練兵場の横にあるKMF格納庫では現在、数人の整備兵が働いていた。

「くそ、もうすぐ御前試合が始まっちまう」

「あぁ、観たかったなぁ」

「そこ、愚痴をこぼすな! 恨むなら抽選に外れた自分を恨め!
そら、次だ!」

 愚痴を零す整備兵に整備班長の雷が落ち、彼らは慌ただしく手を動かしていく。

 彼らの目の前にはセグラントのビーストアームが吊り下げられていた。

「それにしても、この腕。ビーストアームだっだけ? なんかこう鬼気迫る物を感じるな」

「セグラント卿専用装備だから当然だろう。そういえば、これEUに派遣された奴から聞いた話なんだけどな。
セグラント卿の武勇伝というか噂なんだが、
セグラント卿が先陣を任された時ってのは殆どの兵士は近づかないらしいぜ」

「へぇ、そりゃまたどうして」

「怖いのさ」

「怖い?」

「そう、セグラント卿の戦い方がさ。この馬鹿げた腕で敵機を握りつぶすそうだ。
当然、パイロットは脱出出来ない。だから、飛び散るのさ」

 話をすすめる整備兵はそこで一度、言葉を切り、相方を脅かすかのように
手を伸ばす。

「飛び散るって、何がだ」

「わかってるだろ? 敵パイロットの血とかKMFのオイルさ。それが飛び散って、
セグラント卿の機体を朱に染めていくらしい」

 ゴクリ、と喉がなる。

「それは、凄いな」

「ほれ、お前の後ろにある赤い跡も……」

 興が乗ったのか、さらに脅かすかの様に後ろを指さしたところで、

「馬鹿な話をしてるんじゃない!」

 整備班長の拳骨が落ちた。

「す、すいません。でも、この話は本当ですよ」

「それでも、それは俺たちの為に戦ってくれてるから出来るんだろうが!
俺たちは感謝こそすれ、恐れるなどあってはならん!」

 整備班長はそれだけ言うと、ビーストアームの装甲を撫でる。

「見てみろ、この腕を。パイロットに信頼され、使い込まれた武装ってのはこうも輝くんだ。
覚えとけ、整備兵として働いているうちにこうしたのに出会えたら、俺たち整備兵は全身全霊を
もって整備しなきゃならねぇ。そうして、そのパイロットの武功は俺たちの誇りにもなるんだ。
あのパイロットの機体を整備したのは俺たちだ、ってな。勿論、他の整備に手を抜いていいって訳じゃねぇからな」

 そこまで話し、整備班長は何処か恥ずかしそうに頭を掻きながら、作業再開の声を張り上げる。








 

 練兵場、常ならば兵士達がその技量を磨き、祖国を守らんと鍛錬に励む場であり、いつも熱気に
包まれている場であるが、今この時はいつもとは違った熱気に包まれていた。

 練兵場には観客席と豪奢な椅子が置かれており、椅子には現ブリタニア帝国皇帝、
シャルル・ジ・ブリタニアが座り、その隣にはビスマルク・ヴァルトシュタインの姿も見える。

 即席で作られた観客席には数多くの貴族とメディアがおり、練兵場の周りには兵士の姿が多く見える。

 彼らの目にあるのは共通して興味。

 新たに任命された二人のナイトオブラウンズ。
果たしてどちらの力量が上であるのか、に尽きる。

 彼らの視線の先には二機のKMFが互いに向かい合い鎮座しており、その足元には二人の人物、
セグラントとモニカの姿が見える。

 皇帝の隣に立つビスマルクが一歩前に出、

「それではこれよりナイトオブツー、セグラント・ヴァルトシュタインと
ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーの御前試合を行う!
皇帝陛下、お言葉を」

「うむ。我から言うはただ一言。魅せよ! この場にいる全てに貴様らの技量を魅せてみよ!」

 言葉短く告げ、再び椅子に座る。

 皇帝の言葉が終わると同時に拍手が起き、場の熱気が最高潮となる。

「それでは両者、騎乗!」

 ビスマルクの号令に従い、セグラントとモニカは各々のサザーランドに乗り込む。

 両者のサザーランドは御前試合の決まりに従い武装は近接武器とスラッシュハーケンのみ。
当然セグラントのビーストアームも取り外されている。

 その為、セグラントの機体の武装はランス一本、モニカの機体は剣を選んだ。

 セグラントが騎乗を終えると、通信が入った。

『セグラント、調子はどう?』

「悪くないな。それより遠距離武器がないのに戦えるのか?」

『あら、心配ならいらないわ。私はオールラウンダーだから。
どこぞの誰かさんと違ってね』

「ふん。なら一点特化の恐ろしさを教えてやろう」

『楽しみにしておくわ。それじゃあ、いい勝負にしましょう』

 通信が切れると同時に、

「それでは、始めぃ!」

 開始の合図が出される。

 合図と同時にセグラントはランスを構え、真っ直ぐに突き進む。

 彼の行動を予測していたのかモニカは慌てること無く迎撃の構えを取り、
ランスを弾き、そのままコクピットを狙う。

 ランスを弾かれると同時にセグラントは急旋回を行い、ランスを突き出す。

 一撃、二撃、三撃。

 ランスを正面から受け止めれば、剣など簡単に折れてしまうことなど分かりきっている。

 受け止めるのではなく逸らす。

 金属と金属がぶつかり合い、擦れることで火花が散る。

「はっはぁ! どうした! 逸らすだけか!?」

「そんな訳ないでしょ! 脇が隙だらけよ!」

 言葉と同時にスラッシュハーケンが射出され、セグラントの機体の脇をかすめ、
姿勢を崩す。

 そのまま剣を頭を斬りつけようとするが、それはランスで弾かれる。

 しかし、

「ふふ、右腕はもう動かないんじゃない?」

「……ちっ」

 モニカとて、姿勢を崩した位でセグラントに勝てるとは毛ほども思っていない。
 
 先程のハーケンは勝負を決める為ではなく、片腕を使えなくさせる事が狙いだったのだ。

 事実、セグラントの機体は右腕が動かないようでランスを両手で構える事が出来なくなっていた。

「ランスの威力も半減ね。剣を選んでいればそうはならなかったでしょうに」
 
「確かに、な。だが、コレぐらいで勝ったとか思ってないだろうな」

「当然でしょ。だけどチャンスなのは確か。決めさせてもらうわ」

 モニカはそう告げ、セグラントに近づいていく。
 
 しかし、決して油断はしない。

 目の前の男はいい意味でも悪い意味でも予測出来ないのだ。

 ランスを封じた程度で何とか出来るならば組んでいるときに一番手を任しはしない。

 そして、

「でぇいりゃぁあぁぁぁぁ!」

 掛け声と同時にセグラントはランスを投擲してきた。
 
「やっぱり投げてきた!」

 投擲されたランスにより、一瞬視界が塞がれる。

 ランスを弾いた時にはセグラントは目の前にいた。

 武器もないのにどう戦う気なのか?

 彼ならば、殴ってくるだろう。

 そう考え、剣をコクピットの前で構えた時だった。

 それに気づいたのは。

 セグラントの左手に何かが握られていた。

 それは、動かなくなった右腕。

 彼は右腕をパージし、棍棒の様に武器にしていた。

「そんなのアリ!?」

「アリに決まってんだろ」

 直後、コクピットに強い衝撃が与えられ、戦闘不能の警告音が鳴り響いた。

「勝者、セグラント・ヴァルトシュタイン!」













 御前試合が終わり、モニカとセグラントは格納庫にいた。

「セグラント、大丈夫?」

「あぁ、別に大丈夫だ」

 何故、セグラントが心配されているのか。

 それは、御前試合が終わった後、彼はビスマルクに呼ばれていた。

 一緒について行ったモニカが見たのは、

『誰が、あのような戦いを見せろと言ったか、馬鹿息子ぉぉ!』

『勝ったのに何で怒られにゃなんねぇんだ!』

『もっと騎士らしい戦い方をしろと言っておるのだぁぁぁぁぁ!』

『ぬぁぁぁぁぁぁ!』

 という言葉と共にビスマルクにジャーマンスープレックスを決められたセグラントの姿だった。

「くそ、いつか今までやられた技、全部叩き込んでやる」

「全部ってどのくらいなのかしら?」

「大体30」

「……よく生きてるわね」

「丈夫だからな」

「それだけで済む貴方が時々怖くなるわ。……ところで私たちはいつまで此処にいればいいのかしら?」

「さぁ? なんでも人が来るらしいが」

 そんな会話を続けていると、

「やぁやぁセグラント君! 呼んでくれてありがとう!」

 格納庫の奥からそんな声が響いた。

 その先には、いつもと変わらないくたびれた白衣を着た男。

 クラウン・アーキテクトがいた。

「よぉクラウン博士。わざわざありがとよ」

「何、他ならぬ君の為だ。それに皇帝陛下から勅命も来たしな。
これからは私は君専用の開発チームの主任らしい」

「まぁ、俺が頼んだんだけどな」

「うんうん。ありがたいね。まぁ私が来たからには任せてくれ。
君に合った君だけの機体を造りあげてみせよう」

 強く握手をした二人は笑いあう。

「ところで、なんで私まで呼ばれたのかしら?」

「うん? なんでだろうな。あれかな、君の機体も私が造れってことかな?」

「断固拒否します!」



 

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