怒りの声と共にアズリアは剣でなぎ払いに来ます。

私も腰の剣を抜き、剣を受けました。

アズリアの目は怒りにゆがんでいます。

どうやら彼女の心の奥の何かに火をつけたみたいですね……。



「いくら拒んだ所で私が向かっていけば貴様とて戦わざるをえまい!」

「私、信じていますから。貴方なら絶対分かってくれるって事。

 それに……私って、結構あきらめが悪いんです」

「黙れッ! 黙れ、黙れェェッ!!

 総員、攻撃開始だ! 今より、この者たちを帝国の敵とみなす!!」




もどかしくて溜まりません、何故言葉は全てを理解させる事もすることも出来ないのでしょう。


私はただ、争いたくないだけなのに……。






Summon Night 3
the Milky Way




第七章 「心に届く言葉」第七節



アティ達が帝国軍と対峙している頃、俺は周辺の調査をするために森の外周を回っていた。

元々帝国軍が正々堂々戦いを仕掛けてくるという点に関しては疑問があったせいだ。

リーダーのアズリアとかいう人物がアティの言うとおりの人物だったとしても、

前に出てきたビジュという仕官の人となりを考えるなら、考えられる事は二つ、

会わない間にアズリアはアティの知るアズリアとは違ってしまったのか。

もしくは、まだ部隊を完全に掌握できるほど信頼されてないかだ。



「アティの言葉を信じるなら、後者だろうな……」



それだけ一途な人間がそう変わるとも思えない、なら部下の信頼が得られていないという事だと考えて差し支えないだろう。

だが、それは俺達にとってもあまり良くない影響を及ぼす。

つまりは、留守を守る兵を狩りだして奇襲にかかってくるような統制の取れていない動きをする可能性があるという事だ。



「しかし、お前たちまで付き合う事は無いんだぞ?」

「いえ、元々私は忍、こういった裏方がしょうにあっています」

「へっ、俺はただマルルゥがうるさかったんでな、ちょっくらうさ晴らしに出させてもらっただけさ」

「それより、ハサハさんは良かったのですか?」

「(コクリ)」

「俺が無茶をしないようにするための監視役だそうだ、前回のアレで警戒されたらしい」

「はっはっは、なるほど黒いアンちゃんも先生の前じゃかたなしってわけかい」

「確かに、ですが実戦となれば彼女を守りながら戦うという事に……」

「その辺りは臨機応変でいくしかないな」



そう、俺と共にいるのはキュウマにヤッファ、そしてハサハだった。

アティからお目付け役としてハサハを連れて行くことを条件に偵察に出る事を許可してもらったのだ。

アティは話し合いで決着を付けたいと思っているようだが、軍隊を言葉だけで止める事は難しいだろう。

見返りでもあれば別だが……。

俺と話し合ったときアティは理解してはいるふうであった。

相手の理屈を理解してもやはりぶつかる事はあるのだと。

それでも、アティは無理を承知でやはり説得したいと思っているらしかった。



「甘いな……」

「先生のことかい? まあ、しかたねぇんじゃねぇの? だからこそ俺達が協力する気になったわけだしな」

「そうです、彼女は素晴しい考え方の持ち主です。ただ、少し周りの悪意に鈍感な部分はありますが」



二人とも、俺と似たような考えを持っているようだ。

アティは人をひきつける考えの持ち主であるし、実行力も高い、だが悪意に対して正面から受けて立ち過ぎるきらいがある。

からめ手や、抱き込みといった後ろ暗いやり方そのものを嫌っている風でもある。

正面からぶつかれば分かり合える、スポ根友情物ような考え方がアティのやり方なのだ。



「さて、後は西方の岩山の方だけだな、もっとも一番潜んでいる確率は高いだろうが……」

「はい、他の確率の高い場所には人影、移動跡、キャンプの痕跡などもありませんでしたので、一番確率が高いでしょう」

「じゃ、いっちょ行ってみますか」



俺達は岩山に向けて進む、ハサハがいる事もあってそれほどの速度は出せないが森に潜むようにしつつ移動する。

そして、岩山の反対側からせっせと移動する一団を見つけた。

その数30名ほど、しかし、3台の移動式砲台を引いている。

恐らく岩山に陣取り上から砲撃を加える算段なのだろう。



「あっぶねーな。こりゃやっといて正解だったな」

「ああ、報告と、それからアレの処分もしておきたいな」

「ですが、帝国軍は強い、我々でもアレだけの兵員を退けられるかどうか……」



確かに、以前のザコと比べれば練度が上がっているようだな。

恐らくここでの訓練を繰り返した結果だろう。

こちらのメンバーはかなりの強さだが、下手を打てば死人が出るだろう。

ハサハの事も考えるなら、やはり偵察にとどめて置くべきだろうか……。



「奇襲さえ受けなければいい、せめて足止めをしておきたいが……」

「どうやってですか?」

「道を塞げば大砲は通れまい?」

「なるほどな、それは面白そうだが……」

「ああ……」



次にこの別働隊が取るだろうルートをいかに塞ぐかという事を考え始めた。

ようは、アティ達と帝国軍の対決に割って入れないようにすればいいのだ。

兵力も考えればほんの2・3時間足止めか、遠回りさせるだけで十分だろう。



「ならばやはりこの岩山を迂回させるべきですね。

 あれだけ重たい大筒を運んでいるのです。迂回すれば二刻(4時間)程度はかかるでしょう」

「ちげぇねえ、しかし、塞ぐってもな……」

「セオリー通り谷状になった道で岩でも落として塞ぐというのはどうなんだ?」

「出来なくは無いが、幅がそこそこあるから俺達の頭数じゃ奴らが通るまでに塞ぐのは難しいな」

「なら爆破でもするか?」

「過激ですね、でもそんな事をすれば人を集めてしまいます。それに最悪牙王アイギスが出てくる可能性も」

「それは遠慮したいな……」



結局地道に岩などを落として道を塞ぐ事にした、たとえ完全にとはいかなくても少しでも到着を遅らせることに意味があると考えられたからだ。

幸い岩山であったため、大きめの石やら岩やらはごろごろ転がっている、ただ、大きすぎて動かせないものも多いので手ごろなものを探しながら道へ向けて転が す。



「くそ、この程度じゃ避けるまでも無く通られちまう」

「せめてもう少し……」

「……!?」

「どうしました、テンカワどの……ッ!?」



いつの間にか気配が生まれていた、この気配……どす黒い狂気が叩きつけられるような……。

俺の良く知る気配とピッタリ一致する、しかし、まさか……。




逃れえぬ 呪いの如き この縁 死して果つるも 終わりなき世に

 ……無間地獄よな復讐者よ」

「貴様ッ! まさか貴様もこの世界に来ていたとい うのかッ!! 北辰!!」


ピリピリと向けられる殺気、以前より静かに、しかし、狂おしく叩きつけられる。

俺は自分の抑制が効かなくなっている事を自覚していた。



「テンカワ殿ッ!?」

「やべぇ、アンちゃん切れちまったのか!?」

「おにいちゃん?」

「手を出すな……できるだけ道を塞いでおいてくれ。俺は……こいつを何とかしてから合流する」

「何言ってやがる! そいつのヤバさはビンビンに伝わってくるぜ! まともに相手出 来るような奴じゃねえ!」

「そうです、テンカワ殿、ここは一度引くべきかと!」

「おにいちゃん……」

「クッ!」



奴が……生きていた、それだけでも俺にとっては狂うに値する現実。

俺がここに来たのだ、考えられない話じゃない……。

だが、今ここにいる者を巻き込むことは出来ない。

今は引くべきか……。



「クククッ、また随分と弱気な事よな、また群れるようになったか。

 所詮お前はその程度の輩。慰められて泣いておるのが似合いよな」

「貴様!!」



俺は次の瞬間飛び出していた、あらゆる物事が真っ白になる、そして肉体の限界を超えるほどの加速で拳を突き出す。

恐らく今まで生きてきた中で最高の一撃、<纏>すら無意識に発動して叩き込んだ。

だが、真綿でも殴ったような手ごたえの無さでその拳は奴の手のひらに納まった。



「フンッ、その程度か。ぬるま湯の世界で鈍ったな」

「ぬかせ!!」



そのまま北辰が投げに移行しようとするのに合わせ。合気上げの要領で北辰のバランスを崩しにかかる。

合気上げは相手の突かんで押し込もうとする力を転化しバランスを崩す技だ。

そのまま投げたのでは北辰がかかる事は無いだろうが、バランスさえ崩せば次の手が打てるはず。

しかし、北辰はバランスを崩すでもなく俺の合気上げとタイミングを合わせて引く。



「ククッ、小手先の技法は磨いたようだな。だが、その程度で我に敵うと思うか?」

「チィッ!」



俺は引き手を切って飛びずさる。

北辰は追撃を行うでもなくその場に留まっている。



「情けない、我はこの程度の輩に倒されたというのか、失望させるな」

「貴様に喜んでもらうために生きているわけじゃない!」

「我を楽しませぬ貴様など生きている価値があると思うか?」



北辰はニヤリという笑いと共に、蛇のような舌でベロリと唇をなめる。

既に殺気すら漂わせてはいない、本当に殺す価値すらないという事らしい。

だが、俺を見てふと思い直したように目が愉悦に染まる。



「そうよな、貴様が本気になれるお膳立てが必要か……。

 ならば作ってやろう、絶好の舞台をな」

「……っ!」

「せいぜい楽しみに待つがいい。我も義理は果たした事だ、暫く場を作るために時間をかけるとしよう」



その言葉が終わるか終わらないかという瞬間、まるで掻き消えるように北辰は目の前からいなくなった。

気配が残っているのではないかと探してみたが、既に完全にいなくなったようだ。

たかだか10分程度のことではあったが、既に兵士たちは下の道まで到達しつつあった。



「テンカワ殿。今は詳しく聞きません。撤退するのがよろしいかと」

「……ああ」



俺は虚脱状態に近いほどに脱力していた。

キュウマが俺に肩を貸すようにしながら撤退する事になった。

別にどこを怪我したというわけでもないのに、俺は力が入らず虚ろな表情をしていた。



「かえろ」



ハサハの声がどこか遠くで響いていた……。















アズリアは一方的に会話を打ち切り、戦いを仕掛けてきました。

同時に帝国兵と郷の人達もぶつかります。

海賊の人達は既に帝国軍に肉薄しており現状正面決戦は免れないです。

兵士の練度では帝国軍に分があります、でも、強い人はこちらのほうが多い。

後は作戦で決するという事ですね……。



「確か、作戦指揮はお前のほうが得点が高かったな」

「ええ、敵も味方も死人が出ないようにするのには苦労しました……」



アズリアの上段打ち降ろしを剣で斜めに受け、捌きながら体勢を変え側面に回り込もうとしますが、

アズリアは読んでいたのか、その動きが終わるまでになぎ払いに剣筋を変えてきました。



「そんな甘い事を言っているから、帝国軍を辞めることになったんだ!」

「それは、私の考えと軍の方針が合わないと感じたからです」

「国と国がぶつかれば戦争がおきる、それは個人の尺度でどうにかできるものじゃない!」

「そうやって思考停止している人が多いのが嫌だったんです!」



そう、人が死ぬ事を許容するのは思考停止だと思います。

考える事をやめた人が仕方ないとか、想定範囲とか、そんな事を言いながら殺しを容認するんです。

人だから、争う事が無いなんてありえない事は分かっています。

でも、殆どの場合死ぬ必要なんてあったとは思えない。

だから……わたしは、私は認めない!




「アティ! お前の思想は平和な世なら受け入れられただろう! しかし、戦争を前にした帝国で受け入れられるものではない!」

「でも! 戦争をすれば死ぬ人がいます! それを悲しむ人もいます! 抵抗できない弱い人が犠牲になるんです!!」

「そんな事は、一国の主になってから言え!」



胴薙ぎを沈み込むように避けてそのままダッシュで懐に飛び込もうとしたのですが、アズリアは蹴りを繰り出して牽制をかけてきます。

アズリアはプレートメイルを着込んでいるので蹴りとはいえ、食らえば骨くらい折れるでしょう。

私は、更に転がるようにしてアズリアの下を抜けます。

そうして、受身から立ち上がり、アズリアも体勢を治し、また向き合う形に戻ります。



「ふふっ、腕は鈍っていないようだな」

「ええ、鍛錬の相手には事欠きませんから」



私達が戦っている間にも、帝国軍と島のみんなは激突し、怒号が、悲鳴が木霊します。

出きれば聞きたくは無かった、でも、今は一刻も早く止めるようにしないと……。

この剣の力を使えば……いえ、そんな事をすればアキトさんが……。

やはり自分で何とかするしかないですね。



「そろそろ決めてやる、我が秘剣、受けきれるか!?」

「なら、私は!!」



アズリアは凄まじい勢いで私に突きを繰り出してきました。

私はとっさに、手元の剣で弾きます。

しかし、パワーが大きかったのか腕ごとはじき上げられました。

突き自体は威力が減殺されていたため、回避は容易でしたが、次の瞬間既に二撃目の体勢に入っているアズリアを見たときは冷や汗が出ました。



「連突き!?」

「セヤァ!!」



私は後ろに倒れてどうにか回避し、転がりながら剣を拾おうと……。



「紫電三連突き!!」

「えッ!?」



三度目の突きが繰り出されたのは剣のある場所、完全に飛ばされ遠くまで転がっていきました。

私はそれでも間合いを探りながらどうにか起き上がる事だけは成功しました。

でも武器が……。



「さあ使え」

「え?」

「碧の賢帝をだ。お前はアレを呼ぶ事が出来るのだろう?」

「……」



私にそれを迫ってくるアズリア……でも、私は使うわけには行かない。

だって、使えばアキトさんが……。



「なんだ、使うのが怖いのか……ならば私には勝てないぞ!!」



そうして、アズリアは私に攻撃を繰り出します。

私はその攻撃を避けながら、でも、いつまでも続けていられるわけじゃない事を感じていました……。













あれからしばらくしてどうにか落ち着いた俺はキュウマに礼を言い自分で駆け出す。

北辰の事は気になるが一度頭から追い出す。

恐らく北辰は今回の事に係っていはいない、ただ俺達の邪魔をしに来ただけだろう。

奴にしては仕込みが甘いし、何より俺と戦っただけでほかに何もしていない。

それだけでも腹立たしくはあるが。



「どうにか、あの後詰をかなり引き離す事が出来たようです」

「ああ、兎に角アティ達が戦闘に突入しているなら早いうちに介入して終わらせなければ」

「はい」

「俺としちゃさっさと帰って寝たい所だが、早く終わらせねぇとな」

「(こくり)」



アティ達と帝国軍が対峙する場所に戻るのに10分程度かかったろうか。

後詰が来るのに半時間程度かかるものとして、20分以内に制圧なり撤退なりしなければならない。



「乱戦に突入しているな」

「ええ、このまま時間が長引くと不味いですね」

「ならとりあえずあのガタイのいいアンちゃんさえ何とかすれば後は大したことねぇんじゃねえか?」

「なるほどな、アズリアとかいうのはアティが引き受けてくれている……しかし、あっちも不味いな」

「そうですね、では二手に分かれましょう。私とヤッファ殿であの大男を抑えます。アティ殿の援護は任せました」

「わかった」



俺はハサハを伴い戦線を突破していく、兵士達はそこそこ練度は高いとはいえ、今の俺なら何とでもなるのは事実。

6人ほど打ち倒して戦線に穴を開けるとアティ達が戦う場に入り込むことに成功した。



「かなり苦戦しているようだな」



事実アティは追い詰められていた、剣を失い殆ど逃げ回っているように見える。

対してアズリアは正確な動きで突きをくりだし、徐々にアティを追い詰めていく。

マズイ感じではあるが、アティの目は死んでいない、恐らく奥の手があるという事か。



「しかし、何故抜剣しない?」



アティはアズリアに追い詰められたタイミングで剣を交差気味に回避、そして懐からナイフを取り出しアズリアの首筋に突きつける。

俺が結局介入する事もなく、アティが一人で決着をつけた、とはいえ、後詰のことを伝えなければならない。



「なぜ、勝てない……戦う覚悟もできていない、甘い理想ばかり口にしているような相手にどうして……。

 どうして、この私が勝てないのだ!?」



アティに向かって叩きつけるようにアズリアが声を出す。

戦力比を考えれば帝国軍が勝つのは最初から難しかった。

しかし、練度と地形で勝てると踏んでいたのだろう。



「覚悟が無いってのは間違いみてえだぜ隊長さんよ」

「!?」

「たしかに、こいつは争いごとに関しちゃ甘すぎる、覚悟なんてなっちゃいえねえ。

 だがな、その代わりにこいつは別の覚悟を持っているんだよ。

 どんなに苦しかろうと損をしようと、自分が正しいと思う事を貫いていく覚悟をな」

「カイルさん……」

「認めてやるぜ、不器用なあんたの生き方……」



カイルが戦闘を終えてこちらに近づいてくる。

幸い死人が出る事も無かったようで皆ぞろぞろと集まってくる。

そんななかアズリアは惨憺たる現状に納得できず、更に抵抗しようと動き出していた。



「バカな……っ、そんなもので納得が出来るかっ!?」

「やめて、アズリア! 決着はついたはずでしょう!?」

「いや、そうも言っていられない」

「えっ……アキトさん?」

「後詰が来る、時間が無いぞ」



俺がアティにその言葉を伝えた瞬間、岩山の山頂付近から爆音が鳴り響いた。

チィッ、思ったより早い!?



「……っ!?」

「イヒヒヒヒッ! いくら手前ェが化物じみてようがよォ? さすがに大砲を前にしちゃあ、手も足も出ねェだろうが!?」

「ビジュ、貴様!?」



最後まで粘っていた巨漢が驚愕をこめて言う。

やはり、連携していたわけではないのか。



「姿が見えないと思えば、そういうことだったワケね……」

「ちっ違う……!?」

「ちったァ感謝してくださいよ、隊長殿? 俺様のおかげで、今貴方は逃げる事が出来るんですからねェ、イヒヒヒヒヒッ!」

「隊長、ここは……」

「く……っ! 総員、退却だ!!」



連携していたわけではないのだろうが、アズリアの方でも今は撤退するのが一番いいという判断からだろう。

汐が引くように撤退を開始した。

アティが後を追うように動く、しかし、大砲がそれを許さない。



「アズリア……っ!?」

「手前ェはそっから動くんじゃねェッ!」



 ドォン!! ドォン!! ドォン!!



「くうぅ……っ」

「きゃああぁぁぁぁっ!」

「イヒヒヒヒヒ、これなら別にこのまま制圧でもいいじゃねぇか!!」



顔に刺青を入れたチンピラにしか見えないビジュが、哄笑をあげる。

アティを狙っているのか、砲弾がこちらに向いている。

アティはカンと反射神経でなんとか避けているが、驚きに動きが止まっていたハサハの近くに砲弾が向かっていった。

俺は<纏>を発動して滑り込もうとするが間に合いそうに無い。

せめてなんでもいい、砲弾をそらせれば!

とそんな事を考えた瞬間砲弾は爆音と共に着弾していた。



「くそ!! 間に合わなかったか!」



俺は煙が晴れるのを待たずハサハのいた場所を探す。

しかし、そこにあったのは白銀の……鎧。

ファルゼンがハサハを庇って砲弾を受けていた。



「ファルゼン……」

「ワタシ……ハ……ダイジョウブ……ダ。ヨロイ……ガホンタイデハナイ……コトハシッテイル……ダロウ?」

「ああ……」



ファルゼンの鎧は砲弾を受けてボウリング球ほどの凹みが出来ていたが、それ以外は問題ないようだ。

まずい、旧式の大砲だからと油断していた。

俺の中にあるパワーを上手く使えればなんとかなるのだろうが、今の俺は以前ほど力を引き出せない。

このままでは、やられる……。



「アティ、抜剣しろ!」

「えっ!?」

「今の状況を覆すにはその剣の力が必要だ」

「でも……剣を抜いたらアキトさんが……」



アティは迷っている、いやそれ以外の方法を模索しているのか。

だが、事態は切迫している、このままいけば全滅とはいかないまでも多くの死者が出る事は間違いない。

山の上に陣取る相手に対して有効なのは飛び道具と空を飛べる存在。

とはいえ、大砲をどうにかするには少数の弓や鉄砲、数人の天使程度では足りない。

圧倒的な力でねじ伏せなければ意味が無いのだ。



「アティ、俺の事を心配してくれるのは嬉しいが、このままでは死人が出る。俺が少し我慢する程度でどうにかなるのなら頼む!」

「でも……今回も今までと同じ程度ですむとは限らないんですよ?」

「それでもだ、後悔するにも生き残らなければ出来ないだろう?」

「……アキトさん、ずるいです。私これじゃあほかに選択できないじゃないですか!」

「時間が無いからな、頼む」

「……」



アティはそれでもまだ迷いを捨てられないようだったが、周りの被害を見て表情を改める。

その顔には決意が浮かんでいた。



「イヒヒヒヒヒヒヒッ! 壊れろ! 壊れろッ! いひっ、ひゃはは! うひゃははは……。は……ッ!?」

「……ハァァアアアアッ!!」



俺は視界がゆがむのを感じた、あらゆる力が抜けていく。

それでも、見える、アティが岩山に飛び上がり、次々と大砲を破壊していくのが。

その碧色の光はどこか懐かしいものに見えた。




「ひいぃぃぃ……っ!」

「どうして……」



山頂付近で剣を修めたアティは何か考え込んでいるようだった。

幾分回復してきた俺はその姿に何か焦燥めいたものを感じる。

今までも時々は感じてはいたが、

アティは信念を貫く事が出来なかった、その事が今後悪いように働かなければいいのだが。













涙が止まりませんでした。


くやしくて


かなしくて


つらくて


やりきれなくて……。


気づいたら、涙がぽろぽろこぼれていました。


みんなに心配かけないように声を殺すのが精一杯で。


だけど大丈夫……まだ、私は大丈夫です。


あきらめたくないし、負けるつもりもないから。


だから、見ていてください。


心配なんかしないで笑顔を見せて欲しいんです。


私も、笑いますから……。














私が甲板の上に行くと、アキトさんが星を見上げています。

私が来た事に気付くと

まるで星の王子様みたいに、なにか儚い感じがする微笑で迎えてくれます。



「アティ……」

「大丈夫です。私は……まだ、アズリアに言ってあげたいことは山ほどありますし」

「ああ」



この人は最近少し角が取れてきたというか、地が出てきたみたいです。

前ほど周りに対して構えた感じをうけません。

アキトさんは元々やさしい人なんだなと改めて実感します。



「でもそれより、アキトさんは大丈夫ですか?」

「特に問題はないが、慣れたのかな。回復するのは以前より早くなった気がするな」

「そうなんですか……でも、あんな事言わないでください。私困っちゃいますから」

「?」



アキトさんは何のことか分からないという顔。

普通言わなくても分かると思うのですが。

あの時、私は抜剣する事でアキトさんの命を預かっていたという事です。



「私、人の命が尽きるのを見たくないですし、それに、命を背負うのは軽くないんです」

「……確かにな」

「私もアキトさんもついつい自分を最後にしちゃいますけど、私は生きていたいと思っていますよ?」

「ああ、最近は俺もそう思っているさ」

「ふふっ、じゃあ大丈夫ですね。私、抜剣なんてするつもりはないですから。そうしなくても問題ないくらい強くなりますから」



私が少しおどけつつ、でも本気でそう思っている事をつげます。

だって、アキトさんの命を使って強くなるなんて間違ってます。

だから……。

でも、アキトさんはまたあの儚げな微笑で言います。



「頑張ってくれ」

「あー信じてないですね?」

「そんな事は無いさ……アティの強さにはいつも驚かされている」

「私何かしてましたっけ?」

「ははは、お前のそういうところが強い所だな」

「もーはぐらかさないでください!」



その日、私はずっとおどけていました。


アキトさんはやっと普通に笑ってくれて、私は本当に嬉しかったと感じました。


私はきっと、この強くて脆い人を失いたくないと思い始めていたんだと思います……。





あとがき


一つ目の山を登りきった感じです。

まだまだ先は長いのですが、序盤のアキトがこの世界に馴染むという感じは成功したかな?

へたをするとつい別人になってしまうので、困り者ですが……。

北辰が現れた事でアキトも少しは引き締まるかと思います。

もっとも、北辰の本格的な活躍はまだ少し先の予定。

シナリオ敵にも山場には程遠いですしね(汗)

せめて、ピクニックまでは早く行きたいものです。


そして、今回も竜輝さんのイラストを頂きました!

アティの抜剣シーンです。

後姿なのに格好いい!!

っていうか、竜輝さんの素晴らしい絵を前に自分のSSはこれでいいのか!?

と問いかけたくなります。

まあ頑張るしかないわけですが(滝汗)

今後も週一を続けていくために、努力を欠かすわけには行きませんしね。


今後もがんばってSSを続けていく所存です。

感想をエネルギーとしている私には未曾有のやり方なので辛い事も多いですが、兎に角完結作品を作らねばという考えでもあります。

出来れば、今後もごひいき頂ければ幸いです。





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