「さっ、アキトさん行きましょう。次の集落の方たちが待ってますよ」

「だそうだ…」

「尻にしかれておるのう…最初が肝心じゃぞ

「わっ、私達別にそういう関係じゃ…(///)


俺の意思はどこにあるというのか…(汗)

ミスミは、俺の事を哀れそうに見ている。

アティは俺を見て真っ赤になっている…

俺はこの状況を打破すべく、唯一その雰囲気に染まっていない存在に、話しかける。


「マルルゥ、次行くか?」

「はい、おまかせですよ〜♪」


おかしな雰囲気の二人を置き去りに、俺たちは次の機界の集落へと、向かう事にした…


「ああ! アキトさん! 待ってくださ〜い(泣)」

「先生さん置いていっていいですか?」

「ほっといても追いついてくる、さっさと次の集落に行くぞ」


マルルゥは少し迷ったような表情をしていたが、何か納得した風にうなずくと。


「わかりましたです!」


アティの情け無い声を遠くに聞きながら、俺たちは機界の集落へと急ぐのだった…





Summon Night 3
the Milky Way




第四章 「悲しい陸海賊」第四節


風雷の郷を出て、暫く北の方向へと歩く。

距離的には10km程度だが、舗装されているわけでもないアップダウンの激しい山道だ、今までの距離とあわせると40〜50kmは歩いている、

昔の俺の体 力ではとうに根を上げていたろう。

現在の俺は木連式柔の鍛錬で鍛えているし、どういう理由でかナノマシンの競合も沈静化しているため、体力には問題ない。

それでも、今日全ての集落を回って帰るとなれば、とうに日が暮れているだろうと思わなくも無い。


「マルルゥ、長時間飛んでいる様だが大丈夫なのか?」

「はい、これぐらいならなんともないですよー」

「体力は結構あるんだな」

「えっへんです。近くにいる人が元気だとマルルゥも元気になるですよ♪」


マルルゥがいっている言葉には特にためらいは感じられない、本気でそう思っているのだろう。

まあ、彼女は人間ではないのだしそういう事もありうるかもしれないが…

山道を進んでいくと、森が開けて平原のように見渡しのいい場所に出た、そしてその場からは道が舗装道路になっている。

周囲に街灯が立ち並びさながらハイウエイの様だ…

その場から歩き出そうとした俺は、ふと思い出したように呟く。


「そういえば、アティはまだ来ないみたいだな」

「先生さんなら、置いていった時に必死で追いかけてたみたいですけど、途中で座り込んでたですよ?」

「あ〜、そういえばそうだな」


そういえばそうだった。彼女は必死で追いつこうとがんばっていた様だが、その所為で体力を消耗しきって少し前に休憩を願い出ていたんだったな…

さて、どうしたものか…とりあえず待ってみるかな?


……


…いや、その必要は無いようだな。


「アキトさ〜ん! おいてかないでくださいよ〜! ふ〜、ゼーハーゼーハー(汗)」


木々の間から、アティがダッシュでやってくる。

タイトなミニスカートがめくれあがりそうになっているが、本人は必死なので気にしていないようだ。

俺は良心に従って目を背ける事にする、枯れてる気がしないでもないが、実際その手のトラブルはこりごりだった。


「ハァ…ハァ…ひどいじゃないですか! 私何度も待ってくださいって言ったのに!」

「いや、ちょっとな…」

「ちょっとな、じゃありません! それになんですか!? 横向いて、やましい事がなかったら前を見て話せるはずです!」

「俺は構わんのだが…」

「なにがです?」


アティも不審に思ったのだろう、俺の話に何の事かと聞き返してきた…まあ、この後の反応はわかっているのだが…

一応指先で、アティの体を指差す。

アティは何の事かわからず、暫くキョトンとしていたが、自分の事だと気付くと、視線を落とした…そして、ミニスカートがめくれあがっているのを見て。


「キャー!? 見たんですか!? 見たんですね!?」

「言う前に直せ!」


そのまま詰め寄ってきたアティに俺が言うと、アティははっとしてスカートを引き下ろす。

それにしても、アティは本気で顔を真っ赤にしている、まるでゆでだこの様だ…

そして、引きおろすと同時に、ほほを膨らませ、俺に抗議を始める。


「全部アキトさんのせいじゃないですか!! お嫁にいけなくなったらどう責任を取ってくれるんです!?」

「別に、これくらいで嫁の行きてがなくなるとは思えんが?」

「そういう問題じゃありません! 置いてきぼりにして、疲れている私にこの仕打ちは酷いです!」

「ふう…それじゃあ、どうすればいいんだ?」

「…」


さっきまでの喧騒が嘘の様に、アティは真剣に考え込んでいる。

まあ、おいてきぼりにされた挙句これだからな、俺に何か屈辱的なことをさせるつもりかも知れんな…

俺としては、あの話題から早く遠ざかりたかっただけだからな…多少の事なら付き合ってやるか。


「それじゃあ、おんぶしてください♪」

「おんぶ?」

「やってくれますよね?」

「ああ…別に構わんが…」

「やった〜♪」


アティは急に笑顔になると俺の背中に飛び乗ってきた。衝撃で一瞬バランスを崩すが俺は体勢を立て直して背負い直す。

しかし…さっきまで疲労して多用に見えたのになんでこんなに元気なんだ?

それに、普段は真面目なくせに時々子供のような事をしてくるのが不思議だな…

いや、待てよ…アティが俺以外にそうして甘えた所を見ていない…これはどういう事なのだ?

まあいいか、別にその事で実害があるわけではないしな…


舗装された道路を少し行くと下り坂になっている場所に出る。

坂の下には一目見て分る、未来都市が再現されていた。

もっとも、土地の広さの限界があるため無茶な大きさでは無いが、

10km四方はアスファルト舗装の道、密集したビル群、等がひしめき合っている。

だが、道の上を走っているのは自動車でもバイクでもなく、独特の形状をしたロボット達だ。


「ここがロレイラルのみなさんが暮らしている、機界の集落なのです。<ラトリクス>って名前なのですよ」

「すごいですねえ、私が暮らしてた帝都ウルゴーラにもこんな大きな建物は無かったですよ」

「ここのみなさんは工作が、とーっても得意なのですよ」


ヴィーン!


「ほら、こっちでも」


ヴィーン!


「あってでも、ね?」


これは補修用の工作機械だな…

だが、自動で動いているし移動を制御するためにタイヤや顔がついている。

ここにあるものは、全て全自動…人はいないようだな。

機界等と言うだけの事はあるのか…

最も、ユーチャリスのシステムにもバッタによる自己の補修というものがある。

それを考えれば、それほど不思議な事ではない。

それとも別に、機界等と表さねばならない程の何があるのだろうか?

まあ、便宜上というだけのことかもしれないが…


「ねえ、マルルゥちゃん、あれはなんですか?」


アティが指差したのは、ガソリンスタンドの様な所、そこでもロボットが働いており、他のロボットにホースを取り付けたり、洗車(?)をしたりと働いてい る。

補給中のロボットは動きを止めており、その辺が彼女の興味を引いたのだろう…

これを見る限り、エネルギー源は石油系の様だ、ガソリンや軽油を使っているのだろう。


「ああ、あれはゴハンを食べているのですよ」

「ごはんですか???」

「機界のみなさんはビリビリや、黒い水をゴハンにしているです。あそこにいけばいつでも、好きなだけご飯がもらえるです」


好きなだけ…近くに油田もあるという事だろうか…

こんな島で油田が出れば分りやすい場所があるはず…だとすれば、海底油田でも持っていると見るべきか。


「ここの護人さんは、メガネさんですね。メガネさんは向こうのお家にいるはずですよ。お人形さんと一緒に暮らしているです」


そう言ってマルルゥが指したのは、集落(見た目は未来都市)の中心にある、100階位はありそうな高層ビルだった。

バカと煙は高い所が好きとか言うが、人間権力者になると行く場所は同じと言う事か?

それとも別に理由があるのか…何にしろアルディラという女は以前会った時のイメージから見ても、整然と物事を考え処理しようとするタイプの様だ。

ラトリクス自体が彼女の思想を体現しているのだろう。


「さっ、クロクロさん、先生さん、会いに行くですよ」

「はい」

「…ちょっと待ってくれ」

「なんですか? クロクロさん?」

「そうですよ、急がないとお昼回っちゃいますよ?」

「いや、それはかまわんのだが、そろそろ降りてくれないかアティ」

「え? なんでです?」

「聞くまでも無いと思うが…」

「ん〜分りました、集落にいる間は勘弁してあげます。その代わり、集落を出たらまたおんぶして下さいね?」

「…まだやるのか?」

「別にお姫様だっこでもいいですよ?」

「…勘弁してくれ」


アティのからかい半分の話を前に俺は脱力するのを覚えた。
















中央ビルの90Fから上はアルディラのオフィスであるらしかった。

彼女は集落の管理、統率、開発計画の立案など、全てをここで統率しているのだろう、周辺に光っているモニターを見ればそれらのことがわかった。

何故なら、画面上に表示されているのは英語だったからだ。俺は語学力のある方では無いが、英語ならかじった事がある。

俺達はエレベーターで90Fに上がってからモニター群を抜けて、アルディラの元へと向かう。

アルディラは俺たち気付くと眼鏡を少しいじって立ち上がる。

なぜか視線は俺の方を向いていた…


「ようこそ、護人として、貴方たちの訪問を歓迎するわ」

「いえ、こちらこそ招いてくださって感謝しています」


アルディラが何かを指示したかと思うと、椅子が走ってきた…そして、俺達の前の床が割れて下からテーブルが出現する。

アルディラは俺たちに座るよう促しているが、正直遠慮したいきもするな…(汗)

だが、アティは気にする様子も無く椅子に座る。

俺も少し迷ったが気にしても仕方あるまいと座る事にした。

俺が座るのを見計らったように、気配すら殆どさせず自動ドアをくぐって少女が現れる。

見た感じメイド服を着て、頭にナースキャップをしているという特殊な格好だ…誰かの趣味か?

少女は肩の辺りで短めに刈りそろえた髪を揺らすことなくお盆を持ってこちらにやってくる。

少女は、テーブルの上に少し変わった形のカップを3っつ置く。

アティは礼を言って受け取っている。

俺は目の前に置かれたそれを見て香りをかいでみた…

紅茶、だな…アルディラは一応人間の味覚を残しているらしい。


「さて、何から話すべきかしら…そうね、基本的な知識として知っておいて欲しいのだけれど…」


そう言って、アルディラは少し紅茶に口をつけてから話を続ける。


「ご覧の通り、ここの住人の大半は機械たちばかりよ。貴方たちとまともに会話できる機能があるのは、融機人の私とこのクノンぐらいね」

「従軍看護用機械人形(フラーゼン)形式番号AMN−7Hクノンと申します。クノン、とお呼び下さい」


先ほどから、アルディラの背後に控えていた少女が、その場でお辞儀をしながら俺たちに告げる。

そうか、気配が小さいのも、表情があまり出ないのもその辺に起因する物だな…

しかし、機界と俺の知る世界とでは科学の発達の仕方が違ったらしい、

アルディラの様にナノマシンとは言え無いような大きな機械を体内に埋め込んでいる人間がいるかと思えば、

人間と見紛うような精巧なアンドロイドを作り出す…彼等は一体どういう進化の系譜をたどって行ったのだろう?


「じゃあ、私のこともアティって呼び捨てにしてください」

「かしこまりましたアティさま」

「うっ…」

「この子に、人間的な反応を期待しても無駄と言うものよ、仕様の問題だもの」

「申し訳御座いません」


早速アティが親善を図ろうとしているみたいだが、アンドロイド相手では無理があるみたいだな(汗)

しかし、僅かではあるがクノンには心の揺らぎのようなものを見つけることが出来る。

これは、良い事なのかどうかは分からないが、うまく伸ばしてやれれば人間に近づけることが出来るかもな…


「積極的ではないけれど、交流そのものを拒むつもりは無いわ。出来る範囲でなら協力してあげる」

「ありがとう、アルディラさん」

「所で、そちらの人は私たちに何も話は無いの?」

「俺か?」

「ええ、名前も聞いていなかったわね、そう言えば」

「テンカワ・アキトだ…とはいっても俺のことなら既に知っているんじゃないのか?」

「そうね…でも、私は貴方達の前で教えたのに私は教えてもらえないと言うのは嫌ね」

「それはすまなかった」

「アキト…貴方はわれわれの事を見て不思議そうにしないのね」

「そうだな、ある程度は知った技術でもあるようだしな…」

「貴方はやはりこの世界の人間ではないのね」

「ああ、俺はアティに召喚された異世界人ということになるかな…」

「そう、貴方の世界でも科学が中心に発達してきた世界なのね」

「ああ…技術の発達の仕方は違うが、似ている部分も多い」

「なら、このクノンを貸し出しましょうか? 一度他の人に預けてみたいと思っていたのだけど、相手がいなくてね」

「…無理だ、俺は細かな事のできる技術者と言う訳じゃない、俺に預けられても困るだけだ」

「そう、残念ね…クノンには良い刺激になると思ったんだけど…仕方ないわね…」


会話の流れでは、ホンワカしているが、彼女の目は真剣な表情をしている。

クノンというアンドロイドの情緒を成長させたいと言うのは本当なのだろう…

だが、俺にはそういった心の余裕が無いので、そういったことが向いていないことを自覚している。


「では、また集いの泉で…」


俺達はビルの出口まで送ってもらい、その後はまた歩き始めた…

アティにおんぶをせがまれたが、せめて集落から出てからにしてくれとなだめる事にした。

行きの時のおんぶは多分見られていたんじゃないかと思う、モニターの景色の中でしった所が移っていたのを見たのだ…

仕方ないが、情け無いな(汗)










アキト達が去った後、アルディラはクノンに向けてはなしかけた。


「どう?」

「はい、DNAサンプルとして、髪の毛の採取に成功しました。DNAパターンは殆ど一致しています」


切羽詰ったようなアルディラの問いに、クノンは淡々と答えていく。

それを聞くうちに、アルディラの顔が安堵に変わる。


「そうなの…だったら、可能性はあるのね?」

「はい、不可能ではないと言う程度のものですが、実質成功の確率は0.126%程度であると思われます」

「それでも…それでも構わない…一度だけでも…」

「ですが、それでは…」

「分っているわ、場合によっては私の命に代えてでも償いはしなくてはね…でも、それでもやらなくちゃいけないのよ」


また、アルディラの表情が思いつめた物となる…

彼女の事を思うと、クノンは何もいえなくなる。クノンは本来感情は無いはずだが、長年、反応を繰り返すうちに感情を学習し始めていた。

クノンはこの孤独な主に幸せが訪れる事を祈っていた。









あとがき


なんだかまた話が膨らんでしまった…

奴は何時になったら出られるのか、今頃泣いているんでしょうな〜

でも、できるだけ早めに各集落を紹介しておきたかった物ですから、徐々に紹介していきますね。

次回は、獣人界と霊界の両方入ると良いな(汗)







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