「最強!? そんなものの為に君は戦うのか!?」

 スザクはセグラントの言葉を否定する。

「おうよ! 俺は最強を目指す! それが俺の戦う理由! それが俺の願い!」

 セグラントはスザクの否定に反論はせずに自分の願いを確認するかのように叫ぶ。

 最強の武人、それが今は亡き親友エディとの約束。
 そして最強の騎士だった父ビスマルクの息子として譲れない称号。
 
「俺は求める! 最強の座を、至高の武人を、頂きを!」

 セグラントの願いはスザクからすれば信じられないものだった。
 彼とて幼い頃はガキ大将として強くあろうとした。
 しかし、成長するに連れ力だけでは何も出来ない事を知った。

 そしてユーフェミアに出会ってからは平和な世界こそが彼の願いとなっていた。
 
 そんな彼にとってただ純粋に最強という頂きを目指すセグラントを理解出来ないのは
仕方がないことなのかもしれない。

「最強という称号を手にして、それに何の意味があるというんだ!」

「意味ぃ? そんな物考えた事もないな! ただ成りたいから成る。それだけだ!」

 二人は叫びあいながら機体をぶつけ合う。

 空中要塞ダモクレスを背に銀と白、ホーリーグレイルとランスロットが交差する。
 互いにブレイカーユニットとMVSを振るい、己が磨き上げてきた武技をぶつけ合う。

 二機が交差する度に空に火花が散る。
 最高速を保ちながらのKMF戦はその場にいる全ての兵士を魅了し、戦へと導く。

「強さのみを求めてそれで明日に繋がるのか!?」
 
 MVSとブレイカーユニットがぶつかり合う。
 
 ホーリーグレイルとランスロットの頭部がぶつかっているのではないかと思うほどに
二機の距離はなくなっていた。

 それを気にする事なく両者は問答を続ける。

「明日? それがどうした! 俺は今を生きてる! 明日は大事かもしれねえ。
だが、それで今を楽しめなかったら意味が無え! お前は今を楽しんでるのか!?」

「今を楽しむよりも僕は明日の平和を望む! その為ならば今の楽しみなんていらない!
ユフィの望んだ平和な世界。それを実現するために僕は今を戦っている!」

 スザクはセグラントから距離を取り、ランスロットの背にある翠の光翼を広げる。
 それはビスマルク達と戦った時に行ったエナジーウィングから放つ無数のエネルギー弾
を撃ち出す為の予備動作。
 
 撃ち出された光の弾は嵐となりホーリーグレイルに襲いかかる。

 しかし光がホーリーグレイルを貫く事は無かった。
 ホーリーグレイルはその四肢に取り付けられたブレイズルミナスを起動させ光の猛攻を
防ぎきっていた。
 
 スザクとてそれでセグラントを討ち取れるなどと思ってはいない。
 先ほどの一撃は次の動作への準備。
 
 ランスロットが手に持つヴァリスをフルパワーで撃つための充填を行う為の時間稼ぎ。
 充填されたヴァリスから光が漏れ出す。

 その様子を見ていたセグラントもまた胸部ハドロン砲の充填を行なっていた。

 そして、ヴァリスとハドロン砲がほぼ同時に撃ち出され、二機の中間でぶつかる。
 二つのエネルギーの奔流は暫くの間拮抗し、そのまま爆発を起こす。

 セグラントは爆発で生まれた黒煙の中に突っ込んでいく。
 黒煙に紛れての奇襲。

 しかし、それはスザクも考えていたようで二機は再びぶつかり合う。

 幾度も機体を、武器を叩きつけあいながら二機の戦いは続く。

「枢木ぃ! 楽しいなあ!」

「僕は楽しくなんて無い!」

「そいつぁ残念だ!」

 スザクと距離を取り渾身の力を込めてブレイカーユニット、鋏をランスロットに
叩きつけ、ランスロットを両断しようとするが、スザクはMVSの切っ先を鋏に沿うように
突き出す事で鋏の方向を変える。

 渾身の力を込めていた鋏の方向を逸らされたホーリーグレイルは態勢を崩す。
 体の崩れたソレをスザクが狙わない訳はなかった。

 彼は返す刀でMVSを逆袈裟斬りの形でコクピットを切り裂こうとする。

 振るわれるMVSがコクピットへ迫る中、セグラントは焦る事なく機体を半回転させる。
 その動きは回避も兼ねているが、彼の狙いは回避ではない。

 ホーリーグレイルに取り付けられた尻尾が機体の動きに付随し、ランスロットを襲う。
 スザクは迫る尻尾に気づき、剣先をコクピットから尻尾の先に取り付けられているMVS
に変更する。

 MVSとMVS、高速振動する二つの武器がぶつかり合ったことによりその場に火花が散る。
 
「やはり、強い。そう簡単に討ち取らせてはくれないか……」

 スザクは頬を伝う汗を拭う。

「一瞬でも気を抜けば斬り捨てられそうだ。枢木、ここまでの使い手だったか。
堪らねえ……」

 セグラントは頬を伝ってきた汗を拭わずに、その顔に笑みを浮かべる。

「親父、あんたを討ち取った戦士は強いな。だが……」

――まだ足りない。

 セグラントは父の力量は良く知っている。
 あの男はこの程度(・・)の力の戦士相手なら敗ける筈が無い。

 だが、現に父は敗れさった。

 ならば考えられるのは唯一つ。

「枢木ぃ、お前まだ何か隠してるな?」

 セグラントの言葉にスザクの肩がぴくりと震える。
 彼はギアスの事は知っていても自分に掛けられているギアス(呪い)の内容は
知らない筈である。だというのに彼はそれを知っているかの様な口ぶりだ。

 恐るべきは野生の嗅覚とでもいうべき直感。
 
 スザクとしてもあの力は出来る事ならば頼りたくは無い力。
 だが、それが許されるような相手ではないという思いもある。

「……いくよ」

 スザクの言葉を端に動きが変わる。
 常に生きようとする呪いが彼の動きを最高の物へと導く。
 
 しかし、下手をすれば呪いに自我を持って行かれかねない諸刃の剣。
 それをスザクは完璧に制御していた。

 動きが変わったスザクにセグラントは目を見張る。
 先ほどとは動きが段違いなのである。

「これか。あんたはコレに敗けたのか、親父っ!」

 確かにこれは凄い。
 先程までのお互いの手の読み合いなど寸分も無い。
 
 ただ真っ直ぐにこちらの命を狩り取るに足る最善の行動を常に取ってくるのだ。

 ブルリと体が震える。

 先ほどとは違う汗が背中を流れる。

 それは恐怖から来る震えだろうか。
 
 いや、そうではない。

 これが恐怖であるはずがない。

 何故ならば自分はこんなにも笑いを抑える事ができないのだから。

「おおおおぉぉぉお!!」

 咆哮が響く。

 ホーリーグレイルの速度を上げ、ランスロットに迫る。
 真正面からの体当たり。
 
 横に移動するだけで避けられそうな物だが、スザクはそれをしない。
 
 ギアスが囁くのだ。

 横に動けば生きる事が出来ない、と。

 故にスザクの取った行動はMVSを真っ直ぐに構え、自身も突っ込んでいくという
ものだった。

 ランスロットが突っ込んでくるのを視認したセグラントは笑みを深くする。

「ブレイカーユニットは唯の鋏じゃねえ。盾も付いてんだよ!」

 セグラントはブレイカーユニットに取り付けれている盾でランスロットを殴る。
 
 その行動にスザクは面を喰らう。
 確かに盾で殴るというのは戦ではよく聞くが、それをまさかKMFで行う人間がいるとは
思いもしなかったからだ。

 それを機にセグラントは、

 殴る。

 殴る。

 殴る。

 只管に拳を振るい続ける。

「それ以上はやらせない!」

 MVSが振るわれ、右腕を切り裂こうとするがセグラントはそれを左腕を犠牲にする事で
防ぐ。切り裂かれた左腕は直ぐにパージする。

――まだだ。まだ武器は残ってる。

「おらぁっ!」

 尻尾を振るい、その先の刃でお返しと言わんばかりにランスロットの右腕を狩り取る。

「ちぃっ」

 両機ともに片腕を失ったが、それでも戦意が衰えることはなく、寧ろ燃え上がる。
 そして始まったのは、KMFによる殴り合い。

 ここに来て戦いは原始的なものへと移行した。

 両機は一歩も下がることなくただ只管に相手を殴る事に集中する。
 
 スザクもセグラントも機体のエネルギーが底をつきかけていることなど知っている。
 だが、ここで一歩でも退けばそれは敗北に繋がる事もわかっている。

 ならばエネルギーが切れるまで殴り続けるか、どちらかが決定打に動くのを待つのみ
である。

 はたして、先に動いたのはどちらだったか。

 それはスザクだったかもしれない。
 いや、セグラントだったのか。

 両者はほぼ同時に動いた。

 スザクが一瞬の間隙を縫い、MVSを短く振るう。
 セグラントがブレイカーユニットで突き刺そうとする。

 スザクのMVSはホーリーグレイルの頭を両断し、そのままコクピットまで届いた。

 セグラントのブレイカーユニットはランスロットのコクピットに届く手前で止まって
いた。

――勝った!

 スザクはそう確信していた。

 既にホーリーグレイルのコクピットは剥き出しである。
 後、ほんの少しMVSを動かすだけでセグラントは死ぬ。

 だが、しかし。

 コクピットから覗くセグラントが笑う。
 彼が何か喋っている。

「枢木、知ってるか? 切り札ってのは最後までとっておくんだよ。
エクスカリバーバレット!」

――何のことだ。

 疑問に思うがそれはすぐに理解出来た。

 それはギリギリで止まっている筈のブレイカーユニットだった。

 盾と鋏の間に3つの穴が開いているのだ。

 それは銃口。

 射出される銀の弾丸。

 この弾丸は父の機体ギャラハッドの主武装であったエクスカリバーを削り出し作った
武器。これはクラウンがギャラハッドを回収したと聞いた時にセグラントが頼み込み
積んでもらったものであった。

 ランスロットは既に片腕を失っており、残る方もMVSを握っている。
 防ぐ事など出来ない。

「セグラントォォ!」

 防御は間に合わない。そう判断したスザクの行動は早かった。
 MVSを少しでいい、押しこむ事に全力を注ぐ。

 しかし、銀の弾丸はそれよりも早くコクピットを貫いた。

「……僕の敗けか」
 
 銀の弾丸はスザクを貫く事は無かったが、それでもランスロットの機能を停止させる
には十分過ぎた。飛行能力を失い、落下を始めるランスロットのコクピットの中でスザク
は静かにただ事実のみを口にする。

 堕ちていくランスロット。
 その様子を眺め、セグラントは高らかに宣言した。

「……俺の、勝ちだ!!!」



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