「そんな事無いです!」

「!」

「貴方だって、私の大切な生徒なんだもの…大事だとか、いらないとか、そんな区別したりしません!」


その言葉にベルフラウちゃんは少しだけ表情を和らげましたけど…

その口をついて出る言葉は、冷たいままでした…


「ええ、そうでしょうね、だけど…私は、貴方みたいには考えられません! …っ!」

「ベルフラウちゃん!?」


言い終わると同時にベルフラウちゃんは駆け出しました、

私は追いかけようとしましたが、どんな言葉をかけていいのかわからず足が止まってしまいました…

彼女の孤独を理解できなかった私がいけないんでしょう…

考えてみればマルティーニ家のお嬢様である彼女にとってこの島の出来事は全て未知のものであるはず…

その中で私が離れていってしまうと錯覚させてしまった事が原因だったのだと、その時初めて気付きました。

その考えに、私は呆然と立ち尽くすことしか出来ませんでした…




Summon Night 3
the Milky Way




第五章 「一歩目の勇気」第七節


ベルフラウは船へと向かう道をそれ、森の中を歩んでいた。

既に方向はわからなくなっている。

なんとなく、行った事の無い方に来ただけなのだ。

誰とも会いたくなかったから…

ベルフラウはそれでも心の底で迎えが来る事を期待してはいた。

だが、同時にこうも思っていた。

もう、アティには頼れない。

あれだけ啖呵をきったのだ、もう許してくれないだろう。

でも、当然なのだ…この島に来てからの自分は必要とされない存在に成り果てているのだから…

木々は複雑に絡み合い来た道を覆い隠す。

何か得体の知れないものに取り込まれてしまったように感じたベルフラウは思わず自分を抱きしめていた。

きょろきょろと辺りを見回し、何もいないことを確認する。

そして、一息ついた後、自分に言い聞かせるように声をあげる。


「しっかりなさい! ベルフラウ…ッ

 貴女は一人でも平気! ずっとそうやって生きてきたじゃない?」


そう、ベルフラウは自分の過去を振り返って思う。

自分は元々誰とも親しくしていなかった。

孤立はいつもの事、一人でいる事なんて珍しくも無い。

それは当たり前なのだと自分に言い聞かせる。

しかし、彼女は知らない。それでも自分を支えてくれていた人たちがいた事を。

食事、洗濯、掃除といった家事全般。

衣服、生活雑貨、住まいなどの費用。

それらは全て父や家にいる女中などがやっていてくれたものだ。

そして、ここに来てからはアティと海賊一味に頼っている。

だが、一人でというのは主観的に過ぎないという事を理解するには彼女はまだ幼かった。


そんな心理状態のまま森の中を一時間近く歩き、ベルフラウは心身共に疲労し始めていた。

最初は周囲にも警戒していたが、今は全く警戒していない。

歩き続けるだけで精一杯だった。

そんな時、唐突に茂みが音を立てる。


ざざざざ…



「っ!?」


音に怯えて一歩引きながらベルフラウはそれでも、逃げることなく出てくる相手を確認する。

足がすくんで動けなかっただけかもしれないが、それでも逃げてどうにかなるとも思えなかった。

茂みから顔を出したのは四角い顔をした茶髪の大男であった。

使い込まれてはいるものの、甲冑の上に羽織った陣羽織が目立つ服装である。

彼は、ベルフラウを発見すると同時に剣を突きつけてきた。

そして、その男の後からもう一人黒髪をショートヘアというよりは男と同じ様に刈り込んだ女性が現れる。

彼女も同じ様な甲冑と陣羽織をしていた。

髪型や体格を見てみれば女性か男性か迷ってもおかしくは無いのだが、均整の取れた体は彼女を華奢な男性とは見せなかった。

ある意味宝塚の男役を思わす独特の感覚を持った女性ではある。

本人は男性になりたいと思っているのではなく、男女の違いを気に留めていないだけと言う事なのだろう。


「…」

「足音が聞こえたのでこうして、捉えて来てみれば…子供とはな…」

「あ、ああ…っ」


男は剣を抜いて警戒していたが、相手が子供と分って対応に苦しんでいるようだ。

しかし、ベルフラウは突きつけられた剣を前に声も出ない。


「どうしますか、隊長?」

「武器をおろしてやれ、怯えていては話もまともに出来まい」

「はっ!」


剣を突きつけたまま途方にくれている男は後ろの女に確認を取る。

どうやら上下関係は女性の方が上のようだった。

もっとも、そんな事を考えている余裕はベルフラウにはなかったが。


「…」

「て、帝国軍…っ」

「分っているのなら説明は無用だな。話を聞かせてもらうぞ」


女性はベルフラウに向かってゆっくりと語りかけている。

別に尋問されている訳では無いが、それでもベルフラウは硬直してしまう。

彼女は帝国の軍学校に入学するつもりだったが、その事よりも目の前の暴力の力を恐れる思いの方が強かった。

ベルフラウは泣き出しそうになるのを必死にこらえていた。

今泣き崩れてしまえばもう立ち上がれない気がして…








「くそ!」


迂闊だった、ベルフラウに関しては確かにアティの問題だ。

元々あまり立ち入るつもりは無かったが、まずい事態になった。

家出なら放って置いてもいい。

アティが何とかするだろう。

しかし、それだけではない。

ベルフラウが道を外れた場所が気にかかる。

普通に道沿いを歩いて船に向かってくれていたら良かったのだが…


アティ達の帰った後で子供たちは捜索は始めた。

責任を感じているのだろう。

しかし、問題があった…

パナシェがベルフラウのにおいを嗅ぎ当てたのはいいのだが、匂いが森のほうに続いているらしい。

俺は強力な気配は幾つかめぼしをつけていた。

あの森には、例の帝国軍ともう一つ巨大な気配がある…

どちらに転んでもまともな結果にはならないだろう。


「出切れば鉢合わせする前に見つけたいが…」


俺はハサハに歩調を合わせるわけにも行かず、そもそも連れて行くつもりも無いので、集落においてきた。

ハサハには他の子供たちが森に向かわないように監視するように言ってある。

安心できるのかは微妙だが、それでも急がねばならない、俺は森を駆け回りながらベルフラウを探した…










私は駆け出したベルフラウちゃんを呆然としてみていましたが、はっと我に返り周囲を見回します。

既にベルフラウちゃんは跡形もありません。

私は急いで船へとかけ戻りました。

出切れば帰っていてくれるといいんですが…

そうは思っていても先ずは無理でしょう…

でも、確かめずにはいられません。

出切れば何事もありませんように。


「あの子なら、まだ帰ってきてないよ?」


やっぱり…

あのときの事を考えると無理も無いけど…

ベルフラウちゃんが無茶をする可能性は高いと思っていました。


「なにかあったんですか」

「じつは、その…ちょっと、ケンカをしちゃって…」


ヤードさんに聞かれて私はそう言い訳しました。

もっとも、皆さんも大体の事情は察してくれているんでしょう。

追求をしようという気配はありません。

でも、その沈黙は外から飛び込んできたカイルさんによって破られる事になりました。


「お前ら! 全員無事かっ!?」

「なんなのよ、アニキ帰ってくるなり?」

「スカーレルがさっき、怪しい連中を見たんだよ」

「もしかして…」

「そうよ、ヤード遠目だったけど、多分あれは帝国軍の兵士だわ」

「!?」


なんですって!?

私はそれを聞くと同時に飛び出しました。

帝国軍といってもこの前の人たちは手段を選ぶような人たちじゃありませんでした。

もし、あの人たちに見つかったら、ベルフラウちゃんが何をされるか…

そう考えるといても立ってもいられませんでした。

目的地も分らぬまま、ただ私は学校の方へと駆け出したんです。












俺は帝国軍と思われる気配を発見した、その数約24といった所か。

アティ達と同じ船に乗っていた事を考えれば多いほうだと思うが、それでもこれがすべてとも思えない。

偵察要員や、水汲み、食料の調達などで払っている人間も多いはず。

それを考えれば少なく見積もっても40人近い軍人が来ている事になる。

恐らくは、小隊規模の軍団なのだろう。

全員がこの島に流れ着いたとも思えないが…

俺は気配を消し、帝国軍の状態を把握しようとする。

今のところは特に代わった気配は無いようだ。

ベルフラウの捜索を優先した方がいいみたいだなと思い俺は陣地を後にしようとしたが…

唐突に膨れ上がる気配があったのを確認した。


俺は急いでそちらへ向かう。

途中ベルフラウが連行されてくる所が見えたがあえて無視する事にした。

アティ達が到着したようだ、カイル一家と護人の気配も感じられる、あちらは任せておけばいい。

それより、今のような状態であの気配の主に乱入される方が厄介だ。

気配の異様さ規模共に人のものではない。

まだ遠いが確実にこちらに向かっている。

最悪足止めさえ出切ればいい、俺は戦場にできそうな足場のしっかりした所を見つけていたので、

そこまで来て足を止めた。

巨大な気配が伝わって来る。

近づいてきているようだ…

それがま近まで来た時、巨大な影が姿を現した。


「まさか…こんな規模の存在がいるとはな…」


そう…大きさは象よりもはるかに大きい、立ち上がったエステほどもある。

そして、四肢を使って立っている以上、体格上は明らかにエステの4〜5倍。

そんな巨大な生物が俺の目の前に現れていた。


見た目は獅子に見えないことも無い。しかし、鬣は青色で体毛は白い。

ホワイトライオンやホワイトタイガー等とはまったく違う色合いだ。

それに、額にある角も、服装の様に体のあちこちにつけられている装飾品も、動物である事を否定している。

しかし、何よりもその巨大さはまともに相手のできる存在ではありえなかった…


巨体は俺を睥睨するように見ていたが、飽きたのか俺を無視して帝国軍の駐屯地に向かおうとした。

俺はとっさに、身構える。

動き回りながら気を練るのは難しいが仕方ない。

俺は、通り過ぎる巨大な獣へ向けて気を練りながら近づく、幸いまだ相手は走り出してはいない。

何とか追いすがりながら気を練り続けた。

そして、一定量たまった事を確認し、撃ち放つ。


「木連式秘伝…浸空!」


基本的に気というものは視認出来ないため浸空も視認出来るものではない。

浸空は巨大な獣にぶち当たると爆発したように爆風を撒き散らす。

何と言っても秘伝である、人間に使えるレベルとしては限界の筈だ…

しかし、爆風が収まり視界に映ったその姿は…

全くの無傷だった。


俺は動揺していた、確かにサイズはエステと比べても巨大である。

しかし、生物ならもう少しもろい物と勘違いしていた。

この生物は俺など歯牙にもかけない巨大な存在だ…

しかし、今この生物を通せば何が起きるのか想像もつかない。


呆然とする俺に突然何者かが語りかけてきた。

それは、まるで直接頭に響くように感じられる。

その声はこういう。


【何故我の邪魔をする?】


俺は咄嗟に巨大な獣の方を向く、獣は碧に輝く瞳を俺に向けている。

俺はありえない状況だなと少し思ったが、所詮異世界、俺の常識など通用しないのだろう。

俺は驚く事をせず、言葉を返す。


「お前が向かっている先に今行かれては困るからな…」

【フフフ…人間にしては大した度胸だ、一人で挑んできたのも我に臆することなく話しかけてきたものもな】

「光栄だな…だが、動かないでいてもらおうか」

【それは無理だな、私はあそこにいる有象無象どもを滅ぼす事に決めたのだ…この森の主たる<牙王アイギス>に無断で狩をしている罪は重い】

「なるほどな…貴様が森の主…ありそうな話だ」


目の前にいるだけで、プレッシャーの前にひざをつきそうになる。

生身で相手をするなど間違っているとしか思えない、そういう存在…

だが、今帝国軍を滅ぼすとなれば、同様にベルフラウやアティ達も巻きこまれるだろう。

それに、アティは死人を出すのを嫌っているしな…

そして何より、いらない俺の命であいつらが救えるなら安い物だ。


「お前が名乗ったように俺も名乗ろう、テンカ・ワアキト。Prince Of Darkness(魔王)と呼ばれた事もあったな…」


そう言うと同時に俺は唇の端を歪め二ィ…と笑う。

アイギスと名乗った巨大な獣は鼻を鳴らして威嚇してきた。


【人間の分際で魔王などと…おこがましいわ!】


アイギスは巨大な前足を振り上げ俺に向かって叩きつける。

サイズの違いを考えれば確かに虫を踏み潰すようなものか…

俺は<纏>を一瞬発動、自己催眠による強化で背後に向けて跳ぶ。


【すばしこい奴め】

「お前がのろいだけさ」


とはいえ、本当はアイギスの動きについていくのがやっとだ。

時折<纏>を使って逃げながらどうにか時間を稼いでいるというのが現状だ。

やつの体格に対して効く技は一つだけだろう。

しかも、余程の急所を狙わなければかすり傷で終わってしまう。

その上、その技を使ってしまえば俺は殆ど行動不能になってしまう。

それよりは、むしろ挑発して、時間稼ぎを続けたほうが確率が高い…

アティ達、早く終わって、この森を出て行ってくれればいいが…


【逃げるだけか?】

「そうでもないさ」


そういいつつ、俺はさっきよりも出力的に低い<浸空>を下に向けて放つ。

俺はアイギスに直接触れて気を流し、少しでも動きを止めようとしていた。

<浸空>の爆風で上空に跳ね上がりアイギスに迫ろうとしたが、それにあわせアイギスもジャンプしてきた。

あの巨体でどうやってジャンプしたのか分からないが、既に相手は頭上にいる…


「クッ!?」


俺は咄嗟に少量の気を練って<浸空>を目の前で爆破、方向転換をかける。

もっとも、空中での移動はどうしても落下の方が早い。

射程圏外に出るよりも前に、アイギスの体が落ちてきた。

ほんの少し掠めただけだが、体中が擦り傷だらけになる。

その上、下に向けての加速がついて地面に叩きつけられた。


「グハ!?」

【人間の分際で魔王などと名乗っているからどの程度できるかと思ったが、その程度か…】


このままでは、俺は死ぬな…


牙王アイギス…か…


自分が敗北した事を実感として意識できない、だが、圧倒的過ぎるその力の前に俺は何もできない事を悟った。

それでも、時間は稼がねばと体を起こそうとするが、体はピクリとも動かない。

先ほどの衝撃で、ショック状態になっているらしい…

自分でそんな事を考えながらも俺の意識は段々と薄れていった…









なかがき


はっはっは、情け無いですが、半分だけお届けします。

後半で解決までやるつもりです。

つうか、アキト関係ない方向で活躍してる(汗

しかも、死にかけだしね…

次回はもうちっと派手になるかと(汗

では、また



WEB拍手ありがとう御座います♪

9月21日正午〜10月16日零時までにSummon  Night 3 the Milky Wayは190回のWEB拍手を頂きました、ありがとうございます!

その間に頂きましたコメントのお返事です。

9月21日20時 楽しみにしています。頑張って更新してください!!
はい、がんばります〜応援いただきありがとうございます! 今後は出来るだけ早く上げたい所ですね(汗

9月21日21時 やっぱハサハは癒し系ですね。
はい、その辺の性質を最大限に生かして行きたいと思っています。成長した彼女の事は知らないんで誰か教えてくれ〜(泣

9月21日22時 おもしろかったよ〜骨は拾うから頑張ってくれww
骨…私は骨の無いやつですから〜(爆) まあ、適度にがんばりまっす!

9月21日22時 次の更新も待ってます。でも、無理はしないでくださいね。
ありがとうございます、今後も出来るだけ早く出したいですね。つうか会話はあるから…
でも、会社で書いているから、今の修理はきついな(汗

9月21日23時 先が気になってしょうがないのでがんばってください。
ありがとうです! ていうか今回も中途半端な引きに(汗) はよすすめねば…

9月22日0時 「困っているアキトを見るのが楽しい」って、アキトってばあんな格好してても小動物系なんですね(笑)
ははは…服装に関してはまあ、あんまり考えて無いんですけどねサンバイザーはまだしてるでしょうね。喜んでいただけたなら嬉しいです♪

10月2日14時 面白いです。
ありがとうです! 今後も頑張りますのでよろしくです!

10月5日20時 面白かったです(^^)これからも頑張って下さい〜♪
どうもです〜 今後ともがんばらさせてもらいます! 応援よろしくです!

10月10日22時 楽しく読ませてもらっています♪
ありがとうございます! 会社のPCが治っていれば後2日は早く出せたんですが(汗)申し訳ないです。 今後も頑張りますのでよろしくです!


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