速性能等の問題から火星到着がむしろ早まるだろう…と、サツキミドリ内で行われる事となった。


「ウリバタケさん。ナデシコの修理と改装、どれ位かかりますか?」

「おお、艦長か…そうだな…急いでも、今日一杯はかかるだろうな」

「そうですか…」


ユリカは口元に指を当て考え込む…

そして、良い案がひらめいたと手の平をポンと打つと、一言


「それじゃ、今日も停泊しましょう」

「あ、ああ…まあそのつもりだったが…」

「それじゃ、私みんなに伝えてきます」

「おう、頼んだ」


ウリバタケはそう言いつつも、コミュニケでいいんじゃないのか? と、(いぶか)し んでいた…

そんな事などお構い無しにユリカはナデシコ内を駆け上がり、居住区へと向かう。


「ア〜キ〜ト〜!」


そう言いつつ、アキトの部屋に向かうユリカ…

しかしユリカが扉の前まで来ると、同じタイミングで逆の方からも一人やって来るのが分かった。


「あっ、艦長…」

「ルーミィちゃん…」


扉の前でユリカとルーミィが鉢合わせする…

その瞬間、周囲の温度が数度下がったかの様な、張り詰めた空気が漂う…


「艦長…アキトさんに何か御用ですか?」

「私はナデシコがルーミィちゃんのエスカロニアとドッキングする為に改装するから、

 今日はお休みだってアキトに伝えに来たの。ルーミィちゃんこそ…」

「私も同じです…」


瞬間二人の間に火花が散った…


「艦長はナデシコの皆さんにも伝える義務があると思います。ここは私に任せてください」

「ううっ…でも〜」


男性に怒りをぶつけた事すら殆ど無い二人である…その戦いは、戦いと呼べるほど大した物には発展しなかった。

こういう場は慣れていない二人だが、自覚のあるルーミィと自覚の無いユリカでは、ユリカに不利なのは明白である…

“アキトは自分を好き”と言う事は、“自分がアキトのことが好きだ”という事を、理解はしている。

しかしユリカはまだ、恋愛の機微が分かる所まで行っていない…

一度はラピス相手に張り合ったが、理路整然と言われるとストップがかかってしまうのだ。

まだ恋敵(ライバル)との戦闘経験が浅いせいで、その辺りは不 利だと言わざるを得ない…

逆に、ルーミィの方は常にユリカという“ライバル”を見ながら恋愛感情を育ててきた分、有利であろう。

ただ、間の良さ――或いは運――という面では、ユリカに分があった…

向かい合っているルーミィの後方から、アキトが歩いて帰ってきたのだ。

二人は少し驚いた…艦内時間では、仕事等既に終わっている筈だったからである。

結局二人とも、コミュニケで確認を取っていたのでは逃げられる可能性がある…

という考えが働いた為、アキトの現在位置を確認していなかったのだ。


「どうしたんだ? 俺の部屋の前なんかに集まって…」

「え? あっ、アキト…うん。今日休みなんだけど、一緒にサツキミドリの中見てこない?」

「…その件か…だったら二人とも、ちょっと食堂の方に来ないか? 丁度スープが出来た所なんだ…」

「あっ、もう出来たんだ…じゃあ、もらうね」

「アキトさんが、そう言うなら構いませんが…」


二人は毒気を抜かれて、アキトに付いて行く…

しかしナデシコ食堂に着いてみると、既に先客でごった返していた。

アキトが驚いた様子で目を見張っていると、メグミが近づいてきた…


「やっと来て下さったんですね…みんな待ちかねてますよ」

「どうしたんだ? ナデシコ食堂は今日は休みの筈だが…」

「アキトさん、まさか忘れてませんよね…?

 前に、私にラーメンを食べさせてくれるって言ってじゃないですか」


正面のメグミに言われて、アキトもポンと手を打つ。


「憶えていてくれたのか…しかし、こんなに来てくれるとは…」


ナデシコ食堂に来ているのはメグミを始めとして、ルリ、ミナト、コーラル、ホウメイにホウメイガールズ…

話しを聞いていない筈のラピスにリョーコ、ヒカルやイズミまでいる。


「特に打ち合わせとかした訳じゃ無いんです。みんな、自然と集まって来たんですよ。

 アキトさんがラーメンを作っている事は、みんな知ってましたから…」

「そうなのか…みんなありがとう…それじゃ、早速作らせてもらうよ」


アキトは嬉しそうに礼を言うと厨房に駆け込んでいった…

それを見送る形となった二人は暫く呆然としていたが、

数秒して気を取り直すとカウンター席の方へと歩いていく…


「も〜…何で上手く二人っきりになれないかなぁ〜」

「ふふっ…でもこれはこれで、アキトさんらしいと思いませんか?」

「思うけど…でも、ルーミィちゃんはこれで良いの?」

「そうですね。確かにちょっと悔しいですけど、昨日デートしたから良いです」

「あっ、やっぱり昨日のお出かけってデートだったんだ…」

「多分、アキトさんは気付いてないでしょうけど…」

「うっ、自分で認めるなんてルーミィちゃん、意外と素直なんだね…」

「正確に現状を把握しておかないと…皆さん魅力的な人ばかりですから」

「私だって負けないから!」

「ええ…ですが、今の所私の方がリードですね」

「ううっ…(汗)」


ルーミィの言葉にたじたじとなるユリカ。しかし彼女も、ただでは起きなかった…

カウンターに乗り出し、アキトのほうを向いて


「アキトー! ルーミィちゃんが私をいじめる〜!」

「ちょっとユリカさん、私は別に…」


アキトは最初無視してラーメンを作っていたが、段々激しくなっていく正面の喧騒に、つい怒鳴ってしまった…


「だぁっ! あんまり煩いとラーメンの試食は無しにするぞ!!」


それを言われると、二人はしゅんとして…


「「…ごめんなさい」」


完全にうなだれてしまった…

しかし横から見ていたホウメイが二人の頭をワシャワシャと荒く撫でて、アキトをやんわりと諭した。


「ほらほらテンカワ、まあ勘弁してやんな…この子達はお前の事が気になるから煩くしたんだからさ」

「…ホウメイさんがそう言うなら…」


アキトは少しやりすぎたかと思ったが、今の内に作ってしまった方が無難だろうと思い、

二人を特に慰める事も無くそのままラーメンを仕上げた…


「お待たせしました。それじゃコーラル、みんなに配ってくれ…」

「はぁい! 分かりましたぁー!」


アキトは途切れることなくラーメンを茹でながら仕上げていく…

コーラルも特に転んだりあがって失敗する事も無く、全員に配り続けた。

コーラルもどうやら、ナデシコのメンバーに慣れて来た様である。

全員が試食を開始し、ズルズルと言う感じの音が食堂内に響く…

そして暫くたち、みんなが食べ終わった頃どんぶりを片付けながらアキトがみんなに質問した。


「味はどうだった?」

「うん、アキトのラーメン美味しかった!」

「ですぅー!」

「そうだな、なかなかだったんじゃねーか?」

「う〜ん。これなら、コスプレラーメン屋を作れるかも!」

「あれで負けるとはなぁ、競馬なんてやるもんじゃないよ…ああ、あの馬胃が悪かったらしいぞ…馬胃…美味い…ククク

「アキトさんのラーメンって、こういう味だったんですね〜。

 スタンダードだけど上手く脂っこさを落としてますし、美味しいと思います」

「そうですね。ホウメイさん程ではないですが、いい味出してます」

「ふふふ…メグちゃんもルリルリも、もっと素直に美味しいって言えばいいのに」

「確かに…まだ足りない所は多いけど、結構上手く出来てるじゃないか、テンカワ。

 だけど…自信のなさそうな味付けだね…」

「美味しい♪」

「うんうん、これならメニューに載せられるんじゃない?」

「そうだね。でもホウメイさんのと、どっちが良いかな?」

「まだホウメイさんの方が美味しいと思うけど、これはこれでいいと思うわよ」

「いいな〜。私これ、リョーコお姉様に作ってあげたい…」

「「「「えー!?」」」」


皆それぞれの感想で、アキトのラーメンが美味いと認めている…

しかし、カウンター席の二人の意見は違うようだ。


「確かに美味しいけど…これぞアキト、っていう感じが少し薄い…」


一人はカンで何かに気付き…


「アキトさん、この味付け…もとのテンカワラーメンより、全体的に味が薄い気がします…」


もう一人は経験から類推した。

アキトは最初驚いた顔をしたが、やがて力無く笑うと…


「そうか。やっぱり今の俺には難しかったかもな…」

「待ってください! 確かにアキトさんのラーメンは薄くなってしまっていますが、決して不味いと言う訳ではありません…」

「だが、俺は…」

「何うだうだやってんだい! 一回失敗しただけだろ! 

 それに概ねみんな満足しているじゃないか!

 何が自信ないのかは知らないけど、料理は経験と愛情! それに伴う自信さ…

 腕が良くても自分の料理に自信が持てなければ失敗しちまうもんさ…だから、もっと経験を積みな!」


ホウメイはアキトの背中を叩き、嬉しそうに笑った。

それを見てアキトも表情を崩し、ホウメイに言葉を返す…


「そうですね…頑張って、また作ってみます」

「うん。また私、味見してあげるからね!」

「ああ」

「それじゃあ、次は私も手伝います」

「ルーミィちゃんそれずるい! 私も手伝う!」

「お前は止めとけ」

「えー!? そんなー!!」

「バカばっか」


わいわい、がやがやと、アキトの周りは喧騒が絶えない…

ルリは精神安定剤を貰おうかどうか、本気で考えたくなってきた。

平和な空気が漂う中、サツキミドリの休暇はこうして終わったのだった…









なかがき

ああ、航海日誌のはずがまだ航海に出ていない…

アホですね…

お陰で今回は久々の前中後編になりそう…

それはそうでしょうね…序章と本編が同じ長さでは仕方ありませんし…

いや、まあそうなんだけど…

そう言えば、今回はファントムをやっていたらしいですね…

いや、まあちょっとした経緯で手に入れてね…まあ、PC版だから声は入ってないんだけど…

また、遊び呆けていたんですか…

ぐっ…確かにそうなんだけど…それでくまさんのPhantom-if-を見せてもらったんだ…

それで?

正直まさかここまでレベルが違うとは…戦闘シーンやギャグセンスが違いすぎてあっという間にKOされてしまいました…おもしろすぎっす(泣き笑い)

なにを当たり前のことを…自覚が無いようですからはっきり言いますけど、貴方は現 在110人いる(グラニットさん含め)作家陣の中で9999番目の 作家です!

ちょっと待て! 9999って何? 作家の数より多いんですけど…それに何となくRPGの限界ダメージとかを想像してしまう数だし…

簡単に言う と貴方の駄文はランク外もいい所、他の作家さんに比べられる所等は何も無いという事です! ましてや人気作 家の一人であるくまさんは貴方にとっては天上の人に他なりません!

うっ…確かにそうかも…

本当にも う…四流以下の駄目作家の癖に変に文章のレベルを上げようなんて意識するから失敗するんです。急にレベルの高い文を見 たって脳がノックアウトされるだけです! 小学校の国語からやり直しなさい!

うう…それは流石に酷いかも…

当たり前です! 見て面白いのと理解でき るのは違います! 貴方はPhantom-if-を見て面白いと思っても文の使い方なんかを理解できなかったでしょう?

ははは…ごもっとも…(汗)

文そのものもですが、知識レベルが違いす ぎますから、精々洋画劇場や輸入物の小説といった物語の知識や、それぞれ物語りに関る専門分野の知識、コーヒーや歌、タバコ等小道具の知識も仕入れなけれ ば結局レベルアップなど出来はしません!

そう…だね…(泣)

さあ! 先ずはラーメンの知識です! 心 配要りません! ラーメン屋は全店チェック済みです! 今から行きますよ!

ちょっちょっと待って!

もちろん全 て貴方のおごりです、教えてもらうのですからそのくらい当然ですよね!

全店って…止めてくれー破産するー!






追伸

くまさん、勝手に名前を出してしまってすみません、Phantom-if-面白いです、全て読んだら感想を送らせて頂きます。



押していただけると嬉しいです♪

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