「それで、ご主人。これからどうするのだ?」

「コガラシ……でいいのか?」

「ああ、このメイドガイコガラシ、呼び方でどうこう言うような小さな心は持っておらん」

「……じゃあ、コガラシ。一つ聞きたい、このコロニーからの脱出プランはあるか?」

「思考を放棄する気か、このめんどくさがりご主人め!

 だが抜かりはない! いつでもどこでも任せて安心メイドガイ!

 このメイドガイプランを聞けば脱出などへそで茶を沸かす如く簡単な事よ!」

「いや、普通の人は沸かせないから……(汗)」


俺は、コガラシのプランを聞きながら唸っていた。

コガラシの能力なら不可能ではないだろう、しかし、現状目を付けられたべスたちにまで同じ事をやらせるのは難しい。

俺はその辺りをコガラシに説いたが、根性論に持ち込まれてしまった……。

戦力増強と言う意味では頼もしい助っ人だが、性格は正直ナデシコメンバーよりも信用出来ないようだ……(汗)






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜



第十七話「それぞれにある『正義』」その6




「うむ、ここを抜ければシャトル発着場に出る」

「そうか、ではここでお別れだな」



アルフレート達に対し目を向けると、俺はそうつぶやく。

彼ら4人は俺達を助けてくれた、そのお礼がこの程度に終わるのは辛いが、無事にここを出て行ってもらえればと思う。

仮面のメイドガイとか言うらしいコガラシの案内で、

見たことも無いようなコロニーの裏道というか構造体の中を歩いて発着場に近づき、

火星の後継者の軍服を幾つか手に入れて着込んでいる。

シャトルに入ってそれを脱げば脱出完了と言うわけだ。



「お前達は来ないのか?」



ワガンが俺達に聞くそれに対しルリは首を振り。



「私達は面が割れています。変装次第ではある程度何とかなるかもしれませんがリスクが高くなりすぎます」

「心配はいらん。メイドガイコガラシがいる限りご主人達は死んでも生きて帰ってもらう」

「それ、矛盾してます」

「大丈夫だ、何度死んでもメイドガイ特性地獄の淵から生還マッサージを食らえば昇天間違いなし!」

「天国に上らせてどうしますか!! しかも微妙にシモネタですね!?」

「うっ、むぅ……それより、そんなに声を上げていいのか?」

「あっ……」



ルリが口をつぐむ、どうもコガラシが来て以来ペースが崩され気味のようだ。

まぁ元気なのは悪い事ではないのだがw



「ふふっ、最後にルリさんの動揺しているところが見れて面白かったわ」

「泉の妖精ルリさん……何れお迎えに上がります。その時こそレッドバロンの雄志をお目にかける事になるでしょう!」

「はっはぁ……お元気で」

「ええ、貴方達も無事に脱出してね」



べスやアルフレートがルリに挨拶をして去っていく、アルフレートは何とかアピールしようとしているようだが、

この場ではあまり格好がつかないことに気付いたのか、仕方なくべスの後をついていく。



「アキト、お前はかなり無茶する奴のようだな、ルリさんを困らせるんじゃないぜ」

「気にするな。何とかなるさ。それに……」



俺が視線を人とは思えない何かに向ける。

リョウジはその視線だけでわかったらしい、自称ぽっちゃり系の体が少し震えていた。

笑いの衝動か、怯えか、その両方か……俺の背後に控えるメイドを名乗る変態に見せる視線はそんな感じである。

俺としても、ネオスと戦っていたときにコイツが出てきたらやばかったんじゃないかと冷や汗物である。



「どうかしたかご主人?」

「いや、頼もしいと思っただけだ」

「当然だ! このメイドガイにかかればあらゆるご奉仕で安全確実! 真空だろうと、硫酸の海だろうと完全ご奉仕! メイドガイに不可能は無い!」

「メイドとしてはかなりずれていると思うがな(汗)」

「何を言う! 世間一般とこのメイドガイのご奉仕を同列に並べるなど言語道断! ご主人には一度メイドガイフルコースを味わってもらわねばな」



そう言って、仮面の筋肉だるまメイド(?)が指をわきわきさせながら俺に近づいてくる。

普段がっついているわけじゃないが、俺だって男に体を触られるよりは女の方がいい。

妙なご奉仕などごめんこうむると飛びずさると、丁度そこにはリョウジが……。



「ぐあ!? やめてくれ、俺はアキトじゃねぇ!! まて、そこは!? もごっ……!!!!!???」



流石に音が出ると不味いと思ったのか猿轡をかませると、メイドガイはフルコースとやらをリョウジに食らわせる。

数分もすると、口から泡と同時に緑色の液体を吐き出している状態で倒れているリョウジがいた。



「だっ……大丈夫か?」

「大丈夫なわけ無いだろ!!! ってあれ? 体が軽い? おー! なんと! ひゃっほー!!」

「……(汗)」



リョウジは最初しにかけていたがそれが過ぎると何かキメてるんじゃないかと勘違いするほど一気にテンションを上げてスキップしながら去っていった。

ワガンはそれを呆然と見ながらおそるおそるついていく……。

あれは、健康になったと解釈していいのだろうか……?



「……まぁいい、それじゃ俺達も動くぞ」

「はい……」

「フンッ、自らメイドガイフルコースを受ける覚悟も無いとは軟弱ご主人め」



俺は勤めてメイドガイを名乗る仮面の筋肉だるまを視界に納めないようにしながら、コロニー内を戻っていく。

俺達の目標は第三層に極秘に開発されたらしい、ボソンジャンプ施設。

破壊は無理でも、CCの一つでも手に入れればジャンプで帰還できる。

メイドガイはネオスだから基本的には俺達火星の人間と同じくボソンジャンプに耐えられるはず。

ルリもそのために遺伝子に手を加えられているわけだから問題はないだろう。

後は潜入する方法だが……、



「まぁコイツがいれば大丈夫か……」

「ククク、どうやらこのメイドガイの真価がわかっているようだな」



不気味な言葉は黙殺しつつ俺達は人気の無くなったコロニーを第三層へと向かって歩き出した。
















「はっじめましてー! マイマスター神埼♪」

「ちょっ、いきなりそれじゃわからないよ。ウノ」

「ぇー問題ないと思うけどなー、フレンドリィなほうがいいじゃん。ねぇどう思うドゥエ?」

「……(コクリ)」



ボソンジャンプでいきなり現れた……というか三時間後に来るとラネリーに言われていたにも拘らず結局丸一日以上待たされた格好である。

その間にも事態は刻々と変わっており、神崎は既にカリスト政府の首脳陣と会見をすませている。

とはいえ、現時点では結果を出せたとは言いがたいのだが……。

兎にも角にも、現在は宿を取って次の行動の準備をしようとしていた所だった。



「ふむ、可愛いお嬢さん達だ」

「ははは、彼女らは見た目どおりの存在ではない……はずなんですがね(汗)」

「……」



神崎はにこやかに三人の娘に応じるがラネリーは冷や汗をかいているし、進一は胡散臭そうにラネリーを見ている。

しかし、そんな事はお構いなしに三人娘は話し始める。



「でも、マスターが格好いい人でよかったですね。もう一人の小さい方だったら私帰ってました」

「こら! 人付き合いがどうこうっていつもいってんのはアンタだろトゥレ」

「でも、事実ですし」

「否定はしねぇが」

「あのな……」



何気に毒舌を振るっているのはトゥレという、エメラルドグリーンの目と透き通るような白い肌、深緑の髪色に合わせて緑色のドレスを着ている。

ビスクドールを思わせるその姿は、12、3の娘としても背が低い方だろうか。

日傘をしているのが、不思議と似合っている。



「お前達を神崎閣下の護衛にしてもいいと言った覚えは無いんだぞ!」

「そか? でも決めるのはアンタじゃねぇだろ?」



もう一人は燃えるような緋色の髪に褐色の肌をした元気そうな少女、名をウノという。

見た目どおりの元気娘のようだ、格好もジーンズのハーフパンツにTシャツのみで、Tシャツは裾の所を縛っている。

そのせいでへそが丸出しになっているが本人は気にしていないらしい。



「だいたいお前ら役に立つのか!?」

「……」

「あっ、こらっドゥエやめろ、そいつは一応マスターの部下なんだぞ」

「(コクリ)」



三人目は黒い髪に赤い目をした陰気そうな少女ドゥエ、三人の中では特に目立った特長も無く服装もただのサマードレスにすぎない。

だが、三人の中では無表情である事で一番目立ってもいた、一人で空気を重くしている。

先ほどは一瞬彼女の手が進一の方を向く所だったが、その手をウノが止めたという事である。

三人娘の中では実はウノが一番面倒見がいい。



「それで、彼女達はどういったことが出来るんだね?」

「はい、白兵戦、機動兵器の操縦、電脳へのハッキング、医療行為、料理等は全員こなせます。

 それに、一応個々に特化した能力もあるのですが、現時点では秘密という事で」

「おい! それはないだろう。仕様書もよこさず兵器を渡して終わりか!?」

「まぁまぁ、進一君。ねえ君達、必要とあれば使ってくれるんだろう?」

「はい!」「当然です」「(コクリ)」

「ならば今はいい。それよりも私は今急いで草壁中将の動きを抑えたいのでね。そのためなら多少の無茶はしてみようと思う」

「といいますと?」



神崎は全員の顔を見回してからおもむろに語り始めた……。

















明日香インダストリー初の相転移エンジン搭載型戦艦であるエウクロシアは、テスト航海の名目で宇宙へと上がってきていた。

名目とは裏腹に、向かう先はこれから戦場となるだろうコロニー・フタバアオイのあるラグランジュポイント。

もっとも、それは既に軍と連携しての事ではあったが。



「あれが第五艦隊ですか……」

「殆どが火星の後継者側についたようです。ごく一部の部隊は緊急展開中の第七艦隊に合流、膠着状態に陥っています」

「北アメリカの第二、極東の第三及び南アメリカの第八艦隊は月面への攻撃で出払っていますから仕方ないですわ。

 第四艦隊は中国ですからそれみたことかでしょうし。第六艦隊はインド中東亜ですから立場的にも動きづらい。

 アフリカの第七艦隊が動いただけでもまし、二面作戦ですけどね。

 しかし、ミスマル中将は私達の案を支持してくださったので、輸送船団の一部をコロニー・フタバアオイへと向けて下さった様子。

 今日中にはここまでやってこられるはずですわね?」

「そうですな。私はその時輸送船団に移る予定です、それまでは睨みあいとなるでしょう」



カグヤとホウショウ、カイオウの三人が殆どの事を決めているといっていいこの会議だが、

作戦内容を知る意味でエグザバイトのパイロット代表としてイツキ、メイドの取りまとめとしてのロマネ、

その他にも整備班長や警備班長、ブリッジであるため操舵士のムラサメ、オペレーターのアメジストなどが同席している。

エウクロシアは現状では動きようが無いと言ってよかった、基本的に火星の後継者が人質交換を受け入れないと話にならない。

アキト達は別の手があるかもしれないが、他の人質は別である。


それに、カグヤも心情的には火星の後継者を倒す事に抵抗があった。

カグヤは火星出身者である、火星の後継者を滅ぼすという事は火星の民を殺す事であり、

更には今後火星の民が徹底的に差別されるようになるという事だ。

当然そんな結末は望んでいない、一部の暴徒と化した火星の民のために、

残り少なくなった火星の人々全てが危険に晒されるなどあってはならない事だった。

しかし、人質交換をすれば否応無しに火星の人々を巻き込む事になる。



「人質交換は時間を稼ぐ意味と、要人たちの救出、地球に残して火星の人々を差別から守るため、

 という三点の意味で一番いい手段だろうと思います。

 しかし、難点として火星の一般人の人達を否応無しに巻き込むという点、

 火星の後継者側が全員の釈放を渋るだろうという点も問題として残ります。

 これらをフォローできる手段はありませんか?」

「人質を全員釈放しないなら我々も全員引き渡さなければいいのでは?」

「いえ、その場合は人質交換の場が戦場になる可能性が高くなります。

 この交渉はこちらから仕掛ける分向こうの方が有利であるという事を忘れてはいけません。

 向こうにとって火星の民の支持は大義名分のために必須でしょうが、同時に彼らは我々を脅す事も出来ます」

「ボソンジャンプ……厄介な技術だな」

「便利な技術にはいつも軍事利用されてきた歴史があります。

 AIの基である電算機はミサイルの弾道計算からですし、トンネル工事用のダイナマイトも爆弾になりました。

 技術の表裏について論じるのは意味のない事ですわ」

「ううむ……」



カイオウのそれていきそうな話題を方向修正しつつカグヤは思う、

火星の後継者に勝ち火星の人々に責任を負わせずに済む方法は他に無いのだろうかと。

そんな時、ふと何気ない事のようにアメジストが言葉をつむぐ。



「方法なら、もうアキトが考えてるよ」

「え!?」

「現在の状況を利用できる一番の手段。でも成功率は高くないと思う、でも聞く?」

「はい、もちろん!」



カグヤは勢い込んで聞いてきた、アメジストが語ったその内容は確かにずさんであまり上手く行くとは思えなかったが、

現状取りうる手段としては最高の結果を出すだろう事は間違いなかった。

しかし……。



「机上の空論だな」



体格のいいカイオウ・シンイチロウが重々しくつぶやく。

アキトの考えはいわゆる軍事組織を否定するのに等しい考え方である。

とはいえ、昔からそういう手法が取られていなかったわけではない、カグヤには不可能と言い切るには少しだけためらいがあった。



「でも、夢を語れるのはいいことだと思います。それを実現するために人を動かす事が出来る。

 マロネーもその点だけは評価できる主人でした、他人を信用しない人でしたから結局間違ってしまいましたが……」



ロマネはふと遠い目をしながら語る、マロネーのメイドとして働いていた期間が一番長いのが彼女である、

もっともフェムトマシンを植えつけられてからという意味だが。

それ以前のことはおぼろげにしか思い出せない、ネオスとなったメイドの殆どがそうであった。



「だが、危険すぎる。ハイリスクハイリターンとはいうが、地球の命運がかかっているんだぞ?」

「そうですね、ボソンジャンプによりいつでも攻撃できるという火星の後継者のアドバンテージは潰しておかないと」



カイオウの言葉にホウショウが同意する、確かに地球の危機を招いているのはその一点であった。



「でも、それが失われた瞬間今度はフタバアオイが消滅するでしょうね」

「そもそも、どうやってボソンジャンプ施設を?」

「それは……」



そう、聞くまでもない事である。

アキト達にその無茶をしてもらわなければ、動きが制限されるという事なのだから……。



















「ふふふ、とうとうアキトが表舞台に立つときが来たみたい」

「アクア様、読み間違えましたね?」

「えっ何のこと?」


アクア・クリムゾン。彼女はいつもの心を読ませない微笑をたたえながらシェリーに振り向く。

貴族の血を多く含む所為かアクアの動きにはどこと無く気品がある、もちろん多くの習い事をこなしていたせいもあるのだが。

どちらにせよ、交渉相手としてはやりづらいものである事は間違いないだろう。



「アクア様はテンカワ様がここに来られると思っていたのでしょう?」

「今でも思っているけど?」

「はぁ……」

「表舞台に立てば必要なことだもの、直にでもね?」

「随分テンカワ様をかっておられるのですね」

「ふふっ、貴方も本当は分かっているんでしょう? あんなに面白い人はいないわ♪」

「否定はしませんけどね」



シェリーもアキトに興味を抱いた一人である、散々からかい倒した頃が懐かしい、まだ会って一年ほどしかたっていないとは思えないくらいである。

今でもからかいたくて仕方ないという事は否定しない。

現在のように南の島とはいえ、他に住む人もいないテニシアン島で引っ込んでいるのは退屈極まりない、それにむしろアクアという人物には合わないといってい い。

それでも待つという辺り何かの役どころに酔っていると見るべきか、それとも本当に何か予感があるのか。

どちらにしろ、アキトには随分嫌われている二人だ、自ら進んで会いに来る状況というのは考え辛い。



「ですが今回の仕掛け、シャロン様の仕掛けにしては妙に込み入ってますね」

「そりゃそうよ、お姉さまの仕掛けじゃないもの」

「は?」

「お姉さまも仕掛け人の一人だけど、元々の仕掛け人は別人、オメガとか言ったかしら、彼の置き土産といった所ね」

「……なるほど、確かにそんな感じですね。陰湿さなんか特に」

「オメガって子も、よくよくアキトの事を考え抜いて仕掛けたみたいね。今回の事でアキトは選択を迫られる事になる」

「生きていれば……ですが」

「まっさかー、アキトがこの程度の仕掛けで死ぬなんてありえないわ」

「信じておられるのですね」

「シェリーはどうなの?」

「私は……どうなんでしょう?」

「ふふふ……まあいいわ、ゆっくりと待ちましょう。アキトがここを訪れるのを」

「はい、アクア様」



そう言いつつも、確かにテンカワ・アキトはこの島に来るだろうとそう感じさせるものがアクアの表情にはあった。



















厳重な警戒を不思議なほどあっさり突破し、現在俺達は第三層の政治区画に侵入している。

とりあえず、現状でボソンジャンプ施設を搬入可能な場所は政府の中央庁舎の地下空間くらいだ、

そこ以外の場合、少なくとも外から丸見えになるくらいには大規模な施設になるはずである。



「それで、コガラシと言ったか、お前ならどう進入する?」

「ようやくこのメイドガイを自らのメイドだと認めたか!」

「いや、そんな事は言っていないが」

「クックック、てれるなてれるなシャイなご主人め! いいだろう、我の華麗な潜入テクニックを見て震え慄くがいい!」

「いや照れてないし、震え慄くって、どんな潜入方だ……」



俺は、いちいち突っ込みを入れている自分に気付いてはっとなった、仮面の変態メイド男コガラシは俺にしてやったりという顔を向けている。

そして、横で見ているルリは肩を震わせている。

どこかツボに入ったらしい……。



「まぁいい、それで?」

「ふん、メイドガイセンサーを駆使して既にこの第三層の地下施設は調査済みよ。

 この下水道は、中央庁舎地下まで繋がっている」

「ほう……」



確かに、下には下水道のマンホールがある、そもそもここは宇宙コロニーなのだ、こういった設備は徹底して整備してある。

そうでなければ、水や空気を再利用するというシステムは確立できない。

そして、下水道に通す水は既にかなり綺麗になっている、浄化槽設備は殆どのビルに常駐であるからだ。

だが、暗くてじめじめしている事に変わりはないが。



「しかし、コガラシお前はネオスという事だが、あの時はいなかったように思うが?」

「うむ、前のご主人はメイドガイに否定的であったからな、我が根性注入してやったら泣き叫んでコンクリート部屋で瞑想していろと言われていた」

「根性注入……」

「なに、ひとなでしただけよ。ご主人達もやるだろう? 背中を叩いて根性注入は」

「あー」



よく、頑張れとか、良くやったとか言う意味で背中を叩く人はいる。

しかし、このコガラシの腕は俺の胴回りほどもある、こんなので普通に叩かれればきっとマロネーは吹っ飛んで行ったことだろう。

少しだけマロネーに同情した俺だった。



「さて、ついたぞ」

「?」

「いや、ルリ。気付きたくない気持ちは分かるが……」

「あれ……ですか?」



そう、ここは既に浄化槽設備で、中央庁舎ビルの内部である。

そして、浄化槽のパイプが無数に伸びているのだが、当然浄化前のところは凄いヘドロになっている。

ウン○とか小○とか腐った残飯とか色々な汚い物が混ざって出来たそのヘドロの先に点検用の非常口らしきものがあるのだが、ヘドロの沼を泳がなくてはいけそ うに無い。



「……あれを越えるのか?」

「ウム、その先には地下施設への直通エレベーターに通じる道がある」

「しかし、あれを通って行った場合、匂いで1km先の敵にまで気付かれるぞ?」

「クククッ、そんな心配をしていたのかこの小心者ご主人め!

 そんな時こそメイドガイ! 駄目なご主人を完全サポート!!」



そう言って唐突にコガラシは俺とルリを両腕で抱え上げると、強引にジャンプを行った……。



「おうわ!?」

「なななっ!?」



俺達が目を白黒させている間に5m以上あったヘドロ沼を飛び越えてコガラシは着地。

俺とルリの二人で100kgくらいはあるはずにも拘らずまったく平然とした物だ。

呆然と目の前の男を見上げる、ある意味北辰以上だなコイツは……。



「はあ、人間の常識がとことん通用しない奴だな……。まあいい、扉の先を調べてから突入だ」

「それくらいお安い御用だ、メイドガイアイは透視力! 扉の前には誰もいないな、だが通路上には2名ほど巡回している」

「透視!? 一体どうやって……」

「フンッ、メイドガイに不可能は無い! 例えばそっちの貧相な娘はバスト……ううっこれは……上から下まで一直線だと!?」

「ちょっ!? 何を透てるんですか!? って私別に寸胴じゃないです!!」

「ご主人よ……そっち系の趣味があるのか?」

「……」


ルリの表情が消えた……いや、口元には笑みが張り付いている。

これは、切れたな……。


「ふふっ……ふふふ……分かりました、今すぐ貴方を殺してあげます」

「ちょっと待て、ルリ?」

「幸いちょっと持って行くか迷っていたサブマシンガンがここにあります」

「どこから出したんだ……」

「クククッ、そんな豆鉄砲でこのメイドガイをどうにかできると思っているのか?」

「試してみなければ分からないでしょう?」

「ちょっと待て!!」


俺はルリを背後から羽交い絞めにし、どうにか動きを止める。

とはいえ、ルリの力は意外にも強く、気を抜くと今にもマシンガンを連射しそうだ……。

もっとも、マシンガンでも本当に死にそうに無い変態は兎も角、あまり音を立てるのはここといえど不味いだろう。



「兎に角だ、ルリ、怒りはせめて脱出後まで取っておけ。

 今は奴らのジャンプ施設を発見してCCを奪取して脱出する事だけを考えろ」

「施設の破壊はしないんですか?」

「可能ならする、しかし、奴らの中枢施設だぞ、いくら弾除けがいるからといって油断は出来ない」

「そうですね、弾除けといっても全方向からの弾を防げるわけじゃないですしね」



それとなく、コガラシに嫌味を言いつつ俺達はビルの地下に侵入する。

見張りは巡回とエレベーター前のをあわせて4人いたが、コガラシのパワーの前には一瞬だった。

こんなに楽が出来るのは久しぶりな気がするな(汗)



「さあご主人最下層へ到着だ」



コガラシに案内されて到着した場所は研究施設然とした廊下ばかりの場所だ。

いくらコガラシがメイドガイの力で無理やりエレベーターを動かしていたとしても、警備はかなりの数が集まっているはずである。

それなのに、ここには研究員しかいない。

数人が横切っていくのが見えたが、俺達には無関心だった。

しかし、一人だけ俺達を認めて歩いてくる男がいた。

それは、黒ずくめのボディスーツの上から黒のマントを羽織り、目元には大きなバイザーをしたぼさぼさの髪の男。

俺と良く似た男、海燕ジョーを名乗る……。



「来たか……北辰達もいきまいていた割にはたいしたことが無いな。


 だが、来てしまった以上お前達を案内しなければなるまい。


 テンカワ・アキト。お前は……知らねばならない」



それは、俺が俺に告げたが如く違和感のある申し出。



男は俺にそのことを告げた後、きびすを返して俺に背中を見せる。



それでも俺にはついていく以外の道はなかった。



なぜなら、男の背には隙と呼ぶべきものが感じられなかったのだから……。

















あとがき


久々すぎて覚えている人がいるのか不安ではありますが、光と闇に祝福をの更新です。

書いてみた理由は、以外にも結構な数のリクエストを戴いていたからでして。

とはいえ、一度は感想がゼロになった反動で鬱状態にすらなったこの作品をもう一度書くのは骨が折れました。

更に言えば、設定は大きな部分は忘れてないんですが、個人的な設定とかだと忘れる忘れる(汗)

それにコガラシの性格が安定しないのも辛いです。

やっぱむやみに出すものじゃないですね(汗)




この、光や闇に祝福をには3人のボスキャラがいます。

一人目はオメガ、二人目は海燕ジョー、三人目は神崎准将。

これらのキャラは原作のライバルや敵を差し置いて活躍することになるのでお許しください。

もっとも、オメガはもう死にましたし、そろそろジョーとは決戦です。

神崎准将はまだちと先というか更新ペースとか考えるといつのことやらです(汗)


それから、次回もキャラが増えます、とはいえ知っているキャラですが(爆)

まぁまだ木連式武術の源流のほうのキャラも何人か出したいので、メインキャラはそれを含めて全員だと思います。

今回も3人ほどキャラが増えてますが神崎派ですのであんまりで番無いと思いますし、お許しアレ(汗)


今後も話しが続くかどうかはやっぱ人気次第かな?(爆)



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