EU戦線、西地区。
 EUとの戦いが最も激しい地区であるこの場所は常に火薬の匂いと何かが燃える匂いが
絶える事がない。

 そして、今また新たに一つの黒煙が爆発と共に起きた。

 爆発の起きた方向に目を向ければ、そこには異形のKMF。
 ――ブラッディ・ブレイカーの姿がそこにあった
 ブラッディ・ブレイカーは両後ろ足に取り付けられた武装、ブレイカーユニットを操り、
自身の周りに展開している敵機を破壊していく。
 
「おらっ! 邪魔だ!」
 セグラントは今、また一機のKMFをその腕に捕らえ、持ち上げる。
 持ち上げられたKMFは拘束から逃れようと、暴れ回るが、強靭な鋏に完全に捕らわれ、
抜け出す事が出来ないでいた。

「くそっ、放せ、放せ!」
 
 暴れるKMFに対し、セグラントは何かを言うでもなく、ブレイカーユニットの出力を
上げていく。
 出力が上がる事により、捕らわれたKMFの装甲が悲鳴を上げる。

 装甲に罅が入り、四肢が壊れていき、そして、切断された。
 
 切断されたKMFが地面に落下し、戦場に土煙を上げる。
 
 この時、周囲にいたEU軍は味方を助けようとしていたが、それが叶う事はなかった。
 
 何故なら、彼等もまた危機に陥っているためだ。

 彼等の前には二機のKMF。

 一機は黄緑色を基調とした騎士然とした機体。
 ナイトオブトゥエルブ、モニカの機体フロレント。
 
 そして、もう一機。
 赤紫を基調とし、全身を分厚い装甲で覆われた機体。
 ナイトオブシックス、アーニャの機体モルドレッド。

 この二機が彼等の前に立ちふさがっていた。
 
 彼女等は重装甲であり、防御に優れているモルドレッドを前に出す形を取っていた。

 EU側の攻撃はその殆どがモルドレッドによって防がれ、その隙に後ろに立つフロレント
がアサルトライフルによる銃撃で敵機を狩りとっていく。

 敵機がモニカの銃撃により、一箇所に固まった所でアーニャはすかさず自身の
モルドレッドの両肩装甲を取り外し、巨大な砲門――四連ハドロン砲を造り上げる。

「……チャージ完了。撃つ」

 アーニャの呟きに反応し、前に出ていた味方機が下がる。
 その動きを見たEU側もまた散開しようとするが、
「……遅い」

 ハドロン砲が発射された。
 砲門から発射されたエネルギーの奔流は射線上にある全てを削り、破壊していった。
 後に残されたのは、KMFであった残骸だけだった。
 
 時に大胆に、時に繊細に。
 モニカとアーニャの即席コンビは多大な成果をあげていた。

 EU側のKMFが半分程に減った所でEU側の動きに変化があった。
 彼等は突如として退却を始めたのである。

 当然の事ながらセグラント達はそれを追撃しようとするが、相手には地の利がある事も
あり、追撃は失敗に終わる事となった。

 追撃に失敗した事に加え、エナジーフィラーが心もとなくなってきた為、セグラント達
は一度基地へと帰還していた。

 ナイトオブラウンズの機体は優先的に整備されるとはいえ、それでもある程度の時間は
空いてしまう。
 その間に彼等は格納庫の隅で互いに感じた事を話していた。
「急に逃げ出したな。これがローディー司令の言ってた不可解な動きって奴か。
確かに奇妙だったな」
「ええ。まるである時刻、いえ、部隊が一定数に減ったら撤退を始めた感じだったわ」
 モニカの言葉にアーニャは自身の携帯を操作し、ローディーに送ってもらった
資料を出す。
「それ、正解かも。……これ」
 そこには今までのEU軍の動きがレポートされており、いずれもが自軍の半分を損耗した
所で撤退をしていた。
 それもただの撤退ではなく、倒れた味方に脇目も振らずに一直線に退却していくのだ。
 まるで、そうしなければいけないかのように。
「だあああ、訳が分からん。EUは一体何を考えてんだ!?」
 セグラントは頭をガシガシと掻きながら吼える。
 彼の言葉にモニカ達も頷くが、いくら考えても答えが出る事は無かった。

「ナイトオブラウンズの方々! 整備完了しました! いつでも出られます」
 整備兵の言葉を聞き、思考を一旦中止し、
「まあ、考えても分からねえなら今はひたすらに戦えばいいだけだよな」
 そう言った。
 セグラントのその言葉に二人は苦笑いをしながら、それしかないか、と言い、
彼等は自身の機体へと向かう。
 その心中に得も知れぬ不安を抱えながら。



 EU軍に残る数少ない軍事基地の一つに存在する司令部には三人の人物がいた。
 彼等は全員が軍服を来ており、その胸には多くの勲章がついている事から三人は
いずれもが高官である事が判断出来る。

「中将、戦線は?」
「敗北寸前といった所ですね。やはり、ブリタニアと我が軍の間ではKMFの性能に差が
ありすぎます。さらには、ナイトオブラウンズの存在が大きいですね」
 中将と呼ばれた男は淡々と事実のみを語っていく。
 その発言に感情は感じることは出来ない。
「やはり、戦力の差はどうともならんか。参謀長、アレの準備は?」
「八割の設置が終わっております。しかし、元帥、本当にやるおつもりですか?
今更ですが、私は今一度考え直す事を進言いたします」
「……分かっている。だが、最早我が軍には新たな作戦を考える程の余裕は無いのだ。
ならば、行うしかあるまい」
 元帥は一度言葉を切り、深呼吸を行い、二人を見つめる。
「私がやろうとしているのは最低の行動だ。だが、EUを、祖国を、誇りを護りたいという
想いに偽りは無い。貴官等はどうだ?」
「愚問です、元帥」
「その通りです。先程の考え直すべきであるという発言も参謀長としての言葉であり、
私個人の想いは元帥と変わりません」
「すまない。私と共に大罪人となってくれ。全ては……」
「全ては」
「全ては」

「「「愛する国の為に」」」



 

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