V&Eの伝説/聖【ゆうしゃ】


ワクチン王と合流したゼロ達。
それに対して不気味に構えるバグ・ドーパント。
果たして、この冒険に待ち構える結末は?





バグ・ウイルス城
その近辺の崖。

――スッ・・・――

そこに突然、空間が裂けたことでスキマができた。
内部から不気味な光景の見えるその中から、四人パーティが出てくる。

黒井悠二
八雲紫
ワクチン王
無限ゼロ。

彼ら四人はワクチン王国から紫の”境界を操る程度の能力”で創られたスキマを通って一気にここまでやって来たのだ。

「なんか、裏技っていうのかな?ありがたみが・・・・・・」
「何言ってるの?延々と冒険ストーリー書いてたら、作者が疲弊するわよ」
「いや、そういうリアルな話やめろ」

「よし、紫さんのお陰で一気にワクチン城まで来れた。あとは城に潜入し、玉座に居座るバグを倒せば、全てが終わる!」

悠二と紫の漫才を無視して、ワクチン王がカッコ良さ気にする。

「でもどうするの?潜入しようにも、城の周囲には屈強そうな黒甲冑で埋め尽くされてるけど」

紫は城の周りで陣形を組みながら見回るウイルス兵達を見ている。

「ここはバグ・ドーパントのお膝元。奴から誕生した最新のウイルスで固められている。ここは戦略を立てていくのが上策だろう」
「そんなまどろっこしい作戦は要らん。要は城に入ってバグを潰せば良いのだろう?ならば強行突破だ」

リインフォースの考えを一蹴し、ズカズカと前に進むゼロ。

「待ってください。そんな一発勝負みたいな方法で如何にかなるわけ有りません。一気に全滅するのがオチです。貴方みたいな人が最終ステージにいくと調子に乗ってアイテムを使いまくって、肝心のラスボス戦で苦労する羽目になるんですよ」
「喧しい。そう言う貴様はアイテム温存し過ぎたせいでステージに配置されているレアアイテムを取り損ねてしまう残念なオチになるんだよ」

不毛な言い争い、リ・スタート。

「リインフォースさん。あいつら大丈夫か?全然相性良くないだけど」
「・・・ケーキとラーメンが美味しいからと言って、それらをミックスすればかえって不味い料理が完成してしまう。・・・私のシステムは、とんだ計算ミスをしたらしい」
「なにそれ!?あんたそんな頭の悪い思考してたわけ!!」

悠二は涼しい顔をしたリインフォースに突っ込む。

「引っ込め、ここは私の出番だ」
「言ったはずですよ。主殿の体内の守護は私のお役目だと」

全然互いに一歩も譲らない二人。

【HENSHIN】

それを見た紫はコーカサスに変身した。

「あんた達に任せてたら時間が意味もなく過ぎていくわ。私が囮になるから、その間に城に向って」

そういってコーカサスは崖から飛び降りた。
そして、

【HYPER CLOCKUP】

猛者ウイルス軍団と戦闘を始めた。

「オイィィ!紫が一番男前なんだけど!あいつ一番の勇者だよ!どこかの誰かより、ずっとカッコいいんですけど!!」

勇ましく囮役を買って出たコーカサスに悠二が大絶賛する。

「よし、ではお言葉に甘えて」

ゼロは当然のように崖から飛び降りて見事着地する。
ワクチン王も続けて飛び降り――――――。



――ズガァァァァン!!――


ゼロがとっさに避け、地面に頭から突っ込んだ。

「あの、受け止めてくれません?」
「断る。少なくとも貴様だけは」
「どこまでドSなんですか?」
「貴様が私に屈服するまで」

「・・・おい、どんどん雰囲気が、怪しい・・・」

悠二は崖の上からこの光景をみて顔を青くする。

【VAKZIN】

ワクチン王は腰に差していた鞘から一本の装飾剣(ワクチンサーベル)を抜刀し、”ワクチン・プログラムの記憶”を収めたワクチンメモリを柄にインサート。

【VAKZIN・MAXIMUM DRIVE】

――ス・・・ッ――

ゼロもドラゴンシンフォニーを抜刀して構える。

「ワクチンプレリュード!!」
「ディスペイアノクターン!!」



ワクチンプレリュード
光属性。ワクチン王専用の攻撃技。ワクチンメモリのパワーデータをワクチンサーベルに送り込み、黄金のエネルギー波を撃ち出す。闇属性と混ぜると危険。

ディスペイアノクターン
闇属性。ワクチングプレリュードと双璧を成す攻撃技。ドラゴンシンフォニーから紫色の暗黒パワーを放出する。光属性と混ぜると危険である。



――ズガアアァァァァン!!――

二つの技はすれ違い、周囲のウイルス達を吹っ飛ばす。

「ワクチンレクイエム!!」
「ブラックエレジー!!」



ワクチンレクイエム
光属性。ワクチン王専用の攻撃技。発動原理はワクチンプレリュードと同じで、緑色のエネルギー波を放つ。闇属性と混ぜると危険。

ブラックエレジー
闇属性。破壊力に特化した攻撃技。発動原理はディスペイアノクターンと同じだが、エネルギーの色は血錆色。光属性と混ぜると危険。



結果。

「ギャァァァァァアアア!!!!なにやってんだあいつら!?全く周囲のこと考えてねーよ!!つーか、技名も音楽に因んでカッコつけてるだけじゃねーか!!」
「しかし、この大技の流れ弾に巻き込まれたことで、多くのウイルス達が消去(デリート)されている。やはり私の考えに間違いは・・・・・・」

逃げ回る悠二とリインフォース。
でも、



「ワクチンホーリーライト!!」
「イーヴィルカオスダーク!!」



――ズバババババババ・・・・・・ッ!!――

「あ、あれは、二人の技が正面衝突して・・・!」

悠二はゼロとワクチン王が繰り広げる戦いに眼を離すことができなかった。
そして、とうとう最期には・・・。



――ズドオオォォォォォォォォォォン!!!!――



ビッグバン
闇属性と光属性を混合させた結果、属性反発作用が生じて起こる大爆発。
その破壊力は混合させた攻撃技によって変化する。今回は光属性と闇属性の中で最大級の攻撃技を混合させた為、必然的に破壊力も常軌を逸したモノになる。





*****

一方、外界では。

「ゴフ・・・ッ!」
「ママ!!しっかりして!!」
「気を確かにもって!!」

リインフォースが吐血したことでヴィヴィオと御霊が大騒ぎしていた。





*****

ワクチン城内部。
ビッグバンによって見張りウイルスは壊滅し、パーティーは全員ダンジョンに入った。

「・・・・・・どこが最強の二人だよ?こいつら完全に、混ぜるな危険じゃねーか」
「ハイパークロックアップしてなかったら私も危なかったわ」

悠二と紫が白目で見る先には、全くの無傷でいがみ合うゼロとワクチン王。

「だがこれで多くのウイルスを駆除し、皆無事に城内に来れたのだから、結果オーライだな」
「顔を真っ青にして口から血が思い切り出てる人に言われたくないんだけど!!」
「心配要りません。・・・最近のゲームのラスボスは・・・」

――全力でこい!ジワジワと弄り殺してくれるわ・・・!――

「などと言って、HPとMPを回復してくれるケースがある。それに賭けましょう」
「なんでラスボスに依存してるんだよ!!」

喧嘩の最中に口出ししたワクチン王に悠二がツッコム。

「言っとくけど、これはゲームっぽいけど現実だぞ。負けたらコンティニューできるわけでもない、本当に死んじまうかもしれないんだぞ!」

悠二は真剣な表情で説明した。
すると喧嘩に無理やり区切りをつけたワクチン王がこう断言する。

「・・・・・・もう良いです。貴方方は帰ってください。後は私一人で、バグを打ち倒します」
「ちょ、なに言ってるんだよ!?」
「自分で何を言ってるのかが理解できて?」

ワクチン王のぶっ飛んだ発言に悠二と紫は勿論反対する。

「これで三回目ですが、主殿を守護するのは私に与えられた唯一無二のお役目。ここまで付き合って貰っておいて難ですが、それを貴方達に・・・・・・主殿の家族とご友人に、危ない橋を渡らせたくないのです。わかってください、これが私の運命(さだめ)なのです」

そういうと、ワクチン王は静かに歩んでいく。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

――ガブッ!!――

「ギアァァァァ!!」
「「「「ッ!!?」」」」

ワクチン王の悲鳴を聞き、急いで駆けつけると、
そこには宝箱に化けたモンスター・ミミックに噛み付かれたワクチン王がいた。

「主殿以外に興味あったぁぁ!?」

悠二が大声でツッコム。

「なに安いブービートラップに引っ掛かってるのよ?」
「こ、これで、お分かりになったでしょう?主殿を守る為に命を投げ打つのは、この私だけで十分だと・・・・・・」
「そりゃこんなのに一々引っ掛かってたら命幾つあっても足りないだろうな」

悠二は冷めた表情で述べた。

「わかったのなら早く帰りなさい!!」
「だったら俺の手を放せ。助けて欲しいんならそう言えよ」

そしてこの漫才を漂々としてみる者が二人。

「・・・全然私らしくないな」
「そうか?何かを成し遂げ様とする芯の通ったところは、良く似てると思うが」

一見するとかなり情けないことになっているワクチン王に、ゼロとリインフォースが語り合う。

「彼は普通のワクチン・プログラムであった頃から、まるで自我があるかのように突出した行動をとり、率先して私を守ってきた。それ故に使命に対する信念は並々ならぬものがある」

リインフォースは遠い眼をして語りだす。
しかし、

「ッ・・・・・・相棒」
「ゼロ・・・・・・私のことは気にするな」

リインフォースの身体が透けてきたのだ。
恐らく分身を形成していたシステムも汚染されているのだろう。

「・・・もう、私のことは、後回しで・・・構わない。せめて、彼だけでも、ここから自由に・・・してやって欲しい・・・」
「断る」

ゼロはキッパリといった。

「あのバカが私の精巧なコピーなら、そんなことは望まない。絶対にやり遂げると決めたことを投げ出して逃げるほど、奴は落ちぶれてはいない」
「・・・・・・わかった。・・・もう私に残された、時間は少ない。・・・イーヴィルへの変身は貴方の判断に任せる」

すると、どこからかダークネスメモリが現れ、ゼロの手中に収まった。

「ゼロ・・・ドラゴンシンフォニーには、隠された力がある」
「隠された力?」
「・・・それを用いて、この城のどこかにある・・・もう一つの・・・力を・・・手に入れろ」

リインフォースは身体も言葉もどんどんあやふやになっていく。

「・・・・・・私は、貴方を、信じている・・・・・・」

そう言い残し、リインフォースは魔力の粒子となってゼロの右半身に吸収されていった。

「信じている・・・か」

ゼロはドラゴンシンフォニーを眺めると、鍔につけられたマウスピースに口をつけ、柄にあるバルブに指を置いて一つのメロディを奏で始める。

イメージとしては”時の歌”。


♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜


「あれ・・・このメロディは?」
「ゼロかしら?」
(ッ!・・・こ、この笛の音は、まさか・・・)

漸くワクチン王を助け出した矢先に聞こえた一つの旋律。

すると、


――ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!――


わざとらしい擬音が響き、奥の方向にある行き止まりと見えた壁が消失したのだ。
その中には、黄金と白銀の装飾が施された宝箱が置いてあった。

それを見たワクチン王は驚いた。

「これがあれば、勝てるぞ・・・!」





*****

玉座の間。
そこでは指揮官ウイルスと、屈強極まる黒甲冑集団がいた。

「良いな?貴様らはバグ様の作り上げた精鋭だ!侵入したワクチン王パーティーを発見次第、直ちに始末するのだ!!では・・・行けェェ!!」

指揮官がそう言った瞬間、精鋭ウイルス達は消去された。

「へ・・・?えぇぇぇぇ!?行けってそっちの逝けじゃないぞ!!なにやってんだお前ら!?」

指揮官は予想し得ない状況に混乱しまくる。
そこへさらに白と黒の光線が真正面から降り注ぎ、指揮官さえも消去された。

勿論、それを放ったのは・・・。

「なあ、ラスボスっていうのは、レベル99の勇者に出くわしたら、どんな気持ちになるんだ?自分もコツコツレベル上げようとするのか?」
「ならば、この辺にある暗闇洞窟なんかどうでしょう?メタル系ウイルスの巣窟ですよ」

言うまでも無いが書いておく。

「だがもう手遅れだ。なにしろ、レベル99が二人=レベル198の勇者がいるんだからな」

仮面ライダーイーヴィル・ダークネスバニティー。

そしてもう一人、ワクチン王が宝箱に入っていたギジドライバーによって変身した擬似ライダー・ワクチンライダー。

「いや、二乗すればレベル9801です」
「だったら尚更、絶対無敵って訳だ」

ドラゴンシンフォニーとワクチンサーベルを構え、二人はバグ・ドーパントを見据える。

「悠二、私達も」
「あぁ。ファイバー・・・変身!」

【SKULL】
【HENSHIN】

「さあ、お前の罪を数えろ!!」
「さあ、逝きましょう?」

悠二と紫もスカルとコーカサスに変身。

「行くぞ!!」
「おう!!」

イーヴィルの轟々とした声にワクチンライダーは返事をし、真っ直ぐにバグへと突っ込んでいこうとする。

『フン、貴様らは何もわかっていない』
「なに?どういうことだ?」

今迄一言も喋っていなかったバグが口を開いた。

『たった今、この女の全てのシステムを掌握した。これがどういう意味なのかがわかるか?ワクチン王よ』

するとバグの身体はバチバチという音を立てながら変異していく。

「ば、バカな!?」
「その姿は・・・!」




リインフォース




「くどいぞバグ!主殿の御姿で私の戦意を削ごうなど、愚策中の愚策!!」

ワクチンライダーはワクチンサーベル片手にバグに斬りかかろうとする。
しかし・・・!

「うっっ!」

ワクチンライダーの動きが著しく鈍くなったのだ。

「言っておくがこの姿が幻影などではない。先ほど言った通り、この身体(せかい)の全てを掌握したのだよ。今我等バグを倒すということは、この身体(せかい)を滅ぼすに等しい。それを防ぐ為に存在する貴様にそれができるわけがない」

(クッ・・・奴のシグナルが完全に主殿のそれに変化したことで、俺の身体はバグを主殿と認識し、攻撃することに対して拒絶反応(リジェクション)を起こしているのか・・・!?)

ワクチンライダーは現状を冷静に見極める。
そしてバグは邪悪に笑う。

「貴様らにこの女を殺せるか?フフフフフ・・・ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
「イーヴィルキック!!」
「ぎじゅばッッ!!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

高笑いするバグの顔面に、イーヴィルはキックを叩き込んだ。
それを見たワクチンライダー・スカル・コーカサスは絶句した。

「ちょ、ちょっと待てってフギャ!!」

バグの言葉など丸で聞かずにイーヴィルはバグをゲシゲシを蹴る。

「喧しい。その美しい顔と声でラスボスの台詞吐くな」
「コイツどんだけだよ!?そんな理由で跳び蹴りしたわけ!?」
「大体こういう役割のキャラの話は中途半端に長いから嫌「何してるですか貴方はァァァ!!」

そこへワクチンライダーがイーヴィルにキックをくらわす。
さらにそこへワクチンライダーがイーヴィルの身体を上下にガクガクと揺らしていることでドラゴンシンフォニーの刃先がバグの身体を引っ掻いている。しかも微妙にエグイ角度で。

「今バグ・ドーパントを傷つけることは主殿を傷つけるのと同じ。もっと慎重に動いてください!!」
「いやお前も関節的にメチャクチャ攻撃してるけど!奴さんボロボロだけど!!」

スカルも思わずツッコム。

「なにするか貴様!邪魔するな、引っ込め」
「引っ込むのは貴方の方ですよ」
「オイィィ!ラスボス目前になにやってんだお前ら!」

とうとう取っ組みあいになる二人。

「おのれ、この身体が滅んでも構わんというのか?なんと薄情な奴等だ。それでも貴様ら勇者か!?」
「ボスキャラにいわれたくねーよ!」

ティッシュで鼻血を拭くバグにスカルがツッコム。

「・・・貴様らが薄情なのはよくわかった。だがこれはどうかな?ワクチン王、貴様は兄の顔を覚えているか?」
「・・・なに?」

ワクチンライダーの声に焦りがでた。

「そう、貴様の兄・先王オルトラは、我々との戦いに敗れ、非業の最期を遂げたのだったな。だがもしオルトラが死んでなかったら?未だにオレの中で苦しみ、生き永らえているとしたらどうする?」

「まさか・・・まさか貴様!?」
「そう、そのまさかだ」

バグはリインフォースの姿から、白髪の男性へと姿を変える。

「我がおと―――――」

【SKULL・MAXIMUM DRIVE】
【MAXIMUM RIDER POWER】
【DARKNESS・MAXIMUM DRIVE】

「「「オラァァァァァ!!!!」」」」
「ぶばぁぁぁぁああ!!!」
「兄上ェェ!!」

イーヴィル・スカル・コーカサスの同時攻撃が炸裂した。

「待てー!!兄上まだちゃんと顔みせてないよ!喋りかけだったよ!というか何で今度はトリプルキック!?」

「いきなりパッと出て身内設定とか出されても全然感情移入できないわ」
「さっきのより遥かに殺りやすいんで、今のうちに倒そうかと思ってな」

そう返答してスカルとコーカサスはまたゲシゲシと蹴り始める。

「兄弟の悲劇的な対面を、なんだと思ってんだ貴様ら!!」
「今時身内がボスキャラなんて古いわ。設定練り直して来い」

そうしている内に玉座は倒れ、バグも思い切り転倒してしまった。

「イタタってしまった!背中のコンセントが抜けて、システムとのリンクが遮断されてしまった!」
「コンセント!?そんな適当なもんでシステム支配してたのか!?」

余りに簡単なシステム掌握方法にあきれ果てる。

「しめた!今なら主殿を傷つけることなくバグを倒せる!チャンスは今しかない!」

皆は一気に畳みかけようとするが、

「舐めるな小童ども!!」

バグは激しい嵐とでも思わせるようなエネルギーを放出して皆を吹っ飛ばす。

「既にオレはコンピューター専門のドーパントではない。異世界の高度な技術と情報を吸収したことで、人智を超えた存在。そう・・・!」

バグの姿は急激に変化を遂げていき、元の超人形態以上に禍々しい姿となり、漆黒の翼を広げる。

『神ッ!!』

今ここに、コンピューター上において最凶の存在が誕生した。

『彼の”電人HAL”さえも超越した”大電神バグ”になりつつあるのだ』
「神?カビの間違いだろ?貴様のようなゲスは腐ったパンのイースト菌と乳繰り合ってるほうがお似合いだな」
「リインフォースさんから出て行け!」
【これ以上レディを汚す奴は許さないわよ!!】

「行くぞ貴様ら!!」
「おぉ!!」
【おおおおおーー!!】

あれ、なんか違和感?

【あら、なんだか身体が上手く動かないわね?・・・アレ?これってまさか・・・・・・】
「八雲ォォーーー!!!??」
「なんでだ!?どうして紫がドット絵にィィィ!!?」

ドット化してしまったコーカサス。

『言ったはずだ。既にオレは大電神だと!!』

バグは掌底から邪悪な波動を発射した。
スカルは帽子を落としながらも交わし、イーヴィルは余裕でかわした。

「おい黒井、大丈夫か?」
「あぁ、なんとか大じょ・・・・・・」

ハッキリ言おう。
スカルはロストドライバーから下の部分が全部ドットになっていた。

「あ、あ・・・足短ッ!!」
「良かった無事だ」
「帽子違う!!本体こっち!!」

どこぞのツッコミ名人と同じ扱いされて憤慨するスカル。

「足が!どうすんだよコレ!こんなになるんなら全身やられてたほうがマシだった!!」
「ん?なにか変わったかマグナムタンク」
「なんだよマグナムタンクって!?」

【・・・ゼ・・・ゼロ・・・身体が石のように・・・・・・動かない】
「八雲!」
「おいおいなんだこれ?ドットが侵食してきてる!身体がどんどん重くなってるぞ!」
「黒井・・・!」

状況はどんどん悪くなる。

【た、助けて・・・ゼロ・・・】
「八雲、しっかりしろ!」
「ゼロなんとかしてくれ!!」
「スカタンク!!」
「なにスカタンクって!?」

『バカめ、隙だらけだ!!』

バグはドットビームをイーヴィルに放った。

――ドガアァーーーン!!――

爆発と爆煙。
それが晴れると、

「なにをしているのですか?」
「ワクチン王・・・!」

ワクチンライダーがイーヴィルを守ったのだ。

「あいつらは?」
「もう全身がドット化してます」

そう言ってる間にも、バグはドットビームを放ってくる。

「行きますよ」
「八雲ッ!スカタンク!」

仲間の名を叫びながらも、イーヴィルはやむを得ず長い回廊に逆戻りする。

「どうやら奴が本来以上の力を得たというのは本当のようですね。私達(データ)なら兎も角、生身の人間にまでウイルスの影響を及ぼすまでになっている」
「冗談ではないぞ。たかだか一介のドーパントにそんな力が備わるのか?進化し過ぎだろ」

走りながら二人はバグの超進化について話し合う。

「貴方は早く逃げてください。奴は私が足止めします」
「貴様、まだそんなことを・・・」

「ではまた言わせてもらいます。私は主殿を守るためだけに生まれてきた。ほかに何も守る者などないのです。貴方が死んだら、これから誰が主殿を守るのですか?最愛の人を失ったら、主殿がそれだけ悲しまれると思うのですか?・・・主殿のために死ぬのは、この私だけで十分だ」

それを聞いたイーヴィルは寂しげに呟く。

「似たようなことを言っていたぞ、リインフォースも」
「え・・・!?」

「”自分のことは後回しで良い。せめて貴様だけでも自由にしてやって欲しいとな”。だから私はこういった。貴様が”私の精巧なコピーなら、そんなことは望まない。絶対にやり遂げると決めたことを投げ出して逃げるほど落ちぶれてはいない”」

イーヴィルの言葉にワクチンライダーは聞き入る。

「どうやら私の買いかぶりだったようだな」
「・・・・・・私は貴方のコピーだ。例え死んでも貴方が生きていれば幾らでも複製されます」

「私は貴様のような出来の悪いコピーをもった憶えは無い。貴様に私の代わりは務まらんし、私が貴様の代わりを務めるのも不可能だ。・・・相棒からしても、貴様は替えの利く代用品ではなく、立派な仲間なのだ。代用品でも複製でも無い、一人の仲間としてな」

「・・・ゼロ様・・・」

ここでワクチンライダー・・・・・・いや、ワクチン王は初めてゼロの名を呼んだ。

「フッ・・・奴を倒したら、一杯やろうではないか・・・出来損ないの愚弟よ」
「・・・すいませんが、私が下戸です。ミネラルウォーターなら付き合いましょう、愚兄よ」

【XCELION】
【GRAIN】

イーヴィルはDVXに二段変身して、グレインソードを抜刀。
ワクチンライダーも装飾剣を構える。

『これで、終わる。白は消え去り、全ては黒く塗りつぶされる』

二人のいる場所においついたバグは特大のビームを放つため、エネルギーをチャージする。

「潰れるのは貴様のほうだ黴菌野朗(ウイルスマン)
「決着をつけるぞ、バグ・ドーパント!」
『ほざけ虫ケラ共!!ドットの海に沈むがイイ!!!!』

バグはドットビーム特大版を発射。

【GRAIN・MAXIMUM DRIVE】
【VAKZIN・MAXIMUM DRIVE】

「全ての力を解放しろッ!」
「この一撃に、全てを賭けろ!」
「「行けェェェェ!!!!」」

イーヴィルとワクチンライダーの剣が交差して放たれた巨大な波動はバグのそれと衝突する。

『こやつら、我が波動と張り合おうというのか・・・!えーい猪口才な!!』

バグはドットビームの勢いを増させ、二人の波動を圧倒していく。
そこで二人は気付く。

(クッ・・・身体が・・・!)
(ドット化していく・・・!)

イーヴィルは肩、ワクチンライダーは脚からドット化していた。

『これでオレの勝利は確定だな!!』

憎たらしい笑顔で宣言するバグ。

「・・・・・・行ってください」
「なに・・・?」
「今の奴は側面も背面も全くの隙だらけ。ここは私がなんとかしますから、その間に貴方がバグを倒すのです!」

その作戦とも言えない内容が示すことは一つだった。

「二人がかりで互角だというのに、どうすればそんな言葉がでてくる?」
「秘策が一つあります。それに私は片脚が使い物にならない。奴を倒せるのは、貴方しかいないんです」
「・・・貴様、約束は憶えているな・・・?」
「勿論です。あんなのに遅れはとりませんよ。何しろ私は・・・・・・無限ゼロ、貴方を起源とする男ですからね!」

ワクチンライダーの青い複眼からは、決して折れ合い芯が見えた。
それを確かに見たイーヴィルは、

――トンッ・・・!――

拳と拳をぶつけあい、バグの方へと駆けていく。



(兄弟、仲間。ただのコピーに、短い間で色々と呼び名が増えたモノだ)

イーヴィルが抜けたことでバグの波動が一気にワクチンライダーの波動を消し去り、終には波動を放出していたワクチンサーベルさえも破壊されてしまう。だが、ワクチンライダーは諦めずに”その手”で波動を受け止めようとする。

(主殿。申し訳ありません。私の役目は生きることではなく、貴方を守ることなのです。誰かの為に生きることなんて、私には出来ませんが・・・せめて散り逝く時は仲間が為、兄弟の為に死なせてください!!)

そして、

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!!!」

――バシューーーーッ!!――

ワクチンライダーから神々しい光が放たれ、バグの波動を圧倒していく。

『ば、バカな!奴の力が急激に・・・!一体どこにコレだけの力を!?』
「力なら幾らでも残っている・・・!この私の、不屈の魂が!!」
『ッ!・・・まさか貴様、自らの生命力そのものをエネルギーに変換して・・・!バカな!そんなことをすれば、貴様は、貴様の命は!』
「うおおぉぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」

――ズドォーーーーーン!!!!――

ワクチンライダーの生命エネルギーの激流は城の城壁をぶち破り、バグを吹っ飛ばす。

「貴様らウイルス如きに・・・!このワクチン王が!・・・この、仮面ライダーイーヴィルが!!」
「「負けるかぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」」

【XCELION・MAXIMUM DRIVE】



――ズガァァーーーーーン!!!!――



その時、白と黒。
相反する色同士が、悪を貫く正義の光となった。





*****

体内各所。
ワクチン軍とウイルス軍が戦いを繰り広げている最中に、その放送が流れた。

『体内の皆様にお知らせします。体内を汚染していたバグ・ドーパントは、無事駆除されました』

それを聞いた途端、白甲冑も黒甲冑も武器を捨てた。

『生き残ってるワクチンの方々は、通常の業務をお休みして、修復作業に取り掛かってください。生き残ったウイルスの方々はただちに白甲冑に着替えてください。貴方達は既に我々の支配下です。修復作業を手伝ってください』





*****

一方、この戦いを勝利に導いた勇者たち。
イーヴィルは変身を解いて『欲望』を喰らうと、すぐさまワクチン王のもとに急いだ。

駆けつけてみれば、ワクチン王は身体の節々がデータ化し分解されていた。
最後の決死策によるものだろう。

「申し訳ありません。肝心なところで無茶するのはデフォルトなんです」
「・・・・・・そうか。私も相棒との約束を守れなかった」

すると、バグメモリがブレイクされたことで元に戻ったスカルとコーカサスが変身解除してこちらに近づく。

「・・・・・・貴方達が来るまでは、私は実に優秀なセキュリティでした。正に姫を守る勇者。主殿が御身のためなら、喜んでこの命を投げ打ってきましたが、まさか姫様どころか戦友を守る為に死ぬとは・・・」

「ワクチン王・・・・・・」

悠二は文字通り、命を賭けて自分たちを助けてくれたワクチン王にどう声をかければ良いのかと迷った。

「でも、欲を言わせてもらえば、私はもう少し・・・・・・・・・・・・生きたい。もう少しでいいから、主殿や貴方達と一緒に冒険するのも、楽しかったかもしれない。・・・・・・こんなことを呟いてしまうとは、どうやら私はどこかが完全に壊れたらしい」

自嘲じみながらも、名残惜しそうな表情をするワクチン王。

「壊れてはいない。プログラムだろうと何だろうと、貴様は大した奴だ。己の信念を貫き通す為、我々の命を守るため、自分の命を投げ打ったのだからな」

ゼロはまるで別人のようにワクチン王をほめた。

「だから、今死なれては困る。私のせいで死なれたとあっては寝覚めが悪い。絶対に生きろ」
「・・・・・・貴方方さえいれば、主殿は大丈夫だ。私はもう、グッスリと眠りたい」

すると、

「いいえ、貴方にはまだ働いてもらう」

リインフォースの声。

「ゼロ、黒井、八雲。バグ・ドーパントを倒し、ワクチン王を最後まで守ってくれてありがとう」
「リインフォースさん!?」
「どこ?どこにいるの?」
「ここだ、ここ。・・・ここにいる」
「って小っちゃい!!」

漸く見つけたと思えば、何故か小人サイズ。

「なんでそんなミニサイズに?」
「システムの復旧が完全ではないのだが、このサイズでならギリギリ分身をつくれた」

リインフォースは説明する。

「ワクチン王、今迄私のことを守ってくれてありがとう。今度は私が貴方を助ける番だ」
「え、それってまさか・・・?」
「そう。私がワクチン王の体内に入って修理を行う。ワクチン王、私は貴方を見殺しにはしない」
「あ・・・主殿」

ワクチン王はリインフォースの言葉に少なからず驚く。

「・・・そうだな。ここまで一緒に戦ってきたんだ」
「ゼロ、もう一度魔界能力、お願いね?」

悠二と紫も快く賛成し、共にそれを行うことにした。

「み、みんな・・・」
「これでわかったでろう?最早貴様の命は貴様の好き勝手にできるところにはない。貴様が今迄守ったぶん、貴様を守ろうとする連中がいるのだ。・・・わらわらと沸いてきおって、まるで、白血球(ワクチン)みたいだな」

ワクチン王は仲間達の暖かな心と眼差しに思わず俯いた。

「・・・・・・全く、意地っぱりな御方のコピーに生まれたもんです。こんなシュチュエーションになっても・・・涙も、感謝の言葉も満足にでない。・・・貴方ならどうするんですか?こんな時には」

そしてゼロはたった一言だけ呟く。

「・・・・・・笑うだけだな・・・・・・」




あれから一週間後。

「敵影確認。未確認の新種のウイルスです。途轍もない大群がこちらに押し寄せて来ます!」
「なんたることだ・・・未だバグ・ドーパントによる傷跡も、癒えきってはおらぬというのに・・・」
「この残り少ない手勢で、対抗できるのか?」

絶望に染まった白甲冑たち。

「何を臆する?」

そこへ勇ましき仮面の戦士・ワクチンライダーの声。

「例えこの地から白き御旗が消え失せても、我等は孤軍ではない。例え軍が壊滅しようとも、我等は独りではない」

ワクチンライダーは仲間達の一番前に立つ。

「所違えど、我等と同じ志を持ち、戦う者達がいる。御旗の色は違えど、我等と同じ、誇り高き魂を持った仲間達がいる」

ワクチンライダーは砕けてしまったワクチンサーベルの代わりに、ゼロから託されたドラゴンシンフォニーを抜刀した。

「例え百万の軍勢であろうと、この魂の色は染められん!!」

そして・・・!

「行くぞォォォ!!」



フォースクエスト・完結


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