Fate/BattleRoyal
19部分:第十五幕


遅くなりましたが、更新です。
第十五幕


 「聖杯の・・・破壊?」
奏が呆然とした顔で呟くと敏和は頷いて言葉を続ける。
「ええ、清明が言うには今回の戦争に置けるこれ程の英霊の召喚がどうしても解せないと言うんです。あなた方も知っての通り、この世に留められる英霊は七騎までが限度です。にも拘らず、今回はその限度の数を遥かに逸脱した数の英霊が召喚された・・・・」
その後をレグナが継ぐ。
「だからこそ私達はおかしいと思ったわけ。いくら聖杯が奇蹟の願望機って言ったって、それ相応の対価が加わらなきゃ、こんな滅茶苦茶な事態が罷り通るわけないわ。
で、このミスター・池田と晴明も私達と同じ事を考えてたから同盟を結ぶ事にしたってわけよ」
そして、最後に敏和がこう締め括る。
「それで聖杯に何らかの異常事態が起こった事を仮定し、その異常の程を調べ何もなければ、それで良し。逆に何らかの危険性が実証された場合は破壊する事も想定して動いている・・と言う訳です」
説明を受けた奏は雁夜とランスロットの方を無言で見る。相容れる所か丸っきり自分達と同じ目的だ。だが、そう安易に信じてもいいのだろうか?戦術上、油断させてなどと言う事も十二分に有り得る。
などと三人が思案顔になっているとレグナはそれを察して言った。
「まあ、疑うのも無理はないわね。なんてったって、これは生存戦争(バトルロワイアル)。敵の言う事を真に受ける方がどうかしているわ。でも、聖杯の破壊なんて目的を聞かされて置きながら憤慨する所か、そんな風に冷静且つ思案顔をしてるって事は私達の目的はかなり、近いって事かしら?」
レグナが値踏みするような眼で問う。それに対し三人は暫く黙考した後、頷き合い、初めに雁夜が意を決して口を開いた。
「ああ、そちらの察している通り、俺達の目的も聖杯の破壊だ」
すると、敏和はホッとしたような顔で言った。
「良かった〜。正直、こんな事を打ち明けて即戦闘なんて事も覚悟してたんですよ〜」
如何にも気が抜けたような声で敏和が言うとレグナはさらにこう続けた。
「まあ、私達以外にも見る眼がある人間がいたって事でしょうね」
「まあ、正確には感づいたのはウチのキャスターなんだけどな」
奏がそう捕捉すると敏和も眼を瞠って言う。
「ほう・・・そちらのキャスターも中々な見識をお持ちの方のようですね」
その言葉に奏は微妙な顔で受け答える。
「まあ・・・性格はかなり・・・いや、相当に難があるけどな」
「確かにな・・・」
「否定はできませんね」
雁夜とランスロットも渋い顔で奏の言葉を肯定する。雁夜自身、マーリンと生活するにつれて彼の気紛れ且つ突拍子もない性格には少々、頭を抱えていたし、旧知であるランスロットは言わずもながだ。すると、レグナの隣でクー・フーリンが飄々と言った。
「だろうなあ・・・ブリテンの大魔術師マーリンと言やあ、アーサー王伝説のキーパーソンであると同時に元凶とも言うべき野郎だからな。そりゃあ一筋縄な性格じゃねえだろうよ」
その言葉に三人はギョッとする。マーリンの真名まで知られているとは思わなかったのだ。それに対しクー・フーリンはこう続けた。
「ああ、言っとくが、そっちのキャスターの真名に感づいたのは俺じゃねえぞ。言うに及ばず晴明の野郎さ」
「だが、なんで分かったんだ?バーサーカーはともかく・・・キャスターは真名に辿り着かれるようなヘマはしていないはずだが?」
奏の疑問を敏和がやんわりと答える。
「晴明も半信半疑と言うか思い付きでしかなかったそうですが、僕から彼のステータスを聞き、サー・ランスロットと共に居た事から総合して推察した。ただ、それだけの事だそうです」
そこでレグナは三人を見据えて口を開く。
「それで・・・どう?私達と同盟を結ぶって話は?」
最初に口を開いたのは雁夜だった。
「少し、考えさせて欲しい・・・特にあんな事をされた後だ。正直に言ってあんた達をまだ、本当の意味で信用できない」
後ろに桜を庇いながらそう言う彼にレグナも敏和も頷いて言う。
「まあ、そりゃそうよね。こんな無礼極まりない訪問じゃ即信用所か敵視して当然よ」
「そうですね。清明にも後程、謝罪させます。それからもう一つ、あなた方に直接、話したい事があります」
敏和の言葉に奏が反応する。
「話したい事?」
「ええ、この戦争の裏で蠢いているものを・・・・ですが」
そこで敏和は言葉を切り、溜息を吐く。
「どうも、お互いに()()が弾んでるようですね。あちらは」
敏和が半ば皮肉を込めて言うと奏は額に手を添えて同意する。
「ああ・・・らしい」
すると、レグナが水晶を取り出して言った。
「まあ、長くなりそうだし。折角だから私達も見物しない?」
そう言うと水晶に白一色の異界の様子が映り、そこでは大魔術が幾つも飛び交い衝突し凄まじい閃光と余波が轟いていた。その中で二騎のキャスターは互いに無傷で涼しそうな顔を崩してもいなかった。
その様子を見て、その場の全員は皆一様に絶句していた。
レグナはらしくない冷や汗をかいて言う。
「流石に・・・・・次元が違い過ぎるわね。本来、サーヴァントの中でキャスターは最弱とされているけど、腐っても英霊にまで昇華された高名な魔術師・・・・それが互いにぶつかれば、これ程とはね」
敏和も頷いて言う。
「それに二人とも神代に近い時代の魔術師ですからね。恐らく僕ら現行の魔術師達よりも遥かに根源に近い技量を持っている事に疑いようはありません」
二人の言葉に奏も息を呑んで眼を瞠る。

ひょっとして俺、とんでもないサーヴァントと契約したのかも・・・・

などと思う程にマーリンの術は凄まじく規格外であった。
皆、一様に感歎していると、そこで戦況に変化が現れた。二人のキャスターが突如、術を撃ち合うのを止めたのだ。
「もう試しは終わったのか・・・」
雁夜が徐に呟くとそれを彼のサーヴァントが否定する。
「いいえ・・・どうやら、ここからが本番のようです」
その言葉を裏付けるようにマーリンと晴明から今までに感じた事がない程の強大な魔力が溢れ出た。
「やだ、ちょっと・・・二人ともなんか完璧に本気(マジ)ぽっくない?」
レグナが少し慌てたような声で呟くとクー・フーリンも頭をかいて「だな」と同意する。
「まさか、二人とも宝具を使うつもりじゃ・・・ッ!?」
敏和も懸念に満ちた声で言う。
「マジかよ・・・ッ!」
奏はギョッと水晶に喰い入る。


そして、当の二人はと言うと・・・・

「さて、小手調べはここまでと致しましょう魔術師殿」
晴明は銀色の瞳を爛々と光らせ言うとマーリンも場に似合わない穏やかな笑みを浮かべて応える。
「ふむ・・・そうだな」
先に動いたのは晴明だった。手早く印を幾つも結び、その真下に五芒星を中心とした魔法陣が現れ十二枚の黒い札がその周囲に出現する。さらに高速神言で詠唱すると、十二枚の札の内一枚が清明の右手に独りでに収まり、そこから金色の焔を出し、マーリンの周囲を囲み、さらに天空高く燃え上がらせ、逃げ場を塞ぐ。
「ほう・・・中々にド派手な炎じゃないか」
だが、このような時にもマーリンはやはり涼しげな笑みをくずしはしなかった。

「キャスター!」
水晶を横で見ていた桜が思わず叫んでいた。これにはマスターの敏和も慌てた声で頭を抱える。
「これは晴明の宝具『十二天将(じゅうにてんしょう)』の一角・・『朱雀』ッ!参ったなあ、これ完全に本気モードに入っちゃっているよ・・・」
「正確にはどんな宝具なんだ?あれは」
奏の問いに敏和は嘆息を付いて説明する。
「晴明が生前に使役していた十二天将と呼ばれる式神の事は皆さんもご存知でしょう。それが宝具として昇華された物です。
宝具としての能力は十二天将を自らの身に降ろし、その力を限定的に使用できる魔術礼装。中には身体ステータスを三騎士並みに引き上げたり、傷を瞬く間に癒す式神すらいます。
そして、今、降ろしている式神は『朱雀』。その名が冠する通り、その力は炎を操る事ですが、その炎自体が魔術とは別次元の力による物の上にA+ランク相当の対軍宝具に匹敵する威力の為、例え三騎士クラスと言えども、まともに喰らえば唯では済みません」
その言葉に奏達は眼を剥く。

それじゃあ・・・キャスターのアイツが喰らえばそれこそ一巻の終わりじゃないか!

雁夜の服の裾を掴みながら、桜が怯えたように言う。
「おじさん・・・キャスター、死んじゃうの?」
雁夜はそれに対し何も言えず、ただ、水晶に映るマーリンを覆っている金色の炎を眺めていた。すると、ランスロットが突如、口を開いて言った。
「ご心配には及びません桜殿」
その言葉に桜と雁夜、奏も驚いたように彼を見た。ランスロットはこう続ける。
「マーリン殿は我々が考えている以上にしぶとく知己に富んだお方です。これしきの事で討たれるようなお方ではございません」
そう彼が言いきるやいなや、金色の焔が強い黄金の光で裂かれ消し飛んだ。その中からマーリンの変わらぬ姿が現れ一同はホッと息をついた。

「やはり、この程度で()らせてはくれませんか」
晴明が物騒なニュアンスを込めた声で言うとマーリンも朗らかな笑みに凄みを利かせて返す。
「では次はこちらから行かせて貰おうか?」
その言葉に晴明も鋭い視線をマーリンに送る―――が、次の瞬間、マーリンは先程の凄みは何処へやら気のない体になって言った。
「と、言いたい所だが、止めて置こう。これ以上はお互いシャレにならない」
すると、晴明はオヤと呟く。
「怖じ気付かれたのか?」
「ああ、その通りだ。その宝具・・・使い魔の力を制約付きで使用する物なのだろうが、本来の用途はそれではあるまい。本来はその十二枚の札・・いや、十二の使い魔を一斉召喚し、その魔法陣に組み込む事で力を増幅させ放つ砲撃魔法と見た。
恐らく威力の程はEXランク。同ランクの結界宝具でも持ち合わせていなければとても、防げるものではない。更に言えば、同ランクの攻撃宝具をぶつけた場合は十中八九、どちらもこの世から消えているな」
すると、晴明は感歎の笑みを浮かべる。
「お見事です、マーリン・アンブロジウス卿。やはり、貴方は最高の魔術師で在らせられる。しかし、私からも言わせて頂きますが、先程、『朱雀』を退けた黄金の光・・・あれこそ恐らくEXランクに相当する結界宝具なのでしょうが、如何せん・・・・あれは本来、貴方自身が所有する宝具ではない。故に本来の力を十全に発揮する事はできない。そうではありませぬか?」
今度はマーリンが苦笑する番だった。
「フッ・・・君もよく見る眼を持っている。お陰で久々に生きた心地がしなかったぞ」
「それはお互い様にございましょう」
晴明はシレと言うとマーリンも飄々とした顔で頷く。
「まったくだな」
そうして二人のキャスターはここに至って漸く、互いに魔力と殺気を鎮めたのだった。

そして、その後、マーリンと晴明が異界から戻って来ると桜が早足でマーリンの膝辺りに抱き付き涙ぐんだ。その彼女を宥めた後、レグナと敏和が説明を始めた。
「時臣と教会が結託している!?」
雁夜が素っ頓狂な声を上げる。それにレグナが頷いて答える。
「そっ。もう戦争が始まる三年前から監督者のトップを務めている言峰璃正神父と盟約協定を結んでいたらしいわ。さらに遠坂氏に弟子入りさせていた息子を表向きは令呪が刻まれた事で師と決裂したと言う事にしておいて、その実、裏で遠坂氏のバックアップをさせてるってわけ」
「成程・・・・始めから用意は万端であったと言うわけか」
マーリンは呆れと感心が入り混じったような声で嘆息をつく。
「だが、あんた達はどこでどうやってそんな情報を?」
奏がふと疑問に思い問い掛けると晴明が妖しく笑い、十二天将の札を一枚とり、その場に黒い絹を着た老女を召喚し紹介した。
「我が『十二天将』の一角『大陰』・・・主に諜報と呪殺に長けた式神にございます。私と同じく魔術陣地を通り抜けられる上に透化スキルと気配遮断スキルA+を有しており、これで敵の根城の内部にまで堂々と潜り込ませられまする」
「何でも有りだな・・・」
『十二天将』のオールマイティー振りに奏は思わず息を呑んだ。
レグナはさらに説明を続け・・・
「それで戦争の展開を有利に進めようとしているってわけ。現在起きている暴走サーヴァントの件すら巧みに利用してでもね」
その言葉に雁夜は苦虫を潰したように顔を顰めた。
(野郎・・・こんな時にまでカビが生えた悲願とやらが大事か・・・ッ!)
次に口を開いたのはマーリンだった。
「それで話はそれだけなのかな?」
「いえ、もう一つだけ・・・・・僕達も僕たちなりにこの戦争の事を調べて見たのですが、それで気になる点が見つかったんです」
敏和が怪訝な面持ちで切りだすと奏はオウム返しに問い質した。
「気になる点・・・・何だよ、それは?」
「第三次聖杯戦争においてアインツベルンに助勢した魔術一族がいたそうです」
その言葉に一同はピクッと反応した。アインツベルン・・・始まりの御三家が一角にして今回の戦争が狂い始めた大本の一族・・・魔術師は大概がそうだが、殊に余所者を敬遠するアインツベルンが他の魔術師の助勢を受けていた事実に多少、驚きを隠せなかったが、奏とマーリンは次に敏和から出た言葉に今度こそ眼を見開いていた。
「その魔術師一族の名は・・・ジルヴェスター家」
「ジルヴェスター・・だって?」
「なんと・・・」
奏とマーリンの様子に雁夜は怪訝な顔で問う。
「二人とも、知っているのか?」
「はあ・・・知ってると言うか実際に会ってますし・・・」
「なッ!」
雁夜が驚いた声を上げる傍でマーリンがランスロットに言った。
「ランスロット・・・実は君に言い忘れた事があってな・・・」
「そのジルヴェスター家についてですか?」
「ああ、それもあるが、何より私達が以前、会った魔術師がアンシェル・ジルヴェスターと言う男なのだが、その男が従えていたサーヴァントが――――ガウェインなんだよ」
「「「なぁッ!?」」」
これにはランスロットだけでなく雁夜と当の奏すら瞑目した。
「ちょっと、待て!あの時はそんな事一言も!?」
奏が食って掛るとマーリンは冷静な面持ちで答える。
「あの時はまだ、教える必要性もないと判断したんだ。それに、それを切り出せば私の真名にも触れねばならなかったしね」
一方、ランスロットはいつも以上に深刻な表情で押し黙っている。そこで敏和がコホンと咳を立て言った。
「よろしいでしょうか?」
そこでハッとなった一同は再び、彼の話しに耳を澄ました。
「先程、あなた方の口から出たアンシェル・ジルヴェスターこそジルヴェスター家の現当主です。時計塔にこそ在籍した事はありませんが、かなりの力を持った魔術師であり表の社会では世界規模の複合企業総帥と言う知る人ぞ知る名士です。話はここからが本番でして、実はそのアンシェル氏は数年前からこの百騎もの英霊が召喚される事を知っていた節があるんですよ」
その言葉に奏達は愕然となって開いた口が塞がらないと言う顔になった。まず、マーリンが口を開いて問い質す。
「それは一体、どう言う意味かな?」
「はい・・・ジルヴェスター家の内情をミス・オリウスが調べてくれた結果、アンシェル氏は数年前から大量の聖遺物を入手し大多数の魔術師にそれを売り捌いていた事が判明しました」
「売り捌くっ?自分が英霊を召喚する為の触媒候補としてではなく他の魔術師達に分け与えたって事か!?」
雁夜の問いにレグナは首を縦に頷き答えた。
「そっ。かく言う私もアンシェルから聖遺物を手に入れてランサーを召喚したのよ」
「しかし・・・なんだって、そんな敵に塩を送るような真似を?」
奏が解せないと言わんばかりに問うと敏和も嘆息をついて言う。
「それが・・・僕達もとんと分かりません。ただ、この事から彼が英霊の大量召喚を事前に見越していた事は間違いないでしょう・・・」
次に晴明が口を開く。
「我々が持つ情報はざっとこんな物にございます。さて、次はそちらが持っている情報を提示して頂けますでしょうか?」
マーリンは黙考すると共に一同に視線を送った後、頷いて答えた。
「いいだろう・・・」


そうしてマーリンが聖杯戦争の概要及び仮定を話し終えた後、晴明達も一様に驚きを隠せなかった。
「つまり、俺達は聖杯の中身になる為だけに呼ばれた羊の生贄でしかねえって事かよ・・・」
クー・フーリンは気に入らないとばかりに舌打ちする。レグナはと言うと顎に手を当てて言った。
「ふ〜ん・・・御三家もよく考えたじゃない」
敏和は得心がいったと言う顔で頷く。
「そうですか・・・聖杯戦争とはそういう意味で・・・・しかし――――」
その後を晴明が継いだ。
「よもや、聖杯が禍つ神の住処となっていようとは・・・・それならば確かに、これだけの英霊を一度に現界させれるのも納得がいきまするが・・・・」
晴明の言葉をマーリンが先回りで答える。
「分かっている。対価が釣り合わぬと言いたいのだろう?」
晴明は頷いて再び、口を開く。
「左様・・・如何に魂だけとは言え、神霊クラスの魂を完全に現世へ招くにはそれ相応の対価が入りまする。少なくとも、前回の第三次の時点、この地に設けられた聖杯にそれだけの対価を提供できたとは到底・・・」
「思えないし有り得ないな」
マーリンもそれに同意する。その後に奏が徐に口を開いた。
「もしかして・・・・その対価をジルヴェスターがアインツベルンに提供した?」
その言葉に全員は一層、考え込むような顔になって押し黙る。
仮にそうだとしてもジルヴェスターは何の得があってアインツベルンに助勢を・・・・
等と思考を各々、巡らせようとしていた中、凄まじい轟音が鳴り響いた。

ズゴォォォォォンッ!!

「な・・・何だ!?今の!」
奏が眼を見開いて誰にでもなく問うとマーリンは相も変わらず落ち付いて答える。
「どうやら、またも乱入者の御出座しのようだ」


一方、『森界』に取り込まれた間桐邸の外には一組の魔術師とサーヴァントがいた。魔術師の方は灰色のミドルショートヘアーに黒い瞳を持つ壮年の男性がステッキを手に佇み、彼の前には簡素な服装を身に付けた裸足で長く淡い緑髪を靡かせた男とも女ともつかない中性的な男性が銀色を基調にした竜の鱗の如き柄に海の様な青の幾何学的な紋様が刻まれた円柱状の刀身を持つ突撃槍を『森界』に向かって構え、極大の()を空けていた。
「大丈夫なのか、ランサー?桜ちゃんには・・・・」
壮年の魔術師が自らのサーヴァントに懸念を尋ねる。すると、緑髪の男性――――ランサーは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「大丈夫だよ、祐世。創生槍(ティアマト)でこの異界を歪めて孔を空けただけだから。内部の人間に害はない」
その言葉に男性・・・桐生(きりゅう)祐世(ゆうせい)はホッと息をついた後、すぐに眼前に空いた孔を睨み付け拳を握り絞めた。

間桐雁夜・・・君ほど良識のある男が何故ッ!?いや、彼に限ってそんな事は有り得ないとは思う・・・が、故にこそ確かめねばなるまい・・・・!

決意を瞳に込めて祐世はランサーに「行くぞ」と声をかけランサーもそれに従う。

それから数秒後、奏達は突如、異界と化した空間に空けられた極大の孔を呆然と見ていた。
「なんだよ・・・こりゃあ?」
奏が唖然とした声で呟くとマーリンはあくまで冷静に状況を分析した。
「誰かが異界を歪めて孔を空けたな・・・・凄まじい力だ。恐らく、先程から感じるサーヴァントの力だろう」
「だが、一体、誰が?」
雁夜が険しい顔で言いかけると、その孔から二人の人影が出て来た。雁夜はその一人を見た瞬間、眼を見開いた。
「あ・・あんたは!?」
雁夜が驚きの眼で見ている一人・・祐世はそんな雁夜を侮蔑に満ちた眼で睨んでいた。その様子を奏は怪訝に思いながらも雁夜に訊ねた。
「雁夜さん、知人ですか?」
すると、雁夜もわけが分からないと言う顔になって答える。
「あ・・ああ、葵さんの家でも何度か顔を見た事がある。確か、時臣と同門の魔術師で名前は――――」
「桐生家九代目当主、桐生祐世だ!今日は其処の恥知らずの輩を成敗しに、ここへまかり越したッ!!」
雁夜が答える前に祐世が自ら名乗り、持っていたステッキを雁夜に突き付け宣言した。一方、当の雁夜はますますわけが分からないと顔を呆けさせる。それがますますに祐世の怒りに油を注いだ。
「間桐雁夜・・・貴様は・・・貴様と言う男はぁ・・・ッ!」
「いや・・だから何を言っているんだ?桐生さん・・・」
雁夜は未だに事態が呑み込めなかった。それは彼以外の者達も同様なわけで皆一様に解せないと言う顔で祐世を見ている。
だが、祐世は殺気に満ちた眼を爛々と輝かせ言う。
「間桐雁夜・・・お前は葵さんを時臣に奪われた腹いせに・・・桜ちゃんを・・・何も知らないあの子を人質に取るとは何処まで見下げ果てたのだッ!」
「「「「「「「「はい!?」」」」」」」」
全員が一斉に唖然とした声を出した。しかし、祐世はそれも構わず礼装であるステッキを振るって宣言する。
「私はお前と言う男を買い被っていたようだ・・・・その愚劣な性根・・・凍り付かせてくれようッ!!」
そう言ってステッキから凄まじい凍気を雁夜に放出する雁夜はそれをすかさず飛針を投げ吸収する事で凌ぐ。
我が王(マスター)!」
ランスロットはすぐさま主の前に出ようとするが、それを祐世のサーヴァントであろう緑髪の青年―――ランサーに阻まれる。
ランサーは拳を繰り出し牽制するとランスロットも腕でその拳を受ける。
「申し訳ないけれど、祐世の邪魔はさせないよ」
「くぅっ・・・貴様、退けッ!」
ランスロットはそう言いながらも余裕がなさそうに冷や汗を禁じ得なかった。
(この力・・・多少、私を圧している!?それに、肌から感じるこの圧迫感!このサーヴァント・・唯者では・・・ッ!)
そんな中、ランサーはこの場に似合わない程、穏やかな声で自己紹介した。
「初めまして、サー・ランスロット。僕はサーヴァント・ランサー・・・・そして、真名はエルキドゥと言います。どうぞ、よろしく」
「「「「「「「「なぁッ!?」」」」」」」」
ランスロットのみならず、祐世と対峙している雁夜やその場にいる者達全員から驚愕の声が上がる。そのサーヴァントがランスロットの真名を知り、且つ自らの真名を明かした事よりもそのサーヴァント自身の真名に驚く。

エルキドゥ・・・英雄王ギルガメッシュ唯一の親友にして、元は彼を葬る為、神が生みだした『生ける神造兵器』!

それならば、この圧迫感にも納得がいく・・・彼もギルガメッシュに勝るとも劣らぬ大英雄にして最強クラスの英霊に他ならないのだから!
突如、現れた予想外の難敵に流石のランスロットも戦慄を感じゴクリと生唾を呑み込む事を禁じ得なかった。一方、ランサーことエルキドゥは対照的に余裕ある穏やかな笑みを相も変わらず浮かべて言う。
「君が自らの主を護らんとするように僕も祐世の意思を押し通す為に、ここに来ています。ですので僕も容赦はしません」
その笑みには圧倒的なまでの覇気と絶対の意思が宿っていた・・・・・



それと同時刻・・・ドイツ・アインツベルン城・・・・

吹き荒ぶ雪原の中佇む城の中は地獄と化していた・・・
城内は戦闘用ホムンクルスの夥しい骸が転がっており、今や恐怖の静寂が城内を包んでいた。その中で八歳程の銀髪の少女イリヤスフィールは恐怖に身体を震わせて階段の隅に身を隠していた。
彼女もこの事態に対し未だに呑み込めてはいなかった。部屋で寝ていた所、大きな物音がしたので部屋を出て、階下へと下りると、この惨状が広がっていたのだ。

なに・・・これ?なんなの。何がどうなっているの?怖い!助けて・・お母様・・・切嗣ッ!!

彼女が目尻に大粒の涙を浮かべながら、両親の名を内心で叫ぶ中、祖父ユーブスタクハイトの呻き声が聞こえた。
「がぁッ!!きぃ・・貴様、何をぅッ!?」
(お爺様!?)
イリヤスフィールが身を硬くする。彼女が聞き耳を立てる最中も事態は進行して行く。
「何を・・・するぅ・・・・ぐぎゃばッ!!」
祖父の呻き声が途絶えると同時にブシュウッ!と恐ろしい音が聞こえた。それにイリヤスフィールは一層、頭が恐怖に占められたいく。
そんな中、聞いた事もない男の声が響いて来た。その声は獰猛さと残忍さを顕わにした狂気に満ちた声だった。その声にイリヤスフィールは必死に声を出さぬように努めなければならなかった。
「つまらねえ・・・つまらな過ぎるぜ・・ッ!折角、人外どもと殺り合えるっうから、冬木くんだりから、こんなド田舎にまで出張って来たってのに・・・・天下のアインツベルンもこの程度かよっと!」
そこまで言うと何かを乱暴に放り投げるような音が聞こえると同時に自分の前に祖父ユーブスタクハイトの首が―――――ッ!
「いやあああああああああああッ!!」
イリヤスフィールはとうとう、耐え切れずに悲鳴を轟かせてしまう。当然、それを聞き付けてか、声の主である男が彼女の眼の前に現れた。
イリヤスフィールの前に現れたのは黒を基調にしたコートを羽織り黒髪に赤紫のメッシュを入れ、ワンレンズ型のサングラスをかけた二十代後半くらいの男性だった。男性の眼はサングラスに隠れて見えはしなかったが、イリヤスフィールは何故か、その眼が獣染みた猛禽類のような眼光が光ったような気がした。
一方、男はそんなイリヤスフィールを見て落胆したような溜息をついた。
「たく―――――、とことん今日はついてないぜ・・・・期待してた戦闘用ホムンクルスとやらもとんだナマクラばっかだったしよぉー。その当主にしたって単なる枯れ果てた木偶と来やがった・・・・おまけに」
そこで男はサングラスに隠された鋭い視線でイリヤスフィールを射抜く。それにイリヤスフィールは「ひぃぅッ!」と一層、赤い瞳から涙を溢れさせ怯えを大きくする。
「最後はこんなガキが相手とはな・・・・最初から最後までシケた仕事だぜ。おい、小娘。お前に特に恨みがあるわけでも好き好んでお前のような如何にも弱そうなガキを殺りてえわけじゃねえが、金を貰っている以上は仕事なんでな。その首・・・殺らせてもらうぞ」
その言葉と共に男は凄まじい速度で手刀を涙を流し震えるイリヤスフィールの首目掛けて寸分の容赦も躊躇いもなく叩き込んだ・・・・・・




イリヤの運命や如何に・・・・・

粛清の嵐は続いておりますが、次回もこれからも、どうにか更新を続けます!



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