仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!


一つ!比奈の兄・泉信吾がアンクから解放され、比奈と再会!

二つ!その二人を巻き込まない為に映司は、クスクシエから去る一方、刃介はルナイトと竜王の激励により、気力を取り戻す!

そして三つ!アンクと七実の救出に向った映司と刃介の前に、Dr.真木と四季崎記紀が現れた!
異変と欲望神と愛ゆえに
とある緑豊かな森林地帯。
草木が青々と生い茂る大自然の中で、奇妙な運命に身を置く二組の男たちがいた。

片方は、火野映司と鋼刃介。
片方は、真木清人と四季崎記紀。

話をしやすくするため、映司と真木、刃介と四季崎とで別けさせてもらう。

「んで、話ってのはなんだよ?」
「ああ。まずはお前について簡単な話からしてやろう」

四季崎はそういって薄らと笑う。

「前にも聞いたろうが、俺の狙いはお前を『超完全体』とし、神さえも凌駕する存在にすること――完全系変体刀・我刀『鋼』として成就だ」
「ああ聞いたよ。聞いてるからさっさと次の話題に進んでくれ」
「せっかちな奴だな。まあ良い、欲望に正直で結構なことだ」

四季崎はわざとらしく、手を上げてみせる。

「今現在、俺はお前を試している。キョトウを倒し、虚刀『鑢』を取り戻せるかどうかを?その成果によって、正式にお前を我刀『鋼』として認める」
「御託はいいから肝心な部分に突入しろ」

刃介は不機嫌さを一切隠さずにズカズカと言い切った。

「だからそう焦るなって。――俺がこんな(てい)になってまで、お前を完全な者にさせたいと考える理由についてだが・・・・・・」

そう、そこだ。
一番聞きたい部分である。

「ズバっと言っちまうとだな、娯楽だよ」
「・・・・・・・・・・・・へっ?」

耳を疑った。
戦国時代⇒800年前⇒現代にかけてまで、多種多様なコアメダルを造り、人形ななみ達を造り、魔法まで使った男の動機が、娯楽。

余りにも衝撃性のない答えに、刃介の頭から力が抜けていく。
しかし、そんな答えでは納得できない欲望が踏みとどまらせた。

「四季崎。このごに及んでおふざけに付き合ってる暇はねぇんだがよ?」
「ふざけた理由?全く持ってそうだな。だが一族の目的が潰えた今、刀作りの為に生み出された俺に残ったのは、やはり刀を創るって言う欲望だけだ」

四季崎は編み笠を深く被り直しながら、表情を愉快げに歪めていく。

「目的がなければ、幾ら刀を創っても仕方がない。だったら、自分が楽しむ為に作ればいいんだ。どんな芸術家だって、作品を作る過程に喜びを見出し、作品を仕上げたときに満足する。かっかっか、俺も同じになっただけだ。ただし、規模スケールは果てしなくデカいがな?」

四季崎はそう告白する。
ありえない解答に刃介は、思わず拳を握ったが、すぐに解いた。
そのバカげた考えで七実はあんな目に遭っているが、逆に言うとそのバカげた考えがなければ、七実達と出会うことさえなかったのだから。

「そうか・・・・・・『超完全体』とやらに、俺がなったとして、お前はその先に何がある?」

そう。刃介が完全変化するということは、四季崎の魂を宿したコアメダルも、刃介に取り込まれるということだ。
だがそれは裏目に考えてみると、

「その先だと?そりゃあお前と共にあるだろうさ。俺は、神さえも殺せるお前の道筋を、内側から見物させてもらう。まあ、作品が展示会でどう評価されるかを見に行くようなものか」
「っっ!!」

――ガシッ!――

刃介は無意識に四季崎の胸倉を掴んだ。
力をくれることについては感謝するが、四季崎を楽しませる作品や玩具になるつもりはない。

「言葉は選んだほうが良いぜ?」
「善処しよう。だがよ、俺は己が欲望を満たすぞ。お前の無限の我欲によってな」

四季崎は胸倉を掴まれながらも、なお痛快そうに笑っている。

「―――チッ」

舌打ちしながら、刃介は乱暴に四季崎を放した。

「そこまで言うなら成ってやるぜ、欲望の神に・・・・・・!しかし、後にも先にも其処へテメェが介入する余地はおろか、一部の隙もないってことをよーく憶えておけ・・・・・・!」



一方で、そんな会話を隣で聞きつつ、映司と真木は。

「頂きたいんです、そのメダル」

真木は映司のメダルを貰おうと、力を強める。

「っっ――すぐにもあげたいんですけどね・・・・・・貴方が、世界を終わらせるなんて、言わなければ・・・・・・」

映司は半ば土下座にちかい姿勢になりながらもコアを押し留める。

「抵抗は無駄です」
「うっっ!!」

メダルの共鳴になお苦しむ映司。
映司は無意識に、其の場を離れて別の場所に走っていった。

「お、おい火野!」

そんな映司を観て、刃介は後を追っていった。





*****

その頃、バース達は。

――バガァァァアアァァァン!!――

『『『ぐがぁぁああああああああああ!!』』』

三体のヤミーの身体を廃工場へと吹っ飛ばしていた。
壁が脆く崩れるも、それを突入口にして三人は追い討ちでもかける様に接近していく。

『このっ、よくもぉ!』

アンキロヤミーは怒り、右腕からトゲミサイルをバンバン発射し、

――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン――

バースはそれを弾丸で弾いていく。
だが、

「うわっ!」

バースバスターを上方に逸らされてしまう、
その隙にアンキロヤミーは強力な冷気によってバースを凍らせた。
胸から下が凍りついてしまい、思うように動くことが出来ないバース。

だがそれでもバースは、

――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――

なおも攻撃を続けた。


「ウッシャアァァァ!!」
『フゥアアアアア!!』

片や、ブレイズチェリオはドラゴンヤミーとで攻撃を交えあっていた。

≪ENTOU・JUU≫

胸のカプセルが開くと、両手には炎刀『銃』が転送される。

――パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!――

連続して発砲される弾丸。
それは次々とドラゴンヤミーに当たるも、

『その銀弾鉄砲で、なにができる!』

ドラゴンヤミーは翼をはためかせ、途中から弾丸を防いできた。
その翼のはためきには強力な冷気が含まれていて、

「くっ、こんちくしょう・・・・・・!」

ブレイズチェリオは、腰から下を氷付けにされてしまう。
しかし、それで諦める花菱烈火ではない。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

――パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!――


そして、クエスはというと。

≪SASORI・SARRACENIA・KITSUNE≫

ササラツネに変化したクエスは、カンナヤミーに対して中距離戦を行っていた。
三つのパーツもどれもが、彼女の意のままに動く触手としての役目を果たすからだ。

「タァアア!!」
『ドゥアア!!』

二人の戦いは実に拮抗していた。
カンナヤミーの攻撃力は警戒さえしていれば、なんとか凌げる程度のもの。
だが、決して折れず曲がらず錆びないという特性ゆえに、常軌を逸したタフさを持つ。
マラソンマッチを覚悟はしていたが、このままでは氷付けになった仲間を助けられない。

(くっ・・・・・・)

クエスは内心で焦った。


そしてバースらは。

『ここまでだなバース』
『終わりだよ、お前らは』

バースは弾切れ、ブレイズチェリオはセルネルギー切れで、其々の銃火器が撃てなくなった。
補充しようにも、脚が凍っていては動けない。

「・・・・・・悪いが終わるのはお前らだ」
『ほう。その状態でどう終わらせるつもりだ?』
「俺らのドライでぐうたらな上司が出勤してくるんだよ」
『なに?』

四人がそう話していると、

――ヴィンヴィンヴィン!!――

『『っ!?』』

突如として、メダルの弾丸が二体に襲い掛かった。
それを撃ちこんだのは一人の女性で、彼女はゆっくりと、明るい陽射しが立ち込める正面の入り口から姿を見せた。

「おはようございます」

里中エリカ。
例え死地でもビジネスライクを貫く女である。

「里中っ!」
「頼むっ!」
「了解」

里中は早速満タン状態のセルバレットポッドを二つ、バースとブレイズチェリオに投げ渡す。
バースはそれをバースバスターの銃口と連結させる。
ブレイズチェリオは忍刀『鎖』を抜刀し、合体させてセルを投入。

≪≪CELL BURST≫≫

「こういうことだ」
「憶えときやがれ!」

バースバスターと忍刀『鎖』には多大なエネルギーが増幅・解放され、

「「オオオォォォアアアアア!!」」

必殺の銃撃と斬撃が放たれた。

『『んっ!』』

アンキロヤミーとドラゴンヤミーはその危険性を瞬時に悟り、咄嗟に身体を横に転がして避けた。

当然、後方では凄まじい爆発がおき、直撃していれば確実にやられていただろう。
爆発によって、相当な煙も発生し、それを煙幕にしたのかどうかは知らないが、

「―――逃げたか」
「後で厄介にならなきゃいいんだがよ」

二人がそう言っていると、

「おい、そっちはどうだ?」

クエスが駆けて来る。

「そういうお前は?」
「いや、ダメだった」
「そっか。そっちもか」

そんな三人を遠目で見ていた里中は、

「ふあぁぁ」

朝早くということもあってか、欠伸をしていた。





*****

所もどって森の中。

「火野、待てって!」
「うぁ、はぁ、くぁ・・・・・・!」

がむしゃらに、逃げるように走る映司と、それを追いかけるべく走る刃介。

「言っとくが、今はどれだけ逃げても無駄だぜ」

急に刃介は声音を冷やした。
だって、

「とっくに、先回りされてるしよ」
「―――!?」

そう言われて漸く気付いた。
今時分の眼前に、例の人形が置かれていることに。
持ち主は人形を拾い上げてこう言った。

「火野くん。君は知ってて見ないふりをしてるんですか?」
「え・・・・・・?」
「自分がグリードになろうとしていることに」

衝撃的な事実は、時としてあっさりと、そして残酷に突きつけられる。

「おい、真木。その話、どうしてもする気か?」
「当然です。そうしなければ、火野くんは何時まで経ってもメダルを譲渡しません」
「その程度でどうこうなる男じゃないぜ」
「かかか。そいつは何とも、筋金入りの偽善ぶりだなぁ」

四季崎も途中で混ざりつつ、話は進んでいく。

「一体・・・どういう・・・ことですか・・・?」

映司は近くにあった大木に身を寄せながら聞いた。
すると、真木は小さな紫の布を地面に敷き、その上に人形サイズのテーブルや椅子を並べだす。

「いいですか火野くん。グリードとはその名の通り欲望の塊です。――が、逆を言えば欲望しかない。・・・・・・ただ欲し続けるしかなく、どれだけの欲望を抱こうとも、それが満たされる喜びを味わうができないんです」
「まあ、我刀と虚刀とリュウギョクは例外だがな」

四季崎も途中で、玩具の食べ物を並べたりなどで手伝うも、真木は「ヤメテクダサイ」と片言で言っていた。


そんな時だ、戦闘を区切って駆けつけた後藤たちが、茂みに隠れるようにして到着した。

「真木博士?」
「四季崎・・・!」
「火野さん、かなり危険っぽいですけど」
「まあ、鋼の奴がいるから、なんとかなるだろうけど」

四人はとにかく、少しの間様子を見ることにした。


「どういうことですか?」

映司は訊ねた。

「例えば欲望が満たされたと感じる方法の一つ、感覚―――視覚(みる)聴覚(きく)嗅覚(かぐ)味覚(あじわう)触覚(ふれる)。つまり人間の五感」

真木は具体的な例を述べる。

「率直なところ、正常なグリード達(・・・・・・・・)が見る世界の色は(・・・・・・・・)くすんでいる(・・・・・・)わけだ」

まるで、画質の悪い――光の質が可笑しい動画のように。

音は濁って聞こえる(・・・・・・・・・)

まるで、耳に空気や水分が詰まっているかのように。

「君もそろそろ何かを感じている筈です。いや、感じなくなっていると言った方がいいですか」
「だからこそグリードは際限なく欲する」

人形・テーブル・椅子・食べ物を飯事のように置き終え、四季崎と真木は立ち上がった。

「連中がコアメダルを九枚そろえ完全復活した暁には、人が正常に感じるソレらを永遠に貪るだろう。人間ごと喰らいつくしてな」
「人間、ごと・・・・・・!?」

映司はその解答に恐怖を感じ出していた。

「それをさらに大きく暴走させれば、世界そのものを喰らう。それでもなお満たされない絶望的な深い欲望で。それは、塵一つ残らない美しい終末」

真木は何時もの口調と何時もの表情でそう語った。
己が目指すモノを。

「一つ訊いていいか?」
「なんです?」
「さっきの説明だと、俺らが異常なグリードだと言われているようだが」
「だからこそ、オメェは完全に到るに相応しいんだよ、鋼刃介」

四季崎は刃介にそう述べ始める。

「お前は人間の頃から、グリードのように満たされない無限の欲望を秘めていた。なにをしても、なにを感じても、満たされない空虚な日々を送っていた。しかし本物のグリードになって以降は、鑢七実を始めとする多くの仲間と出会い、共に戦い、ある程度は満たされた心地を味わったはずだ」

その推察に刃介は反論しなかった。
全てが、紛れも無い真実だからだ。

「しかし、お前の欲望がそれに合わせて巨大に膨れていく。満たされた喜びを味わえば、もっと心地好い幸福を求めて、時間が許す限りお前の欲求と幸福は、捩れた螺旋の如く連鎖する」
「じゃあ、どうして七実と竜王まで?」

そうだ。
七実や竜王にそのような論理は通じない。
なにせあの二人は『無欲』なのだから。

「その辺については俺自身も詳しく解らんから、仮説だけ言っておく。――あの二人の原典は知っての通り、本来は生まれてくることさえ許されなかった才能の申し子だ」

その許されなかった可能性は、四季崎一族の歴史改竄によって開かれた。

「あれほどの逸材となれば、コアメダルとの驚異的な同調(シンクロ)を果たし、『無欲』であるからこそ、グリードの最大の特徴である『欲望』が無いんだろう」
「・・・・・・・・・・・・」

言われてみればそうだ。
竜王とて、以前コアメダルを生産したのも、欲望とは違う何かの感情が働いていたようにも思える。少なくとも、彼女は人間の世界を喰らい尽くすような性根をしていない。

「だからこそ、お前らは幾らコアを宿しても暴走しない。正規のグリード達には無いものがあるからな」

四季崎はそう締め括った。

「・・・・・・だったら、尚更メダルは渡せませんね」

映司は真木を睨みながらそう断言する。
それがどんな結果を齎すかを承知の上で。

「しかし渡してしまえば、君は美しいものを美しいと感じられるままに、終末を迎えられますよ。――こうならずに(・・・・・・)

真木は両手を見せた。
おどろおどろしい紫のオーラを毒気のように纏わりつかせた、異形の両腕を。

それを見た刃介は、「チっ」と舌打ちをして。
負けじと自分も両腕をグリード化させる。

そして、

「火野、退散すんぞ。迎えも来てるしな」

――〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!――

表現のできない音をだし、両腕から五大属性の他、様々なエネルギーを当たり一面に、右腕から放射してぶちまけた。

「「―――ッ!!」」

こんなやりかたで煙幕を張るとは、真木も四季崎も予想だにしていなかった。

その隙に、

「火野!」
「鋼ッ!」
「刃介!」

仲間達の声と足音が聞こえ、それに伴い、映司と刃介の気配も遠ざかっていく。
そうして、全ての気配が全て感じられなくなるほどに遠ざかった頃に、煙幕も消えた。

後に残ったのは、

「・・・・・・・・・・・・あ」

さっきの騒ぎのせいで、変な体制で倒れている人形と、

「WOW!!?」

奇声を発するオッサンと、

「お前、アホだろ?」

呆れ返るオッサンだけだった。





*****

鴻上ファウンデーション。

そこで鴻上は紫の葡萄ワインを飲みながら報告を聞いていた。

「―――なるほど。Dr.真木はもうそこまで」
「火野さんよりグリード化が進んでいるようでした」

報告しているのは当然、里中だ。

「メダルを受け入れようとした者と抑え込もうとした者の差・・・・・・だろうが・・・・・・何しろ前例は同じ血族における同じ理由による三件だけだ。――人がグリードになるという」

そうしていると、鴻上はなにかを思い立ったのか、少し考える。

「・・・・・・800年前に暴走したオーズは・・・・・・そういうことかもしれないね」

人の身でありながら、二十枚を越えたコアを一度に解放して吸収するも、暴走して果てた欲望の暴君。

「オーズとしての器無き者はグリードに」

鴻上はそう言って、グラスにワインを注いだ。
例え器に酒が納まり切らずに零れ落ち続けようとも。

それが、何かの末路とでも言うかのように。





*****

無論、比奈たちも映司の異変を聞く事になった。
後藤と烈火の口から、だが。

「映司くんが・・・・・・グリードに・・・・・・」

ショックのあまり、身体の力が抜けて椅子に座り込んでしまう。

「まさか・・・・・・」

信吾も信じられなさそうにしている。

「真木博士の話によると、もう何か異変があっても可笑しくないらしいが」
「・・・・・・そう言えば昨夜―――比奈。夕飯食ってるとき、映司くんの様子が可笑しかったときがあったろ」

そう言われて思い出す。
食事のおかずを口にしたとき、映司の表情がどこか曇っていたことに。

「喰い物ってことは、舌・・・・・・味覚が?」

流石に体力派な烈火もこれには気付いた。

「そんな・・・・・・感じなくなってたの?・・・・・・それなのに」

それなのに、映司は自分の料理を美味しいと言ってくれた。
その残酷とさえ言える優しさで。

「映司くん・・・・・・―――ダメ。そんなの、絶対ダメ・・・!」

比奈は立ち上がる。

「映司くん止めなきゃ!これ以上戦わないように!」





*****

どこぞの川岸。
そこで、映司は川で獲った魚を焚き火で焼いて食べていた。

「・・・・・・なんか、味の抜けたガムみたいだ・・・・・・」

いよいよもって、自分がどんどん怪物に近づいていくことを認識させられる。
パチパチと燃える焚き木の音を背景に、映司の表情はどんどん曇っていく。

「ぃよッ!」
「やはり此処か」

そんな時、映司を訊ねてくる二人の人物。

「鋼さん、竜王さん」
「やっぱし、ここでサバイバルライフか」
「だが、今ひとつ物足りんようだな」

二人は見抜いている。
映司の言葉を聞いていたが故、味覚が無くなったことに。

「今思うと、アンクが身体とアイスに拘った理由が解る」
「グリードの身体では味わえん五感を、人間のそれで初めて味わえたんだからな」

そう言う二人の言葉に、映司が虚空の彼方へと語りかける。

アンク(おまえ)ちゃんと言えば良いのに」

恐らくそれは、此処にいないアンクの向けられたものだろう。
だが、あの捻くれ鳥のことからして、

(まあ言うわけないか)

とあっさり自己内で納得する。

「火野、俺達もいいか?」
「あ、どうぞ!」
「ありがとう」

刃介と竜王も座り、棒に刺さった魚を手にして口に運ぶ。

「・・・・・・焼きたては、やっぱ熱いな」
「えぇ。今の俺でも、熱いのはわかります」

そうして三人は、ただひたすらに静かに、食事を続けていた。




*****

日が沈みきった頃、洋館の広間ではガメルが駄菓子を口にたくさん放り込んでいた。
階段に座りながら食べるのもマナー的にあれと思うが、オツムが幼い彼にそんな常識は通用しない。

「うん!美味い!」

駄菓子や洋菓子、スナック菓子を食うガメル。
それが何の意味になるのかも知らないまま。

「メズール、これ美味い!――あげる」
『あら、ありがとう』

すぐ隣にいるメズールは素直にお菓子を受け取る。
だが、

『ふんっ』

ガメルに気付かれないよう、すぐ後ろに捨てた。
わかっているのだ。ガメルの母親役をしているメズールは、人並み以上に理性がある。
だから解っている。そんなことは、無駄であるのだと。

しかし、ガメルはただただ、胃袋を満たすことで味覚を満たしているつもりになっているだけ。
それゆえに、

――ガリッボリッ――

無機物(けんだま)であろうと噛み砕いてみせる。

「ん〜〜ッ、美味いぃぃ!」
『良かったわねぇガメルぅ?一杯食べていいのよ』

などとやっている二人を眺めながら、二階のテラスでカザリは、

「ふッ、全く、わかりもしないくせに」

嘲笑じみた声を出す。

「―――メダル、取りにいくの?」

そうして、すぐ目の前にいるロストに話しかける。
右腕の調子をみているのか、さっきから指を閉じたり開いたりしている。

「真木たちがヤミーを使ってオーズたちを誘き出すんだ。ついでに紫のメダルも一枚くらい貰おうかなぁ?」

例え子供であろうと、やはり根幹はアンクなのだということを再認識せざるを得ない言葉だった。





*****

「では今言った通りに。――ブライとオーズは必ず来ます」
『・・・・・・わかった』

真夜中のビルの屋上で、真木はアンキロヤミーに命令を下した。
アンキロヤミーはそれに従い、すぐに走って言った。

その両隣では、

『じゃあ良いわね?上手くやりなさいよ、私のヤミー』
『ああ、問題ない』

キョトウがドラゴンヤミーに命じ、

「わかったなら、早めに頼むぞ」
『御意』

四季崎はカンナヤミーに指示を出した。

『うふふふふ・・・・・・!ブライに勝ったら、あの人を私のモノにしちゃおうかな?本当の私を差し置いて、偽者の私が・・・・・・はははッ、きゃははははははは!』

キョトウは自らの欲望を剥き出しにして高笑いする。

それを見ていると、

「―――――ッッ!?」

真木の身に異変が起きた。
彼の瞳はいきなり紫となり、真木自身も苦しみだす。

そして、

「真木清人」

四季崎は、目の前にいる者に声をかける。

「お前の流儀に合わせてこう言っておいてやる」

眼前にいる、紫の異形に向って、言う。

「ヒトとしての”終末”におめでとう。これからは、『ギル』と呼ばせてもらうぜ?」
『ギル、ですか。良き名前をありがとうございます――四季崎氏』

世界終末のカウントダウンへ続く導火線は、今此処に用意された。





*****

翌日の真昼間。
とある円形の広間には、人が多く集まっていた。

買い物に来たもの、散歩に来た者、自慢のパフォーマンスを路上で披露する者、商売をする者、ただただ通行路として利用するもの。

そこには理由こそ違えど、交差する全ての人間が平等にいた。
そう、この時までは。

「ん・・・・・・?・・・・・・えッ!?」

とある一人のサラリーマンが、足元の変化に気がついた。
急に冷えて動かなくなった足は、氷付けにされていた。
当然、周囲の人間たちも、自分たちが凍らされていると気付く。
気付いたときには、広場にいた人間全てが、身動きを封じられていた。

そこへさらに混乱を投入するのが、

「―――キャアアアーーーッッ!!」

一人のOLの叫び声に皆が振り向き、見てしまった。
アンキロヤミー、ドラゴンヤミー、カンナヤミーの姿を。

『『『フッ――ウゥアアアアアアアアアア!!!!』』』

猛々しく叫ぶ三体のヤミー。
そんな混沌的状況を見つめるものが二人いた。

『ふぅぅん』
『ほう』

赤き鳥の異形、ロスト。
紫の龍の異形、キョトウ。





*****

刃介らも、ヤミーの気配を逸早く察して走っていた。
全力で走る三人は、刻一刻と現場に近づいている。

しかしその時、

――キィィィッ!――

一台の黒い車が止まったのだ。
それも刃介たちの進路を遮る形で。

「映司くん!」

乗っていたのは、助手席に比奈、運転席に信吾――この二人だけ。
この二人はドアを開けて車から降りた。

「映司くん、行っちゃダメ。戦いを続けたら映司くんは―――」
「ヤミーなんだよ。それに・・・・・・アンクもいる」
「でもッ」
「そっちは後藤くんや烈火くんが行ってくれる。映司くん、少しは自分の身体のことを考えるんだ」

比奈と信吾の二人にそう言われても、

「大丈夫ですよ!自分のことは自「大丈夫じゃない!」

映司はなお止まろうとせず、比奈も思わず叫んだ。

「映司くん、味もわからなくなって。このまま、どんどんグリードに・・・・・・そんなの酷すぎる!」
「幾ら言っても無駄、かもしれんぞ泉?火野(こいつ)は後天的とはいえ、人間として故障してるんだからな」
「「えッ・・・・・・?」」

刃介がそう言うと、泉兄妹は口を一瞬だけだらしなく開けた。

「こいつはどうでもいい他人の為に一々命を賭けやがる。・・・・・・人間ってモンが命賭けて誰かの助けになるとき、それは大抵自分の利益も絡んでいるからだ。そうでなければ、吊り合いが取れたもんじゃないし、それ以前に人間って奴は理屈ぬきで自身を一番にせにゃならん」

「火野は恐らく、その何かを判断する為の命・・・・・・天秤そのものを何時も賭けの対象にしている。最後の最期にとっておかねばならん者を、時として躊躇なくな。――そんな生き方を続けていれば、何時か壊れ果ててしまう」

火野映司という人間の歪な生き方。
それを、正反対な刃介らが説いた。

「ただ唯一の救いといえば、このバカの理想が借り物ではなく、自分から生み出したものであることだ。万が一、紛い物であり借り物の理想だったら、俺は間違いなくこいつを殺している。そういう奴に限って、最後には惨たらしい最期が待っているからな」

「本当に空っぽな人間は、たった一つの理想をどこまでも貫く通せるものだ。しかし、長いときの中で、いつか借り物の理想は磨耗して、破綻していることに気付いて、そして過去の己を恨み呪う」

刃介の一言一言を聞くたび、比奈の顔色は青くなっていく。
映司がこのまま一生をオーズとして過ごした場合、起こりかねない最悪の結末を予見させられて。

「まあ尤も、他人である俺らがどうこう言おうが、この阿呆が変わらない限り意味は無い」
「火野映司が、破滅の結末を辿るか、理想の果てに何を見るかは、この男次第だ」





*****

片や広場では、状況は悪化の一途を辿っていた。
人間たちの行動を縛る氷はより大きく成長し、体の自由は減っていく。
なにより、このまま放置されれば凍傷にもなりかねない。

アンキロヤミー達はその光景に満足げな声音を出しつつ、近くにいる適当な人間の胸倉を掴んでこういった。

『『『助けて欲しいならオーズとブライに頼め・・・・・・!』』』
「「「おーず?ぶらい?」」」

言葉の意味が理解できないサラリーマンや主婦や学生は、顔にありありと?を浮かべる。
するとアンキロヤミーたちは別の人間の胸倉を掴み、

『『『早く叫べェッ!!』』』
「「「お、おーずとぶらいってなんだよぉ!?」」」

当たり前の反応が返ってくる。
しかしながら、

『うるさいぃ!』
『見せしめだぁ!』
『二人や三人、減っても問題あるまい』

するとアンキロヤミーとドラゴンヤミーは、口から冷気を吐き出して二人の人間を完全に氷付けにした。カンナヤミーは自慢の刃を人間の首にあてる。

そして、

――バリィィィィィン!!――

氷付けにされた人間二人が木っ端微塵にされ、

――ザシュ!――
――・・・・・・・・・・・・ゴロン――

一人の人間の首が、周りを朱色に染めながら落ちて転がった。

「「「「「きゃああああああああああ!!!!」」」」」
「「「「「いやああああああああああ!!!!」」」」」
「「「「「うわああああああああああ!!!!」」」」」

当然、残った人間たちは恐怖のどん底に叩き落される。

『『『どうした?叫べぇっ!』』』

トドメとさえ言える一言にとうとう、

「助けて・・・・・・助けて!オーズ!」
「頼む・・・・・・来てくれ!ブライ!」

遂に人々は、オーズとブライを招き寄せるための、ルアーとして起動させられてしまった。

次々と連鎖反応をおこして巻き起こるオーズ&ブライコール。

『『『もっと叫べェっ!!』』』

だがその時、

――ブゥゥゥウウゥゥゥン!!――

バイクのエンジン音。

『『『っっ!!』』』

それはライドベンダーに乗った、バースとブレイズチェリオ。
ライドベンダーは一直線にヤミーに向って駆けていき、

――ドカっ!――

『『『うおわあああああ!!』』』

ヤミーとライドベンダーが衝突し、戦いが始まった。





*****

一方、大勢の叫び声は映司らにも届いていた。
映司の表情は、一変して、思いつめたものになり、

「・・・・・・行かなくちゃ」

映司は直進して走った。

「ふんにゅ!」

だが比奈がそれを許さない。
映司の腕を掴んで放そうとしない。

「比奈ちゃん・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「―――心配しないで、大丈夫だから」

映司は微笑んだ。

「なんで?なんで笑ってるの?映司くんのことだよ!」
「確かに、俺は鋼さん達が言ったとおり、可笑しな人間かもしれない。――それでも、せめて俺の手が届くなら・・・・・・」

映司の歪な決断はかたい。
だが、そこへオーズとブライを求める声も強まっていく。
恐怖の声音が濃くなった、悲鳴に近い叫びが大きくなる。

”オーズぅ!”
”オ〜ズ〜!”
”ブライぃ!”
”ブ〜ラ〜イ〜!”

「止めて・・・・・・勝手に呼ばないで・・・・・・映司くんは神様じゃない!!」
「・・・・・・・・・・・・」

比奈の言葉に、信吾も言葉が出なかった。

だがそれでも助けを求める声は止まらない。
それどころか、時と共にどんどん大きさと強さを増して行く。

”オ〜ズぅぅ!!オ〜ズ〜〜!!”
”ブライ〜〜〜!!”ブゥゥライ〜〜!!”

「・・・・・・止めて・・・・・・」

比奈は、顔を俯かせて小さく呟く。
だがそれもすぐに臨界点を突破する。

「止めてッ―――」

そして、比奈は映司の身体から離れ、全力で叫んだ。

「止めてッッ!!!!」

それは最早絶叫とさえ言えた。
しかし、哀しいことに、求める声は決して止まることは無い。

「火野、泉。私たちは先にいくぞ」
「なあ、火野。お前が歪に成ってまでそうする理由、何時かきちんと聞かせて貰うぜ」
「・・・・・・はい」

そうして、一足先に刃介と竜王は駆けていった。

「「変身!」」

≪HAYABUSA・HOUOU・YATAGARASU≫
≪HAOURASU!≫
≪OOKAMI・KYOUKENN・KITSUNE≫
≪KAMIKAMIKAMIKAMI!KITUNE・KAMIKITSUNE!≫

ハオウラスコンボは空を翔る、カミキツネコンボは大地を駆ける。
そして、残る一人は。

「・・・・・・比奈ちゃん。―――ごめんね。・・・・・・でも、ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・ッ」

もう、引き止める言葉すら失った。

「―――ッ!」
「映司くん!!」

駆け出した映司の後ろ姿に、比奈はもう名を呼ぶことしかできなかった。

「変身!」

≪LION・TORA・CHEETHA≫
≪LATA・LATA!LATORARTAR!≫

ラトラータを旋風の如く疾走し、追いつくことは叶わなくなってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

残された比奈はもう、身体中の力が抜けて、立つことすらままならずに地面へと全ての体重を預けてしまっていた。





*****

「オーズゥゥ!」
「オ〜ズ〜!」
「ブライィィ!」
「ブ〜ラ〜イ〜!」

ただただ、名前しか知らない者の名を叫ばされる人々。
叫ばなければ、粉々にされるか、首を刎ねられるか。
だから、男性も女性も老人も子供も、等しく叫んでいる。

誰だって、死ぬのは怖いのだから。
だがそこへ、救済者は現れる。


――ピカァァァアアアアア・・・・・・!!――
――ブヴォォォオオオオオ・・・・・・!!――
――ウィィィイイイイイン・・・・・・!!――


眩し過ぎる黄色い閃光。
燃え盛らん紅蓮の業火。
波の如く轟き渡る音響。

その発信源は、人々からすれば、一種の英雄に見えたかもしれない。


「「「ウオオオッ・・・!ハアッ!」


ラトラーターのライオディアスとガッシュクロス。
ハオウラスのコロナフィーバーによる炎熱波。
カミキツネの刃から放たれる超高周波加熱。

――バリィィィィィン!!――


それらの一撃は、容易に自由を奪う氷を砕いた。

「逃げて!早く逃げて!」
「さっさと退いてろ!邪魔だ!」
「走れ!今は兎に角、走れ!」

オーズとブライとクエスは、広場に降り立ち、自由になった人々にそう叫んだ。
人々は歓喜の悲鳴を上げながら、我先にと命令されるまでもなく逃げ出していく。

「ひ――火野!」
「鋼、来たのか!」

その一方で、バースとブレイズチェリオはヤミーを相手にしながら、頼もしい増援の登場に喜んだ。

「刃介。私は烈火たちの方を」
「ああ、頼む。こっちにもお客さんがいるしよ」

クエスはそうして、バースらの加勢に向った。
そうして一分も経てば、残るのは異形の者達だけだ。

『遅かったね』
『でも、来てくれた』

オーズとブライの前には、堂々とロストとキョトウが現れる。
3〜5mの距離で相対する二組――だがそこで、オーズは気づいた。

「アンクの気配が・・・・・・?」
『そう。随分抵抗したけど・・・・・・消えたよ』

当然のようにロストは答えた。

『でも、一つだけ気になってる。――ねぇ、アイスって美味しいの?』

右腕(アンク)の記憶でも垣間見たのか、ロストはそう質問する。
無論、真似事もしてみたが、身体がセルで出来上がっているロストでは、信吾を使っていたアンクとは感じ方がまるで違う。

「さぁ?でも、一つだけ言えるのは、あいつはそう簡単に消えるほど、素直じゃないってことかな」
『じゃあ、僕を倒して確かめてみたら?でもその前に、僕のメダルを返してよ!』
『私のメダルも返してもらうわ』
「「違う。お前のメダルじゃない」」

ここで、初めてオーズとブライの声が重なった。
二人は確信を持って言い放つ。

「「あいつのだっ!」」

そうして紫のメダルが三枚、二人の身体から現れる。
オーズとブライはコアを掴み、既に入っているメダルを押しのけて投入した。

≪RYU・WYVERN・DRAGON≫
≪PTERA・TRICERA・TYRANNO≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
≪PU・TO・TYRANNO SAURUS!≫

「「ウオオオオオオオオオオ!!」」

二人の狂戦士は咆哮し、世界を揺さぶった。
オーズは大地に、ブライは空間に、それぞれ腕を突き立てることで、メダガブリューとメダグラムを掴み取る。

『『―――フッ!』』
「「ハッ―――!」」

ロストは右腕から火炎、キョトウは左腕から魔弾。
オーズは口から冷気を、ブライは口から龍神気焔。

二つの攻撃はぶつかり合い、簡易な煙幕になると、二組は互いの相手に向って駆け出し、刃と腕を交差させる。
その様子は実に勢いがあり、見ているだけで血肉が沸き踊りそうな熱いものがある。

「「オオオオオッ!」」

ブライもオーズも、手にした得物と手足を乱暴に振り回すという力任せな原始的な戦法であるのに対し、キョトウもロストも、敵の攻撃を極力防御してダメージを軽減して隙の出来たところに小出しのカウンターを決める戦法だ。

だがそれでも、お互いはお互いに、着実な傷を負わせていた。

そんな戦いに、比奈たちは漸く駆けつける。

「映司くん、鋼さん・・・・・・」
「結局、俺達が望んでる通りに戦うんだな――彼らは」
「なんで?私映司くん達に戦ってなんて・・・・・・」

鉄製の手摺につかまりながら、上部から様子を見る泉兄妹。
信吾の意外な意見に、比奈は反論するも、

「比奈は・・・・・・アンク達のことも助けたいと思ったんじゃないのか?」

信吾の言葉通り、アンクにタカを託されたとき、そのコアメダルがアンク自身ならと、少しだけ希望を持ったのも事実。

「同時に俺のことも助けたい――けど映司くん達が戦うのはイヤだ。――俺も同じだよ。さっきの人達もそうだ。・・・みんな勝手な望みを言う・・・それを黙って、全部引き受けるんだ彼は」

火野映司とは、あの事件を機に壊れ、そうなってしまった人間。

「それに鋼さんは、きっと鑢七実という恋人を救う為なら、俺達や映司くんを裏切り殺してでも助け出す。本当に愛しているから、一番好きな人だから。――決して欲深さだけが、彼を動かしているわけじゃない。そんな不器用な愛ゆえに、彼は戦っている」

比奈は信吾の言葉を聞きつつ、目下で行われている戦いを見つめる。
その激しくも切ない戦いを。

「そんなことが出来る人間だけがきっと・・・・・・」





*****

鴻上ファウンデーション会長室。

「オォォォォォズ・・・・・・!」
「ああ、ブライ・・・・・・!!」

モニターで戦いを観ていた鴻上とルナイトは、欲望王と欲望神の名を告げる。
鴻上は満足そうな表情で、ルナイトは複雑そうな表情で。





*****

さて、ここらでバース・ブレイズチェリオ・クエスの戦いを見届けよう。
まず最初にバース。

――ドガッ!ドガッ!ドガッ!――

アンキロヤミーに肩を掴まれて手摺に身体を押し当てられ、殴られ続けているバース。
しかし、

≪BREAST CANNON≫

セルを投入してブレストキャノンを転送装備。
砲門をアンキロヤミーの胸に押し当てる形となった。

今度は逆にバースがアンキロヤミーの肩をガシっと掴む。
今度はセルを二枚投入して、

≪CELL BURST≫

充填完了!

「ブレストキャノン・シュート!!」

――ズガァァァアアアアアッッ!!――

『ぐわぁぁぁああああああああ!!』

零距離砲撃を身に受けて、アンキロヤミーはセル一枚を残して消滅した。


次にブレイズチェリオ。


「オォォォラアアアアア!!」
『くッ、小僧如きが!!』

炎の戦士と紫の異形は、互いに肉弾戦闘を繰り広げていた。
元々喧嘩なれしている烈火は、一対一の状況ではこれが一番相応しいと思ったのか、あえて武器なしで戦っている。

「行くぞ、弾炎!!」
『うおわぁぁ!?』

ブレイズチェリオはここで、手から幾つモノ炎の玉を生み出し、ドラゴンヤミーに投げつけて怯ませた。

≪CORE BURST≫

そこでコアの力を解放する。
エネルギーは忽ち脚部に送られて行くと、ブレイズチェリオは気合の入った掛け声と共に跳び上がり、

「喰らいやがれ!オーバーヒートブレイズゥゥゥ!!」

灼熱の業火を纏った必殺の右足キック。
それは見事に、ドラゴンヤミーの胸に突き刺さった。

『ぐがぁぁあああああああああ!!』

そうしてドラゴンヤミーもまた、セルを一枚だけ残して爆発した。


そしてクエス。


「悪いが前振りは無しだ。一気に決めさせてもらうぞ!」

≪SCANNING CHARGE≫

「真庭忍法―――!」

ここで竜王は初めて、ライダーの状態で忍法を発動する。
それもエネルギーを増幅開放した上で。

最初に、幻惑の魔眼(夢幻惑い)によって敵の動きを止め、次に影分身にて敵の逃げ場を奪い、剛力無双で強化した腕力を、疾風迅による超高速で振るい―――!

劉殺生(りゅうせっしょう)ッ!」

その手に握った刃で、敵を一気に八つ裂きの肉塊に変える必殺忍法。

『ぎぃぃぎゃあああああああああ!!』

同時に複数の強力な一撃を多方面から喰らい、如何に頑丈なカンナヤミーといえど、耐え切れずに爆発した。
ジャリーンという多くのセルメダルの音を地面に打ちつけながら。





*****

所戻って激戦を繰り広げる二組にもう一度注目する。

二組の戦いは何時の間にか互角に持ち込まれていて、片方が刃を突き出せば、もう片方は腕を突き出し、双方は同時に傷を負い合う。
攻撃の勢いで二組は後退し合い、遂には膝までついてしまう。

『お前・・・・・・ッ!』
『貴方・・・・・・ッ!』

赤い鳥のグリードと紫の龍のグリードが、怒りか焦りか、そんな声を出すと、ブライとオーズは何処か苦しそうな声を息と一緒に吐き出す。
次第に、バリバリという波動が二人の身体を駆け巡る。

「「うぅッ!あぁッ!」」

恐竜コアは、、映司のグリード化の進行に伴い、力を増している。
それに龍神コアも、以前投入されたフォース・コアによって活性化している。

「「ふあぁ、うおぉッ・・・・・・!」」

苦しみの中、それでもオーズとブライは立ち上がる。
そうして、


「「―――ヴヴォオオオオオオオアアアアアアア!!!!」」


オーズはエクスターナルフィンを広げ、テイルディバイダーを振り回す。
ブライはアルティメットフライズを広げ、ドラゴンネイルを鋭く生やし、蒼穹にまで届く咆哮を上げ続けた。

それを観て、仲間達は・・・・・・。

「火野、鋼・・・・・・暴走だけはするな!!」
「負けんな二人共!あいつらを助け出すんだろ!?」
「刃介!己を決して見失うな!」

変身を解いた三人はそう呼びかける。
だけど比奈は、

「映司くん・・・・・・」

もはや観ることもままならず、其の場に座り込んでしまった。
というより、目を逸らしたというのが正しい表現だろうか。

「しっかりしろ!」

そんな比奈に、信吾が叱責して励ます。

「比奈が映司くんの手を掴むんだろ!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「このまま彼らを、都合の良い神様(・・・・・・・)にしちゃいけない」
「お兄ちゃん・・・・・・―――うん」

比奈は気付いたように、もう一度戦いの場を見つめる。

そうすると、ロストは真紅の大きな両翼、キョトウは禍々しい翼を張って、オーズとブライと同時に大空へと舞う。

二重螺旋を二つ創造するように、二組の異形は上昇を続ける。
そうしてもう頃合と思われる高度に達すると、先手を打ってきたのはオーズとブライだ。

「「ヴうぉおおお!!」」

ザシュザシュという音を立てながら、空中で俊敏の飛行し、ロストとキョトウの身体を通り様に切りつける。

『『ウアアッ!』』

無論キョトウとロストは火炎と魔弾で反撃する。
しかしオーズはそれを本能的に巧みに避け、ブライはメダグラムで真正面から叩っ斬る。
オーズとブライはロストとキョトウの背後に急旋回すると、

「「ヴオゥッ!!」」
『『うッ――ぐあああ!!』』

強引に力技でぶっ飛ばし、近くにあったビルの壁に叩き付けた。
ビルの壁は二体の異形がぶつかり、その力の方向性(ベクトル)の関係上、真横へそれるような、大きな傷跡が残る。

だがこの程度で終わるほど安くは無い。
二組はまた高速飛行を開始する。

――ィガンッ!ィガンッ!ィガンッ!――

遥か遠い高度で、何度となくぶつかり合う両者。
三度目の次である四度目になるとき、折れたのは・・・・・・。

――ィガンッ!!――

『『うあッ、うわあああ・・・・・・!!』』

ロストの片翼とキョトウの片翼だった。
翼を片方失い、バランスさえも失い、地上に向けて落下していく二体に。

「「ヴアアアッ!!」」

――ゥガンッ!!――

トドメをさす様に、ブライとオーズの刃が、もう片方の翼をもぎ取った。

『『ぅああ、うああああああああああ!!』』

完全に空を翔る資格を奪い取られ、無様に落下した二体は、元の広場の地面に激突する。
その直後の姿には先刻までの余裕はおろか、戦意すらも切り取られたように無残だった。
斬られた翼が最期を告げるように、羽や鱗となって空から舞い落ちると同時に。


「「ウオオオァァァ!!」」


処刑人が振るう断罪の刃が、容赦なく襲い掛かる。

「「ヴアアアッッ!!」」
『『―――ッッ!!』』

――ザンッ!!――

オーズによるロストの身を裂くような一撃と、ブライによるキョトウの胸を突く様な一撃は、間違いなく―――

――パリンパリンパリィィン!!――
――パリィィィン!!――

コアメダルを砕いて見せたのだ。

『ッッ――まさか・・・・・・!?僕の、コアが・・・・・・ッ!僕のォォ!!』

そして、

ロストは届かない空に腕を伸ばし、

『うわあああああああああああああッッ!!!!』

魂の宿ったタカ・コアは勿論のこと、クジャクとコンドルを一枚ずつ砕かれ、その存在は爆炎の中に消え果た。
そして、キョトウは・・・・・・。

『うッ・・・・・・あッ・・・・・・』

なんと、ブライにマインド・コアだけをピンポイントで砕かれたにも関わらず、恐るべき自我でほんの僅かながらの悪足掻きを見せていた。
キョトウは、ゆっくりと歩み、佇むブライの仮面に両手を添えてこう言った。

『所詮・・・・・・偽者じゃあ・・・・・・叶わない、恋・・・・・・だったな』

こうして、キョトウもまた爆炎の中で消滅して逝った。

だがしかし、満身創痍にして疲労困憊となったブライとオーズは、もはや得物を握るだけの体力さえない。立ち込める煙幕の中、なけなしの体力を振り絞って歩き、それも叶わなくなって四肢をついてしまう。

濃い煙幕は少しずつ晴れていき、オーズは誰かに助けを請うように右手を伸ばし、ブライは誰かの存在を求めるように身を乗り出した。

「「ぁぁぁ・・・・・・!ぅぅぅああ・・・・・・!」

そんなオーズの手を掴み、ブライの身体を抱き締める
それは一体誰かというと、

「映司くん・・・・・・」
「刃介さん・・・・・・」
(比奈・・・・・・ちゃん・・・・・・)
(戻った・・・・・・七実・・・・・・)

安堵の念が心に浮き立った直後、

「「うッ!おぉぉ・・・・・・!ぁぁぁ・・・・・・!」」

紫の装甲は煙のように消滅し、映司と刃介という素体が現れる。

「映司くん!」
「刃介さん!」

倒れる二人。
比奈は映司を抱き起こし、七実はただただ刃介を精一杯抱き締めた。

「七実・・・・・・大丈夫だよな?」
「はい。御陰様で、戻って来られました」

刃介は今一度、七実に強く抱き締められ、自分も彼女の細くて小柄な身体を抱き締め返す。

「映司くん、大丈夫・・・・・・大丈夫だから」
「あ・・・・・・アンクは?」

そう。七実がこうして戻ってきたのだから、アンクも戻ってなければ可笑しい。
だがその時、チャリンチャリンというメダルの音が聞こえてきた。

それは一枚のタカ・コアを起点に、何十枚ものセルメダルが集まり、赤き異形の腕となる音だった。
七実はキョトウの意思が消滅して分解した後、僅か数秒という短時間で肉体の再構築を完了させたが、捻くれ鳥はそうもいかなかったらしい。

「アンク!」

だがそれでも、修復はまだ終わらない。
先ほどまでロストを構成していたセルメダルと、残ったコア四枚は次々と集結していく。

そして、

目の前には、何時もと同じ、右腕だけを異形とする金色の奇妙な髪型をしたアンクがいた。
遂にアンクは、己が肉体を取り返すことに成功したのだ。

「映司、鋼。今度ばかりは礼を言ってやっても良い。――目障りな偽者(ロスト)が消えてくれたからなぁ」

曲がりなりにも一応は感謝するアンク。
だがその視線はすぐに、映司から別の人物に向けられる。

そこにいるのは信吾。
アンクは彼と同じ顔で歪に笑い、近寄っていく。

信吾は自分と同じ顔をした人物が無言で歩み寄ってくることに、些か怯えを感じながらも真っ直ぐアンクを見据えた。

「後は・・・・・・」
「―――っ?」
「アンク!?」

信吾の惑い、映司の声。
それら二つに関係なく、アンクは笑った。

何時も通りの、皮肉と欲望に満ち溢れた、あの笑いを浮かべた。

それを見守る刃介。
すると、七実の頬に何故か涙が伝っていたことに気付き、彼女が自分を抱き締める力をより一層強めていることにも気付いた。

「ごめんなさい」

その時の七実の声は、自分への失望と侮辱、刃介への愛情と感謝―――そして何より、切なさと悲しみの感情が乗った声音だった。
次回、仮面ライダーブライ!

コウモリと想いの激突とアンクリターンズ


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