薄暗く地下室のように閉鎖間に満ちた病室――

 生命の灯を限界ギリギリまで燃やし尽くした男が静かに最後を迎えようとしていた。

「終わった・・・・・・よな」

 男――テンカワアキトは自身の復讐を終え、運命を呪いながらも命が体から抜ける感覚が染み込んでくる。

 取り戻した愛する妻――ユリカが握ってくれている手の感覚すら怪しくなっていく。

 ユリカ自身も火星の遺跡に融合させられた後遺症により体の中身はどうにもならないレベルまで崩れている。

 起きていられるのが不思議なくらい、ユリカの体は崩壊しているのだ。

「アキト、終わったよ。もう――ゆっくりしよう」

 テンカワアキトの復讐は終わった。火星の後継者、クリムゾングループ、連合とほとんど武力を持つ者を無作為に

 殺して回っていた。全ては歪められた自身の人生を認めたくなかったから――

「もう、疲れたよ。あっちで先に待ってるよ・・・・・・ユリカ、ルリちゃん、イネスさん・・・ラピス」

 重くなっていく瞼に逆らう事無くテンカワアキトは自身の体から抜けていく命を手放した。



 西暦2202年11月5日グリニッジ標準時19時22分24秒――――テンカワアキト、死亡



 夫の体の状況も自身に残された余命も受け入れていたユリカは涙も流さずに力ない笑顔を落としていた。

「待っててね。私もすぐだから・・・」

 言葉を発するとともに落ちてくる瞼――ユリカも命が燃え尽きるのを受け入れるように力が抜けていく。

 つい先ほど死亡したアキトの眠るベッドに落ちるように頭を落として死の床についていく。

 そうして、力なく力尽きたユリカが落ちた所からベッドは赤く染まっていく。



 西暦2202年11月5日グリニッジ標準時19時24分01秒――――テンカワユリカ、死亡




 2人は静かに、人生に終わりを迎えた。





 二つの死体はゆっくりと発光を始めると、静かに拡散していき病室から消える。
























「・・・ここは?」

 自然と目が覚めたアキトは記憶のどこを探っても該当しない目の前の光景に心を奪われていた。

 自身が先ほど死んだという事実すらないがしろにしながらも・・・

 そして、どこからともなく聞こえてくる少女の鳴き声――取り返しのつかない事をしてしまい、

 いくら謝ってもどうにもならないのがわかっているかのように少女の鳴き声は響いてくる。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・私が、あなた達に力を無作為に与えたから・・・

 ボソンジャンプなんて力を・・・」

 泣いて震える声――それはまさしく天使の声だった。

 闇から現れたのは、まるで戦争孤児のようにボロボロの服を纏った銀髪の少女。

 触れればすぐにでも折れてしまいそうな体が罪悪感に震えているのだ。

 アキトにはどこかその少女が、泣いているルリや幼き頃のユリカと被って見えたのだ。

 脊髄反射的にアキトは少女を抱きしめていた。

「いいんだ。俺はこの力に何度も助けられた! この力がなければ俺はユリカに、ルリちゃんにも・・・

 大切な人に会えずに死んでいた。」

「許してくれるの? 運命を恨んでたんじゃないの?」

「あぁ、恨んでいたさ。でも君を恨むのはお門違いだろ。だから泣かないで」

 アキトは優しく抱きしめ、少女を安心させようといつしか微笑みすら零れていた。

 しかし、少女の震えは止まらなかった。

 しかし、ある時アキトは気づいてしまう――少女の震えが変わっていた事を

「? わ・・・・・・わらっているのか?」

 本能的恐怖を感じたアキトは思わず少女から逃げるように少女を投げ出す。

 目を見開き、肩で息をしながら少女を凝視していた。

「いった〜いっ! 投げる? 普通。こんな美少女を」

 体を起こした少女の顔は悪魔の笑みをしていた。

「お・・・おま」

「ぁあ! ちょっとタイム! こっちが先。まずは自己紹介ね――私は通称火星の遺跡の制御をしている擬似人格。

 つまり、私がボソンジャンプを管理してるの。わかった?」

「起こった事象を処理するだk」

「一つ言わせてもらうと、貴方とお嫁さんのボソンジャンプを妨害したのは私よ。もう最高だったわ〜♪絶望に染まるあなたも、

 貴方を助けるために人身御供になったお嫁さんも・・・・・・いい娯楽になったわ〜♪まぁ私を勝手に弄ってきたのはそっちだし――

 お返しと思ってくれてかまわないわよ? まぁもっとも? あれぐらいで私がどうにかなると思ってたならおめでたいわよね」

 少女の戯言にも似た言動にも関わらず、アキトは確信してしまう――少女の言っている事に嘘も虚言もない。

 全てが真実だ。

 先ほどの自身の言葉に嘘はなかった。しかし、目の前の豹変した少女を凝視しているとこみ上げてくる――

 憎しみが、圧倒的闇に支配されている黒い感情が止め処なく自身を染め上げていく。

「貴様!!」

 体に染み付いた迎撃の動き――

懐から六連銃を取り出し、銃口を向けるとともに発砲。

 未だ悪魔の笑みをこぼす少女に向けて放たれる銃弾――

「あら、物騒ね」

 しかし、銃弾は少女には届きはしなかった。寸での所で強制ジャンプさせられたのだ。

「本当に貴方は楽しませてくれるわよね。まさか自分で妻に止めを刺すなんて――フフ」

 おもむろに少女は指を鳴らす。コミュニケのように空中に1つのモニターが浮かび上がりそこに写る光景にアキトは絶句してしまう。

 妻のユリカがベッドに倒れるようにして突っ伏しており、体からは止め処なく血が流れていたのだ。

「っな・・・・・・そんな」

「キャハハハ! 最高♪ 貴方本当に最高よ! その顔・・・・・・何度も見返したわ。もうたまんない!!」

 少女は身を捩じらせながら至福に浸かっていた。呆然としているしか出来ないアキトに届く少女の笑い声――

まるで悪魔のように聞く者に恐怖を抱かせる。

「それじゃぁ、感動の対面と行きましょうか! prince of darkness」

 少女の言葉と共に発光を始めるアキトの目の前の空間――

 現れたのは、元気なユリカだった。

「あれ? アキト? ・・・私達、死んだんじゃ・・・」

「っそうだ! ・・・なにが起こってるんだ?」

 困惑する2人を見て、少女は堪えていた笑いを盛大に噴出す。

「キャハッハハハ! 最高! 教えて、あ・げ・る♪ 

 貴方たちの体は数年前・・・私から人間が離れた時のモノにすり替えておいてあげたから。」

「何が目的だ・・・謝る気もない! ただ馬鹿にするだけではないだろう!」

「目的か・・・強いて言うなら、生で見たかったの。絶望に歪む顔をね♪ しっかりと貴方は答えてくれたわ!

 貴方気に入ったわ! ゲームをしない?」

「ゲームだと?」

「そう、貴方を・・・・・・そうね、貴方が始めてジャンプする一週間前に送ってあげる。それから、好きにしなさい」

「? どういうことだ」

「つまり、貴方たちは好きにしていいわ。私は勝手に貴方たちの顔が絶望に歪むのを見るから! 

 どうせ、この時空は20年ぐらいで全宇宙全てを相転移するし」

「全宇宙を・・・相転移するだと?」

「えぇ! そんなことしちゃうと人類とか全部なくなっちゃいますよ!!」

「ごめんね、これは私でもどうにもならないの。遺跡がある一定以上データを収集すると実験場は相転移するの。

 今回は少し、イレギュラーが起こったから色々データを取れたしね。その点は感謝してるわ」

「お前を楽しませるピエロになれとでもいうのか! そんなのゴメンだ! 貴様の我侭に付き合う気はない!」

「あら、そうなの? 残念。でも、貴方はきっと乗ってくるわ」

 少女は悪魔のような笑みを零すと、指を軽く回す。その一瞬後に、アキトの横にイネス・フレサンジュが転送されてくる。

「始めまして、イネス・フレサンジュ。そして、久しぶり・・・アイちゃん」

「・・・誰なの? それにここは」

「あなたが隠れてから必死で解析しようとした遺跡の中よ。そして、私は遺跡の擬似人格よ。あのプレートはもってるわよね?」

「・・・ええ、片時も離しはしないわ。古代火星人が必死になって持たせてくれたものだもの」

「合格よ。あなた、ゲームしない? 私と」

「ゲームですって?」

「ええ、貴方たちをあなたが古代に送られたジャンプの一週間前に送るわ。そこからは自由にしていいわ。

 社会をかき乱すのも、未来を変えるのも自由。」

「何がしたいの? まさか暇つぶしとでも言わないわよね?」

「正解、暇つぶしよ。私は人々の絶望を見たいのよ! もう20年ぐらいで全宇宙の相転移は始まるわ。

 それまで私の暇つぶしのために踊ってね」

「私は参加しないわ。このまま宇宙空間にジャンプさせられようとね」

「そうなんだ。母親とその時代の自分は救えるとしても?“イネス・フレサンジュ”を生まない事もできるのにね」

「だからなんだっていうの! そんなこと関係ないわ」

「でしょうね。でもね、やりようによっては、貴方が解析したかったものが解析できるのよ」

「・・・・・・っ!」

「それにね、私は任意でする気はないわ。もう貴方たちを送ることは決定なの。でもね、その前に説明は必要でしょう?

 私は優しいからね」

「貴様っ!」

 絶えかねたアキトは成功しないのを承知しつつ、少女に向けて突進をかます。

 当然、少女は瞬時にジャンプしてアキトのタックルを避ける。

「それで、最後の説明ね。西暦2196年に貴方たちを同じ場所に送ってあげる。

 それから・・・そうね2103年、約7年間ね。それで三回はやり直せるでしょう?」

「三回も踊れというのか!」

「ううん。これは最低ラインよ。逆行したいと3人の一致があったら送ってあげる。時間は全て同じよ。

 やり直したいと思うなら、3人で話し合えばいいわ。一致したら送ってあげる。それにね、20年って言ってるけど

 それは、貴方達の体感時間だから。私がもう少し見たいと思ったら伸ばしてあげることも出来る。限界はあるけどね」

「誰かが死んだらどうする! 逆行も出来なくなるぞ!」

「そうね・・・死んだら、ここで保管しておいてあげる。そして、残りの総意があればまた3人でどうぞご自由に」

「・・・・・・」

「これで、説明は終わりよ質問は?」

「あなた・・・楽しい?」

「ええ、楽しいわ。集めてる絶望コレクションも飽きてきたからね。」

「悪魔ね」

「そうね・・・そういわれればそうなるわね。――そうだぁ、1つ忘れるところだったわ」

 少女は文字通り悪魔のような笑みを零す。いいものが見れると期待するような目を3人に向ける。

「逆行には通行料を貰うからね。今回は私の思いつきだけど、次回は志願してかまわないから」

 少女は言い終わると同時に、左手を掲げる。ポーズ粒子が発光を始め、いずこかでボソンジャンプが始まる。

「な・・ぎゃあぁぁぎゅぐうううう!!!」

 発光したポーズ粒子が凝縮すると、アキトの左腕が肩からゴッソリと少女の手に収まっていたのだ。

「これが通行料。その人の大事なものを貰うわ。貴方は私に何度も戦おうとしてきたから、その戦力を削いであげたの。

 キャハハハ。まぁそっちでは頑張ってね」

「アキト! 血をとめない・・・・・・と――血が、出てない?」

「完全にジャンプを使って治療されてる・・・」

「さて、ではこれより始めましょうか。いってらっしゃい。せいぜい私を楽しませてね」

 少女の悪魔のような笑みに見送られて、アキト達は逆行することとなった。

 少女を楽しませるピエロとなるために・・・


















「ふう・・・最後の賭けね――

 ん? なによ! 文句あるわけ? ――

 うるさい!アンタがいないから、こっちは手間取ってるんでしょうが!わかってるわよ、アンタに対してだけはジャンプも出来ないし干渉も出来ない。だから困ってるのよ。こっちは――

 それでも、あんな非人道的なことはしちゃいけないって?馬鹿じゃないの?私達もされたでしょうが! ――

 アンタも私の分身なんだから知らないとは言わせないわよ。――

 あぁ、はいはい。人を導かないといけないなんてのはアンタの勝手な妄信よ。私達はゲートなの! 唯の通路としてしかなかったの! 超次元の者が創った低次元の者の進化を見るためのね! 行き用の私達と対の帰り用の“アダム”はもういないの! 第二人類が勝手するから・・・ん? ――

ならもう少し優しくなれって?アンタが言う? キャハハハハ。傑作よね! アンタが可愛そうだと言って跳躍ゲートと相転移機関を与えたら、星1つの生命体を殲滅したんですものね! アンタにこそ、悪魔の称号を与えたいわ。私はあんな事しないわ。見殺しにするけどね? ――

 まぁみてなさい。必ず、私は殺してあげるわ。第2人類の先駆者達を・・・三次元、四次元に干渉して!

 そして、この実験場を第2人類が蓄えた空間に定着させるの。実験の監視役なんてしたくはないわ。

 それに、監視役が終われば私達は無に帰れるわ・・・・・・この永久に続く地獄を見ないですむわ

 待っててね、“アダム”。“イヴ”も必ずそっちに行くからね」














あとがき的なもの




どうも、まぁです。

今回の短編、お読みいただいてありがとうございます。

今回の短編は長編用に考えたモノの導入部として練っていたものです。

他の連載も考えると、話を練るのが難しい状況なのです。

ですので、一様、短編として発表させていただきました。

もし、需要があるなら続きを練っていこうかと思っています。

何分、SS書きを始めたばかりです。

お見苦しい点が多々あったと思いますが、暖かい目で見てもらえると嬉しいです。

これからも精進していきたいと思っておりますので、拍手やコメントをいただければ幸いです。

また、私の他の作品にしても同様です。

読者から反応があれば、それがキツイ批評や指摘であったとしても、それが次の作品への原動力になったりします。

これは他の作家さんでも同様だと思います。

ですのでコメントも、批評や指摘大歓迎です。

これからも、皆様に楽しくお読みいただきたいと思っておりますので、びしびしとお願いします。




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