『それが、軍に入って以後連絡が全く無いんだ……まだ一ヶ月程度だが、普通最初は連絡するものだろう?』

「ああ、そう思うが……」

『兎に角、そんな訳でちょっと連絡つけてくれないか?』

「ああ、所で妹さんの名前は何ていうんだ?」

『あれ? あった事無かったっけ?』

「すまん、全く知らない」

『分かった、先ず名前はサタケ・ミオ今年18になったガッテン系妹だ。

 顔は俺に似ていて、ニヒルな笑いをする。茶髪は天然なんで向こうでも同じだろ。髪の毛はショートにしてた。

 俺の覚えている特長はそんな感じかな?』

「分かった、調べてまた連絡する」

『ああ、お前も大変だろうから急げとは言わないよ。でも分かったら連絡宜しく』

「ああ、またな」

『んじゃ』


俺は、明日にでもルリに協力してもらって調べてみようと考えていた。

実際知り合いにはミスマル・コウイチロウ提督という大物がいるが、こういった頼みごとをするのには向いていない。

ルリの方が確実だろう。もっとも犯罪だが(汗)

簡単にハッキングなどと言う手段に頼ろうとする自分に自己嫌悪を禁じえなかった……



機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第十六話「いつもの『自分』に休息を」その4



それは、巨大なビルの上層部、

執務室にあるマホガニー(日本語では桃花心木という材木)の机にだらしなく足を乗せながら、

二枚目というには少しばかりくたびれて見えるロンゲの男が考え事をしている。

そうしている部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。


「会長、あまりだらしない格好をしないでください。会社の信用を下げますよ?」

「エリナ君は真面目だねぇ……そんなにピリピリしているとしわになるよ?」

だったらきちんとしなさい!!

「はぁ、分かった分かった、君には敵わないよ」


会長と呼ばれた男は、机から足を戻し姿勢を正す。

それから、ふと思ったようにエリナと呼ばれた女性に話しかけた。


「さて、役者がそろい始めたみたいだねぇ……このまま行くと、かなり混乱した事態になるんじゃない?」

「そうですね……月奪回作戦に影響が出る可能性もあります」

「でも、敵……と言っていいのか分からないけど、どこを狙って動いているのかが分からないんじゃこちらとしても動きようが無いしね」

「それは……一部ですが、伝わっています。火星からの脱出者を煽って木星トカゲと敵対させようとしているように見受けられますね……」

「ん〜確かにそういう風にも見えるね。でも、それだけならむしろ歓迎なんだが……」

「あまり期待できませんね」

「だからといって、我々には有効な手段があるわけじゃなし、当面は連合宇宙軍との関係を重視していくしかないんじゃない?」

「ですが、そうなるとプロジェクトの推進に支障が出るかもしれません」

「そのために僕たちが行くんじゃないか。不満かい? エリナ君」


ロンゲの会長は、エリナに向かって唇の端だけを上げて笑う。

エリナは彼の権謀術数が自分のために行われているというならかなりの企業家になれたものをと思わざるを得なかった。

だが、これはコンプレックスからくるものであり、プレッシャーに対するポーズなのだろう。

それが分かっているだけに、最後の最後では信用できない。

しかし、その事は何れ自らがネルガルのトップに立つ足がかりとなればいいと考えていた。


「いえ、会長のお言葉は正しいですわ」

「……」


互いに見つめ合っていても、心の中を透かしてみようと牽制しあっている。

そんな、殺伐とした現実の中で彼らは生きているのだった。
















あれから一週間ほど時間が経ち、どうにか手足も動くようになってきた。

リハビリはしなければいけないし、筋力などもまた低下しているようだが、取り合えず回復し始めているようだ。

まだ車椅子生活とおさらばと行かないのは面倒だが、箸やペンを持つ程度には回復していた。


「これで、なんとか……」

「はい、これなら単位に響かないんじゃないでしょうか」

「ふぅ、論文っていうのも大変だな……」

「どうでしょう? 最近ではインターネットで取得した情報を手直ししているだけと言うのが多いですから」

「へ?」

「ページごとコピーして、文体だけを変更する手段です。勉強にはなりませんが有効な手段ですね」


……

それを先に教えてくれ……(泣)

と言うわけで大学に入って初の論文提出に四苦八苦していた訳だ。

はっきり言うが、俺は勉強は高校レベルすらきつい。

それが大学の論文を書くのだから無茶苦茶だ……


「いいですか、アキトさん。大学は見せかけのためだけに入ったわけじゃ無いんです」

「……?」

「私たちもそうですが、アキトさんがこの辺りの事にもう少し詳しくなれば世界の動きも見えるかもしれません」

「それは、そうかもしれないが……」

「この世界を良い世界にしたいと思っているんですよね?」

「ああ」

「でも、この世界の政治はそう簡単に覆せるものではないんです」

「それは……」

「アキトさんがもし力づくで世界を平和にしたとしても、その時はアキトさんによる帝国を作らなければ世界は安定しないでしょう」

「……」

「ですから、それ以外の方法を探るためにも学力は邪魔にはなりません」

「だが……」


そう、学力がこれからに関係してくる可能性はあるんだが……

やはり苦手だなぁ……(汗)


「それよりも、そろそろ登校しようか」

「はい、じゃあちょっと待ってください支度してきますから」


そういえば、最近はルリも色々支度するようになっている。

主に弁当などだが、服装なども気を使っているようだ。

多分大学をそれなりに楽しんでいるんだな。


「これは、いい傾向かもな」

「…? 何ですか?」

「いや、何でもない、じゃあ、出発するか」


戻ってきたルリのいぶかしむ視線をやり過ごし、車椅子のIFS機能で先に動き出す。

歩けない事も無いが、今派手に動き回ると再骨折の可能性もあるらしいので、大事を取って動かない。

リハビリは始めているが、まだ100m歩くだけに止めている。

別に歩いて倒れる心配は無いんだが……


「でも、アキトさんの回復力は凄いですね、一週間でここまで回復するとは思いませんでした」

「いや、ガイと比べればたいした事は無いさ」

「山田さんですか……何ていうか、彼は問題外という気がしますが……(汗)」

「ははははは(汗)」


ガイ……人類外指定くらってるぞ(汗)

でも、あいつ骨折の治療だけは早いよな〜

すぐ再骨折するが(汗)

まあ、流石に今はしてないと思うが……


「そういえば、シゲルの妹の件どうだった?」

「はい、確かに連合宇宙軍に入隊していました。ですが、幾つかおかしな点も見受けられます」

「おかしい?」

「サタケ・ミオ年齢18歳、ちょうど一ヶ月前連合宇宙軍第五艦隊に配属されています」

「第四艦隊……待てよ。シゲルの妹なんだから、そのミオって娘は日本にいたはずだよな」

「そうです。日系人を中心に組織されている第三艦隊に入隊していないというのはかなりおかしいです」

「入隊するにしても国外まで出てから入隊するか……そういう人間もいないわけではないだろうが……」

「そう思って、火星脱出者の入隊記録を洗ってみましたが、殆どが第五艦隊に流れている事がわかっています」

「第五艦隊はどこの所属になるんだ?」

「特定の国家で組織している物ではなく、ヨーロッパ軍といっていいものでしょうその分規模は大きくなっていますが」

「それで……連絡はつきそうか?」

「つかなくは無いと思いますが、艦隊勤務にまわされているため、通信機器は持ち歩いていないでしょう。船に連絡を入れる事になりますよ?」

「なるほどな、取り合えずシゲルのほうには俺から言っておく」

「はい、よろしくお願いします」


そうして、大学に通う人間としては不適当な会話をしつつも航空力学の学部棟に向かっていたのだが、

ふと俺は途中にある建物に目が行く……


「どうかしましたか?」

「いや、あの倉庫から音がしているなと思ってな」

「ああ、そうですね……あそこは確か複葉機とか言うプロペラ飛行機を作っていたと思います」

「ふーん、流石は航空力学だな」

「いえ、あんまり関係ないんですが。ここの生徒の中でも変わり者が集まって作っているとか」

「それは……」

「まだ時間もありますし、ちょっと行って見ますか?」


そう言って俺に微笑みかけるルリは、とても楽しそうに見えた。

その表情をもっと見られるならという思いと、ここ数日の勉強疲れから俺はそこへ向かう事を承知した。











「提督……」

「なに、私は元からただのお飾りだよ」

「でも、提督……アキトもいなくなるし、提督までいなくなったら私達誰に教えを仰げばいいんですか?」

「教えか……私の様な駄目な提督に教えを仰がずとも君達は十分やっていける」

「そんな……」

「私は敗軍の将だ。君達には敗北の辛さしか教えてやれなかった。だが、君達は勝たなければならない」

「はい」

「だが、一言で勝つといっても、いろんな形がある。君達には自分の望む形の勝利を目指して欲しい」

「……そんな事……」

「これから先、いろんな事があると思う。しかし、くじけず生きていれば何かしらの答えは出るものだよ」

「……そうなんですか?」

「そうだ、生きていればその答えにたどり着ける。そして……いや、老人の冷や水だなやめておこう」

「え……?」

「他人の答えなどより、君達自身が見つけることだ」

「はい!」


ナデシコが地球に降下しヨコスカドックに寄港する事になった時、

ネルガルの意向により軍との協調姿勢をとることが決定した。

そうして、先ずフクベ提督が下ろされる事になる。

ユリカやジュン、ゴートといった関係者はその事を寂しいと感じて引き止める行動をとったが、

その他の人たちにとってはあまり関係ない事ではあったろう。


だが、それとは別にもう一人の人間がナデシコから下りようとしていた。

まるで隠れるようにしてその場から去ろうとすると言うのは異常でもある。

しかし、彼女がナデシコのタラップにやってくる直前、そこには人影があった。


「やはり降りるんですか?」

「ルリちゃん……勘が鋭いね。それとも分ってた?」

「リトリア・リリウムさん……貴方の行動は少し前から監視させてもらってました」

「それって、テンカワさんの指示?」

「いえ、でもテンカワさんは貴女の事を警戒していた……その理由が知りたかったと言う事もあります」


ルリの言葉を聞いて、一瞬リトリアは沈んだような目をむけたが、ルリにはそれを知る事はできなかった。

リトリアは勤めて明るく振舞おうとしているという程度はルリにも理解できたが……


「……そっか、流石はルリちゃんだね……」

「一つだけ、聞かせてください」

「うーん、確かに。ここまで来たごほうびに、少しだけなら答えてあげる」

「貴女の目的はなんですか?」

「私の目的かぁ、多分言っても信じてもらえないし。何より変な先入観を持って欲しくないしね」

「先入観?」

「詳しくは答えられないけど一つだけ。私なりにみんなの事を考えているつもりだよ?」

「みんなの事を考えているですか……答えになっていませんね。じゃあ質問を変えます。貴女は艦長とどういう関係ですか?」

「関係? あっ、そういう見方もあるね。うん♪」

「ごまかさないで答えてください」

「そうだね。直接的に言うなら、全く関係ないよ。気が合う艦長と船員くらいじゃない?」


誤魔化しているのか、相手にされていないのか、終始明るい表情で答えるリトリアにルリは苛立ちを募らせた。

しかし、それを表情に出すことなく、淡々と告げる。


「性格が似ているのも?」

「似てるかな〜? でも、そうだね。実は血が繋がってるんだよ。って言ったら信じる?」

「血縁に関して言うなら、ミスマル・コウイチロウ中将には艦長以外の娘はいませんし。

 中将の妻は彼女を産むと直ぐに病で倒れています。

 親類も血縁を調べてみましたが、貴女のような遺伝子パターンを持った人物はいません。

 整形等でも基本的に遺伝子は変わりませんし」

「うわ、本気で調べたんだね。ルリちゃん……」

「はい、そしてリトリア・リリウム……貴女が何度かナデシコ内で不審な行動をとった事も憶えています」

「はぁ、随分嫌われちゃったね〜」


ルリに詰め寄られてリトリアは大げさにため息をつく。

それでもルリは怯まず質問を投げかけた。


「ナデシコにとっては貴女のした事は無害なのでしょう。オモイカネはそう答えています。

 しかし、不審な行動は他にも幾つかありました。

 何が目的なのかは分りませんが、木星トカゲに何らかのデータを送りましたね?」

「うわー、そこまでばれちゃってるんだ。もうそれなら明かしてもいいか……」

「はい、できれば強引な手段は取りたくありません」


ルリの言葉と同時に、周辺の扉からパイロット三人娘が現れる。

そして、ちょうどルリとリトリアの間に立ちはだかった。

ルリは元々出口を押さえている。

つまりは、現状ではリトリアに脱出方が無いはずであった。


「観念してはいちまいな。テメェをタダでここから出してはやれねぇぜ」

「うーん、確かに木星トカゲに何か送ったっていうのは気になるかも?」

「何を送ったのか、送ったのはナニ……ぷっくくくくく」

「ちょっとイズミそれシモネタだよ〜!」

「シモネタのタネモシらない。クッククク」

「いい加減にしろー!!」

「……バカバッカ」


雰囲気をぶち壊してしまった三人娘にルリはため息をこぼすが、

リトリアはクスリと笑った後、話を始めた。


「私はね。破壊神の復活を阻止しようとしているの」

「はぁ?」

「ふざけた事いってんじゃねぇぞ!!」


リトリアの言動に妄想癖でもあるのかとみな勘ぐったが、リトリアは真剣な様子を崩そうとしない。

リトリアの表情は何か納得させる雰囲気をもっていた。

神秘的というものは薬物と視覚効果により作り出される事が多いものであるが、

彼女はその雰囲気をただそこに存在するだけで作り上げてしまった。

それは、一体どういうカラクリなのか、それとも本当に彼女がそういった資質を持っているとでも言うのだろうか?


「別に、貴女たちに分かってもらおうとは思わない……元々関係ないはずだもの。

 でも、そこにたどり着いてしまえばもう……後戻りは出来ないから……」

「何が言いたいのかさっぱりわかんないよ〜」

「貴女は何が言いたいんですか?」

「抽象的な表現をしているのは、私があまり干渉しない方が良いと思っているから。

 出きれば今言った事が分からないまま終わると良いと思っているけど……

 でも、もしその意味が分かるようになったら、私は対になる破壊神を目覚めさせるかもしれない。

 そうしなければ止まれないから……」

「絶対的な破局が訪れると考えていると言う事ですか?」

「それは、きっと貴女達次第かな? 出来るならそんな事が起こらないと良いとは思うけどね」


先ほどまでの真剣さとは一転、リトリアはまたくだけた調子に戻る。

完全に調子をはずされた形のルリとリョーコ達は少し戸惑いを覚えるが、拘束するために輪を縮めた。

すると、リトリアは法衣の裾から青く輝きを放つ石を取り出した。


「なっ!?」

「ちょっと切り札を使わせてもらうね。あまり近づかない方が良いよ。

 私のジャンプに巻き込まれたらどこに飛ばされるか分からないし」

「ちょっと待て!!」

「駄目だよリョーコ。ボソンジャンプって飛べる人じゃないと出るときにぐちゃぐちゃになったりするんだよ!」

「くっ!」


飛び込もうとするリョーコをヒカルが止める。

イズミは銃を構えるが光がまぶしくて狙いが付けられない。

そうこうしているうちに、リトリアはナデシコから消滅していた。

暫くその場にいる全員が呆然としていると、

ナデシコ搭乗口の外からちょびヒゲを生やした中年男性が入ってきた。


「……まいりましたね。結局彼女の目的が分からず終いでした」

「そうですね。でも、ヒントは残してくれたと思います」

「破壊神ですか? かなり荒唐無稽だと思いますが……」

「確かにそうかもしれません、でも切り捨てるのは早計という気がしますね……一種の比喩表現だと思いますし」

「なるほど、よほど破壊的な力を持つ何かと言う事ですな。阻止してくれるならむしろ願ったり適ったりですが……」

「彼女の行動基準とナデシコの目的次第ではぶつかるかもしれませんね」

「はっはっは、手厳しいですな〜ルリさんは。まあ、この先そうならないよう祈りましょう」


ルリはのらりくらりとつかみ所の無いプロスの発言から、今は兎も角、

この先は彼女の目的とぶつかる可能性があることを確信した。

ルリは一瞬アキトや地球で暮らしていた人々の事を思い浮かべるが、口に出たのはただ一言。


「まっ、どうでもいいけど……」


だった……














俺達は、学部棟に行く前に少し倉庫へと寄っていく事にした。


「しかし、複葉機なんて未だに作っているところがあるとはね。骨董品もいい所だろう」

「そうですね、でも地球では割とそういったことを趣味にしている人は多いですね。

 飛行機などのように大金をかけてと言うわけではないにしろ、骨董品のレプリカを作って飾っておくという思想はそれほど珍しくないです」

「なるほど、一種のアンティークと言うわけか」

「多分そんな感じですね」


そんな事を話しながら、倉庫の前までやってきた。

すると、そこでは機械油で汚れたつなぎを着た小柄な人間がプロペラ飛行機の下にもぐりこんで作業をしている。

飛行機は見た目こそ四枚(左右一枚とするなら二枚)の羽を持つ複葉機ではあるが、

作りたてだとわかるつやを持っている。


「ほう、よく出来ているな……」

「はい、整備を欠かしていないんでしょう。飛べるかどうかは知りませんが、観賞用としてはよく出来ています」

「ちょっとそれは聞き捨てならないなぁ」


複葉機の鑑賞をしていた俺達の背後に男がやってきていた。

別に気配を消していたわけではないが、声をかけてくるとは思っていなかっただけに少し驚く。

俺達が振り返ると、それに合わせたように金髪の貴族ぜんとした二枚目は自らを指差し、


俺がその複葉機、ブレイブウイングのパイロット。

 アルフレート・フォン・リヒトホーフェン様だ!

 レッドバロンと呼んでくれてもいいぜ!

「……」

「はぁ」


あまりに突然の自己紹介に俺達は一瞬固まったが、アルフレートと名乗った男は気にも留めず、そのままルリへと近づいていく。

そして、片膝をつき、ルリの手を取って口付けを……


「泉の妖精の様なお方……名を何と申されますか?」


ルリは最初何をされたかよく分かっていないようだったが、突然顔を赤く染めて手を引いて離す。


「とっ……突然何をするんですかあなたは!!」

「何をと申されましても、美しい人の騎士となる事はこの上ない名誉。出きればその先にも行きたいものですが……」


そうして足を引くルリに合わせて近づこうとするアルフレートとかいうナンパ男に、

少しイラついていた俺は、車椅子を割り込ませる。


「おい、初対面にしては強引だな」

「ん? 妖精の従者か何かか? だが、車椅子に乗らないといけないような体なんだったら、妖精の事は俺に任せな」

「一つ試してみるか?」

「アキトさ……」


何か言いかけたルリに片目をつぶって見せると、ルリは何もいえずに黙り込んだ。

ちょっと卑怯かなと思わなくも無いが、今は更に悪化しかねない。

それよりは、さっさと片付けた方が良いだろう。

そう思って、車椅子から立ち上がった。


「なっ!? 車椅子に乗っていたのは見せかけか?」

「リハビリ中なのさ、あと一週間もすれば車椅子は要らなくなる筈だ」

「ちっ、手加減してやるからさっさと倒れなよ!」

「それはどうも」


アルフレートは俺に向かってタックルを仕掛けてきた、

多分今の俺に打撃を加えるのはあまりよくないと感じたのだろう、ルリに好かれたいようだから、

ルリに嫌われるような卑怯なまねも出来ず仕方なくなんだろう。

タックルは残念ながらあまりなれていない感じだった。


「それほど悪い奴じゃなさそうだがな……」

「当たり前だ、俺は空の男爵、レッドバロンの名を継ぐ男! 卑怯な事は死んでもせ ん!」


だが、俺に体当たりできた事は致命だな。

俺はタックルに来た体勢を崩すために、半身をずらし、わざと体当たりを食らう。

中央に当たらなかったため、タックルは勢いあまって足が泳ぐ。

俺自身は既に足を浮かせているため衝撃は拡散し、それほどの打撃にならなかった。

そして数歩分ほどタックルによって後退してから着地する。

俺はその状態から、アルフレートの胴体をつかみ、引っこ抜くように持ち上げた。

そして、暴れる頭は両膝で固定してやる……

パイルドライバーの変形の様な形に抱えあげた俺は、一言だけ。


「痛いぞ」

「ちょっと待てぇ!」


もちろん、待たずに叩き落した。


「ぐへ!?」


倒れてピクピクしているアルフレートを見下ろし、

根性があるのか無いのかとちょっといぶかしんでみている俺をルリの怒りの視線が襲う。


「アキトさん!」

「あーちょっと熱くなってしまったな……」

「もう、あんまり無茶しないで下さい! ……それに、彼大丈夫なんですか?」

「それについては心配ない、落とす直前に足を踏ん張って速度を落としているから、実際のパイルドライバーの半分も威力は無い筈だ」

「でも何か白目むいてますよ?」

「ははははは、流石に土の地面じゃ衝撃が大きかったかな?」

「笑い事じゃありませんよ……」


ルリはそういうと俺を車椅子に座らせてから、アルフレートの状態をチェックする。

テキパキとそれらを確かめている様は看護婦めいているな……

多分軍に入ってから学んだんだろうが、的確な動きをしている。


「でも、アキトさんが私の事を心配してしてくれた事なら少し嬉しいです」

「あ……いや、それはそうなんだが……(///)

「ふふふ、照れてるアキトさんも可愛いです♪

 特に異常は無いみたいですね。

 数分で目を覚ますでしょう。

 行きましょうか?」

「目を覚ますまでついてなくていいのか?」

「というか、彼も車椅子生活者に倒されたと言うのは恥ずかしいでしょうし。悪い夢とでも思ってもらえればいいんじゃないですか?」

「うっ……(汗)」


ルリの笑顔は透き通るように綺麗だが、コメカミには血管が浮いている……

やはり、車椅子を卒業できた訳でもないのにケンカをした事を根に持っているらしかった……(汗)
















なかがき


なんか最近少しスランプ気味なんで、

〜光と闇に祝福を〜ばかりの連続投稿になります。

いや、実を言うと今この作品は丁度山場が見えてきたので加速し始めている所なんです。

十六話はアキトとルリのお話をしつつ、その裏で山場の準備をするお話になっております。

だから、暫くこのパターンが続くかも知れません。

暫くはそんな感じで頑張りますので、お許しを(汗)

それと、今回はちと召喚するパワーが足りませんので、ルリ嬢は呼べませんでした。

申し訳ない(汗)
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WEB拍手いただきありがとう御座います。

前回言われました誤字の改訂は行っておきました。

ただ、脇役好きさんが休業中のため、文面が荒れることをご了承ください。


気合……出来れば、注入して欲しいです(泣)

それでは、また次回あいましょう。


押していただけると嬉しいです♪

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