ゼロ、処刑される。

 この話題はまたたく間に世界に広まる事となった。
 ゼロという人物は反ブリタニアの象徴であったために、その情報が世界にもたらした
影響は計り知れないものであった。

 そして、それに伴いゼロを捕縛、処刑した神聖ブリタニア帝国の力の証明ともなって
いた。当然の事ではあるが、この情報がこんなにも早く流れたのには裏でブリタニアに
が関わっている為である。
 ブリタニアはゼロの処刑という出来事を持って世界に対し、自国の強さを見せつける
事となった。

 しかし、ゼロを処刑したとは言えそれで世界から紛争や戦争が消えるという事は無い。
 世界には未だに反ブリタニア勢力は存在する。

 その為、ブリタニア帝国の皇帝の剣であるナイトオブラウンズ達は世界中に散らばり、
ブリタニアに仇なす者達との戦いへと赴いていた。
 
 セグラントは戦場を眺めていた。
 彼の視線の先には土煙が立ち込めており、肉眼では上手く視認することは出来ないが、
ブラッディ・ブレイカーに搭載されている高性能カメラを用いれば、そこでは戦闘が繰
り広げられているのが分かる。

 ナイトオブラウンズであるセグラントが戦わずにいるのであれば、今、土煙の中で戦
っているのは誰なのか。その疑問は直ぐにセグラントによって解消される所となった。

「お、また一機墜とした。やっぱり相当出来るな。ダールトンは」

 セグラントの呟きに、彼の横に立っていた20代前半程の若者が反応する。

「当然です。何せ私たちの義父上なのですから!」

 そう自慢気に話す青年の名をクラウディオ・S・ダールトンと言った。
 彼はダールトンの養子の一人にあたる男である。

 自身の父を誇らしく思う気持ちはセグラントにも十分分かる為、セグラントも僅か
ではあるがそれに微笑みを返す。

 それから暫くすると、数機のKMFが編隊を組んでセグラントの下に帰還してくる。
 先頭に立つKMFからダールトンが降りてきて、セグラントに対し敬礼を取る。

「セグラント卿。敵先行部隊の殲滅滞り無く終了しました」

「ご苦労、流石は『瞬迅』のダールトンだ」
 
「瞬迅、その名で呼ばれるのは未だに背中がむず痒くなりますな」

 ダールトンはその厳つい顔をほんの少し朱に染め、頬を掻く。
 
 『瞬迅』のダールトン。

 それはダールトンがセグラントの副官となってから暫く経ってから付いた彼の二つ名
であった。彼が瞬迅と呼ばれる所以は敵機を素早く墜とす事に由来されるが、
一番の理由を上げるのならば、彼の駆る機体であろう。

 ダールトンは傍に立つ自身の機体を見上げる。



 彼がいつ機体を手に入れたのか、それを知るにはある程度時を戻す必要があるだろう。

 ダールトンがセグラントの副官となってからある程度経った日の事だった。
 彼はクラウンから呼び出しを受け、彼の研究室へと足を運んでいた。

「アーキテクト博士。入るぞ」

 ダールトンは適当に声を掛け、中に入り唖然とした。
 何故なら部屋の中は足のふみ場が無いほどに紙が散乱していたのだから。
 床に散らばる紙にはクラウンの手書きと思われる数式と何らかの図面が書かれていた。

「相変わらず汚い部屋だ。少しは片付けたらどうだ?」

「これでも片付いている方さ」

 ダールトンの言葉にもどこ吹く風と飄々と答えるクラウン。
 そんな彼の様子にダールトンは肩を竦める。

「……それで博士。今日は一体どのような相談だ?」

「呼んだ理由か。そうだな、君もセグラント君の副官なったからには戦場に出る事も
多くなるだろう。そんな君へプレゼントを渡すため、かな」

 プレゼント。

 本来ならばその単語に喜ぶところだが、その送り主がクラウンであるという事が
ダールトンに不安を抱かせる。
 そんな彼の胸中をまったく気にすることなくクラウンは手に持っていた分厚い本を
ダールトンに投げ渡す。

 渡された本に視線を落とす。
 その本の題名を『大動物図鑑』と言った。

「……なんだ、これは」

「何って動物図鑑さ。そんな事も分からないのか?」

「そんな事はわかっている。私が聞きたいのは何故、これを私に渡したのかだ」

 ダールトンの言葉にヤレヤレとため息をつくクラウン。
 
「動物図鑑を渡す=好きな動物は何だ? に決まってるじゃないか。こんな事も
分からないとは。……嘆かわしいな」

 彼の言葉に思わず携帯している銃に手を伸ばしかけるダールトン。
 しかし、彼はそれを長年の軍人生活で培ってきた強い意志で抑えこむ。

「……それで分かるのは貴様と同じ変人だけだ。それで好きな動物だったか?」
 
 ダールトンはパラパラと適当に図鑑をめくる。
 そして、その手があるページで止まる。

「……私が好きな動物はコイツだな」

 ダールトンがそう言ってクラウンに見せた動物は、

「ほう、狼か。なるほどなるほど。規律を重んじ、仲間の為に戦う君らしい答えだ」

 クラウンはウンウンと頷く。

「それで? この質問に何の意味があるのだ?」

「何って、君の機体だよ」

「は?」

 クラウンはそう言うと、近くにあったパソコンにある映像を出す。

 それは狼だった。
 体を機械で構成された狼。
 セグラントの駆る専用機ブラッディ・ブレイカーと同じ獣型のKMF。

「これは……」

「ふん、驚いたか。これが君へ贈る機体。その名は『コマンドウルフ』」

「コマンドウルフ……」

 画面を食い入るように見るダールトン。

 しかし、そこで端と気づく。

「これは専用機ではないのか? 通常一般の兵がこういった機体を持つことは禁止され
ているはずだが?」

「そこは問題ない。君はセグラント君専属部隊の人間だからな。ある程度はこういった
事は許される。それに、この機体は量産を目的としているからな。それを見据えての
試作機体と言えば許可も下りた」

 そう言って許可証をヒラヒラと見せてくる。
 
 何の問題もない。
 そう理解すると同時にダールトンは自身の体の内から熱を感じる。
 
「ふは! 我ながら現金なものだ。問題ない、と分かった途端に血が滾る!」

 目をギラギラと輝かせるダールトンにクラウンは満足そうに頷く。

「……機体のロールアウトは一週間後だ。造りあげたら直ぐに君用の調整を行う」

「ああ、頼む」

 ダールトンはそう言うと足早に部屋から立ち去る。

 彼の背中を見送りながら、クラウンは小さく呟いた。

「あの男もセグラント君と同じ生粋の戦人か……」


 それから一週間後。クラウンは言葉の通りに一週間でコマンドウルフを造りあげ、
ダールトンはそれを受領する事となった。
 
 今までのKMFとは明らかに違う挙動に最初は苦戦したが、流石に長い時を戦い続けて
戦士であるダールトンは直ぐに機体を自分の体のように動かすようになった。

 そして、彼は戦場でセグラントと共に数多くの戦果を上げ、
『瞬迅』の二つ名を持つに至ったのである。



「それでセグラント卿。次はどうしますか? このまま敵本陣を潰しますか?」

 ダールトンはコマンドウルフから視線を外し、問う。

「いや、後は後詰に任せて俺たちは本国へと帰還する。先程そう命令があった」

「本国、ですか。皇帝陛下ですか?」

「ああ、ラウンズの殆どに招集を掛けたらしい」

「それはまた……。何か起きたのでしょうか?」

 ダールトンの言葉にセグラントは苦笑をもって答える。

「ある意味何かが起きたのかもな。何せ、新しいラウンズの誕生らしいからな」



 

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