カイルさんがベルフラウちゃんを正面から見据えて、頭を下げました。

それを見て、流石にベルフラウちゃんもたじろいでいます。


「言い逃れをするつもりはねえさ…お嬢ちゃんの言うとおりだ。

 この責任はきっちり取らせてもらう、あんた達は必ずここから連れ帰る…

 だから、暫くの間だけ辛抱してくれ! この通りだ!」


カイルさんは、そのまま地面に頭をこすり付けそうな勢いで頭を下げ続けました…

ベルフラウちゃんが思わず後退します…


「!?」

「頭を上げてくださいカイルさん」

「…いいでしょう」

「ベルフラウちゃん…」


ベルフラウちゃんは、そう一言呟くと、艦長室から出て行きました…

やっぱり未だ不安なのかしら…でも、こんなに良い人達なんだもの、きっと仲良くなれますよね♪

私は、部屋へと戻っていくベルフラウちゃんを見届けた時、アキトさんがいつの間にかいなくなっていたことに気付きました…




Summon Night 3
the Milky Way




第三章 「変わり者の島」中編



あたえられた船室に戻る途中、ベルフラウは自分について来ている人間がいることに気付いた。

ベルフラウは恐らく先生だろうと振り返ったが、そこにいたのは黒尽くめの男だった。


「あら、アキトさんどうしたんですの?」


ベルフラウは咄嗟にアキトに声をかけていた…

アキトが何か言いたそうにしている事が見て取れたせいだ…

一日しか付き合いが無いが、無言でいる事も多く、とっつきにくい正確だと思っていただけに興味もあった。


「良く我慢したな…」

「あのね…あの人達を責めても意味のない事ぐらい私にも分かってます!

「そうともいえない、彼等は本来船の転覆に関する全ての責任を負わなければいけない…

 もちろん、この場ではどうしようもないが…

 彼等が襲ったことによって引き起こされた事実は消えない」

「え?」


ベルフラウは彼が言っている事が実は海賊に向けられた訳ではなく、自分に向けられていることが分かった…

罪を犯してしまったものは裁かれなければいけない…

暗にアキトが自ら罪を犯したと言っているような、そんな風に見えた…


「どういう意味ですの? 彼等にも彼等の正義があったのでしょう?」

「だが、犠牲になった人達には関係の無い話だ…」

「…でも、許さなければ私は生きていけませんもの、ここで生きるためにも、ここの人達とは最低限には付き合いますわ」

「…そうだな、君の考えの方が正しい」


ベルフラウの言葉にアキトは少しだけ表情を和らげた…

それを見たベルフラウは、何か大事なことが分かりそうな気がしたのだが、まだ幼い彼女にはそこまで細かい感情の機微は分からない。

二人はベルフラウの部屋の前で別れた…別れ際…


「この世界は暖かいな…」


そんなアキトの呟きが耳に入った気がしたのだが、ベルフラウには確認する術も無かった…



















会議が終わった後、出て行こうとするアティを呼び止める声があった…

アティとしては、ベルフラウの所に行ってあげたいのだが、まさか無視する訳にも行かない。

少しだけ躊躇した後、アティは呼び止めた人の方に向き直った…

そこにいるのは、背の高い灰色の髪の男と黒髪をした紫の服の男、ヤードとスカーレルだった…


「すいませんでした。私の配慮が足りずに」


ヤードは本当にすまなそうにアティに頭を下げる…

あまりにかしこまられてしまったので、今度はアティのほうが少し緊張してしまった…

でも、そのまま緊張している訳にも行かない、アティは心を落ち着けて言葉を返す。


「気にしないで下さい、あの子だって本当は分かっている筈です。誰のせいでもないって」

「アティさん」

「しかし、先生がうまく纏めてくれたお陰で助かったわ。この子ったら、昔から要領が悪くてねぇ」

「なっ! スカーレル! そんな昔の事は関係ないでしょう!?」


スカーレルが雰囲気を和らげる為に茶々を入れる…

ヤードが反論し、空気が軽くなった…

軽くなった空気の中でアティはふと気になったことを聞いてみた…


「お二人は昔からの知り合いなんですか?」

「んー、まあね、ちっちゃかった時にちょっと、ね…

 でもまさか、ばったり路地裏で再会するとは想像もしなかったわ」

「え?」

「倒れていた私を、偶然スカーレルが見つけてくれたんですよ、それがきっかけで私はカイル一家のお世話になる事になったんです」

「まぁ、なんていうか…腐れ縁ってやつね」

「そうなんですか…」


二人の奇縁を聞き、アティはそういうこともあるんだとびっくりした。

しかしその時、ベルフラウの所に行かねば成らないことを思い出し、別れの挨拶もそこそこに走って出て行くのだった…



















昼時、太陽が中天に差し掛かる頃…既に皆食事を始めている…

相変わらずガヤガヤと食事を続けるその場で、カイルが提案を行った…


「島の調査ですか?」


唐突に言われた言葉に、アティが戸惑う…

しかし、考えてみれば食料も限界があるし、船の修理用の物資も必要だ…

早めに行っておいた方が良いことだろうとは思った。


「船の修理に必要な木材の切り出しなんかも兼ねてちょっと、行って見ようかと思うんだが…」

「先日のような危険を避ける為にも、この島についてある程度調べておく必要はあるでしょう」

「もしかして、お宝とかあるかもね〜♪」

「「「ないない…」」」


お気楽発言をするスカーレルに海賊仲間全員で突っ込みを入れる様はまるでコントを見ている様だった…

アティは口の中でクスリとするもののそれを表情には出さず、話を続けるようにした。


「でも、調べるとしてどこからてをつけるつもりです?」

「簡単に回れるほど小さな島じゃないわよ」


アティの疑問に追従するように、ベルフラウが不安を口にする。

食料との兼ね合いもある為早いに越した事は無いのだ…

ベルフラウは喋った後にスープに口を付け一息つく。

彼女なりに緊張しているのだろう…まだ、打ち解けていないのかも知れない。


「それなんだがな…ここに流れ着いた時に、俺らは海から灯りみたいな物をみてんだよ」

「灯り、ですか?」

「うん、全部で4つぐるっと島の中心を取り巻くみたいに」

「それってもしかして」

「そ、ひょっとするとこの島に住人がいるってことかもね〜?」

「もし、そうだったら話をつけて、修理に必要な材料を分けてもらおうって寸法よ」


カイルは喋りながらも既に食事を終えてしまった…

豪快な食べっぷりの所為かカイルは食べるのが早い…

それでいて、口の中に物を入れたまま喋らないのだから恐れ入る。

アティもアキトも現在カルボナーラと格闘中だ…

アキトなど、会話を完全に無視している…

とは言え、一応聞いているのか、時折パスタを口に運ぶのをとめているが…

どうにも、ここの海賊は地中海の食事が普通らしい…出てくる料理もその系統が多かった。

だが、アキトは小食である。

アティと同程度しか食べていない、いやアティより少ないかも知れない…

残りの食料の事を考えればその方が良いのだが、アティはちょっと負けた気分だった…


「問題は4箇所のどこから回るかということです」

「つ〜わけで…先生あんたの出番だ」

「はい?」


唐突に自分に話が回ってきたことを知り、フォークにパスタを巻く手が止まるアティ…

中途半端な沈黙が訪れる…

話を進めたいのかソノラがとりなすように続きを言った。


「みんながみんな別々の所に行きたがるもんだからさ…アキトさんでも良いけど…やっぱりこういう事は先生かな? って」

「そうだな、俺もそれを薦める」

「ちょと、アキトさんずるい! 一緒に考えてください!」


アキトの無責任発言に、アティは噛み付いた…

自分ばっかり頼られるのではずるいと感じた…

アティにしては珍しい事だが、アキトには頼っても良いとどこかで感じているようだった…

彼女は誰とでも仲良くなろうとする、だがそれだけに他の誰かに頼る事で仲良くなった関係を壊してしまう事を恐れる傾向があった…

だが、アキトは決してそういうことで嫌いになったりしない、そう感じているという事なのだろう。


「特に考える必要も無いと思うが? 別にどれが正しいとか正しくないとか現時点では分かりはしない、上手く行かなければ全て回ってみれば良いだけだ」

「そうですけど〜、アキトさんならどうしますか?」


完全に判断をアキトに委ねようとするアティにアキトは少し表情をゆがめるが、

実際の所これはアティが場に馴染もうとしないアキトにも発言をさせようとして仕組んでいる事も感じていた…

それに、彼女は彼がいなくても、自ら判断を下せるだろう…

アキトに言わせたいのは彼女なりのこだわりのような物だったのかも知れない…


「では、一番近いのはどれだ?」

「ああ、ここからだと赤い灯のあった所だ」

「ならそれで、良いんじゃないのか? 順をおって地図を潰していくのは基本の筈だ」

「じゃあ、そこにしましょう!」


アティが何の気負いもなくアキトに追従する。

ベルフラウはアティのあまりに素早い追従に、食事の手を止め不安を口にする…


「本当にそれで良いんですの!?」

「あまり気にしないことだ、別にこの島自体10日もあれば調べつくせる、どこから調べるかと言うだけの事だ」

「はあ、そんなんですの」


だが、アキトに正論で言いくるめられる格好になり少しご立腹のようだ…

アティはそんな二人を横目に見つつ、海賊一家の人達に次の話を持ちかけた…


「それで、全員が離れる訳にはいきませんよね…」

「アタシがのこるわ、備品の点検とかまだ終わってないし…一応船員達の監督もしなきゃね…」

「ははは、あいつらはアレで上手くやるさ、だがひとつ留守番頼む」

「ええ」


海賊一家の留守番はスカーレルがやるようだった…

まあ、一家の海賊は他にも10人程いるのだが、戦闘力と言う意味で、

主要メンバーたる四人に敵う者もいないため、基本的には誰かを残す必要があると言うことになるのだった…






「…コホン!」


私の右隣から声がします、声だけで予測はつきますけど…

私が首を回してみると、ベルフラウちゃんが立ち上がって胸を張り何か私に言いたそうにしています。

赤い帽子は食事中ですからとっていますが、流れるような金色の髪が気品を醸し出しています。

こころもちオニビも胸を張ってるように見えますね…まねをするのが楽しいのでしょうか?

それでもやはり子供ですし、どうしても背伸びしているようにしか見えないんですけどね(笑)


「ベルフラウちゃんはここで待っていてください。どんな危険があるかもしれないし、ね」

「む…」

「ベルフラウちゃんのこと、どうかよろしく頼みますねオニビ?」

「ビビビー!」

「…」


オニビは喜んでいるみたいだけど…

やっぱり、ベルフラウちゃんは不満そう…

でも、ゴメンね…戦闘訓練もしていないうちから貴女を連れ出せないよ…













俺達は山道を進んでいた…

この島は、基本的に火山活動で出来た島らしく、平原部分は少なく、岡地や山が多い…

海岸線の隣が山と言うような状況だ…

その辺日本に似ていなくも無いが、山の険しさは兎も角、木が密集している為動きづらい…

もっとも、俺は基本的にネルガルSSの訓練キャンプで行ったレベルはこなせる。

そういった意味では、別にたいした森でもないが…


「わああ…!!」


草地になっている場所が一部くぼんでおり、そこに足を取られたソノラが倒れそうになる。

カイルが支えに入ろうとしていたみたいだが、たまたま俺の方が近かったので支える形になる…

どうやら、足はくじいていないらしい…


「怪我は無いか?」

「あ、ありがと…」


カイルもほっとしたのか表情を戻している。

なんというか、ほのぼのした兄妹だな…

もっとも、妹が何故西部のガンマンみたいな格好なのかは永遠の謎だが(汗)


金髪碧眼、絵に書いた白人の見本のような二人だが、

兄はラフな格好で拳を主体に戦う…海賊というより、ストリートファイターでも目指した方が合っている気がする。

海賊の象徴としてか黒いマントだけはつけている様だが…


妹も妹で、明らかに海賊ではない…

ガンマンの格好もだが、背中に背負った武器の収納庫とでも言うべき大きな帽子…

テンガロンハットの化け物とでも言えば良いのだろうか…

あの帽子だけで背中が隠れてしまっている(汗)


だがあれで海賊としては三代目らしいからこの世界は分からない…

まあ、格好については俺もあまり人のことは言えないからな…


しかし、バイザーやスーツの感覚補助機能は普段使う必要は無いとは言え、そろそろバッテリーもヤバイな…

いずれこれも捨てなくてはならなくなる…その時までに別れる事が出来ればいいのだが…

考えている内にまた足場の悪い所に来たらしい、アティが注意をしているのが聞こえた…


「気をつけてください、草むらに隠れてるけど結構、足場が悪いです」

「さすがは元軍人! こういう山歩きも慣れたもんだぜ。

 ちっとはこいつにも見習わせたいもんだぜ」

「ぶ〜ぶ〜!」

「まったくです…私なんかついていくので精一杯ですよ」


確かに、カイルたちは少し疲れ気味の様だな…

全体的に元気がなくなっている…

それでも、軽口が出るならそれほど問題ないだろうが…


「カイルさんもヤードさんもからかわないで下さいよ」

そうよ、それ! その【さん】ってのそろそろオシマイにしてくれね えか?」

「え?」

「なんていうか、その…くすぐったいんだよね…あたしらあんまり育ちが良くないから」

「もっと気安く読んでくれても良いんだぜ、つーかその方がありがてえ…」

「ヤードみたいにそれが地なら仕方ないけど」

「ははは…」


呼び方についてというわけか…

親しくなるならそれなりにと言う訳だな…

まあ、俺には関係の無い事だ。

しかし、見ているとアティは何か意を決したように真剣な表情でソノラに向かっている。


「えーっとじゃあ、ソノラ?」

「うん!」


次はカイルだが、もうイッパイイッパイなのが傍目から丸分かりだった…


「カ…」

「ん?」

「カカカッ、カ…かイ、カいッ??? ひだっ!?」


しかし、名前を呼ぶだけで舌をかむか普通?

真面目というか、人の言葉を大事にしすぎる奴だな…

あまり応えようとしすぎると自分を滅ぼしてしまう。

世の中とは適当に折り合っていくべきなのだ。

やりすぎれば俺の二の舞になる…

出来れば、もうそんな悲劇は見たくないな。


「いや、俺が悪かった…無理すんな先生」

「す、すいまへん…カイルひゃん…」


まあ、今は傍目から見てひっそりと笑うとしよう。


「くくく」


「アキトひゃん…わりゃいまひたね…」


案外アティは地獄耳らしかった(汗)

















それから暫く歩き、山の中腹辺り、道の匂いが変わってきた…

人里…この世界の基準は分からないが、どうやら足跡などから察するに常時誰かが通る道らしい…

そして、その先に見えるのは…


「わっ…何これぇ!?」

「へぇ、なんかの遺跡だな」

「これは…鳥居…」


どうして、こんなものがこの島に?

日本の風習などこの世界の存在するとは…

いや、料理が地中海風だったことからありえないとも言い切れないか…


「ねえアキト…トリイって何?」


そばにいたせいで聞かれたのだろうソノラが俺に聞いてくる…


「俺も詳しいことを知っているわけでは無いが、本来神を迎え入れ悪霊等を寄せ付けない為の霊的な意味合いを持つ門だ、方位によって意味が違ったりするが な」

「ふーん、でもなんでそんの物がここにあるんだろ?」

「それは俺にも分からん」


興味を引かれたのだろう、ヤードは鳥居を熱心に調べ始めた…

そして、周囲に貼り付けられているお札を発見した…

意味は分からないがあれは多分梵字…と言う事は陰陽道のような物がこの世界には存在するのか?

この世界の成り立ちなどを考えれば陰陽師が本当に術などを使いそうだな…

出来ればやりあいたくは無いものだ。


「ここに書かれているのはリィンバウムの文字ではないですね」


ヤードが梵字から顔を離して言う…

だとすれば、考えうる事は二つ…

一つは日本から何らかの理由で俺の様に来た人間が建てたか、

もしくは日本似の異世界が存在するか…



ん?

周囲の気配が変わった?

囲まれたか!?

だが、出現時の気配の消し具合の割に出てからは動きがずさんだ…

直ぐにこちらにも知れるぞ…


「え!?」


考えている内にソノラが気付いたようだ…

動きから察するに相手は10人程度…練度は低めだな。


かえれ〜

もどれ〜

「な、なによぉこの気持ち悪い声は?」

「気にするな、程度の低い脅しだ」


怯えるソノラに言い聞かせ、後方に下がらせる…

包囲されているといっても、たいした数ではない、後方はがら空きだ。

もっとも、わざとそうしている節もあるがな…


かえらねばあぁ…くうぞおぉぉ…っ

とってぇ…くうぞおぉぉ…っ

「思い出した! この文字は鬼妖界シルターンのものだ!」

「ほう、その世界は鳥居などがあるのか…異世界といっても近しいのかも知れんな」


俺の感想は、緊張感の前に無視されてしまっている。

当然か…だがまあ、あまり気にするレベルの相手でもないと思うが…


「それじゃ、この声ってシルターンの…」

「面白いじゃねえか食えるってんなら食って見やがれッ!!」

「わわっ!? いけませんってば!! 挑発なんてしたら!?」

ウオおォォおオォォォォおぉっ!!


ほう、あれがシルターンの妖怪か…

見た目はそれほど人間と変わらんな…

角がついたのや、冷気を纏うのといった所か…

鬼と雪女と言う事か?

まあ、これが全てでもあるまいが…

カイルの挑発も上手くいっているな、陣形に乱れがある…


「ひゃあああっ!? あ、兄貴のバカ〜っ!!」


襲いかかって来る鬼共に適当に当身を食らわせつつ…

アティや海賊達を見る…どうやら皆それなりに善戦しているようだ…

鬼に関しては単体なら半魚人よりも戦闘力があるとは感じていた、しかし10人程度では戦力的に5分の一以下だろうな。


俺が4人ほど下すと戦況はほぼ決まっていた。

海賊達もコンビネーションは良いらしくカイルとアティで前衛、ヤードとソノラで後衛を務め上手く鬼や雪女を裁いている。

このままでも問題無さそうだが一応手を貸そうと思ったその時、周囲に二つ気配が増えた事を感じた…

この気配は…数段上…アティ達と互角…この状況で割り込まれると不味い。

俺は、気配の方に向かって駆け出した。


「何者だ?」


俺は、森の中に潜む気配にそう聞く、一人は猛々しく俺を睨みつけているのが感じられる…

もう一人は…気配が薄い…戦闘をしようとしているというよりはこちらを探っている?

そう感じた瞬間に猛々しい気配の男が俺の前に現れた…


「鬼妖界・風雷の郷の護人キュウマ」


男は戦国時代の兵士がしているような鎧を着ている…

だが、それは部分的なもので、胴や兜はしておらず、胴の部分はむき出しで黒い忍者装束のような物を纏っている…

中途半端だな…隠密行動なら鎧はむしろ邪魔だろう、また合戦に立つなら先ず守るのは胴と頭の筈…

しかし、完全な白髪、ちょんまげのつもりなのかポニーテルにした髪、二本の角といった特徴をあわせれば確かに忍びに見えなくも無かった…

もっとも、鬼なのだろうが…


「そちらも名乗られよ」

「俺の名はテンカワ・アキト…お前達流に言えば亡霊と言う所かな?」

「バカにする気ですか! 明らかに貴方は生きているでしょう!!」

「生きていても目的の無いものは亡霊のようなものだ…俺の生きる目的はもう果たされたからな」

「…ならそんな貴方がなぜここにいるのです?」

「簡単だ、俺も呼ばれたからな…」


そう言って俺は顎をしゃくる…

その先ではほぼ戦闘に勝利したらしい…

それを見てキュウマは俺を通り越して走っていった…


「御免!」




熱い奴のようだな…

まあ、この状態からならアティ達が負ける事は無いだろう…

俺はもう一人の気配に目をやった。


「ふう、完璧に気配を消したつもりじゃったがのう…わらわの陰行が破られたのは初めてじゃぞ」


そこに現れたのは、長い黒髪の鬼の女性だ…年齢は二十台後半といった所か…大き目の角が二本額から出ている…

服は中国の呉服と和服の中間のような服装…いや肩口の所にメイド服とかによくあるふくらみがある(汗)

和洋折衷も良い所だが、まあ異世界の事、気にしても仕方あるまい。

だが、彼女の肩の上辺りを襟巻きのようにまとわりついているのは気?

…いや、この世界流に言えば妖気とでもいうものか…


「お前がリーダーか?」

「…難しい事を聞くのう、確かにわらわは風雷の郷の長じゃが、あの者達の長は護人であるキュウマじゃ」

「そうか」


この女が本当の事を言っているのかどうかは分からないが…

まあ、当面俺が彼女の足止めをしておけば問題あるまい。


「所でお主、女性に会って名前も聞かんのか? 無粋よのう…」

「今の俺は何事にもあまり興味が無いのでな…とりあえず立場さえ分かればいい」

「ふふふ…よう似ておるわ…まさか、転生と言う訳でもあるまいが…」

「転生? この世界ではそんな事まであるのか?」

「ほう…お主この世界のものではないというか?」

「…」

「ふふふ…そう硬くならずともよい、わらわはお主にはなにもせぬ、それにお主は強いのであろう? わらわでも勝てぬとまでは言わぬが…難しいのであろう よ」


さっきから一体どうしたというんだ…

妙に馴れ馴れしい…最初からまるで俺が目的であるような話し方をする…


「問われてもおらぬのに名乗るのは本来あまり好まぬが、お主は特別じゃ、我が名は<ミスミ>鬼姫ミスミじゃ、忘れるでないぞ…」

「特別?」

「そう、特別じゃ…ふふふ…お主にもそのうち分かるじゃろう…」


まるでで鈴を転がすように笑うこの女性が何を考えているのか全く分からなかった…

俺は正直どうして良いのか迷う…足止めならもう果たされている気もするが…

アティ達の事もある、急ぐべきか?


「さて、そろそろ行かねば、キュウマとお主の仲間が戦いはじめそうじゃしのう」

「加勢する気か?」

「わらわも戦いは好きではない、出来れば無駄な戦いは避けたい所じゃ」


そう言って俺の手を取りミスミは歩き出した…

一体何事!?


「ふふふ…あの人ともよくこうして歩いたものよのう」

「あの人?」

「それも何れ分かる事じゃ、今はゆるりと行こうぞ」


ミスミはニコニコと笑い俺の手を取りながら先導している…

俺は正直どうしていいものか分からず、ただ引きずられるように歩いていった…
















鬼と妖怪たちとの戦いは結構激しいものでしたが、アキトさんが半数近くを倒してくれたお陰で戦闘は有利に進みました…

でも、アキトさんは途中でいなくなってしまいました…一体どうしたというんでしょう?

兎に角、私達は妖怪たちをどうにか打ち倒し、引き上げてもらうのを待っているんですが…

どうにも、難しいみたいですね…


ぬううぅ…っ

「皆の者、下がれ!」

「!?」

「貴方達の技量では彼等に勝つ事など出来ません」


私達は突然の声にびっくりしました…

現れる直前まで殆ど気配が感じられなかったのです…

ですが、彼のお陰でどうにか鬼達もひきあげて行きます。


「貴方は…」

「どうやら、あんたがこいつ等の親玉だな」

「我が名は、キュウマ。島の護人の一人…鬼妖の里を守護する者」

「もりびと?」

「島の秩序を守る四者。それが、護人です」

「よくわかんないけどさ先に手を出したのはそっちじゃない!」


キュウマさんが私達を睨みつけるようにして話すのを見て、ソノラは怒鳴ります。

でも、キュウマさんも負けずに怒鳴り返しました。


無断で境界へと踏み込んできたそちらが悪いのです!

 島の者なら誰でも知っている筈の掟でしょうに…」


キュウマさんは私達がまるで島の住人であるかのように話します。

何故でしょう?

この島には、やってくる船とかは無いんでしょうか?

それは、私たちにとってもあまり良いことではありません…

外との交流のない島と言う事は脱出も難しいという事…

そんな事を私達が考えている時に別の場所から声がかかりました…


「島のものならばな?」

「ミスミさま!?」


キュウマさんの背後から二人の人影が現れました…

一人は角の生えたすごく綺麗な黒髪の女性…何ていうか…天女とかそういったものを想像してしまいます。

もう一人…その綺麗な女性に腕を組まれて引っ張られてくるのは…アキトさん!?

いつの間に知り合いに!? もしかして、元々お知り合いだったとか!?


「ミスミさま!? 一体それはどういうことですか!?」

「おお、忘れておったわ、一応初めてなんじゃから控えねばな…ではアキト、またの」

「…」


え〜っと…いったいどういうことなんでしょう!?

アキトさんは私が召喚した筈ですし…鬼妖界に知り合いがいるわけありませんね…

もしかして、ナンパというものでしょうか?


「おい、先生! 先生!!」

「なんですか? カイルさん?」

「…いや…なんでもない…」

「そうですか、用の無い時は呼ばないで下さいね」

「…はい」


カイルさんなんだか冷汗かいていた気もしますが…

気のせいですよね?


「キュウマよ、良く見るが良い、その者等は人間じゃ」

「人間!? ならば、尚の事…」

「やめよと言うておるのが分からぬというのか!?」

「…っ」

「おそらく、はぐれて間もないのじゃろう、なら…掟を知らぬのも無理もあるまい」

「は…」

「失礼ですが、貴女は?」

「ミスミじゃ、里の衆からは鬼姫と呼ばれておる」


鬼の、お姫様…

綺麗な方です…落ち着いてるし、気品が漂っている…


「兎も角、わらわの一存だけでどうこう決められる問題ではなさそうじゃ…

 ここはひとつ他の護人達の意見も聞くべきであろう…のう、キュウマよ?」

「心得ました…

 こちらへ…貴方達を他の護人達と引き合わせます」


こうして、私達は島の人達との最初の接触を果たしたのでした…














あとがき

結局出来たのは日が変わる直前…

あんまり早くは出来なくなってきた…

このままではまずいっすね(汗)


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