コロニーフタバアオイ、このコロニーには秘密がありました。



それは、誰もが思い描いていた秘密ではなく、遺跡そのものの秘密。



フェムトマシンは全て遺跡を構成するものであり、それらは全て古代火星人の生きたいという思い。



そんな存在から否定されるアキトさんの秘密もまた、謎のまま残ります。



この先、きっとあらわになる、別にそんな事望んでいないのに。



でも今は、目の前に立ちふさがったその意志を打ち砕くために、私達は戦います。









機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜



第十八話「『南』よりきたる者」その1



「さて、貴女はどうしたいの?」

「えっ?」

「貴女もこのテロに参加する?」

「テロって、火星の人々は虐げられてきたんですよ。地球の人たちが悪いのに」

「そう……かもね、でも世の中が単純な正義の元で動いていない事はあなたにも分かるはずよ?」

「それは……」



サタケ・ミオは、何をしたいのか分からなくなっていた。

火星を全滅させた木星トカゲは許せない、でも同じくらい地球人の裏切り行為も許せなかった。

それでも、ルチル・フレサンジュは選べという。



「どうして私にそんな事を聞くんですか? 私なんて唯の一兵卒に過ぎません。なのに……」

「貴女は見所がありそうな気がしてね……。

 いい? まさか敵の敵が味方なんて甘い事はこの世界では滅多にない事はわかるわよね」

「そうですね……」

「木星トカゲは敵、地球は味方ではない、では火星の後継者は味方?」



ルチルは何故か火星の後継者に敵対的な発言を取る。

ルチル・フレサンジュは確かナデシコに救い出された1000人のうちの一人だと聞いている。

つまりは、以前ジョーには救い出されなかったという事、そのせいもあるのだろうか……。



「それは……でも、ジョーさんは私達を救ってくれた人ですし」

「それは本当? ジョーファッションがはやってみて分かったのは、あの格好をすると本人の見分けがつかなくなる事じゃなかった?」

「はい」

「なら本物かどうか行動から推測するしかないわね」

「でも、ジョーさんは火星人のために立ち上がってくれました」

「私はその部分が信じられないの」

「え?」

「火星の人のためを思うなら火星の人達の信用を落とす行為は避けるべきよ。だって私達は40万人しかいないのよ?」

「えっと……」

「地球に住んでいる人間は100億、比較にもならないわね。例えボソンジャンプが出来ても彼らが本気になればひねり潰されてしまう。

 数の論理は今は核の恐怖と人質が押さえ込んでいるけど、核が実際に放たれれば地球も報復行動に出る。

 その時、あのコロニーで防ぎきれる?」

「確かに……」



ミオはルチルの見識の深さに驚きを隠せない。

でも、現状第五艦隊にいる以上身動きが取れないのも事実。



「ジョーさんの危険性はわかりました、でも私は地球の人達のした事は許せそうにありません。

 それに今の私達にほかに何が出来るって言うんですか?」

「あるわ、一つだけ第五艦隊を止める方法が」

「え?」



その後ルチルの語ったそれは、確かに第五艦隊を止められそうではあったが、そうする事が正しいのかミオには分からなかった。










俺達は上手くエウクロシアのブリッジにボソンアウトする事が出来たようだ。

時間の経過等の問題が無いのか気になる所だが、兎に角……現状の確認をせねばとそう考えたが

丁度ブリッジに人が集っていたらしく、驚きの声で迎えられる事になった。



「おお!?」

「なっ」

「ちょテレポート!?」

「アキトさん!?」



それぞれ何事かつぶやいているが、俺は足に匕首の一撃を貰っているのでそのまま医務室へと運ばれた。

作戦会議を始めていたらしい、俺も参加を要請したところ、付き添いつきで医務室からコミュニケでという条件付で許可された。

ベッドに入ったまま参加というのは不謹慎かと思ったのだが、まわりが許してくれないのでは仕方あるまい。



『では、作戦会議を再開します。戻ってきてくれた人達のためにも最初から説明しますね』

「頼む」

『先ず、火星の後継者は地球人を非道とそしり、自分達こそ正義だと主張しています』

「ああ」

『ですが、要求の方は地球の全面降伏というとうてい受け付けられないだろうものです。

 そのため地球では徹底抗戦派と妥協交渉派で大きく分かれており、その決着はついていません』

「相変わらずか……」



政府が無能だという言葉は言いやすいがそれぞれ生死がかかっているのだ、馬鹿な事を考えない事を祈ろう。

しかし、地球が報復核攻撃に出た場合は殲滅戦という最悪の戦争になる。

核シェルターに入るか宇宙に上がらない限り生き残れないようなそんな世界になるのも困りものだ。

それ以前に死者の数は数えたくないようなものになってしまうだろう。



『全面戦争で地球が負けるとは思えません。

 しかし、それでは私達の生きていく世界がなくなってしまう可能性があります。

 妥協交渉は火星の後継者が受け付けるとは思えません。

 そこで……』



カグヤちゃんが一拍おいてブリッジ中央に立つ。

彼女に視線が集まるのがわかる。

作戦は伏せられてきた部分が多い、俺にも全容は聞かされていない。

大体予測する事は出来るが……。

まあ、聞いてみれば分かるか。



『今回着目したのは火星の後継者が人質を取っているという点です。

 当然ながら火星の後継者は火星の民の代表を歌っています。

 それゆえ、こちらも火星の民を人質として人質交換に望む事が出来る計算になります』

『ちょっと待ってください、確か社長代理やテンカワ様も火星出身者ですよね?』



メイド服を着た金髪の女性が質問を挟む。

彼女は確かロマネといったか、コーラルの上司的な存在で、今は彼女の資金管理をしているとか。

そんな事を考えていると当のコーラルが俺に軽食の類を持ってくる。

作戦会議中なのだが……。



「血が出た後にはエネルギーを補給しないといけません。バナナジュースはエネルギーが沢山取れますから体にいいんですよ」

「……ああ、ありがとう」



えらくこってりとしたジュースを持ってきてくれたものだ。

別に食事が喉を通らないとかいうわけでもないのだが……。

そんな事をしている間にも会議は進んでいく。



『確かに、火星の人達に同情的でないといえば嘘になります』

『ならば、私は連合宇宙軍代表として言わねばならない、寝返る可能性は無いと言い切れますか?』

『ご安心を、私は明日香インダストリー社員30万人、系列社員400万人の代表でもあります。彼らを裏切る事は出来ませんわ』

『そうですね、ではテンカワ・アキトはどうです?』

『私の婚約者ですもの、問題などありませんわ♪』

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ!!?」



カグヤはいきなり爆弾発言をかましてくれた。

思わずバナナジュースを噴出する俺。



「げほ、がほ! ガホッ……なっ!?」

「ご主人様、お行儀が悪いですよぉ。顔を拭きますのでこちらを向いてください」

「おま……うっ、頼む……」



遠慮しようと思ったが、何故か目がきらきらしているコーラルを止める事も出来ずおとなしく従う事にする。

俺はハンカチで顔を拭ってもらいつつ、またコミュニケウィンドウを見る。

会議は変な方向にまがりつつあるようだ、ルリが異論を唱えてくれるらしいが……?



『ちょっと待ってください、いつから貴女の婚約者になったんですか!?』

『それは幼少頃の事ですわ、アキトさんは私の手を取り愛の告白を……』

「それは幼稚園のお遊戯会じゃなかったか?」

『覚えていらしたんですね、やはり二人は結ばれる運め』

『バカな事より、会議を進めてください!』

『では、テンカワ・アキトの件については現時点で保留とします。作戦ですがホウショウさん説明をしてくださいますか?』

『ちょっと待つでちゅ! 説明といえば!』

コーン!



今一瞬アイちゃんがいたような気が……。

まあいいか、ホウショウが作戦の概要を説明し始める。

まあ、アイちゃんもイネスさんの記憶を引き継いだのなら確かにボソンジャンプしてでも説明しに来そうだが……。



『人質交換に作戦を盛り込む形で作戦展開するわけですが、基本的に全面対決はしない方向でいきます』

『損害があまり増えれば後の木星トカゲとの戦いにも響く……というわけか』

『その通りです。それに、この作戦には軍の承認は得られたものの支援は殆ど得られません。

 下手をすれば1000対1というありえない戦いに突入することになります』

『その時点で敗北確定ですね』



現時点でナデシコ級に敵う船はない、しかしそれも数の暴力の前には無力だ。

スペック的にナデシコを上回るとはいえ、エウクロシアも補給無しではフィールド維持にも限界がある。

消耗戦では勝ち目はない、それに、相手には人質と核がある。

普通なら手詰まりだな。



『幸いアキト様の偵察により、ボソンジャンプ施設の場所は判明しています。

 最重要攻撃目標はここ。第三層中央部地下、当然警備がもっとも厳重な場所となります』

『施設を移動している可能性は?』

「アレを移動させる事は不可能じゃないが、使用するにはあの場所が一番適している、恐らく移動はない」



あの場所は元から古代遺跡のあった場所、C・Cも豊富だ、あそこから移動させるとなれば、その辺りにも気を配らねばならなくなる。

そういえば、あいつの言っていた世迷いごと……俺のせいで世界が滅びる?

一体どういう事なんだ? 俺に対する脅しにしては荒唐無稽すぎる。

何かの暗喩か? そもそも俺にそんな事を伝えて奴に何の得があるというんだ?



「ご主人様! ご主人様ぁ!」

「ん?」

「目を覚ましたかうたたねご主人。我が奥義をつくして貴様の回復促進のための料理を作ってきたぞ!」

「コガラシ!?」

「ああぁ、うぅ……私コガラシさん苦手ですぅ……」



コーラルはプルプル震えて俺のベッドの後ろに隠れる。

確かに、コガラシは下手をするとトラウマになりかねない変態仮面だが、実力は北辰にすら匹敵しそうだ。

物理法則とかかなり無視している気がするが……。



「さあ、食べるがいい。メイドガイディッシュは強化滋養強壮白寿長命! 寝たきり老人が時速119kmで走り出すぞ!」

「その生ものを……か?」



そう、コガラシの運んできた皿の上に乗っているのは明らかに生命体だ。

それもゲトゲトしていて毒物を含んでいそうだし、そもそも食べたら死にそうだ……胃の中を食い破られて。



「ごっ、ご主人様にそんな不気味なもの近づけないでくださいぃ!!」

「副作用で死にそうな気がするんだが……」

「なに大した事はない、翌日の筋肉痛がちょっとダンプカーにはねられてから衛星軌道から落下してマンモスに踏みつけられてぺしゃんこになる程度だという事 以外はな」

「それ普通に死ぬだろ……」

「まあ、食べたうち10人中9人はしばらく廃人になったが死人はいないぞ?」

「……」



兎に角、必死で遠慮した。

匕首の傷は一週間もかからず直るし、長時間動き回らなければ全力を出すことも出来るだろう。

止血はきちんとしておかないといけないが……。

とはいえ、ユリカのこともある、気持ちばかり焦る……。



『とっ、とりあえず話を戻しますわよ』

『あっ、ああ……』

「そうだな……」



コガラシの料理に当てられたのか皆の声が震えているが、話の要点を詰めねばならない。

もう火星の後継者の攻撃開始時間まで20時間を切っている。



『ただ、人質交換の中に人員を紛れ込ませるというのは誰でも考え付く事です。対策が取られる可能性も高い』

『本人に行かせればいいのですわ』

『本人……それはつまり、火星出身者を使うと?』

『ええ、幸い火星出身者の保護を行ったわが社の事を認めてくれている火星出身者も多いですし』

『しかし、そうなれば潜入するものの危険は並ではありません、言い方は悪いですが……』

『裏切りが起こる可能性、確かにあります。だから統括する人間が必要ですね』

「それは……」

《それは私の仕事ね?》



突然、会話に割り込みがかかる。

外部通信らしく、少し画面にノイズが走る。

一瞬ブリッジは騒然となるが、カグヤは落ち着いたものだ。

つまりは仕込みは隆々という事だろう。



『通信先特定、第五艦隊10番艦』

『あら、案外時間がかかりましたのね?』

《時間はピッタリのはずだが?』》

「ルチル・フレサンジュ……ネルガルに戻ったと聞いていたが?」

『今回の作戦のためにお借りしたんですわ。一応、対クリムゾン作戦の一環として』

「クリムゾン?」



確かに木連が動いているならクリムゾンも動いていても可笑しくない。

今までが今までだけに、怪しいのは事実だろう。



『恐らく、今回も裏にはクリムゾンがついていると考えた方がいいでしょう。

 ネルガルには火星の会社を潰されたり、乗っ取りをかけられたりとうらみはありますが、

 今回はそうも言っていられませんですから』

《そういった世間話をしている時間は無いわ。通信の逆探知が終わるまで後20秒くらいかしらね》

『では、作戦に入って宜しいのですね?』

《ええ、プランはBでお願い、Aはちょっと無理そう》

『わかりました、では、準備を進めて置いてください』

《了解、またね》

「!?」



俺はルチルの背後で一瞬人影が動いたのを目で追った。

あれは、確かシゲルの妹じゃなかったか?

写真の特徴からではそれ以上はわからないが、何にしても面倒な事にならなければいいが。



「ご主人さま何を見てらしたんですぅ?」

「気にするな、ちょっと考え事だ」

「ふーん、そうですかぁ。でも、何かあったらコーラルに言ってくださいね。

 頑張ってなんとかしますので!」

「フンッ、貴様ごときドジメイドに何が出来る! 心配せずともご主人にはメイドガイがついている。

 たとえ100万本のレーザーを食らおうとも傷一つつかんわ」

「いや、それはそれで問題な気もするが……」



というか、本当にお前は人間か?

見たところネオスの増幅力とかいうのは一律で特に変わりは無い。

それでも、火事場のバカ力や反射神経の強化など、常人の数倍のスピードとパワーを得られるのだが。

この変態仮面は明らかに他のメンツとは違いすぎる……。

俺でも倒せるほかのメンツと違い、コイツでは北辰と北辰衆が相手でも傷つくのか疑問だ……。

何事にも規格外っていうのはあるものだな……(汗)



『それでは、最終的な突入はどうします?』

『もちろん、機動兵器で行います』

『まあ、妥当な所ではありますが……』



まだ、カグヤちゃん達の会議は続いている。

とはいえ、ほぼ方針は決まったと見ていい。

人質交換を申し出て、第五艦隊を釘付けにし、その間にコロニーに突入。

ボソンジャンプ施設を制圧する。

簡単に言うとそういうことだ。

因みにプランAは第五艦隊を正規に復帰させて一緒に突入というものだ。

まあ、甘かったようだが。



「開始時刻はいつにする?」

『後20時間を切っています。出きれば早急にと行きたいところですが火星の人たちを乗せた船舶が完全に足並みを揃えるまで後3時間はかかるでしょう』

「ならその間俺も休む事にする。後のことは頼む」

『わかりました。お任せくださいアキトさん』



カグヤちゃんは笑顔で俺のコミュニケ回線を閉じた。

俺は医務室のベッドで横になる。

幸い、他の病人は今のところいない。

うるさくしている二人のメイドは暫く出て行ってもらうことにした。

横になったまま目を閉じ、あの男の言っていた事を考える。

世界が終わろうとしている……突拍子も無い話だ、しかし、俺はそれらしい言葉を以前にも聞いている。

リトリア・リリウム……聖蓮教の最高幹部の一人だったな。

彼女が破壊神の復活を防ぐというような意味の事を言っていたらしい。

ルリちゃんからの又聞きに過ぎないが、それでも信用していいだろう。

しかし……



「情報が少なすぎるな……」



そもそも破壊神とやらが何を指すのかが分からない以上俺にはなんとも言えない。

そんな事を考えてごまかしていたが、やはりユリカのことが気になる。

奴は何も言っていなかったが、ユリカは何かされたのだろうか?

それとも、奴の言うとおり昔の時間に飛ばされてああいった姿になったのか?

何にしろいまだ分からない事が多すぎる。



「どちらにしても、俺は今度こそユリカを助ける」



俺がこの世界で出来る事、この世界に影響を及ぼしてまでやってきた事。

それは、自分が救えなかった人を助けるというもの。

今ユリカを救えなければ今の俺と同化してまで生きながらえた意味が無い。


そんな事を考えながら俺は、瞳を閉じて休息を図る事にした……。












コロニーフタバアオイ行政区、地下施設。

そこでは、アキト達が逃れてより特に変化はなかった。

遺跡も、そこに眠るミスマル・ユリカの姿にも変化はない。

そして、くぼんだ眼窩をそこに注ぎ続ける異様な風体の男も。



「ふんッ、そんな目で見えるのか?」

「見えるさ、フェムトマシンというのは優秀でね」

「木連がナノマシン研究に血眼になっている時に、既にフェムトマシンか。何世代進んでいるのか……」

「さあな、だがこの技術は地球にも無い。安心すればいい」



くぼんだ眼窩のまま男は赤い光を宿して北辰達を見る。

北辰は微動だにしなかったが、北辰衆はうめいた。

あまりの異様さに言葉を失ったのだ。



「何度見ても慣れんようだな。まあいい、それも今日までだ」

「我らの力はいらぬと?」

「ああ、もう必要ない……」

「それは、先の失態からか?」

「それもあるがな……俺の計画は最終段階に入った、巻き込まれたいなら知らぬが?」



北辰は表情を引き締める。

この男はテンカワ・アキトの肉体を元に作られたという。

しかし、それにしては落ち着いた雰囲気がある。

出来て間もないマシンチャイルドなどは赤子のような無垢か、感情が欠落して自分では何も考えられないような子供かのどちらかだ。

幾ら技術が違うとはいえ、この男は不気味ではあった。



「ッ!!」



北辰衆が身構える、この男からの異様な気配に踊らされたのだろう。

北辰はそれを手で制し目だけで相手を威圧する。



「確かに、貴様のお陰で地球の戦力を分散出来た事には礼を言おう」

「ん?」

「しかし、我らは草壁閣下の影、貴様の行動が草壁閣下の障害になるなら排除する」

「なるほど、分かりやすい行動基準だ」



北辰は殺気を放つ。

それは並みの人間なら気絶してもおかしくは無いほど強烈なものだった。

しかし、男は表情も変えない。

それが自信からくるものか、無感動ゆえか今一つはっきりしない。



「俺に挑んでくるのか? いいぞ、殺せるものなら殺してみるといい」

「ほう……」



北辰はそうつぶやいた瞬間もう次の行動に移っていた。

北辰は懐の短刀を抜き放ち投擲、それと同時にすべる様に男に駆け寄る。

しかし、後一歩で男の首が飛ぶというところで短刀がポロリと落ちた。

それと同時に踏み込んだ北辰の手刀も止まる。



「なっ……」

「この程度の芸はできないとな。それが人の域にある限り俺は死なんよ」



北辰は相手の能力を見誤っていた事を知った。

歪曲場(ディストーションフィールド)を発しているかどうかは見極めていた、

そもそも、今の手刀はそれを破るためにある種の技術を施した特殊な装置を使用してのものだった。

歪曲場の力に力負けしたのならともかく、装置に負荷すらかかっていない。

この力は技でも、機械のサポートでもない。



「なっ、なんなのだ貴様……」

「さあな、ラネリーに言わせれば、俺は完成一歩手前らしい」

「ラネリーとは何者だ?」

「俺を作り出した狂人さ」

「……」



窪んだ眼窩のままいびつに笑う男……。

北辰はある種の戦慄を覚えた、おそらくこの男には何も無いのだ。

正義も、悪も、忠義も、愛も……。

ただ、残っているらしい感情、それは存在し続けようという生存本能のようなもの。

男が語っていたことが本当なら古代火星人の……。


つまりは、この男は何もかも投げ打ってしまうことが出来る。

自分のためだけに、それを何の感情も交えずに行える。

そういう男なのだ……。



「ならば、なぜこんな事をした?」

「ささやくのさ、奴を滅ぼさねばこの世界が滅びるのだと。そのための舞台はラネリーが用意していた。

 俺はラネリー……いや、筋書きを書いたのはオメガとか言ったか、そいつの作った道化芝居を演じながら、奴を殺す。

 それだけが破滅を逃れる方法だからな」

「破滅?」

「わからねばいいさ、だが貴様も気をつけることだ。大事なご主人様がピンチだぞ」

「!!?」



北辰はさっと顔色を変える。

オメガの名には聞き覚えがある、南雲の前に地球と木連の橋渡しをしていた男だ。

しかし、奴はナデシコに対する大規模作戦を行い死んでいる。

だが、奴は木連に何か仕掛けを施していった可能性があると北辰は踏んでいた。

それが今になって芽吹いている可能性は否定できない。



「貴様! 何を知っている!?」

「さあな、まあ、ゆっくりしていっても俺はかまわんが?」

「貴様!」

「くびり殺してやる!!」

「……わかった」



北辰衆が荒れるのをあえて無視し北辰は答えを出す。

確かに一大事である、それにこんな所にかかずらってなどいられない。



「だが、当然ここを使わせてもらうぞ」

「ああ、好きにすればいい」



跳躍実験はまだ60%の成功率に達してすらいない、しかし、それでも自ら調整している北辰達は無謀といっていい。

だが、それを決意しなくてはいけないほどに今は切羽詰った状況である可能性がある。

目の前の人外にかかずらってなどいられない、そう判断した北辰は迷わなかった。

最初は北辰衆も動揺したものの北辰の考えを知るとぴたりと落ち着いていく。



「お前達も準備はいいな?」

「「「「「「はっ!」」」」」」」

「着地目標はかぐらづき艦橋、よいな?」

「「「「「「は!」」」」」」」

「「「「「「「跳躍!」」」」」」」



北辰達はその言葉とともに虚空へと消えた。

その姿を見送る男は口元を少しだけ吊り上げながら、



「一体何人がたどり着くかな?」



とポツリとつぶやいた……。











なかがき


えーっと、他の作品も見てくれている方ありがとうございます。

この作品を待ちくださっていた方にはお久しぶりです。

またまたずいぶん時間が空いてしまいましたが、どうにか更新しましたw

とりあえず、反応しだいではありますがまだ辞めるつもりはありませんのでがんばります。

さて、ようやく人質作戦の概要を出す事が出来ました。

たいしたことも無いのに引っ張って申し訳ないです。

実のところ決めかねていた部分もあったりしたので今回まで内容は伏せました。

まあ、細かいところはまだですが。

それもおいおい明かしていきますねw



さてWEB拍手ですが最初のうちは残していたのですが、途中で入れてくださった方には申し訳ありません。

残していなかったみたいで(汗)

次回からは気をつけますね。

では、お返事を。



1月19日
2:23 更新お疲れ様でした。次も無理せずがんばってください。 
がんばりますーとはいえ、ずいぶんあいてしまいました申し訳ないです。


9:26 逆行ユリカが酷いことに、北辰たちて意外と軽く殺せるはずなんですよ、 
9:33 アキトは、バカ化戦術の基本を忘れているし、機雷や地雷等とグレネードやショットガンを併用して攻撃すれば 
9:41 確実、戦術の基本は1対1と機動の確保、裏技で、爆発装甲や指向性地雷を、後は原作破壊で星星の盾 
9:47 の盾や破滅の衣、使えば確実でしょうね、機動兵器用だけどね、 
うむ?
えーっとどういう考えの下にそういうことを言っているのか不明ですが……。
グレネードやショットガンをアキト達が持ち込むことが出来たのかどうかという点を考えていますか?
ルリのサブマシンガンは組み立て式のを使っているとか細かい設定は書いていませんがね。

それよりも、戦術論でそういったことを言われると……。
基本から覚えなおしたほうがいいかもですよ?
戦術の基本は包囲殲滅及び各個撃破です。
多人数の時は包囲殲滅、少数の時は相手の戦力を分散させて各個撃破に持ち込む。
一対一なんて戦術では下の下ですが……。

北辰が簡単に倒せるのかという点については、まー人ですからグレネードとかだと死ぬかもしれないですが。
個人用のDF発生装置を彼らも持っていたりする可能性は考えましたか?
男は持っていたんですよ?

それで、星の盾とか破滅の衣だとかは申し訳ないですが知りません。
原作破壊とかいってますがナデシコと何か関係あるんですか?


14:52 更新待ってました! 前の方の話がおぼろげなので、最初から読みなおさせていただきました。 
14:53 更新待っています( ^^) _旦~~ 
ありがとうございます!
そして遅くなって申し訳ありません……なんというか、またやっちゃった感がありますがw
とりあえず細々と続けていきますのでよろしくですw

1月20日
23:04 まりネタを入れすぎても面白さが、半減します、どうして皆さん直ぐにアキトVS北辰の図なのでしょう、 
23:05 ルリにマシンガン、ウージー 
23:07 しまった、エンターをしてしまった、ウージーとかかな、アキト成長しないな 
23:09 DFの弱点は衝撃ですのでハンドグレネードでも投げれば確実に無効化できるんですけどね 
23:12 出来れば、135マグナムくらいは持っていて欲しかった 
また戦術的なお話ですな……前回の戦いはよほど皆様気に入らなかったようで……。
でもま、マシンガンは申し訳ないですあれはサブマシンガンです、組み立て式のタイプであるという設定です。
DFの弱点は衝撃、確かにそのとおりですがグレネードで無力化できるのでしょうかね?
私にはそこまで強度が低いとは考えにくいのですが……まあ、それ以前に持ち込んでいないのですがw
マグナムかー元々療養を兼ねてですからそんないいものもって来ていないんじゃないでしょうかね、
むしろハンドガンでも持ち込んできていただけ用心深かったという事で。

1月27日
21:51 17話読みました。続きを楽しみにします。 
はっはっはー遅くなって申し訳ないですorz
今頃ですがよかったら読んでやってくださいませ。



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