Fate/BattleRoyal
32部分:第二十八幕

第二十八幕


 その頃―――アイリスフィールと舞弥はマーリンが空けてくれた孔から結界の外へと出ていた。

「マダム、すぐにここを離れましょう」
舞弥が促しアイリスフィールはそれに頷きながらも結界内に取り残された切嗣とアルトリア達の事を気にかけていた。あの場に残ったとしても足手纏いだと言う事はアイリスフィールも言われるまでもなく分かっているが・・・やはり、どうしても後ろ髪を引かれてしま。うしかし、すぐに首を振り舞弥の後に続く。
「此処を離れて何処へ行けばいいの?」
アイリスフィールの問いに舞弥はキャリコM950に銃弾を装填しつつ答える。
「切嗣が予備の拠点として用意した屋敷が深山町にあります。一先ずはそこで落ち着き切嗣達を待ちましょう」
それにアイリスフィールはにべもなく頷き付き従いながら、改めて今回の戦争に置ける予想だにしない展開に溜息をついた。

本当にどうなっているのかしら?本来なら、召喚は七騎が限度の筈の英霊が百騎以上も現界した事から始まって、ジル・ド・レェやチェーザレ・ボルジアなどのサーヴァントやマスターの暴走・・・更には死徒の集団がサーヴァントを得ての暴挙。ハッキリ言って、もう訳が分からないわ・・・・でも、それよりも何か違和感を感じるわ。何なのかしら?何か致命的な事を見落としているような・・・・ッ!?

アイリスフィールはふと怪訝な顔になり物想いに耽った・・・・そして、すぐに重大且つ致命的な事に気付いた。

―――そうだわ!さっきの戦いで多くのサーヴァント達が脱落した筈!それも必要数の七騎以上も!なのに―――だったら、どうして私は今も『人としての形』を保っていられるの!?まさか、参加枠が広がったように私の中にある器もその容量を広げた!?まさか!そんな事は勿論、有り得ない!だったら考えられる事は唯一つ・・・サーヴァントの魂が私の器には一騎たりとも回収されていない!?そんな―――それじゃあ、脱落したサーヴァント達の魂は何処へ行ったって言うの!?

アイリスフィールが今更のように愕然としている中・・・突如、前方で自身を牽引していた舞弥がその足を止めた。それをアイリスフィールは怪訝な眼で見るが、すぐにその理由を知った。
「ほう・・・騎士王の仮のマスターか?奇遇な縁だな」
二人の前方には漆黒の修道服を纏い首にロザリオをかけた長身の男―――言峰綺礼が普段は感情が見えない顔に僅かな愉悦に満ちた歪んだ笑みを浮かべて仁王立ちしていた。
「言峰・・・綺礼・・・・ッ!?」
アイリスフィールは戦慄を湛えた表情になり呻くような声を出し、舞弥はすぐさま臨戦態勢を取った。それに対し綺礼は黒鍵を出し二人に言った。
「丁度良い所で出会った・・・何しろ、些か以上に気が立っているのでな。お前達・・・・少し気晴らしに付き合って貰うぞ―――」

































辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』の白い閃光に呑み込まれていく中・・・・ディルムッドは死を覚悟していた。
(ここまでか・・・ッ!申し訳ありません、我が主よ・・・・)
だが、その時・・・自分の首根っこを何かに咥えられたと思った瞬間、彼は急速に後ろへと引っ張られた気がした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ラ、ランサー・・・!?」
その光景をルクレティアは戦慄して見ていた。オスカが振るった『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』による閃光にディルムッドの姿が包まれ、その閃光が止んだ時・・・そこには巨大なクレーターならぬ極大の孔が真下の宇宙空間にできておりディルムッドの姿が何処にもなかったからである・・・・
「そんな・・・ディルムッド!!こんな、こんな事って・・・・ッ!!」
ルクレティアは口惜しさに顔を歪ませたが、その直後に―――!
すたっ!
「え?」
何かが後ろに着地したような音が響いた為、後ろを向くと、そこには青い毛並みをしたドーベルマンを彷彿とさせる細身の猟犬がディルムッドの首根っこを咥えていたのである!
「ラ、ランサー!!」
ルクレティアは面食らった顔で叫ぶ。それに対しディルムッドは冷や汗を描きながらも微笑を浮かべて見せる。
「主よ!ご心配をおかけしました・・・・」
「いいえ、貴方が無事で良かった・・・!それより、この猟犬は・・・?」
涙ながらに無事を喜びながらもルクレティアが怪訝な声で問うとディルムッドも首を傾げて答える。
「私を救ってくれたようです。だが・・・何故、ここにブランが・・・?」
「えっ、この猟犬・・・?ディル、貴方ご存知なのですか?」
ルクレティアが驚いたように眼を瞠るとディルムッドは頷く。
「はい、この青い毛並みに細身の身体・・・・紛れもなくフィンの血統に連なる従兄弟の一人、ブランです。だが、何故ここに・・・?」
ディルムッド自身、またも首を傾げて疑問を口にした瞬間、ブランとは違う唸り声が響いた。
「ガウウウッ!!」
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!??」
獣の唸り声とオスカの劈くような悲鳴が響いた為、その方向を二人が振り向くと・・・そこには赤い毛並みをし野生の狼を彷彿とさせる姿をした猟犬がオスカの腕・・それも『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』を握っている腕を食い千切っていた。その猟犬を見たディルムッドはまたも、その顔を驚愕に染めた。
「あ、あれは!?スコーラン!?ま、まさか・・・」
「そのまさかだ、ディル・・・・」
そして、自身にとって懐かしい声が響いた事でディルムッドは確信した。その声が響いた方を振り返ると、そこにたのは・・・・
「フィ・・フィン・・・・ッ!!」
そう―――嘗て、その妻となるはずだったグラニアを彼女が掛けた誓約(ゲッシュ)故に奪い、その恨み故に殺される事になった自身の主君、フィン・マックールであった・・・!
「久しいな・・・ディルムッド」
フィンはどこか寂しげな表情を浮かべて嘗ての臣下に対し口を開いた。
「ディル・・・私もお前も言いたい事があるかも知れん。だが・・・・まずはこの戦いを収めてからだ。それでもよいだろうか・・・・?」
「は、はいっ!」
だが、ディルムッドの心中は心揺れていた・・・嘗ての主君と共に戦えると言う嬉しさと彼の妻となるはずだった女性を奪った事への罪悪感などが心の中で渦巻いていたからだ。それを見て取ったルクレティアは心配そうにディルムッドとフィンを見るが、そんな彼女の肩をポンと叩く者があった。ルクレティアが驚いて振り返ると、そこには―――
「心配する事はないわ、ルクレティア」
「ル、ルナ先輩!!」
それはルクレティアにとって先輩に当たる女性魔術師、ルナ・バートゥンだった。ルナはウインクして言う。
「久しぶり!ごめんなさいね、あのへタレを引き摺って来るのに時間が掛かっちゃって・・・駆け付けるのが少し遅れたわ」
「へ、へタレ・・・・?」
その言葉にルクレティアが首を傾げて呟くとルナも嘆息を付いて言った。
「まっ、挨拶はこれ位にしておきましょうか!今は―――」
「Fi・・・・onn・・・・ッ!Fiiiiiiiiiiiiiiiiiioooooooooooooooooooonnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn――――ッ!!!!」
そう言った直後、オスカが初めて劈くような咆哮以外に言語を・・・自らの祖父の名を断末魔の如く絶叫した。そして、今まで以上のドス黒い魔力を一気に放出させ、残った左腕でスコーランが咥えている噛み千切られた右腕が握っていた『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』を力ずくで取り戻し、フィン目掛けて襲い掛かって来た!
「なッ、フィン!!「手を出すな!!」っ!?」
「フィ、フィン・・・!!」
ディルムッドはすぐさまフィンを護ろうと彼の前に出ようとしたが、フィンの一喝、そして彼の命によって動かなかった。いや・・・動けなかったのだ。その声に深い後悔の念が混ざっていたのだから・・・・・

ガキィィィィンッ!!!!

そして、そのままオスカが持つ彼の嘗ての愛剣『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』の一撃がフィンに襲い掛かったが、フィンは自身の槍にして宝具『辟邪の白薔薇(フィン・ビルガ)』でこれを受け止めた―――!

































一方、ディアンやアコロンが戦場を席巻していた頃、リオンは顔を歯噛みしながらも顔を青褪めさせていた。
(―――冗談じゃない!こんなバケモノ共相手に敵うわけないわ!ここはどうにか退いて・・・・!)
リオンはどうにか退路を見出そうと眼を凝らすが、その前に―――!
「おっと!どこ行くのかしら?お嬢ちゃん?」
シャルリアがシャムシールを手に立ちはだかる。
「てっ、テメエ、退きやがれッ!!」
その形振り構わない乱暴な仕草と言動にシャルリアは嘆息をついて言った。
「窮地に陥ったと見るや、自ら馬脚を晒すってわけ・・・・、同じ血が通っていても月とスッポン程にも違うのね・・・」
「うっせえぇぇッ!何わけ分かんねえ事を―――「リオン」―――ッ!?」
リオンが醜悪な形相と物言いで喚くと不意に聞き覚えのある声が後ろから響いた。リオンは途端に顔面蒼白となった。そして、恐る恐る後ろを振り返ると―――!

そこには自身が誰より知る実姉――シルヴィア・アルテイシアの姿があった。
「久しいな、リオン・・・・・」
その声は怒りとも悲壮とも付かない声だった。それに対しリオンは完全に虚を突かれて呆然と呟いた。
「ね、姉さん・・・・!?」
そして、リオンが何かを口にする前にシルヴィアが畳み掛けるように問う。
「リオン、聞かせてくれ・・・・何故・・・何故、あのような行いをしたのだ!?何故、人の身を捨てて化生に身を落とした!何故、あのような非道な事をするのだ!!」
それに対しリオンはと言うと(また、始まった・・・)と歯軋りする。

昔からそうだった・・・!周りからチヤホヤされて、愛されて・・・ッ!だから、自分の言う事はみんな正しいみたいに!!

子供染みた見当違いの偏見に凝り固まった怒りを抱いてリオンは感情を迸らせる。
「・・・っさい!姉さんに、姉さんに私の何が分かるって言うのよッ!!」
「・・・っ?リオン・・・・?」
シルヴィアは何時になく劈くような糾弾を投げ付ける妹に面食らった顔を見せる。それが一層、リオンの気を逆撫でにした。
「姉さんはいいわよ。『アルテイシア家の誇り』、『誉れ高きアルテイシア家の後継』って呼ばれて、いつも皆から慕われて、尊敬されてた!」
シルヴィアが呆然とそれを聞いている中、リオンは更に捲くし立てる。
「でも、私は違った・・・・いつも皆から貶められていた。どんなに魔術を鍛錬しても・・・『シルヴィア様の方が優れていた』、『姉に比べてまるで才能が無い』・・・そんな言葉ばかり聞かされて来た・・・・」
「・・・・・・・・・」
シルヴィアはただ黙したまま、それを聞いている。そこでリオンはある種の自虐的な笑みを浮かべて言った。
「だから、私は決めたわ。姉さん達アルテイシア家の誇りに泥を塗る行いをして姉さんばかりを褒め称える皆が後ろ指を指されるようにしてやろうって!」
すると、シルヴィアは極めて無感動な声で問う。
「・・・・だから、人々を虐殺したり・・・自ら死徒に堕ちた・・・・・・・とでも言うのか・・・!?」
それに対しリオンの返答は即答だった。そして、この上もなく愉悦に満ち醜悪に歪んだ笑みを広げてのたまわった。
「ええ!そうよ!!あの時程、爽快感を感じられた事はなかったわ!力のない劣等種を力のある優秀な私達が好き勝手に潰していったわ!あの時のあいつらの顔・・・・・ぷぅ!とても小気味良かったわ!アハハハハハハハハハハハハアッ!!!(ザシュッ!)・・・っは?」
リオンが己のやった所業をまるで喜劇を行っているかのように、狩猟で獣を狩った時のように狂喜して喋っていた時、何かの音が響いた・・・そして、彼女がその方を見ると―――自身の左腕が肩口の部分まで消し飛ばされていた・・・・!
「あっ、ああああああああああああああああああああッ!!???」
その直後に起こる激痛にリオンは傷口を抑えて苦悶の表情を浮かべながら悲鳴を上げる。そして、倒れ伏したリオンが顔を上げると・・・そこには、風で作ったハルバードを手にし悲壮な表情をしたシルヴィアの姿があった。
シルヴィアは今から数分前の事を思い出していた・・・・・










今より数分前・・・・アインツベルン城に至る森の入口の前に二組のマスターとサーヴァントが立っていた。
一組は死徒となったリオンの姉でありアルテイシア家の当主でもあるシルヴィアと彼女のサーヴァントでジル・ド・レェが恋い焦がれている『聖処女』ジャンヌ・ダルクだ。
そして、もう一組は褐色の肌に黒いポニーテール、左眼を白銀の眼帯で隠し右眼は蒼色の瞳をし茶色のロングコートを羽織り白銀のシャムシールを腰に帯刀した女性――シャルリアと彼女のサーヴァントであろうイスラム圏有数の皮の鎧を纏いクリーム色のマントを靡かせ、これまた見事な装飾が施されたシャムシールを腰に差した褐色肌を持つ精悍そうな顔つきの男性である。
「・・・・どうやら、ルクレティア達がこの先で戦っているようだな・・・・」
シルヴィアがどこか剣呑な声を取り繕って言うとジャンヌが頷いて答える。
「うん、そうだね・・・・ここからでも殺気が感じられるよ・・・」
「そうね・・・よっし!それじゃあ、さっさと後を追いましょう!行くわよ、セイバー!」
シャルリアが右の掌に左拳を当てて意気込むと彼女のサーヴァント――セイバーも頷く。
「了解、我がマスター・・・?どうしたんだ、お前達は行かないのか?」
セイバーは棒立ちになって一向に動こうとはしないシルヴィアとジャンヌを見て怪訝に重い声をかける。すると―――
「・・・あ、ああ。分かっている・・・・」
「う、うん・・・・」
二人ともセイバーに声をかけられた事で漸く現実に戻ったような感じの返事が返ってきた事でシャルリアとセイバーは互いに顔を見合わせた後、二人に問うた。
「・・・ねえ、シルヴィア。あんた、やっぱり肉親を手に掛ける事に躊躇いを持っているんじゃない?」
「・・・なっ!?」
途端にシルヴィアは絶句するような声を出す。
「それにジャンヌ、やはり嘗ての戦友って奴と戦う事に足踏みをしているのではあるまいか?」
「・・・ッ!」
一方、ジャンヌもセイバーにそう詰問され言葉に詰まる。だが、これに二人は驚きと若干の怒りを込めて返答する。
「シャルリア、馬鹿げた事を言うな!私は・・アルテイシア家の当主として彼女を討つ事を決めている!!それを・・・今更、躊躇うなどと・・・ッ!」
「アリー・・・僕は聖杯戦争でサーヴァントとして呼ばれたんだよ!?ジルとはもう戦う覚悟はしている。迷ってなんて・・・」
それに対しシャルリアは肩をすかして言った。
「・・・・・あたしから言わせて貰えばね、確かに戦場では余計な情は命を落とす元になり兼ねないわ。あんたの覚悟はあたしも理解している。でもね・・・ならどうして、あんたの顔は泣きそうな顔しているのかしら?」
「・・・ッ!!」
そう、シャルリアが懐からコンパクトの鏡を出してシルヴィアの顔を映すと・・・・そこには今にも泣き出しそうな顔をしたシルヴィアの顔が映っていた・・・・・
「これは・・・?これが今の私の顔だと・・・?何故、私は涙を流しているのだ?何故、止まらない?何故、何故・・・・ッ!」
そう言うと彼女は地面に膝を突き、涙を止めようとするが、それでも涙は止まる事がなかった・・・・
シャルリアは大きく嘆息をついて言う。
「これが赤の他人ならそんな顔するな!って怒鳴るけどさ・・・相手は外道に堕ちたとしても、あんたの妹でしょ・・・?心の仲じゃ、あんた、その肉親って奴を救いたいんじゃない?」
シャルリアの言葉にシルヴィアは涙に濡れた顔を上げて猛然と頭を振って否定する。
「いや、駄目だ・・・ッ!既にあいつは・・・・リオンは・・・ッ!最早、あいつは取り返しのつかぬ行いをした・・・今更、今更・・・助けられるわけが・・・ッ!」
すると、シャルリアは目尻をきつく上げて怒鳴り付ける。
「あんたねえ・・・ッ!そこで諦めたら何にもならないでしょうがッ!?助けたいなら助ければいいじゃない!!それでも、その手を払ったのなら、自分の手でケジメを着ければいいでしょ!!」
その言葉にシルヴィアは涙に濡れた瞳を手で拭き徐に頷いた。
「・・・ああ、そうだな(ガキイイ・・・ン)っ!?」
そう話した結果、改めて決意したシルヴィアの後ろに彼女の耳に金属がぶつかり合った音が響いた。その音の方に振り返ると・・・そこにはセイバーことアリーが自身の腰に差しているシャムシールを振いジャンヌの剣を弾き飛ばし、その刀身を彼女の首擦れ擦れに止めている光景だった。その彼女の後ろに彼女の剣が突き立つ。

ザスッ・・・!

「・・・・・・・!」
自分でも信じられないと言う顔で言葉も出てこないジャンヌに対しアリーは冷徹に告げた。
「どうだ・・・これでも迷いなどないと言い張るつもりか?俺の剣を防ぐ所か弾き飛ばされ首元に刀身を当てられているのだぞ?これが戦場ならお前は既に死んでいた」
すると、ジャンヌは震える声で言う。
「・・・・だって、僕の知るジルは、子供達にあんな事をするような人じゃなかった・・・堅物だけど穏やかで、優しい・・・そんな人だったんだ。なのに、なのに・・・・ッ!」
そう話すジャンヌも紫の瞳から大粒の涙を止めどなく流している・・・・そんな彼女の様子にアリーは嘆息を付いた後、こう続けた。
「・・・恐らくだが、ジル・ド・レェがあのような様になったのは・・・お前への愛が原因ではないのだろうか?」
すると、涙を流していたジャンヌは途端に面食らった顔になり頬に朱すら走らせて問い返す。
「・・・・・・!?ぼ、僕への?!」
それにアリーは頷いて答える。
「ああ、お前と共に戦って行く内に奴はお前に対して恋慕の情を持つようになったのだろう。だが・・・やがて、お前は味方に売られ敵からは『悪魔、魔女』などと言う烙印を押された挙句に救いの手を伸ばされずに・・・命を落とした・・・・」
「・・・・」
ジャンヌは黙して自らも在りし日を振り返った。
神の声を頼りに歩んで来た人生・・・けれども、自らの意思で進んで来た人生!確かに自分の最後は傍から見ても決して幸福な物とは言えないのかも知れない・・・・それでも悔いなど絶対にない!けれど、ジルは―――
逡巡するジャンヌにアリーは更に続けて言った。
「ジル自身としては何としても助けたかったのだろう・・・いや、奴だけではあるまい。お前を慕った者達も・・・だが、それ以外の者達はお前を助けようともしなかった。そして、お前が死ぬ光景を・・・あいつは救えなかった絶望に包まれながら見続けた・・・」
そこでアリーは一先ず息を付いて言う。
「そうして奴は、あのようになったのだろう・・・お前への愛を、お前を戦いに誘っておきながら殺されようとしているお前を救おうとしなかった神や他の者達への憎悪に代えて、な・・・・」
「そんな、ジルが・・・・」
それを聞いたジャンヌはその顔にありありと絶望を漂わせる。だが、そんな彼女にアリーは強く言い募った。
「いいか、これだけは言っておく。確かにお前とジルは共に戦った戦友だったのだろう。その戦友と戦う事に躊躇いを、迷いを持つ事も致し方ないとも言える。・・・・だが、忘れるな!お前は何の為にその剣を取った!何の為に戦場に立ったのだ!!」
その瞬間、ジャンヌの脳裏を在りし日の祖国と故郷が過ぎった。明日をも知れず、常に戦火に怯え愛する人を失うかも知れないと恐怖する人々・・・焼き払われた村々・・・そうだ、自分が剣を取ったのは―――!
「僕は・・・・僕は助けたかったから。あの頃、攻め寄せて来る敵から、迫る戦火から!それに巻き込まれる人々を救いたかったから剣を取った!神様から言われただけじゃない、僕自身が人々を救いたいから剣を取ったんだ!!」
すると、それを聞いたアリーは満足気に微笑む。
「・・・ふっ、覚悟が出来たみたいだな。ならば、為すべき事は分かっているのだろう?」
「うん。・・・ありがとう」
ジャンヌは晴れ晴れとした笑みを浮かべて礼を言う。
「礼など無用だ。これから共に戦う同胞の迷いを晴らすのも、従兄であるムハンマドの代理人である『カリフ』となった俺の為すべき事だからな!」
そうしてアリー・・・イスラム圏に置いて予言者ムハンマドの従弟であり今尚ムハンマドに次ぐ称賛と尊敬を集める大英雄、アリー・イブン・アビー・ターリブは自身の愛刀を鞘に納める。ジャンヌもまた自身の愛剣にして宝具である『景仰すべき啓示の剣(サン・カトリーヌ)』を鞘に納めた。
それを見たシャルリアも腰に手を当てて満足げに頷く。
「よし、サーヴァント達の悩みは消えたみたいだし!それじゃあ、行きましょ!アリー!!」
それにアリーも力強く応える。
「了解だ、シャルリア!」
シルヴィアもジャンヌに歩み寄り決意を湛えた瞳を向け、今一度言った。
「・・・ジャンヌ、改めて・・・共に戦ってくれるか?」
それに対しジャンヌも強い力を瞳に漲らせて応える。
「うん。僕達も行こう、シルヴィア!!」













そして、時は戻りシルヴィアは風のハルバードを手に眼前で自らが左腕を斬り落とした事で苦痛に喘ぎ地面を這い蹲る妹を静かな瞳で見下ろしていた。そして、静かに口を開く。
「リオン・・・・私は、お前の事を一度たりとも邪魔だと思ったない・・・・お前もまた、私の妹であり、私の家族の一人だからだ・・・だが!」
込み上げて来る嗚咽をシルヴィアは己が信念で以って捻じ伏せる。
「お前は・・己に力がある事に増長し、慢心し、挙句に・・・・その力を以って力を持たぬ、無辜の人々を平然と惨殺したッ!!終いには・・・人の身と人の心をかなぐり捨てて、人々に害を為す獣に身を落とし、更なる悲劇を生もうとしている・・・ッ!」
そう言って彼女はハルバードを彼女に向ける。その言葉は震えてこそいるが・・・確固たる決意を以って言い放った。
「私は最早、これ以上お前の所業を黙認するわけには行かない・・・・これ以上、人々に害を為すと言うのなら、せめて・・・私の手で葬ってくれる!!リオンよ、それが・・・私に残された最後の慈悲だと思うがいい!!!」
そして、彼女は刃を振う・・・アルテイシア家の当主として道を踏み外した一族を討伐すると言う責務と・・・せめて安からかに眠らせたいと言う憐憫の情を以って・・・・それと同時にシャルリアに詫びた。
「シャルリア・・・すまん。折角の厚意を無駄にしてしまった・・・・」
すると、シャルリアは肩をすかして言う。
「まっ、大方はこうなるだろうみたいにはあたしも思ってたからね〜・・・何しろ、あんたにゃあ悪いけど、これだけのド外道じゃあねえ〜」
「・・・・ッ!うるせえッ!!」
それを聞いたリオンは痛みに這い蹲りながら罵声を飛ばす。
「はあ・・・それじゃあ、そいつはあんたに任せるわよ。セイバー!あたしらも行きましょう!」
その言葉にアリーは実体化して頷く。
「了解だ、マスター」
その言葉と共に腰のシャムシールを抜いた時、ジル・ド・レェの海魔が多数出現し周囲を囲んだ。
「この不心得者共があああああああああッ!!この私と聖処女との宴を妨げるとは・・・神をも恐れぬ不信心者共めええええッ!!!」
ジル・ド・レェは頭を掻き毟り眼を一層に血走らせて喚いていた。それを聞いたアリーは鼻で笑って言う。
「神をも恐れぬ不信心者だと?それらは皆貴様の事だろうが、ジル・ド・レェ元帥・・・!無辜の子らを貴様の快楽の為に踏み躙るなどと・・・!それこそ神と貴様が崇敬する聖処女が最も嫌う所業と何故、分からぬ!?」
すると、ジル・ド・レェは狂った劈くような絶叫で捲くし立てる。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええええええええええええッ!!聖処女とて今に分かって下さる!これはご自身を解放する為の聖餐である事をおおおおおおおおおおッ!!!」
すると、アリーは嘆息をついて言った。
「だったら、貴様の行いが神聖なる物かどうか直接、聖処女に聞いて見るといい」
その言葉と共にジル・ド・レェの眼前で彼が誰よりも知る何者も犯すべからずと崇め恋い焦がれた少女が実体化した。
「ジル・・・」
ジャンヌは嘗ての戦友に憐憫を湛えた瞳を向ける。だが、それに対しジル・ド・レェは大きなギョロ眼から大粒の涙を流し両手を眼の前の・・・漸く本当に巡り逢えた『聖処女』へと伸ばし歓喜と狂気の絶叫を迸らせた。
「おお・・おおおおおおおッ!ジャンヌッ!!我が聖処女よおおおおっ!!漸く・・・漸く!我が前にぃぃぃぃぃ・・・・さあ宴を始めましょうぞ!我らの再会を祝っての盛大なる聖宴を!!!」
だが、それよりもジャンヌは今の変わり果てた戦友の姿と今の状況を見ていた。周りはジル・ド・レェが呼び寄せた怪異や大小様々な死徒やサーヴァント、更には戦場の後方で同志の後ろで怯える子供達・・・何時かの地獄の再演であった。そして、何よりもこの地獄を作ったのが眼の前にいる朋友である事を未だに信じる事ができなかった・・・故に彼女は戦友に問うた。
「ジル、僕は君に聞きたい事があって来たんだ。教えて欲しい・・・」
それに対しジル・ド・レェは首を傾げて問い返す。
「はて?何を聞きたいと言うのですか?ジャンヌ?」
その眼にはまるで、ジャンヌの質問の意図が皆目分からぬと言わんばかりに疑問の色が漂っていた。それをジャンヌは唇を噛み締めてもう一度、問う。
「・・・・どうして、罪もない子供達を殺したりするの?僕の知っているジルはそんな非道な事をするような人じゃなかったのに・・・ッ!どうして!?」
その慟哭に対しジル・ド・レェは“ああ、そんな事か”と言わんばかりに喜々と、そして狂気を以って答えた。
「ああ、その事ですか?簡単な事です。ジャンヌ、貴女を奪った神への復讐ですよ。だってそうでしょう?貴女は誰よりも神を信じた。神を信じ神の啓示を受けて誰よりも先んじて戦場を駆けた・・・・なのにぃッ!貴女が命を落とそうとしている時に神は助けようともしなかったッ!!いいや、神だけじゃない!あの恩知らずの破廉恥漢・・シャルル王とて散々、貴女に助けられながら肝心の貴女の危機に際して一切、動こうともしなかった!!それは民衆とて同じ事!貴女を救い主と崇めて置きながら、誰一人として貴女を救う為に敵地へ乗り込みなどしなかった!!・・・そして、私は決めたのですよ!神が最も愛する子供達を・・・そして、恥じ知らずの無知な民を殺める事で神と不届き者共への―――」
「やめてッ!!!」
それを遮るようにしてジャンヌの悲痛な声が轟き、流石のジル・ド・レェも面食らい呆然と呟く。
「・・・っは?」
そんな彼に対しジャンヌは嗚咽を必死に堪えて言った。
「僕は、僕はあの最後を悔んだ事はないよ。確かに僕は神様や王様・・・皆に裏切られたのかも知れない・・・でもね、僕は神様に命じられただけじゃない。ましてや、誰かに強制されたわけでもない。僕自身が人々を救いたいと願ったから僕はあの戦場に立ったんだ。その果てに命を落としたとしても、それが僕自身が選び取った道なんだから。後悔なんてしていないよ・・・」
その言葉にジル・ド・レェは初めてうろたえた声を出す。
「ジャ・・ジャンヌ・・・?」
一方、ジャンヌは紫の瞳に決意の火を強く灯し、腰に帯刀した己の宝具『景仰すべき啓示の剣(サン・カトリーヌ)』を抜いて嘗ての戦友にして誰よりも自分を愛してくれた人に告げる。
「でも、君は僕が守りたいと願った命を傷つけた。だから、君は僕が止めます!」
































それと同時刻、マーリン、奏とアルトリア、切嗣は死徒とサーヴァントの大半を薙ぎ払い、戦場へ駆けようとしていた。
「マーリン!ベディヴィエールやエル・シド達は?」
アルトリアの問いにマーリンはフムと頷き答える。
「未だに膠着状態が続いているようだね・・・まあ、あの三人があの程度の連中に討たれるとは思わんが、如何せん数が些か以上に多過ぎる。合流には時間が暫し、かかるだろう」
「じゃあ、俺達だけでも行くしかないか・・・」
奏の言葉にアルトリアは頷く。
「ええ。今は一刻を争います!」

一方、切嗣はムスとして真下の会話を聞いていた。

ふん・・・何が一刻を争うだ!この戦争に確実に勝つ為に僕が出した指示には躊躇う癖して、幾ら元臣下とは言え、こんな敵のサーヴァントの指示には喜々として従うか・・・それも戦争とは何の関係もない詰まらない人助けなんぞに!この騎士王サマは一体何をしに来たんだ!?自分の国を救済する為じゃないのか!?それをこんな所で道草なんぞを―――!

「それがアルトリアがアルトリアたる由縁だよ」
またも、人の心を読むようにしてマーリンが言い、切嗣はまたもギョッとする。それも構わずマーリンは前方で先陣を切るアルトリアを見つめて言葉を続ける。
「あの子にとって弱者の為に己が剣を振るう事は生涯のライフワークと言って過言ではない。あの子は幼い頃は民の中に在って民が戦火に脅かされる様を見続けていた。それ故にあの子は願ったんだろう。彼らの幸福を守りたいと・・・故に岩の剣を抜いた。私の忠告すら跳ね除けてね。だから、見過ごす事などできはしないんだろう。眼前で弱者を蹂躪せんとする者達を・・・・」
切嗣はその言葉を聞いてますますに不機嫌な顔になって行く。それを見てマーリンは更に見透かすように言った。
「だが、やはり君は認めたくはないか?どんな言葉で飾った所で所詮は血塗られた道と・・・いや、と言うよりも君は彼女よりも私達に怒っているのかな?あのような少女に救世主などと言う役を押し付ける事を善しとした私達に」
その言葉で今度こそ切嗣は凄まじい怒気と殺気を込めた視線で射抜きマーリンはそれを何時になく静かな眼で受け止めた。が、すぐにまた、朗らかな笑みを浮かべて言う。
「取り敢えず苦情は、今は控えたまえ。生き残る為にな」
そう言ってマーリンは先行するアルトリアと奏に続く。そして、迫り来る死徒やサーヴァントを振り切って進むと、そこには子供達を背にモルガンを筆頭としたサーヴァントを従える死徒達と戦っている雁夜達がいた。それを見て切嗣は尚更に歯噛みした。今、ここには強力なサーヴァントを従えたマスター達が雁首を揃えていると言うのに、それを狩る事すら儘ならない事にやはり苛立ちを感じずには入られなかった。だが、まあ良いと切嗣は自らを宥める。前向きに考えれば、他の陣営の戦力を把握するチャンスだ。今回は敵の戦力と個々の戦闘力をじっくりと観察して―――ッ!?

そう思い掛けていた時、不意に眼前の戦場で死徒を相手に曲がった刀身の刀・・・シャムシールと言う物だろうか?を振う褐色の肌をしたポニーテールの女性を視認し愕然と眼を見開いていた。
「そ、そんな・・・・!?」
「雁夜さん!お待ちどう様です!」
奏がコンバットナイフを手に駆け付ける傍ら切嗣が何時になく呆然と呟く。今や彼には眼前の戦況も他陣営の戦力や戦闘力を見極める事など頭にはなかった。先刻まで、あれ程勝利にのみ固執していたと言うのに・・・・ただ、その戦場の中で白銀の刃を振う自分が良く知り、そして最早この世にはいないはずの女性を凝視していた。
「何故・・何故だ?何故なんだ・・・ッ!?」
風船の結界の中で食い入るように戦場を見つめうろたえる切嗣にマーリンもアルトリアも首を傾げる。それすらも眼に入らないのか褐色の女性に向かって悲痛な叫び声を上げる―――!
「何故・・ッ!君が此処にいるんだ、シャーレイ!!?」































それと同時刻、アインツベルンの森・・・・・

「ガッハアアアッ!!??」
舞弥が血反吐を吐いて地面に平伏す。それを綺礼はそれを更に蹴り上げて追い討ちをかける。その顔に何時にない程の快悦に満ちた笑みが満面に広がっていた。
「舞弥さん!!・・・ッ!」
アイリスフィールは悲鳴を上げると同時に綺礼を睨み付ける。それを向けられると綺礼は益々に嗜虐的な笑みを浮かべる。それがアイリスフィールを益々もって激昂させた。
「随分と・・・!下劣な真似をするのね、言峰綺礼!!既に動けなくなった相手に追い討ちをかけるなんて!」
すると、綺礼は嘲り笑いを漏らして言った。
「衛宮切嗣とて同じような事を幾つもやっているはずだが?」
「ふざけないで!少なくとも切嗣はお前のように、そんな厭らしい笑みを浮かべて人を殺したりしないわ!!」
アイリスフィールの反論に対し綺礼は失笑する。
「ふん・・・とんだ詭弁だな。衛宮切嗣がやっている事も私がやっている事も実質的には同じ事だ。それにな―――」
そう言った途端に綺礼の姿が消え―――否、眼にも止まらぬ速さでアイリスフィールの至近には入り、その拳を容赦なくアイリスフィールの腹に突き刺した。
「ごふぅ・・ッ!!?」
アイリスフィールは途端に口から大量の血を吐き出し舞弥と同じ様に地面に突っ伏した。それを綺礼はこの上もなく冷たい瞳と笑みで見下ろして言った。
「その名を私の前で言うな。この上もなく不愉快だ・・・」
始めにその名を出したのは自身でありながら、その言動は理不尽かつ支離滅裂と言えたが、最早そのような些事など綺礼はどうでも良かった。ただ、胸の内に込み上げて来る払拭し切れず沸々と湧き上がる激情を発散したい。彼の頭にはもうそれしかなかったのだ。
「恨むなら衛宮切嗣を恨め。あのような意味もない妄想を本気で掲げた愚か者をな」
そう言って綺礼は黒鍵を取り出した。とは言っても止めを刺す為ではない・・まだだ。長い時間をかけて死に至らしめる。それがあの男・・・・自身の唯一の光明と言えた期待を完膚なきまでに・・粉々に打ち砕いたあの男にせめて、一矢報いたい・・・その一念のみで彼は動いていた。いや、それだけではない。これから自身が二人に為す行いを考えると込み上げて来る笑みを堪え切れなかった。それと同時に普段は不愉快極まりなかった英雄王の言葉がまた・・いや、今度は天啓の如く綺礼の脳内に響いた。

『愉悦と言うのはな、言うなれば魂の(カタチ)だ。“有る”か“無い”かではなく、“()る”か“()れないか”かを問うべき物だ』

成程な・・・ギルガメッシュよ。お前の言・・・この私にも少しは理解できたようだぞ。

綺礼は今や神々しいまでの笑みを浮かべて、眼前にある愉悦の贄へと一歩一歩と歩を進めた。



一方、近付いて来る死神にアイリスフィールも舞弥も痛みに呻きながら歯噛みしていた。
(そんな・・・!こんな所で私達は終わるの!?駄目よ!今、私も舞弥さんも死ぬ訳には行かない・・・ッ!私が死ねば、この聖杯戦争はまたも無効に―――!いえ、今となってはそれすら怪しいけれど、それでもこの異常を切嗣に伝えるまで死ぬ訳には行かないわ!なのに・・・!)
アイリスフィールは必死に身体を動かそうともがくが、無駄な努力でしかなかった。舞弥もどうにか身体を動かそうと努めるが、こちらもアイリスフィール同様ダメージが大きく立ち上がる事すら儘ならなかった。
(クッ・・・ッ、足が・・ッ!これでは戦闘は・・・ッ!ここで、終わるのか・・・マダムすら守れずに・・・ッ!)
舞弥は悔しさの余り、拳を弱々しく地面に叩き付ける事しかできなかった。
(申し訳ありません、マダム・・・ッ!切嗣・・・藤二・・・・)
そんな弱った羊達を前に綺礼の愉悦は最高潮に昂ぶっていた。その希望が完全に断たれた人間の苦悶とは・・これ程までに興奮する物だったのだなとボンヤリ考え黒鍵を手に胸を高鳴らせていた。
これから来る痛みを思いアイリスフィールも舞弥も思わず眼を閉じた・・・・が、同時に二人は自身の右手の甲に鋭いまでの痛みを感じ今一度、眼を開けると、そこには血のように赤い三画の聖痕・・・令呪が刻まれていた。
「なにぃッ!?」
綺礼は思わずそれにギョッとする。
「なっ・・?」
「え、これって―――」
と、二人が驚く間もなく二人の身体から流れた血がまるで意思を持つかのようにそれぞれ魔法陣の形を象り、同時に二人に刻まれた令呪と共に発光し閃光と暴風を迸らせ、綺礼は行動を起こす間もなくその閃光によって平衡感覚を一時的に麻痺させた―――!

そして、それらが終わると綺礼の眼前には動けいないアイリスフィールと舞弥を守るように仁王立ちする人外の戦者がいた!一人は銀色のショートカットに金色の瞳、藍色の騎士甲冑に身を包みハルバードのような斧槍を手にした青年騎士で、舞弥の前に立ち塞がりニヒルな笑みを浮かべ、それでいて獰猛な眼光を綺礼に向けている。
一方、もう一人は対照的にこの日本特有の中世平安時代に見られる甲冑を纏った日本武者で背に大弓を下げ薙刀を手にし白柄の大長刀と黒漆の大太刀を帯刀した青年でざんばら髪をそのまま下ろし、顔立ちも美丈夫と言って差し支えはない青年で彼はアイリスフィールの前に立っている。
一方、アイリスフィールと舞弥は突然の事に頭が追い付かなかった。故に思わず問うてしまったのだ。余りにも分かり切った質問を。
「あ、貴方達は一体・・・?」
「お、お前達は・・・ぐぅ!誰だ?私達の敵か?」
すると青年騎士の法がニヒルな笑みを浮かべて首を振った。
「はっ?いやいや、とんでもねえっすよ!俺はあんたに呼び出されたサーヴァントって奴で!サーヴァント・ランサー!ここに参じやしたあッ!!」
一方、日本武者は静かにアイリスフィールに言った。
「俺はサーヴァント・アーチャー。あんたが呼び出したサーヴァントだ。それでまずは、この下衆を射殺せばいいのか?」
その言葉でアイリスフィールも舞弥も思わず安堵の声を出す。サーヴァントを呼び出せたのならこっちの物だ!二人はそう思い再び、未だ身体中に走る痛みに歯を食い縛って耐え徐に立ち上がり、たった今、新たに得た同志に命じた。
「ええ・・・お願い。私達の敵を倒して!」
アイリスフィールがそう言うのを聞いた綺礼は舌打ちして自らもサーヴァントを呼び出した。
「アサシン!!」
「はっ!此処に・・・・」
アサシン・・・ハサン・サッバーハが群体で以って実体化し、アイリスフィールらを愕然とさせる。
「そ、そんな!これだけ複数のサーヴァントをどうやって!?」
「はあ〜、随分と豪勢っすねえ〜」
ランサーは冗談交じりに言うと複数のアサシン達がステレオのように言った。
「我らは分断された『個』なり・・・」
「『群』にして『個』のサーヴァント・・・・・」
「されども『個』にして『群』」
「影・・・!」
「アサシン、こいつらを殺せ・・・!」
綺礼は即答で命じた。暗殺者達もこれまた即答で応じた。
『御意!』



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.