「なあ、どれだけ早く向こう岸にいけるか勝負しようぜ?」

「え…でも…」

「大丈夫だよ、ボクにだって出来るんだもん、先生ならきっと簡単に出来ちゃうよ」

「いや、そういうことじゃなくてね…」

「ははーん、もしかして先生怖いのか?」

「む…」

「思ってたより、度胸ないんだなあ」

「バカ言っちゃだめです、これしきのことにこわがる先生じゃあありませんですよ? よーく見てなさい」

「先生、がんばれー!」

「うまく跳べたらおいらたちの宝物分けてやるよ」

「ふっふ〜ん、見てなさい、村一番の河童娘と言われた私の力見せてあげます! …せーの!」


乗せられた感が無くもないですが、

私は、動揺を押し隠しチャレンジを開始します、

そうして、必死に蓮の上を飛び移り、なんと目的地まで全て飛ぶ事に成功したのです!

向こう岸でゼーハーゼーハーと粗い息をつきながら、それでも胸を張ってスバル君たちに向かい合うと。


「ははは、なんだい ふらふらしちゃってさ」

「何時落ちるか、見ててはらはらしちゃったよ」

「アティおそい」

「いつも飛んでるマルルゥにはよく分らないですよ〜」


子供たちのあまりにむごいお言葉に、私はその場で倒れてしまったのでした…(泣)




Summon Night 3
the Milky Way




第五章 「一歩目の勇気」第五節



日課にしている鍛錬を一通りこなす。

いつもの様に、俺は森の中でそれをおこなっている。

朝はこれをしておかないと落ち着かない…

一度力を身につけると、その力を失うのが怖い、そういう衝動なのかもしれない。

本当はもう俺に体を鍛える理由などないはずだが…


「フゥゥ…」


息吹を持って鍛錬を終了する、いつも行っている事なので、自然とそうなっている。

いつもと同じ朝のはずだった…

しかし、俺はすぐさま身構える。

僅かな気配を感じたからだ…

俺は警戒しつつも背後をふりかえる…


「まさかこのワシに気付くとは…

 何者かは知らんが、できるやつじゃな。

 これでも、マタギをしていた事もある。

 気配は消しておったはずだがな」

「いや、俺にここまで近づけただけでも賞賛に値する、

 貴様ただものではないな?」


俺は、自然体を崩さずしかし、呼吸を整えて臨戦態勢を取っている。

俺が見据えているのは、後頭部まで髪の毛が後退した白髪の老人。

しっかりしているので若く見えるが、それでも80は超えているように見える。

和服に下駄、この装備を見ても昭和初期の人間を思わす服装だ。

眼鏡をしているのでそれなりに頭は良さそうに見えるが、そうでなければ武術の師範かと思った所だ…


「ぬしは鋭すぎるな、その鋭さはいつか自分を滅ぼす、やめておくことだ」

「大きなお世話だ、貴様こそ、俺の前に居ると傷つく事になるぞ」

「ふぉっふぉっふぉ、確かにな、じゃが…お主にはできんよ。

 ワシには勝てても、殺せはせん、傷つける事も滅多に出来るような性格でもなかろう?」

「何を言っている、貴様が言ったんだろう? 俺は鋭すぎると…」

「違うな、わしが言ったのはお前に向かう心の事だ、お前は何か他人に対して負い目を持っているだろう。

 それで自分を傷つける、他人に対して傷を付ければお前は更に傷つく筈じゃ。

 違うか?」

「…分った風な口を利くな、俺は他人に邪推されて黙っていられるほどお人よしじゃないぞ」

「ならば、ワシを殺すか? この無力な老人を」

「…クッ!!」


この男…

俺の事を読んで見せている…

だが、いつまでも相手のペースを許すほど俺もお人よしじゃない。

俺は老人に向かって、一歩踏み出す。

さっきを込めて老人を睨み相手のペースを崩しにかかってみた。


「おお…これはまた凄まじい殺気…流石といわせてもらおう、しかし、本気ではあるまい?」

「ふん、何れ分る」


俺は更に踏み出す。

大抵の人間はこの時点で逃げているか硬直しているのだが、余裕でこなしている所を見ると、

余程の武道の達人か闇の職業についていた者と言うことになる。

俺は、制空圏の間合いまで近づいていった、

武術の達人ともなれば自分の拳や蹴りの間合いを完全に把握し、

相手がそこに踏み込んでくれば即座に対応できる。

制空圏とは、相手に一挙動で攻撃を当てられる間合いの事だ。


「貴様は何者だ?」

「ふん、他人に名を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀じゃろう!」

「そうか…」


俺はその言葉が終わりきらないうちに拳を老人に叩き込んでいた。

しかし、円を描くような動作で俺の拳がそらされる。

老人はそのまま俺を投げようと腕を捻った、しかし、俺は瞬間的に手を引き投げからは体を守る事ができた。


「やるな、合気道か…いや、この世界でもそうなのかは分らんがな」

「そうか、ワシへの攻撃は技を読むためと言う訳か、無茶をしおるわい」

「次は本気だ…貴様が引かねば俺は貴様を倒す事になる」

「確かに、合気道では荷が勝ちすぎるわい、じゃがワシとおぬしの強さの差と、

 おぬしがワシを殺せるかは別じゃ…」

「貴様…俺を挑発する気か!?」

「そうかもしれんの、お主という人物を計るのにこれほどいい方法はあるまいて」

「ならば、お前のその挑発に乗ってやろう、木連式の秘伝受けてみるか!?」


俺は、その言葉と同時に気を練りこみ始める。

相手を殺すつもりは無い、あの男を殺す理由は無い、

挑発された程度でキレるつもりは無いが、この男の底が見たくなった。

俺は、練った気を拳に集める、もっとも、どこかの格闘ゲームのように拳が光る事は無いが…

それでも、俺の拳が普通の状態じゃない事は一般人でも分るだろう。

ある種の凄みが拳を渦巻いているからだ。


「遺言はあるか?」

「ふん、その程度では、ワシに勝てんぞ」

「ならば、冥府へと旅立つがいい」


そう言って俺は拳を男に向かって振り上げる。

本当は、この秘伝、相手の血流を乱す気を打ち込むことを目的としているが、

俺は逆に血流が活性化する気を溜め込んでいる。


そして、本来よりも少し大げさなモーションで老人にむかって拳を振り下ろそうとした。


「だめ!」

「!!?」


その言葉は俺の背後から聞こえた、俺は驚きとともに横っ飛びに飛びのく、どうやら老人に集中しすぎていたらしい。

まだまだ未熟だな…しかし、今の声…


「ハサハか…」


そう、30mほど後方にハサハが居る、今も俺に向かって走りこんできている…

ハサハは俺の近くまで走りこんでくると、俺に向かって言った。


「けんかしちゃだめ…」

「……」


俺は、その場で動きを止める。

ハサハにこう出られてしまっては、挑発云々でもないだろう…


「ふぉふぉふぉ、その娘、いい娘のようじゃの、わかったじゃろう、

 お主にはこうしてブレーキとなってくれる者達がおる、ゆえに人は殺せぬよ」

「…おにいちゃんをいじめちゃだめ」

「いや、ワシは別にいじめてなどおらぬよ、ただこやつ一人で思いつめるのが好きなようじゃからの、

 周りに人がおる事を…」

「いじめちゃだめ」

「……いや、そのな」

「だめ」

「…すまなんだ、確かに行き過ぎていたようじゃの」


老人は観念したように、肩を落とし俺に向けて謝罪の言葉を言う。

結局俺達はハサハの前にいたみわけということになったようだ…











ちょうど、アキトさんが謎の老人と邂逅を果たしている頃、私達は風雷の郷の近くまで来ていました。

私達の木の切り出しも丁度ひと段落して、釘などの備品はラトリクスから、食料は風雷の郷とユクレス村から買い付けるようにしています。

私達は、代わりに海産物を持っていくことも多いです。

まあ、彼等も海の近くに住んでいるんですから、それほど必要の無い事かもしれませんが…

それでも、対価として外の通貨が使えるのは、メイメイさんのお店くらいですしね(汗)

私達はカイルさん達の持っている金とかの貴金属や、メイメイさんのお店で買い付けた物、そして先ほど言っていた海産物を対価として持っていく事にしていま す。

もっとも、この方法だと後いくらもしないうちに交換物資が底をついてしまいそうなので、どうしたものかと頭を悩ませているのですが…


「俺達も何か仕事しねぇと、ちょっとやばい台所事情になってきたな…

 金銀の蓄えはまだあるが…、あんまり使ってると、この島で文無しなんていう事になるかもな」

「まさか〜、いくらなんでもそれは無いよアニキ。結構たくわえてたじゃんか」

「バーカ、良く考えてみろ、この島に金銀財宝を欲しがるやからがどれ位いると思ってるんだ?

 いくら、金があっても欲しがるやつがいなけりゃ商売がなりたたねぇだろうが」

「え〜、でも女の人の装飾品とか使うところはあるんじゃない?」

「まあ、あるにはあるが、過剰供給だと値崩れするだろうが、今ですら、外での価値の半分以下の取引なんだぜ」

「うえ、ホントに?」

「ああ」

「なんだか切ないね…それは」

「まっ、まあな…(汗)」


お二人の話を聞いていると本当に経済状況がやばいんだな〜っと思います。

出切れば何とかしたいんですが…私達もジャキーニさんたちみたいに菜園でも始めたほうがいいのかもしれません。

そんな話を聞きつつ、私達は風雷の郷へとやってきました…


「じゃあ、俺は交換しにいって来るぜ」

「そうですか、運ぶの手伝いましょうか?」

「アタシの分お願い〜♪」

「バカ! 先生は屋敷の方に呼ばれてるんだろ? ここは俺達がやっとくから、行って来な」

「ぶ〜ぶ〜、そんなのでおこらなくてもいいじゃんか! ちょっとしたお茶目なのに〜」

「お前の場合、先生がOKしたら本当にさせるつもりだから駄目だ!」

「じゃあ早めに済ませて手伝いに来るから、待っててソノラ」

「うん、やっぱ先生は優しいね」

「…そういう事を面と向かって言うのは無しです!」

「ははは…ごめん」

「では、行ってきます」

「いってらっしゃい」

「いってきな」


カイルさんとソノラさんと郷の市場で別れ私はミスミ様のお屋敷に向かいます。

最近は結構立ち寄る事も多いため場所は完全に把握しています。

すぐにお屋敷までやってきました。


「ごめんくださ〜い、アティです。ミスミ様いらっしゃいますでしょうか?」


そういって、お屋敷の外から声をかけると、門の前に突然忍者装束の人(?)が現れました。

いつもの事ですから、その事で驚く事はしませんが、キュウマさんは接客を何か勘違いしていないでしょうか(汗)


「これはこれはアティ殿、おこし頂けて何よりです」

「ははは、そんな大げさなものじゃないですよ、食料の買い付けのついでに寄っただけですから」

「それでも一向に構いません、ささ、ミスミ様もお待ちです。奥へどうぞ」

「はい、お邪魔します」


私はキュウマさんの先導されていつもの応接間に通されます。

そして、お茶とお茶請けが出されてから、ミスミ様が入室してきました。

流れるような繊細な黒髪と深い黒曜石を思わせる瞳、理知的に整ったその顔と、

女性ならため息をつかずにはおれないプロポーション…

背が少し高いのも頭身率を上げていてすらっとした人に見えます。

これで一児の母なんて言われて誰が信じるでしょう…

私は理知的なところも女性的なところも彼女に憧れてしまいます。

でも、それだけになんだかもやもやする事もありますけど…


「どうした? わらわの顔に何かついておるか?」

「ああ! いえ、何もついていませんよ! 何も!」

「はあ、まあ良いが…」

「それより、今日はどういったご用件でしょう?」

「なんじゃせっかちじゃのう、こうしてお茶とお茶請けがあるのじゃ、少しゆるりとしてゆくがよい」

「はあ、どうもすいません…」

「いや、別にそなたを責めておるわけではないのじゃ、気を楽にして聞いて欲しいというだけのことじゃからの」

「では、失礼して」


私は出された座布団の上に足を崩して座ると、お茶を音を立てずに飲みます。

正座も知ってはいますが、あれをやると直ぐに足がしびれてしまうのでミスミ様にお許しを頂いています。


「ひとごこちついたかの?

 では話すとしよう。

 実はな…そなたに頼みたい事があるのじゃ」

「私にですか?」

「そうじゃ、そなたにしかできぬ事じゃ」

「私にしか出来ないこと?」


私にしか出来ないことなんてあったでしょうか?

戦いにおいては私よりミスミさまの方が強い気がしますし…

料理、洗濯、家事全般でしょうか?

いえ、これならアキトさんやソノラの方が上手い気もします。

それ以外で言うと…


「学校を作って、子供たちを教えて欲しいのじゃ」

「学校ですか!?」


私はあまりの唐突さに驚きを隠せませんでした。

教育ならミスミさまや護人のアルディラさんの方が上手いのではないでしょうか…

どういうことでしょう?


「そんなに驚く事もあるまい?

 そなたは、先生なのであろう?」

「それはそうですけど、それは家庭教師をやっているってことで…

 学校みたいに大勢に教えた事はありませんよ」

「大勢ではない、生徒になりたがっておるのは、息子とその友達二人じゃ」


スバル君とパナシェ君が…じゃあ、私があの子達に受け入れられたって言う事ですね。

それは嬉しいのですが…この前の事が引っかかります。

簡単に引き受けていいのかどうか…

どうしましょう。


「二人とも、そなたが教えてくれるのであれば勉強してもよいといっておる

 それに、教えてやって欲しいのはな、この世界についての知識なのじゃ

 故郷の世界の事はこの郷の者から学べよう、じゃが…

 この世界の事は無理であろ?」


確かに…教育とはいっても、郷の教育は今まででもしていたはずですからね。

だとすれば、私がする事は私達世界の一般教養を教える事…

なんだかアキトさんとかぶりますね(汗)

でも、郷にいれば別に私達世界の事を知らなくても生きていけるんじゃ…


「だけど、どうしてこの世界の事を?」

「わらわはな、ずっと思うておった…

 閉ざされた世界であるこの島も、いつまでもそのままでいられはしまい、とな」

「!?」

「それを証明するようにそなた達が現れた、

 今はただ偶然だったとしても…

 いずれ、もっと多くの人間が、この島を訪れる事もあろう、

 その時、島を担うのはあの子達の役目じゃ、

 そのためにも…

 子供達にはもっとこの世界の事を知っておいて欲しい

 過去のような戦を繰り返す事の無い様に…」

「ミスミさま…」

「どうじゃ、引き受けてもらえぬか?」


ミスミ様の言っている事は正しい、私は引き受けるべきだと思います。

でも、ただでさえ今までの事で精神的に消耗しているベルフラウちゃんをほうっておく事は…

出切れば、ベルフラウちゃんに寂しい思いはして欲しくないですし…


「少し、考えさせてください…」

「何か、問題でもあるのかえ?」

「確かに、やってみたいですけど…

 今のままじゃベルフラウちゃんの気持ちを無視してしまいそうで…」


私が、暫く延期してもらうように頼もうかと思っているとき、背後からいきなり大声が響き渡りました。


「このバカモンが!!」

「ご老体…いつこちらに!?」

「ついさっきじゃよ、ミスミ殿」


私がびっくりして振り向いた先には、おじいさんが肩を怒らせながらふすまを開けて近づいてくる姿がありました。

おじいさんなのに、凄く元気が良さそうなのが印象的です。

というか、何か怖い…昔の軍学校の先生よりもしかしたら怖いかも…

頭髪は後頭部と側頭部に逆立った白髪があり、少し小さめのめがねを鼻の上に乗せています。

白い口ひげが印象的で、服装は草の色とでも言えばいいんでしょうか、茶色が少し混ざった緑色です。

なんなんですか?

このおじいさん…


「こっちの世界の教師が来たと聞いて見に着てみれば…

 実になっとらん!

 言うに事欠いて、一人のための先生でいたいだとォ!?

 <子供たち>を 導いてやらぬ者が<子供>を導けるはずがなかろうがッ!!

「!?」

「ついて来い! ワシが、貴様に教師の何たるかを教えてやるわ い!!」

「は? ちょっと!? そんな、引っ張らないでくださいぃ!?!?」


私はおじいさんに引きずられて屋敷を出て行きました…

ミスミさまも呆然と見送っています。

私は思わずいろんな人に助けてといいましたが、そろってご愁傷様ですって言われました…

そんなこんなで、私その日は日が暮れるまで説教されてしまいました(泣)










なかがき



はは、最近なにもかも遅くなってしまっている黒い鳩です。

集中力が散漫になっていますね〜

ちょっと書くと他の事が気になったりして…(汗)

スランプ気味かな…兎に角、次は久々に絵を描く予定です。

まあ、何時できるかは分かりませんが(汗)

出切れば、9月頭には何とかしたいと思っています。

それでは、また。


WEB拍手ありがとう御座います♪

Summon  Night 3 the Milky Way のWEB拍手のお返事は次回辺りから何とか復帰したいと思っています。

ご迷惑をおかけします(汗)


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