だが、それだけで全てが何とかなる訳でも無いがな。


「だが、レシピが無い。違うタルトになるのは間違いないだろうな」

「それでもいいです! それに、私も憶えている限り手伝います。ですから……」

「(こくこく)」


みんなの視線を集めている。

こういうのは久しぶりだな……

俺のこの手で作った料理……抵抗が無い訳じゃない。

だが、料理そのものに罪があるわけじゃない。

ただ、俺が罪悪感に浸りたがっているだけだ。

そう、この世界に俺を責める者は俺以外いないのだから……


「……やってみるか」


何が変わったわけじゃない、しかし、この暖かい世界で、

俺も少しだけ前に進んでみようと思った……





Summon Night 3
the Milky Way




第六章 「求められしは……」第三節




私たちは畑で果物を頂いた後、イスラさんとアキトさんをラトリクスへと送っていきました。

とはいっても、みんなついてきちゃったんですけどね。

アキトさんが料理をしてくれるようですから。

それにタルトなんて久しぶりです♪

アキトさんの料理の能力は不明ですが、あの時のタイのカルパッチョはおいしかったですし。

ある程度修行を積んだ人なんだと思います。


でも、浮かれているばかりでもいけません。

イスラさんは病み上がりですし、アキトさんもひどい怪我から立ち直ったばかりです。

出きればあまり無茶はさせたくないんですが……。

そう思っていると、少し息を切らしたイスラさんと目が合いました。


「さんざん引っ張りまわしちゃいましたけど疲れちゃいました?」

「いいえ、久しぶりにしっかりと歩いて、外の日差しを浴びて、とても気分がいいです。本当に……」


疲れ半分と言った感じですが、表情は柔らかで、体力的な不足は感じられません。

よかったです……体調を崩したりしていたら出てきた意味が無いでしょうからね。


「でもちょっと風も出てきちゃったみたいですし戻りましょうか?」

「そうですね」


ラトリクスに帰り着いた私たちは、イスラさんを部屋に送ってから、

アキトさんと連れ立ってクノンに厨房を使わせてもらうように言いました。


「厨房? 一体どのような用件でお使いになられるのですか?」

「はい、この果物でタルトを作ろうと思いまして」

「アティ様が料理をされるのですか?」

「はははは……いやぁ、そうだったらいいんですけど、私はアキトさんの手伝いです」

「…………」


クノンはその言葉を聞いて、少しの間止まっていました、人間なら驚いたと言う感じです。

もしかしたら、感情の萌芽なのかもしれませんが、こんな理由で萌芽されるのもちょっと……(汗)


「分かりました、ついてきてください」


表情を変えてはいないものの、クノンの行動がぎこちない事から、私の言った事がウケていることが分かります。

なんだかとっても悔しい……。


そんな事を言っているうちにも厨房にやってきました。

しかし、厨房には……


「なんですかこれ?」

「システムキッチンだな、業務用か?」

「はい、基本的な調理から本格的な料理までほぼこなせるだけの調理器具がそろっている事を自負しています」

「システムキッチンですか?」


料理用の器具なんでしょうけど、分からないものも多いです。

というか、もしかして、私の知っている器具は基本的ななべとか包丁くらいかも?

後は、棚類に収まった細かな器具、おかしな囲炉裏の小さなもの?

空けると冷気がこぼれ出てくる箱がいくつかありますし……

観念的には理解できなくも無いですが、使えるのかと言われるとちょっと(汗)


「で、オーブンはどうだ?」

「はい、ここにあるオーブンは大型ですので、10人分の食料を同時に焼く事が出来ます」

「火力は?」

「オーブン内を800度℃まで上げることが出来ます。ただ、料理が消し炭になりますが」

「……わかった、温度調節には気をつけよう」


そういうと、アキトさんは一度準備をするといって部屋を出て行きました。

私は何の事だか分からなかったので、果物を調理場に置いて、手を洗って待つことにしました。

しばらくすると、アキトさんが部屋に入ってきました。

服装はTシャツとジーンズというラフな格好ですが、エプロンをして、頭はタオルを巻いています。

帽子がなかったからだそうですが、髪の毛とかにも気を使っているんですね……


ハサハちゃんやベルフラウとスバル君たちは食堂で待ってもらっています。

みんな作っているところを見たがっていましたが、取り合えず今回は遠慮してもらいました。


「さて、始めるか」

「はい、えっとどうしましょう?」

「生地は俺がやろう、アティは果物を洗って適当な大きさに切っておいてくれるか?」

「はい!」


言われて私は果物を洗いにかかります。

アキトさんはクノンに材料のありかを聞いているようです。

薄力粉とか無塩バターとか、加工物が無いのか確認しているようですね。

そういう意味でもラトリクスは正解でしたね。

それにしても、普段はアルディラさん一人なのに食材そんなに必要なんでしょうか?

クノンに少し聞いてみることにしました。


「クノン、色々な食材を保存しているんですね」

「はい、アルディラ様はアフタヌーンティを嗜みますから、私もお菓子を作る事は日常となっております」

「なるほど……」


アルディラさんがお菓子を食べるところ……ちょっと想像つかないな……(汗)

でも、それならこういう設備も頷けるよね。


そういっている間にも、私は果物を洗い終わり、アキトさんも生地を練り始めました。

では、果物を切る事にしましょうか。


「あの、私はどうすればいいのでしょう?」

「あっ、クノン……」

「そうだな、林檎……いや、ナウパの実とアーモンドでいいのか? のクリームは作れるか?」

「はい、大丈夫です。混合比はどうしましょう?」

「混合比か……お前は今までどうしていた?」

「はい、アルディラ様におだしする際は……」

「では、頼む」

「わかりました」


そういって、クノンも参加してきました。

私もがんばらないと。

そうやって調理はすすみました……

オーブン温度とか、色々細かな作業をしていましたが、暫くでタルトが焼きあがりました。

焼きあがったタルト生地に、クノンが作ったクリームを入れて、上に果物で飾りつけをして完成です。


「うわぁ、おいしそうですね〜♪」

「元々果物の鮮度がいいんだ、生地やクリームはオマケのようなものだがな」

「そんな事無いですよ、クノンもアキトさんも頑張っていたじゃないですか」

「ありがとうございます。ですが、普通に資料通り作っただけですので特別な事はしていません」

「もー、硬い事言いっこ無しですよ。じゃ、みんなのところに持っていきましょうか♪」


二人とも、お菓子作り手馴れているのでびっくりです。

私なんてクッキー程度しか造った事無いのに(汗)

普通の食事ならどうにか作れる私ですが、お菓子はあんまり作った事無いし……。

でも、思ったよりも作り方は分かりました、今度チャレンジしてみるのもいいかな?


「へー意外だな、テンカワさんは料理できるんですか?」

「まあな、昔取った杵柄って奴だ」

「へ? 一体なんですそれ」

「ああ、すまない……ここでは、そんな諺なかったな」


アキトさんが少し渋い顔をしています。

ことわざといっても、全てが同じではないという事は少しびっくりです。

今までアキトさんと会話していて違和感が無かったのが逆に不思議なくらいですが……。


「そんなことより、早く食べようぜ!!」

「うん、ボクも早く食べたい!」

「(こくこく)」

「ほらほら、行儀悪いですわよ」


スバル君たちがお菓子を要求しています。

考えてみれば結構待たせましたし、当然かもしれませんね。

私たちはテーブルの上に全員分のタルトを置き終えると自分も着席します。


「じゃ、頂きます」

「「「「「「頂きます」」」」」」

「……」


アキトさんは唱和してくれなかったですが、頂きますをみんなで言えたのはそれはそれで嬉しいものです。


「あっ、ちょっと変わった風味で美味しい♪」

「へー、果物の味が鮮烈ですね、クリームも果物の味を殺さずに上手く生かしてる」

「おう、なんだか知らないけどうまいぞ!」

「(こくこく)」

「甘すぎなくていいです!」

「あら、意外に上品な味ですわね」


みんな一言言った後、黙々と食べ続けています。

美味しいものには適いませんよね。

でも、アキトさんは……あれ?


「クノンは食べないのか?」

「食べる機構は積んでおりますが、基本的にエネルギー摂取は食事によりませんので」

「確かに、エネルギー抽出では効率が悪いかもしれないが、こういうものも雰囲気が大事でな。

 食べられるなら食べてくれ。じゃないと……」


そう言ってアキトさんは残っているタルトを視線で示します。

それを見て私も少し噴出しそうになりました。

みんなの視線が集中しているのが分かります。

正直、このタルトかなりの量なんですが……

でも、甘いものの魅力はよく分かります♪(笑)


「はぁ……このままでは、テーブルの上で乱闘になりかねませんね」

「いい想像力だ」

「いえ、シミュレートの結果です。5分後には74.28%の確率で乱闘が発生します」


そういって、クノンはテーブルにつきました、少し微笑んでいるように見えるのは目の錯覚でしょうか?

タルトに一通り舌鼓を打った後、私たちは解散しました。

やっぱり美味しいものは笑顔の元です♪

そう思って私とベルフラウはタワーを後にすることにしました。






















俺はちゃんと笑えていただろうか、自己嫌悪は顔に出ていなかったろうか。

俺が食事を作るたびにそんな事をしていたのではまた周りに気を使わせてしまう。

過去の罪は背負うしかない、そかし、その事で他人を煩わせるのは間違っている。

その事は十分承知しているはずだった……。


「くそ、まだ手が震える……」


今回包丁を使わなかったのは正解だった、俺がやっていたら、手が震えて切る所を誤ったかもしれない。

だが……。

結局のところ決心がつかない俺が悪いのだろうな、食事を作る程度でこんなに怖がって……。

血まみれである事は認めて、それでも料理そのものには関係ないと割り切るだけの精神力がまだ無い。

俺は……弱いな。


自己否定と自己の肯定の狭間で俺が煩悶としているとき、背後からいきなり声がかけられた。

気配を読み間違えた?

確かにそうだ、気力の集中を怠っていた、しかし、元々彼女は気配が希薄なので接近に気付きづらいという事もある。


「先ほどは、ありがとうございました。

 患者の様子はアティ様達と外出をされて食事を取った事によって、

 明らかによくなっています」

「そうなのか、それは良かったな」


俺はその言葉に少し口元を緩めた、料理は結局人とのつながり。

食べる人の美味しそうな顔を見たいというだけの事だ。

俺は何か勘違いしていたのかもしれない。


「…………」

「……どうかしたのか?」

「今、貴方はどうして笑われたのですか?」

「?」


俺は……そうか、さっき口元を……。

俺は笑っていたのか?

自分でもひどく衝動的だと思う、料理人としてのサガだろうか?


「どのような理由で笑顔を浮かべたのか、教えて欲しいのです」

「理由……理由か……衝動的なものだからな」

「……衝動的ですか?」

「笑いは嬉しいとか可笑しい、という感情に起因していると思うが……理解できないのか?」


クノンは俺の言葉を聞いて無表情ながらも不思議そうな雰囲気を作る。


「重ねて質問しますが、それは、どういった原因で発生するものなのでしょうか?」

「説明か……簡単だが理解するのは体験してみる必要があるだろう」

「体験ですか……それは私でも可能でしょうか?」


クノンはどうやら知りたがっているようだ、笑うという感情表現を。

だがしかし、俺はクノンを笑わせる方法など知らなかった。

だから……。


「さあな、しかし興味があるという事は可能だと考えてもいいのかもしれないな」

「そうですか……くだらぬ質問をしてすいませんでした」

「……」


ぺこりとおじぎをして去っていくクノンがどこか肩を落として見えたのは錯覚ではないだろう。

人工知能の見る夢か……。























私とベルフラウはラトリクスを出た後、船への道をたどっています。

今日も色々ありましたね〜

あ、そういえば……。


「スカーレルさんにお土産持ってくるの忘れてました(汗)」

「え?」

「いや、あのタルトってスカーレルさんが食べたいって言っていた物なんです」

「そうなんですのッ?」

「ビビィー?」

「それは、スカーレルさんに失礼ですわ。先に言っておけばよかったのに」

「あははは、実は久々のタルトに少し感動しちゃって、考えていた事がすっぽり抜けちゃいました(汗)」

「……」


ベルフラウはジト目で私を見ます。

いや、確かにその通りなので、私には何とも言えないところですね……。

ベルフラウとそんな会話をしながら歩いていたのですが、ふとおかしな感じがして周辺を見回しました。


「!?」

「これは……っ」


そこにあったのは、無残に折れ曲がった木々

そんな!? 昨日までこの場所は普通の森だったのに……。

どうして……っ

私は急いで船へと戻り、みんなにこの事を話してついて来てもらう事にしたんです。

ベルフラウにはその時に船で待っていてもらう事にしました。

途中風雷の里でキュウマさんにも知らせておく事にしました。

一大事になる可能性がありますからね。





そうして、森に戻ってきた時、既に護人の皆さんは集まっていました。

周辺を見回しながら、表情を険しくしています。

カイルさん達は周辺を見る為に散っていますので、後でここに集合すると思います。

ヤッファさんは私を見つけるとぽつりと漏らします。


「確かにあんたの言ったとおりだな。この荒れようは、ちと普通じゃねえぜ」

「ヒドイ……アリサマダ……」

「自然にこうなるとはどうしても思えなくて……だから、みんなに来てもらったんです」


この規模の破壊活動が出来るのは個人の力という事も考えにくいです。

アイギスの仕業という事も考えられたのですが、アイギスは自分の森からは出てこないし。

また、森を好き好んで破壊もしないとのことです。


「帝国軍の仕業なのでしょうか?」

「それは、ちょっと考えられないわね。森の中を荒らし回る必要が、向こうにあるとは思えないし」

「確かに……」

「ダガ……ケイカイハ、スベキダ」

「だな」

「警戒を強めながら、しばらく様子を見る事にしましょう」

「そうね……今のところ、それしか無さそうだわ」

「ええ、なにかあったらすぐ動けるようにしておきましょう」


護人の人たちは、警戒はしているようですが、特に何をするということもなく解散していきます。

中でもアルディラさんは冷淡で、話が終わると同時に、何かの機械に乗って帰ってしまいました。

少し気になりましたが、忙しい時間を割いて来てくれたのなら当然かも知れませんね。


「それにしても、どうやったら、一晩であんな風に森を破壊できるんでしょうか?」


暫くたって、カイルさん達が戻ってきました。

皆さん一様に疲れた顔をしています。

でも、目は真剣でした。


「現場の周辺、調べてみて正解だったようだぜ、手がかりと言えるのかは分からないがな」

「どんなことです?」

「倒れていた木を調べてみたのですが。破壊されていた部分も、その度合いも、不揃いだったんですよ。

 あれが召喚術による意図的な破壊ならば、あまりにも効率が悪い」

「それに、もう一つ、断面に刻まれた傷な。古い船によくある虫食いの跡に似ていた気がしたんだよ」

「虫食いですか……」

「まあ、たまたまそう見えただけかも知れんがな」


それは……。

一体どういうことなのでしょう?

こんな規模で木々を食い散らかす虫、ちょっと考えにくい気もしますが。

召喚獣の中にはシロアリの親戚みたいなのもいます。

でも、一匹や二匹でこんなになるとは思えませんし……。

私たちは色々考えたのですが、護人たちともう一度話し合って決めることにしようという結論になりました。

急がなくてはいけないとも思いましたが、まだ直接の被害が出ているわけでもないのですから、

先に皆さんと話した方がいいという結論になったからです。















その時の俺は知らなかった……。

そう、俺が巻き込まれた事情はそんなに簡単な事情ではないと言う事に。

俺が今まで思い違いをしていたと言う事に……。

だが、そんな俺の事情など周囲が構ってくれる訳もなかった……。


その時、俺は料理をした心地よい疲れの下、半覚醒のような曖昧な状態でベッドに横になっていた。

以外に体力を使ったと言うことなのだろう。

そこに、部屋をノックする声が聞こえる。


『お休み中のところ申し訳ありませんが、アルディラ様からお話があるそうです。

 少し一階のロビーまで来てください』

「ああ、分った」


反射的に返事をしたが、少し不思議にも思う。

アルディラが俺に話しかけたことはあまりない。

それに、規則に煩いクノンが、体調が不安定な俺に外に出ろと言う事は無かった。

これは何かあると考えた方がいいのだろうか?


そう思っては見るものの、俺自身興味が無いわけではなかったので、ロビーへと足を運ぶ。

そこでは、戦闘用の服へと着替えたアルディラが立っていた。

横にはクノンも控えている。

これはいったい……。


「テンカワ・アキトさん、貴方、自分の事知りたくない?」

「……? 何が言いたい」

「私は貴方の事を知っているわ、元の世界の事は知らないけど、今の貴方の事は良く知っている」

「……まさか」

「そうね、答えが聞きたければついてきてくれない?」




その言葉は俺にとって甘いささやきに等しかった。

今までの不可解さを解消してくれる、その言葉をどれだけ待っていた事か……。


分ってはいた、何かの罠が、毒が含まれた言葉だと……。


しかし、俺に出来た事は……ただ頷く事、それのみだった。












なかがき


いや〜相変わらず内容が伸びに伸びまくっています。

サモンナイト3のシナリオをほぼ取り込んで倍加しているから当然なんですけどね(汗)

シナリオ的に見ても序盤の目玉辺りですからね。

何とか少し盛り上げられるといいんですが……。

次回はちょっと愛が裏返ります(笑)

まあ、サモン3を知っている人はある程度予測できると思いますが(爆)

次回もよろしくです!


WEB拍手ありがとう御座います♪

コメント頂き感謝です!

外伝よりのコメントのみですが、返信させて頂きます。

5月27日21:05 外伝読めてよかったです。
そう言っていただけるとは光栄の至り! つーか、あの外伝大丈夫だったか不安で(汗)
スカーレルに悪役買って出てもらってますし、時期が不明ですしね……。
実はもう少し先(後半)の出来事なんで、今の所、本編とはあまり関係なかったり(爆)

5月28日12:44 始めまして。一気に読ませていただきました。とても面白く、楽しめました。続きを楽しみにしています。
ありがとうございます! 一気に読んでいただけるとは嬉しい限りです。
最近疲弊気味なので、パワー補充させて頂きました♪


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