寝静まっている子供達の寝室内で、ユーノは一つの決意を持ってなのはを念話で起こす。
 寝ぼけから抜けたのを確認すると、ユーノは視線を向けているなのはに対して深く頭を下げる。

『はにゃにゃ!? どうしたの? ユーノ君』
『成り行きとはいえ、巻き込んでしまって……これからは』
『駄目! それ以上言ったら怒るよ』
『いや! 言わせてもらうよ。巻き込んだ始めの方は、なのはの才能を見て、ジュエルシードを集めきるまでいけると思ってた』

『なら!』

『でも、別の強力な魔導師も出てきたし、何よりも異能者がこんなにいる世界でなんて……危険すぎる。
 これからは、僕1人でする』

『……心配してくれてありがとうね、ユーノ君。
 でも、もう私止まれないよ。

 強くなるって決めたもん』

『でも』

 ユーノが言葉をつむぐ前に、周辺にジュエルシード発動の気配を感知する。
 ユーノはすばやく、魔道広域結界を張り、魔法に関わる者以外は排除した空間を作り出す。

 なのはは布団から出ると、バリアジャケットを装着すると、部屋を出ようと足を進める。
 10分とかからずに、気配を感じた地点へと辿り着く。

 そこには、蒼く輝くジュエルシードを手にするフェイトが空中を漂っている。
 発動感知から封印までを10分で終わらせた事に驚愕しつつ、なのはは息を整えていく。

 目の前の少女と戦う為に、自身の力を……自身を認めてもらうために。





 月が昇る夜の森。
 白のバリアジャケットのなのはと、黒のバリアジャケットのフェイトが真剣な眼差しで対峙していた。

「そのジュエルシードは渡さないよ……私も集めるって決めたから」

「私もやめるつもりはない……集めなくちゃ、いけないから」

 2人は譲歩しようともせずに視線を合わせ続ける。

「そのジュエルシードを渡して!」

「……」

 なのはの問いかけにも、フェイトは答えずバルディッシュに封印したジュエルシードを入れると、サイスモードへと移行させる。
 前回の対峙と同様に、邪魔をするなら問答無用で叩き潰す。

 ――っといった冷たい眼差しをなのはに向ける。

「なら戦おう……。そのジュエルシードを賭けて。そして、私が勝ったら名前を教えて」

「……なら、私が勝ったらあなたが集めたジュエルシードを1つ頂戴」

 条件を出した瞬間に、わかっていたとばかりに即座に返ってきた答えになのはは頷くしかなかった。

 数秒睨み合うように視線を交える。
 2人は申し合わせずとも、同時に動く。

 なのはは誘導弾と砲撃が生きるミドルレンジに……。
 フェイトはなのはが想定していない近接戦闘を行うためにクロスレンジに……。

 それぞれが得意とする距離へと相手を貼り付けるために。





魔法少女リリカルなのは×結界師
―ふたつの大樹は世界を揺らす―
第8話 「箱庭の少女達」
作者 まぁ





 2人の魔法が飛び交う空中の戦場の中、フェイトは少なからず驚愕していた。
 使い魔の報せにより、なのはがこの付近に来ている事は知っている。
 だから、ジュエルシードを強制的に発動させておびき出した。
 なのはが手に入れたジュエルシードを奪い取る為に……。

 しかし、手を合わせてみると、想定していたよりも手ごわくなっている。
 一週間前とは見違えるかと思うほどのなのはの動き。
 避けきったと思った誘導弾が生きてまた襲ってきたり、よりしつこく操作してくる。

 何よりも見違えたのは、その動きの迷いのなさ。
 例えはたから見ている者からはそれは間違いだと思える魔法を選択しようとも、撃ちきる。
 戦闘に慣れ始めているのか、そんな資質なのか判断はつかないがそんな事どうでもいい。

 目の前の敵は、強くなって現れたのだ。
 ジュエルシードを集めきる前に、追いついてくるか……このまま逃げ切れるか。
 いっそ、ここで命を刈った方がいいのか……。せめて再起不能に!

 フェイトがなのはの命を刈ろうかと考え、寸止めの戦闘の気構えから切り裂き運がよければ死に至らしめたらいい……っと態勢を変える。

 しかし、フェイトの冷たく凍った思考に何故かお昼に出会った異能者(みもり)の笑顔が浮かんだ。
 フェイトは容赦なく握ったバルディッシュから力を抜き、また寸止めの戦闘態勢へと移行する。
 頭に浮かんだ美守の笑顔が、フェイトの凍った意識を少しだが暖かく溶かす。

 なのはがこのフェイトの態勢の変化に気づく筈もなく、自身の魔法でフェイトを追い詰める為に集中している。
 その証拠に、クロスレンジに潜り込もうとしているフェイトをミドルレンジで止める為に、誘導弾と飛行で近づけさせない。

 フェイトは誘導弾を避けながら、なのはの癖を、隙を見つけだそうと観察する。
 誘導弾の現段階での同時操作最大個数は4つ。
 誘導弾を2つ以上操作しているときには、飛行が単調に一方方向への移動に限られる。

 攻撃は読めても、付け入る隙が減少した事に表情も崩さずに、冷静に判断を下す。
 フェイトはかなり余力を残した高速移動で、攻撃をヒラリヒラリと避けていく。
 才能なのか、稀にヒヤリっとさせられる弾道で撃ち込んでくる。

 真正面からぶつかり合えば、フェイトも手の内のほとんどを見せなければならない。
 15個近くジュエルシードが隠れているこの序盤では、避けたい。
 何か、付け入る隙を見つける為に、フェイトはただ避けるだけの行動をやめる。

 なのはの戦闘の手札を見るために、フェイトはワザと誘導弾の一つを防壁で防ぎ、動きを止める。
 大技を撃ち込むチャンスと見るや、なのはは力を溜める。
 それを受ける形で、フェイトも自身が持つ砲撃魔法を作り出す。

「撃ちぬけ、轟雷。サンダースマッシャー!」
「撃ち抜いて! ディバインバスター!」

 ほぼ同時に出された砲撃系の魔法が、お互いの中間地点でぶつかる。
 一瞬拮抗したかに見えたが、エネルギー総量で上回るなのはのディバインバスターが押し勝つ。

 押し負けるとわかった瞬間、フェイトはほぼ全力での加速で上空へと飛翔し、気配を消しつつなのの真上へと近づく。

 ディバインバスターがフェイトを撃ち抜いたと思い、消滅していき出てくるはずのフェイトを探して視線を送る。
 しかし、そこにフェイトがいない事に気づき、慌てて辺りを探す。

 その様子を見て、フェイトは薄っすらと笑みを浮かべると、すぐにまた笑みを殺す。
 出来るだけ音と気配を消して降下を始める。
 魔法による加速補助を考えに入れて、なのはが避けきれない距離まで来たところで、魔法での加速補助を最大限に引き上げる。

 その瞬間に、フェイトの居場所に気づいたなのはは急いで、回避、防御に出ようとする。
 しかし、その判断が下される前に、首元にはフェイトのデバイスの鎌が首元から数cm開けて停止していた。

 このまま刈ろうと思えば刈れた……。

 そう暗示している瞳で、なのはの敗北を告げる。

 自身の最大級魔法に過信してか、避けられたとは考えず注意を怠った為の敗北になのははグウの音をすらでない。
 しかし、素直に敗北を受け入れずにはいられない。

 勝敗は決したにも関わらず、強引に続きを始めようとする主人を止める為、レイジングハートは主人を無視した行動に出る。
 内部に取り込んでいたジュエルシードの一つをフェイトに向けてゆっくりと吐き出す。

「っそんな!? レイジングハート」

「主人思いのいい子だ……」

 なのはがまだまだっと、魔力を練り始めた時の事に、なのはは思わずレイジングハートを凝視する。
 しかし、レイジングハートは光って反応する事もなく、沈黙を守っていた。

 なのはが魔法弾の一つでも生成しようものなら、構わずに首を刈っていた。
 無駄な殺しをせずに済んで、安心にホッと胸をなでおろし、視界の端でなのはを見ていたフェイトは、吐き出されたジュエルシードを手に取る。
 撤退の際に、襲撃を受けて落としてしまわないように、バルディッシュの中へと静かに優しく入れる。

 ジュエルシードがバルディッシュの中へと入ると、フェイトはゆっくりと浮かび上がる。
 今回のお使いも順調だ。
 22個のロストロギアの収集という、9歳には荷が重過ぎるお使いも無事に終われそうだ。


 今回こそは……笑ってくれるかな?

 あの子みたいに。美守のように見惚れるような純真な笑顔で……。
 今回のお使いで終わりだよね。
 あんなに異能者の人達を保護してきたし……最後って言ってくれたよね。

 これが終われば、テスタロッサ家は、母さんが望んだ家族に戻れるんだよね……?

 ねぇ……リニス。


 思っていたよりも順調に進んでいるお使いと、現れた好敵手とも言うべき成長著しい者の出現からか、戦場から撤退しきるまで考えてはいけない事を考え始めるフェイト。
 自分から仕掛けた一騎打ちに敗北したなのはが再戦をこの短時間で挑んでくるわけも無く、静かに撤退しきるかと思われた。

「フェ……フェイト?」

 突然耳に届いた声にフェイトは視線を向けて固まる。
 昼着ていた袴の上に黒の羽織を上に羽織る美守が立っていた。
 距離はあったものの、美守の顔がフェイトの動きを思考毎鈍らせる。

「み……美守」


 なぜ……? 異能者とはいえジュエルシードの発動を感知できるわけがない。
 魔法資質がないのに、どうやってあの子の使い魔……友達が張った結界を抜けてきたの。
 白い魔導師と戦ったところを見られたのか……。
 人から奪うような事をした……場面を見られたのか。


 美守を見た瞬間に鈍った思考が、雪崩のように次々に疑問をフェイトの頭に積もらせていく。

「フェイト……終わったんだ」

 小さく囁かれた言葉はフェイトには届かず、視線だけが交わる。
 美守の後ろから迫る使い魔の存在に気づかず、2人は見詰め合って時間が静止したかのように固まる。





 夜、美希は以前より予定されていた仕事へ、正守は夕方に掛かってきた緊急招集へと出て行く。

 留守番の美守とはやてを見ているために、自分に似せた式神達を残して外出する。

 10年前の裏会壊滅の危機から脱したとはいえ、まだまだ改革が行われている。

 神の力が宿る土地、神佑地の維持管理。
 力の制御の仕方がわからない異能者に力の制御と、行使する場所を与える。
 一般人を襲うとしている妖の排除。

 大きく分けるとこれが裏会の存在理由。

 しかし、裏会に集まる者は家業を……異能の力を守る正統を告げなかったはみ出し者ばかり。

 生まれた頃より、存在理由と居場所を与えられている正統とは違い、誰よりも自分の居場所を求めるはみ出し者達は、裏会でそれを求めている。
 裏会を牛耳る12人の幹部“十二人会”に至っては自分達の利権に固執する者達が、裏会の発展を止めていた。
 それも、十年前の烏森を巡る騒乱の際に、総帥による幹部殺しと裏会崩しが行われた事により裏会は生まれ変わらずにはいれなかった。

 裏会総本部で開かれる幹部会へと向かう正守。
 総本部までを部下のムカデの能力で運んでもらうと、静かに総本部の奥へと進んで行く。

 幹部やそれに従属する一部の者しか入れない地点まで来ると、人はすっかりいなくなる。
 雰囲気もガラリっと変わり、殺伐としまるで静かな戦場のような緊張感が漂ってくる。

「やぁ、墨村さん。お久しぶりですね」

 いくつかの曲がり角を曲がり、会議が開かれる部屋の前へと出た時、20代の若々しい男が柱に身体を預けて立っていた。
 裏会再編成の際に幹部に上がり“第三客”を持つ者。

 12人の幹部には札が配られており、『第一客』から『第十二客』までを与えられている。
 その数字がそのまま序列というわけではなく、幹部であるという証としてしか存在していない。

「何か?」
「いやぁね。1つお詫びをっとね

 ――墨村さんの所の異界生まれの化け物を勝手に貰い受ける事にしましたので」

 正守が術を掛けようと殺気を放った瞬間、目の前にいた男が映像が乱れたようにジャミングが掛かる。
 強制的に話を終わらせるためにわかりやすい殺気を出したが、ホログラムならば術で滅しても式神のように消し切れはしないだろう。

「やだなぁ、怖い怖い。
 墨村さんも厄介払いできていいでしょ? 烏森を封印した直後に出てきたんですから……異界から」

「お前……どこでそれを」

「それは、ヒ・ミ・ツ。今日の議題も私から出させてもらったものですよ。
 墨村さんも感じているでしょう? ここ10年、神佑地の力が強まっている事を」

 確かに、神佑地はここ10年力が強まっている。
 かつての烏森のようになったかと言えばそうではない。力が良い風に働いており、神佑地の恩恵をより強くが受けられているのだ。
 それ自体はいいことだが、これが何か良くない事の前触れではないかと会議での議題にも何度も上がっている。

「それは知っていますが……」

「我々はね……その原因が墨村さんとこの化け物なんじゃないかと思ってるんですよ。
 だから、少々手荒ですが襲って拉致させてもらいます。

 何分、戦力はあなたの副官……いえ、未熟極まりない化け物だけ。
 ……10人程度とはいえ、人質もいますしね」

 男の飄々とした態度。
 治安を維持するために存在である裏会の、それも幹部が飄々と人質を取ったという言。
 何よりも、美守を“化け物”呼ばわりしただけでなく、拉致するとまで宣言した。
 こちらの現状を理解している……、かなり前から狙っていたのか。

 部屋の内部にいるであろう本体ごと、絶界で跡形もなく消してやる。
 しかし、術の発動を察知したのか、男は飄々とした笑みをさらに濃くする。

 そして、2人の間に上空から一筋の小さな光の柱が降り注ぐ。
 大量の熱が保持されてるのが素人目にもわかるぐらい、天井と床が綺麗に溶けて消えていた。

「いやだなぁ、墨村さん。部屋の中にいるであろう本体(わたし)を滅しようと……?

 部屋の内部へ、力を行使しては降格ですよ……?」

 ケラケラとおちょくるような笑いを浮かべた男に底なしの怒りを持ちつつも、ここで実力行使しても不利にしかならない。
 今は今回の緊急召集の会議を終わらせて、美守の元へと急ぐ事が先決。
 議題を提出したのがこの男ならば長引かせて足止めするだろう。
 しかし、正守に焦りは浮かばなかった。

 10年程前の烏森の危機で暗躍していた時は、思い通りにならない現実に焦っていた。
 しかし、どんなに正守が行動を起こそうとも正統の持つ運命を手繰り寄せる力の足元にも及ばず、右往左往していただけだ。

 正統が絡む事態にはどこか諦めにも似た傍観の精神を持たざるおえなかった正守の頭の中は冷静そのもの。


 なぜだろうな。妹の危機なのに、こうも心が軽い。
 俺は美守を手放したいのか……?

 いや、違うな。
 運命はまだ美守を見捨てていない。
 偶然鉢合わせたあの子達なら……やってくれるさ。


 薄っすらと笑みを浮かべると、ホログラムを無視して部屋に入っていく正守。
 ホログラムも役目を終え、崩れるように消え去る。

 五分とせずに、幹部達が全員揃い、会議は静かに始まる。
 重苦しい雰囲気の中笑いながら話すも、言葉の裏に潜む刃が飛び交う議論という言葉の戦争へと正守は身を投じる。
 10年以上幹部をしているが、慣れる事などなく、いつも怪物だらけの檻に閉じ込められる感覚を持ってしまう。

 美守の無事を祈りながら、正守は戦争へと意識を集中させていく。






 美希と正守が仕事で出て行った部屋の中、残された美守とはやてはというと、先日の夜行のお泊りで夜更かしをした為か眠っている。

 それを見て正守達2人は安心して、式神に留守番を頼んで出発した。
 たった数時間の眠っている子供だけの留守番……なにも起こるわけはない。



 しかし、起きてしまった。
 空間に作用する力に対して敏感な、空間支配能力者……美守が空間の異常を察知し眠りから覚醒する。

 閉じた瞼を数分の努力で開くと、持ってきていた袴に着替え、その上に黒の夜行仕様の袴を羽織る。
 すやすやと眠るはやてを起こさないように部屋を出ると、美守は信じられない光景を目にする。

 蒼に光る意味不明な文字が回る巨大な半球体が森を覆っている。

「これは……結界? でも私達のとは違う」

 何が起きているのか理解できない美守は警戒心を強めながら近づく。
 球体に触れると、美守を拒絶するように少量の電撃とともにはじき返される。

(種類が違っても、結界なら……)

 拒絶した結界をなんとかする為に、構造などを探ろうと意識を集中させてゆっくりと手を近づける……っも結果は変わらない。
 中でフェイトが1人で闘っているのに……っと焦り始める。

 まるで美守の心に呼応するように、腹部から小さな雲が現れ、美守に纏わりつく。
 腹部から伸びた雲にも気づかず、美守は何かに取り付かれたようにトランス状態に入っていた。

 美守を拒絶していた魔道広域結界に何の躊躇も無く突き進むと、空気の幕をすり抜けるかのように美守は中へと入っていく。

「……あれ? なんで、中に?」

 結界内に入ると、トランス状態から抜け出し、なぜ結界内に入っているのか? っと混乱する。
 しかし、原因を追究しても答えは出ず、美守は結界の中を走り出す。

 走り出した美守に、球体の中心近くにに黄色とピンク色の光が撃ちだされている光景が飛び込む。
 美守はそれがフェイトであると確信し、全力で駆け抜けていく。

 ようやくお互いに視認できる地点まで来た時には、空中に浮かぶフェイトが蒼く光る宝石をバルディッシュへと閉まっている。

「フェ……フェイト」
「み……美守」

 手伝いしようと駆けつけたが、既に終わってしまったのか……っと小さくため息をもらす。

「フェイト、終わったんだ」

 次からは連絡を取って協力したいな……っと、結界を足場にしてフェイトに近づこうと意識を集中した瞬間に、フゥっと死が呼びかけたような、意識が身体から抜け落ちるような奇妙な感覚に陥る。

 その感覚が強い方角へと即座に向くと、何者かの拳が避ける事も防御する事も出来ない距離と速度で美守の顔面目掛けて飛んでくる。
 視界を支配した襲撃者の拳は無常にも美守へと届く。

 グシャリ

 っと骨が粉々に砕ける嫌な音が脳天に響き渡る。
 拳を放った者を視認する間もなく、追撃が美守の横腹へと突き刺さる。
 流れるようなコンビネーションは殺意を含み、襲い来る。

 肋骨が砕け、肺へと突き刺さる痛みが襲うも、美守は悲鳴も上げる暇は与えられない。

 ドサリっと地に崩れ落ちた美守を、無慈悲に結界外へと強制転送する。

 返り血を拳で乱暴に拭う襲撃者。
 彼女はアルフ。フェイトが生み出した主が魔力供給によって存在する事を許される使い魔。
 フェイトに忠誠を誓い、フェイトの為にのみ動く。
 元々は次元世界の狼だったが子供の頃に群れから離れてしまい、死にかけた時にフェイトに拾われ、使い魔としての生を受けた。
 デコについている宝石が特徴の凛々しい人間形態を持ち、紅い毛並みの狼形態を持つ。
 昼にはなのはとユーノへの警告を行っていたりする。
 肉弾戦闘を得意とし、なのはとフェイトが戦っている間はユーノによる妨害を防ぐ為にユーノの足止めをしていた。


 一週間前のジュエルシード確保の際に、異能者に襲われた事を事前に聞いていたアルフは、なのはに着いているユーノの相手をしつつ、異能者の乱入に備えていた。
 今度は、フェイトに接触する前に排除しようと警戒していたのだ。

 そこへ飛び込んできた美守を容赦なく仕留める。
 異能者の恐ろしさは、この世界へと赴く前に嫌と言うほど味わってきたから。
 情けをかける事は、主を……フェイトを命の危険にさらす事になる。

「排除……完了だね」

 アルフは返り血が目立つ人間形態から、紅い毛並みの狼へと姿を変えてフェイトのところへと掛けていく。

「フェイトォ、これで3つ確保だね。早く撤退しようよ」

「アルフ……なんで……?」

「あいつ異能者なんだよぉ? 今まで何回異能者どもに襲われた事か。

 今回だってきっと、フェイトを襲おうとしてたよ」

「でも……今回は異能者確保のお使いはないのに」

「早く逃げよう、フェイト」

 アルフに手を引かれながら、フェイトは去っていく。









 魔道広域結界が張られている森とは反対側の少し開けた場所に、魔方陣が突如として出現する。
 光と共に現れたのは、顔半分が歪み、横腹がベコリとへこんだ美守だ。

 自身が死の淵へと近づいているにも関わらず、美守の意識は冷静を保つ。
 まるで死ぬ事が他人事であるかのように、傷口へと触り確認していく。


 右の顔、グニャグニャしてる……骨が粉々になったんだ。
 左の脇、折れた骨が飛び出してるのか……肺にも刺さってるな。苦しい。

(終わるんだ……こんなので。

 結構簡単なんだな)

 美守は体中に広がる死という感覚を受け、苦笑していた。
 これまでは、どんな危機に陥ってもなんとかなってきたが、これはさすがに無理だ。っと理解しつつも、生にしがみつこうとはしない。

『終わっちゃうの? こんな面白くもないところで??』

 心に響き渡る幼い子供の声。
 美守の生が終わろうとしているのを楽しんでいるような、無邪気な声。
 しかし、美守にの意識には届かない。


 それと共に美守にどこか異物感……違和感が襲う。

 眩いとは言い難い禍々しい光に包まれ、白の面と漆黒で縁取られた雲がごちゃ混ぜになったモノが美守を包む。
 それまではドクドクっと流れていた血が時が停止したように、ピタリと静止する。

『許さないよ……? こんな面白くもない所で眠るなんて。

 ほら、海鳴に異世界への扉を開いたんだ。早く僕にも見せてよ』

「うる……さい」


 いつだろう……? この声が聞こえたのは。
 何回か聞いたことがある。

 この声が聞こえると、理解できない力が私の異能(ちから)に混じってくる。
 異物感……違和感が襲ってくると、すぐに力が私の意識から離れて動いちゃう……。
 暴走する程力を走らせた事はないけど……だからこそすごく怖い。

 この身体もこの心も……私のモノのはずなのに。

 私のモノでは……なくなってしまう。

 もしかして、始めから私のモノではないの……?

 だからかな……死ぬのが怖くない。
 ごめんねって言葉だけが浮かんでくる


「ごめん……はやて」

 いつか、はやての足が完治させて……街を歩きたかったな。
 歩けない事をバカにした奴らに見せびらかせたかった……。

 私の妹は、こんな明るくてかわいい子なんだって。





    TO BE CONTINUED






  あとがき


 どうも、まぁです。

 定期更新、定期更新と言いつつ、遅れました。

 すみません。

 最終更新から一週間を目標に更新していきたいと……いきたいな……。
 まぁ、こいつなんか言ってるなーって程度に聞いといてください。。



> [1]投稿日:2010年02月18日20:20:47
>『ふたつの大樹は世界を揺らす』の第6話で、蒼士がフェイトに襲い掛かるシーンで「バルディッシュ」の表記を「バルディッスュ」と表記されています。


 ご指摘ありがとうございます。
 修正しておきました。
 これから誤字がないよう頑張っていきます。



  では、これにて失礼します。


    まぁ!



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