兄弟の実像と鏡像

ミラーワールドから帰還した竜弥は自宅のベッドで横になっていた。

「………」

暫しの間、考え事でもしているかのように黙っていたが、唐突に身体を起こして近くにあった大きな鏡に我が身を映した。

「…兄さん…」

鏡には一見竜弥を映しているようにしか見えない。
だが、近くじっと見ていれば気づくだろう、”鏡像の竜弥と実像の竜弥の面構えが一致していない”ことに…。
顔が瓜二つなので分かりづらいが、鏡像の竜弥は目つきが鋭く、実像の竜弥は穏やかな表情をしている。

『…竜弥…』

鏡像の竜弥は実像が喋っているわけでもないのに喋った。
実像と鏡像は互いに強く信頼し合っているかのような視線を互いに交差させている。

「大丈夫、心強い味方は何人もいる。…きっと…」
『俺達がどんな結末を迎えようとも…』
『「必ずこの戦いを止める」』

この時、実像と鏡像を生きる兄弟の誓いしものは…。



***

翌日、ミラーワールド。

『フウゥゥゥゥ!』

この日のミラーワールドにはシアゴーストという大量発生するヤゴ型モンスターがうようよしていた。

「今日は随分と餌が転がっている」

群がるシアゴーストをダークウイングをマントとして合体させたウイングウォールによって上空から見るナイト。

「……俺一人でこと足りそうだな」

と呟くと、ナイトは一気に地上まで降りてシアゴースト達に”翼召剣(よくしょうけん)・ダークバイザー”を突き付ける。

――ザシュン!ザシュッ!ザンッ!――

ダークバイザーの刃で次々と動きの鈍いシアゴーストを倒していく。
しかし、数が数なだけに倒しても倒してもきりがない。

「一気に崩す」

ベルトのバックルとなっているカードデッキからアドベントカードを引いた。

≪TRICK VENT≫

ダークバイザーの柄の中にベントインすると、実体を伴った分身を生み出す”シャドーイリュージョン”が行われる。
本体を含めて五人に分身したナイトは全員同じカードをベントインした。

≪SOWRD VENT≫

それによってダークウイングの尻尾を模した槍型の大型剣こと”ウイングランサー”が召喚される。

「「「「「ハッ!」」」」」

五人のナイトは同時に地を蹴り、シアゴーストの大群を切り捨てていく。
そして、敵の数も大分減った頃、ナイトはトリックベントの効力を消して元の一人に戻る。

「最後だな」

≪FINAL VENT≫

ベントインとほぼ同時にシアゴーストに向かって走り出すナイトの背にダークウイングがマントとなって取りつく。

「フッッ!」

勢いよくジャンプしたナイトは手にしているウイングランサーを真下のシアゴースト達に向けると、ダークウイングはナイトのウイングランサーを軸にその黒い翼で包み込み、ナイトはその状態で回転をしながら自らを巨大なドリルのようにして突っ込んでいく。

――ズガアァァァァァァン!!――

ナイトのファイナルベント技・”飛翔斬”が決まり盛大な爆発が起きると、ナイトは何事もなかったかのように爆炎の中から出てきた。
上空ではシアゴースト達の魂ともいえるエネルギー球が主を失って彷徨っていたところをダークウイングに捕食される。

「ふ〜…」

辺り一面の敵を倒したことでナイトは一息ついた。

『ブォォォ…!』
『クゥゥゥ…!』
『ギィィィ…!』

突然聞こえてきたのは不気味な唸り声。
周りを見渡すと見えてくるのはモンスターばかり。

「おいおい、なんだこれは?今までは一度にここまでは…」

仮面ライダーになってから様々な敵と対峙してきたナイトだが、これほどの数のモンスターが出現することはなかった。

「分が悪い。いったん引くか」

先程の戦闘で決め手となるカードを殆ど使っていたナイトは一度現実空間に戻るべく、鏡へとダイブした。



***

「一体、何が起こってるんだ?…ライダーバトルと関係があるのか…?」

変身を解いて考える青風。
そこに、

「お前がナイト…残り三人の一人」

廻だった。

「お前が砕谷か。竜弥からいろいろまた聞きさせてもらった」
「俺達のことを知ってる…というか竜弥とは敵対している訳ではないようだな。むしろ、親しいと思った方が正しいか」

廻はミラーライダーがいつ自分を殺すかもわからない他のミラーライダーに情報を与えるとしたら、協力関係にあるとよんだ。

「聡いな、お前」
「そりゃ、どうも」

一応褒められたので、廻はそれなりの対応をした。

「それにしても気になることがある」
「……何だ?」
「龍焔のセパレートベントによる”龍騎とリュウガへの分離能力”ありゃ並のライダーじゃできない芸当だ。…あいつ、なにかあるんじゃないか?」

その問いに青風は顔を渋らせた。

「あいつは…いや、あいつらは……」
「…あいつら?」



***

その頃、流姫達三人はと言うと。

「ったくなんなのよ!?この大量の青トンボは!」
「現実空間にここまで出てくるなんて、ホントに世界の崩落が始まってきてるよ」
「こんなに凄いんですか!?世界の崩壊言って!」

今三人は街中で大量出没しているトンボ型モンスターこと”レイドラグーン”を対峙すべく赴いていた。

「…廻さんが居ない今この場を何とかできるのは私達だけですね」
「兎にも角にも」
「やるしかないわ!」

三人は変身ツールやポーズのプロセスを行った。

「「「変身ッ!!」」」

≪KAMEN RIDE…DI‐GUIDE≫

三人はディガイド・SHADOW・G4へと変身を完了させる。

≪ATTACK RIDE…EXTRA SLASH≫

「シャインブレイズ!」
「良し!」

ディガイドは技を駆使して敵を倒し、SHADOWはシャインブレイズ、G4もGM-01改4式等各々の武器で戦った。



***

そして、ここはミラーワールド。

「オーディン!出て来い!」

ここに龍焔が必死になって叫び散らしていた。

「騒々しい奴だな」
「!!?」

叫びを聞きつけてきたのか、龍焔の背後にオーディンが姿を現す。
龍焔は慌てて後ろを向き、距離を取る。

「まだ私と戦うにはお前かナイトのどちらかが殺し合わなくてはならない。今のお前に私と闘う権利はない」
「ふざけるな!!貴様のせいでどれほどの人たちが…!」
「フンッ!死んでいったライダー達は自業自得だ。死ぬかも知れぬ道を自分から歩んだのだから。……それとも、”あの一件”のことか?」

それを聞いた瞬間に龍焔のなかで何かがブチ切れた。

「オォォォディイイイイインッ!!」

怒りの感情をむき出しにして突っ込んでいく。
オーディンは冷静に錫杖型召喚機こと”ゴルトバイザー”を手中に転送すると、デッキからカードを引いてベントインする。

≪ADVENT≫

それによってオーディンの不死鳥型契約モンスター”ゴルトフェニックス”がその姿を現し、龍焔の突進を跳ね除けた。続けてオーディンはベントイン。

≪SWORD VENT≫

今度は”ゴルトセイバー”を両手中に召喚する。
龍焔はそれに対抗する為にカードをベントインする。

≪FINAL VENT≫

「ダアァァァァァァァァ!!」
『ガァァァァァ!』

構えを取り、龍焔は高く跳躍すると、空中回転を行ってドラグフレイムの超高熱火炎とエネルギーと共に龍焔は強力な攻撃を浴びせようとする。

≪GUARD VENT≫

だが、オーディンも”ゴルトシールド”を召喚して構える。

――ズバアァァァァァン!!――

大きな爆発音が響き渡った。

「ハア、ハア、ハアァ…!」

疲れが出ているのか、龍焔は肩で息をしている。

「確かにお前は強い。しかし、私と戦うにはまだ早い」
「何!?」

龍焔最大の必殺技たる”フレイムライダーキック”を受けたと言うのに、オーディンは立っていた。
どうやら、咄嗟に盾をもう一つ召喚して耐え抜いたようである。

「クソッ……!」

ファイナルベントまで使ってしまった今、オーディンを仕留められるほどの切札(カード)は残っていない。

「余りに計算外な連中がやってきて、色々と私にとって邪魔ものが増えてきた。よって…修正を必要とする」

オーディンはそう言ってデッキから”TIME VENT”と記されたアドベントカードを取り出す。
タイムベント…それは時を逆行させ、オーディンのみが所有する特殊中の特殊カード。

オーディンはゆっくりとそれとベントインしようとする。

「人様の使命の邪魔すんなよ」
「「!!?」」

――ブォォォン!ブオォォォオオオオオンッ!――

ミラーワールド中に木霊するバイクエンジン音。

「く、砕谷!」
「…ディロード…」
「ずいぶんと派手にやってるな、竜弥……いや、竜麻(りゅうま)

その瞬間、龍騎のそれと同じように穏やかだった龍焔の眼はリュウガの如く鋭いものに変化した。

「貴様、何故それを?」
「(出てきたか)…そんなことはどうでも良い。竜麻、お前はかつてリュウガであり、竜弥は龍騎だった。……でもある日、お前は人間を庇って―――」
「黙れ!!」

龍焔は怒号の声を張り上げる。

「ディロードよ、貴様も知っての通りにリュウガは死した後も鏡像となって生き延び、実像たる弟の身体を借りてともに戦っている。…愚かだと思わないか?そこまでして生へとかじりつく姿を」
「俺はこいつらが愚かとは思わない」
「ほう…」
「こいつらは、例え自分たちがどれほど落ちぶれたとしても、何としてでも人々を守りたいと願って戦ってきた」
「それこそ愚の骨頂ではないか。人々を守ると言うことは見方によればライダーまで守ると言うことになる」

オーディンはあくまで竜弥と竜麻が愚者だと主張するが、ディロードは…。

「だとしても、戦いを止めたがっていた。それはライダー達にも死んでほしくなかったからだ」
「下らん。ライダーは殺し合う運命(さだめ)だ!」
「ホントに頭の固い奴だ。竜弥!竜麻!…お前たちはどうしたい?」

聞かれると、龍焔…いや、竜弥と竜麻は立ち上がる。

『「俺達は…人間を、守る!」』
「ディロード、貴様は何者だ!?」
「最強最悪の仮面ライダーだ。くたばっても覚えてろ」

その断言が口から発せられた時、ライドセイバーから幾枚ものブランクカードが飛び出し、失われた色と力を取り戻す。

「ほざけ!」

オーディンはまだ尚、ディロードの言い分が理解できないらしい。
だがその時であった、

「………!!」

オーディンは粒子化に気づいた。
いや、ライダー達が粒子化しているわけではない。ミラーワールドにあった建物が粒子化を始めているのだ。

「何だと?…どういうことだ!?」

流石のオーディンもこの事態に冷静な態度を崩さざるを得なかった。

「悪夢だ…!悪夢だぁ!」
「悪夢…?」

ディロードはその言葉でかつての記憶が一瞬思い出されていた。

消えゆく世界。
消えゆく人々。
失われし、平和な日々。
代償に得た力。

ディロード……砕谷 廻にとって最も忌まわしき記憶であった。

「…お前も同じか…」

ミラーワールドの消滅危機にうろたえているオーディンを同族を見るような眼で見るディロード。
そして、新たに得たカードを装填する。

≪FINAL FORMRIDE…RYU・RYU・RYU・RYUEN≫

すると、龍焔の両肩に”フレイムシールド”、右腕にはフレイムセイバー、左腕にはフレイムクローが装備された。

「堪えろよ」
「へ?……オォォ!!?」

ディロードは龍焔を軽く押すように触れると、龍焔の身体は瞬く間に変形していき、FFR(ファイナルフォームライド)形態こと”リュウエンドラグフレイムと化した。

「悪夢は…もう直ぐ終わる」
「ふざけるな…!」

ディロードの言葉にオーディンは憤慨する。

≪FINAL ATTACKRIDE…RYU・RYU・RYU・RYUEN≫

ディロードライバーから電子ボイスが鳴り響き、リュウエンドラグフレイムはオーディンを跳ね飛ばしてディロードの間近にまで来る。

「トオッ!」

ディロードは天高く飛び上り、空中回転を決めるとそのまま跳び蹴りの姿勢となる。

「ゼアァァァァァァァ!!」

FAR(ファイナルアタックライド)こと”ディロードファイア”が炸裂する。

「この力は…」

と必殺技をモロに食らった為にアーマーどころか肉体まで粒子化を始めているオーディン。
だが、その目に恨みや憎しみと言ったものはなかった。

「ディロード……やはり、貴様が救済者…であったか」
「……さぁな」

答えをはぐらかすディロード。
オーディンの粒子化は更に進んでいき、消えるわずか前に…。

――これで…やっと、救われる…――



***

「もう行くのか?」
「結構短かったな」

竜弥と青風は廻を見送りに来ていた。

「まあな、それが俺達に課せられた使命だ」
『また会おうぜ』

と、横にリュウガに変身している竜麻が現れた。
どうやら変身していれば一定時間は現実空間にも出てこれるらしい。

「あばよ」



***

家の中。

「で、今度はどんな写真?」

廻が黙って見せた写真には”鏡に映り合う龍騎とリュウガ、その上部には龍焔”といった写真だった。

「さて、更なる新天地へと足を運ぶか」

その時、次元の壁が四人を新たなる世界へと導いていた。



次回、仮面ライダーディロード

「今回の平和的だな」
「恋人?」
「貴方が…!」
「俺はそんなもの知らない」

”時の守護者”

全てを救い、全てを砕け!

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