仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!


一つ!奇跡的に生き延びていた門都を再殺する為、ジョーカーはクロアリヤミー共々ブラックホールに呑まれた!

二つ!かつて裏麗首領の螺閃は、光界玉の力で陽炎の”時の呪い”を解呪した!

そして三つ!風子と金女は、雷神が手にした雷覇と遭遇し、戦うこととなる!

全装備と師弟と巡狂座


今から十五年前。
そこは異なる次元にある異なる世界で、幼かった頃の彼女は、乱世の犠牲を食い物にして生き延びていた。

血に染まった土と丘。そこに重なる死屍累々。漂う屍たちの腐り行く臭い。
そしてその死者達は、皆戦国時代や江戸時代での鎧や具足、槍や刀などを持っていた。

その死人の集まりとも言えそうな悪趣味な悲劇の空間で、たった一人の少女が屍を座り台にして何かを食べていた。
およそ八歳か九歳くらいだろうか?そんな幼い少女が死体から食べ物や物品を漁って生きる糧としていた。

――ムシャムシャ・・・・・・――

口いっぱいに御結びを頬張る少女。
その表情はじつに混沌としていて、瞳の光は何もかも失っいた。

しかしそこへ少女に近づく一つの人影があった。

「・・・・・・ッ」

少女はすぐさま気がついた。こんな生活を送っているだけに、人の気配や視線には敏感になっていたのだ。

「死人を喰らう小鬼が出ると聞き、面白半分で来てみたが、これはまた可愛らしい小鬼がいたものだな」

近づいてきたのは一人の青年だった。
ただし、身につけているのは通常の物とは些か意匠の異なる忍び装束で、腰には忍者刀を差している。
紛れも無く忍者だ、と少女は確信した。

――バッ――

少女は死体から飛び降りて、懐から血で染まった小太刀を取り出して、切っ先を忍者に向けた。

「それも死人から取り上げたのか」

忍者はいたって平凡な口調で喋る。

「・・・・・・一見かなりみすぼらしい姿だが、ある意味その”逃げも隠れもしない”態度は立派だな。そうして女の童子(わらし)の身で独り、自分を守ってきたのだからな」

忍者は少女の所業を否定ではなく肯定した。

「しかし、その刀はもう不要だ。敵に怯え、自分を守る為だけの刀など、捨ててしまえ」

忍者はそう言うと、腰に帯刀していた忍者刀を取り外し、気分良く少女に投げ渡した。

「ッッ!?」

少女は忍者の行動にとても驚いたが、ギリギリで忍者刀を受け止めた。

「くれてやろう、私の刀。だからもう、そんな血塗れた刀は捨ててしまえ」
「・・・・・・・・・」

少女は混沌とした瞳で忍者を見やる。
当の忍者は、少女に忍者刀をやると、そのまま背を向けて帰ろうとする。

(それ)の本当の使い方と、生きる術を知りたかったら、ついて来るといい」

忍者は堂々とそう言い放った。

「・・・・・・・・・・・・ッッ」

少女は渡された忍者刀を少し眺めていたが、一度眼を閉じて、再び開くと同時に走った。
そして忍者の背中めがけて、

――ビョン――

跳躍して忍者の背中におぶさる姿勢をとった。
いきなりの出来事に対し、忍者は対して驚いた様子も見せず、余裕の表情である。
そのまま忍者は少女を背負いながら歩き、少女にこう訊いた。

「お前の名前は?」
「・・・金女(かなめ)・・・」

それが、忍者と少女の、初めての出逢いであり会話だった。

「その刀の使い方、今から簡単に二つだけ教えてやろう」

忍者は誇らしげな口調で少女に説いた。

「敵を斬るのではなく、弱き自分を斬る為に。己を守るのではなく、己の魂を守る為に」





*****

少女が忍者に拾われ弟子となってから十年後。少女は十八歳となり、少女とは言えない歳となり、幼い頃に拾われた時には想像もつかないほど美しく成長していた。
彼女が忍者から全ての技術を譲り受け、見事免許皆伝となって間もない頃、忍者は親友に殺された。

「師匠!師匠!!」
「か・・・な・・・め・・・・・・」

弟子の腕の中で言葉を紡ごうとする忍者。
その顔に表情はない。いや、親友によって削ぎ盗られてしまったのだ。

「なぜ・・・何故だ!?なんで師匠の親友である貴方が師匠を!!?」

弟子は必死になって目の前にいる男に叫び問う。
袖を切り落として体中に鎖を巻いた奇抜な忍装束を着込んだ鳥の如き忍者へと。
その手には削ぎ盗った忍者の面の皮がある。

「我ら真庭忍軍の為、お前の師匠・・・・・・我の親友の顔と人格を貰い受ける。我が忍法『命結び』によってな」

親友はそういって削ぎ盗った面の皮を自らの顔に貼り付けて去って行く。

「待て鳳凰(ほうおう)!!」

弟子は苦無や手裏剣を有りっ丈取り出して投げるも、親友は避けるか弾くかして防ぎ、もはや弟子の力では追いつかない所にまで逃げてしまった。

「くそ・・・くそっ・・・・・・ちくしょうぉぉぉおおおおお!!!!」

自分を救ってくれた師匠を殺した親友に対して、最も敬愛する師匠を助けることも出来なかった自分に対して、弟子は喉が潰れん限りに叫び続けた。

その腕の中に、顔の上半分を削ぎ盗られ、『心を殺された』師匠の体を抱きしめながら。





*****

あの忌々しい事件からどれ程の月日が経ったか?
弟子は師匠の下を離れる事を決意した。

「今まで御世話になりました」
「あぁ・・・私も今まで楽しかったよ」

新しい主と出会って師匠は変わり果てた。
服装は上下ともに正装たる洋装。顔の上半分には主人より半強制的に頂戴させられた『不忍(しのばず)』の文字が縦に並ぶ仮面をするようになった。

弟子が憧れ続けた師匠は、忍者であることを捨て去った。かつての誇りさえ捨て去った。

「本当にこれでいいのか?私と共に、姫様の下で働くこともできるのだが・・・・・・」
「私が憧れた師匠は亡くなった。それに、今の私の恩人である師匠は、誰かに仕えるような忍者ではなかった」

弟子はかつての師匠と共に歩むことを拒んだ。

「それに、私は・・・・・・」

弟子は自作した忍装束で身を包み、マフラーと一体化したかのような覆面で顔の下半分を隠しながらこう言った。

「私はあの否定女が嫌いですから」
「・・・・・・そうか」
「でも、私は自分のことも嫌いです。だから戒めに、貴方と同じ『不』の一文字を冠しましょう」

それが弟子と師匠の最後の会話となった。

「さようなら、(はがね)金女(かなめ)
「さようなら、左右田(そうだ)右衛門左衛門(えもんざえもん)さん」





*****

HELL OR HEAVEN
ルートE

雷覇の言葉。
それは自らを火影の子孫と名乗る言葉。
しかし何故「卑怯者」という単語を使ったのか?

答えは簡単だ。



天正四年。
静かであった火影の里に、近江・美濃・尾張国の織田(おだ)上総介(かずさのすけ)信長(のぶなが)の軍勢が攻め込んだ。
忍者の力を恐れた信長は数多の忍の里を焼いたが、それらとは違う意味合いがこの襲撃にはあった。

火影魔導具。

天下を欲する信長は、この神秘の武具を欲した。
初めて本格的に種子島(てっぽう)を戦に投入した策士は新しき力に大いなる魅力を感じたのだろう。

勇気ある火影の民は、魔導具が信長の手に渡った後の世をおもい――魔導具を隠し、自分たちの力だけで戦うことを決意した。

しかし―――

家族同然であった仲間達が死んで逝くなか、我が身可愛さに里を捨て、逃げる者達が居た。
女も・・・子供も・・・身重の母も火影として死んで逝く。
その屍の上を歩き、逃げた卑怯者の火影の忍!



「憎むべき裏切り者。私にはその血が流れている。私は・・・・・・この血を恥じている。しかし、あの御方はそんな私を信じてくれている」

雷覇にとっての紅麗は―――

「火影忍軍の首領なる炎術士が、裏切り者の子孫を共に戦い従者として認めてくれる。これを・・・喜びと言わずしてなんと言うのか・・・?」

雷覇は懐からある物を取り出した。
それは紙―――血文字で名前が三つ書かれた紙だ。

「これは。十神衆の三人が紅麗様の為に命をかけて戦うことを誓った証。血判状です。磁生という大男は、魔元紗に殺された後も紅麗様の炎と化し、その誓約を今も守っている。音遠は、森光蘭に殺されかかった紅麗様を命懸けで救い、彼をまた戦地へと羽ばたかせた」

となれば残るは、

「次は私の番」

――カカカッ!!――

すると風子の足元に三つの手裏剣が投げられる。

「先祖の失態はこの身を以って晴らす!例え相手が誰であろうと私は絶対に逃げることは無い!戦ってください風子!無抵抗のまま殺すのは、余りに不憫」
不面白(おもしろからず)――何を偉そうに長語りしてるんですか?このヤサロン毛が」

雷覇の風子への語りに、チェリオが割り込んできた。

不成(なさず)――貴方は言ってる事とやってる事が矛盾してるし、全てにおいて私を苛立たせますね」
「何のことですか?」

突如発生しだしたチェリオの怒気に雷覇は奇妙な感覚を覚える。

「本当に紅麗の為に戦いたいなら、こんなトコで油売らずにザコだろうが死四天だろうが倒して上に上がって行けばいいでしょう。紅麗が思いっきり森と海魔のいる天堂地獄を壊せるようお膳立てすることでしょ?なのになんで邪魔する意志のない私達の前に立つんですか?」

チェリオは雷覇に対し、追いかけるような強い口調で問いかける。

「本当はその雷神が怖いんじゃないですか?その凶暴性が紅麗の大事な一瞬を台無しにするんじゃないかと思ってたんじゃないですか?でも自分だけの力で紅麗の役に立てるかどうか、そんな疑惑の念ゆえに雷神を自分から捨てられずに訳の判らない御託を並べて風子さんと風神に忌まわしい力を如何にかして貰おうと都合の良い思考回路をしてるんじゃないんですか!?」

チェリオの口調がどんどん強迫じみたものになっていく。

それと同時に彼女が歩き出し、自分の足で一歩ずつ雷覇に近よっていく。

「貴方は力を捨てる覚悟さえ定まりきらない只の臆病者だ」
「・・・・・・違う・・・・・・」

ここで初めて雷覇が反論した。

「風子さんは仲間と共にあることで決して折れることの無い強い人です。そんな人が臆病者と戦うなんて、これほど贅沢なモノはありません」
「ちょ・・・ちょっと言い過ぎじゃ・・・?」

風子はチェリオの物言いに少し制動をかけようとするも、チェリオは止まらない。
遂には雷覇とは目と鼻の距離にまで近づき、肩をガシっと掴んだ。

「臆病者の相手は同じ臆病者で充分です。貴方の相手など、この私で、充分だ・・・!」

そう、自分は師匠一人さえ背負い返すことも出来なかった臆病者だ。
命の恩人に何一つ返すことができなかった只の大馬鹿者でしかない。

「黙れ・・・!」
「貴方に、恩義を語る資格は無い!」

チェリオは、あの日―――自分を独りの世界から連れ出してくれた師匠の背中の大きさと暖かさを思い出す。

「貴方なんかに、恩義ごと誰か背負う背中が、あるかぁぁぁあああああ!!!!」


――ゴンッ!!!――


チェリオの頭突きが、雷覇の額に凄まじい衝撃を与え、周囲の空気に激しい音の波を震わした。

「・・・・・・金女ちゃ・・・いや、金女さん」

その時に風子は、金女のことを敬称で呼ぶべき存在として再認識した。

だがしかし、

『ヴォォォおおおおお!!!』

一匹の獣の咆哮が叫び散らされた。
それは言うまでも無く雷神の咆哮。

『くノ一よ。だらだらと語りおって、お陰で我が主の戦意がそがれてしまったではないか?』
「だったらそこを突いて勝負を終わらせるだけですよ」

金女は雷神に対し厳しい口調でそう宣言する。
その手には幾枚ものセルメダル。

不在(おらず)――雷神。私は貴方の存在を『否定』する」

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――
――キリッキリッ――
――パカン!――

≪SETTOU・ROU≫
≪ANTOU・KAMA≫
≪SHATOU・GEN≫
≪TOUTOU・NAMARI≫
≪CHINTOU・OMORI≫
≪HITOU・HASAMI≫

全ての擬似変体刀が一斉に装着された。
その姿が圧巻であったし、忍者的スタイルのチェリオには不恰好ともいえた。
しかし、決して弱そうには見えなかった。

「チェリオ・グッバイ」

別れの言葉を二重に纏った重装甲形態、それが『チェリオ・グッバイ』。

『面白い!雷覇よ、貴様の生命力を捧げよ!全てを終わらせる!!』
「・・・・・・・・・」

――グサッ!――

尾針が雷覇の首に刺さった。
そして意識が途絶える間際に雷覇はチェリオの姿を見て、

(ソウ・・・カ。ダカラ 貴方は 強インデスネ・・・)

片言になりかけだったが、金女の秘める何かに少しでも気付いた。

『わはははははははは!!漲る!力が漲るぞォーーっ!!許さぬぞ、くノ一、風神、女!最早構わぬ!!雷覇の命を全て使うた力を食らわせてやる!!』
「ならばこちらも・・・!」
『死ね・・・!』
『拙い!あれを使うよ、ゴシュジン!』

様々な者達の思いが交差する。

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――

≪CELL BURST≫

チェリオは大量のセルメダルを投入する。

『束ね束ねよ幾重にも・・・!』

雷神は己一個に全ての力を集中させる。
それによって発動する奥義の名は、


降御雷(ふるみかずち)


それは正しく、雷神と銘をうたれた魔導具に相応しき、天上をも突き破り、燃やし焦がす程の一撃だった。

勿論風子もチェリオも黙ってやられるわけではない。
風子は風神の化身を一個のボール状の風の凝縮体に変形させている。

風魂(かざだま)ぁーーっ!!!」
漆填抜刀(しちてんばっとう)!!!!」


――ギガァァァアアアアアアア!!!!――


そうして、三人の奥義が凄まじい鬩ぎ合いを始めた。

「風子さん・・・!こんな時にあれですが・・・不迷(まよわず)
不迷(まよわず)?」
「そう、もし今貴女が心に迷いを持つなら、今まで自分がやってきたことを忘れなさい。只今目の前にある、己が叶えたい欲望という信念に眼を向けなさい!」
「信念・・・・・・」

風子は正直な話、迷いかけていた。
今まで自分が誰かに吐いてきた言葉と、それに矛盾する今までの気持ち。
それを自分で自問自答していたら、きっと戦いに集中できなかっただろう。
だが今は違う。

――ガッ!――

頼れるバカが今、ここに来て、彼女の背中を支えてくれているから。

「いいぞ風子!もっと力を込めてやれ!しっかりと、前を見てな!」
「土門・・・!!」

ルートCに居たはずの土門と、

「金女さん。今の台詞、ちょっと痺れたっすよ?」
「凍空さん・・・?」

吹雪がやってきた。

「なんで・・・お前らここにいるんだ?違うエレベーター乗ったのに・・・なあ?」

さらに風子は自分の右肩を支えている土門の手を見る。

「その手・・・不自然だぞ?折れてる・・・・・・!」

風子は土門の状態に少々動揺する。
しかし当の土門は冷静な表情で人形状態の雷覇を見た。

『カァァアアアアアアア!!!』

雷神はそこで更に出力を上昇させた。
それによって少しだけチェリオと風神の技が押される。

「なあ風子?思えばお前はどんだけ戦っても逃げなかったな。エロ野郎の藤丸、餓紗喰、、命・・・・・・火影唯一の女だったけどよ、女だからって楽してる時なんて一度もなかった!」

土門は折れた手で風子を支え続ける。

「それが当たり前みたいになってて、みんな風子だけは特別に強いって思ってる。男勝りの爆弾娘だと思ってる。お前自身ですらな。違うんだなぁ。特別な存在でも何でもねーんだ!」

土門は肩から手へと、支えるべき部位を変え、折れた右手を使う痛みに眉をピクリとも動かさずに話しかける。

「戦いの前には震えているような、女らしい女の子なんだぜ」
「・・・・・・・・・ッ」

その言葉に、風子は無性に嬉しくなった。

「人が死ぬトコだって見てきた。十代の女の子とは思えないほど、体には一生残るキズもできた。それでも逃げねえ!止めたって聞かねえ!呆れた女の子様だ!だからよ、支えてやる」

『もっと!!もっとだァァ!!生命の力を、力を捧げよ雷覇ぁ!!』

――ドクン!――

「カハ・・・ッ」

一気に生命力を吸い上げられ、雷覇は吐血を床に零した。

「弱音吐いたっていい!泣いたっていい!俺が支えてやる!一生支えてやる!俺は男だからな!!」

その間にも雷の出力はどんどん上昇していく。

『ぐぐッ・・・・・・!!鋼妹のお陰で如何にか力は均等だけど、これ以上雷神が・・・・・・雷覇の命を使い切って来たら・・・!!』
「不案(あんじず)!そんなに案ずることはありませんよ、風神ちゃん。貴方の主人には、頼もしい人がいます!」
『・・・うん、そうだったね!』

風神はチェリオの言葉を聞き、再び気力を振り絞る。
体中の装備からセルメダルのエネルギーを放出しまくって共に戦ってくれる仲間の声を聞いて。

「しっかり支えてやがれ、土門!逃げねーぞ!雷神壊すぞ!!」
『身の程を知れ、小娘!!我こそは、海魔より生まれし最強の魔導具雷神よ!!!』

――ドギュウウウウウウウウ!!!――

さらに雷撃の威力が上昇する。

「ならば、メダルを・・・!」

チェリオがさらに何枚かのセルメダルを使おうとしたその時、

――カチ、カチ。カチン・・・・・・――

「!?」

風神の小玉スペースに三つの魔導具の核がセットされていたのだ。

「嘴・・・鉄・・・土ィ!?これ・・・・・・俺の魔導具の核か!!?」

持ち主たる土門もこの現象に驚くほかない。

――カチ・・・ン――

そしてもう一個。
神慮伸刀の核。
まるで緋水からの応援のようにも見えた。

「これは・・・・・・行ける!!」

金女は確実な勝機を掴み取ったことを実感した。

――チャリン、チャリン――

≪CELL BURST≫

その瞬間、風魂は猛烈な変化を遂げた。
優しい球状から、エモノを求める獰猛な獣の如き姿へと変わっていく。
そして漆填抜刀と合体し、さらに巨大に成長していったのだ。

『風魂が変化!?バカな・・・・・・!!?』

そう思った時にはもう遅い。
雷神本体は、幾つもの人達の思いを乗せた渾身の一撃の刃に貫かれていた。

『ガファ・・・!!壊れる!!?我は海魔の造りし魔導具雷神ぞ!!?雷神が風神に負けるのか!!?』
「雷神。貴方は風神だけじゃなく、私や火影に負けたんです」
『ギュ・・・ギュボ・・・・・・!!ギィイイィヤァアアアーーーーーッ!!!!』

――バリン!!――

雷神の核は、無様な悲鳴を背景に砕け散った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くッ」

そうして漸く雷覇が意識を取り戻した。

「雷神が・・・負けたのか・・・」

あれだけ生命力を攻撃力に変換されてもなお、生きていられるというのは賞賛に値するだろう。

「・・・・・・・・・風子さんは、生きてますか?」
「あたりめーだ!力使いすぎて気絶しただけだ!」
「そうですか」

そうして雷覇は、チェリオの頭突きが原因で額から血を流しながらも、

「良かった」

心から嬉しそうに笑った。

「あの、雷覇さん。あんたひょっとして最初から霧沢さん殺すつもりは無かったんじゃないっすか?」
「そうですよ」

吹雪の問いに雷覇はあっさり答えた。

「やっぱり・・・・・・紅麗にとっても火影の人間は敵。ならば、その一員である霧沢さんも敵。忠誠ゆえに例外は作れなかったというわけっすか」
「ハッキリ言うと・・・私はそこにいる彼女の言うとおり、力を手放すのを恐れ、他人の壊して貰いたかった臆病者かもしれませんね」

雷覇は自分に呆れ果てたように笑う。

「貴女のお名前、まだ聞いてませんでしたね」
「相生忍軍所属、鋼金女」

変身を解除した金女は真っ直ぐ眼を見据えて名乗った。

「お願いがあります、石島土門、鋼金女。天堂地獄を必ず討ってください。風子さんをよろしくお願いします」

雷覇は真剣みがあり、優しい表情でそういった。

「言われるまでもねーや!」
「不別(わかれず)――何時かまた会いましょう、雷覇さん」
「んじゃ!」

そうして火影の面々は去っていった。

そして一人残った雷覇。

「雷神は粉々・・・右腕は使い物にならない。おまけに生命力を吸われ続けて立つのがやっと・・・これではもう戦えませんね。紅麗様の足手纏いになってしまいます」

それは独り言ではなかった。

「結局、私だけ彼の役には立てなかったですね。音遠」
「血判状・・・あんたが持ってたのね、コレ」

そこには本当に音遠がきていた。

「此処に来てたんですねぇ。紅麗様から戦線を引くように言われてたはずなのに、困ったお方だ」
「引き際の悪い女でね。私にとってあの方以上の男なんていないもの。知ってるでしょ?」

音遠の清清しい表情に、雷覇はニコニコとしていた。

「霧沢風子・・・というか鋼金女との戦い、つらかった?随分ボロクソに言われてたけど、逃げたくなかった?」
「逃げませんでしたよ」

雷覇は誇らしげに答えた。

「・・・お前は昔から自分に”裏切り者の血”が流れていることを恥じていたけどね、戦い・・・傷つき・・・流れた血は忠義の証だ!四百年も昔の先祖の行いが・・・血がお前のアイデンティティか?それが理由でお前は十神衆になったのか?違うね!お前は紅麗様が好きだから仕えたんだろ?」

音遠は遠慮なく自分の意見を吐き出す。

「死に逝く者、裏切る者が十神衆を少数部隊にしていった。最後の戦いで紅麗様の側に残ったのはたったの二人。その者こそが紅麗様が最も信頼していた人間に他ならない!」

そしてこう言って見せた。

「あの方にとってお前以上の忍はいない。雷覇!」

例え誰がなんと言おうと、紅麗は雷覇を永遠の従者として認め続ける。
それだけは確かだ。

「ハッキリ言って嫉妬してるけどさ!そこまで彼に心を許させる存在のあんたが、役に立たないなんて皮肉も、いい所!鋼刃介の妹が何を言おうと、あんたが臆病者なんかじゃない!」

音遠は雷覇の服の胸倉を掴みながらさらにこう続ける。

「胸をはれ、昼行灯。お前は”火影の子孫”という人間じゃない。”十神衆雷覇”という人間だ!これからも彼の力になれる。お前こそ忠義の士だから・・・」
「・・・もったいない・・・言葉ですねぇ・・・・・・」





*****

ルートG
水鏡凍季也
鑢七実

二人は今、進むべき道を進み、一つの扉の前に辿りついた。
そして、その扉の向こうには―――


岩を削って作ったようなただっ広く殺風景な部屋の中央を陣取る一人の老人と一体の異形。
そしてその近くにいる若者だけだった。


「師・・・巡・・・狂座!」

スキンヘッドで長い白髭を蓄えた上、体中に鉄球付きの枷を付けた老人を、水鏡は師と呼んだ。

その時思い出されるのは、兄弟子の戒の言葉。

――お前の姉を殺したのは、巡狂座――

「くッ・・・(落ち着け!)」

水鏡は己の意識を必死に鎮める。

「・・・・・・これはまた、歪なヤミーを」

一方七実は座って胡坐をかく巡狂座とは対照的に、只佇むヤミーに眼をやった。
正直言ってこれほど多くの種類を混ぜ合わせたヤミーは見たことが無いが、ある意味これは七実がここに来ることを見越した竜王の策なのかもしれない。

以前現れたタトバヤミーに更なるパーツが付け足されていた。
頭はそのままだが、片腕がゴリラで片脚がタコのそれとなっている。

いうなれば”タトゴバタヤミー”と呼ぶべきなのかもしれない。

「お久しぶりですね、師・・・・・・お変わりないようで」

一方水鏡は師匠に挨拶するも、彼に返答というアクションが起こらない。

「置けばいいんだな?」

すると顔に包帯を巻きつけた若者が両腕に抱えていた布に包まれた大きな荷物を地面に突き刺した。
当然布が外れて・・・・・・

「それは!?(戒の・・・氷魔閻!?)」
「水鏡・・・・・・これより先なにが起こるか、主は知っておる。さすればこの枷を斬ってはくれぬか?」

巡狂座は胡坐しながらそう頼む。

「・・・・・・僕は貴方と戦う気で来たのではありません。全てを知る為にここに来ました!お聞きしたいことがあります!姉を「水鏡―――」

巡狂座は弟子の意見などまるで聞く耳をもたずに、

「枷を斬ってくれぬか」

頼むというより命ずるように言って見せた。

「・・・・・・・・・・・・」

――ザシャッ!!――

水鏡は少し迷ったが、振るわれた閻水の一太刀は一瞬で全ての枷の鎖を断ち切った。

――ドン!ドン!――
――ジャラジャラ!――

崩れる枷の音。

巡狂座は気にも留めずに左手に氷魔閻を装着した。

「ふむ・・・・・・上手くなったな、水鏡。それに・・・・・・いや、もう少し確かめてみるか」

弟子の成長を喜び、老人らしい優しい笑顔になる。
しかしその直後、

「久方ぶりに刃を交えてみたい」

戦え、と直球に言ってきたのと等しい。

「どうやら説得しても聞かなそうですね
「その女の言うとおり。久方ぶりに刃を交えてみたい」

巡狂座は決して我を曲げる気は無い様子だ。

「ふひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

すると若者が大笑いする。

「ほんっとガンコなジイさんだぜ!葵さんに死なせないように丁重に扱えって言われてたんだからよ!飯も水もやったのに、絶対口にしねぇんだ!人の言う事聞きやしねぇ!言う事聞くしかねーぞ、色男!」

その瞬間、

――ガキン!!――

金属が金属を弾く音がした。

『余所見するとは、らしくないですね』

そこにはグリード化した七実が手刀を構えていた。

「ほう、噂通りの使い手だな。確かにこやつ程の力なら、人間では到底太刀打ちできまい」

と、巡狂座は過小評価も過大評価もしなかった。

「ところで水鏡、ワシの体を朱に染めよ。一太刀入れるたび・・・その度少しずつ・・・・・・真実を語ろうではないか」

それを聞いた時に思い出されたのは修行したての頃の話。
巡狂座に木刀で一太刀入れればその日の修行は終わるという至極簡単なもの。

「あの頃は結局、最後までいれることができなかった・・・」

清清しい表情でそういった水鏡は一瞬で地を蹴って師匠の眼前に躍り出た。

「これは水傀儡」

巡狂座はバっと判断を下すと、後ろから迫るもう一人の水鏡にザクっと刃を突きたてた。

――バシャ!――

「おお!」

そして漸く気づいた。
だが既に肩を浅く斬られていた。

『・・・・・・・・・気を傀儡と本体とで』

タトゴバタヤミーは独り言をいうように呟く。

「ホホホ!本当に上手くなっておる!傀儡に気をずらすとは、やられたな!」

巡狂座はこの程度では倒れない。未だに余裕がある。

「どれ、一つ語るか。まず主の姉の仇―――」
(嘘で・・・嘘であってくれ!!)
「あれは・・・・・・巡狂座に相違ない」

嘘にはならなかった。





*****

数年前、水鏡が巡狂座に拾われ、食事をしているとき。

「喰え」

日本の食卓によくある和の食事。
白米が盛られた茶碗、焼き魚の乗った皿、味噌汁の注がれた入れ物。

「旨いか?」
「不味い。姉ちゃんの御飯の方が旨かった」

ナマイキにかつての水鏡はそうツッパった。

「凍季也。姉を殺めた者が憎いか?」
「憎いさ!!殺してやる、殺してやる!!絶対に殺してやる!!」
「ならば恐れるな。それを成したくばお前は進んで地獄に堕ちよ。地獄の底より這い上がり鬼神の力を手に入れよ。そして何時の日か姉の仇が目の前に現れた時は・・・忘れるな・・・迷わず斬り殺せ」





*****

「嘘だ・・・・・・そんな話信じない!!僕はあの時犯人をこの眼で見ている!!嘘をつくのはやめてくれ!!」

水鏡は有りっ丈の声を張り上げる。

「仇どころか・・・・・・・・・あの日以来身寄りをなくした僕を・・・・・・育ててくれた、強くしてくれた・・・・・・・・・恩人じゃないか」
『水鏡さん。無粋な事を言うようで申し訳ありませんが、あの御老人は嘘を言っている眼でも雰囲気でもありません。直接的な意味でなく、間接的な意味で自分が殺した・・・と言っているのでは?』
「ッ!」

その一言で水鏡は何かに勘付き始めた。

「異形の女よ。剣士と剣士の果し合いに横から口を出さないでもらおう」
『おや、すいません』

七実は素直に謝った。

「水鏡よ、次なる真実を求めるならこの体を更に朱に染めよ」

巡狂座は威圧感を垂れ流して水鏡に一気に駆け寄る。

――カキン!ギン!ピン!――

閻水と氷魔閻。
二つの刃が幾たびも重なり合う。

『・・・・・・あれが水鏡。・・・巡狂座の弟子・・・』

その戦いを見ていたタトゴバタヤミーがまた呟く。

『しかし・・・・・・あれではな・・・』

そして、鷹の目で見抜いていた。

(・・・昔から、一度口にしたことは決して曲げぬ方だ。一度閉じた口を無理に開かせようとしても無意味。ならば・・・・・・)

次の瞬間、

――バジュ!――

先の斬り合いで、二人の肩から血液が流れ出た。

「その気になってきたようだな、水鏡。真実をしってゆけ。ワシは麗の一員だ。麗は魔導具を欲しておったな」

その言葉に対して水鏡は、

「・・・・・・もし、それが真実だとして、麗の巡狂座が姉の持っていた閻水を奪う為に姉さんを殺したとしても、姉から閻水を奪うことはなかった。姉から僕の手に渡った後も、あの頃幾らでも奪う機会のあった閻水に手を出していない」

水鏡は矛盾点を糾弾する。

『貴方はなんの為に回りくどく、そして本当のことを言うのですか?』
「其方の気にすることではない。・・・死合を続けるぞ、水鏡・・・・・・」

だがその直後、

「ぶはっ!!」

巡狂座が吐血した。

「師匠!!?」
『高齢の身にあれだけ鞭を打ったのだ。普通なら栄養失調でとっくにギブアップのはずなんだがな』
「おい水鏡に虚刀流っての!!なにしたいかは知らないがもう終わりだ!!行きてぇならもう上に行っちまってくれよ!!巡りのジジィも止めやがれ!!」

すると若者が巡狂座を案じて止めるようにいう。

『人間よ。水鏡一人ならいざ知らず、虚刀流を通すことが絶対にまかりならん』
「だけどよ、ヨボヨボのジジィのこんな場面・・・気分最悪だよ・・・」

どうやらこの若者、日陰者の割には案外気が善いほうらしい。


だが、水鏡は決して止まるわけにはいかない。
師匠が嘘のような回りくどい言葉の裏に隠す真実をしる為にも。

そして何より、閻水の刃さえ満足に形にできなかった頃の自分をここまでの剣士に仕上げてくれた師匠の、秀才と言われるまでの頭脳の基礎を叩き込んでくれた恩師の、そして風邪で寝込んだ時に看病してくれたり一緒の風呂がまに笑顔で入ってくれた恩人という名の、もう一人の父親の素顔を知る為に。


「水鏡・・・・・・言った筈だ。姉の仇が眼前に現れし時は迷わず斬れと!斬れ!!そして全ての真実をしってゆけ!!」

眼を見開き、血走った眼で此方をにらむ巡狂座、

――想いが遂げられた時死しか残らなかった、私のようになるなよ――

一方で水鏡の脳裏には、あの男の言葉が浮かんでいた。

(そうか・・・・・・戒!!お前が教えてくれた・・・!方法はある!!)

――ピキパキ・・・っ!!――

水鏡は閻水の刃を凍りつかせた。

『お手並み拝見ですね』

氷紋剣の師弟対決が開始された。

――ギンッ!――

水鏡は氷の刃を四つの小さな氷塊として分離させる。その配置は東西南北を描くようにされている。

(全ての刃を使って”蛇”をつくる?これを最後の一撃に決めたか、水鏡!)

巡狂座の読みどおり、四つの氷塊は互いに形を変えて絡み合い、巨大な形をなしていく。
元の大きさや質量を遥かに越え、相乗効果としかいいようのない大きさになっていく。
そうして完成された造形はそのままこの技の名となった。

「氷成る蛇!!」

『ほう。正しくは氷の蛇。氷紋剣、ですか。思ったより興味深いですね』

七実ははじめて見る氷紋剣の技に関心をもった。

――ガグァァ!!――

大きな口を開いてかみ殺そうと牙を向ける氷の大蛇を、巡狂座は力技で止めて見せた。

「ホッホ!なんと重い蛇!老体にはこたえる。流石は金の資質をもつ水鏡!しかし―――」

――ピキ・・・ッ――

氷魔閻の刃と接している氷成る蛇の口が裂けようとしている。
だが、

――グルン!――

蛇は突然動きを変えて、攻撃ではなく捕縛を行う。
それも左腕の氷魔閻を重点的にしてだ。

「腕をとる?まさか・・・・・・!」
「戒は僕との死闘での末、自ら命を絶った。己の武器で」

身動きのとれない巡狂座に水鏡が近寄る。
その手に赤黒い刃を携えて。

(血の刃、そんな切札を・・・・・・!!)

こんな芸当はあらゆる液体を刀身とする閻水ならではだ。

「簡単なことを見落としていた。あと一撃でこの戦いを終わらせることができる」

するとそこへ、

『血だ!!血をくれ!!この氷魔閻に血を!!水鏡の血を!!』
「飲めよ」

やかましく語る氷魔閻に水鏡は死刑宣告のように言い放った。

――ズギャ!!!――

『プギ・・・――――』

血の刃が、氷魔閻の核を突き砕いた。

――バリィィン!!――

核を失い、氷魔閻という魔導具は此の世から消滅する。

『上手い手だな。如何なる達人といえども、剣士である以上は、武器なくして戦えまい』

敗北決定にも関わらず、タトゴバタヤミーは腕を組みながら、水鏡の戦法を評価する。

「師・・・巡狂座。勝負ありです」

水鏡は清く澄み渡った聖水のように笑って見せた。

「良い顔で笑うようになったなぁ。お前は変わったよ、水鏡」

それに反応し、巡狂座も好々爺のように優しく微笑んだ。
しかし、



巡狂座は吐血した。



「師匠!!?」
「かまわん・・・死期が近いのはワシが一番良くわかっとる。どの道あと三日はもたなかっただろう」

巡狂座は自らの命に執着する様子などなく、その苦しそうでも凛然であろうとする態度は正しく武人。

「間に合った。やっとお前や美冬に罪滅ぼしができるのだ・・・・・・そして・・・・・・全ての真実を語ろう。我が孫凍季也に―――八年前・・・・・・」

そして、巡狂座は語った。全ての真実を



八年前、水鏡の両親が死んだ事から全てが始まった。
当時はまだ存命中だった水鏡の実姉である美冬(みふゆ)は巡狂座の住まう和風屋敷の呼ばれていた。
その時に巡狂座が述べた言葉はとんでもないものだった。

”凍季也を氷紋剣伝承者にする”というものだったのだ。

当然これには美冬は大反対した。如何に祖父の言葉とはいえ、それだけは聞けなかった。
当時の水鏡は巡狂座(祖父)の存在を知らなかったうえ、巡狂座は実の息子夫婦の葬式にさえ顔を出さなかったのだ。

しかし巡狂座としては今まで氷紋剣を学んでいた水鏡の父親が死んだ為に、氷紋剣の新たな後継者が必要となっているのは事実。そして火影魔導具である閻水と氷魔閻を守りながら次世代の人間に受け継がせていくのが水鏡家の裏にある使命だった。
巡狂座の使命に対する念は強く、美冬から了承を取れなくても”連れ去ってでも教える!”とまで発言したのだ。

巡狂座を説得するのはもはや無理と判断した美冬は苦汁の決断を下した。

”私がそれを引き継ぎます”

大粒の涙を流しながら―――

”私が『巡狂座』になります。だから、あの子だけは許して・・・・・・”
”狂座が巡る”

愛する弟のために、自らの人生を差し出したのだ。
そう、美冬と巡狂座の発言から察すると、巡狂座というのは個人名ではなく、氷紋剣伝承者に代々受け継がれてきた異名であり称号なのだ。

美冬は弟の身代わりとなり、未熟な女手一つで彼を育てながら氷紋剣を祖父より教わっていた。
だがそんな生活が一年近く経った頃に、悪夢が起こってしまった。

巡狂座はある夜、一人のチンピラを氷魔閻で斬り殺した。勿論斬り殺された男は裏世界の住人である。
その男と一緒にやってきた男はチンピラが死んだことに大して関心せず、魔導具を素直に渡してもらえなかいと言い出してきた。

巡狂座が素性を尋ねると、男は自らを”磁生”と名乗った。
目的は氷魔閻だけでなく閻水をも獲得することにあるとまで語った。
巡狂座は磁生たちが閻水のことを知っているとなれば確実にあの姉弟に危害を加えると確信し、何とかしようと奔走したが、最早手遅れだった。

美冬は裏麗の前身ともいえる外道二人組によって殺された。水道口から閻水の刃たる水を得ようとしたが、その隙をつかれて背後からナイフで刺されてしまったのだ。
外道二人組は水鏡姉弟を二人まとめて殺し、ゆっくりと閻水を探し出そうとしたが、美冬に致命傷を与えたことで、彼らの死は確定してしまった。

結論から言うと、その外道二人組は巡狂座によって斬殺された。
遠距離からの果てしない殺気を受けた二人組は水鏡のことを後回しにして逃げようとしたが、その逃げた先にこそ殺気の発信源である巡狂座が待ち伏せしていたのだ。

その場には磁生もいたが、仮初めとはいえ部下の弱いものイジメを通り越した最低最悪のやり方に腹を立て、敢てその二人を見殺しにした。

愛すべき弟子であり孫である美冬を殺されたことで失意と悲しみにくれる巡狂座に磁生は深い謝罪の言葉を述べた。
この時の磁生の主は森光蘭だったが、後に彼は紅麗率いる麗の十神衆となることを明かし、巡狂座と最後の身内である水鏡の身の安全を考慮して、巡狂座に手を差し伸べて麗に勧誘したのだ。

巡狂座の実力なら十神衆になるのは不可能ではないし、麗の一員になれば氷魔閻は兎も角、一時的に閻水は麗が所有しているとして誤魔化せる。
巡狂座はその時、磁生の手を取った際に己の無力さと愚かさが身に染みてこのような結論を出した。

”美冬を死なせたのは・・・この者達ではない。殺したのは、ワシと・・・・・・巡狂座という称号だ!!”

そして、幼き日の水鏡と巡狂座は出会い、師弟となった。
麗の一員になったのも、水鏡の自分の頭上や美冬の死の真実を語らなかったのも、全ては水鏡凍季也が自分の身を自分で守れるくらい強くする為の愛情であり罪滅ぼしだったのだ。




「せめてお前にだけでも力になってやらねば、仇をとらせてやらねばと思った」

巡狂座は吐血跡が生々しく残るなか、未だに口を開き続ける。

「七年の修行を終えてお前が下山してすぐに、戒という剣士が現れた。”この男を伝言板にしよう”と目論んだ。戒に敢て非道な言葉や仕打ちを行い利用した。凍季也がこれ程の男に勝てるまでになったら、ワシと戦う時だと考えた」

巡狂座が本当に望んでいたこととは、

「巡狂座という仇を討ってほしかった」

全ては、あの日の罪に報いる為の贖罪。
そして、その時は今やってきた。

「凍季也・・・・・・殺せ。姉の仇をとれ」

巡狂座は横になり、一切の抵抗の素振りをみせない。
水鏡は巡狂座の手に触れてこういった。

「貴方は仇ではない。僕の師であり、家族だ」

その表情には一切の邪念はなく、彼の名前通り、心身をうつす水の鏡そのもの。

「ここに来る前に、姉の姿を見ました。笑っていました。幻だったかもしれない・・・でも・・・姉もきっと許しています」

水鏡の脳裏には墓参りの際、美冬の霊ともいえる幻影の姿がハッキリとうかんでいた。

「もうこれ以上自分を責めないでください」

水鏡は祖父の冷たくなりつつある手を握り締めた。

「やはり・・・・・・お前は・・・変わったよ、凍季也。氷のようだったお前に・・・暖かなものが・・・・・・」

巡狂座は驚きつつも、祖父らしい笑顔をうかべる。

「教えてくれ・・・山を降りて、何を見た?何を知った?何がお前の氷を溶かした?」

水鏡は少し間をおき、

「戒・・・彼は色々なことを僕に与えてくれました。一人だった僕に、一人ではないことを気づかせてくれました」
「そう・・・か・・・あいつがなぁ・・・・・・」
「僕は決して一人じゃなかった」

そう今の水鏡は一人じゃない。

「僕を変えてくれたんです」

仲間達が傍にいてくれている。

それを聞いた巡狂座は、人らしい本当の笑顔を見せてくれた。
可愛い孫と共にいることを、その孫の成長を喜ぶ祖父としての笑顔。

そして彼はこういった。

「のぅ・・・虚刀流」
『なんでしょう?』

怪人形態の七実に話しかけた。

「今わの際に、その身に秘めし神業・・・・・・この死に逝く老い耄れの眼に、焼き付けさせてはもらえぬか?」
『構いませんよ。では餞別に、虚刀流の八番目、最終奥義の改良版をお見せしましょう』

それは一発で勝負を決めるという意味だった。

『結局こうなったか』

タトゴバタヤミーは首を横に振りながらこの後の展開を予想する。
そして七実の正面にたった。

『すいませんね』
『ヤミーなんざ、生まれて一週間も生きられば上等だろ?それに、ブライかお前のどっちかが来た段階で、俺の生死は決まったも同然』

その語り口はどこかスッキリしており、後腐れや未練が感じられない気持ち良いものだった。

『虚刀流所属、鑢家家長、鑢七実』

一人のヤミーと一人のグリードは向き合う姿―――それを水鏡、若者、そして巡狂座が見届ける。

そして、

『虚刀流最終奥義、七花八裂(しちかはちれつ)(かい)

虚刀流の全てに魅せられ、巡狂座はさらなる剣士の境地を見せ付けられ、穏やかに満足に・・・その長きに渡る生涯を閉じた。
因縁の象徴たる称号は最早必要ない。全ての戦いはもう直ぐ終わる。

狂座はもう二度と巡らない。

次回、仮面ライダーブライ

クローンと紅蓮コンボと誕生儀式





(はがね)金女(かなめ)
仮面ライダーチェリオ変身者にして刃介の実妹。
八歳の時、兄の刃介が無意識に行った仇討りという名の凶行に心底恐怖して勢い余って家を飛び出してしまう、空間の歪みに巻き込まれて「刀語の世界」に迷い込んでしまう。
その後は凄まじい速度で環境に適応し、死人から追い剥ぎをして生きていたが、そんな時に若き日の左右田右衛門左衛門と出会い、彼に拾われて弟子入りする。しかし免許皆伝となって間も無くの頃、右衛門左衛門が真庭鳳凰によって精神的に殺されてしまい、それを切っ掛けに右衛門左衛門が否定姫を主と認めて仕え、遂には忍者であることを辞めたが故に自ら師匠の下から離れた(否定姫の事が嫌いだからというのもある)。
右衛門左衛門が変わってしまったのは、自分が臆病者だったからという戒めの意を込めて、師匠と同じく『不』の一文字を用いた口調で話すようになる。基本的に敬語で喋るが、感情が昂ると少々荒っぽい口調になる。

そしてどういうわけか元の世界に帰還することとなり、相生忍軍の技法を駆使して凄腕の暗殺者となる道を選び、彼女のことを探し出したシルフィードに抜擢されてチェリオシステムを受け取ると同時に『ブライの戦闘補助』という依頼を受理した。依頼を引き受けた動機は”兄との再会”と”高額の報酬金・二億円”の為である。

因みに相生忍軍の技術で幾多もの困難な暗殺の依頼をほぼ確実に成功させている為、相当な金銭を稼いでおり、依頼人の中には日本はおろか各国の要人も存在している為、金女が逮捕されることは、事実上あり得ない(要人達が自らの犯罪を認めるに等しいので)。

忍者としての腕前は一流だが、何故かアニメキャラのパロディを多用するネタキャラとしての側面も強い。
暗殺業や戦闘の際には、首から上を額金と覆面で両目と髪の毛以外を隠し、鎖帷子をしてるものの袖を切り落とした上に中途半端な丈をした焦茶色の忍装束姿で活動する。仕事を完遂した際の達成感に喜びを見出しており、過程が多少酷かろうと結果的に事が上手く済めば良いと考えている節がある。

年齢:二十三歳 職業:忍者 所属:相生忍軍 身分:暗殺者
所有刀:炎刀『銃』 身長:165cm 体重:不詳 趣味:情報収集
座右の銘:終わり良ければ全て良し スリーサイズ:B92/W57/H86



仮面ライダーチェリオ
鋼金女が変身する仮面ライダー。モチーフは忍者。カラーは黒と銀。
相生剣法・相生拳法・相生忍法を駆使して戦う。バースシステム同様にセルメダルを利用する機構となっていているが、トライブ財閥独自の技術によってバース以上の性能を誇る上、金女自身の戦闘技術も相まって凄まじい戦闘力を発揮する。
専用ビークルなどは無く、使うとしたらライドベンダーに限られる。

身長:190cm 体重:85kg キック力:12トン パンチ力:7トン
ジャンプ力:60メートル 走力:100mを2.5秒

チェリオドライバー
チェリオ専用のベルト型変身装置。基本的な造形や変身プロセスはバースドライバーと同じだが、カラーの方は逆転しているのが特徴。

忍刀(ニントウ)(クサリ)
チェリオの通常武装たる二振りの忍者刀。普段はベルトの両サイドバックルにある鞘型のホルスターに納刀されている。『鎖』の一文字に相応しく、鍔を回転させることで刀身の切れ目を境に鎖のような連結刃として中距離・遠距離の敵にも攻撃できる。刀身を蛇のように伸ばせる為、使い方によっては捕縛武器にもなる。
そして二振りの忍刀『鎖』を合体させて一本の大剣と成し、硬化投入口(メダルインジェクション)に六枚のセルメダルを投入し、鍔によって刀身を研磨するように上下させることでセルバーストが成立し、『忍刀両断(にんとうりょうだん)』が発動する。

暗刀(アントウ)(カマ)
擬似変体刀の一本にして右腕全体に装備するアタッチメント。
三本の刃によって形成された爪のような部分を三重の鎖で繋いだ状態で飛ばし、遠距離の敵を攻撃・捕縛したり、磁力によってセルメダルを回収する機能を備えている。

切刀(セットウ)(ロウ)
擬似変体刀の一本にして右前腕部に装備するアタッチメント。
高速回転するチェーンソー型の武器で、これを振り回すだけでも充分すぎる程の凶器となる。これにも磁力が備わっているので、ヤミーやグリードのセルメダルを削った矢先に引っ付けることができる。近接戦闘向きの装備といえる。

投刀(トウトウ)(ナマリ)
擬似変体刀の一本にして左前腕部に装備するアタッチメント。
セルバーストによってで内包した数多くのホーミング機能付きのな手裏剣や苦無を敵に投擲する『一投多刀(いっとうだとう)』を発動する。

射刀(シャトウ)(ゲン)
擬似変体刀の一本にして左腕全体に装備するアタッチメント。
文字通り弓矢型の武器で、セルバーストによって一本の矢を敵に向って正確に狙い撃ちする『精密刀射(せいみつとうしゃ)』を発動する。

沈刀(チントウ)(オモリ)
擬似変体刀の一本にして両脚部分に装備するアタッチメント。
キャタピラレッグとフォルムは似ているが、こちらは殺傷力を更に高めた物で、いたる部分に刃が取り付けられた刺々しいデザインをしているのが特徴。

飛刀(ヒトウ)(ハサミ)
擬似変体刀の一本にして背中部分に装備するアタッチメント。
チェリオに飛行能力を与える機能を備えており、その際の飛行速度は時速300kmに達する

炎刀(エントウ)(ジュウ)
チェリオが取り扱う変体刀の中で唯一、擬似変体刀ではない本物の完成形変体刀。
鑢七花が左右田右衛門左衛門との戦いで彼の命と共に破壊してしまった物を強化改修してチェリオシステムに組み込んでいる。弾丸はセルメダルのエネルギーと連動していて新たなメダルを投入すれば幾らでも発砲可能となる。
セルバーストを使えば『断罪炎刀(だんざいえんとう)』を発動できる。


チェリオ・グッバイ
七本の擬似変体刀全てを装備した重装備形態。
火力や防御に優れているが、その分装備が終えるまでに少々時間が掛かる上にセルメダルの消費が激しいというデメリットも抱えている。
必殺技はセルメダルを14枚投入によるセルバーストで発動し、七本の擬似変体刀から凄まじいエネルギーの波動を放射する『漆填抜刀(しちてんばっとう)』。


押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.