仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!


一つ!永井木蓮との最終決戦が勃発!
二つ!ブライはゼメタコンボに変身し、木蓮を倒す!
そして三つ!死四天・蛭湖の口より、水鏡の剣術の師匠・巡狂座のことが語られる!

女狐と紅茶と最後のディスク


HELL OR HEAVEN
要塞都市SODOMの中心にして、裏麗の真の本拠地。
その内部にて、一人の男が帰還していた。

「おかえりなさい」
「随分と早いお帰りだな」

やたらと広い部屋にはガラス張りの巨大な水槽が壁一面にあって、ガラスの向こう側では様々な魚介類が生息していた。
そして、その魚介類らを一望できる位置にテーブルと椅子とパソコンを設置して帰還した男を待ち受けていたかのようにしていた者が二人いた。

「噂以上の実力者のようだな、鑢七実という女は。水鏡凍季也も、この前よりもずっと強くなっている。火影は本当に楽しませてくれる」
「楽しそうだね、蛭湖」
「全くだ。しかし、奴らは着実に此処へ来ようとしている。現在のディスク獲得者は、土門と凍空、陽炎とシルフィード、烈火と我刀流か」

この先の展開に笑みをこぼす蛭湖に、葵と竜王はパソコンの画面に向かい合って掲示板を確認していた。

「変だな?水鏡たちがパルテノンに来たということはあと一枚あるはず。脱落者でもでたか?」
「搦(カラメ)が取られたけど、キリトさんが取り返してくれたみたい」
「やれやれ。そんな必要はないはずだが・・・キリトめ、遊んでいるな」
「まあ、奴の魔導具はある意味変幻自在だからな」

竜王は呆れる蛭湖にそういった。
そんな中葵は掲示板に追加された新たな書き込みを見ていく。



〔6〕火影各位へ
   投稿者:陽炎とシルフィード

  ディスクを一枚入手しました。現在地は研究所ですが、私たちはこれより更に奥へと進みます。
  このHPの画像データでSODOMの地図があるのでプリントアウトすることを皆にすすめます。
  私たちの知る限り、烈火と鋼さんはウェポンドーム、風子さんと助っ人はピラミッド、カオル君とバットさんがバイオノイドドームにいます。

  なお、情報操作による混乱を避けるため、我々しか知らない「キーワード」を必ず書き入れてください。また、同じ内容のものも書かないこと。キーワードがない、もしくは不必要なものの内容は信じない事。

[キーワード]
  土門くんは風子さんが好き



〔7〕わかった母ちゃん
   投稿者:花菱烈火と鋼刃介

  今俺たち、ウェポンドームでディスク取って近くの山小屋でコレ書いてるぜ!
  すぐそこにピラミッドてのがあるけど、風子どうなってる?
  みんなどこにいるのか書けコノヤロウ。じゃまた!

[キーワード]レッカマン6のタイトル「私は炎」



〔8〕さあて、またがんばるぞ
   投稿者:キリト

  さっき一枚ディスクを火影の人から取った。
  霧沢さんと一緒に居た助っ人さんはくノ一装束を着込んでいて、セルメダルとベルトで仮面ライダー変身する。名前からして鋼刃介の家族っぽい。
  二枚目のターゲットを確認したのでまた行ってきます。



「へぇ・・・あの男にも肉親がいたんだ。しかも忍者ライダーとはね。・・・にしてもキリトさんまたやってる♪」

葵は書き込みを眺めて笑った。
するとその時、葵の表情が強張った。

「どうした?」
「ICQだよ。SPからだ。なにかあったみたい」

葵は早速その内容を開封した。
そして、表情を驚愕に塗りつぶされることになる。

「蛭湖・・・門都が死んだ」
「ば・・・馬鹿な・・・・・・あの門都が!?信じられん!!」
「事実を受け入れろ。残虐的なまでに焼き尽くされた死体があったのはバイオノイドドームと研究所の間。そして時間的に考えると、花菱にもブライにも実行は不可能」

竜王が論理をまとめあげ、

「紅麗の炎」

結論をたたき出した。

「ッ・・・・・・麗か!」
「紅麗たちをゲームに参加させた覚えはないよね(計算違いだ)。早急に居場所をつかんで殺すよう、兵に命じよう(できるとは思わないけど、時間を稼がないと。――森様と竜王さんが完全体になるまでは・・・・・・!!)」

葵は内心焦りながら方針を決定した。

「ところで竜王殿、残りのコアの枚数は?」
「この通りだ」

竜王は懐から緑・黄・灰・青のコアメダルを取り出した。
残るコアは一枚。赤い鳥のメダルのみ。





*****

研究所の外。
陽炎とシルフィードは他の場所に行こうとしていた。
ただし、仔狐が中々離れようとしない。どうやら懐かれてしまったらしい。
山へ帰るよう言っても、二人の頬を舐めるだけで聞こうとさえしない。

そんなとき、

「会長!!」
「陽炎!!」

二人の巨漢がやってきた。

「吹雪くん!」
「土門くん!」

見覚えと聞き覚えのある声に、二人は即座に反応した。

「二人共無事だったっすか?」
「漸く他の仲間に会えたぜ!」

分かれたグループのうち、二つのグループが合流した。

「「「「ジャン!!」」」」

四人は獲得しあったディスクを出し合った。

「ここにあるのが二枚。ピラミッドで風子たちも一枚とったらしいから三枚だな?」
「三枚?それは妙ね。あの子たちは掲示板に書き込みやってないわよ」
「風子さんから直接聞いたの?」
「いや、全身ミイラ男から聞いたっすけど」

因みに土門と吹雪は音遠らと分かれたあと、SODOM中を必死に駆け回っていたのだ。
空海と偶然会ったり、門都に遭遇しかけたり、バイオノイドドームで崩れた牙石王を発見したり。
ピラミッドでは搦あたりにその情報を聞きだしたのだろう。中途半端な情報と知らずに。

「二人共、もしかして「ヒャああああああああああ!!!!」

陽炎の声を遮るように、老婆の悲鳴が聞こえてきた。

「今の声って!?」
「こっちだ!!」

四人は急いで現場に駆けつけた。

するとそこには二体の機兵が腰をぬかした老婆に迫り来る光景があったのだ。
それを見つけたやいなや。

「後如(ごしく)!」

吹雪はまず体当たりで一体を破壊。

「ふん!!」

土門も拳でもう一体を破壊した。

「早いわね・・・流石吹雪くん」
「強くなったわね、土門くん・・・」

陽炎とシルフィードは素直に賞賛する。

「大丈夫か、バアちゃん?」
「お、おう・・・助けてくれてありがとよ」

眼鏡をした小柄な老婆だった。

四人は歩きながら老婆の素性を問いただすと、老婆はこう語りだした。

簡潔に纏めると、自分は「実験用モルモット」と呼ばれ、カプセルの中に閉じ込められていたのだが、ある日怪物とかした人物がカプセルを破壊して部屋中を暴れ回り、自分はその隙に脱出したのだという。しかしその矢先、ロボットに見つかって死ぬところだったと・・・・・・どこかで聞いた気がする話を聞かせてくれた。

「ありがとう!!あんたらは命の恩人じゃ!!あのままじゃったらきっとワシは・・・・・・」

老婆は土門の手を握りながら感謝する。

「はっ!」

だが次の瞬間、木陰に隠れだす。

「お前達・・・何者じゃ・・・?」

なんか同じものを見た気がする人、それは気のせいじゃありません。

「大丈夫だバアちゃん!俺たちはここの人間じゃねぇ!」
「そ、そうかい?ウソじゃないだろうね?」
「大丈夫!俺ってバアちゃんっ子だからよ、ウソはつかねって!」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

陽炎、吹雪、シルフィードは老婆に疑惑の眼差しを向けていた。
その真相を追究するときが来るまで、四人は老婆の案内に従ってある場所に来ていた。

全体が石造りとなっている建物の近くにまで。

「・・・ほれ、あそこがパルテノンじゃよ。ワシは元々ここの研究員じゃったらから地理には詳しい。助けてもらった礼じゃよ」
「あそこにみーちゃんと七実ちゃんがいるかもしれないんだな!」
「とりあえず、はりきるっすかね」
「うふふ、そうね」
「ありがとう、キリトさん」
「なぁに・・・―――」

その返事をした瞬間、老婆は口を閉ざした。
それと同時に空気もかたまった。

「え?」

土門は別として。

「大正解みたいね。ストレートなウソは裏返せば真実となる」
「でも今の名前に反応したのは痛かったわね、ご本人さん。奇襲は失敗ね」

陽炎とシルフィードは冷徹に言い放った。

「あ?え?」
「まだ気づいてなかったっすか?」

まだついてこれてない土門。

「貴方は裏麗死四天の一人。そうよね、キリト?」
「くっくっく・・・・・・つい呼ばれて返事してもーたか。やりおるのぉ女狐ども!確かにワシがキリトじゃよ!」
「金女チャンたちがどうなったか教えて欲しいわね」

正体を明かしたキリトに対してシルフィードは問いかける。

「川底に落としてやったワイ。もう一人のくノ一は風子を助ける為に自分から川を泳いでいったがの!」
「何ィィーーっ!!このババァ!!風子は生きてんのかコノヤロー!!」
「おお怖い怖い。さっきまではボクおばあちゃんっ子なんだよとか言っておったくせに」
「こーのーバーバァ〜〜〜!!」

土門の頭から湯気が噴出しだす。

「まああれだけ腕の立つ忍者が助けにいったらな生きておるじゃろうな。しかし大切なディスクはここにある。そんで、今もう一枚手に入れた」

キリトの手には二枚のディスクがあった。

「!!」

土門は急いで自分の荷物をガサガサとチェックした。
その結果、

(俺達のジャン!!)

絶望した。

「気づくのが遅かったようじゃな。鎧の方は持ってないと思い、さっきあんたからスラセてもらったよ。手を握ったとき思ったが、風子といいアンタといい、どうも火影の子たちは隙が多いね」
「返しやがれババァ!!」
「おっと」

土門の腕など簡単に避けて木の枝に跳躍してのるキリト。

「さぁて!このまま逃げさせてもらうよ!次は烈火くんとブライのディスクでも頂こうかのぉ!!」

高らかに宣言するキリト。
が、

「アラ、偶然。私とシルフィードさんも一枚ずつ」
「要するに二枚持ってるんだけど」
「「!!?」」

ディスクを一枚ずつ見せながら笑顔でそういう陽炎とシルフィード。

「俺っち達三人が見ず知らずの人間を初っ端から信用すると思ったっすか?念のために会長が土門くんのディスクをすり替えといたってわけっすよ」

吹雪は兜越しの声を響かせる。

「じゃあババァが持ってるのは?」
「ただの音楽CDっすよ。陽炎さんが持参してたヤツ」
「まあ兎にも角にも、騙す相手はキチント選ぶべきだったわね、キリトお婆ちゃん?」
「こ、の・・・・・・女狐ども!」

――ピンっ――

キリトは懐に忍ばせていた手榴弾のピンを二つとも取り外し、そのまま木の上から地面へと投げ落とした。
当然凄まじい爆発と黒煙が発生し、丁度いい煙幕の役割をはたしたようで、キリトは老体では考えられない動きで木の枝の次々と飛び移っていく。

「追うわよみんな!」
「えぇ、勿論」
「ハ、ハイ!」
「了解っす!」

四人は一斉にキリトを追って走る。

「石島くんの為に敢て説明するけど、あのキリトってヤツはプライドが高い部類よ。だから私たちに一矢報いるべく、仕掛けを打って置くはずだわ」
「あのぉ・・・・・・それって俺がバカって言いたいのですか・・・?」
「だってそうでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

なんか色々沈んだ。

「まあ一応ディスクは返しておくわ。今度は盗られないようにね」
「おう!」

陽炎から投げ渡されたディスクを受け取る土門。

そうして走っているうちに、四人は拓けた場所に出た。

((・・・・・・このあたりだ))
((いる))

四人は直感で悟った。

――ヒュオオオオオ――

風が虚しく吹く音。
しかしそんな音の侘しさをぶち壊すように、

「オラ出てこいやキリトォー!!ディスクならここにあるぞーーっ!!」

阿呆がバカな行動に出た。

「てめぇは風子を騙してディスクを奪い取った卑怯者だ!打っ飛ばしてやっから来いやぁーー!!」
「バカ!!盗られないでって言ったばかり「平気♪」

ディスクを手に持ってそれを言われても全然説得力が無い。

――ボンッ!――

土門の後方にある地面が炸裂した。
激しい土煙を一気に突きぬけ、キリトが姿を現す。

――ゴキッ!――

「おご!!」

キリトは空中で土門の後頭部に回し蹴りをキメて、ディスクを宙に回せた。
結果、

「ありがとよ、若いの!」

キリトにディスクを盗られた。

「コノヤロー!!」

土門はすぐさま力づくで取り返そうとするが、

「殴れるかい?噛み砕くよ!」

キリトはディスクを銜えた。
これでは手が出せない。ディスク一枚一枚は代用のない一点もの。
一枚でも破損すればゲームオーバーだ。

だがしかし、



陽炎とシルフィードは、背後と正面からキリトの頭を殴った。
ディスクが小気味よい音をたてて割れ散った。



――ドッ――

キリトが気絶して倒れた瞬間、

「馬鹿野郎!!なんて事しやがる!!そのディスクがなきゃ柳を助けられないだろうが!!」
「土門くん、一旦落ちつくっす」
「落ち着いてられっかこんな状況で!!」
「はい、本物の二枚」

陽炎がキリトの懐にあった二枚のディスクを取り出して宣言した。

「・・・・・・・・・・・・は?」
「私たちがだしたディスク、土門君に返したディスク、今壊れたディスク」
「どれもこれも偽物(フェイク)だったの」

シルフィードと陽炎は、最初から本物のディスクなど面にだしていなかった。
キリトが奪ったディスクを奪い返すため、土門まで巻き込んだ芝居だったのだ。

「「あら」」

すると仔狐が二人の足元によってくる。

「またついてきちゃったのね」
「こらこら、そんなに舐めないの」

――ペタ・・・ッ――

見事に騙された土門は地べたにすわり、仔狐と戯れる二人の美女をみて思った。

(女狐だ・・・・・・)
「まあまあ土門くん。今回の芝居は君の単純さあってこそっすよ。誇っていいっすよ」
(全然嬉しくねー・・・・・・)

下手なフォローが逆に痛かった。

「く・・・くくく・・・」

するとどうだろうか。
さっきま失神していたキリトが起き上がった。

「そういうことだったのかい・・・・・・ここまで馬鹿にされたのは初めてだよ!遊びのつもりだったから・・・・・・こいつを出すのはHELL OR HEAVENの中にしようと思ってたが、我慢ができない」

キリトは右手首にしている核らしき小さな玉が埋め込まれた悪趣味なブレスレットを手にしながら、最大限の怒りと気合を込めて叫んだ。

死愚魔(シグマ)ァァァア!!!」

その瞬間、

――ギュオオオオオオ!――

「なんだァ!?」
(空間が裂けた!?中から何かでてくる!)

「好い気になるんじゃあないよ、お前達!あくまでワシが遊んでいたということを思い知らせてやるよ!出ておいで死愚魔ーーーーッ!!」

空間の裂け目から現れた者、それは一言で言うと、
化物以外の何者でもなかった――――

エイリアンのような頭部から後ろの部位はもはや表現する言葉さえ見つからないほど奇怪で醜悪で生物的だった。ただ、体の両側には翼っぽいものが二つある。羽ばたかせてはいないので飛行用というわけではなさそうだが、その巨大な翼が化物の存在感をより浮き出しているのも事実であろう。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!これがキリトの魔導具じゃーーッ!!」

キリトは自慢げに高笑いする。

陽炎とシルフィードは怪物を隅々まで観察し、動きと呼吸などを確認して、確信した。

(生きている・・・・・・!?確かに意志をもつ魔導具は存在するけど、あれは・・・まるで・・・生物じゃない!)
(大方海魔って野郎の作品なんだろうけど・・・・・・トコトン狂い乱れてるわね!)

「いっといで、死愚魔♪」

キリトは優しく命令を下すと、

――ブォン!!――

死愚魔は音がするような強い力で翼と足に力をいれ、地を蹴り空を裂き、土門と吹雪に突貫していく。

「使いたくなかったっすけど、しょうがないっすね」

――ガシッ――

吹雪は片手一本で死愚魔を止めた。

「んなッ!!?」

その光景にキリトは驚くが、肝心の吹雪の表情は賊刀『鎧』に隠されている。
吹雪は片手で目標をしっかり掴んだまま、もう片方の手でしっかり握った完成形変体刀が一本、双刀『鎚』の刀身としてきた部分を柄のように握りなおした。

元々無骨な外観をした双刀は上下の境界が曖昧だ。
故に普段持ち柄としてもった部分を刀身として扱うとき、双刀『鎚』は超重量によって比類なき打撃武器と化す。

どちらが刀身、つまり頭か向きがわからない。だから上下どちらも頭にできる。
すなわち双頭(そうとう)!名称の由来はここから来ているのだ。

――ブゥン!!――

吹雪は双刀『鎚』を数十メートルもの上空に放り投げた。
放り投げられた双刀は自重によって凄まじいスピードで落下してくる。
常人なら落ちてくる双刀に触れようとした時点で指が使い物にならなくなるだろう。
しかし、強固な鎧で身を固めた凍空一族の成人男性ならどうなるのであろうか?

「完成形変体刀が一本、双刀『鎚』の限定奥義・・・!」

子供の時点で双刀を自由自在に扱える凍空一族の成人男性が、落下の勢いを殺さずに、全力で双刀『鎚』を敵に向けたらどうなるか?

――ガシッ――

双刀之犬(そうとうのいぬ)!!」

――グジュ・・・・・・ッ!!――

「し、し・・・死愚魔(シグマ)ァァァァアア!!!!」

キリトは喉が潰れそうなほどの大声を出した。
それもそのはず。生物型魔導愚・死愚魔の頭部が、グチャグチャに潰されたのだから。

「さってと・・・一つ聞くっすよ、お婆さん」

吹雪は血で濡れた『鎚』と『鎧』のことさえ気にせず、キリトに声をかける。

「此処でぶちのめされるか、大人しく退散するか。どっちがお利口っすかね?」
「くッ・・・貴様・・・!覚えていろ!!」

――ギュオオオオオオオ――

キリトは空間の裂け目を作り、悔しそうな表情をして帰っていく。
死愚魔のほうは急がないと腕輪ごと崩壊するであろうから、火急な修復が必要なのは目に見えていた。

火影の吹雪&土門・陽炎&シルフィード、ディスク所有数三枚。





*****

キリトを退けた四人は、そのままパルテノンに一番近い巨大な建物に向った。
地図上でいうと、HELL OR HEAVENの真西に位置するその建物は名称さえ不明だったが、なにかあるのは明らかだ。

四人は意を決して扉を開けた。
そしてそこに居たのは、

「「あ」」
「こ・・・小金井!」
「バットさん!」

土門と吹雪は先にたどり着いていた仲間の姿に歓喜した。

「生きてたかこの野郎!」
「そっちこそ!」

――パァン!――

土門と小金井はハイタッチをかわす。
ここにきて更に仲間と仲間が合流した。

しかし、今は感動の再会を味わっている場合ではない。

「うーん」

土門が悩むように唸った。
その原因はこの部屋に存在する森光蘭の石像と、その直下にある謎の機械。

「どうやらこの機械のスロットに五枚のディスクを入れるみたいね」
「言われてみればスロットは五段、ディスクも五枚っすからね」
「ディスクを全てこの機械に差し込めば、本拠地への道も開けるようですね」

トライブ財閥組は早速状況の整理に入った。

「なるほど・・・今此処に三枚ある。あと二枚ってことだな」
「ええ!?なんで土門兄ちゃん達そんなに持ってるの?」
「お前らはどうなんだ?」
「まだ一枚もないよ!」

結果、

「罰」
「うわぁぁぁん!」

プロレス技をかけられました。
しかも小金井一人だけ。

「やめなさい」
「大人気ないわよ」

そんな土門に陽炎とシルフィードがやんわり止めにはいる。

「まあ兎にも角にもですよ。ここはあくまでディスクを使う場所であり、敵も目的もない。となれば、残る場所は二つです」

バットはシルフィードから借りた地図を見ながら説明する。

「パルテノンは大方水鏡さんと鑢さんが攻略済みでしょうから、恐らく奥に向ったと思います」
「となると、あの二人が居るのは”マリーの館”って場所ね」
「そして、まだ調べてない場所は、此処から南東にある”貯蔵庫”」
「どっちにしろ、この二つのどっちかにラストディスクがあるってわけっすか」

話がどんどん纏まっていく。

「よし、じゃあチーム分けしましょ!一つはマリーの館にいく、もう一組は貯蔵庫へ、最後はここで皆の帰りを待つ」
「チョキがマリーの館、パーが貯蔵庫、グーが待機ってことですね」
「固まって動くより、分散して時間短縮ってわけっすか」

シルフィードの提案とバットの捕捉でジャンケンが始まる。

「「「「「「ジャーンケーン・・・!」」」」」」

一呼吸おいて、

「「「「「「しょい!!」」」」」」

「「マリーの館!」」
「「貯蔵庫!!」」
「「待機・・・!」」

(って、さっきと同じ組み分けじゃんかよぉ・・・・・・)

チョキ、土門と吹雪。パー、小金井とバット。グー、陽炎とシルフィード。





*****

HELL OR HEAVEN

「ほら、セルメダルを早くしておくれ!今にも死愚魔が壊れちまいそうだよ!!」
「はぁぁ、無茶した挙句にこの様とはな」

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――

竜王はセルメダルを懐から両手一杯にとりだし、キリトの左腕にしている腕輪に近づけ、腕輪の凄まじい破損を修復した。

「ふーー、やっと一安心したよ」
「これ以上の無茶はやめてくれ。たかがセルメダル、されどセルメダルだ」

死愚魔の修復のために急遽帰還し、それが終わったキリトはそこでとんでもない悪報を聞く事になる。

「門都が・・・死んだ・・・!!?」

漸く死愚魔が復帰したばかりだというこの瀬戸際にトンデモない報告だと思うだろう。

「馬鹿な!?ワシは信じないよ!」
「ボクだって信じたくないさ。でも事実なんだから仕方ない」
「火影は強い・・・それに、ブライたちは更に強い。門都を殺したのが紅麗だとしても、その意見は変わらない」

激昂するキリトを葵と蛭湖が鎮めようとする。

「・・・・・・・・・確かに。火影だけならいざ知らず、あの化物どもは・・・!」

キリトは先ほどの苦汁を思い出し、歯軋りした。
が、しかし

「っつ!」
「また腰を痛めたか?いくら死愚魔との相性が一番良いといっても、”老人の姿”は思いのほか疲れるらしいぞ?私の旧友の話によればな」
「うるさいよ!憎まれ口叩きおって・・・・・・」

キリトは竜王の忠告を蹴飛ばし、右手首にしている腕輪型魔導具を作動させた。
腕輪についている鐘の装飾に埋め込まれた核が光ると、キリトの体が劇的な変化を向かせる。

老年期から中年期、中年期から青年期、そして青年期から―――

「・・・・・・部屋で待機してますね。お疲れ様!葵さん、蛭湖さん、リュウギョクさん!」

風子達と接していた若年期へと『若返った』のだ。
キリトは足早に自分の持ち場に駆けて行く。

「・・・あの時の年齢の時の性格が一番いいな」
「そう?ボクはお婆ちゃんのキリトさんも好きだよ」
「しかしながら、何時見ても複雑な気分だ」

もう見慣れたことのように雑談する。

「ねぇ二人共・・・足りないモノが沢山ある人間と、自分が多すぎる人間って・・・どっちが哀しい生き物なのかな?」
「「・・・・・・・・・・・・」」

そんな葵の問いに、竜王と蛭湖は沈黙した。




*****

マリーの館。
そこで土門と吹雪は訳のわからん光景を見た。

「あら、お二方。思いのほか早かったですね」
「・・・・・・・・・」

ヨーロッパ風の洋館の中庭のウッドデッキに置かれた椅子に座り、テーブルの上にあるポットとカップで優雅にハーブティーを飲む七実。
そして幾つかの椅子を分解してつくった簡易な木製ベッドに寝かされた水鏡だった。

「あの、ちょっと・・・何やってんの?」
「なんで優雅に紅茶を飲んでるっすか?」

「実はここの主と仰ったマリーさんにお茶を勧められて飲んだんですけど、実はそのお茶のカップの淵に神経毒が仕込まれていたようなんです。もっとも、マリーさんはあらかじめ一部分だけに毒を塗らず、そこからお茶を飲むことで偽りの無実を証明し、水鏡さんはうっかりお茶を飲んでしまったというわけです」

七実は懇切丁寧に説明した。

「でも私は毒や病に対して免疫がありますので当然のように効果は無く、マりーさんと亭主(ペット)のポチさんは私を殺そうとしたんです」
「ちょっと待って!今亭主と書いてペットと読んだよね?ポチってどういうこと!?」
「まあ勿論返り討ちにしてあげましたよ。今は館の中で大人しくしてもらっています」
「無視か!?オイ、無視なのか!?」

土門の問いを真っ向からスルーしながら説明する七実。

「取りあえず当面の敵は居なくなりましたが、水鏡さんの毒が抜けるまでこうして待っていたのですが・・・・・・なにか問題が?」
「「大有りジャアアアアアアア!!!!」」

吹雪と土門は大音量で絶叫した。

「何コレ!?新手のボケっすか!!あんた微妙にそういうの似合わないキャラでしょ!?」
「つーか此処にディスクはあったのかオイ!!?」
「いえ、影も形もありません」
「「じゃあ早く石像のトコ来いよ!!」」

色々とみんなのキャラクターが総崩れしてきている。

「えぇ行きますよ。丁度水鏡さんの毒も抜けてきたようですし。そうですよね?」
「あ・・・あぁ・・・なんとかね」

水鏡はゆっくりと上体を起こす。

すると、

――バシィィン!バシィィン!――

なんか鉄の扉の向こうから鞭打つ音が聞こえてきた。

「あ、その扉は開けないほうがいいと思いますよ」

七実はそういったが、


――ギィィ・・・・・・――


土門と吹雪は薄らと館内部を覗き見してみた。

館の中は・・・・・・拷問用具の博物館とでもいうべき惨状が広がっていて、その空間に居る人間は二人だった。
一人は目隠しにギャグボールをされ、上半身には革ベルト、下半身にはボロボロの大きな布を纏った巨漢。もう一人は革製の鞭を所持?、スカートに大胆なスリットが入ったドレスを着た三十路前後の女性だった。

そう、この二人こそがポチ(巨漢)マリー(女王様?)である。

「―――――――」

ポチは何か気絶していた床に倒れ伏しているが、マリーはというと・・・・・・・・・。

「あぁぁ///んぁぁぁん///い、いい!//////」

なんかエロボイスで喘ぎながら三角木馬に乗っていた。しかも両手の自由を自慢の鞭で奪われている。


――ギィィ・・・・・・――


扉が閉められた。

「「・・・・・・・・・・・・」」

沈黙する土門と吹雪。
そして、

「オイィィィィいいいいい!!何アレ!?どこをどうすればああなったんすか!?」
「色んな意味で正視に耐えないよアレは!!」
「なんか最初は鞭でポチさんを叩いて喜んでようなんですけど、私が圧勝したら急にあんな感じになっちゃったんです」
「「んな訳あるか!!!」」

信じられないようだが本当である。
マリーは亭主をポチと呼んだり鞭で叩いたりするのが大好きなドS女王様だが、一転して主導権を相手に握られるとドM化するのである。

なんだか言いようのない空気が場を支配する。

――ブゥゥウウウウゥゥゥン!!――

バイクのエンジン音。

「火影忍軍頭首、花菱烈火参上だぜ!」
「あーはいはい」

そこへ烈火と刃介がシェードフォーゼに乗って現れた。

「ん?どうしたお前ら?結構数揃ってるのにどうして沈んでるんだ?」

烈火が訊いて見たが、

「・・・・・・兎に角、ここにはディスクもないし充分休んだ。石像のところに行こう」

水鏡は立ち上がってそういった。

「おいどういうことだ?石像ってさっきの場所に逆戻りか?」

因みに烈火と刃介は一度石像の間に訪れ、陽炎とシルフィードにディスクを預けてからここにきています。

「そうですね」
「・・・・・・そうっすね」
「・・・ここにいると、無駄な力使っちまいそうだ・・・」

なんか皆が妙な雰囲気の中歩き出した。
元いた場所へ帰る為に。

「「あれ?俺たちが来た意味は?」」

多分、つーか確実に・・・・・・無駄。




*****

貯蔵庫。
一方その頃、土門と吹雪がマリーの館で奇妙奇天烈な体験をしている頃、小金井とバットはこの中で――――


ご飯を食べていた!!(といっても、喰ってるのは殆ど小金井)


数分後、二人は保存食を食い尽くした(しつこいようだが、殆ど小金井が食べた)

「満足ですか?」
「満腹満腹♪」

二人はあらかた蹴散らしたSPたちと、周囲のことを確認していく。

「これで階下の部屋は全部調べ終わったな」
「大量の弾薬、武器、水分、食糧や保存食、生活用品・・・・・・確かに燃料補給の為だけの場所みたいですね。もっとも、それは此処までの話みたいですが」

そう、まだ上の階層を調べていない。
小金井とバットは未だにディスクをゲットしていない。
しかし土門たちが三枚も取得したという現実が頭から離れない。

「では行きましょう」
「うん!」

二人は力強く足踏みし、敵地へと乗り込んで行った。

――ウィン――

機械の音がすると同時に開く自動ドア。
その向こう側には殺風景で妙な空間が広がっていた。

冷たい雰囲気漂う広すぎるほど広い部屋。
長く高い壁には何かを収納していると思われる隔壁のハッチが複数ある。
そして部屋の中央には絨毯が敷かれていて、その上には一人の長髪の研究員が椅子に座り、デスクにはパソコン一式と大量の資料が置かれていて、研究員は画面と睨み合いながらキーボードを叩いている。

「・・・わからないな・・・不思議だな、魔導具能力原理・・・そしてオーメダル。オーパーツとしかいいようがない・・・・・・不思議だな・・・」

一般人が見てもチンプンカンプンなグラフやデータが数多く映された画面を見ながら、研究員はブツブツといっている。

「グリードのセルメダルによるヤミーの誕生・・・・・・ブライドライバーとコアメダルによる変身、メダル換装による部分的形態変化と強力なコンボのパワー・・・・・・全くもって不思議だ。リュウギョクの奴、セルの一枚くらい寄越せってんだ・・・・・・」

愚痴る研究員。

「・・・オイ」
「天堂地獄、体内異物混入による人体影響・・・遺伝子変化・・・ウイルスではない・・・不思議だ・・・」

小金井の声を無視して研究員はボヤく。

「おい!ここにディスクあるか?教えろ!」

小金井が二度目にきくと、研究員はゆっくりとこちらに振り向いた。

「鋼金暗器・・・か。超常現象を生むタイプのモノではないなァ・・・・・・パズルタイプの只の武器と言っていいだろう。そっちの女の胸に刺さってる物は、大方電気によって心臓と内臓を刺激して生体活動をより活性化させてるってトコかな?・・・つまり然したる興味は皆無だ」

研究員は死んだ魚のような眼で分析した。

「風神か閻水・・・・・・欲を言えばコアメダルやセルメダルが見たいなァ・・・・・・お前らはいらん。出て行け」

――ガギン!!――

「ヤ・ダ・ね」
「同じく」

小金井は鎖鎌で威嚇攻撃した。

「ゼット」

研究員はイラっとした様子で誰かの名前を読んだ。

「あいつら・・・なんとかしてくれぇ・・・・・・少しならうるさくしても我慢するからよぉ・・・」

それによって現れたのは、全身を白い帽子、長ったらしい布、白い長袖の服、白い手袋、白い長ズボンで固めた大柄な男だった。唯一垣間見えるのは、服と帽子のスキマから見える眼光だけだ。

ゼットと呼ばれた男はポケットからある物を取り出した。
それは笛、ゼットの手で持つには些か小さい笛だ。ゼットはそれを口元に持っていき、

――ピィィイイイイイ!!――

思い切り吹き鳴らした。

――ガン・・・ガン・・・ガン・・・――

次々と開いていく壁の隔壁のハッチ。
その奥からは、死体が腐ったような臭いと、今にも死にそうな息遣いが耳と鼻を刺激する。

「ゾンビ!?」
「しかも大量に待機させてましたか」

――ピッ――

『シュオオオオオ』

笛の音と同時にゾンビたちはノロノロ動くかと思えば、予想以上に俊敏な動きで二人に襲い掛かる。

「弐之型”龍”!!」
「ハイキック!」

二人は武器と体術を繰り出してゾンビを蹴散らしていく。
しかし、蹴散らせど蹴散らせど、隔壁の向こうにある薄暗い空間からはゾンビたちが新たに出張ってくる。

(キリが無い!貯蔵庫って・・・ゾンビまで貯蔵してたのかよ・・・・・・っ)
(ならば狙いは一つ。統率者の始末)

――ヒュ・・・ッ!――

バットは一度跳躍し、思い切り右足を突き出した状態で降下していく。

「ハァァァア!!」

――ズドッ!――

見事な飛び蹴りがゼットの胴体に命中した。

「効かん・・・」
「ッ!」

――ガシッ――

ゼットは一言呟き、バットの足を掴むと、

――ブン!!――

「キャアアア!!」

思い切りバットを床に叩きつけ、壁に投げ飛ばした。

「おォいゼット・・・オレっちの空間・・・絨毯から中に何も入ってこねーよーに暴れろよー。一歩でも踏み込んだら集中力が途切れるぜ。あと出来るだけ静かになァ・・・」

研究員はキュポキュポと音を立てながら耳栓で耳の穴を塞ぎながら命令を下した。

――ピィイイイ!!――

それに応答するようにゼットは笛を吹き、ゾンビたちを統率する。

『ギシャアア!!』

(ただっ広い空間、複数の敵。六つの型を持つ鋼金暗器でこの状況に適している型は二つ!)

小金井は素早く状況確認と自分の戦力確認を行い、鋼金暗器に手を加える。

「四之型・・・”三日月”!武羽冥乱(ブーメラン)!」

――ブゥン!――

小金井は全力で武器を投げ、その軌道上に存在するゾンビたちを細切れにしていく。
けれども、一度に攻撃できる敵の数は限られている。

――ピィ――

ゼットは笛を吹き、まだ開いていない他のハッチを開けていき、中からは更なるゾンビが現れる。

(まったく、これでは先の見えないマラソンマッチですね。やはり、あのゼットという男か、白衣の研究員を止めねば・・・!)

「いいぞ・・・強いといっても人間。しかも女子供だ。人海戦術で攻め続ければいずれ動けなくなる。そのアホども休ませるなよゼットォ。・・・・・・いや待てよ、そっちの女は電気で主要な内臓は勿論、筋肉にまで刺激を与えているとなると・・・常にマッサージを受けている状態だろうから疲れねェか。・・・・・・美人ではあるが、しょうがないな・・・腕と足の一本くらいもいでおかないとなァ」

研究員はさり気に悪刀『鐚』の特性と攻略法を頭に思い浮かべる。
そう、いくら悪刀といえど、損失した部位を活性化させることなどできはしない。

「そいつらが帰ってこなきゃ他の火影連中もここに集まってきやがるよ。魅力的な魔導具、そしてメダルを持ってるカモがノコノコとなァ・・・・・・。閻水、風神、土星の輪、コアメダルにセルメダル―――能力原理を調べてみてえお宝ばかりだぜ」

研究員はまたブツブツと喋りだす。

「報告によると火影メンバーもブライ達も全員生き残ってるらしいからなァ・・・よりによって一番つまんねェ魔導具が来ちまったってことか。不運だぜ」

研究員の呟きを小金井は聞き逃さなかった。

「おい、おじさん!それ本当!?水鏡も風子ねーちゃんも!?」

小金井は叫ぶも、研究員はなにも応答しない。
煙草を吸ったりビールを飲んだりするだけだ。

「耳栓ですね」
「って、おいオヤジ!!人の話聞けってんだ!!ていうかまずこっちを向け!!」

小金井は研究員の下に走り寄ろうとする。
しかしその為には取り払うべき壁がある。

「行かせない。そう命令を受けている」

――ドコォ!!――

「ごふ!!」
「小金井君!」

ゼットの蹴りを腹部に喰らってしまい、小金井の体は吹っ飛ぶ。

「・・・とは・・・いえ、そいつらを除いてあと四・五人の火影と四人のブライ側・・・ここに保管してあるゾンビだけじゃ到底役不足だろうなァ。V-II(ロボット)はオレっちの範囲外だし、ゼットに外のゾンビたちを呼ばせるか・・・」

研究員は今後の算段を立て始める。
あの強豪達を直に見たこと知らない者がこういうことをする諺をご存知だろうか?

「なにしろゾンビは消耗品。この煙草と同じだしなァ。それとも”ディスクやるから魔導具とメダルおいてけ”って取引するか?それもいい!そりゃいいぜ!」

取らぬ狸の皮算用(失敗確実の無謀Ver.)

しかし、今の台詞を聞いた二人は、眼光を一気に鋭くした。

――ガシッ!――

「き、貴様・・・!」
「小金井君、行って!」
「オッケー!」

バットはゼットに羽織い締めをかじぇ、小金井を行かせた。

「単細胞生物的生態か・・・?それじゃまるでプラナリアじゃねェか・・・斬っても失った器官が共に再生・・・個別の生命体へと・・・・・・――ビッ――」

その時、研究員の耳から何かが抜き取られた。

「これで聞こえるでしょ?ちゃんと会話しよーぜ。ディスクここにあるって本当?」

小金井は手に耳栓を持った状態で、デスクとパソコンに足をかけていた。

「ブツブツ独り言ばっかでガタガタやってて暗いな!で、なに?命令ばっかであんたは何もしない人?」

すると研究員は呆然とした表情だったが、すぐさま顔の陰影が濃くなり表情は一瞬で険しくなった。
数多くの吸殻が山盛りになっていた灰皿をグッと掴み、思い切り投げつける。

「おっと!」

勿論あたりはしなかったが。
すると今度は絨毯の隅に置いてあるインテリ風の観賞用植物に足をむけ、

――ガシャ!!ガシガシッ!!――

八つ当たり全開で蹴りまくった。

「ゼットォオオオ!!てめぇ馬鹿なにやってやがんだァ!!オレっちの空間に何も入れるなって言ったじゃねえかよ、マヌケーーーッ!!」

そこへきて矛先は部下にむかっていく。

「おかげで集中力が一気にパーだよ!また集中すんのにどれだけ労力が必要だと思う!?捕まってんじゃねェよ木偶の坊!!早くこの必要無しども殺しちまえよ!!」
「・・・・・・掴んだときの感触に違和感を感じましたが・・・もしかして、この方の体は?」
「あァ!?・・・・・・なんだ。気づいたのかよ」

研究員は憤怒の態度からゆったりと冷静さを取り戻し、バットの疑問に気づく。

「お察しの通りだよ。おいゼット、ちょっくら見せてやれ」

するとゼットは捕まえられた状態で、服のジッパーを下ろしていく。
その服のしたには

「お前だってゾンビだってトコをよォ」
「「!!?」」

腐り果てた異形の体があった。
バットも流石に正視に堪えなかったのか、心なしかゼットをはなした。

「そういうことですか。・・・・・・さっきの独り言から察するに、森の遺伝子で変貌していたゾンビ達のうち、人の心を残した貴重な個体。だが肉体の限界を越えたパワーと、腐敗と崩壊の進行を抑制すべく、仕方なく従わされている・・・といったところでしょうか」

「そういうことだ、百点満点だぜェ!そう、ゼットを侵食している森さんの細胞を抑える延命薬はオレっちだけが持っている」

研究員はその延命の為のカプセル型の錠剤のちらつかせる。

「ゼット・・・ご褒美欲しかったら暴れろ」
「了解・・・!!」

ゼットは崩れそうな声で応答し、小金井に向けて拳を振るう。
小金井は巧みに避けて研究員にこう言った。

「お前・・・自分が何やってるかわかってんのかよォォ!!お前それでも人間なのか!?」
「あーー。オレっちは人間様だァ。だけどこいつらは違うだろ?実験用のマウスにいちいち同情してたら科学の発展は望めねェ!」

――ピィィイイイ!!――

研究員の開き直りと同時にゾンビたちが笛の音を合図に襲ってくる。

(い・・・イヤだ・・・戦えない・・・)

真実を知り、小金井の心は揺さぶられる。

「何をボーっしてるんですか!」

バットはそんな小金井の前に立ち、ゾンビ達の急所やクビにチョップやパンチを繰り出していく。

「小金井薫・・・・・・なぜ戦おうとしない?」

ゼットはそう訊いた。

「・・・・・・戦えない。どうすればいいのか、俺にはわからない。今は怪物になっちゃったけど・・・・・・お前達も元々は人間で、今はその記憶がなくなってしまった。でもゼットは・・・まだ人間の心が残ってる。っとけばすぐに死んじゃう体を・・・・・・薬があれば命を延ばすことができるんだよね?」

小金井は返答しだす。

「お前達は悪くないのに・・・生きる為に戦わなくちゃいけないんだ。俺は・・・お前達と戦うことはできない。生きようとして戦うお前達に”やめろ”なんて無責任なこともいえないよ」

その表情は実に辛そうだ。

「・・・同情は要らん。人間として生きているお前らには本当の意味で我々の苦しみを理解することができない。・・・・・・で、結局どうするつもりだ?」
「わからない・・・何も出来ない・・・」

小金井はただうつむく。

「なら退いていなさい。後は全部、私が片付けます」
「バット、さん・・・」

バットは小金井の前に勇ましく立ち、全身に力を入れ始めた。

「人化形態封印――巨獣形態解放・・・!」

――パァァァアアア!!――

バットの体から眩い閃光が発せられた。
この場の全員がその光に眼を開けられずにいる。

そして光が収まった時には、

「「「ッッ!!?」」」
『キィィイイイイ!!』

巨大な蝙蝠が空中で鳴き声を上げていた。
その胸には悪刀『鐚』が刺さっており、ダークブルーの色をした体の皮膚中に血管が浮かんでいることが何よりの証明となっていた。
目の前の羽ばたく獣がバット・ダークの正体であることに。

「ひ・・・ひはは・・・・・・スッゲェェェ!!興味心がハンパないぞオイ!!ゼット、奴は生け捕りにしろ!後でタップリ構造調べてやる!」

研究員は狂喜乱舞してバットの姿を凝視した。

「・・・・・・お前らには憎しみも恨みも無いが、許せ。優しさで救われるモノには限りがある」

ゼットがそういって笛を鳴らした瞬間、バットは口を大きく開いた。

『ソニックノイズ!』

――ギュイイイィィィィン!!――

バットの口から発せられた超怪音波は凄まじく耳障りなもので、耳を塞がずにはいられなかった。
しかし、影響はそれだけではなかった。

『ギシャアアア!!』
『シュウウウウ!!』
『ギギギィィィ!!』

ゾンビ達は一斉に統制を失い、自分勝手に暴れだしたのだ。

「(あ、あの女・・・音波を利用してゾンビを逆に・・・)何してるゼット!笛で制御を取り返せ!」

研究員は怒号を飛ばすも、肝心のゼットは耳を塞いでいて意味を為さない。

不奏(かなでず)――完全なる不協和音の騒音ですが、阿呆の眼を覚ますには丁度良い」

――ビュウウウウウウウウン!!――

そこへある女の声が、凄まじい疾風の音と一緒に聞こえてきた。

「ホント。でも意外とカッコいいね、バットさんのそういう格好もさ」

後続してくる少女の声。
それは紛れも無かった。

「ふ・・・風子ねーちゃん・・・」
『金女さん・・・(巨獣形態封印――人化形態解放・・・!)』

小金井は嬉しそうに名を呼び、バットは業務的な声音で名を呟き人間形態に戻る。

そして、研究員は風子の右手に装着された魔導具と、金女が手に持っているメダルを眼にする。

「おっ・・・おおっ!風神にセルメダル!!?」

喜びが倍増した。

「来た来た来たよォォ!!おい、てめえら!あれとってこい!本物だぜ!今の風見たか?ホラ、取って来い!!」

研究員は無我夢中になってゾンビどもに命令を下した。
幸いバットが人型にもどった影響もあって、指揮の乱れはなおっていたのだ。

不来(きたらず)――あんまり寄り付かないでくれませんかね?」

――チャリーン!――

「変身」

金女はセルメダルを指ではじき、そのままバイスロットに入ったのを確認すると、即座にグラップアクセラレーターを捻った。

――パカッ!――

展開される球体状のフィールド。転送されてくる幾つ物リセプタクルオーブを起点に、両腕・両脚・胸部・背中・頭部といった部分がフレームとマスクで覆われていく。

不忍(しのばず)

仮面ライダーチェリオ、只今推参!

「新しい・・・仮面ライダー・・・?」

小金井は呆然としたようすでチェリオのビジュアルを眺めた。
勿論、研究員のやかましい声もあったが、この際全て聞き流しおこう。

「壁の直ぐ近くで盗み聞きさせてもらいましたが、随分不愉快なお話でしたね」
「だから手荒なことはしたくないけど、邪魔すんなら容赦しない!私たちは優しくないから」
「あららら、ひでーなァ!こいつら可哀相じゃねーかァ?生きる為に戦うしかない奴らにそりゃあんまりってもんだぜ!」
「我々はヒーローではなく、ただの高校生とただの人殺しですよ」

研究員の言葉を真っ向から切り捨てる言葉。

「困ってる人を全員救えるわけじゃないし、自分のできる範囲でしか救えない。ここへは友達を助けにきたんだ。冷たいようだけど、あんた達の為じゃない」
「私も所詮は金で雇われた傭兵崩れの忍者。依頼以外の余計なことはしたくありませんし、したくもありません。でも、それと関係なく一番貴方達のためにできることは」

「「其処のバカに天罰を喰らわせる」」

二人は声をそろえ、底冷えする表情と瞳で宣言する。
指差された研究員は煙草をくわえながらこう言い返す。

「はい?何言ってんのあんたら?オレっちはこいつら延命してやれる救世主なんだぜ?こいつらがそんなこと願ってるわけねーっしょ」
「関係ありません。取りあえず敵は斬り伏せるのみ」

チェリオと風子は歩いて研究員に近づくと、ゼットは笛を吹こうとする。

「ゼット・・・俺・・・ちょっと前にお前達と同じような人に会ったよ。その人達はさ・・・天堂地獄にさわって死ねない体になった。人間じゃなくなって何百年も生きてる、今も生きてる。その人たちが俺たちになんて言ったと思う?」

小金井はあたりったけの感情を込めた。

「人間ていいなァ・・・・・・我等を楽にしてくれって。あの人たち、最後は人間でいたかったんだよ」
「・・・・・・・・・」

ゼットは黙って聞いている。
その一方で、

「・・・オイ・・・なにやってんだよォゼットくん?ホラ・・・早く笛ふいて命令しろよ。こいつらを止めるようにってさァ」

研究員の危機は刻々と迫る。

「お前だって人間だろ、ゼット!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・ッ」

その時、ゼットの頭の中で何かが動いた。

――ブンッ!!――

それと同時に、研究員の体も二つの拳によってぶっ飛ばされた。

「ぐはッ!!」
「アホらし・・・」

いとも容易く机に体をぶつけた研究員の有様にチェリオは呆れる。
変身する必要さえあったのかと疑うほどだ。

「ちくしょ・・・こいつら・・・・・・ゼットォーーッ――バギッ!!――おぶ!!」

言葉を紡ぐ途中で顔面に風子とチェリオのけりがはいった。

「ゼット!!笛を・・・早く吹け!!」
「・・・・・・・・・・・・」

ただ沈黙するゼット。彼の心には、先ほど小金井の言葉が響き渡っていた。

――ゴン!――

「あぐ・・・・・・!!」
「不黙(だまらず)――いい加減、気を失って欲しいのですが」
「・・・ゼット・・・早く、命令を・・・」
(まだ言いますか)

研究員のしぶとさにチェリオは本気で呆れ始めた。
次の一撃で斬り殺そうかと思うくらいに。

一方でゼットは震える手で笛を吹こうとするも、
お前だって人間だろ・・・・・・そういってくれたときの感情が忘れられない。

――カツン――

とうとう、笛が床に落ちた。

「わからない・・・・・・」

そう呟いたゼット。
その瞬間、

――バンッ!――
――ガキン!――

研究員は風子めがけて拳銃を引き金を引いたが、チェリオは弾丸の軌道上に腕を添えて防御する。
研究員は舌打ちし、狙いをゼットに変えた。

「この出来損ないが・・・・・・!!」

――バンッ!――
――バリィィン!――

二度目の銃声。しかしそれも無駄に終わる。
バットの魔力で一時的に形成された氷の壁によって。

「なぜ・・・だ?なぜ俺を・・・?」
「理由はこのお子様から聞いてください」
「お子様言うんじゃねーよ!」

小金井は反論するが、反論したせいでより子供っぽく見える。

「さっき話した呪われた人達もさ、やっぱり俺たちを助けてくれたんだ!自分たちは何百年もずっと地下から出られなかったのに、俺たちを外に出そうと氷の中で道を教えてくれたんだ。だから、俺は今、生きてる!だから俺もお前を助けたい!」

小金井の顔には決意の二文字があった。

「ケッ・・・・・・」

――チャキ――
――斬ッ!――

「無粋な真似は許しません」

拳銃は忍刀の刃によってガラクタに変えられた。

「・・・・・・・・・もう一度聞こう。その呪われた者達も”人間”を望むのだな?こんな姿になった俺でも・・・・・・俺でも人間でいいんだな?」

小金井は頷いた。ただただ純粋に。

「そうか・・・」

ゼットは笛を手にした。

「そうだ、吹け!!こいつらを殺して風神とメダルを手に入れろ!!」

――ピイイイイイイイイイイ!!!!――

ゼットは全力で笛をふき、甲高く大きな音を奏でた。

『グル・・・・・・』
『ウゥゥ・・・・・・』

するとゾンビたちの動きは静かになり、皆一斉にハッチのなかの持ち場に帰っていく。

「ただ”生きたい”。こんな姿になった俺の考える事はそれだけだった。しかし少し間違っていたのかもしれん」

ゼットは”全てのゾンビ達の沈静”を行い、結論をだしていく。

「”人間らしく生きる”。例えその結果が死であろうと、惨めにみすぼらしく生き続けるよりはきっとマシだろう」
「ゼット・・・お前・・・」

小金井は涙混じりに声を出す。

「いいのだ。我々はもう日常には決して戻れない。薬もいずれ底を尽きる。なにより、生まれが最初から化物でも、人らしく美しく生きていける者とも出会えた」
「どういたしまして」

バットは社交辞令か、それとも本音か。かるくお辞儀をした。

「行け・・・」

そして五枚目のディスクを手渡すと同時に、

「生きろよ!!」

全てを託した。




*****

そして全てが終わった頃。

「・・・あーあ、逃がしちまいやがってマヌケがァ・・・・・・で?おめーはどうすんの?薬を奪うか、オレっちを殺して恨みをはらす?」

研究員はゼットを二人きりになった部屋で再びパソコンのデータを向き合っていた。

「薬はもう要らない。殺しもしない。最後まで人間として生きたいからな」
「ヘェ・・・・・・」

――ゴギャ!!――

ゼットは予告無く、拳でパソコンを粉砕した。

「さらばだ」

そして、『人間ゼット』はいずこかへ立ち去った。

「・・・・・・あーあ・・・バックアップデータまで・・・今までオレっちがやってきたことが全部パーですかい?」

研究員は煙草をデスクの表面に押し付けた。

「なーーんかどうでもよくなっちまったなァ」

研究員は大量の錠剤を取り出していく。

「大体よォ、てめーらうるせーんだ。研究に集中できやしねーよォ・・・・・・静かになったし・・・寝るか・・・・・・」

研究員は何十粒もの睡眠薬を一気に飲み干した。

「そういえ、四日も寝てねえ―――」

生きるとか死ぬとか、どうでもいいじゃねェの。
長いか短いか、早いか遅いか、それだけのことだろ?

そして男は、永遠の眠りにつき、二度と目覚めることはなかった。



次回、仮面ライダーブライ

DEATHと蛭湖とジョーカー


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