刀剣組と大集合とありがとう


「あ・・・・・・あ・・・・・・あ―――」

――ズル・・・っ――

胸のローグラングサークルに突き刺さっていた毒刀『鍍』の刃がずり落ち、地面に刀本体が転がった。

(今の・・・は・・・800年前の初代と・・・・・・四季崎記紀か!?)

刃介(ブライ)は四季崎の身体的特徴を知っているわけではないが、言動で四季崎記紀本人だと悟った。となれば、こんな映像を見せてきたメッキヤミーの主も大体見当がつく。

ブライは毒刀『鍍』を拾い上げ、顔を上げて問う。

「お前、四季崎の下僕(ヤミー)だったのか」
『如何にも』

メッキヤミーは一切合財隠すことなく明かした。

「一体奴はどうやってこの世界に・・・?七実や竜王と同じように、転生してきたのか?」
『転生?そんなチャチなものではない。我が創造者は記紀であって記紀ではない。最も、それは異端の虚刀『鑢』も埒外の真庭忍者とて同じこと』
「どういうことだ・・・?」

ブライはメッキヤミーの言っている事が理解できない。

『今直ぐ理解しろとは言わん。何れ創造主自身が御身を貴様等に曝し、真実を語る日が来る』

メッキヤミーは両手を左右に大きく広げた。
最早役目を果たした今、彼自身に生きる意志も意味も無い。

「・・・・・・・・・・・・」

ブライは無言でスキャナーを手に取り、

≪SCANNING CHARGE≫

――ヴォォォオオオ・・・・・・!!――

鳥刀『鏃』の銃口から業火が噴出していき、照準をメッキヤミーに合わせると、引き金を引くと同時に技名を口にする。

「コロナフィーバー」

――バアアァァァァァン!!!――

二つの銃口から超高温火炎弾が発射され、

『然らばっ』

――ジャリィィィィィン!!――

メッキヤミーは大量のメダルに還元された。

その様子を静観していた七実は、毒刀の鞘を手にし、ブライに歩み寄る。

「刃介、さん・・・?」

その時の口調は何処と無く不安そうだった。

「七実、一度ソレ(毒刀『鍍』)を財閥に届けるぞ」

ブライは変身を解除する。

「その次は、刀剣組の問題を片付ける」

そして、刃介はとっくに気付いていた。
自分が居ぬ間に回り出していた欲望の渦に。





*****

とある大きな駅構内。
そこには刀剣組一行の姿があった。

正直な話、任侠道に生きる者達のオーラのせいで周囲には人っ子一人として近寄るものは居ない。
大勢の黒服に囲まれ、中心に居るのは二人の男。

刀剣組組長、本山雄一。組長補佐、榛原啓示。

「あ、雄一。先に行っていてくれ。俺はちょっと用を足してくる」
「わかった早めに合流しろよ。列車に乗り遅れたら元も子も無いからな」
「言われずともわかってる」

という遣り取りの結果、榛原はトイレに駆け込んだ。
理由としては本当に用を足す為―――そしてもう一つ、これが真の理由。

(はてさて、後は列車に乗ってコトを起こすだけだが・・・・・・少々こちら側の戦力に不安があるな)

榛原側についている人数はハッキリ言って状況を転覆させるには心許ない数である。

(だが、今となっては引き返せない!刃介が何れ我が組に復帰すると思わん内に―――!)

榛原はそうして用を足し、手を洗ってドアを開けて行こうとした際―――

「ほほー。興味深い欲望だな」

一人の男が現れた。
榛原同様に和服だが、笠を被っている。

「だ、誰だ?お前は・・・・・・?」
「俺が誰かなんて、大した問題じゃねぇ」

男は一枚のメダルを手に持った。
すると榛原の額に硬貨投入口が現れる。

「お前の欲望(ねがい)、貰い受けるぞ」

――チャリン!――





*****

トライブ財閥の会長室。

「ほらよ、持ってきたぜ」

刃介は荒っぽい仕草で毒刀を机の上に投げて寄越した。

「確かに受け取ったわ」

それをシルフィードが丁寧な手付きで受け取った。

「それで、ここに来たのはコレを届ける為だけではないんでしょ?」
「鋭いな。まあ隠す気は毛頭ないからハッキリ言う。―――刀剣組の現状況を教えろ」
「ホントに本音丸出しね」

シルフィードは頭を掻きながら半ば感心したかのような口調で返す。

「それについては、貴方達と合流する筈だった金女ちゃんが行方を追って調べてるわ」
「変体刀の回収役はあいつだったのか」
「情報収集が趣味だと言っていた金女さん―――否、忍者に打って付けの任務ですね」

七実はシルフィードの人選に納得したようだ。
こういった仕事には、戦闘能力と諜報能力を兼ね備えた優秀な忍びたる金女が最適だろう。

「まだ途中経過だけど、刀剣組は他の極道や任侠者達との同盟や仲直りの為に手打ち式ってのをやるそうよ。多分今頃、列車に乗ってる頃じゃないかしら」
「行き先は何処だ?」
「うふふ♪そういうと思って、キチんと調べてあるわよ」

――ス・・・ッ――
――バッ!――

シルフィードが懐から取り出したメモを見るや否や、刃介はそれを乱暴に奪い取り、足早に去って行った。

「ではまた」
「えぇ」

ただし、七実だけはちゃんと一礼して部屋から出て行った。





*****

その頃、金女はというと・・・・・・。

(はてさて、変体刀を届け終えてすぐさまに刀剣組を追ってみたものの・・・・・・)

今現在、金女は・・・・・・

(意外とキツいですね。屋根部分は―――)

列車の直上にしがみ付いていた。
忍び装束と相まってある意味かなり忍者らしいといえばらしいのだが、下手を踏めば列車から振り落とされて地面に激突=大怪我という惨事にもなりかねん状態だ。

不悟(さとらず)――この状態では列車内の状況は把握しかねますし・・・・・・一丁、やりますか)

金女は懐に片手を突っ込むと、何処と無く奇妙な忍具を取り出した。
それは何だか小型の鋸と表現すべき形状で、それと一緒に取り出された爆薬によって如何なることに使用されるかが匂ってくる。

カチャカチャと小さな音を立てながら爆薬を車両と車両を繋ぐ柔らかな接合部分に貼り付け、簡易ライターで着火。

――ボンッ!――

これによって接合部分の強度は障子紙ていどとなり、あとは鋸型忍具で円形に切り取れば、

――シュタ!――

あっと言う間に侵入成功である。
だが勿論、

「おい、誰だ!?」

気付いちゃう輩は居るわけで。

不答(こたえず)――忍者が逐一懇切丁寧に素性を明かすわけないでしょう」

金女はそう言うと、

「背弄拳」

――ボガッ!――

一発で黒服を気絶させた。

「浅はかなり」

腕を組み、静かな表情で金女はそう呟いた。





*****

そして列車の一席に座る本山。
窓から見える夜中の風景を眺めている。

(時間が経つのは早いもんだ・・・・・・)

本山は心からそう思った。
今日という時間も、五年前から現在という時間も。
気付いた時には、時というものは過ぎ去っていくものだ。

「よう、雄一。一人寂しく外なんか眺めてどうした?」

そこへ演技かどうかは知らないが、爽やかスマイルの榛原がやってきた。
因みにこの列車は刀剣組の貸切となっていて、組員しか乗車していない。
なので一つの車両に本山一人だけというシュチュエーションが出来上がっていたのだ。

「なあ、啓示」
「なんだよ?」
「刃介と一緒に刀剣組をつくった時のこと、憶えてるよな」
「・・・・・・忘れられる訳が無い」

啓示にとって、刃介と本山と一緒に刀剣組を創設した際の記憶は生涯残る掛け替えの無い想い出だ。
最も、良い意味でも悪い意味でもあったりする。

少しだけ、語らうことにしよう。





*****

今から十五年前、鋼鉄郎と鋼鏡子―――つまりは刃介と金女の両親は殺された。
そして、刃介は無意識に小太刀を握って仇討ちを行い、血に染まって白髪となった。
金女はそれに恐怖して家を飛び出し、後に平行世界へ迷い込んで相生忍者の弟子となった。

無論、そんな大事件をマスコミが放って置く筈が無い。
一時的ではあるが、この一件は”仇討ち事件”として名付けられ、刃介自身は”小さな白髪鬼”とあだ名された。

刃介は当時10歳の子供だった上に、両親を殺されて髪が白くなるほどの精神的変革が起こったということも相まって、刃介は正当防衛の無罪放免という形で家に帰された。
勿論の事、行方知れずとなった金女の捜索も行われたが、半年に及ぶ調査も平行世界にいる金女を探し当てるにはまるで分野も時間も桁違いで、結局のところ捜査は打ち切られてしまった。

事件以降、刃介は何故か白髪を決して元の綺麗で艶のある黒髪に染め直そうとはしなかった。
本人曰く、理由は三つあるらしく―――一つ目は面倒くさい、二つ目は頭皮が痛みそう、三つ目は・・・・・・戒めだった。

しかし、そんな若い刃介の総白髪は目立ちすぎた。
中学校に進学してからも、周りの人間は生徒や教師も含めて刃介を避けた。イジメなんて下らない考えは思いつかないほど、彼らは刃介を恐れたのだ。両親を殺されたとはいえ、人をあっさりと斬り殺した刃介の中に秘められたモノに。

刃介の最終学歴は中卒である。
理由は簡単、どの高校も受け入れてくれなかったからだ。刃介は在学中には模範といえる程の好成績をとっていたが、それでも教師側は進学推薦をしてくれなかった。

よって刃介は成り行きのまま、実家の雑貨店を十五歳という若さで経営して生活していく事になったのだ。でも刃介の店に買い物客は滅多に訪れない。訪れたとしても刃介のことを知らない遠出の人間くらいのものだ。

様々な意味で磨耗していた頃に、刃介はとある珍妙な客に出会った。
二人組の客が欲したのは、物品ではなかった。

「なあ、お前・・・・・・俺たちと組まないか?」

刃介自身だった。
そう、これが刀剣組創設の瞬間とも言えた。
当然、刃介はこう訊いた。

「何故この俺を欲する?」
「お前の力が必要だからだ」
「俺たち三人が結成する―――刀剣組の為にな!」

その後、紆余曲折はあったが、当時の本山と榛原はなんとか刃介を説得し切った。
こうして、刀剣組は誕生する。
最初の頃、刀剣組は今のような任侠組織ではなく、創設者三人を頭とする大勢の血気盛んな若者で構成された自警団であった。刃介は組織が結成された当初は何の関心も興味もなく、ただただ遣るべきことを淡々とこなしていた。

因みに当時の刀剣組の専らの役目といえば、典型的な外道に堕ちた連中とのケンカだった。
そして刃介が直々に出向いたケンカは100%刀剣組の勝利となっていた。

そんなある日のこと、刀剣組結成から二年後、17歳となった刃介は気まぐれに一人の幼い子供を身を挺して守ってみたことがある。
ただ単調にケンカに巻き込まれただけの子供一人を守る為、あえて敵の金属バットを身に受けたのだ。ついでに言っとくと、そんな程度では刃介は倒れず、結局のところその戦いは勝利する事となる。

「お・・・・・・お兄さん、カッコ良い!!」
「カッコ良い?この俺が?」

その時、子供は刃介を憧れの対象として見ていた。
弱気を助け強気を挫く存在。子供からすれば、刃介はまさしくヒーローだったのだ。

「ヒーローか・・・・・・そういう生き方も、悪くない」

ある意味、この時の感情が今後の刃介の人格形成に大きく関わるものになった・・・・・・としかいいようがない。

それからの刃介は、特撮番組の主人公になったかの如く、私欲を捨てて他者に尽くした。
今の刃介とは想像さえつかない様な清浄な思考と行動を取る様になり、それが切っ掛けで刀剣組には刃介に憧れて入隊するものまで現れ出し、当初は20人程度だった刀剣組はあっという間に50人という大所帯となっていったのだ。

組織の拡大に伴い、刃介は刀剣組総隊長という地位に就き、正義の味方というべき働きを部下と共に、華やかな戦績を記録していったのだ。
そんな折、榛原は刃介にこう尋ねた。

「なあ刃介。なんでお前はそう強く居られる?」
「さぁてな。ただ、俺がこうしたかったから・・・・・・かな?」

刃介はあの頃、自分の歩む道に何の迷いも無かった。
己一人の欲望を殺して、何かの為に戦えば、自分には居場所ができる。心強い暖かな仲間が集まる。そんなヒーロー的な存在になれると思っていたが、今にして思えばそれは思いあがりや若気の至りという結論に達するだろう。

だがしかし、それは一時の夢でしか無かった。



結論から述べると、刃介が二十歳となった五年前、刀剣組は刃介の所為で壊滅しかけたことがあった。
その訳は、刃介が情けをかけて見逃した敵勢力の残党による奇襲だった。



その際は皆ボロボロになって戦い抜き、どうにかこうにか敵勢力を殲滅する事ができた。
勿論この戦いで最も多くの働きをしたのは刃介であった。
でも、榛原の不用意な一言が、刃介の居場所を奪い取ることとなった。

「全く、お前が無用な情けをかけるから、余計な仕事ができちまったぞ」

榛原からすれば、それはちょっとした愚痴だった。
しかし、それに悪乗りして便乗する者達が出て来たのだ。

「そうだそうだ!」
「鋼さんがヒーロー面しなけりゃ、俺たちはこんな苦労しなかった!」
「どう責任を取るつもりなんですか?」

心無い非難の嵐。

「お、おい皆ちょっとまて!」

本山はそれを見かねて説得しようとする。

「今回の事は情けをかけられて尚、我々を攻撃した根性の腐った連中にこそ責任があるぞ!刃介の正義感を責めて良いことにはならん!」
「でも本山さん。一組織の攻撃隊長を勤めてるお人の勝手な判断で、下についてる俺らは酷い目に遭い掛けたんですよ。奴らをボコり終えて、刃介さんがまた情けをかけて・・・・・・ループしちまったらどうするんですか?」

食い下がる部下達。

「し、しかしだな!刃介「もう良い。そこまで言うならば、俺は・・・・・・この刀剣組から去ろう」・・・・・・刃介」

刃介はコトを大きく荒立てない為、あえて自ら刀剣組脱退を受け入れたのだ。

「待ってくれ刃介!俺たちにはお前の力が!」
「だとしても、皆が幸せになれない存在が俺だとすれば、去り行くしかないだろう」

刃介はそういって出て行った。
最後にこう言い残して・・・・・・。

「これが俺の・・・・・・最後の正義だ」

そして、彼は変わった。
正義漢から我欲漢へと。

「そして俺は、他人の為ではなく己自身の為だけに生きる。俺はもう、一生分の正義を使い果たしちまったからな」





*****

場面は現在に戻り、榛原は口を開いてこう述べた。

「五年前のあの事件以降、俺は組織拡大に尽力し、雄一は集まった同志達を纏め続けた」
「ああ。だが俺は今でも思うよ。刃介が居てくれたら・・・って。あの事件は、俺たちが刃介に頼りすぎたバチだったんじゃないかってな」

二人は遠い目をして過去を思い出す。
ただ本山の眼には後悔の色が見え隠れしている。

「俺たちがもっと、あいつの事を支えてやれたらって、そんな都合のいい考えもよぎる」
「そうか・・・・・・」

すると、榛原は右手を上げて、

――パチッ!――

指を鳴らした。
その瞬間、扉を開けて5人ほどの黒服が乱暴に入ってきた。
本山はそれに対して驚くことはなく、ただただ静かに外の眺めを見ている。

「雄一。刀剣組とは、俺たち三人で立てて挙げた旗のようなものだ。初めは無色であるその旗に多くのものが集まり、様々な色となって刀剣組という独自の色を持った旗となる」

榛原は雄一を見下ろすように喋りだす。

「だがな、旗を立てた一人である俺の色は黒だよ。暗闇のような漆黒。その色は何モノにも染まらないし、あらゆるモノを染め上げる。言っている意味がわかるか、雄一?」
「ふふふ、黒か、お前らしいな。だがな啓示、お前の表現は少々間違っているぞ」

榛原啓示が自分を裏切ったということを悟って尚、本山の態度は崩れない。

「御旗にあるのは、色なんてモンじゃない、垢だ。擦っても洗ってもこびり付いて離れない垢だ。その証拠に、刃介が残した垢の跡は決して消えずに皆の心に刻み込まれている」

そう言いきった本山の表情は実にすっきりとした気持ち良いものであり、どこにも邪念は感じられない。本当の意味で本音を語っているのだ。

「それが俺たち、刀剣組の魂なんだよ」
「えらい能弁ぶりだな。今にして思えば、その気持ちの良い人格ゆえに、お前は組織を治められたのかもしれんな」

榛原はそんな本山に敬服の念を送るも、視線は明らかな敵意を持っている。

「だがそれも今宵限りだ。これからの刀剣組は俺が統べて行く」

と、その時・・・!

――バタッ!!――

極めて乱雑に扉を蹴破り、侵入して来る者が一人。

「・・・・・・誰だ貴様は?」

榛原は突撃してきた者の素性を訊く。

「相生忍軍所属―――」

その女は、頭を守る額金をつけ、口元を襟巻と一緒になった覆面で隠し、両腕には手甲を装着し、袖を切り落とした中途半端な丈をした焦茶色の忍び装束を着ていて、服の内には鎖帷子を着込んでいる女忍者。
因みにSODOM編以降は髪型がミニポニからアップスタイルに変更されている。

「―――鋼金女」

逃げも隠れもしない異端の忍者集団、相生忍軍らしく、彼女は堂々と名乗った。

不忍(しのばず)――忍者とは本来コソコソするモンですが、今回は正面きってやらせて貰いましょう」
「だ、誰だテメェは!?」

黒服の一人が荒っぽく怒号交じりに聞いてきた。

「ですから、さっき申しましたよ。相生忍軍所属、鋼金女と」
「お前・・・・・・もしかして刃介の妹かなにかか?」
不間違(まちがえず)

何時もの口調で金女は榛原に返答する。

「あいつに妹が居たとはな。兄貴が剣士で妹が忍者とは、鋼家ってのは節操が無いんだな」
「放っといて欲しいですね」

金女は溜息混じりに言い返した。

「・・・・・・お前ら、こいつを先に片付けろ」
「「「「「はっ!」」」」」

榛原が先方の車両を目指して歩いていくと、黒服たちは懐から小太刀や拳銃を取り出して握り締める。

「本山さん。貴方は先方の車両に突っ走って下さい」
「しかし、女の子を一人だけ残して「甘く見ないで下さい」

本山の発言に金女は不愉快気な声音を出す。

「伊達や酔狂でこんな格好やあんな名乗りをしたわけではありません」
「・・・・・・わかった。君に任せる」

本山は金女の力を信じて、黒服たちの合間を縫い、前の車両に移動した。
普通なら誰かが取り押さえそうだが、金女の存在が抑止力となって上手くことが運んだ。

「では皆さん。これも仕事の一環ですし、殺し殺されても互いに恨みっこ無しということで」
「ほざけ!女がたった一人で何が出来る?」
「数の上ではこっちが断然上だぞ」
「うふふふふ」

黒服たちの言い分を聴くや否や、金女は可笑しそうに笑った。

「まあ、圧倒的実力差のある相手に対し、数で押すと言うのは悪くないでしょう。丁度いい瞬間に纏めて突っ込んで・・・・・・」

金女は手刀を構えてそういった。

「「「「「っ!――うおおおおおおおおお!!!」」」」」

そして、

「忍法――生殺し」

全てが血に染まった。
車両の内側は全て、床も壁も天井も窓も、等しく鮮血の赤に染まった。
そんな中、ただ一人立っている女忍者は、自分の口元についた血を舐め取って吐き捨てると、妖艶な柄笑いを目元に浮かべてスパっと言ったのだ。

「纏めて死になさい」





*****

――ブゥゥウウゥゥゥン!!!――

その頃、刃介と七実はシェードフォーゼに乗って列車を追っていた。
常にノンストップで走行している為、二人がグリードでなければ喋る事さえ出来ない状態だ。

そこへ後ろから何かが自分達の跡をつけてくることに気が付き、後ろを振り返った七実がみたのは


「刃介さぁぁん!!姐さぁぁん!!」
「あっしらも、一緒に連れて行ってくだせぇ!!」
「お願い申し上げます!!どうか、共に行かせてください!!」
「お二人のお知り合いから事情は聞きました!!どうか、何卒!!」


黒い車に乗った大勢の本山派の黒服たちだった。

「「お前ら(あなたたち)・・・・・・」」

刃介と七実は黒服たちの意気込みを見て、

「ああ、だったら死んでもついて来やがれ!!」
「ただし恨み言や弱音は無視しますよ」
「「「「「へいっ!!」」」」」

一同はさらに愛機のエンジンに叫びを唸らせ、友の居る場所へと駆ける!
夜の冷たい空気を一陣の風となって切り裂きながら。





*****

そして、榛原はさっきまでいた五号車からここまで歩いて先方の車両である三号車にたどり着いた瞬間に―――

「啓示」

本山が追いついてきた。

「雄一か。思ったより早いな」
「まぁな。あの子のお陰だよ」
「ふん。刃介の妹だけあって、あの忍者もまた怪物並と言う訳か」

榛原は薄らとうんざりしたような表情となり、片手をあげた。
すると、

――バリィィン!!――

車両にある窓という窓全てから、異形の怪物が飛び込んできた。
異形達はまるで銀色の刀身がそのまま怪物に化身したような容姿で、それ以外に特徴らしい特徴はなかった。

「や、ヤミー!?」

本山はこんな場所で、しかも榛原の出した合図に従って多数のヤミーが現れたことに困惑した。

「今となっては黒服たちなど、雑兵もいいところ。此度の革命戦における最大にして最多の戦力、それが俺の欲望から生まれた”ツルギヤミー”だよ!」
「ツルギ・・・ヤミー・・・」

名称の通り、このヤミーは『多さ』を主題とした完成形変体刀が一本、千刀『鎩』をモデルとした刀系ヤミーだ。勿論、その能力は最大千体までの超多重分身!

『お前に恨みは無いが―――』
『――欲望を満たす為――』
『―――死んで貰うぞ』

ツルギヤミー達は一斉に本山を切り裂こうとした、まさにその瞬間!

≪KAMEN RIDE≫

「変身!」

≪DI-RUDO≫

ビュンビュンという音が鳴り、幾つモノ虚像が現れてヤミーを遮った。
虚像達が舞うように動き回ると、それは突然割れた窓から入ってきた一人の青年の身体に重なって装甲を成し、頭部に九枚のプレートが突き刺さる事で漆黒の色を得た。

『何者だ貴様は!?』
「世界の蒐集者。仮面ライダーディルード」

漆黒の次元剣士、ディルードは惜しげもなく姿を晒し、ディルードライバーを肩に乗せて名乗った。

「お前、報告にあった盗人か。なんでそいつを庇うようなタイミングで登場してるんだ?」
「なーに。あいつの言っていた『別のお宝』って奴に興味が沸いただけだ。理由なんてそれだけで充分だぜ。それにヤミーを倒せばセルメダルが手に入るしな」

ディルードはいつもの御気楽な口調で話す。

「つーわけで、とりあえず化物は化物同士で乳繰り合ってもらうぜ!!」

≪KAIZIN RIDE・・・ANT LORD・DARKROACH・ALBINOROACH・MOLE IMAGIN・MASQUERADE DOPANT≫

「平成の戦闘員大集合!」

ディルードが有りっ丈のカードを装填してスイッチを押した。
すると車両の中には大量の怪人たちで犇めき合う。

アギトの世界において、蟻に酷似したアントロード。
ブレイドの世界において、ジョーカーやアルビノジョーカーの眷属たるゴキブリ型のダークローチとアルビノローチ。
電王の世界において、モグラのイメージによって此の世に現出したモールイマジン。
Wの世界において、ミュージアムの一兵卒が仮面舞踏会の記憶(マスカレイドメモリ)を用いて変身するマスカレイド・ドーパント。

それら全てが三体ずつ召喚されたのだ。

「おい、あんた此処は俺に任せて後ろの車両に退避しろ。あの忍者がとっくに連中を始末してる筈だ」
「お、俺は、また何もできないのか・・・・・・無力な俺には・・・・・・」
「自分を卑下すんな。あんたは普通の人間なんだからさ」
「・・・・・・すまない」

そう言って後ろの車両に移動していく本山は自分自身にこの上ない屈辱と無力感を感じ取った。
五年前の時も、そして今現在も、自分は何も出来ない状態で居る。
ただただそこに居て、都合よく組織を纏められていただけの存在と成り果てつつある。
そう思うと、胸の置くが圧迫されるように苦しく辛いものになっていく。

「さあ、おっ始めようぜ!!」
「ふっ、面白い!ならば俺は遠くから高みの見物といこうじゃないか」

榛原は偉ぶった台詞を口にすると、

「遣れツルギヤミー!!この俺の眼前に、俺の邪魔者すべての御首級(みしるし)を捧げろ!」
『言われるまでも無い』
「へっ!やれるもんなら、やってみな!」

≪ATTACK RIDE・・・ELEMENTAL(エレメンタル)





*****

不面白(おもしろからず)――まったくもって、次から次へと面倒な事態になりますね」

血だらけの車両内の中には、鋼金女という一人の人間と、

『『『くっははははははは』』』

外から進入してきた三体のツルギヤミー。
金女は腰にチェリオドライバーを装着し、懐から一枚のセルメダルを手に取る。

「変身」

――チャリン――
――キリッ、キリッ――
――パカン!――

その瞬間に彼女の身体は円形のフィールドの中で銀と黒の装甲服に覆われていき、首から上も見事な仮面で覆われた。変身が完了した暁として、額金型のバイザーが青く光る。

仮面ライダーチェリオ。

不足(たらず)――今日はそんなに多くのセルメダルはありませんので、身体に染み付いた技法を駆使して戦わせてもらいます」

チェリオは腰の左右に帯刀している二本の忍者刀こと忍刀『鎖』をホルスターから抜刀して、相生剣法に従った構えを取る。

だがそこへ、

――ガラッ!――

「おや、本山さん」
「金女ちゃん・・・だったな。状況は想像以上に拙いことになっている!」
「えぇ。大方榛原さんが、ヤミーの親にされたといったところでしょうね」

チェリオは至極冷静な態度で居る。

「にしても、よくここまで戻って来れましたね」
「ディルードとかいう仮面ライダーのお陰だ」
「へー。あの盗人さん、意外と粋なことをなさいますね」

チェリオは仮面の中にある素顔を綻ばせながら驚いたような声音を出す。

「兎にも角にも、貴方は中間である四号車にいてください。そして、この五号車を含む後続車両の連結を断つのです」
「本当に、それでいいのか?」
「不案(あんじず)・・・・・・といったところですよ」

チェリオは自身たっぷりにそう返答した。
本山は金女を信じて四号車と五号車の接合部分に入った。

そして、懐にしまってある拳銃と小太刀を取り出す。

――パンッ!――
――ザギンッ!!――
――ガチャン!!――

鋼鉄の刺突と銃弾により、頑強な連結が外れた。

「ふ・・・っ」

音を鼓膜で、衝撃を身体で感じ取り、チェリオは準備万端とでも言う風な雰囲気である。

「では、一気にケリをつけましょう」

≪ENTOU・JUU≫

完成形変体刀、最後の一振り。
連射性と速射性と精密性の三つが主眼となっている、自動式連発拳銃と回転式連発拳銃。

≪CELL BURST≫

「断罪炎刀!連撃編!」

炎刀『銃』は、主の命のまま、火を噴き敵を殲滅する刃となる。





*****

本山は扉のガラス越しに、米粒のように小さく眼に映るほど、距離が離れていった後続車両を見つめた。
彼は一日に二度も、それにこの短時間で己の無力さを痛感させられた。

「何故、俺はこんな肝心な時に・・・・・・」

役立たずなんだ、という言葉を出そうとするも、それは喉に引っ掛かって上手く出なかった。
幾ら今回の件にヒトとは大きくかけ離れた怪物が絡んでいるとはいえ、自分の不甲斐無さに薄らと涙が目尻に浮かぶのを感じた。

その時、

――ブゥゥゥウウウゥゥン!!――

バイクのエンジン音が鳴り響き、荒野に等しいこの場所に轟いたのだ。

「は・・・っ」

本山は俯いていた顔を上げ、ガラス越しに見つけた。
暗い闇夜をバイクのライトで僅かにかき消しながら、こちらに疾走してくる一台のバイクに乗った者の姿を。

ヘルメットをしていて顔はよく見えないが、その服装は間違いない。
黒い着流しに黒いズボン。見間違うわけが無い。

「なん、でだ・・・・・・!?俺は、お前に何もしてられなかったのに・・・・・・お前を護れなかったような、ダメ野郎なのに・・・・・・どうして!?」

本山は扉に顔をおしつけ、極力顔が見えないようにする。

「お前はもう、この組織に尽くさなくてもいいってのに・・・・・・なんでなんだよ・・・・・・!?」

本山の心のダムは決壊した。
両目からは度を越した量の涙の雫、というより滝が流れ出る。

「刃介ぇぇぇええ!!!!」
「はーい!」


≪SINGLE・SCANNING CHARGE≫


――ドガーン!!――


「のぎゃあああああああ!!!」


えぇと、一言で述べてしまおう。
刃介は何時の間にか手に持ったメダマガンで発砲しました。
そして、本山が身を預けていた扉に攻撃が命中して爆発しました。

「おい聞いたぜ雄一。お前、生意気なことに暗殺されかかってんだって?」
「今されかけた!!今お前がするトコだったぞ!!」

本山は爆風で吹っ飛ばされたが、刃介のボケに対して素早く復活してツッコんだ。
だが本山はその際、己が視界にあるものが入った。
それは目線を逸らす程度ではすまない規模で展開されている。

刀剣組の黒服たちが、生身で、通常兵器だけで、ツルギヤミーたちを抑え込んでいた。

「・・・・・・・・・・・・」

その誰しもが視線を奪われる光景に本山もまた、魂がなくなったかのようにそれを見ている。
その耳の奥にある鼓膜には、


「うぉぉおお!!」
「本山さんを護れーーっ!!」
「怪物だからってビクつくなぁぁ!!」
「根性の発揮ドコロじゃあああ!!」


仲間達の腹の底から出てくる空気の振動という声が届いてくる。

「雄一・・・・・・お前、どうしたい?」

刃介は率直に本題に入ってきた。
今の刃介にはツルギヤミーのことや榛原の裏切りより、本山の心根に関心があるらしい。

「刃介。俺はな、ぶっちゃけな話、皆と一緒じゃなきゃダメな奴なんだよ」
「ああ、知ってる、かなり前から。それがどうしたよ?」
「どうしたよって・・・・・・俺は長年隣に居た相棒の心の闇さえ悟れなかった野郎だぞ」
「それで?誰かに責めてもらって、組長の座を誰かに譲って隠居すれば事が済むとか思ってんの?」

刃介は遠慮の二文字を斬り捨てるように迫っていく。
列車とバイクという格の違う乗り物に乗っているというのに、その差を一切感じさせない。

「たった独りじゃどうにかできない奴も、他人の心を悟りきれる奴も、此の世には一人として存在しない。居たとしたら、そいつは万能かつ退屈の見本として俺が標本にするぞ」

刃介はヘルメット越しに眼光を光らせる。

「お前は一長一短なだけだろ。他人の良い所は見つけられるクセして悪いトコは見つけらんない。豪快だが微妙に不器用。それと一緒だろ?人間なんざ、一つか二つ欠点があるほうが丁度良いんだ」
「・・・・・・刃介・・・・・・」
「そんなお前だからこそ、後ろの阿呆どもはついて来たんだろ?だったら胸を張って眼前を見据えろ。どんなに屈辱に塗れても生き抜け。お前が居る限り、刀剣組終わらねぇからな。俺はあの頃のように、お前の刀になることはできない・・・・・・だがな―――」

刃介はヘルメットを取り、後部座席に座って自分の身体をしっかり掴んでいる七実の片手に渡す。
そして、しっかりとした眼で、口で、心で語る。

「雄一。今も昔も、お前は刀剣組の御旗(たましい)だ。奴らはそれを護る剣なんだよ」

その言葉は実に一直線を描く、真っ直ぐな一言。

「刃・・・介・・・」

その語りに、本山雄一は眼を覚ました。
先ほどのような大粒の涙ではなく、一筋の涙が両目から流れ出た。

その時、


≪CELL BURST≫

「漆填抜刀!!」

――ドギューーーン!!――


後続車両が吹っ飛んだ。
燃え盛る業火の中を、たった一人の重装備忍者だけが歩んで出てくる。

「向こうは終わったようだな。――金女(あいつ)金女(あいつ)なりに、自分の信じた道を突き進んでいる。俺もまた、俺の欲望のまま動き続ける」
「・・・・・・ああ、そうだったな」

本山はさっきまでの泣き顔を表情から引き剥がし、組長としての顔になった。
そこへ、

「ならば、手早くこの列車を止めましょう。榛原さんも、この列車にいるのでしょう?」

さっきから全然喋ってこなかった七実が漸く口を開いた。

「ですが貴方、よく今まで殺されなかったですね」
「それが、ディルードって奴が助けてくれてな・・・・・・」
「あいつがか?・・・まあ良い。兎に角―――」

刃介の言葉は紡ぎ切れなかった。
なぜなら、タイミングを計ったように先頭車両から電子音が聞こえてきたのだ。

≪FINAL ATTACKRIDE・・・DI・DI・DI・DI-RUDO≫

それと同時に煌く一閃が窓から一瞬もれ、内部には複数の爆発音と爆炎が立ち込めた。
勿論、先頭車両でそんなことが起これば、

――ギギウィィィィン!!――

凄まじく嫌味な音がレールと車輪によって引き起こされ、列車は傾きだした。

「っ!雄一、乗れ!」
「お、おう!」

刃介の言葉に従い、本山はシェードフォーゼに飛び乗った。
その衝撃でバランスを崩しかけるも、数多の技術を吸収したうえにグリード化までした刃介の尽力によって水平を保った。

列車は完全に横倒しに倒れ、動かなくなった。
すると、先頭車両からは漆黒の次元剣士が出てくる。

「いやー。働いた働いた」

お気軽な口調・・・・・・紛れも無い。

「ディルード」
「よー、お前か」
「・・・・・・終わったのか?」
「いんや」

刃介は一応問いかけるも、ディルードは否定した。

「あんなのは端っこに過ぎないって。本隊は、あちらに」

ディルードが指差した方向には、赤く塗装された鉄橋がある。
そして鉄橋の上を大挙してこちらへ押し寄せてくる一団の影。

簡単に述べてしまうと、ツルギヤミーの大軍である。
しかもその数が900を余裕で上回っている。

「どうする?手ぇ貸して欲しいか?」
「随分とまあ積極的だな」
「ま、色々と見せて欲しいものがあるからな」
「ん・・・?まぁいっか。ならば、切り込みはお前に任せる。出来るトコまでやったら、後は俺と七実が片付ける」

刃介はブライドライバーを装着し、金色のコアメダルを投入しながら述べる。

「ふーん。別にいいが、後で『別のお宝』ってのをたっぷり拝ませてもらうぜ」

ディルードはそういうと、単独でツルギヤミー軍団に歩み寄っていく。
ツルギヤミーらも気がついて動きを止めた。

『なんだ貴様は?』
『邪魔をするな、退け』
『でなければ、斬るぞ』

ツルギヤミーたちは一斉にディルードをどかそうと口々に言うが、言われている本人はそんな戯言には無関心で、あるものを取り出していた。

それは隅から隅まで、端から端まで、全てが漆黒(ブラック)で塗りつぶされたタッチ式ケータイ。

「行くぜ、俺の至高のお宝、ケータッチ」

ディルードはケータッチに一枚のカードを差込み、浮かび上がる紋章にタッチする。

≪DAGBA・ARC ORPHNOCH・JOKER・GRYLLUS WORM・DEATH IMAGIN・BAT FANGIRE・ULTIMATE D・UTOPIA DOPANT≫

八つの紋章をおして最後にディルードのライダークレストが描かれた部分をタッチ。

≪FINAL KAMENRIDE・・・DI-RUDO≫

ケータッチをバックルに収めた途端、ディルードの額には一枚のカード=ディルードのファイナルカメンライドカードが装着された。すると全体のカラーリングも黒部分に銀のラインで統一され、胸部には黒で八つに仕切りされた部分こと、ヒストリーオーナメントが形成され、そこへ八枚のカイジンカードが現れて並ぶ。
彼の仲間が仮面ライダーの歴史を胸に刻むのなら、ディルードは怪人達の歴史を胸に刻む存在といえるであろう。

世界の蒐集者、仮面ライダーディルード・コンプリートフォーム。

『『『『『『『っッ!!?』』』』』』』

ツルギヤミーたちはディルードの強化変身に驚き、お互いに顔を見合っている。
ディルードはそれを尻目にホルダーから一枚のライダーカードを取り出してディルードライバーに装填。

「出血大サービスって奴だ」

≪ATTACK RIDE≫

そうしてディルードライバーを逆手に持ち、柄のスイッチを押した。

FINAL(ファイナル) ENEMY(エネミー)

一枚のカードの力で現出したのは、八人の怪人達。
そのどれもこれもがディルードと並び立つに相応しい猛者ばかりだ。

戦闘民族グロンギの王にして白き究極の闇、ン・ダグア・ゼバ。
死の果ての進化種族、バッタの姿をしたオルフェノクの不死王、アークオルフェノク。
53番目や死神と畏怖されし封印を司る黒い切札、ジョーカー。
コオロギの特性を備えた宇宙生物ネイティブこと、グリラスワーム。
その名の通り死神のイメージによって此の世に現出した、デスイマジン。
命を吸うファンガイア族がキングの真の姿、バットファンガイア。
ネオ生命体とダミー・ドーパントの融合体、アルティメットD。
理想郷の記憶を宿した巨大組織の使者、ユートピア・ドーパント。

どれもこれもが歴代の仮面ライダー達を大苦戦させた者たちばかりだ。

≪FINAL ATTACKRIDE・・・DI・DI・DI・DI-RUDO≫

ディルードが必殺技のスタンバイをすると、他の八体もまた、その構えを取る。

「『『『トォ!』』』」

ディルード、ダグバ、アークオルフェノク、ユートピア・ドーパントが宙に向って跳躍すると、残る五体はアルティメットDの放つアルティメットボムを初めとして多くの遠距離攻撃を準備する。

「『『『ハァァアア!!』』』」
『『『『『フンッ!!』』』』』

そして宙に跳んだ、一人と三体が空中からの袈裟斬りやキックを叩き込むのと同時に強力なエネルギー攻撃を発射した。

結果、

『『『『『『『『『『ぐああああああああああああ!!!!』』』』』』』』』』

ツルギヤミーたちが一気に薙ぎ倒されたのだ。
しかしながら一度に百体が限度だったようだ。
召喚された怪人たちは虚像として消えてしまった。

ディルードは己の得物の刀身を肩に乗せてこう呟く。

「まぁこんなモンか」

その言の葉には気負いらしい気負いは無く、ただ淡々としていた。
そこへ刃介と七実が背後に近寄ってくる。

「選手交代です」
「あ、そう。じゃあ休ませてもらおうかな?」

七実にそういわれてディルードはとっと後ろのほうに下がっていった。
残るツルギヤミーの数は800前後。
でも大量VS一人という戦闘(くさむしり)には慣れている七実にとっては問題ない。

「虚刀『鑢』」
「はい」

刀としての名前で呼ばれて、七実は無機質な返事をした。

「俺は百体ほど殺るから、残った大半の連中を毟り尽くせ」
『極めて了解』

七実は人間の姿からグリードの姿であるキョトウに変貌する。
変貌を遂げた直後に、キョトウは敵陣に単身で突っ込み、モノの見事に七百の敵(自分の得物)百の敵(主人の得物)に分断させた。

刃介もローグスキャナーを手に取り、一気にバックルのコアを読み取らせた。

「変身!」

≪YAIBA・TSUBA・TSUKA≫
≪YABAIKA・YAKAIBA!YAIBAKA!≫

全身の三つのパーツ、全てのラインが金色に煌き、白銀のヤイバアイが、一本の刀という冷え冷えとした印象を与えている。
刃介(ガトウ)自身のコアメダルによって変身する仮面ライダーブライ・ヤイバカコンボ!

「んじゃまー。初っ端からトバしていくとしようや!」

ヤイバカコンボとなったブライが手を挙げると、身体全体の金色部分がエネルギー伝達によって光り出し、ヤイバアイも奇妙な発光を映えらせる。

すると同時に空中に突拍子も無く現れたのは―――日本刀である。
ブライによって造られ、空中に浮いていること以外は全て普通の日本刀。

ただし、その日本刀千本全部が、完全同一でなければの話だが。

「完成形変体刀が一本、千刀『鎩』――一斉掃射」

ブライが挙げた手をツルギヤミーらに向けて下げた瞬間、


――ビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュン!!!!――


千本の平凡な日本刀(ブライの力で強化済み)が、魔弾となって豪雨のように降り注ぐ。
輝く刀身の銀色な光と風を切る音が相まって、その光景には一種の粋を感じさせる。

もっとも、

『『『『『『『『『『んぐぁああああああああああ!!!!』』』』』』』』』』

攻撃されて串刺しにされてしまっているツルギヤミーたちからすれば堪ったものではないだろう。
約一分間=60秒が過ぎて漸く千本の刀の射出が終えた。
当然ツルギヤミーたちは少しばかり安堵して反撃しようとするも、

「千刀『鎩』――模倣開始・・・・・・再創造・・・・・・再装填」

死刑を宣告するように、ブライの頭上には再び千本の刀たちが現れる。
そう、これこそがヤイバカコンボの真骨頂たる固有能力。

変体刀として識別される物体を完全模倣して現出させる。
固有能力名称は、刀剣模造(ソードマスター)

「再び、一斉掃射」


――ビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュンビュン!!!!――

『『『『『『『『『『ぐぎゃああああああああああ!!!』』』』』』』』』』


千刀(セントウ)(ツル)』とツルギヤミー。
四季崎の変体刀に多少なりとも知識がある者なら、同じ銘を持つ物が同属に串刺しにされる光景に、切実とした皮肉の念を抱くだろう。

射出しては串刺しにされ、撃ち終れば再び造られ、また射出しては串刺しにされ、撃ち終れば再び造られる。
殺られる側からすれば無間地獄のような無限ループと言えるだろう。

そして、


――ピューーー・・・・・・!!――


『くッ・・・・・・』

残るは、もう一体だけだ。

「これで締めだぜ」
『おいブライ!』
「ん?」

ツルギヤミーはブライにこう問いかけてきた。

『なぜ今更、刀剣組なんぞに加担する!?もう一度、貴様は正義の味方にでもなる気か!?』

半ばヤケクソ混じりな問い掛け。
それは本当にヤケクソだったかもしれないし、延命の為の時間稼ぎかもしれないが、ブライはこう答える。
左腕のヤイバスピナーに嵌っているセルメダルと、ベルトのコアメダルを取り替えながら。

「ハッ――本来なら問答無用なんだが、今回だけは、耳の穴掻っ穿って良く聞きやがれ!」

メダルの入れ替えを終えたブライは、大声でこう言った。

「俺は今まで、安っぽい正義の為に戦ったことなんざ、一度たりともねぇ!」

今にして思えば、あの頃の自分は照れていたのだ。
子供だったが故に、カッコ良い言葉を並べて誤魔化していただけ。

「正義が滅ぼうが流派が廃れようが、どうでもいいんだよ!俺は昔っから!」

ローグスキャナーに七枚のオーメダルが高速回転しながらスキャンされていく。

「今も昔も、俺が望むモノは何一つ・・・・・・!!」

目蓋の裏や脳裏に浮かぶのは、共に戦った者達との記憶。
戦友の為に己が身を散らした至高の好敵手。
そして、何よりも愛する女!

「変わっちゃいねぇぇ!!」

≪YAIBA・TSUBA・TSUKA!GIN・GIN・GIN!≫
≪GIGA SCAN!≫

遂に完全なコンボのメダルで発動した真のギガスキャン。
ヤイバスピナーから金色の野太い巨大な光の刃が今此処に顕現された。まるで、刃介(ブライ)自身の限り無い欲望のように!

我刀(がとう)真剣(しんけん)ッ!!」

夜明け前の闇夜を照らし出す金色の光り輝く刀。
それは留まるところを知らぬ勢いで威力を高めていき、直接触れずとも刃が放つ光に近寄るだけで身体に影響が出そうな程だ。

欲望の剣士は魂の底から叫びをあげ、一閃を振るった。





*****

横転して脱線した列車の先頭車両。
その際に頭をぶつけてしまい、その衝撃で気絶していた榛原は漸く意識を覚醒させる。

「チクショー」

目覚めての第一声がこれだ。
理由は複数存在する。

一つ目はディルードやチェリオの邪魔されたこと。
二つ目は列車が横転して止まってしまったこと。
そして最大の三つ目。自分の左腕の肘から先がごっそり無くなっていたこと。

「クソッ・・・・・・あいつの攻撃に巻き込まれて!」

そう。ディルードが必殺技をこんな狭い場所で使ったが故、榛原はその余波の巻き添えをくらったのだ。しかし、左腕を失ってもいまだ冷静でいられるところは驚嘆すべきポイントだろう。

「ここまで、なのか・・・・・・」

仮面ライダーがここまで集まってきたのだ。
少なくとも本山達は逃げ切る時間を得たに違いないと判断する榛原。
だが彼は本山も刃介も此処に居て、戦いの渦にいることをまだ知らない。

「・・・・・・ああ、立ち上がれない」

左腕を失った傷口から想像以上に血が流れてしまったのか、下半身の筋肉がいうことを聞いてくれない。全力を出せば歩くことができるだろうが、確実に寿命を縮めかねない行為だ。

そこへ、榛原の眼前に現れる者がいた。

「・・・・・・啓示・・・・・・」
「雄一、か」

刀剣組組長の本山雄一。

「なぁ啓示。どうしてこんなバカ騒ぎを思いついた?あんな怪物連中まで雇ってな」
「・・・・・・(いと)さ」
「いと?」
「そうだ。刃介の誰よりも己に正直な生き様は皆を魅了して引き寄せた。そんなあいつを羨ましく思った反面、怖かったんだ。何れあいつの何かが俺の居場所さえ押しつぶすんじゃないかと」

榛原は異常なほど冷静に口を開いて言葉と認識される音を喉から出す。

「五年前の俺の失言から始まった仲間たちの責めで、あいつが刀剣組から去って行く時には寂しくもあったが嬉しくもあった。コレで俺の居場所は脅かされないとな。全く持って俺は救いがたい阿呆だよ。そんなのは人付き合いの超苦手な男の妄想に過ぎなくて、あの頃の刃介がそんな事を企むわけもないというのに」

本山は黙ってそれを聞き続ける。

「幼馴染のお前以外とでは誰とも噛み合わず、孤独な俺には、あいつの用に強くいることは出来ないかもしれん。だが俺はただ、(いと)が欲しかった」

榛原は深呼吸をするように口と喉と胸と腹を動かす。

「春には桜の下で酒飲んで騒いで、夏には海で疲れるくらい泳ぎまくって、秋には死ぬほど美味いモンを食い合って、冬にはコタツに入って鍋を囲み合って・・・・・・そんな当たり前で暖かい(いと)が欲しかった。しかし何時の間にか、抑えようも無く膨れ上がって、『欲望』になっていたんだな」

「・・・・・・啓示」
「ホント、さっきまでの俺は、チッポケな自尊心を護る為だけに、本当に欲しかったモノを見失っていたんだな」

本山は榛原の名を呟く。
あまりに小さい声にも関わらず鼓膜には届いたのは、切実な思いを乗せて榛原は喋り続ける。

「何故、わかった時には遅いんだ?――何故一緒に戦いたいのに立ち上がれない?――何故剣を握りたいのに腕が無い?」

榛原は二の腕を掴む。
その時の右手には、悔しげな何かが漂っていた。

「何故・・・・・・漸く気付いたのに、俺は死んでいく?――死にたくない。死ねば独りだ。どんな(いと)さえ、届かない・・・・・・」

榛原の声は後悔のそれから嘆きのものに変わっていく。

「もう、独りは・・・・・・」
「――――――」

ただただ沈黙し、長年の相方の言葉に耳を傾ける本山。
そこへ、身体のいたる部分に刀傷を負いながらも、二本の脚で立派に立っている黒服三人が列車内に入ってきた。

「組長・・・・・・」
「その人を運ばせてください」

三人の黒服のうち二人は気まずそうながらも確認した。
これだけの被害を出した張本人である榛原啓示の処遇は、もはや極刑しかない。
黒服の二人は、現時点での刀剣組最高権力者の命令を待つ。

「連れて行け」

その一言で即座に反応した黒服の二人は、自力で立ち上がることさえ満足にできない榛原の両脇を二人掛かりで支え、ゆっくりとした歩調で進んでいく。
勿論、その時に榛原の身体からは少量ずつの血液が零れ落ちていた。

「組長・・・・・・いや、本山さん」
「・・・・・・・・・・・・」

三人目の黒服は、二人の黒服に運ばれていく榛原の後ろ姿をみて、今度は目の前にいる男に声をかける。しかし、その必要は無かった。
本山の眼から溢れ出続ける涙が、彼の心情の全てを語っていたのだから。





*****

列車から出された榛原は、刀剣組一同が大人数で円を描くようにして取り囲む一帯の中心で拘束を解かれた。しかしそれは、巨大な円を組んだ彼らの前で彼が斬られる場面を見届ける為―――間違っても彼が逃げ出さないように、こうして皆は大きく広がって大きな円を成している。

そして、その円を形成する者の一員として、金女も了も七実も・・・・・・そして、本山もいる。

円の中心で倒れそうになる榛原に近寄り、刀を投げ渡すものが一人。
白髪頭、黒い着流し、黒いズボンという出で立ち。

「抜けよ、啓示」

我刀流二十代目当主にして元刀剣組総隊長・鋼刃介。

「サシで、決着つけようぜ」

そう言われて榛原は死に逝く体に鞭を打って抜刀した。
刃介も組員から渡された一本の刀を抜刀する。

正直な話、榛原はもう何もせずとも死ぬ・・・・・・恐らく半日ともたずに死ぬだろう。
だが、だからこそ斬らなければならない。
彼をこのまま薄汚い裏切りのまま死なせるわけにはいかないのだ。
最期は剣士として、仲間として、生涯を終わらせてやる為に。

暗かった夜に薄らとした日の出の光が差し込んでくる。
その日の出が現れた瞬間に、二人は全力で地を蹴って駆けた。


「刃介ぇぇぇえ!!」
「啓示ぃぃぃい!!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


叫びあう二人の剣士。一秒ごとに二人の距離は劇的に縮まっていく。
二人の距離が零となったとき、朝日の光に混じった一閃が成された。
そして、二人の影が交差し終えたて離れた時―――


―――榛原啓示の身体から、夥しい量の鮮血が流れ出した。

榛原自身は、何食わぬ顔だったが、あるモノを感じ取ったとき、僅かに表情が変わって、ふと後ろを振り返った。
そこには、刃介の身体から伸びて自分に繋がってくる一本の(いと)があった。
それに気付いた瞬間、より多くの綺麗な(いと)が、榛原の身体にどんどん繋がってくる。
恐らく榛原にしか視えていないだろうが、周囲を見渡せばこの場にいる刀剣組の者達全てから一本ずつの(いと)が自分に向って伸びている。

それを心で感じ取ったとき、榛原は今際の際に漸く手にすることができたのだ。
仲間との絆という、本物の『お宝』を―――。


「・・・・・・が、とう」

榛原は顔を俯かせ、小さな声で何かを言いかける。
そして今度は顔を上げ、小さいながらもしっかりと聞こえる声でこう告げた。

「あり、がとう」

感謝してもし切れない程の想いの詰まった涙を流しながら、刀剣組組長補佐・参謀の榛原啓示は、親愛なる仲間に見送られながら、暖かな朝日の光を浴びながら、三十歳という若く短い一生を遂げた。

そんな旧友に対して引導を渡した刃介は、眼からたった一筋だけ涙の雫を零して、たった一言だけ呟く。

「大馬鹿野郎」










刀剣組編・完

ヤイバカコンボ
キック力:20トン パンチ力:10トン ジャンプ力:200m 走力:100mを3.5秒
身長:210cm 体重:95kg 固有能力:刀剣模造(ソードマスター) カラー:金色 属性:金属
必殺技:我欲刀鋩と我刀真剣

ヤイバヘッド
複眼の色は銀色。
仮面中央に大きくあるヤイバブレードの切れ味は超特殊合金さえも一発で貫通・切り裂く程のものである。またX線バイザーとしての役割も果たす為、透明化した敵も容易に発見できる。

ツバアーム
両肩と手首に装着されたツバメタルの効力によって、攻撃を行う時には普段の倍以上のパワーが出力される。またツバメタルの超硬度を活かしての防御も可能である。

ツカレッグ
脚部に彩られた美しい模様のツカパルテンによって両脚への負担は極限まで吸収され、疲労を感じることなく足技を行い続けることができる。


ヤイバスピナー
ヤイバカコンボ専用の手甲型装備。左腕の装着する。
タジャスピナーと同型機で、違いといえばカラーリングとヤイバフェイスの模様の違いである。オークラウンに収められた七枚のオーメダルを内部で回転させてローグスキャナーでスキャンさせることによりギガスキャンを発動し、通常のスキャニングチャージを大きく上回る必殺技を繰り出す事が出来る。
尚、エネルギー解放器としてでなく、メダル状の手裏剣を射出したり、刀身を現出させての斬撃や硬度を活かしての防具や打撃武器にもなり、汎用性の高い武器と言える。


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