Fate/BattleRoyal
47部分:第四十ニ幕

第四十二幕


 アンシェルと名乗る紳士からの提案にその場の全員が一瞬固まり微妙な沈黙が流れるが、先に口火を切ったのは星羅だった。
「あんた、それどういう意味で言ってるのかしら?死徒を全て狩り取るまでの一時的な共同戦線?それとも聖杯を目指す上での戦略を含めた同盟?」
「お、お姉ちゃん…」
物怖じせずに詰問する星羅に刻羅はアワアワと呻くような声を出すが、当のアンシェルは優雅な笑みを浮かべて丁寧に返答する。
「それについては―――今は述べません。あなた方が考えておられる以上にこれは複雑極まりない事情が絡んでいるのです。話せば長くなるし何よりこの上もなく混乱なされるでしょうから。一刻を争う今、口火を切るのは賢明とは言えない」
「正論とは言え上手く言い逃れるわね。老獪さも過ぎれば人の信用を失くすわよ」
星羅も年に不釣合いと言える不敵な笑みを浮かべて切り込む。だが、アンシェルも負けてはいない。
「それは失礼。しかしファーストコンタクトとしては適切ではないでしょうか?そも“信用”とは時間と言葉を積み重ねる産物と心得ますが故」

「り、凛ちゃん、なんかあの子すごいね…!」
コトネはアンシェルと対等に話している星羅を感歎の眼差しで見つめながら言うと凛も驚きながら頷く。
「そ、そうね…。只者じゃないオーラが漂ってるわ…」

今度はエイダが口を開いた。
「貴方がアンシェル・ジルヴェスター殿ですか…。お噂は予々私も聞き及んでおります。殊に弟子達から…」
「ほう。どのような…ですかな?」
アンシェルが興味深そうに問うとエイダは何の臆面もなく続けて答えた。
「そうですね。例えばまず魔術師でありながら協会に属さず独自の幅広いネットワークをお持ちな事、更に表では世界的な複合企業の総帥を務められている事、そうそう最近では“多くの聖遺物を掻き集め有力な魔術師に散蒔かれた事”ですかしら」
その言葉に全員が目を瞠ってアンシェルを注視する。マックは懐の拳銃に手を伸ばしながら警戒の色を強めた声音で問い質す。
「じゃあ今この街で起きてる死徒って吸血鬼が暴走してんのはあんたのせいだってか…!?」
それに対しアンシェルは嘆息を付きながら厳粛な声音で答える。
「否定は…致しませんよ。結果として私が冬木を中心にして散蒔いた聖遺物が流れに流れてそういう輩の手に渡った事は事実です。ですが、それはさる第三者の暗躍によるものでもあります。私はその第三者と敵対する者です。
それはそうと私のサーヴァントを紹介致しましょう。ここに控えますは私のサーヴァントであるセイバー…真名をサー・ガウェインと言います。ガウェイン、皆さんに挨拶を」
自らのサーヴァントの真名をいきなり明かした事に全員が面食らうもアンシェルに随行していた白銀の騎士、ガウェインは気にする素振りは全くなく恭しく挨拶をした。
「初めまして。先程のご紹介に与りました、アンシェル様の従者を務めるサー・ガウェインと申します。以後は共に戦う盟友としてよろしくお願い申し上げます」
一方でサーヴァント達は何れもこの騎士を始めとしたアンシェル側のサーヴァント達に畏怖を感じていた。
「この者があの騎士王に仕えた『忠義の騎士』か…。確かに騎士王をも超える武を確と感じる。だが―――」
ヘラクレスは油断なくガウェインを見据えその技量を見極めながらも同時にアンシェルやガウェインの後ろに控えている随行人の一人が従えている黄金のサーヴァントを見ていた。エイダのセイバーもそれを察して口を開く。
「ああ、確かに『太陽の騎士』も相当な武人だ。俺とて尋常に立ち合って勝てるかどうか…。だが、それ以上に驚異となるはあの黄金の甲冑を纏ったサーヴァントだろう」
「ええ…。それにあと一人はこの国で言う所の武士なのでしょうか?単純な戦闘力では恐らく他の二人には到底及ばないでしょう…。ですが、それ以上に狡猾さと謀略家の性をこの武者からは感じます…!」
メドゥーサは半ば嫌悪混じりな視線で獰猛な目つきをしている武者を睨むが、武者の方は意にも介さず双眸を蛇のようにギラギラさせ舌舐めずりをする。
「こいつは…やべえかもな」
ナヒは普段の余裕さはどこへやら額にうっすらと冷や汗をかいて思わず呟く。
「ううむ…!この二人からはあの呂布すら凌駕せんばかりの武と闘気が溢れ出ている」
劉備はガウェインと黄金のサーヴァントを見て戦慄する。
「おおよ…!癪だが、あの騎士の兄ちゃんと黄金野郎、俺の方が一歩譲るかもしんねえ…!!」
孫策は血気に逸る笑みを浮かべながら拳は汗で滲んでいた。
「果たして、この場の全員が力を合わせたとて勝てるかどうか…」
ニコラウスも渋い顔で顎髭を撫でる。
彼らがガウェインや黄金のサーヴァントを驚異に思う一方で長政と義景は恐らくは自分達と同じ時代であろう日の本の武者を警戒していた。
「確かにこの二人こそが驚異だが、あの武者も侮れん…!あの武者から嫌という程に滲み出ている獰猛なまでの狡猾さ…あの龍興を思い出させる」
義景は艶やかな真紅の眼を細めて吐き捨て長政も同意する。
「然り…!あの者は恐らくは我らの時代の中でも極めて典型的な戦国大名にござろう」

皆が各々警戒を強める中でアンシェルは相も変わらず優雅な笑みを絶やさなかった。
「まあ、警戒されるのは致し方ありませんが、ご心配はいりません。彼らは私が雇った傭兵達とそのサーヴァントです。さて君達も挨拶なさい。真名も含めてね。この方々と私達は同志となるのだから。相応の誠意を示さねば、まず信頼は始まらない」
その言葉にケロイドの少年は眉を潜めるが、彼のサーヴァントである武者が諭すように言う。
「良いではないか。どうせ儂は真名が暴露された所で大した瑕瑾なぞ縁がない英霊じゃ。それにこやつの言うこともまた然りよ」
その言葉に対し三つ編みの少年も肯きケロイドの少年も折れたように息を付く。
そして、まず三つ編みの少年が口火を切った。
「…俺は塔憧(とうどう)伯斗(はくと)。そこにいるアンシェル・ジルヴェスターに雇われた」
次に伯斗の隣に黄金のサーヴァントが進み出て名乗る。
「オレは伯斗と契約したサーヴァント・ランサー。真名は―――カルナ」
その告げられた真名にサーヴァント達は慄いた。

『カルナ』―――インドの叙事詩「マハーバーラタ」においてヘラクレスと同じく不死身の英雄として名を馳せ太陽神スーリヤを父に持ち同じ母を持つ異父弟にして同叙事詩の大英雄アルジュナを宿敵として競り合った『施しの英雄』―――。

成る程…。思えば、その黄金に輝く甲冑こそは父であるスーリヤが彼の母に請われて生まれながらに与えた彼を不死身たらしめる日輪の鎧…!!何よりも静謐ながら圧倒的に噴き出る武が彼の正体を始めから雄弁に語っていたのだ。

皆が黄金のサーヴァントの正体に合点が行く中で次に名乗ったのはケロイドの少年とそのサーヴァントである武者だった。
「俺は…アルベール・ラ・ドルファン。伯斗と同じくジルヴェスター卿に雇われた…」
ケロイドの少年、アルベールは憮然とした声で名乗りそれを武者は彼の頭をワシャワシャと掻き毟って豪快に言う。
「ガッハハハハハハ!すまんな!我が契約者はどうも愛嬌と遊び心が欠如しておってのう!」
一方、アルベールは自分の頭を掻き毟る無遠慮な手を鬱陶しいそうに払い除ける。
「人の頭で遊ぶな。いいからお前もさっさと名乗れ」
「ふぅー、分かっておるわい。儂はこの無愛想極まりない小僧に再び娑婆へと叩き起されたサーヴァント・ランサーじゃ。して真名は…「これは蝮殿ではないか」!?」
だが、アルベールのランサーが真名を告げる前に響いた声が皆の注意を引いた。皆がその声が発せられた方角を視界に入れた瞬間、全員、脳髄が爆ぜたかのように総毛立った。
そこには漆黒の南蛮外套を羽織り白銀に輝く南蛮甲冑を纏った青年のサーヴァントが後ろで軽く纏めた鬣の如く長い髪を靡かせながら義景の艶やかな真紅とは対照的と言える鬼の如く鋭い真紅に染まった双眸で睥睨するかの如く彼らを見ていた。その横には恐らく彼のマスターなのだろう。首から頬にかけて痛ましい火傷が目立つ少年が戸惑った顔で立っていた。

「へ、ヘラクレス…」
イリヤは青年の双眸に怯えてヘラクレスの足に一層強くしがみついた。
「イリヤ、心配はいらぬ。私がいる限り君には指一本触れさせはせん…!」
ヘラクレスはそう言いながらも冷や汗を幾つも流す事を禁じ得なかった。何故ならそれ程にこの英霊は強大だ…!!それこそあの英雄王やカルナにすら比肩するという程に…!!
他のサーヴァント達も同様で既に臨戦の構えを取っている者もいる。ただ、カルナと武者だけが悠然とした態度で突如現れたサーヴァントを見ていた。カルナは久しく見ぬ好敵手を見るような眼で、武者はどういうわけか懐かしげな笑みを浮かべている。
しかし、その中で長政と義景の驚きようは郡を抜いていた。殊に長政は口をパクパクとさせ身体をワナワナと震わせていた。その様子に二人のマスターは怪訝な顔を浮かべる。
「ランサー、あんた何震えてんのよ!?確かに強力なサーヴァントである事はステータスからも分かるけど、端っから怖気づいてどうすんのよ!」
「アーチャー?」
だが、次に長政の口から発せられた言葉に二人の思考は停止した。
「…あ、義兄上…!?」
「「え?」」
星羅と刻羅が間の抜けた声を出すが、次の言葉が出る前に南蛮甲冑のサーヴァントが応えた。
「応。長政、そちも息災よのう」
その言葉にとうとう全員が眼を見張る。『長政』、『義兄上』と来れば最早このサーヴァントの真名は火を見るより明らかだったからだ。

『織田弾正忠信長』…。恐らくこの名を日本国で知らぬ者など一人たりとていまい。彼の生きた戦国時代は愚か日本史を語る上で絶対に外す事ができない大英雄なのだから。それこそ英国においてのアーサー王、ギリシャにおいてのヘラクレス、ルーマニアにおいてのヴラド三世、インドにおいてのカルナに匹敵しよう…!!それ程に彼の英雄としての偉業は絶大だ。彼がいなければ日本国の歴史は180度も違った物になっただろうとも言われている。

一方で凛達は興奮したような顔で高揚していた。
「今度はあの織田信長って…!この戦争どんどん凄い事になってない!」
凛はいつになく眼をキラキラさせている。
「うん!テレビドラマとかで見たのよりずっと格好いい!!」
正哉も凛に頷く。
「うん!うん!」
愛歌も兄にしがみつきながらも強く肯いた。
「凛ちゃん、みんな…」
コトネだけが呆れるような声音を出す。
「お前らなあ…。こんな時に…」
ナヒが頭を掻きながら嘆息をつく。
「ちぇ…。なんか癪だぜ。知名度的には俺らの方がよっぽど大英雄なのによ…」
孫策が拗ねたように言うと劉備が苦笑しながら宥める。
「仕方あるまい…。マスター達は倭人なのだ。殊に倭国においては彼の第六天魔王と比すれば寧ろ我らの方が些か見劣りするのも道理だ」

「義兄上…!某は―――」
だが、長政が何かを言いかけるより速く信長が手で制した。
「何も言うな、長政よ。今更何を語ろうが詮無き事だ、それに何より金ケ崎での事は全て俺にこそ責のある事よ。そちとの関係に甘えてこちらの都合ばかりを通した末の結果だ。寧ろそれによってお前を板挟みに追い込んでしまった事を申し訳なく思う」
そう詫びる信長の横で彼のマスターである少年、和樹は驚いたように眼を見開く。この明らかに我が強過ぎる英霊が他者に頭を下げるなど想像すらしていなかったのだ。
一方、長政も殊勝な顔で信長に詫びる。
「…確かに義兄上の挙によって父上や家臣達の悋気を買い板挟みに陥った事は事実。されども、父上達を当主として抑えられず、また大恩ある朝倉を見限る事ができなかった某の甘さが浅井の家を滅ぼした事も事実にございます…。故に義兄上もどうか…」
一方で残された義景は少し面白くなさそうに眼を細めている。信長もその姿に気づき何の気もない声で言った。
「ん?そう言えば貴様もいたのだな朝倉左衛門督。よもや貴様のような戦を厭う公家侍がわざわざこのような戦いに参じるとはな」
「取って付けたような言い方は止めて貰おうか織田弾正忠。そなたも相変わらずな事で何よりだ…!」
その皮肉の利いた台詞に信長はニンマリと笑う。
「ほお?生前は人見知りの激しい御曹司だったのが随分と気の利いた事をのたまえるようになったものだ。死んで多少柔軟にでもなりおったか?」
「それは、そなたこそではないか?以前のそなたは自分に刃向かう者は弟であれ肉親であれ尽く平然と誅戮して来たというに随分と寛容になったものだ」
「ふん。幾ら俺でも死んだ後まで根は持たんさ。それよりも重要なのは『現在』と『未来』よ」

いつの間にかサーヴァント達の会話が盛り上がる中で呆然としていた星羅はふと信長が先程アルベールのランサーに対し呼びかけた名を思い出しハッとなっていた。
「信長で“蝮殿”って事は…まさか、あんたの真名は―――」
そうアルベールのランサーの方を見ると彼はニンマリと笑って頷く。
「左様じゃ小娘。お主の察する通りよ…我が真名()は―――斎藤左近大夫利政。まあ、『道三』と言った方が余人には聞こえが良かろうな」

『斎藤道三』…恐らくこの男程『戦国大名』を文字通り体現した武将はいない。法蓮房、松波庄五郎(庄九郎)、西村正利(勘九郎)、長井規秀(新九郎)、長井秀龍(新九郎)、斎藤利政(新九郎)、道三など複数の名が伝わっているが、やはりしっくり来るのは『道三』の号と『蝮』という仇名だろう。
僧侶から油商人を経て戦国大名へと駆け上がった過程は想像を絶する程の周到且つ悪辣に極まるものだった。美濃国主であった土岐氏に仕えながら、あらゆる手練手管と奸計・謀略に裏切りを駆使して美濃国をまるっと蛇の如く呑み込んでしまった逸話から『美濃の蝮』の悪名で後世にまで伝えられている。
また、娘婿である信長の才覚を早期に見極めていた一人でもある。

「道理で龍興を思い出させるはずだ。よもや、その祖父とはな…」
義景は苦々しい顔で呆れるように息を吐く。
一方、信長も不敵な笑みを浮かべて肩を竦める。
「よもや蝮殿までもこの戦に出向くとはなあ…。しかも何だ、その若衆姿は?てっきり晩年の坊主頭で出てくると思っていたぞ」
「ふん、中々に美男であろうが。確かに『暗殺者(アサシン)』などで呼ばれておったら、その通りの姿となったろうよ。だが、生憎と今の儂は『槍兵(ランサー)』でな」
道三は得意気に笑う。だが、その横でアルベールは嘆息を付いて言う。
「俺は出来れば前者の方が好ましかった」
「むっ?まだ言いおるか、この小童めが…」
道三は面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした跡、信長の横にいる火傷が特徴的な少年を見て信長に尋ねる。
「それはそうと、その者がお主を招き寄せた魔術師か?」
「応。名を式叢(しきむら)和樹(かずき)と言う。このような(なり)だが、魔術師としては元より戦者としても中々の者ぞ」
信長の手放しの賞賛に和樹は思わず顔が熱くなった。
そんな中でアンシェルが前に進み出て口火を切った。
「貴方が彼の信長公ですか?こうして拝謁できた事恐悦至極です」
「ん?そう言う貴様は誰だ。見た所、蝮殿と行動を共にしておるようだが…」
信長が怪訝な声で問うとアンシェルは「失礼」と軽く詫びこう続けた。
「私はアンシェル・ジルヴェスター。道三殿と契約しているアルベール君を雇った者です。こっちは私と契約したガウェインとアルベール君同様に私が雇った塔憧伯斗君とそのサーヴァントであるカルナ殿です」
「ほお…」
いきなり自陣のサーヴァントの真名を暴露した上での自己紹介に信長は破顔する。そして、カルナの前へとズイと進み出る。その瞬間、二人が互いに持つ圧倒的なまでの空気が拮抗したかの如く場を圧倒した。
「印度が日輪の御子よ。一つそちに問う…。貴様はこの戦で何を欲する?」
信長は常人ならば血が一気に逆流するかのような覇気を当てて問いかける。それは言外に“虚偽は絶対に許さぬ”と言う圧迫感が込められていた。それに対しカルナはその覇気を物ともせず涼しげな顔で返答する。
「既に察している答えを返すなど無意味だ。日ノ本の魔王…六欲天に君臨する天魔の化身よ。オレが求めるは常に唯一つの事でしかない」
カルナはそう言って主である伯斗を守る形で構える。それを見て信長はほくそ笑む。
「それも良かろう…」
それだけ言うと今度はアンシェルの方を見て詰問した。
「して…そちの話を聞かせて貰おうか?貴様、此度の戦…どこまで見通しておる?」
その言葉にアンシェルは感心したような声を出す。
「これは驚きました…。史書と違わぬ慧眼、恐れ入ります」
「下手な追従は良い。とっとと仔細を話せ」
信長は真紅の瞳孔を開いて覇気を飛ばすが、アンシェルも人間の身でありながら然る者。その覇気を柔軟な佇まいで受け流し返答する。
「無論の事お話致します…が、今はその暇はないかと存じます」
その言葉を裏付けるように前方の水族館から異様な軍勢が躍り出た。獲物は何れも槍や剣など現代からは考えられない武装で古代南東欧に見られたような鎧を纏っている。それを受け全員が臨戦態勢に入る。
信長はその軍勢をニヤリと睨みながらアンシェルに言う。
「の、ようだな。よかろう。今は戦列を共にしようではないか。その代わり事が終わった後にはそちが知り得る事を全て吐いて貰うぞ」
「致しましょう。ガウェイン」
アンシェルは肯いた後、自らの騎士(サーヴァント)に目線で命じ騎士もそれに応える。
「御意!御身に降り掛かる災禍この太陽の映し身たる聖剣が全て焼き払わん!」
ガウェインは白銀に輝く大剣を掲げて主の前に出る。
「和樹よ。貴様も行けるな」
信長は問うのではなく確認するかのように言うと和樹も礼装である二丁のハンドガンを手に力強く返事をする。
「はい!」
「「ランサー」」
伯斗とアルベールが同時に呼び掛けるとカルナと道三も既に己の獲物である槍を携えている。
「諒解している」
「分かっておるわい!小童共、そう言うお主らとて抜かるなよ!」

「イリヤ、私の肩に!」
「うん!」
ヘラクレスもイリヤを肩に乗せもう片方の手でで斧剣を握る。
「エイダ…援護を頼む」
エイダのセイバーも背の大剣を引き抜きエイダの前に出る。
「ええ。貴方も気を付けて」
一方、メドゥーサはまた己の首に鎖付きの短剣を突き刺し天馬を召喚した事でマックをビビらせていたが、彼女はそんな事には構わず白目を剥きかけているマスターを無理やり己の背に乗せた。

「おおおお、おいでなすったわね!!み、皆、準備はいいっ!?」
凛はテンパった声音で皆の指揮を執ろうとするが、傍目から見ても緊張でガチガチになっている事は明白だった。
「凛ちゃん…無理せずサンタさん達に任せようよ」
コトネは親友の轡を握るように諭し正哉も続いて言う。
「そうだよ。僕達が下手に出しゃばっても足で纏いになるだけだよ」
「うん。お兄ちゃんの言う通りだと思う」
愛歌もすかさず兄に賛意を示す。
「あうぅ…」
全員に窘められ凛は何とも言えない声を出して沈み込むが、その頭をナヒがポンと撫でて言う。
「まあ、そう言うこった。けど、そう落ち込む事はねえ。俺達がこうして戦えんのはお前達がその魔力を俺達に供給してくれかっらだぜ。それだけでもお前らの存在は大きい」
劉備も的盧を召喚しつつナヒに肯く。
「左様だ。そもこの戦争はマスターの守護こそが肝要だ。君達は私達サーヴァントが守る」
「そうだぜ。戦いは俺らに任せて嬢ちゃん達は高みの見物気分でドッシリ構えていてくれよ。んで俺様の勇姿って奴をだなあ「孫策殿、話が逸れているぞ…」ちぇ、分かってらーい!」
孫策も冗談混じりで子供達に言い聞かせる。
そして、ニコラウスは騎乗宝具である『聖者奔る九馴鹿(レッドノーズ・ルドルフス)』を呼び寄せ凛達に乗るように促す。
「さあ、皆早くお乗り」
『うん!』
凛達は一斉に肯いて次々とソリへ乗り込む。

「ランサー、あんたも準備はいいわね」
星羅の問いに長政は現代相応のスーツから水色の甲冑と白の陣羽織の出で立ちに様変わりし手には蒼色の馬上槍を携えて即答する。
「無論。主はどうかお下がりあれ。ここからは某ら英霊の領分故に」
「うむ。あの者達…見た所純正のサーヴァントではないようだが、中々に屈強な兵達だ。まずそなたらが敵う相手ではない」
義景も平安時代に見られたような装束の上に緋色の甲冑を纏った出で立ちとなり既に長弓へと矢を番えている。
「うん!アーチャー達も頑張って!」
刻羅は両手を握り締めて声援を送る。

それぞれが戦闘態勢を整える中、謎の兵団は機敏に容赦なく突撃を仕掛けた…!




同時刻、当の水族館内では…。

「ふわー?中はどこも真っ暗ですねー」
フランは相も変わらず緊張感がカケラ程も感じられない声で言う。彼女の言葉通り館内はどこも明かりが落ちておりフランは宝石魔術で明かりを生成し館内を進んでいた。その横でエミヤも難しい顔で歩いている。
「マスター、用心をしておいた方がいい。恐らくだが、この水族館はもう丸ごと敵の工房と化している」
「ええ、ですねー。進めば進む程に魔力が濃くなっていますし…」
フランはそう言いながら歩を進めるが、不意にその前方を歩いていたエミヤがそれを手で制す。
「待て、マスター。サーヴァントの気配が近づいて来る」
その言葉通り暗がりから負傷しているらしいドレッドヘアーが特徴的な男性を背に抱えた大柄な赤の武者が現れた。辛くも鷹山から逃れたアレックスとそのサーヴァント・ランサーこと呂布であった。彼らを視認したエミヤとフランは迎撃の構えに出た。とは言え、それは呂布とて同じ…!
「ちッ!敵か?」
呂布は片手で『軍神五兵(ゴッドフォース)』を構えエミヤも…。
「―――投影、開始(トレース・オン)
エミヤはその両手に黒と白の短剣―――夫婦剣、干将(かんしょう)莫耶(ばくや)を投影しそのまま駆け出す。それを受け呂布も同時に…否、それよりも二歩も三歩も早く駆けて打ち合いを始める。
形勢は概ね呂布が押しているが、中々に決定打を打てずにいた。その事に呂布は苛立ちを隠し切れない。

ぐぅぬッ!力でも技でも我が圧倒的に押しているはず…!!にも拘らず、此奴め!巧みにのらりくらりと受け流しおって!両手さえ使えたならば…!!

一方でエミヤも呂布の圧倒的な武技に内心で冷や汗を禁じ得なかった。

やれやれ、相も変わらず私はクジ運とやらに恵まれないらしい…。こいつは紛れもなく世に武名を轟かせた本物(いちりゅう)の英霊だ。片手でさえ受け流すのが精一杯か…!だが、どこぞの大男のように不死身というわけでもない!!

エミヤは一旦距離を取り干将・莫耶を消して再び詠唱する。
「―――I am the bone of my sword(我が骨子は捻じれ狂う。). 」
捻れた形状の刀身を持つ剣を投影し次に黒い弓を投影してそれに剣を矢として番える。
「―――『偽・螺旋剣U(カラドボルグ)』」
真名が解放された瞬間に矢と化した剣は空間をも貫く徹甲弾となって呂布に避ける間すら与えずに突き進む!だが―――!
「片腹痛いわ!雑魚がッ!!」
一方の呂布はあろう事か、その徹甲弾へ自ら突き進み『軍神五兵(ゴッドフォース)』で真っ二つに斬り裂く。その様をエミヤは冷静に見る。概ね予想通りの展開だからだ。

とは言え、こいつはどこぞの大男のように我を失ってはいないがな…!やはり、そうそう上手くはいかないか。

フランは初めて自分のサーヴァントの戦いを見て疑問を抱いていた。エミヤは自分を然したる逸話など皆無な無銘の英霊と言った。確かにステータスもある意味で最弱のキャスターすら下回るのではないかという低さだ。だが、彼が今出した宝具は古代中国における名剣、陽剣・干将と陰剣・莫耶。彼の『西楚の覇王』が振るったことでも有名な夫婦剣だ。英霊としては無銘でしかないエミヤとは凡そ縁など在ろうはずがない。と思えば今度は、ケルト神話のアルスター伝説に名高い『カラドボルグ』と来た。とは言え多分に彼のオリジナルが混じっている感があるが…。本当に彼と言う英霊は何者なのだろう―――?
などと、フランは呑気な思考をしていたが、状況は切迫していた。

呂布は鬼のような形相でエミヤを睨み一歩一歩と近づいて来る。
「貴様…一体何処の英霊だ?我が中華に名高い夫婦剣を使ったかと思えば、先程の剣は多分に亜種混じりでこそあるが、明らかに西洋圏の物と来た。出鱈目にも程があるぞ」
「お前だって人の事は言えまい。アレに自ら突っ込んだ挙句に斬り裂くなど普通英霊にだって出来んぞ」
エミヤはニヒルな笑みを浮かべて見せるが、実際には最早余裕がない事は明白だった。
「我を凡百の英霊と同列に見るとは愚も極まったな。小細工同然の技が我に届くとでも思ったか…!」
それに対しエミヤは不敵に笑ってみせる。
「確かに、この身はお前のような本物には到底届くまい。だが―――真に迫る事はできるさ」
そうしてエミヤは再び投影を始めようとするが―――ヒュンっ!
「「!?」」
黒光りするロングソードが二人の間を遮るように飛び彼らは虚を突かれた形となったが、間を置かずして轟音と共にドス黒い物体が突貫して来た!
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!!!」
三角と赤い鬣が特徴的な漆黒の甲冑を纏った凶獣が先程飛んできたロングソードと同様の物を手に呂布とエミヤの真上へと飛ぶ。
「ぐぅぬ!もう追いついてきおったか!!」
「こいつは…バーサーカーか!?ちっ!次から次へと…!!」
エミヤはすかさず距離を取るが、呂布は逆に凶獣へと斬りかかる。
「この凶獣がああああああッ!!」
呂布は片腕にも拘らず果敢に攻め立てるが、凶獣も然る者。先程投擲したロングソードを素早く拾い巧みな技巧でそれらを受け流すのみならず圧倒し始める…!
「あのバーサーカー、本当に狂っているのか!?幾ら片腕とは言え奴をこうも圧倒するとは…!!」
エミヤはバーサーカーの劣化の翳りさえない剣技に眼を見開く。だが―――!
「おいおい、テメエも他人を気にしている場合か?」
「なっ!?」
唐突に背後から発せられた声にエミヤは心臓が文字通り停止した。だが、それも刹那の時間。一秒と経たずに思考を再稼働させるが、その間すらなく―――!

ドゴッ!!

背を蹴り飛ばされエミヤは床に叩きつけられた。
「エミヤさん!」
フランの声が響く中、エミヤは身を起こし自らの背後を取った者を視認した瞬間に我が眼を疑った。それもそのはず、その者はサーヴァントではなく―――人間だったのだから。

一方、その人間…男はサングラスに隠された獰猛な瞳を爛々と輝かせ言った。
「よぉ。中々面白い戦い方すんなあ、お前?けど、どこの英霊だ?大将のサーヴァントもそうだが、干将・莫耶とアルスターの剣を宝具に持つたあ…。そんな出鱈目過ぎる英雄なんざ俺の知る限りじゃ聞いた事もねえが」
それに対しエミヤはフンと鼻を鳴らして言う。
「出鱈目なのは貴様こそだろう。人間(マスター)英霊(サーヴァント)の後ろを取るなど聞いた事がないぞ…!」
エミヤは努めて冷静な声で吐き捨てるが、その実は驚愕と動揺を隠しきれなかった。それはフランも同じだ。
「あの人…まさか例の死徒の一人ですか?」
フランが推論を口にするが、エミヤは即座に否定する。
「いや…奴は紛れもなく“人間”だ。そもそも死徒でサーヴァントを上回るのは『真祖』や死徒二十七祖ぐらいなものだ。そんなものは早々存在しないし、流石に新参者の死徒にサーヴァントと渡り合える程の力はない。第一、奴に人外の気配は魔術師である事を除いて一切感じない」
その言葉にフランは何時になく冷たいものが背筋を流れた。無理もない。エミヤの言を信じるならば、この男は人間ながらにサーヴァントと並んでみせたどころか超えてみせたという事に他ならないのだから…!
一方、男はニンマリと笑ってエミヤ達に近づく。
「まずは自己紹介と行こうか。俺は迅鷹山。ま、救い様のねえ史上最低最悪の人格破綻者って奴だ」
「初対面から身も蓋もない言い回しだな…。それで、こんな目立つ場所を工房として乗っ取って何を企んでる?」
エミヤの質問に鷹山は詰まらなそうに肩を竦めて答える。
「知るか。俺は大将のオーダーに従っただけだ。寧ろこんな退屈な所に引き籠ってばっかでやんなっちまうぜ」
「大将?お前の親玉か?」
「ま、正確には雇い主(クライアント)様だな。因みにかなりのお得意様だぜ」
「フリーランスの魔術使いという事か…。それでその“大将”とやらは何のつもりだ。こんな神秘の秘匿さえ脅かしかねないような挙を教会が黙っているとでも思うのか?」
エミヤが時間稼ぎも兼ねて問いかけると鷹山は何の事はないというような声で言う。
「そう言われたってなあ…。ルール違反なんぞもう腐る程やってし今更って感じなんだよなあ―――。第一、俺自身も大将が何をしたいかなんてロクに聞いちゃいないんだわ。つーか興味もねえし…」
「あらー、ぶっちゃけましたね…」
フランが緊張感もない声で呟く。
「マスター…少し黙っていてくれ。調子が崩れる」
エミヤは頭が痛くなりながらも警戒を緩めない。だが、次に鷹山の口から出た言葉に唖然となった―――。
「ま、確かに具体的な事は聞いちゃいないんだがな。大将が言うには―――“天国を創りたい”らしいぜ?」
「「は?」」
思わずエミヤはフランと共に間の抜けた声を出していた。その答えは余りにと言えば余りに漠然としているだけでなく空想じみた答えだったから…。
「“天国”だと?確かにこの地に眠る聖杯ならば大凡の事は叶うかも知れんが、随分と抽象的な願いだな。貴様ら…一体どういうつもりで言っている?」
エミヤは怪訝さを隠しもせずに詰問するが、鷹山はあっけらかんに答える。
「だ・か・らー!ロクに聞いちゃいねえって言ってんだろうがよ?それよか俺としちゃこの状況こそを気に入ってるわけ。分かるか?」
鷹山は獰猛な殺気を発散させて構える。その剣呑や敵意すら通り越した圧倒的な戦意にエミヤは嘆息をついて答える。
「つまりは主義主張など元より関係ない戦闘狂という奴か」
「応よ。そもそも戦いに一々七面倒臭い理屈がいるかよ?暴れてえから暴れる、拳を振り上げてえから拳を放つ、殺したくて堪んねえから殺す…。それで―――」
すると、鷹山の姿は残像が引くように消えエミヤは身構えるが、そのコンマ0.1秒後…腹部に鷹山の拳が諸に入り遥か後方へと吹き飛ばされた。
「充分だろうがよおおおおおおおおおおおおおッ!!」
鷹山は咆哮を発しながら吹き飛んでいる最中のエミヤにアッと言う間に肉迫し拳打と蹴りを数百発も入れる。
「エミヤさん!」
フランはすかさず治癒魔術をエミヤに行使するが、鷹山の拳はその間すら奪って行く。
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!どうした!?英霊の名が泣くぜ!かすり傷一つでも付ける意気地すらねえのか!!」
鷹山はエミヤを素手の拳と蹴りだけで圧倒していた。エミヤも投影した干将・莫耶などで応戦するが、それらは鷹山にかすり傷一つ付けられないどころか彼の手刀と打ち合った途端に粉々に砕け散ってしまうのだった。
「くぅ…!」
エミヤは一旦距離を取り中に数十の名剣・魔剣を投影する。
「―――全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)
鷹山の全方位から名剣と魔剣の雨霰が降り注ぐ…が!
「しゃらくせえッ!!」
鷹山は避けるどころか、その刃の雨に向かって突進し肉体で弾き時に拳と蹴りで打ち砕いていく。その様にエミヤは驚嘆すら通り越した恐怖を覚えた。

なんだ、あの男は…!?如何に魔術で強化していると言っても仮にもサーヴァントと肉弾戦など正気の沙汰じゃない事を平然とやってのける上にあの百戦錬磨という言葉すら生温い非常識極まりない戦意はどう考えても尋常ではない。しかも投影品とは言え宝具の剣をも弾き砕く肉体の強靭さ、何よりも恐怖すら省みぬ戦闘スタイル…。間違いなくこの聖杯戦争において最凶のマスターだ…!!

一方で鷹山は首をコキコキと鳴らしながらエミヤに言う。
「直接打ち合って分かったが、成程な…。どうやらテメエの宝具は真っ当な品じゃねえようだな。でなきゃ余りに脆過ぎんぜ。確かに俺の肉体の強靭さと鋭利さは我ながら十八番だけどよ、それでも神秘にまで昇華された英霊の分身をそうそう易々とぶっ壊せると思うほど自惚れちゃいないんでな。何より詰まらねえ。何より出典(ジャンル)がバラバラだ。とすると結論は一つだ…テメエ、模造(コピー)してんだな、宝具を」
その答えにフランは驚嘆の眼でエミヤを見る。

英霊の宝具を…模造(コピー)!?そんな事が…!

一方、エミヤは諦観したように笑む。
「ご名答だ…。この身はそもそもが真っ当な英霊には程遠い。真名などなければ宝具もない。そんな三流もいいところの英霊に唯一できる事と言えば贋作(マネ)くらいしかあるまい」
エミヤは自嘲しながらもこのマスターの戦術眼を冷静に認識していた。

こいつ…戦闘狂の気があるかと思えば、案外と抜け目ない上に頭の回転が速い。最早、こいつは“たかが人間”などと言う認識は完全に除外せねば―――!

「…マスター、魔力を回してくれ。もう出し惜しみできる余裕がない。ただアレを相手に済まないが、詠唱が完了するまでの時間稼ぎを頼みたい」
エミヤの言葉にフランは肯く。それを受けエミヤは干将・莫耶を始めとした宝具郡を再び大量に投影し鷹山へと投射する。フランも宝石魔術によるガンドを撃ち援護する。
「ハッ!馬鹿の一つ覚えか!テメエの力なんざとっくに見通してんだよおおおおおおおおおおおおッ!!!」
無論、鷹山は物ともせずに弾いて砕いていく。だが、それにエミヤは答えずただ跪いて詠唱を唱えていた―――。

―――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている。).

「今更何カッコつけて唱えてやがるッ!!」
鷹山は鬼気迫る勢いで自らに降り掛かる剣や槍、フランのガンドを弾いてエミヤに肉薄しようとするが、如何せん数が多い上にフランのガンドに織り交ぜられた呪いの効果で動きに制限が掛かりままならない。
「私だってーやる時はやりますよー!」

Steel is my body,and fire is my blood(血潮は鉄で、心は硝子。).

「抜かせ!雑魚は黙ってろぉッ!!」
鷹山は短刀をフラン目掛けて数本投擲するが、彼女はそれをガンドで打ち払う。
「エミヤさん…!」
フランは珍しく焦れるように後方のエミヤを気にするが、すぐに思い直して目の前の敵に集中する。

I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗。).

「ちっ!焦れってええええ!バーサーカーはまだ片腕だけの奴に手こずってんのか!?そっちが終わったんならすぐにこいつら目掛けて突撃させんのによ…!!」
いい加減に鷹山も焦れて来たのか歯軋りして動きが若干荒くなるが、それでもその正確無比さは微動だにせず着実にエミヤの投影宝具を撃ち落として行く。

Unknown to Death(ただの一度の敗走もなく、).

「させませんよー!エミヤさんの準備が終わるまで―――!!」
だが、フランも同じく引かない。ガンドだけでなく宝石魔術による火や雷などを多数放ち少しでも足止めをする。

Nor known to Life(ただの一度も理解されない。).

「だああああもう、うざってええんだよッ!!雑魚女がああ!!せこせこと―――!!」
だが、鷹山を止める事は最早能わずエミヤが投射した宝具は全て破壊され遂にフランが維持していた防衛戦も崩れた。

Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に醉う。).

「…っぅ!?」
フランは呻きながらも宝石魔術を寸前まで迫った鷹山に直撃させるが―――!!

Yet, those hands will never hold anything(故に、その生涯に意味はなく、).

ガシッ!!

「あっ…!」
鷹山は直撃を受けながらも傷一つなくフランの首をとうとう締め上げてしまった。
「へっ…散々に手こずらせやがって。だが、これで―――」
「へへ…ゲーム・オーバー…ですよ」
「あ?」
しかし、本来は鷹山の台詞であるはずのそれをフランが苦し紛れに言い放った。鷹山はそれをただの負け惜しみと最初は受け取ったが、それは大きな間違いである事をすぐに悟った。

So as I pray,UNLIMITED BLADE WORKS(その体は、きっと剣で出来ていた。).


鷹山が勝利を確信した瞬間にエミヤを中心にして火柱が立ち一気にその場へと燃え広がり全ての者を呑み込んだ。鷹山やフランは元より、すぐ傍で戦闘をしていた呂布と鷹山のバーサーカーをも―――!

その際にさしもの鷹山も思わず眼を閉じてしまい、フランは抜け目なくその隙を突いて鷹山の拘束から逃れ出た。


そして、視界が回復した瞬間に鷹山は元よりフランでさえも眼を剥いた。それは呂布やバーサーカーも同じだ。
視界の一面に広がるは荒野。そして、数える事など馬鹿らしく思える程の無数の剣が大地に突き刺さっていた…!空は荒涼としており非現実的にも回転する巨大な歯車が存在していた。

「こ、これは一体…っ!?」
「■■■■■■■■…っ!?」
呂布は元よりバーサーカーすら理性がないながらも突然の異変に戸惑っているようだった。
「ふわー…!?」
フランは開いた口が塞がらないとばかりに感歎の息が漏れた。
「おいおい…こりゃ何の冗談だ?固有結界だと…!?野郎…あんな半端な魔力の値のくせしてキャスターだったのかよ…!」
だが、鷹山の推察をエミヤは否定した。
「いや、確かにお前が言うように半端ながら魔術師(キャスター)のクラスにも該当するだろう。だが、私は自分を“魔術師”と思った事は一切ない。贋作を作るだけが取り柄の私は寧ろお前と同類の“魔術使い”が精々なのだろうな」
「成程な…。つまりこの地面にバカみてえに刺さってる剣は皆贋作の寄せ集めってわけかよ?単に数が十や百から千や万に変わったって程度か。そんなもんでこの俺に勝てると正気で思ってやがんのか?あ!あんま舐めてっと殺すぞ…!!」
英霊が相手であろうとも本気の殺気をぶつける鷹山の気迫に対しエミヤは変わらず強気な笑みを浮かべ挑発するように言う。
「確かにこれらは全て偽物だ。だが、塵も積もれば山だ。そして、これからお前がその身に受けるは、文字通り無限の剣。剣戟の極地!さあ、始めようか戦闘中毒者。その出鱈目な肉体の強度は充分かッ!!」
エミヤは大地に刺さる剣を二つ引き抜いて一気呵成に駆け出した―――!



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