前編『筋肉異世界に立つ』


その時、金髪の盗賊少女は思った。


あれは、あれはなんだ?


ロム爺すら霞んで見える、それは……それはあまりにも巨大だった。


分厚く、重く、そして何より……。


筋肉だった。




シルフェニア12周年記念作品

re:ゼロから始める異世界生活二次創作


re:筋肉から始める異世界生活






「なんなんだい……まさか。こんな子がいるなんて」


子猫の姿をした妖精は思った、馬鹿げていると。

そう、目の前の威容は、2m近い身長とバランスが取れた、それでいてありえないほどに発達した筋肉だった。

彼の契約者である銀髪の少女等は腰を抜かしている。


「大丈夫だったか?」

「あっ、ありがとう……」


銀髪の少女は、筋肉に気圧されながらも、どうにか礼を言う。

彼女はこの盗掘蔵に自らやってきて、己の徽章を取り戻すつもりだった。

しかし、買い取りに来た女こそ、腸狩り エルザ・グランヒルテ。

そう、二つ名持ちの暗殺者、もともと暗殺者の名等裏の人間しか知らない。

それが表に出ている時点で馬鹿か、あるいは馬鹿げた殺戮を繰り広げたかである。

彼女は後者、それも超一流、身体能力は超人的であり、更には心臓を壊されても死なないほどに強力な加護がある。

銀髪の少女が全力で魔法を放ち、精霊にもサポートしてもらってすら勝てず、もう少しで腸をぶちまける所であった。

筋肉だけなら、かなりのものだった老人も打ち負けて血溜まりを作っている。

徽章を盗んだ娘も壁に体をしたたか打ち付けて倒れていた。


「な……なぜ……?」


筋肉に刃を突き立てるために、全力で飛び込んできたエルザは、短剣が折れた事を知った。

そう、腸をえぐり出すために腹筋に突き刺そうとした刃がだ。

その短剣はただの短剣ではない、どちらかといえば鉈といったほうが正しいだろう。

刃はそれなりに鋭いが、どちらかと言えば重さで叩き切る武器だ。

しかし、新たな刃を取り出し切ろうと突こうと一向に筋肉を傷つけることはできなかった。

弱点となる関節部や鍛えられない目等も狙ったが、関節部は当たっても効かず、目は流石に防御された。


「まさか、そんなの……」


流石に、まるで効かず、体躯の大きさから後ろにいる銀髪の少女を傷付けることもできないとなれば彼女も疲れが見えてくる。

それに対して筋肉は一言。


「その程度か」

「馬鹿にしてッ!!」


先程より、全力で盗掘蔵の天地を駆けずり回ったエルザはそのスピードを利用し、全力以上の一撃を繰り出した。

しかし……。

筋肉はそれに対し、ただ拳をあわせた。

殴ると言うには緩やかに、しかしその筋肉の脈動からは凄まじいまでの力が感じられた。


「なっ!?」


ピシリッと言う音とともに、エルザの短剣は砕け、暗器としてはなった短剣も筋肉に弾かれる。

だが、全力以上の速度で突っ込んだ彼女は、それでも止まれなかった。

そして、彼女の速度はそのまま筋肉によって己に帰ってくる.

そう、下手をするとプロ野球選手の放つ豪速球よりも早かった彼女は、その速度で拳に自ら衝突し跳ね飛ばされた。

盗掘蔵を突き破り、貧民街を飛び越して町の外まで吹っ飛んでいく彼女は落下が始まる前に気を失った……。


「フゥゥゥゥ……ッ!」


息吹とも言うべき呼吸を持って、筋肉は戦闘の終わりを告げる。

回りはまるで、台風で崩れた掘っ立て小屋のような常態だったが、どうにか少女たちも老人も死んではいないようだ。

銀髪の少女はふぅとため息をつき、そして筋肉へと話しかけた。


「あの、助けてくれてありがとう。

 その……名前聞いていい?」

「ナツキ・スバルだ」

「えーっとナツキ、私の名前はそのエミリアよ。

 その、お礼……させてくれる?」

「……いいのか?」

「こちらが頼んでるの!」


そう、ナツキ・スバルと名乗った筋肉は、その視線で銀髪の少女エミリアを引きつらせた。

しかし、エミリアはどうにか自制すると、声をはりあげて応じる。

それに対し、筋肉は少しだけ鼻をかいて応じた。


「わかった」

「じゃあ、ついてきてね。まず自警団に報告して、彼らも病院につれてかないとだし」


主にロム爺と呼ばれていた老人、そして金髪の少女と自分も含め回復の魔法で怪我をある程度回復すると筋肉を連れ自警団に報告に向かった。

彼女に応じ、無言でついてくる筋肉に、周囲は威圧感を覚え道を開けていく。

エミリアはテキパキと自警団に報告し、筋肉を伴って馬車で自らの住まいへと向かうことになった。


「今の私に出せる報酬はあまりないの、ごめんね。遠くまでつきあってもらって」

「俺は良い」

「そう、ありがと! でもナツキ。すごいね」

「俺の名はスバル……だ」


馬車で揺られながら、二人は話をしていた。

御者はメイド服を着た空のように明るい青髪の少女だったが、少女からも筋肉からも話しかけることはなかった。

時折、筋肉を睨みつけていたが、筋肉の方は微動だにしない。

ただ対面に座るエミリアはそういったことを意識することなく明るく話しかけてくる。

だが、名前の話で表情がこわばった。


「えっ、ああこの国の人じゃないんだ……でも……大丈夫なの?」

「?」

「知らないの? 今この国はこれから王選をするのよ?」

「王選?」

「そこからなんだ……実は……」


そうしてエミリアは王選について語りだす。

ここルグニカ王国は流行り病により王だけでなく、王族全てが死に絶えた。

明らかにおかしい状況だが、しかし、国をそのままにしておくわけにいかないと権力者達は考えた。

この国を守護する竜と対話できるのは王族だけであった。

竜の守護がなくなれば、毎年のような豊作はなくなり、更には周辺国に攻め込まれる可能性が高い。

ならばと、竜と心を通わせることが出来る巫女を見つけ出し王となそうと動き出した。

そして、エミリアもまたその巫女であるのだという。


「だから今、この国はピリピリしてるの、国外からの人間には神経を尖らせてると思う」

「……ありがとう」

「えっ、助けてもらったんだから。お礼をいうのは私だよ♪」


エミリアは筋肉のどこか拙い言い回しに微笑ましくおもったのか笑顔で応じる。

その笑顔は、引きこもりを続けていた筋肉の胸に響き渡る。

もっとも、筋肉は顔も鍛えているため表情にでることはない。

だが、空気というものは伝わるもので、エミリアは気が楽になった。


「俺は……部屋に引きこもって、ひたすら体を鍛えていたんだ」

「え?」


そう、ナツキ・スバルは引きこもりである。

ただ、このナツキ・スバルはタダの引きこもりではない。

最初はファンタジー世界に召喚されたときに動けるようにするために鍛えていたのだが、

だんだんと、それが楽しくなり、アニメを見ながら、食べながら、座る時は空気椅子、眠る時も筋肉を養成するためのギブスをつけていた。

そう、彼は引きこもりながら、ゲームをしながらチャットをしながらラジオを聞きながら、同時に逆立ち腕立て伏せなどをしていた。

そして、筋肉は極まり肉体も大きくなった、そう、ただのオタクではなくなった。

だからこそ、自分の体に自信がついた今外に出る偉業を果たし、学生に復帰することを考え始めた時、この世界に飛ばされた。

この世界に来てわかったのは、もっと筋肉を鍛えることが可能であるということだ。

この世界に来て直ぐ、腹に突き刺さりそうになった剣は、一層締め付けた筋肉の鎧を貫けなかった。

そう、彼の筋肉はこの世界で更に強靱になっていた。


だが、当然そのことをエミリアに話はしない。

頭がおかしいやつと思われるのがせいぜいであろう、だが、外国人であると思われるのも問題だ。

エミリアは許しても、御者をしている青髪の少女はさっきから時折殺気含みの視線を送っている。

当然、エミリアの家となれば、他の家族も自分に酷いことを言うのは目に見えていると筋肉は考えていた。


その後、数日で馬車は山の上の方にある大きな屋敷へとやってきていた。

これこそがエミリアの家であるというなら、相当にお嬢様であろう。

そう思わせるには十分な広さであった。



「いやぁ、キミがナツキ・スバルくんか〜い〜?」

「ああ」


馬車から降り立った筋肉に、ピエロのような化粧をした男がはなしかけてきた。

筋肉は、ピエロをお抱えにしてるなんて変な屋敷だなと思ったが口には出さない。

引きこもりであった彼は、筋肉を鍛えるのに忙しくコミュニケーション能力はあまり磨かなかったのだ。


「それにしてもぉ、すごい筋肉だねぇ〜」

「鍛えている」

「そりゃ、そうしないとそうはならないよねぇ。でも、ただの筋肉にしては強すぎるきもするがねぇ」


ピエロ風の男は、顔を近づけて筋肉に言う、恐らくは疑っているのだろう。

外国人であることは、疑いようもないのだから当然といえる。

だが筋肉はそれをあえて正面から受け止め、しかし無言で返した。


「お〜怖い怖い、恩人の君を疑って申し訳ないねぇ、だけど一応ここの主としてこういうことも必要でねぇ」

「主?」

「そうです。この館の主であり、領主でもあるロズワール・L・メイザース辺境伯様です。

 無礼は許しませんよ」


ピエロの男の後ろに控えていたメイド服でピンク色の髪の女性が筋肉に凄んで見せる。

実際の所、さほど脅威は感じなかったが、筋肉は頷いておいた。

すると、御者をしていたメイドもピエロことロズワールに挨拶をしてからピンク髪のメイドの横に並ぶ。

2人並ぶとそっくりであることが判る、わずかに髪の色と髪型が違うのはわかるが、それだけである。


「まぁ立ち話もなんだぁね、館のほうに料理も用意してるからぁ、そっちで話そうかねぇ」


ロズワールに先導され、筋肉とエミリアは後をついていく。

メイドたちは、常にロズワールの斜め後ろ1m以内にぴったりついていた。

それは執事の仕事だろうと、筋肉は頭の中でツッコミをいれた。


「さぁて、もう一人……」

「にいちゃ!! 会いたかったのよ!」


ロズワールの横を走り抜けてきたのは、金髪ドリルが標準装備のロリっ子だった。

ロリっ子は筋肉の横を通り過ぎ、エミリアの前でとまった。

にいちゃとエミリアが結びつかず、筋肉は視線をエミリアに向けるが、ロリっ子はエミリアの肩に座っていた猫っぽい精霊をひったくって抱きしめた。


「にいちゃ、寂しかったのよ!」

「やあ、元気だったかい? 妹よ」

「にいちゃが帰ってきたから元気になったのよ!」

「現金だなぁ、ベアトリスは♪」


そう、猫型精霊に言われて、ベアトリスと呼ばれたロリっ子は顔を赤くするが、放すことはなく、ネコ型精霊を抱えたまま屋敷に戻っていった。

その後トントン拍子に話は進み、筋肉はこの屋敷の客人となった……。


その後数日、屋敷の人たちとの親交を深める事に腐心した筋肉だったが、やはり壁を感じていた。

ある日青髪のメイド・レムが近くの村に買い出しに行く事を聞いた筋肉は自分も連れて行って欲しいと言った。

レムは顔をしかめたものの、特段に咎めることなく連れて行くことにした。


「ここが村……」


筋肉はさっとレムを手伝い、その後少し時間をもらって村を回ることにした。

村の人間は基本的に明るく、皆元気そうだ、なかなかいい領主らしい。

専制君主の制度がある国の場合、貴族が搾取することも多いためその使いが来たとなれば皆緊張するものだ。

そういったものがないというのはむしろ珍しいのではないだろうか?


「すごーい! おっきいし、ごっついね!」

「のぼれのぼれ! このにいちゃん登りがいがある!」

「もしかして、腕に乗れるんじゃね? 巨人みたいだ!」


わらわらと群がってくる子供のために、体に乗せてあるきまわったりしながら村の観察を続けた筋肉は一つ頷く。

少なくともロズワールの屋敷にいるかぎりエミリアは安全だろうと。

彼は既にエミリアに惚れていたので、実は結構重要なことだったのだ。

本人達からすれば大きなお世話だろうが、筋肉は既にエミリアを守る事を決めていた。


「元気そうじゃねーか、いっちょラジオ体操でもおしえてみっか!」


それまでの無口と打って変わって、筋肉は明るく彼らにせっする。

だんだんと地が出てくるのはだれにでもあることだが、筋肉といえど人間関係までは鎧えないということだろう。

そうして、一通り動き回った後、子供達が集まっていることに気付く。


「どうした?」

「あっ、筋肉のにーちゃん、ほら子犬だぜ」

「へぇ、可愛いな」

「お兄さんも触ってみる?」

「いいのか?」

「うん」


そして、じゃれついてきた犬をなでつけると、がぶりと子犬が噛み付いた。

しかし、剣すら通さなかった筋肉相手に子犬の牙ごときが立つはずもなく、逆に牙がかけてキャンキャン吠えるはめになる。

それを見てその子犬を持っていた少女は顔を歪める、それは子供のする表情ではない。

明らかにそれは、何か目測が外れて苛ついたと言う顔だった。

それは筋肉の印象にも残ることとなる。


「帰りますよ、き……スバルくん」

「今筋肉っていいそうになったろ?」

「いいえ、そんなことありませんよスバルくん」

「まあいいや、俺としては少し仲良くなったと思っていいのかね?」

「それがスバルくんの地なのですか?」

「まーね、ただこれってこの世界じゃ無礼になるから、普段は無口で通してるって寸法さ」

「どっちでもあまり変わらない気がしますが」

「えっ、マジ?」

「マジとはなんですか?」

「本気と書いてマジと読む! 俺の地元の造語ってことになるのかね、鬼がかってるとか」

「問い返さないでください、スバルくんの地元は頭が悪そうということはわかりました。

 でも鬼がかってる、ですか? 神がかってるではなく?」

「まあね、鬼のほうが神より身近って感じがしていいんじゃね?」

「ぷっ」


おどけてみせる筋肉が愉快だったのか、レムは口元に手を当て吹き出した。

実際2m近い巨漢、それも筋肉の塊がみょ〜にオーバーアクションで拗ねるものだから。

彼女は筋肉を少し身近に感じたのかもしれない。





「レムが……呪われた……?」

「そうよバルス、あんたは何か知ってるでしょう!!」


それから半日と立たず、筋肉は寝床から叩き起こされラムに詰め寄られている。

姉のほうが胸が薄いが、そこまで迫られると視線が下に行きそうになるが、筋肉はそれをこらえて見つめ返す。

ラムは本気というか鬼気迫るものがあった、明らかに正常な思考が出来ているように見えない。


「知らない……が、ちょっと見せてくれないか?」

「何故バルスに見せる必要があるの! さあ話しなさい、じゃないとアンタを殺す!」

「……じゃあ聞く、レムの体の何処かに噛み跡はついてないか?」

「噛み跡? どういう意味?」


疑わしいと言う顔でラムが見ている、またロズワールのピエロ顔も筋肉を睨みつけていた。

だからこそ、筋肉は潔白を示す必要があった、そして彼にとっておかしな点は一つきり。


「はっきりしたことは言えないが、昨日村に行った時、俺は子犬に噛まれた。

 筋肉のお陰で怪我はしなかったが、子犬にしては顎の力が妙に強かった」

「何が言いたい?」

「その時、飼い主の子供が妙に悔しそうな顔をしていたから覚えている」

「それが犯人だとでも言うつもり?」

「他に思い当たるやつはいない」

「誤魔化そうとしても無駄よ! アンタが何かしたんでしょう!」


ラムのその顔は角こそないが鬼と言っても過言ではないほどに怒りと猜疑が浮かび上がっていた。

それに対し、弁解の言葉は届かないということを筋肉は理解した。

ならば、筋肉のすることは一つしかない。


「……呪われてるって後どれくらい持つんだ?」

「持って4時間なのよ、日があける頃にはレムは魔力を吸い取られて死ぬのよ」


横にいた金髪ドリルツインテールの幼女が答える。

それに頷くと、筋肉は走り出す。

レムやロズワールは攻撃魔法と思しきものを放ってくるが、筋肉の全速には敵わなかった。

数発あたったはずだが、怪我一つしていない。

そして、まるでダンプカーが飛んでくるような勢いで村に向かって走っていった。

あっという間に村までやってくると、あたりを見回す。

村では火がたかれており、村人があちこち動き回っていた。

筋肉はそのうち一人を捕まえると、話を聞くことにした。


「何があった?」

「アンタは昼の……、実は子供達がいなくなって……」

「子供達が?」

「ああ、村中駆け回って探したが、いない、となると村の外……。

 ロズワール様の屋敷から来たのならアンタ見てないか?」

「いや、見てないが」

「となると、王都に向かう道の方か……ありがとな!」


そう言って駆け出す村人を見たが、なにかおかしいと感じていた。

王都に子どもたちだけで向かうとしても、村人が一人もみていないというのはあまりないだろう。

それに、昼は商人等は来てなかった、つまり移動手段は徒歩しかないということだ。

なら、王都方向に向かったというよりは、森などの遊び場に向かったと見るべきだ。

しかし、確か昼に聞いた限りでは森には結界が張られており、そこには危険な魔獣が棲むという。

流石に普通ならありえないが、一つピンとくることがあった。

それは、魔獣というのは魔力を扱える獣もしくは怪物のことを指すらしい。

昼に、結界が切れていると分からずに、光が無いことを確認していた筋肉は柵を乗り越え、更に進んだ。


「悪い予感がアタリやがったか」


筋肉は子供達の足跡を確認し、それにそって進んでいくことにした。

途中魔獣と思しき犬が向かってくるのを返り討ちにしながら、子供達を見つける。


「お前ら……無事だったか!」


頭を合わせるように6人の子供が寝ている、いや寝ているんじゃないこれは。

子供たちもレムと同じ症状が出ているのだ。

筋肉は急いで6人を担ぎ上げ、来た道を戻る。


「大丈夫だからな……俺がお前達も助けてやるから……」

「ス……スバル……もうひとり……」

「ペトラ? もう一人……そうか、わかった」


村人に子供達を渡し、急いで森に戻る。

だが、筋肉には最悪の考えが思い浮かんでいた。

子供達は皆かまれた跡があった、確か呪いといっていたレムの症状。

子供達も同じだとしたら、噛んだのがもう一人の子が持っていたあの子犬だとしたら……。

あの子供が犯人ということになる。

それだけではない、魔獣次第だが、子供達を呪ったのがあの子犬でなかった場合、子犬をどうにかするだけでは足りない。


「ちっ、とりあえずあの子供だけでも確保しないと」


筋肉に、もう遠慮はなかった。

飛び出してくる魔獣を全力で殴り飛ばし、肉塊に変えていく。

この中のどれかの呪いだとしても、呪う側がいなくなれば助かるかもしれない。

だが一番は、呪わせたあの子供をどうにかすることだ。


「おいついたぞちびっこ」


死んだふりをしていた彼女が何かする前に掴み上げる。

周囲の犬魔獣達が唸り声を上げる。


「へぇ……知ってるんだ」

「推理にもなってねー、お前の持っていた犬が噛んだ相手が呪われてるんだ。

 お前がなんの関係もないってことはねーだろ?」


筋肉は、今回他者の推理に頼っていない、もしも、他に人がいたならこの答えには至らなかったかもしれない。

だが、ほんの少し推理すればわかることなのだ、この村野人間ではない子供、飼い犬が呪いを振りまく、そして森の魔獣。

一本に筋道が通ってしまう。

筋肉が疑われ犯人の推理をしなければならない状況であったことが、犯人を特定させるに至っていた。


「お前みたいな子供がやってるとは思いたくなかったがな」

「そんなのは私の生まれに言ってくれる?」

「……今回はそれは良い、それよりも呪いを解け」

「出来ないわ、だってアレはあの子達の食事だもっぐぇ!!」

「もう一度だけ言う、呪いを解け」

「噛んだ子が死なない限り解けないわ」

「ッ!!」


筋肉は聞いた直後、子供を地面にたたきつけていた。

そして、その辺の蔦を使いぐるぐる巻きにし、更に木にくくりつけた。

その後、子供の顔に顔を近づけ。


「本物の理不尽ってやつを見せてやる」

「え?」


そして、筋肉は子供から離れ、すぅと息を吸い込む。

筋肉はこの世界に来てからもトレーニングはかかさなかった。

普通に歩いているように見せかけて微妙な角度でつま先立ちをしていたり、椅子に座る1mm上で空気椅子をしていたりした。

そして理解したのだ、この世界において筋肉に限界はないと。


「今の俺なら80%まで……オオォォォォォォォオオ!!!


ただでさえ凄まじい筋肉をしているスバル、しかし更に筋肉がきしみを上げ膨らんでいく。

ミシリミシリという聞くに耐えないほどの威圧感を発し、2m手前だったスバルは30cmは大きくなっていた。

そして、筋肉は歪なまでに進化しており筋繊維の脈動すら伝わってくる。


「さあ、いってみようか」


スバルは右腕を後ろに引いた。

そして、凄まじい力を筋肉にこめ、実際に音がなるほど引き絞られる。

そして、右腕は振り抜かれた。

圧倒的な質量と速度を持って……。


「オオォォォぉ!!!」


振り抜かれたその後に、破壊的なエネルギーが爆発する。

ソニックブームというものを知っているだろうか?

音速を超えると、その物体がかき分けた空気が壁のように固くなり回りに被害を出すという。

そう、スバルの腕は音速を超える速度で振り抜かれたのだ。

結果、周囲の木々をなぎ倒し、近くにいた犬の魔物たちを纏めて物言わぬズタ袋に変えた。

数百メートル以上も飛ばされたソニックブームは周辺を整地してしまい、競技場ができるような平地が残っていた。


「え……なっ、何をしたの?」

「腕を振っただけだ、アレは腕で押しのけられた空気が作った衝撃だ」

「うっ、腕を振っただけ? そっ、そんな……」

「さあ、どんどんやってやる」


そう、この理不尽な光景は何度も何度も繰り返され、魔獣がいると言われる森そのものがただの平地になるまで30分もかからなかった。

犬の魔獣たちは森ごと消滅してしまったのだ。


「ばっ化物……」

「木とか少しもったいなかったかもしれないな。さて……帰るか」


青髪の子供を腕でつらくり、筋肉はロズワール邸へと帰っていった。

ほんの、二時間ほど、その間に全てのことを終わらせた筋肉はロズワール邸へと戻った時、レムに抱きつかれた。

筋肉はそれにえらく取り乱し、犯人の子供を取り落とす。

その隙を逃さず、子供は闇の中に消えた。


「あー、犯人取り逃がしちまった」

「ご……ごめんなさい」

「まあいいさ、魔獣は全滅させた。もう大丈夫だろ」

「全……滅……ですか? まさか……」

「いや、村の子供達も呪にかかっていたみたいなんで、どの魔獣がやったのかわからなくてな」

「はっ、はあ……」

「鬼がかってる、だろ?」

「はい!」


レムは輝くような笑顔で答えた。

ラムやロズワールは呆れるやら、申し訳ないやらで近寄って来ない。

エミリアはどこか羨ましそうに見ていた……。









あとがき


おめでとうございます!

12周年記念SS描かせて頂きました。

さて、今年は管理人が私からまぁさんに引き継がれて初めての記念日です。

これから、まぁさんもお引き立ていただけるようお願いしますね。


ともあれ、半年ぶりにSSを書きました。

氏のマッスル☓マッスルが削除されて見ることが出来ない事のうっぷんがたまって書きました。

もっとも、はっちゃけ度が足りないなーと思う次第ですが。

12月中にもう一話、アニメの終わりまで書こうかなと思ってますw

よろしくお願いしますね♪



押していただけると嬉しいです♪

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