私がびっくりして振り向いた先には、おじいさんが肩を怒らせながらふすまを開けて近づいてくる姿がありました。

おじいさんなのに、凄く元気が良さそうなのが印象的です。

というか、何か怖い…昔の軍学校の先生よりもしかしたら怖いかも…

頭髪は後頭部と側頭部に逆立った白髪があり、少し小さめのめがねを鼻の上に乗せています。

白い口ひげが印象的で、服装は草の色とでも言えばいいんでしょうか、茶色が少し混ざった緑色です。

なんなんですか?

このおじいさん…


「こっちの世界の教師が来たと聞いて見に着てみれば…

 実になっとらん!

 言うに事欠いて、一人のための先生でいたいだとォ!?

 <子供たち>を 導いてやらぬ者が<子供>を導けるはずがなかろうがッ!!

「!?」

「ついて来い! ワシが、貴様に教師の何たるかを教えてやるわ い!!」

「は? ちょっと!? そんな、引っ張らないでくださいぃ!?!?」


私はおじいさんに引きずられて屋敷を出て行きました…

ミスミさまも呆然と見送っています。

私は思わずいろんな人に助けてといいましたが、そろってご愁傷様ですって言われました…

そんなこんなで、私その日は日が暮れるまで説教されてしまいました(泣)




Summon Night 3
the Milky Way




第五章 「一歩目の勇気」第六節



私は、遅くまで待っていてくれたカイルさんとソノラにお詫びをしながら帰途につきました。

途中今までなぜ待たせてしまったのか話していたんですが、

その話はみんなの前でした方がいいという事になり、夕食にあわせて話すことにしました。

でも、ベルフラウちゃんは部屋で一人で食べると言ったので、後にする事になりそうです。

その中で、お爺さんのことなども含めて話すことになりました。

私も聞いた時は驚いたんですけど、カイルさんやソノラもかなり驚いているようです。


「別の世界から来た人間?」

「そうみたいなんです、私も凄くびっくりしたんですけど…

 この島には召喚術の実験の為の施設があちこちに残っていて

 今でも、そこから何かが召喚されることがあるんですって」


「おいおい、それじゃあそのゲンジとかいうジイさんは…そこから召喚されてきたってことか?」

「本人が言うにはニッポンって国で学校の先生をしていたそうなんですけど…」


その言葉を私が発したとたん、アキトさんの表情が凍りついたように引き締まります。

私は、何か冷たいものが走ったかと思いました。


「それは、本当か?」

「ええ、そう言ってましたけど……」

「……」


何か複雑な思いが渦巻いているのを感じます。

そのニッポンという国がアキトさんの帰るべき世界なんでしょうか…

だとしたら、帰してあげたい…

でも…

私は頭をふって細かい事を考えるのをやめました。

今はそこまで考えても仕方ありません。

アキトさんに聞けないのならゲンジさんに確かめてみるしかないでしょう。

そんな折ポツリ、ポツリとヤードさんが話し始めます。


「可能性としてはありえない話ではありませんよ」

「そうなんですか?」

「聖王国に存在する蒼の派閥や金の派閥といった組織の研究では、

 事故による結果としてそういった事例が報告されているんです

 <名も無き世界>我々は未知なる場所を仮にそう呼んでいます」


名も無き世界……

アキトさんもそこから来たのでしょうか…

私もその事は考えた事がありますが……

それでも、アキトさんの反応の薄さから実際の事はわからずじまいでした。

でも、考えてみればこの世界がリィンバウムと呼ばれているように名も無き世界にもその世界の住人がつけた名前があるはずで…

それがニッポンだったとしても不思議ではありません。

もっとも、ニッポンは国名のようですから、世界の名前である可能性は低いですが。


「おい、アキト…あんたそういや、召喚されてこの世界に来たっていってたな」

「ああ」

「じゃあ、ニッポンてしってるか?」

「……」

「知ってるんだな?」

「……ああ、知っている」

「じゃあ同じ世界の住人つうわけだ」


その時、アキトさんの心が少し軋みを上げたように感じました。

私は、声をかけようとしましたが、


「……少し夜風に当たってくる」


そういうと、食事が終わっていないのに席を立ち出て行こうとします。

部屋を出て行くその横顔は、何か荒涼とした世界を感じさせました。


「あ…」


何か言おうと口を開きましたが、その横顔の前に私は声をかけられなくなってしまいました…

私は…


アキトさんが去った後を、ハサハちゃんが付いて行く姿だけが妙に印象に残りました。

彼女ほどの純真さがあれば、私も声をかけられたのでしょうか…



「俺…何か悪い事言ったか?」

「アニキ…もうちょっと、雰囲気さっしなよ!」

「え!?」

「あのねぇ、カイル…アキトも言いたくない事があるのよ、すねに傷持ってるのはここなら誰でも一緒でしょ?」

「そりゃあ、そうだけどよ…」

「多分彼はもといた世界で、背負い込まなくてもいい重い業を背負っているのでしょう。

 彼の表情はある種の絶望すら見受けました」


カイルさんは言われて気付いた事があったのか、渋い顔になったあと、

顔をパシーンと両の手のひらで叩いて気合を入れると。


「ああもう、わ〜ったよ、今回は俺が全面的に悪かった! ちょっと謝りに行ってくらッ」


そういって、はカイルさんは部屋から出ていきました。

残された私は、結局色々問い詰められ、タジタジになってしまいました(汗)















俺は船を降り、浜辺まで来ると立ち止まった。

後からついてくる気は察している…

一人になりたいとは思ったが、それを振り切るのも躊躇われた。

浜辺に立ちただ波間を眺める…


俺は、この世界に来てもとの世界とのしがらみは全くなくなったのだと思っていた。

いや、そう思いたかっただけなのだろう。

俺自身の侵した罪の重さは…


今でも、自分の手で殺した人々の怨嗟の声が聞こえる。

ユーチャリスで、ブラックサレナで、そして生身で……

復讐の為、ユリカを取り戻す為、ルリちゃんやラピスが狙われない世界にする為、そう言い訳はしても…

ただ殺し続けた…実質は、あの北辰と同じ……

そう、同じ所まで落ちる事が出来たからこそ奴を殺せたのだから…


「皮肉だな…あれほど望んだ力だったのに…」


今は…それすらも疎ましく感じる……

何もいらない…そう、今の俺には……もう……

入り込んできた幸せの香りは、俺を蝕む……どこまでも冷たい世界なら、何も考えずにいられるのに……

俺は一体何がしたい!?

また中途半端に介入して大きな歪みを作るのか!?

そう…本当は、俺がナデシコに乗らなければ、ユリカのミスは殆ど無く、またA級ジャンパーとして目を付けられる事も無かっただろう。

そもそも、A級ジャンパーは俺のせいで広まった認識だ。

そのために、生き残っていた火星の人々すら実験の餌食となった。

ナデシコで火星に行ったときも、火星にいた生き残りは、俺の判断が甘かった所為で全滅。

今や俺とユリカとイネスさんのたった三人だ。

俺がしたのは復讐のみ、それも結局自己満足に過ぎない。

頭に血が上っている時はいい、だが、復讐が終わった俺には結局何も残らなかった…

そんな俺が、今更もとの世界に返って何をやるというんだ。

いや、この世界で生きていく事も…

やはり、早々にここを立ち去るべきだったのだ…

しがらみが大きくなる前に…


俺の服の裾を引っ張る感触がある。

ハサハだという事はわかっていた。

今は一人になりたいと思っていたが…

ハサハなら一日中でも追いかけてくるだろう…

今までの間にハサハがそういう少女だという事は良く分かっている。

ハサハはどこか、ラピスを彷彿とさせる少女だ。

見た目はまるで似ていないが、それでも、性格は良く似ているのかもしれない。

直感的に人を判断する性質も、純真さも、一途さも…

無口な所まで良く似ている。

俺が彼女を召喚したのは、果たして偶然だったのだろうか?

俺には分からないが、それでも、何かを感じずにはいられない。


「おにいちゃん…」

「ハサハ、俺を心配する必要は無い…」

「でも、いたいおかお、してたよ?」

「……はは、ただ食事に苦い物が入っていただけさ」

「(ふるふる)」


「……気にするな、俺はこういう人間なんだ、幸せになる資格の無い…な」

「そんなこと、ないよ」

「ん?」

「おにいちゃんは、きっとしあわせになる」

「だが…」

「(ふるふる)…だめ」


そういうと、俺の服の裾から手を離し、ハサハは海側に回りこむ。

正面に立ったハサハは、俺に向かって不服そうに頬を膨らます。


「おにいちゃんが、しあわせじゃないと…だめ」

「俺は…」

「みんな……いやなこと…あるよ。でも…あきらめるのはだめ」


それは、子供ゆえの…

純真で一途な子供ゆえの言葉…

俺には眩しすぎるその言葉、だが、本当の事を知ればきっと向けられなくなる言葉……

それでも、俺は…


「わかった、俺が幸せになる方法を考えて見るとしよう」

「(コクリ)」


その言葉は単なる慰めなのか、それとも本気だったのか…

俺自身分らない、だがハサハの心に癒されるものを感じていたのは事実なのだろう。

うなずくハサハの微笑みに少しだけ微笑み返しながら、俺は来た道を振り向く。

丁度誰かが来たようだ、あれはカイル…そうか…この世界の住人はやさしいな…本当に。

俺はカイルの方に向き直った俺に、ハサハは手を伸ばす。

俺は、その小さな手を自分の手のひらで包み込み、少しづつ歩き出す。

それは、やはり幸せなのだろう…永遠は望むべくも無いが、この瞬間だけは…

自分の罪を忘れていられたのだから。











私は、ベルフラウちゃんに事情を説明しました。

実際、学校をやるとなればゲンジさんに色々教えてもらわないといけないですし、

事前に言っておかないといけないこともあります。

それに、最近はベルフラウちゃん少し神経質になってきているみたいですから…

多分この島から出られないことでイライラがつのっているんじゃないかと思います。

それだけに、切り出しづらい内容ではありますが…


「そういう事情でね。私、島の子供たちの先生を引き受けたいと思うんだけど…」

「…」

「ベルフラウちゃんはやっぱり…反対、よね?」

当たり前でしょ!

 まったく! 雇い主の私に断りも無くアルバイトの約束をするなんて…

 本当ならタダジャすまないですわよ!!


たしかに、言われても仕方の無い事だと思います。

私も最初は少し戸惑いましたから。

でも、やっぱり大事な事なんです。


「でも、約束したからやろうと思っているんじゃないのよ。

 今日ゲンジさんっておじいさんに叱られて初めて気がついたの

 今の私は本当の先生らしい事、ちっとも出来てなかったのかもしれないなって」

「!」

「胸を張ってそういえるようになるためには、先生としての勉強をしなくちゃって」

「先生としての…勉強…」


真摯に伝えたのが良かったのか、きちんと聞いてくれているようです。

やはり、ベルフラウちゃんは良い子ですね♪


「うん、そのために学校の先生をやってみようと思ったの」

「仕方ないわね…

 そういう事情でしたら…まあ、今回は大目にみてさしあげますわ」

「ベルフラウちゃん…」

「ただし! そのせいで私をないがしろにする事だけは、絶対に許しません!

 貴方は、私の使用人。私の為に雇われた家庭教師なんですから…よろしくて?」

「ええ、約束します。絶対にそんな事はしないって…」

「…」


この時、私は本気でその通りにできると思っていました。

人数が増えても同じ方法でやれる、どこかそう思っていたのかもしれません。















朝日が昇り、朝食を取り終えてから、学校としてしつらえた広場にやってきます。

初日だけにみんな張り切っているのでしょう、スバル君もパナシェ君も元気一杯です!

ベルフラウちゃんもそれほど機嫌が悪くないみたいですし、後一人が元気良ければよかったんですけど…


「は〜い、みんな席についてね!」


まあ、それは見なかったことにして授業を始める事にします。

とはいっても、みんなの勉強の進み具合が違っているので、別個に教える事になりますが…

まあ、その辺は仕方ありませんね。

まさか、スバル君パナシェ君にベルフラウちゃんと同等の授業を受けさせるわけにも行きません。

それでは、私も張り切って頑張ってみる事にします。


「えーっと…今日から、貴方たちにこの世界についての勉強を教えます。先生のアティです、みんな、よろしくね♪」

「おう!」

「よろしくおねがいします」

「…」

「じゃあ、授業を始めましょう♪」

「ちょっと待て」


陰々滅々とした声が、私に抗議の言葉を投げかけます。

まあ、アキトさんとしては確かに辛いかも知れませんね。

なぜなら、ベルフラウちゃんにスバル君、パナシェ君とハサハちゃんの4人と一緒ですから…


「はい、なんですか? アキト君?(笑)」

「お前…楽しんでるだろう?」

「いえ…授業を頑張ろうとしているだけですよ?」

「ならなんで俺がいる?」

「当然です! アキトさんはまだこの世界の事あまり知らないじゃないですか」

「だが、そもそも一般常識を全て知らなくても生きていけると思うが?」

「でも、アキトさんと一緒ならハサハちゃんも授業を受けてくれるって言ってますし♪」

「(こくこく)」

「……それでいいのか…お前は…」


アキトさんは心底疲れたような顔をしていましたが、

それでも、出て行こうとはしませんでしたので、そのまま授業を始めました。

授業のやり方はまだ一夜漬けの域を出ませんが、

色々頭の中に描いた方法を試しながら授業をするというのは初めての経験で、

新鮮な驚きに満ちている、そんな気がします。









アティが始めた授業を岡地になった所から見ている二人の影があった。

既にアキトには気配を察知されているがそのことを気にしている様子も無い。

そもそも、おしのびとはいっても、子供たち見つからねば良いのだ。

その二つの影の一人はミスミ一人はゲンジであった。


「うむ、なかなかさまになっておるではないか?」

「当たり前じゃい、なんせこのワシがつきっきりで指導をしてやったんじゃ、

 しかしまあ、ワシがこの世界の人間なら、あの若造だけに苦労はさせんのだがな…」

「いや、ご老体には十分に感謝しておるとあの者は言うておった。先生の先生に出会えて良かった…とな」

「先生の先生、か…」


ゲンジは少し頬を緩める。

異世界の人間であるアティにも教えるという事を学ばせる事が出来たことが嬉しいのだ。

教える人も人である以上常に勉強、それがゲンジの伝えた精神である。

授業を受ける子供もまた人間なのだから、対等に接してあげなければ今後も教わり続けてはくれない。

見たところアティはその辺りを分っているらしかった…

そこがゲンジには嬉しいのだろう。

しかし、ゲンジは生徒に一人に目を留めて髭をさする。

それは、生徒としての評価を云々しているのではない、彼の事はゲンジも知っていた。

そのために昨日は危険を侵してまで挑発したのだから。

そのせいで自分は間違いなく嫌われただろうと思っている。

しかし、それでも彼の事を確かめたかったのだ…


「しかし、ミスミ殿…あの男は本当に似ているのか?」

「ああ、そうじゃな、ゲンジ殿には身体的特徴を教えてあったかの……確かに似ておらぬ」

「なんと!? では、性格が似ておるのか?」

「似ておる、が、そこが決め手でもない…」

「うぬ、難しいな…ワシには」

「わらわと、あと二人…分るのははそのくらいじゃろうて…」

「……それは、普通の人間が見てもわからんと言う事か?」

「そう受け取ってもらって構わぬ」

「なんとな…面妖な話じゃな…」


ゲンジは渋い顔になる。

なにせ、聞いた限りではアキトも人間である、それも、もしかしたら自分のいた世界と同じ世界から来た…

そんな人間が人間でないものにしか分らない存在であるといわれれば首を捻りたくもなる。

ましてや、ミスミは大真面目に言っているのだ、どの辺りにその理由があるのか知りたいとおもうのは当然だろう。


「なら一つだけ言っておこうか…おぬし達は妖怪などが現れる時は何か怖気をふるったりするそうじゃの?」

「…そういう話も聞くな…じゃが、おぬし等を前に怖気をふるった事は無いぞ」

「話の腰を折るでない、そういう現象を引き起こす物を我々が纏っているというておる」

「!」

「妖気…そう呼ぶものじゃ…」

「なるほど…」

「そして、人間には霊気と呼ばれるものがある」

「まさか…」

「似ているというのは、違うかもしれんの、全く同じと言っても良い」

「では、生まれ変わりとでも言うのか?」

「そうかもしれんし、そうでないかも知れん…じゃがこれだけはいえる」


ミスミはそこで一度話を止め呼吸を落ち着ける。

そして吐く息と共に、ゆったりといった。


「わらわはアキトの事を認めたと言う事じゃ」

「それは…」

「わらわはかの者の絶対的な味方でいるつもりじゃ、場合によっては郷と敵対する事になってもの…」

「やはり、あの者は果報者ものじゃて。まさかミスミ殿にそこまで言わしめるとはな」

「じゃが、この先そうも言っておられぬようになるじゃろう、嵐が近いようじゃ…」

「……それは…いや、聞く必要の無い事じゃったな。では、おいとまといくか」

「そうじゃの、困っているアキトを見ているのも楽しいが、スバルの勉強の邪魔になるのも良くあるまいて」


そう言うと二人は音も立てずに姿を消した…

後にはただ、木の葉が舞い落ちているだけであった。













私は並行作業で授業を進めていく事にしました。

ベルフラウちゃんは勉強の出来る子ですから、基本的なことは飛ばして数学の問題から。

アキトさんは理数系はもう必要ないですけど、聖王国の歴史なんかは知らないでしょうし、

この間までで文は少し書けるようになったみたいですので王国史を。

ハサハちゃんと、スバル君、パナシェ君は先ず書き取りからそれぞれ勉強をしてもらうつもりです。

アキトさんは一緒にやる必要は無いって駄々をこねましたが、ハサハちゃんに勉強をさせるためだからといって納得してもらいました。

まあ、少し困っている顔が楽しいからと言うのもあったりしますけど。


「それじゃ、この文章を10回ずつ書いたら持ってきてね」


初歩の書き取りの仕方を教えつつ、三人に書き取りをしてもらいます。

もちろん、書き取りは読み書きの基本だからと言うのもありますが、平行作業なので、時間を取る意味合いもあったりします。

ゲンジさん曰く、授業は緩急が肝心だそうで、憶えたらちょっと休憩的に面白いお話をしたりして、興味を引くのも重要だそうです。

そういう意味でもできるだけ、全員を同じ所まで持っていく必要があるとは思っています。

でも、実際にベルフラウちゃんと同等の所まで持っていくのは大変ですし、少しづつやっていくしかないでしょうね。

アキトさんは危なげなく読解をしています。

この調子なら問題無さそうですね。質問なども聞いてみましたが、読破してからにするとのことでした。

元々あまり、学校での勉強をしていないそうですので、時間がかかるかもと思っていましたがそうでもないようです。

それを確認してから、私はベルフラウちゃんのところに向かいます。

彼女も、真剣に問題に取り組んでくれているようで安心です。

でも、やはり、独学では限界もありますし、少しお話を聞いてみましょう。


「…」

「どう? 何か分らないところとかありますか?」

「この部分の計算がちょっと…」

「どれどれ?」


ふむふむ…確かに、今まで教えた計算法では少しだけ辛いかも。

でも、ベルフラウちゃんならもう一息でしょうね。

じゃあ、先ず…


「やめろってばぁ!?」

「ごめん、ちょっとだけ待っててね」


問題の途中ですけど、仕方ないですね。

まあ、スバル君やパナシェ君にしてみれば初めての授業ですし。

ゲンジさんもマニュアルどうりには行かない事が多いって言ってました。

ちゃっちゃと解決して、戻ってくる事にしましょう。


「こら、ちゃんと真面目に書きとりしないと駄目でしょ?」

「だって、先生。スバルが横から邪魔してきて…」

「おいらは邪魔なんかしてないぞ? 勝手に決め付けるな!」

「ウゥ…ッ!」

「ほらほら、二人とももめてないで、先ずは手を動かしましょうね。

 それが終わらないと次の勉強に進めないから、ね」 


取り合えず、注意だけしておきます。

スバル君も元気のいい子なんですけど…

ちょっといじめっ子気質ではありますね、

パナシェ君もちょっといじめられやすそうな子ではありますし…

波長があっちゃうんんでしょう、その証拠に、同じように大人しいハサハちゃんには手を出していないみたいですし。

ちょっと不安ですけど、先にベルフラウちゃんの質問から答えないと…


「…お待たせ! ここの計算式はね、こっちの応用なのよ」

「ここの、この部分?」

「うん、そうそう具体的には…」


例を挙げて説明するほうがわかりやすいですし、この場合は簡単な計算法から…って


「返してってば!?」

「!」


またですか…確かに問題が起こるかもって思いましたけど…

もう少しだけ、説明の時間をくれれてもいいのに…

いえ、こういう考え方は教師失格ですね。

授業に集中できる環境を作り上げる事こそ教師としての勤めであるでしたっけ。

結構大変な事なんですね…またベルフラウちゃんへの説明が途中ですけど仕方ないでしょうか…

そうは思っても、やはり少しイライラを募らせていたんだと思います。

私は、行くなり二人に向けて声をあげました。


「もぉっ!」

「スバルが、ボクの書いたのを…」

「なにいってんだよ? これはおいらのだ」

「嘘つきがどっちかなんて、字を見ればすぐにわかっちゃうんですからね! 見れば…」


うう…っ???

字が汚すぎて、判別がつきません…

二人ともまだ字としてそれほどきちんと完成されていないところに加えて、

早く仕上げようとしたせいで字はもうぼろぼろ…

ミミズがのったくった字とか言うシルターンの言い方が思い浮かびます…

思わず私はアキトさんを振り向きましたが、アキトさんは王国史の教科書で顔を隠してしまってます。

気配が読めるなら状況が分かっているはずなのに〜!!


先生、嘘つきはスバルだよね!?」

「なんだよっ、弱虫のくせに、いい子ぶって!」

「ちょっと、二人とも! ケンカは…」


最後の希望をこめてハサハちゃんのほうを見ると、

ハサハちゃんはアキトさんの方にトテトテという感じに歩み寄って自分の書き取りを見せています。

それ…私の役目なんだけど…くすん…

膝を折った私の所に、最後の絶望の導き手がやってきました…


「先生さ〜ん!」

「ま、マルルゥ?」

「ひどいですよう! マルルゥだけのけ者にして遊ぶなんて。マルルゥも仲間に入れてくださいです!」

「あのね、これは遊んでいるわけじゃないのよ?」

「そうだ、そうだ、マルルゥは帰れよ!」

「ヤンチャさん…どうして、イジワルをするですかー!?」

「ボク、嘘ついてないのに…っ」


はう〜、なんかもうハチャメチャです。

授業どころじゃありません…何とか一回みんなを静めないとバラバラになっちゃいます。

一度大声を上げて黙ってもらうしかないですね…

そうして、息を吸い込んだ時…


「いい加減にしてッ!!」

「!?」

「あやや…」

「えう…っ」

「…」


机に両手を叩きつけて立ち上がったのはバルフラウちゃんでした…

その表情は怒りに震えているようでしたが、同時に泣く寸前のような、そんな不安定さを含んだ表情です。


「ベルフラウちゃん…」

「…帰るッ!!」


ベルフラウちゃんはその勢いのまま本当にこの青空教室から出て行きました…

足早に歩き去る姿は寂しさの裏返しのようで、私は思わず追いかけたんです。

そして、教室から少し離れた森の辺りでベルフラウちゃんに追いつく事ができました。


「待って! ベルフラウちゃん」


ベルフラウちゃんに声をかけたその時、ベルフラウちゃんはくるりと私に向き直りました。

私がほっとしたのもつかの間、ベルフラウちゃんは目に涙をため、私に怒りの言葉をぶつけました。


「…ウソつき!!」


…っ

その言葉は心の芯を貫きました、足場が崩れるようなそんな気がして、

でも、ベルフラウちゃんは容赦なく言葉を続けます。


「笑わせてくれるわよ、まったく…貴方、口先ばかりでちっとも約束を守れてないじゃ ない?」

「それは…」

「おだまりなさいっ!! 私の事なんかもうどうで もいいってはっきりとおっしゃいなさいよッ!!」

「!?」

「不愉快よ…同情なんていいから、きっぱり白黒つ けてちょうだい!!


ベルフラウちゃん…そこまで追い詰められていたなんて……

私を捨てると言う言い方なら兎も角、そんな言葉が出てくるなんて、

それじゃあまるで、大事なものを親に捨てられてしまった子供みたい…

私がそんなに追い詰めてしまったんでしょうか、

でも…でも…これだけは言わなくては……


「そんな事無いです!」

「!」

「貴方だって、私の大切な生徒なんだもの…大事だとか、いらないとか、そんな区別したりしません!」


その言葉にベルフラウちゃんは少しだけ表情を和らげましたけど…

その口をついて出る言葉は、冷たいままでした…


「ええ、そうでしょうね、だけど…私は、貴方みたいには考えられません! …っ!」

「ベルフラウちゃん!?」


言い終わると同時にベルフラウちゃんは駆け出しました、

私は追いかけようとしましたが、どんな言葉をかけていいのかわからず足が止まってしまいました…

彼女の孤独を理解できなかった私がいけないんでしょう…

考えてみればマルティーニ家のお嬢様である彼女にとってこの島の出来事は全て未知のものであるはず…

その中で私が離れていってしまうと錯覚させてしまった事が原因だったのだと、その時初めて気付きました。

その考えに、私は呆然と立ち尽くすことしか出来ませんでした…











なかがき

アティの初学校…のハズなんだけど、サブ扱いになってしまった(汗)

なげえ…いったいどのくらいボリュームUPするつもりなんだか…

この作品は、サモンのメインシナリオを全て追っていくという形になっているのが最大の問題かな…

でも、どうにか次回で戦闘できそう(汗)

何といいますか、平行作業の為、全てお待たせする格好となっておりますが、

お許しアレ。

次は棄てプリの予定です。






WEB拍手ありがとう御座います♪

8月28日〜9月21日正午までにSummon  Night 3 the Milky Wayは412回のWEB拍手を頂きました、ありがとうございます!

その間に頂きましたコメントのお返事です。

8月28日1時 続き楽しみにしてます。
ありがとうございます! おかげさまでどうにか続いている次第であります。感想の為に書いている私って…(爆)

8月28日21時 アキト達の中でハサハが最強かも?
そうですね〜ハサハは保護欲をそそりますから、そういった意味では他のキャラより扱いがいいです。今回も意外に活躍中(何故そうなったのか私にも分らな い…)

8月28日22時 3のSSを読んでいていつも思うのですが、子供達と子供のセリフが逆じゃないですか?
8月28日22時あの爺さんのセリフはもっと観念的なものかもしれないけどやっぱりおかしいですね。
う〜ん。本当はそういうところをアキトにツッコませたかったんですが、今回アキトが凹んでしまったので上手く行きませんでした(汗)
確かに、一人ひとりを見ることで全体を見る、一人を大切に出来ない人が沢山に人を教える事はできないだと私も思いますね。
でも、ゲンジさんが言いたかったのは、沢山の人に係るのでないと教え方も偏ってしまうという事かも知れないです。
だとすれば、それはそれで一理あるんですよ…へ理屈には違いないですけど(爆)

8月29日0時 はい、今回もほのぼのとした雰囲気ですね。このまったり感がまたいいのですよ。
ほのぼのが身上ではありますが…今回はやたらと持って回った形になってしまいました。
今回も気に入っていただければ良いのですが…
 
8月29日12時 ナデシコもはやくすすめろよ〜。
ははは…がんばります。できれば感想とかも頂けるともっとはかどりますんで(爆)
最近〜光と闇に祝福を〜に感想をいただけなくて辛いです…そろそろ、ルリの場面を増やさないといけないでしょうね…
最近出番無かったから(爆死)

8月30日14時 ここのサイトのサモンナイト3のSSを読んで、ゲームを買ってやっている最中です。がんばってください。
ありがとうございます! そう言ってくださると嬉しいです♪ これからもがんばって行きますので今後もよろしくお願いします。

8月30日23時 更新だ!更新だー!更新だぁー!!(やかましい
更新それは、やる気がたまに出す幻…(燃料のやるきが直ぐ尽きる
ですが、感想をいただける限り頑張らせていただきます!
 
8月31日20時 最近読みました。おもしろいですね〜続き期待しています〜
はいな、つづきですぜ〜ダンナ(爆) これからも続けて行きたいと思いますので今後ともよろしくお願いしますね。

9月1日9時 ゲンジ、一体何者? 味のある脇役になりそうで楽しみです。次回に更新楽しみにしています。
はっはっは、今回殆ど出番なしっす(爆) どんなキャラになるのか私も良く分りませんが、生暖かい目で見守ってやってください!

9月3日17時 Good Job!
ありがとうございます! 今後も頑張りますのでよろしくお願いします♪

9月4日12時 これからも、楽しみにしています。
楽しみにしていただけるとのこと嬉しいです♪ 作品はまだまだ序盤…つうか、どれ位終わるまでに時間がかかるんだか予想もつきませんが、頑張りますのでよ ろしくです!

9月5日0時 素晴らしい。
素晴らしいといっていただけるとは…非才な私には身に余る光栄にあります。今後とも頑張る所存ですので、見てやってくだされば幸いです。

9月5日0時 もっと頑張れ
ははは…これ以上は今のところ難しいかも知れません…出来るだけ月一は出していけるよう頑張りますので許しを(汗)

9月5日16時 サモンナイトを読みました。ハサハが出ているという事は2とのクロスオーバーも?
クロスですか〜…う〜ん、時間があったら最後の方でやるかもしれません。でも最後まで行くのにどれ位かかるかその辺が微妙です(汗)

9月5日19時 更新がんばってくださ〜い(・´ω ・)b
ははは…どうにか更新です。今後も頑張りますのでよろしくです。

9月8日5時 がんばってくれー。楽しみにしてるでー。
はい、今後も頑張って精進します。このSSを楽しみにしてくださる方が居ると言うことは喜ばしい限りですので。
今後ともよろしくお願いします!

9月19日11時 4章4節にあるアティのセリフでこっちでもがこってでもになってました。
申し訳ない…誤字脱字は私極端に多いのです。直しておきましたのでご確認ください(汗)


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