「死んじゃえばいいのに……」

 自然豊かな田舎の道を進む一般車。
 父親が運転し、母親が助手席に座り、後部座席には不機嫌そうに空を見上げる少女が座っていた。

 少女は田舎が嫌いだった。
 ――虫がそこらじゅうを飛び回り。
 ――舗装されていない道。
 ――うるさい虫の鳴き声。

 帰省するというのに、少女の頭の中には嫌な事でいっぱいだった。
 折角の夏休みに入ったのだから、友達とプールや買い物に行きたい。

 少女は家を出発してからずっと心の中で、田舎に行かないで済む方法を考えていた。
 おなかが痛いとでも言えば引き換えしてくれるだろうか……
 行きたくないと正直に駄々をこねれば引き返してくれるだろうか……

 そんな考えがぐるぐると頭の中を回っていた。
 田舎道に入った当たりで、少女は引き返す事を諦めた。
 それほど家から離れ、どう駄々こねようと覆らない事がわかっているから……。

 それから少女は捻くれ、心の中で願い続けていた。

 次、田舎へ帰省する事がないように……




「聖王様……皆死にますように……」

 少女は家族の……親族の死を神に願った。





魔法少女リリカルなのは×紅×電波的な彼女
電波的なヴィヴィオ
第二章 偽りの祈り
その一 「光を求めるもの」
作者 まぁ





 とある民家の一室。
 3人の男が机を囲んでいた。

 杯に一升瓶に入った黒糖焼酎を注ぎ、チビチビと飲んでいた。

 紅真九郎とユーノ・スクライアは対面で座り、お互いに目線を反らそうともせずに見詰め合ってた。
 その間に事が荒立たてない為に構えているかのように座るクロノ・ハラオウン。

「まぁ最初に決めたとおり、ヴィヴィオを助けるのは後一度です。それが終わったら俺は……」

「そんな事を聞きにここに呼んだわけじゃないですよ……真九郎さん。

 僕が聞きたいのは……なぜあそこまでヴィヴィオを痛めつけたのかって事です! あの時……決着はついていたはずだ」

「壊すって言ったでしょ。
 だから徹底的に潰したんですよ。

 ――ヴィヴィオの心をね」

 真九郎は、事も無げに言うとユーノを視界に留める事も止める。

「真九郎さん、俺は直接見てなかったから強くは言えないんだが……

 真の目的を教えてくれませんか……。
 “壊す”だけじゃなくね」

「恐怖を刻み込んだんですよ。彼女は既に握り拳を見ただけで動けなくなりますよ。 


 言葉で言っても何も変わらない。
 またあの子は裏の仕事へと関わろうとする……未熟な心のままね。

 だから、鎖をつけたんですよ。もう既に確認済みです」

 真九郎はそれから無言で酒を飲み続け、居間に静寂が流れる。
 一体どれくらい静寂に包まれていたかはわからないが、なのはの帰宅で静寂は終わりを告げる。

「ただいま〜。
 あれ? クロノ君に真九郎さん……どうしたんです?」

 酒が出ているのに、重たい空気に思わず言葉が出る。
 答えもせずに、真九郎は黙って立ち上がり居間を出て行く。

「ヴィヴィオには知らせない方がいいですよ……。彼女が越さなければならない壁が現れるまで」

 真九郎が立ち去っても、重い空気は消えはしなかった。







 真九郎達の飲み会から一週間後、ヴィヴィオの顔の腫れが引いたため、なのははユウリを連れて見舞いへと病院に足を運んでいた。
 半年振りに姉のヴィヴィオに会えるとあって、ユウリは朝から興奮していた。

 ヴィヴィオの病室の前に着くと、中からは女の子達の姦しい声が響いてくる。

 ユウリが勢いよく開けると、中には異世界の友達である散鶴を初めとしたいつものメンバーが集まっていた。
 ユウリはその中に中心にいるヴィヴィオに向かって一目散に駆け出し、抱きつく。

「ユウちゃん! 久しぶりだね」

「うん!」

 飛び込んだユウリは、一瞬にして病室のエンジェルとなった。
 雪姫に抱きしめられ、雨に頭を撫でられ、円と話し、千鶴と紫に手を振る。

「師匠と光ちゃんも待ってるよ」

「……うん! 夏休み終わったら帰るからって伝えといて」

 円は何気なく、空手の構えを軽く取り、ヴィヴィオを心配している人がまだいるよっと伝える。

 ヴィヴィオの表情は一瞬強張り、冷や汗が出てくる感覚が駆け抜ける。
 しかし、その事にヴィヴィオは気づかず、軽く返事する。







 ユウリが溶け込んだのを確認すると、なのはは医師の元へ向かう。
 医師の返事を聞き、部屋に入ると、そこには真九郎がシャマルと対面して座っていた。

「ぁあ、来たのねなのはちゃん。
 ちょっと待っててね、真九郎さんの治療すぐに終わるから」

 真九郎は左腕の袖を捲くる。
 中からは、ミイラのように肉が削げ落ち黒く変色し始めている腕が出てきた。
 シャマルは真九郎の腕に慣れたように治癒魔法を掛け始める。

「真九郎……さん、その腕は?」

「ええ、左腕の角は出して効果を発揮させるとこうなるみたいです。
 体内のエネルギー根こそぎ掻っ攫っていってこれです。

 ――使えないもんでしょ」

 治癒され、変色が消えていく中で、真九郎は乾いた笑いを放つ。

「……ありがとうございます。

 不出来な娘の為に……わざわざ解放しなくて終わらせられたのに」

「ホント真九郎さんって優しすぎよぉ。
 スターライトブレイカーに変換された全魔力素を元に戻すなんて、無茶もいいとこなのよ」

 シャマルは、少し笑いながら説明をなのはに始めた。

 真九郎の左腕の角は開放されると、左腕の肘から先は魔力素強制変換能力を発揮する。
 魔力素によって生み出された魔法を、無害な魔力素へと強制的に変換する。
 しかし、それには大量の真九郎の身体のエネルギーを必要とし、使用後は大量の食事と休息を必要とする。

 異常なまでに効率が悪い角を使用したのはこれで三度目。

 真九郎の身体能力ならば、魔法での攻撃のほとんどを避ける事など不可能ではないのだから、開放する必要がないのだ。
 実際、真九郎は角がが生まれてからの2年近くの仕事で開放しなければいけない程の危機が襲ってきた事は無い。

 今回のヴィヴィオとの戦闘でもそうだ。
 一直線の軌道、発射までのタイムラグ、真九郎に掛かれば発射された直後に回避する事も出来た。
 しかし、今回はそれをせず、あえて左腕の角を解放した。

 それだけで真九郎の思いがわかる。
 なのはは静かに深く頭を下げる。
 真九郎は苦笑して頭を上げさせると、去っていく。











 雨達の見舞いが終わり、静寂に包まれた病室に一人いると、ヴィヴィオは静かに考え込む。

 何があそこまで真九郎を激怒させたのか。

 命を失うかもしれない危ない裏の仕事を勝手にうけて飛び込んだ事か?
 いや、真九郎も同じ歳で揉め事処理屋をしていた……。

 揉め事処理屋を勝手に名乗った事か?
 その部分は聞かれてないはずだし、真九郎も周りの反対意見を無視して営んでいた。

 結局、自分と同じ道を歩いてほしくないという真九郎の怒りにも似た憤りから、来たのか……。


 いくら考えても、ヴィヴィオの思考はここから先へは進みはしない。
 何度も思考がループし、気分が沈んで考えるのをやめる。

 入院してしばらくしても、この行為は何度も行われ、ヴィヴィオの寝る前の習慣となっていた。
 思いのほか、ヴィヴィオの身体は重傷で、筋組織の再生に時間が掛かるとの事で夏休みの半分を病院で過ごす事になっていた。

 杖をついてようやく歩けるようになると、ヴィヴィオは病院内を、ゆっくりと歩いて探検していた。
 消灯時間を過ぎても、バレないように実行していた。
 案外、部屋を出て歩いている者が多い事に驚く。

 ロビーで静かに楽しそうに話す者。
 トイレに行こうと壁にもたれながら歩く者。
 月に向かって祈りを捧げる者。

 ヴィヴィオはただ目的もなく彷徨い、フラフラと帰っていくだけであったが、何回目かの徘徊で夜風に当たれ月が綺麗に見えるバルコニーを見つける。
 消灯時間を過ぎているため、誰もいないそこで、ヴィヴィオはいつものループする考えを始める。
 ここでなら何かいい考えが浮かぶのではないかと、儚い希望を持って。

 しかし、そんな事で思考が進むはずもなく、ヴィヴィオはそこで黄昏るだけだった。

 何も考えず、ボケッと月を見つめる、ヴィヴィオにとってこれほど楽な事があっただろうかと、ヴィヴィオは何時間もそうして黄昏る。
 真九郎がなぜあそこまで激怒したのか。
 母達はなぜ止めようとしなかったのか。
 なぜ、言葉で叱りにこないのか。

 自分はもう見放されたのか……。

 そんな事を考えなくていい、思考停止は心地よかったのだろう。
 昼も夜も見境なく、ヴィヴィオはバルコニーを訪れていた。








 ヴィヴィオが思考停止してから何日が経っただろう。
 その間誰も見舞いには来ず、ヴィヴィオの変化に気づく事はなかった。

 そんなとき、出会ったのだ。

 ――無邪気に笑う天使のような同じ年の女の子、エリン・ギウムに。



「ねぇ、あなたいつも夜ここに来てるよね?」

 短い薄い紫の髪をポニーにくくり、整った顔立ちの少女がそこにはいた。
 ボーっとしていたヴィヴィオは、驚き何も聞き返せずにいると、少女は笑いながら自己紹介を始める。

「私はエリン。エリン・ギウム。

 16歳よ。あなたは?」

「ヴィヴィオ。高町ヴィヴィオ。

 私も16歳だよ」

 それから2人は、バルコニーで話し込みだす。

 エリンはいつもロビーで月に向かって祈りを捧げており、日を跨いで病室に帰るが、足音を聞いて誰かが自分よりも遅くまで夜の病院を徘徊しているのが気になっていたとの事。
 それで毎日、帰る前に一つの道を往復してその人を探し出そうとしていたとの事。

 その日は、自己紹介とそれぞれの事を少々話して分かれる。
 それからは毎日のように2人は昼にバルコニーで話し、夜はエリンの祈りが終わってから少し話すようになった。

 エリンは入院して1年。交通事故で家族全てを失い、誰も見舞いにはこない。



 交通事故後に発覚した特異体質の研究の為と、その特異体質の副作用の抑制のために病院での生活を強いられている。
 しかし、その研究のおかげで衣食住が約束されている。


 何度か副作用によって皮膚がが破裂した事もあり、服に隠れた部分は縫い傷や痣などが至る所にあるとの事だが、エリンはその事実を事も無げに笑ってヴィヴィオに話す。
 ヴィヴィオは、そんなエリンに自分にはない強さを感じたのかもしれない。
 それからはエリンの話を聞く為に、エリンと会うようになった。

 家族と言う絶対的な精神的な支えを失いつつも、こうして天涯孤独となった今も強く生きているエリンから、何か学びたい。
 支えをなくした自分を救ってほしいと思っていたのかもしれない。
 


 毎日のように2人は会い他愛の無い話をしていたが、何度かエリンは昼にバルコニーに来ない事があった。
 検査でもしているのだろうと、ヴィヴィオは呆けて時間を潰していた。
 そうして時間を潰しているときに限って、緊急で患者を運び込んでいる救急車のサイレンを聞く。

 ヴィヴィオは運び込まれてくる人が死なないようにと、頭の片隅で祈りながら空を見上げる。






「患者の容体は!?」

 救急車から降りてきたスタッフに尋ねるシャマル。
 スタッフも患者の容体の深刻さに少し絶望した表情で言葉を発する。

「内臓圧迫、各部を複雑骨折しており、なんとか息をしている状態です」

 シャマルは患者の顔を見た瞬間に、青ざめた表情が消える。
 それからは落ち着いて病院スタッフに指示を出していく。

「輸血パックを持ってこれるだけ持ってきて……あとモニタの準備も忘れないでね」

 手術室へと患者と共に入ると、シャマルは手術をするでもなく、ただ眺めていた。
 すると、患者の各部から小さく『パキッ』っと音が聞こえてくる。

 しばらくシャマルとスタッフは患者に輸血だけを行い、記録をとりつつ眺めていた。
 一時間もせずに患者の傷は全て消え、ただ肌に血が着いているだけだった。
 患者はゆっくりと目を開いてため息を着く。

「あぁあ……また死ねなかったのね。

 残念」

 患者はゆっくりと起き上がると、血を落とし手術室を去っていく。

「モニタの結果は?」

「約30分で正常まで戻りました。輸血に頼らずにあの失血量をカバーしていたようです」

「そう……賢者の石でも持っているのかしら。

 エリンちゃんは」

 シャマルはモニタの結果が記された資料を持って手術室を出る。





 ――TO BE CONTINUED







 どうも、まぁです。

 電波的なヴィヴィオ、四章構成の内第二章が始まりました。

 世間ではForceが始まったり、ViVidが始まったりしていますが、し〜らない! っという事で突き進みます。

 なるたけ早く更新していけるように頑張っていきます。。

 ではこれにて



  まぁ!



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