泣きじゃくるベルフラウちゃんと髪をなで慰める私…

そして、それをどこか懐かしそうな顔で見守るアキトさん…

ここから…全てが始まりました…

見知らぬ島で私たちを待っていた途方もない日々が…

だけど、私はまだその事を知りません…

泣きじゃくる生徒をなだめる事だけで精一杯で…

まだ…

知らなかったんです…


Summon Night 3
the Milky Way




第二章 「暢気な異邦人」前編



俺は…


何故ここにいるのだろう?


火星で最後のボソンジャンプを行った先…


遥かな未来か…それとも異世界なのか…


いや、そんな事はもうどうでも良い、


復讐もした、ユリカも救い出した、今更元の生活に戻れる訳もないなら…


いっそ、ここで静かに暮らすのも良い…













海岸線に太陽が眩しく照り返す中、浜辺で寝ている少女に赤い影が近付く…

赤い影は少女の眼前まで行くといきなり声をあげた。


「ビ〜ビビィ!」


少女は声に対し少し眠そうに目をこすってから周囲を見回す…

そして、初めて気付いたように不思議そうに誰にとも無く訪ねた…


「…ここは?」

「ビビ〜」


赤い影が返事をするがニュアンス以上のことがわかるはずも無く、少女は自分で状況を整理した。


「もしかして、私あのまま眠ってしまったんですの?

 そ、それより…あの人達は一体どこへ??」


そう言って、声を上げながら動き出そうとする少女に背後から声がかかる…


「あ、おはよう、もう目が覚めたんだ」

「ビィビビィ!」

「あ…」


振り返った少女はそこに女性が立っている事に気付いた…

女性はニコッと自然な笑みで少女に笑いかけ、口を開く。


「近くをね、ちょっと見回ってきたの、何か無いかな…って

 ぐっすり眠ってたから起こすの悪いかなって思って…」

「そういう事はきちんと断ってから行動なさいよっ!」

「あっごめんね…それでね、ほら? 武器とか日用品とか流れ着いてた物拾ってきちゃった♪」


そういって、女性が差し出したのは大きな風呂敷袋…

中には、衣服類、食器等取り合えず生活に必要な物と、武器等の身を守る為の物そういったものが入っていた…


「これって…」

「うん、多分あの船にあった物なんだろうね」

「…」


グゥ〜・・・


「…あ」

「…」

「二ビビ…」

「そういえば、昨日から何にもたべてないんだっけ…」


その時、少女の視界に不思議な光景が写った…

海から現れるクロメガネに黒い全身タイツの男…


「キャー!!」


少女は思わず飛びずさって女性の後ろに隠れる…

女性の方も少し引き気味だ…

近付いてくる男に腰砕けになっている女性が問いかける、


「あの〜、アキトさん、一体何をなさってたんですか?(汗)」

「見て分からないか?」


良く見ればアキトと呼ばれた黒い全身タイツの男は片手にモリを持っておりその先にはタイらしき魚が数匹刺さっていた。

アキトと言う男の体からようやくそちらの方に視界が行った女性は二度びっくりする。


「潜って取ってきたんですか…?」

「ああ、モリがあったからな」

「…はあ(汗)


およそ常識外の事を平然と口にするアキトに女性は半場呆然とするが、気を取り直して話しかける。


「あの〜それで…」

「アティ、調理器具はあるか?」

「あ、はい」

「ちょっと、先生! 何いきなり従って居るんですか! 貴女が召還したんですから貴女の召還獣なんでしょう!?」


アティと言われた女性はそれを言われてはっと気付く物の、既にアキトはまな板などの調理器具を広げ、調理を始めていた…

それを見て、女性は何か言おうとしたが何も言えず彼の手際に見とれてしまう…

しかし、少女の方は見た事無い調理法に不安を覚えたようだ…


「アティ、その中に調味料の類はあるか?」

「え〜っと、お塩と胡椒くらいなら…あとは、樽に入ってたレモンがありますけど…」

「先生!」

「あ!」


そう二人が言っている間にも調理は進み、二人の前に料理が出される…

差し出された皿には綺麗に切り分けられたタイの刺身のような物

それにかけられているのはどうやらコショウとレモン汁らしい。

有体に言ってタイのカルパッチョだった。


「まあ、釣りたてだからな…新鮮さが違う筈だ、味付けはこの程度で十分だろう」


しかし、彼女等に魚を生で食べるという習慣はないらしく、

二人とも表情には不安が一杯だ…


「せっ…先生、先生は使用人なんですから、毒見をしていただきます!」

「え〜! それは無いですよ! ベルフラウちゃん! ちょっと待って!」


二人が言い合いをしているのをアキトは見てクスリと笑うと、カルパッチョを自分で食べて見せた…

アティは顔の半分を覆うクロメガネ越しではあるが、アキトの表情を見て何か安心する物を感じた…


「分かりました、私から頂きます」


アティは恐る恐るタイのカルパッチョを口に運ぶ…そしてその味に驚嘆した。


「美味しい! 美味しいです! ベルフラウちゃん、これなら大丈夫です! …あ」

「…あ」


二人は額に汗してアキトの方を見るがアキトは表情を変えることなく食事を済ませていた、

それを見て安心した二人は食事を再開した…















「…というわけなんです」

「…」


事情を聞かされた俺は、やはりなと思った、何もかもが異常だ…

昨日から試している事だが五感が回復している…

それに、何か異常な力が体内に溢れている…

それらが全て異界に来た影響なのかは分からないが、

どちらにしても、昨日の変な生物やベルフラウという少女の周りを飛んでいる妙な物体がここが異界である事を証明している。

何故俺がこの世界に飛ばされたのかは分からない…

だが、俺は既に目的を果たした、隠遁生活を送るには異界もいいのかもしれない。


二人は周囲を見回し、食べる物や人がいないか探しながら会話を進めていく…

隠遁生活について考えていた所為ですこしぼんやりとしていると、

二人の話は進み、漂流についての事になっていた、まあ俺にはどうでもいいことだが一応ここにいる以上聞かない訳にもいか ない。


「でも良かった、あなたが同じ場所に流されていてくれて、別々の場所だったら…」


余程心配だったのだろう、アティはベルフラウから視線をそらし少し目を潤ませている…

俺も一応見ないフリをしてはいるが…どっちにしろまる聞こえだけどな。


「倒れていた私をこの子が起こしてくれたんです」

「ビー!」


赤い物体がベルフラウの声に応える、どうやら意思の疎通が可能らしい…

もっとも、犬猫レベル以上かどうかまでは分からないが…

アティはそれを見て不思議そうな顔をしている、何か問題でもあるのか?


「ビビ??」

「私をどこかに案内したがっていた様なのですけど…その途中で…」

「あの召還獣たちに襲われたのね?」

「この子私を守ろうとしてくれたんですのよ、ちっちゃなくせして頑張って…」


二人が赤い物体を見る、一人は感謝の視線を、もう一人は不思議そうな目を…

そして、お互い納得がいったのか視線を戻し、


「でも、私が軽率だった事は…」

「そんな事ないわよ、必死だったのよね? その子の事を守りたくて…」

「え、ええ…」

「謝る必要なんて無いよ、だって間違った事じゃないんだもの」

「…」

「じゃあ、次はあっちの方にいきましょ」

「な…なによえらそうに…っ」


アティがベルフラウを促し少し内陸の方に向かう…

もっとも、何が居るか分からないのであまり深入りするつもりは無いようだ…

その辺の機微が分かっている辺り彼女も中々荒事は得意そうではある。

実際普段の動きにも隙が無い…

木連式の武術の様な常識外の力を計算に入れないなら一流の戦士なのだろう。

そんな彼女は歩きながらふと思いついたようにベルフラウに話し始める…


「所でその子はなんていう名前なの?」

「オニビって私は呼んでるわ」

「オニビ」

「いいでしょ、可愛い名前じゃない」

「あ、うん…これからよろしくオニビ」

「ビ〜ビビ〜♪」


微笑ましい会話だなと思い少し頬が緩むのを感じる…

まあ良いか…

ここの俺は連続コロニー襲撃犯テンカワ・アキトとしての全てを捨てて隠遁する事にした唯の男なのだから…

そう思って俺が足を進めようとすると、今度は俺の方に赤い物体、いやオニビか…が近付いてきた。


「ビ〜ビビ?」

「?」

「その子貴方にもよろしくって言ってるの」

「ああ…そうか、よろしく、テンカワ・アキトだ」

「ビビ〜♪」


オニビは俺の周囲を飛び回っている…

犬の行動に似ているな…人懐っこいというか…

それに目を取られている内にベルフラウがやってきて俺に話しかける、何か緊張しているようだ…


「私はベルフラウよ、アキトだったわね、よろしく…それから…助けてくれてありがとう」

「気にする事は無い、ただ俺はやりたい事をやったに過ぎない」

「…あ、そう!」


すねて走っていってしまった…感情表現が唐突だな(汗)

この子は人付き合いがあまり得意では無いのだろうと察する…

方向性は違っても昔の俺もそうだった…


「もう…いけませんよ、アキトさん! ベルフラウちゃん折角勇気を出してお礼を言ったのに!」

「…なるほど」


初めてのお礼と言う奴か、悪い事をしたな、今度美味い料理でも作ってやるか…

正直今の俺は何もしたいとは思っていないが、

特に目的があるわけでもない、俺はこの娘達が人里に行くまで少し付き合っても良いと思い始めていた…







一時間ほど歩いて気配を探った所俺は何箇所か人のいる気配を探り当てていた、

しかし、どうにも友好的な気配とは言いがたい物がある…

言ってみるべきかと思い、俺が声をかけようとした時、ベルフラウが人影に気付いたらしい…

既に声を上げて呼び合っていた…

そして、駆け寄ってくる気配…


「貴方はあの時の海賊!」

「へえ…お前等も生きてやがったワケだ、しかし、前は見かけなかったのも居るみたいだが…」

「お知り合いですか? カイルさん」

「ほれ、話しただろうがガキを助ける為に荒れた海に飛び込んだ女がいたって…それがこいつさ」


最初にやってきた金髪の男、野性味のある男だ…体格も大きい…肉弾戦を得意とするタイプか…

金髪の男は俺を見て表情を険しくする…ほう、中々やるようだな…

少し遅れてやってきた男は金髪の男より更に背が高い、しかし筋肉などはついておらずヒョロッとした体格だ、灰色の髪がまるで老境の人間のような印象さえ受 けさせる…

手に持つ杖…この世界の人間なら召喚術とか言うのを使えると言う事か…

俺がアティの方を向いてみると彼女は表情を引きつらせている…

何か訳ありといった所か。


「お前も色々あるみたいだな」

「いやあの…私は人生何事も無いのが一番だと思うんですけどね…」

「同感だ」


今更何をと言われるかもしれないが、無駄な戦いはしない方がいい、

どちらにしろあまりいい結果にならないのだから…


「ようやく人影を見つけてみりゃあご同類とはな。

 まっどっちにしろよ、このままお前等を見逃す訳にゃあいかないな」

「聞きたい事もありますしね」

「あははは…別に私は用事なんて無いんですけど…」

「さあ、あの時の続きと行こうか!」


もっとも、大抵はそういう時に相手が許してくれる事は無いのだが…

金髪の肉弾戦タイプはジリジリと前に出ながら構えを取る、

これは、ケンカ慣れしているタイプだな…

もう一人は杖を構えて何かの詠唱を始めた…

召喚か…先に潰すべきなのだろうが…

それを許してくれるような奴じゃないな…

ならば、先ず金髪を倒すとするか…


「俺は金髪の方を倒す…アティ、君は召喚士の方を頼む」

「え? ちょっと待って下さい!」


彼女が何か言い終える前に俺は金髪の男に突撃する…

正面からやってくる俺を見てニヤリと笑った金髪は俺を迎撃するべくボクシングスタイルの構えを取る…

だが我流なのだろう隙が見え隠れしている、俺は加速に任せて突っ込みながら体勢を低くしタックルを仕掛けた、

だが、金髪はそれを正面から受け止めようとせず体を流して半身に成りながら避けようとする、そして俺の後頭部に向かい拳を叩きつけてくる。


「シッ!」


だが俺はさらに体勢を低くして両手を地面につけて体を回転、金髪に足払いを仕掛ける。


「な!?」


その隙に体を捻って身を起こし、金髪の体勢が整う前に金髪の右腕を掴んだ…

金髪は力任せに引き離しにかかるが、いかんせん我流の戦い方なので俺を上手く引き離せない、

俺は金髪が腕を引くのに合せて飛び込み、金髪がカウンターを狙って放った左の腕もかわしざま抱え込む…

そして、腹の上に膝を乗せ金髪の軸足をかけて転ばす…


「グエ!」


砂浜に背中を叩きつけられながら腹に膝を喰らって金髪は悶絶する…

このままにしておくのも見苦しいので、首筋に手刀を落として気絶させる。


木連式柔中伝、黒滴…

本来は腕をとって背後に回り相手の後頭部に膝を入れながら叩き落す技だが、そこまでする必要があるとも思えない…

素質はあるがまだアティほど強くも無いしな…







「アティそっちはどうだ?」

「はい、どうにか終わりました」


アティは汗をかきつつ俺に近付いてくる、召喚士の男は気絶させた様だ…

しかし、アティが汗をかいているという事は、この男召喚以外でも戦えると言う事か…


「でもアキトさん凄いですね…彼、前に戦った時は私より強かったのに…」

「海の上でならと言う事だろう、確か海賊なのだろう?」

「それもそうですね…」


二人の男を浜辺に転がしてからアティと話していると、

隠れていた一人と一匹がこちらに向かってきている…

近付いてくるベルフラウの顔は少し青ざめている、戦闘そのものに慣れていないんだろう。


「…」

「ビビィ!」


全員そろった所で俺は二人に活を入れて起こしてやった、もちろん二人の手は縛ってあるが…

気がついた二人は最初は戸惑っていた様だったが、納得いったのか、表情を正す…

しかし、金髪は何がおかしいのか急に笑い始めた。


「く…はは…っ、わははははははっ!!」

「なんですのっ? 何がおかしいんですの? 負けたくせに!?」

「あー負けた! 完璧に俺たちの負けだ、特にそっちの兄さんは凄いねぇ」


金髪の男が俺を見ながら言う…

どうやら、本気ではなかった事に気付かれたらしい…

この男はまだまだ伸びる素質を持っている様だ…


「あなた、民間人ではありませんね」

「帝国の軍人でした、だけど今はやめてこの子の先生してます」

「…」

「なるほど…」


もう一人の男はアティから何か探りたい事があるみたいだな…

だが、それなりに良心も持っているらしい、この場は納得している様だ。

もっとも、捕虜が質問をするというのは立場を弁えていないともいえるが…

金髪はさっき笑った事で気分を落ち着けたらしく、さばさばとした表情をしている。


「ま、なんにしろ負けは負けだ、煮るなり焼くなり好きにしていいぜ」


潔い事だな…俺は…そんなに潔くは無かった…

復讐の為に死にそうな体にムチを打ってさえ動かし続けたというのに…この男はもう良いというのか?

この男には守るものがあるはずだ…なのに…

少しイラついたので、からかってやる事にした。


「そうか? では煮てみるか、なんなら刺身にしてやろうか? 別にミンチにしてハンバーグにしてやらんでもない」

「アキトさん! 冗談はやめて下さい! 人間料理なんて食べたくないですよ!」


アティ結構ツッコミきついな…

金髪男も冷汗を垂らしているぞ、あ、いやそれは俺の所為か…


「兎に角、もう二度と私達を襲わないと約束してくれれば十分です」

「な?」

「私達が必ず約束を守るという保障は無いのですよ?」

「その時は…困っちゃいますね、うん」

「な…っ?」


アティは本当に困った様な顔でそれを言う、

何というか、平和な考え方だな…

俺もどちらかと言えば召喚士の男に賛成だが…

わざわざ忠告してくるあたり心配は要らないか…

だが、ベルフラウは怒り出している…まあ当然という気もするが…


「そういう問題じゃないでしょう!!」

「あ、でも大丈夫です、そういうことを平気でする人達だったら今の戦いでベルフラウちゃんを真っ先に狙ってた筈ですよね」

「「な!?」」


海賊二人が驚く中、平然としたままアティは微笑んでいる…

アティはどうやら相手の性格を読み切っていたらしい、ユリカに通じるものがあるな…

軍隊の指揮なども出来るだろう…


「やれやれ…こちらの考えまでお見通しとは…」

「気に入ったぜあんたのその肝っ玉! なあ先生達よよけりゃ客分として俺らの船にこねえか?」

「え?」

「船ですって!?」

「おうよ! 今は壊れちゃいるが直せねえ訳じゃねえ、食い物も水もしばらくの分なら蓄えがあるし、修理を手伝うんなら礼として近くの港に乗せてってやる ぜ、どうよ?」

「わかりました、その提案乗りましょう」

「!?」

「おーっし、そうと決まったんなら船で待ってる連中にも紹介しねえとな…さあ、ついてきな」


アティがどんどん話を進める中、俺はこの先の事も考えていないというのに、なし崩し的に巻き込まれ始めているのを感じていた…





なかがき


はははは…

第二章でこの有様とは…

こんなテンポだといつ終わるのか想像もつかない(汗)

少しずつ端折る箇所を増やしていかねば…




 

 

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